説明

亜鉛−ニッケル合金めっき液並びにめっき方法

【課題】硫酸ニッケルを使用しないで優れたアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっきを実現することを課題とする。
【解決手段】亜鉛とニッケルと電導塩とニッケルの錯化剤を含有し、かつ、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族スルホンイミド、アセチレン化合物、アリル化合物、ニトリル化合物、硫酸エステルを含有しない、アルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液である。特にニッケル源は炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩化ニッケル等の水に難溶解性のニッケル化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛−ニッケル合金めっきに関し、めっき液の沈殿発生、陽極バック内でのスラッジ状異種物の生成、めっきタンクへの付着物の生成、ろ過装置(濾過膜)への付着物、パイプ配管のつまりなどの諸問題に対応し、生産性と管理性を飛躍的に向上させ且つ不良発生率を大幅に低減させるめっき液並びにめっき方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっきの耐食性を向上する目的で亜鉛合金めっきが広く行われている。その中でも亜鉛−ニッケル合金めっきは自動車部品、特に高温環境下に置かれるエンジン部品や、高い耐食性が要求される部品等に広範囲に使用されている。従来の亜鉛−ニッケル合金めっきは特開昭63−53285に開示されているようにポリアルケンポリアミン類、アルカノールアミン類といったアミン系の錯化剤で可溶化したニッケルを含有する電気亜鉛めっき浴で電解めっきを行うことにより亜鉛めっき皮膜中にニッケルを析出させる方法により行われる。錯化剤についてはその後、目的に応じて様々な種類のものが開発されてきた。例えば、特開平6−173073、特開2007−2274には錯化剤としてアミン化合物とエピハロヒドリン等エポキシ基含有化合物の反応生成物を用いるアルカリ性電気亜鉛めっき浴による亜鉛ニッケル合金めっき方法が開示されている。この方法はアミン化合物とグリシジルエーテル類を混合させることにより錯化剤となる反応生成物を得る方法であり、この反応生成物は亜鉛ニッケル合金めっきの錯化剤として現在最も広く用いられている。耐食性以外では、改善された膜厚分布を目的として特定の可溶性ポリマーとピリジニウム化合物を用いた特表2009−541580などがある。また、これまで発明され実用化された全てのアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっきは、特表2008−539329の背景技術に記載されているようにめっき液変色やめっき層厚のムラ、生産性の低下などの問題を抱えている。この他にアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっきは、めっき液の沈殿発生、陽極バック内でのスラッジ状異種物の生成(陽極への付着物)、めっきタンクへの付着物の生成、ろ過装置(濾過膜)への付着物、パイプ配管のつまりなどの生産する上で諸問題を数多く抱えている。特表2008−539329に記載される様な問題は、特表2008−539329記載の発明を施さなければ、今日までの全ての発明、例えば前述の特表2009−541580においても同様の問題を抱えている。しかしながら特表2008−539329の発明は、多額の設備投資が必要な上、めっき作業中に品物が設備に接触して破損し、その修繕費がかさむことや濾過膜の目詰まりが頻繁に発生しメンテナンスにラインを止めなくてはならないなど、実用上のコストがかさみ、解決しようとする課題に記載されたコストおよびメンテナンスの点から見て非効率的とする点は改善されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−53285号公報
【特許文献2】特開平6−173073号公報
【特許文献3】特開2007−2274号公報
【特許文献4】特表2009−541580号公報
【特許文献5】特表2008−539329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、前記課題の解消であり、とりわけめっき液の安定性を向上させ、生産性の向上や不良率の低減により、コスト低減に非常に効果があるめっき液、めっき方法、めっき液管理方法を提供することにある。特に電流効率の低下抑制やメンテナンス時間の短縮などの生産性向上は、薬剤コストの低減の何倍も経済的な効果は大きい。また、メンテナンスの容易さは単純なコストの低減だけでなく、労働時間の短縮など作業環境の改善にも効果を発揮するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を解決するために研究開発を重ねていたが、従来の発想とは全く異なる着想による革新的な手段でこの課題を解決する方法を見出した。これまでの発明は、当初、化学的な発想により、錯化剤や光沢剤の改良により電着速度あるいは電流効率の改善などにより生産性の向上や品質の向上を図ってきた。そのような液が工業的な稼働により液の不安定さが露呈すると、液浄化のために活性炭などへの吸着や希釈などの物理的対策、或いはEP1369505A2記載の分離、WO00/06807などの隔膜による隔離や特表2008−539329記載のろ過膜による隔離と物理的、機械的、装置的な対策が打ち出されてきた。すなわち化学的な対策が手詰まりと考え、物理的、機械的、装置的な対策を取った結果、設備が増えた分だけ問題発生箇所が新たに増え、メンテナンスすべき事項が増えたため当初の目的が果たせないという本末転倒なジレンマに陥っている状況を鑑み、原点に返り物理的、機械的、装置的な対策を取らない方法を考えるに至った。
