説明

亜酸化銅膜に金属銅層を形成する方法

【課題】複雑な処理工程を要することなく、簡単な処理方法によってCu2O膜上に金属層を形成することが可能な、新規な方法を提供する。
【解決手段】Cu2O膜を形成した被処理物を、還元剤を含有する水溶液に接触させることを特徴とするCu2O膜表面に金属Cu層を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化銅(Cu2O)膜の表面に金属Cu層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜酸化銅(Cu2O)は、主に船底塗料の防汚薬剤として用いられているが、その他に、禁制帯幅が2.1eV付近のp型半導体であり、可視光領域の光を吸収してキャリアを生成することから、太陽電池の光電変換材料としての利用が提案されている。例えば、Cu/Cu2O積層構造のショットキーー型太陽電池、n型半導体であるIn2O3とのヘテロ接合太陽電池等の研究報告がある(下記非特許文献1〜3参照)。
【0003】
Cu2OはCuの熱酸化法により作製することが可能であり、近年では、水溶液電解法によるCu2Oの製膜についてもいくつかの報告がある。例えば、乳酸、リンゴ酸等を錯化剤として加えたアルカリ性の硫酸銅水溶液から、陰極電解法によって直接Cu2O膜が得られることが報告されている(下記非特許文献4〜6参照)。
【0004】
Cu2O膜を光電変換材料として太陽電池を形成する場合には、Cu2O膜表面にオーミック接合となるように電極として金属薄膜を形成する必要がある。
【0005】
一般的に酸化物薄膜に金属膜を形成する際には、スパッタ法、蒸着法などの乾式法により金属薄膜を形成することが多いが、この方法は大規模な装置が必要であり、処理効率も低いという欠点がある。湿式法によって金属薄膜を形成する方法としては、酸化物膜表面にPdなどの無電解めっき用触媒を付与した後、無電解めっき法などによって、Cu、Au、Ag、Ni-P、Ni-Bなどの金属を形成する方法が知られている。しかしながら、この方法では、触媒を付与した後、無電解めっきを行う2工程からなる煩雑な操作が必要であり、しかも、一般的な触媒付与溶液は、Pd、Pt、Au、Agなどの貴金属を酸性領域で溶解させた水溶液であることが多く、Cu2O層を溶解する可能性がある。
【非特許文献1】Solar Energy Materials 4 (1980) , P101-112p
【非特許文献2】Appl.Phys. Lett. 34 (1), 47-49 (1979)
【非特許文献3】長野県工業高等専門学校紀要 第25号 (1992)
【非特許文献4】Chem. Mater. 8 (1996) , p2499
【非特許文献5】J. Mater. Res 13 (1988). p 909
【非特許文献6】J. Appl. Electrochem. 34 (2004), p 687p
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、複雑な処理工程を要することなく、簡単な処理方法によってCu2O膜上に金属層を形成することが可能な、新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、還元剤を含有する水溶液にCu2O膜を接触させるという非常に簡単な方法によって、Cu2O膜の表面にオーミック接合のCu層を形成でき、これにより、Cu2O膜の表面に容易に電極を形成することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のCu2O膜表面に金属Cu層を形成する方法を提供するものである。
1. Cu2O膜を形成した被処理物を、還元剤を含有する水溶液に接触させることを特徴とするCu2O膜表面に金属Cu層を形成する方法。
2. 還元剤が、アミンボラン化合物及び水素化ホウ素化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記項1に記載の方法。
3. 被処理物が、Cu2O層を光電変換材料とする太陽電池用材料である上記項1又は2に記載の方法。
4. 被処理物が、光化学反応によって析出したCuO膜を含む材料である上記項1又は2に記載の方法。
【0009】
以下、本発明のCu2O膜表面に金属Cu層を形成する方法について具体的に説明する。
(I) 金属Cu層の形成方法
本発明方法によれば、処理対象とするCu2O膜を還元剤を含有する水溶液に接触させることによって、Cu2O膜の表面が還元されて、Cu2O膜表面にオーミック接合の金属Cu層を形成することができる。
【0010】
還元剤の種類については特に限定的ではないが、実用的な還元速度を示す還元剤としては、ジメチルアミンボラン(DMAB)、トリメチルアミンボラン(TMAB)等のアミンボラン化合物;水素化ホウ素ナトリム(NaBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)等の水素化ホウ素化合物などを例示することができる。
【0011】
水溶液液中の還元剤の濃度については、特に限定的ではないが、還元剤濃度が高すぎる場合には還元速度が速くなり、高密度の金属Cu層を形成できない。また、Cu2O膜が薄い場合には、短時間で膜全体が還元されて金属化されるので、製造条件の制御が困難である。これらの点を考慮すると、還元剤濃度は0.0001〜1mol/l程度とすることが好ましく、0.01〜0.1mol/l程度とすることがより好ましい。
【0012】
還元剤を含有する水溶液にCu2O膜を接触させる方法については、特に限定的ではなく、必要とする厚さの金属Cu層が形成されるまで、還元剤を含有する水溶液をCu2O膜に接触させることができる方法であればよい。通常は、還元剤を含有する水溶液中にCu2O膜を形成した被処理物を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。
【0013】
還元剤を含有する水溶液の液温については特に限定的ではなく、還元剤の濃度が高い場合には低い液温で金属Cu層を形成可能であり、還元剤濃度が低い場合にはより高い処理温度が必要となる。通常は、10〜70℃程度、好ましくは30〜60℃程度の範囲の液温とすればよい。
【0014】
還元反応は Cu2O膜の表面から進行し、処理時間の増加にともなって金属Cu層の厚さは増加する。よって、処理時間を調節することによって、金属Cu層の膜厚を制御することができる。
【0015】
(II)本発明方法の適用例
(1)酸化物薄膜太陽電池の電極形成法としての利用
本発明の金属Cu層の形成方法は、例えば、Cu2O膜を光電変換材料とする太陽電池において、Cu2O膜表面に電極を形成する方法として適用できる。
【0016】
以下、Cu2O膜を光電変換材料とする酸化物薄膜太陽電池の具体的な構成例及びその製造方法を説明する。
【0017】
本発明の金属Cu層の形成方法を適用するこができる太陽電池の具体例として、透明電極上に、ZnO膜、AgO膜及びCuO膜が順次積層された構造を有する酸化物薄膜太陽電池を挙げることができる。この太陽電池は、p型酸化物半導体であるAgOを光電変換層として用い、n型半導体であるZnOと積層した構造とすることによって、高い変換効率を有するものとなり、更に、その上に、禁制帯幅が広いCuO膜が形成されていることにより、ZnO/AgO接合界面において光照射時に生成した電子と正孔(ホール)の再結合が抑制されて、非常に高い変換効率を発揮できる。
【0018】
透明電極としては、特に限定はなく、従来から太陽電池において用いられている透明電極、例えば、ZnO電極、ITO電極、SnO電極、NESA電極等を用いることができる。透明電極の厚さについては特に限定はないが、例えば、0.1〜1μm程度とすればよい。
【0019】
透明電極は、必要に応じて、透明基板上に形成される。透明基板の種類についても特に限定はなく、例えば、ガラス基板、ポリマー基板等の通常の太陽電池において用いられている各種透明基板を用いることができる。透明基板の厚さについては特に限定はないが、例えば、0.1〜10mm程度とすればよい。
【0020】
透明電極の上に形成するZnO膜、AgO膜及びCuO膜の厚さについては、特に限定的ではないが、通常、それぞれ0.01〜20μm程度とすればよい。
【0021】
ZnO膜、AgO膜及び及びCuO膜の形成方法については特に限定はなく、CVD法、蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、MBE法などの乾式法、スプレーパイロリシス法、ゾルーゲル法、液相成長法などの湿式法等の各種方法によって形成可能である。特に、水溶液から電気化学的方法又は化学的方法によって膜を形成する場合には、原料が比較的安価であり、製造コストも低いことから、低コストで優れた変換性能を有する太陽電池を得ることができる。
【0022】
また、水溶液からの形成方法によれば、(0001)配向したZnO膜を形成することが可能である。形成されるZnO膜は、格子定数aが約0.325nm、cが約0.521nmの六方晶構造を有するものであり、この上に、水溶液からAgO膜を形成することによって、ZnOの(0001)面上に、格子定数aが約0.586nm、bが0.324nm、cが0.550nm、βが107.5度の単斜晶構造を有するAgOの(-111)面を優先的に成長させることができる。このようにして(-111)面が優先的に配向したAgO膜を形成した後、加熱処理することによって、ZnO膜の(0001)面上に、AgO膜の(111)面が優先的に成長したヘテロエピタキシャル構造を形成することが可能である。更に、この上に水溶液からCuO膜を形成することによって、ヘテロエピタキシャル接合を有する太陽電池を得ることができる。この太陽電池は、原子レベルにおいて良好な接合界面が形成されており、高い変換効率を有するものとなる。