これまで多くの亜鉛−ニッケル合金めっきの発明がなされ、カルボン酸や脂肪族カルボン酸やその反応物など多くの錯化剤、有機化合物が提唱されてきたが、解決しようとする課題は、これらの有機化合物の分解生成物に因るものと考えられてきた(特表2008−539329)にもかかわらず、本発明者の一つ目の従来とは異なる着想は、課題が有機化合物の分解による生成物起因ではなく、合成による生成物起因と全く逆に考えた点にある。言い換えれば、分解であれば該有機化合物自身の反応と考えられるが、合成であれば、該有機化合物以外との合成も考えられ新たな官能基の付加も考えられる。
【0006】
本発明者らが、入手した薬剤の分析或いはMSDSなどを用いて全世界の薬剤メーカーを調査した結果によると現在、実用化され工業的に用いられている亜鉛−ニッケル合金めっき液には、アルデヒド、ピリジニウム化合物、有機硫黄化合物、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族スルホンイミド、アセチレン化合物、アリル化合物、ニトリル化合物、硫酸エステルのいずれか一種或いは二種以上が使用されており、ニッケル供給源は全て硫酸ニッケルであった。
【0007】
本発明者の二つ目の従来とは異なる着想は、従来の発明が錯化剤の反応(分解、転化など)に注目し、これを抑制しようと(特表2008−539329、p5、35〜37行)考えていたのに対し、錯化剤ではなく光沢剤などの成分に注目した点にある。特表2008−539329、p3、11行に記載されているように液の色の変化はニッケルの錯化状態の変化を示すものなので、これまでの発明が錯化剤の変化を抑制しようと考えることは当業者として当然である。
【0008】
本発明者の三つ目の従来と異なる着想は、これらの成分を除こうと考えた点にある。これらの成分は先人達が光沢性や被膜物性(二次加工性、応力)の改善、被膜の均一性、被膜密着力、耐食性など、その他諸々の改善のために発明したものであり、事実、使用によりその効果が認められているにもかかわらず除くことは、当業者のみならずとも非常識である。
【0009】
これらの成分の内、ニッケル供給源については、特願昭63−149088に硫酸根の悪影響が記載されている。しかし。この発明の実施例を見る限り4〜6g/Lの光沢剤(IZ−260)を添加している。ホームページで調べるとIZ−260は特願昭63−149088の発明者であるディツプソール社製のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき用光沢剤である。その後のディツプソール社で出願されたアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき関連の特許を調べると、ピリジニウム化合物など本願で指摘する成分を含んでいる(特願2000−22298、実施例5)。この為、特願昭63−149088に従い、硫酸イオン、塩素イオン、炭酸イオンなどを除いても本願の効果は得られない。
【0010】
特願昭63−149088は金属ニッケルを別槽で溶解させ補給するといった方法が提示されているが、新たに溶解槽だけでなく電源装置類を設けるなど、もう一つめっき設備を設置するような多大な投資が必要である、ニッケル濃度の調整が困難であるなどの理由により現実的ではなかった。また、他のニッケル化合物に比べ硫酸ニッケルは価格的に安く容易に入手できる利点がある上、例えば塩化ニッケルを用いた場合にはめっき液中の塩素濃度の増大により合金めっき層中の塩素濃度が増大することで耐食性の低下が予想され、酢酸ニッケルやスルファミン酸ニッケルでは意図しないキレートによるめっき状態の悪化が懸念される。その他、難溶性のニッケル源を用いた場合にはニッケル化合物自身が水に難溶なためニッケル錯体の効率的な合成ができないといった問題が生じるために世界中のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっきのニッケル供給源として硫酸ニッケルが使用されてきた。
【0011】
このようなアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっきの開発の歴史の流れに反し、これらを除くことにより本発明者は課題を解決するに至った。
【0012】
より具体的には、本発明の課題を解決するための技術手段は次のとおりである。
(1)亜鉛とニッケルと電導塩とニッケルの錯化剤を含有し、そのニッケル源が一水酸化ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、及び酢酸ニッケルより選択される少なくとも一種であり、かつ、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族スルホンイミド、アセチレン化合物、アリル化合物、ニトリル化合物、硫酸エステルからなる化合物群を含有しない、アルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