【0023】
ZnO膜を水溶液から形成する方法としては、例えば、特開平8−217443号公報、特開平8−260175号公報、特開平9−278437号公報、特開2005−47752号公報などに記載されている公知の方法を採用できる。
【0024】
以下、これらの方法について具体的に説明する。
【0025】
(i)水溶液からのZnO膜の形成方法
(イ)化学的形成方法
ZnO膜の化学的形成方法としては、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含有する水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物中に被処理物を浸漬する方法を採用できる。
【0026】
亜鉛イオンイオン源となる化合物としては、水溶性亜鉛塩を用いればよく、その具体例として、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、リン酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができる。硝酸イオン源としては、硝酸、水溶性硝酸塩等を用いることができ、硝酸塩の具体例として、硝酸亜鉛、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸尿素等を挙げることができる。亜鉛イオン源となる化合物及び硝酸イオン源となる化合物は、それぞれ、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、また、亜鉛イオン及び硝酸イオンの両方のイオン源として、硝酸亜鉛を単独で用いても良い。特に、硝酸亜鉛を単独で用いる場合には、浴中に不要な成分が多く存在することがなく、水酸化亜鉛の形成なども抑制されて、純度の高い酸化亜鉛膜を広い濃度範囲で形成することが可能となる。
【0027】
亜鉛イオン及び硝酸イオンの濃度は広い範囲で調整できるが、いずれか一方でもイオン濃度が低すぎると酸化亜鉛膜を形成することができず、又、いずれか一方でもイオン濃度が高すぎると水酸化亜鉛膜が形成され易くなって酸化亜鉛膜の純度が低下しやすい。このため亜鉛イオン及び硝酸イオンのそれぞれの濃度は、0.001mol/l〜0.5mol/l(亜鉛分換算で0.065〜32.7g/l)程度の範囲内にあることが好ましく、0.01mol/l〜0.2mol/l(亜鉛分換算で0.65〜13g/l)程度の範囲内にあることがより好ましい。
【0028】
アミンボラン化合物としては、水溶性の化合物であればいずれも用いることができ、具体例として、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等を挙げることができる。特に、トリメチルアミンボランを用いる場合には、浴の安定性が良好となり、良好な酸化亜鉛膜を長期間継続して形成できる。
【0029】
アミンボラン化合物の配合量は、特に限定的ではないが、配合量が少なすぎる場合には、水溶液の安定性は向上するものの酸化亜鉛の析出速度が遅くなり、一方、配合量が多すぎる場合には、溶解が困難になることに加えて、加温した場合に浴の安定性が低下して沈殿が生成し易くなる等の問題点がある。このため、アミンボラン化合物の配合量は、0.001mol/l〜0.5mol/l程度とすることが好ましく、0.005mol/l〜0.1mol/l程度とすることがより好ましい。
【0030】
処理時の液温は、40〜100℃程度とすることが好ましく、60〜100℃程度とすることがより好ましい。又、酸化亜鉛膜形成用組成物のpHは、特に限定されるものではないが、pHが低い場合には浴の安定性は向上するものの成膜速度が低下し、一方、pHが高い場合には、成膜速度は向上するが浴の安定性が低下して沈殿が生成し易くなり、酸化亜鉛膜を得ることが困難となる。これらの点から、該組成物のpHは4〜7程度とすることが好ましい。
【0031】
被処理物が触媒活性を有しない場合には、上記組成物に浸漬する前に、無電解めっき皮膜を形成する際に用いられるパラジウム、鉄、コバルト、ニッケル、白金等の触媒金属を付与する処理を行なう。触媒付与処理の具体的な方法としては、無電解めっき皮膜を形成する場合の触媒付与方法と同様の公知の方法をいずれも適用でき、一般にパラジウムを付与する方法が広く行われており、例えば、センシタイジング−アクチベーション法、キャタリスト−アクセレレーター法、アルカリキャタリスト法等により触媒を付与すればよい。