(2)前記めっき液中に硫酸イオンが存在する場合にはニッケル/硫酸イオンで表されるモル比が1を超える上記(1)のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
(3)前記めっき液中にハロゲンイオンが存在する場合にはニッケル/ハロゲンイオンで表されるモル比が0.5を超える上記(1)又は(2)のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
(4)硫酸イオンを含有しない上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
(5)前記錯化剤がアミンとエポキシ基含有化合物の反応物である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
(6)前記錯化剤原料として用いられるアミンが1分子中の窒素原子数4以上である上記(5)のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
(7)ニッケルの供給源の一部又は全部が、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩化ニッケルであり、更にニッケルの錯化剤を含有する上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液用ニッケル補給剤。
(8)錯化剤がアミンとエポキシ基含有化合物の反応物である上記(7)のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液用ニッケル補給剤。
(9)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のめっき液により電解亜鉛−ニッケル合金めっきを行う方法。
(10)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のめっき液に上記(7)又は(8)の補給剤を用いるニッケル補給方法。
(11)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のめっき液を使用し、アルデヒド、ピリジニウム化合物、有機硫黄化合物、ポリアルコール、ポリカルボン酸のいずれも添加しないで実施されるアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき方法。
(12)上記(11)記載の化合物群のいずれか一種以上の成分を定期的に添加しつついずれの成分も0.0005モル/L以下の濃度で管理するアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液管理方法。
(13)上記(11)記載の化合物群の定期的な添加を行わないアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液管理方法。
(14)上記(12)又は(13)に記載の管理方法により管理されるアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液を使用することを特徴とするアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき方法。
(15)上記(9)又は(14)の方法により生産される亜鉛−ニッケル合金めっき品。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の亜鉛−ニッケル合金めっきに関し、詳細に説明する。
めっきの基本的な浴組成は、従来のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっきの組成で良く、例えば亜鉛は3〜30g/L、好ましくは5〜15g/L、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような電導塩を50〜200g/L、好ましくは80〜160g/L、ニッケルを0.5〜15g/L、好ましくは1〜8g/L含み、これに適量の錯化剤と光沢剤を含むものである。
【0014】
錯化剤としてはカルボン酸、アミン化合物などが使用できる。
カルボン酸には特に制限はないが、リンゴ酸、コハク酸、マロン酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸などのポリカルボン酸類ならびにそれらの塩、グルコン酸、グリセリン酸などのヒドロキシカルボン酸類並びに塩などが挙げられる。これらの濃度として0.001〜1モル/Lが好ましく、0.005〜0.1モル/Lがより好ましい。アミン化合物として特に限定はないがポリアルキレンポリアミン、具体的にはジアルキルアミノエチルアミン、ジアルキルアミノプロピルアミンなどの脂肪族アミンが好ましく、例えば、トリエタノールアミンやエチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、エチルアミノエタノール、アミノプロピルエチレンジアミン、ビスアミノプロピルピペラジン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミン、イソプロパノールアミン、アミノアルコール、イミダゾール、ピコリン、ピペラジン、メチルピペラジン、モルホリン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、アミノアルコール、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジプロピルアミノエチルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミンが挙げられ、特にエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、トリプロピレンテトラミンが好適である。好ましくはこれらとエポキシ基含有化合物をニッケル化合物存在下で反応させる。エポキシ基含有化合物としてはグリシジルエーテル類並びにエピハロヒドリン類が好適だがこれに限定されず、エポキシ基を含有していれば本発明のニッケル錯体を合成することが可能である。
【0015】
窒素原子数が4以上のアミンとエピハロヒドリンの反応生成物を錯化剤に用いた場合には25℃以上においても安定した合金めっき皮膜を継続的に得ることができる上に従来の亜鉛ニッケル合金めっきと比較して互角以上の外観をもち、その皮膜はニッケル共析率が10〜13%の合金めっきであり、従来、安定して得られる方法のあったニッケル共析率8〜10%又は15%以上の皮膜のいずれよりも耐食性が高い。また、ニッケル濃度を変化させることでニッケル共析率15%以上の合金めっきの形成も可能であり、25℃以上の高温でも安定した合金めっき皮膜を形成できるという際立った特徴を有する。
【0016】
ニッケル供給源としてのニッケル化合物に関して、硫酸イオンの存在を避けられるニッケル化合物であれば、スルホン化や硫酸のエステル化などの反応を抑えられることになるが、酢酸ニッケルやスルファミン酸ニッケルが使用可能であるが、反応以前に意図しないキレートによるめっき状態の悪化が懸念される為、より好ましくは塩化ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケルである。塩化ニッケルは塩素による耐食性の低下が心配され、炭酸ニッケルは、稼働による炭酸ソーダの蓄積が加速される不安があるため、水酸化ニッケルが最も好ましい。硫酸ニッケル塩以外のニッケル塩を直接めっき液に添加すると水酸化ニッケルが生じ、めっき不良を生じると特願昭63−149088は記載されているが、亜鉛−ニッケル合金めっき装置には亜鉛濃度管理のため亜鉛の溶解槽が設けられ、そこから濾過器を経由してめっき液に亜鉛を供給するシステムが通常である。水酸化ニッケルは難溶性であるが、特願昭63−149088記載のように水酸化ニッケル沈殿は一時的な生成であるので、直接の添加でなくこの亜鉛の溶解槽を利用することにより補給することは可能である。ただ、添加と溶解のタイムラグのためにめっき組成の変動が発生するのを抑えるなど管理的な観点から言えば、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケルなどが既に溶解された状態で供給されることが望ましい。この場合のように、錯化剤にニッケルを溶かした液であれば、めっき液に添加しても沈殿が発生しない。当業者が錯化剤に本発明のニッケル供給源を混ぜ込んで溶かすことも可能であるが、手間を省くため錯化剤の合成の段階でニッケル供給源を加え、錯化剤で錯化されたニッケル補給剤を提供することはより好ましい。
【0017】
硫酸イオンは主に硫酸ニッケルから、ハロゲンイオンは塩化ニッケルとエピハロヒドリンから主に供給されるが、課題の解決、耐食性の安定のためにニッケル/硫酸イオンで表されるモル比が1を超えるように硫酸イオンを少なく管理し、ニッケル/ハロゲンイオンで表されるモル比が0.5を超えるようにハロゲンイオンを少なく管理することが好ましい。ハロゲンはエピハロヒドリンを使用する以上、不含有を意図することは難しいが、硫酸イオンは、硫酸ニッケルの使用を止め、不含有を意図することが望ましい。
【0018】
めっき液の光沢剤は、特願2000−22298、特願2009−515771、特願平9−368645等に記載されている既存の亜鉛めっき又は亜鉛−ニッケル合金めっきに用いられるものが全て使用可能であり特に限定は存在しない。
【0019】
本発明の最適なめっき条件は錯化剤原料のアミン並びにエポキシ基含有化合物の種類や濃度、又は使用する光沢剤の種類や濃度により異なるが、通常、電流密度が静止めっきで平均電流密度1〜6A/dm2、バレルめっきで0.5〜1.5A/dm2、めっき温度が15〜50℃の範囲で行われ、めっき時間は求めるめっき厚さによって決定される。
【0020】