【0032】
上記した製膜条件において、特に、製膜時の液温を75〜100℃程度の高温とすることによって、(0001)面の配向性の良いZnO膜を形成することができる。
【0033】
また、特開2005−281583号公報に記載されている方法を採用する場合には、簡単な方法で(0001)面に優先配向したZnO膜を形成することができ、配向性や析出状況を制御することができる。
【0034】
即ち、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.06〜0.075mol/lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させることによって、(0001)面に優先配向した緻密な構造のZnO膜を形成することができる。アミンボラン化合物の添加量については、広い範囲で調整することが可能であり、例えば、0.001〜0.5mol/l程度とすることができるが、0.01〜0.1mol/l程度とすることが好ましい。該組成物のpHは4〜7程度とすることが好ましく、該組成物の液温は、40〜90℃程度とすることが好ましく、55〜90℃程度とすることがより好ましい。
【0035】
また、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.075〜0.1mol/lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を、70〜90℃の液温で被処理物に接触させることによっても、(0001)面に優先配向した緻密な構造のZnO膜を形成することができる。アミンボラン化合物の添加量については、広い範囲で調整することが可能であり、例えば、0.001〜0.5mol/l程度とすることができ、0.01〜0.1mol/l程度とすることが好ましい。該組成物のpHは4〜7程度とすることが好ましい。この方法では、液温を上昇させることによって配向性の程度を強くすることができ、処理液の液温を適宜設定することによって、優先配向の程度を調整することが可能である。
【0036】
更に、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.01〜0.05mol/lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させた後、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.08〜0.1mol/lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させることによって、(0001)面に優先配向した緻密な構造のZnO膜を形成することができる。この方法によれば、第一工程において、(0001)面に優先配向したポーラス構造の酸化亜鉛膜が形成され、次いで、第二工程において、第一工程で形成されたポーラス構造の酸化亜鉛膜のポアー部分に酸化亜鉛粒子が成長して粒子間のポアーが消滅し、(0001)面に優先的に配向し、しかも緻密な構造の酸化亜鉛膜が形成される。特に、上記二段階の析出方法によれば、(0001)面の配向性が非常に高い酸化亜鉛膜を形成することができる。
【0037】
この方法で用いる酸化亜鉛膜形成用組成物についても、アミンボラン化合物の添加量は広い範囲で調整することが可能であり、第一工程で用いる酸化亜鉛膜形成用組成物と第二工程で用いる酸化亜鉛膜形成用組成物のいずれについても、0.001〜0.5mol/l程度とすることができ、0.01〜0.1mol/l程度とすることが好ましい。酸化亜鉛膜形成用組成物のpHについては、特に限定されるものではないが、pH4〜7程度とすることが好ましい。
【0038】
処理時間については、目的とする膜厚のポーラス構造の酸化亜鉛膜が形成されるまで第一工程の処理を行い、次いで、粒子間のポアーが消滅するまで第二工程の処理を行えばよい。例えば、第一工程において、5〜30分間程度処理を行った場合には、第二工程において、10〜60分間程度の処理を行えばよい。この方法では、処理温度は、第一工程及び第二工程共に、40〜90℃程度、好ましくは55〜90℃程度とすることができる。特に、この方法は、55〜70℃程度、更には、55〜65℃程度という比較的低い処理液温度において、(0001)面に優先配向した緻密な酸化亜鉛膜を形成することができるので、処理液の安定性が低下することが少ない点で有利である。
【0039】
上記した各種方法で形成されたZnO膜は、更に、N,Ar等の不活性ガス雰囲気や真空中などの被酸化性雰囲気中で400〜600℃程度で10〜300分程度加熱することによって、電気伝導性を向上させることができる。
【0040】
(ロ)電気化学的形成方法
電気化学的方法によってZnO膜を形成する方法としては、亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液中で電解処理を行えばよい。この電解反応によって陰極上にZnO膜を形成することができる。
【0041】
酸化亜鉛膜作製用電解液は、亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液であればよく、例えば、亜鉛イオン及び硝酸イオンの両方のイオン源となる硝酸亜鉛を含有する水溶液、亜鉛イオン源として水溶性の亜鉛塩を含有し、硝酸イオン源として硝酸又は水溶性の硝酸塩を含有する水溶液等を用いることができる。
【0042】
水溶性の亜鉛塩としては、特に限定はなく、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、リン酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができる。また、水溶性の硝酸塩としても特に限定はなく、硝酸亜鉛、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸尿素等を挙げることができる。
【0043】
亜鉛イオン源として使用する化合物及び硝酸イオン源として使用する化合物は、それぞれ一種類のものを用いてもよく、或いは複数のものを混合して用いてもよい。
【0044】
亜鉛イオン及び硝酸イオンの濃度は、広い範囲で調整できるが、濃度が低くなりすぎると電解条件を調整しても連続膜を形成することが困難になり、濃度が高くなりすぎると水酸化亜鉛膜が得られる傾向にある。このため、通常、亜鉛イオン及び硝酸イオンのそれぞれの濃度が、0.001mol/l〜0.5mol/l(亜鉛分換算で0.065〜32.7g/l)程度の範囲にあることが適当であり、特に、それぞれの濃度が0.1mol/l(亜鉛分換算で6.5g/l)程度であることが好ましい。
【0045】
電解方法としては、通常の電解法をいずれも採用できる。たとえば、陰極電位は、電解液の濃度などに応じて適宜設定すればよいが、通常、Ag/AgCl電極基準で−0.2V〜−2.0V程度が適当であり、−0.5V〜−1.6V程度が好ましく、−0.7V〜−1.6V程度が特に好ましい。この電位範囲での陰極電流密度は0.00001mA/cm2 〜200mA/cm2 程度となるが、陰極電流密度は用いる基材の種類によっても変化する。酸化亜鉛膜の析出速度は、陰極電位が卑になるほど、言い換えれば陰極電流密度が大きいほど、大きくなる。
【0046】
電解液の液温は、広い範囲で設定できるが、通常は、20℃〜100℃程度とすればよい。また、電解液のpHが高くなりすぎると電解液中に沈殿が生成して、酸化亜鉛膜を得ることが不可能となるので、pH1〜7程度とすることが適当であり、pH5.2程度とすることが好ましい。
【0047】
電解に用いる陽極としては、通常の亜鉛めっきに用いられる陽極をいずれも使用できる。具体例としては、可溶性陽極である亜鉛の他に、カーボン、白金、白金めっきチタン等の不溶性陽極材料等を用いることができる。
【0048】
上記した電解方法において、特に、液温を60〜100℃程度、好ましくは80〜100℃程度として、Ag/AgCl電極基準で−0.5V〜−0.8V程度で定電位電解を行うことによっても、(0001)面の配向性の良いZnO膜を得ることができる。
【0049】
(ii)水溶液からのAgO膜の形成方法
次に、AgO膜を水溶液から形成する方法について説明する。
水溶液からAgO膜を形成する方法としては、例えば、「J. Electrochem. Soc., Vol. 143, No.9, September 1996.」に記載されている方法を採用できる。具体的には、水溶性銀塩を含有する水溶液中で電解反応によってAgO膜を形成し、次いで、加熱処理を行うことによって、AgO膜を形成することができる。
【0050】
水溶性銀塩としては特に限定はなく、例えば、酢酸銀、硝酸銀、乳酸銀、メタンスルホン酸銀などを使用することができる。水溶液銀塩の濃度は0.01mol/l〜1mol/l程度、好ましくは、0.01mol/l〜0.1mol/l程度とすればよい。
【0051】
更に、水溶性銀塩を含有する水溶液の電気伝導性を向上させるために、酢酸ナトリウム,酢酸カリウム,酢酸リチウム,酢酸アンモニウム,硝酸アンモニウム,硝酸カリウム,硝酸ナトリウム,乳酸ナトリウム,乳酸アンモニウムなどを添加してもよい。これらの成分の濃度は、0.01mol/l〜1mol/l程度とすることが好ましく、0.01mol/l〜0.1mol/l程度とすることがより好ましい。
【0052】
水溶性銀塩を含有する水溶液のpHは、特に限定されないが,4〜9程度であることが好ましく、5〜9程度であることがより好ましい。浴温は、10〜60℃程度であることが好ましく、20〜40℃程度であることがより好ましい。
【0053】
電解方法としては、ZnO膜を形成した被処理物をアノードとして、定電位電解,定電流電解等の方法によって電解を行えばよい。カソードとしては、例えば、Ag板などを使用できる。定電流電解の場合には、電流密度を0.1〜100mA/cm程度、好ましくは0.1〜10mA/cm程度とすればよい。この様な方法で電解することによって、AgO膜を形成することができる。
【0054】
次いで、形成されたAgO膜を大気中などの酸化性雰囲気中で加熱処理することによって、AgO膜を得ることができる。加熱温度は、100〜250℃程度とすればよく、好ましくは130〜200℃程度とすればよい。熱処理温度が低すぎる場合には、完全にAgOにならず、AgO+AgOの2相構造となり易いので好ましくない。一方、熱処理温度が高すぎる場合には、金属状態のAgが析出するため、Ag+AgOの2相構造となりやすいのでやはり好ましくない。
【0055】
(0001)配向したZnO膜上にAgO膜をヘテロエピタキシャルに成長させる場合には、上記した条件に従って、0.1〜100mA/cm程度の電流密度で電解を行ってAgO膜を形成した後、加熱処理を行えばよい。
【0056】
(iii)水溶液からのCuO膜の形成方法
水溶液からCuO膜を形成する方法としては、例えば、水溶性銅塩を含むアルカリ性水溶液から電解析出させる方法を挙げることができる。
【0057】
水溶性銅塩としては特に限定はなく、例えば、硫酸銅,塩化銅,硝酸銅,酢酸銅などを使用することができる。また、水溶性銅塩を含有する水溶液は、アルカリ性領域で使用されるため、通常、水酸化物の沈殿を抑制するための錯化剤を配合する。
【0058】
使用可能な錯化剤としては、乳酸、酒石酸,クエン酸、グリコール酸、りんご酸等のヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。
【0059】
該水溶液中の銅塩濃度は0.1〜0.5mol/l程度、錯化剤濃度は0.5〜5mol/l程度の範囲とすることが好ましい。
【0060】
水溶性銅塩を含有する水溶液のpHは、特に限定されないが、通常、8〜14程度であることが好ましく、9〜13程度であることがより好ましい。浴温は、25〜80℃程度とすることが好ましい。
【0061】
電解方法としては、AgO膜を形成した被処理物をカソードとして、定電位電解、定電流電解等の方法によって電解を行えばよい。特に、定電流電解が好ましい。アノードとしては、例えば、Cu板、Ti−Pt板などを使用できる。定電流電解の場合には、電流密度を30〜1000μA/cm程度の範囲とすればよい。
【0062】
AgO(111)面上にCuO(111)面を成長させるためには、液温を40〜60℃程度、好ましくは45〜55℃の範囲として、電流密度範囲を30〜100μA/cm程度とすることが好ましく、30〜80μA/cm程度とすることがより好ましい。
【0063】
上記した方法によれば、水溶液からの電解反応によって、AgO膜上に、CuO膜を積層することができる。
【0064】
以上の方法によって得られたZnO膜/AgO膜/CuO膜の積層構造を有する太陽電池について、本発明方法を適用してCuO膜の表面に金属Cu層からなる電極を形成することによって、太陽電池とすることができる。電極とする金属Cu層の厚さについては特に限定的ではないが、通常、10〜500nm程度とすればよい。
【0065】
本発明の金属Cu層の形成方法によれば、上記したCu2O層を光電変換材料とする太陽電池に対して、非常に簡単な方法によって電極を形成することが可能であり、電極の厚さの制御も容易である。
【0066】
(2)光化学反応によって形成したCuO膜の金属化への適用:
水溶性銅塩を含むアルカリ性水溶液に対して、該水溶液と接触する状態で設置された光透過性を有する材料を介して光を照射することによって、該光透過性材料上にCuO膜を形成することができる。本発明の金属Cu層の形成方法は、この様な光化学反応によって析出したCuO膜に対しても適用することができる。
【0067】
光化学反応によってCuO膜を析出させるための具体的な方法としては、例えば、少なくとも一部が光透過性材料で形成された容器中に、水溶性銅塩を含むアルカリ性水溶液を入れ、該光透過性材料を介して光を照射すればよい。
【0068】
光透過性材料としては特に限定はなく、所定の波長の光を透過できる材料であればよい。例えば、石英ガラス、ソーダガラス、NESAガラス等のガラス材料、PET,ポリカーボネート、ABS等の光透過性の樹脂材料等を用いることができる。
【0069】
水溶性銅塩としては特に限定はなく、例えば、硫酸銅,塩化銅,硝酸銅,酢酸銅などを使用することができる。また、水溶性銅塩を含有する水溶液は、アルカリ性領域で使用されるため、通常、水酸化物の沈殿を抑制するための錯化剤を配合する。
【0070】
使用可能な錯化剤としては、乳酸、酒石酸,クエン酸、グリコール酸、りんご酸等のヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。
【0071】
該水溶液中の銅塩濃度は0.1〜0.5mol/l程度、錯化剤濃度は0.5〜5mol/l程度の範囲とすることが好ましい。
【0072】
水溶性銅塩を含有する水溶液のpHは、特に限定されないが、通常、8〜14程度であることが好ましく、9〜13程度であることがより好ましい。浴温は、25〜80℃程度とすることが好ましい。
【0073】
照射する光としては、例えば、270nm程度以上の波長の光を用いることができる。具体例としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯などを用いることができる。
【0074】
例えば、出力250〜500W程度の超高圧水銀灯を用いる場合には、光源から製膜する基板までの距離を1〜5cm程度とすればよい。
【0075】
この方法によれば、各種の非導電性材料に対しても、CuO膜を形成することができる。
【0076】
本発明の金属Cu層の形成方法は、上記した光化学反応によって析出したCuO膜に対しても適用することができる。例えば、CuO膜を形成する光透過性材料の表面に、光遮断材料によって予め任意の形状のフォトマスクを形成し、この材料を介して水溶性銅塩を含むアルカリ性水溶液に光を照射してCuO膜を形成し、形成されたCuO膜の表面を本発明方法によって金属化することによって、任意の形状の導体回路を形成することができる。
【発明の効果】
【0077】
本発明の金属銅層の形成方法によれば、還元剤を含有する水溶液にCuO膜を接触させるという非常に簡単な方法によって、複雑な処理工程や大規模な装置を用いることなく、CuO膜の表面に金属Cu層を形成することができる。
【0078】
本発明方法は、例えば、Cu2O膜を光電変換材料とする太陽電池のCu2O膜表面にオーミック接合の電極を形成する方法として非常に有用性が高い方法である。更に、その他各種のCuO膜の表面を金属化する方法として幅広い用途に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0080】
実施例1〜4及び比較例1〜4
乳酸3mol/l及び硫酸銅0.4mol/lを含有するpH12.5の水溶液中に、NESAガラス基板を浸漬し、これをカソードとして、液温45℃、陰極電流密度1.0 mA/cm2、通電電気量1C/cm2で電解を行い、該NESAガラス基板に膜厚約1.3μmのCu2O膜を形成した。
【0081】
次いで、上記した方法でCuO膜を形成した基板を、下記表1に示す各水溶液に表1に示す条件で浸漬した。処理後の各皮膜を入射角0.5°の薄膜XRD回折で測定して金属化の有無を評価し、更に、Cu層の膜厚を断面SEM観察により求めた。結果を下記表1に示す。
【0082】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu2O膜を形成した被処理物を、還元剤を含有する水溶液に接触させることを特徴とするCu2O膜表面に金属Cu層を形成する方法。
【請求項2】
還元剤が、アミンボラン化合物及び水素化ホウ素化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被処理物が、Cu2O層を光電変換材料とする太陽電池用材料である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
被処理物が、光化学反応によって析出したCuO膜を含む材料である請求項1又は2に記載の方法。


【公開番号】特開2007−235040(P2007−235040A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57773(P2006−57773)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽光発電技術研究開発 革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発 酸化物系薄膜太陽電池の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】