本発明の好ましい形態は、亜鉛とニッケルと電導塩とニッケルの錯化剤を含有し、アルデヒド、ピリジニウム化合物、有機硫黄化合物、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族スルホンイミド、アセチレン化合物、アリル化合物、ニトリル化合物、硫酸エステルを含有しないアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液であり、より好ましくは更に硫酸イオンと塩素イオンを制御し、(1)ニッケル/硫酸イオンで表されるモル比が1を超える、(2)ニッケル/ハロゲンイオンで表されるモル比が0.5を超えるの両方又は片方を満たすアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液であり、最も好ましい形態は硫酸イオン及び/又は塩素イオンを含まないアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液であるが、工業的な稼働に於いてイレギュラーな状態の発生を否定できないため、不定期的にアルデヒド、ピリジニウム化合物、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族スルホンイミド、アセチレン化合物、アリル化合物、ニトリル化合物、硫酸エステル、硫酸イオンを添加することがある。例えば、外部からの不純物の持ち込みや作業者の間違った添加・補給による想定外の浴組成の変動、機械の故障・破損による部材の溶解、清浄でない水の使用など種々のトラブルが発生し、めっきの外観や被膜厚さや不均一性、共析率異常や物性不良など種々の問題が発生しうる。このような場合に正常な状態に戻るまで、或いはスタート直後から安定するまでの初期段階において、アルデヒド、ピリジニウム化合物、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族スルホンイミド、アセチレン化合物、アリル化合物、ニトリル化合物、硫酸エステル、硫酸イオンを一時的に添加することが可能である。本発明の解決すべき課題は、ラボレベルの課題でなく、工業的稼働後に発生する課題の解決であるため、添加自体を完全否定するものではない。工業的な稼働に於いて、めっき液は恒に持ち込み持ち出しによる液交換が行われているため、一時的な添加であれば漸次減少するため添加可能である。添加の量はこれまでの発明の実施例が示す量以下が適切であり、多ければ課題発生のリスクが高まるため、出来るだけ少量が好ましい。より具体的には、ピリジニウム化合物の場合、ピリジニウム化合物の種類にもよるが50〜100mg/L以下である。不定期的な一時的添加であるか定期的な添加であるかは、通常のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液中の錯化剤や光沢剤の管理は、電気量や処理面積や電導塩濃度などに連動して行われるため、これらの管理項目に連動した添加は定期的、連動しない添加は不定期的とする。
【0021】
本発明者は、課題の発生原因を合成反応と考えており、この反応はそれぞれの反応成分の濃度、温度、電気量などに依存すると考えられ、アルデヒド、ピリジニウム化合物、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族スルホンイミド、アセチレン化合物、アリル化合物、ニトリル化合物、硫酸エステル、硫酸イオン、塩素イオンの含有を意図しない本発明では、濃度のファクターはこれらの成分の濃度となる。また、課題が発症するかしないか(工業的に問題となるレベルまで不具合が進行するか)は、正常な成分と合成生成物との割合によるものと考えられる。
【0022】
設備の老朽化などにより変動要因が多く、最も好ましい状態の定常管理が困難な場合、ある程度の変動に対応できるよう定期的な添加を行いながら正常な成分と合成生成物との割合を最小限に抑え、課題の発症を抑えることも可能である。この場合の添加の量はこれまでの発明の実施例が示す量未満でなくてはならず、好ましくは1/3以下、より好ましくは1/5以下である。多ければ課題発生のリスクが高まるため、出来るだけ少量が好ましい。より具体的には、ピリジニウム化合物の場合、ピリジニウム化合物の種類にもよるが20〜50mg/L以下、より好ましくは5〜20mg/L以下である。分子量の違いだけで全ての不含有を意図する物質について一概に言えないが0.001モル/L以下、好ましくは0.0005モル/L、より好ましくは0.0001モル/L以下である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。試験片に適当な前処理を行った後、以下に示す条件を標準条件とし、めっきを行った。実験は亜鉛濃度8g/L、ニッケル濃度1.6g/L、水酸化ナトリウム110g/L、錯化剤15g/L、のめっき液を用い、陰極となる試験片はベントカソードを使用し、陽極にはニッケル板を用い、錯化剤はトリエチレンテトラミンとエピクロルヒドリンの反応物を用いた。光沢剤として市販のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき用光沢剤(ZN−204A:日本表面化学(株)製)、市販の亜鉛めっき用光沢剤(9000A:日本表面化学(株)製)のいずれかカタログ記載の標準量用いた。ニッケルの供給源としては水酸化ニッケルを用い、補給を容易にするために錯化剤の反応系に水酸化ニッケルを入れて、あらかじめ錯化剤にニッケル溶解させた液により液調整・補給した。めっき条件は電流密度3A/dm2、めっき浴温25℃、めっき時間25分であり、めっき後に耐食性評価のため三価クロム化成皮膜処理を施した。三価クロム化成皮膜処理は日本表面化学(株)製トライナーTRN−988SCを用いて標準条件で行った。外観は特に低電部の灰色化に注意しつつ全体を総合的に評価した。電流効率は鉄製の0.1dm2円形陰極板を2A/dm2でめっきし、膜厚測定によりめっき付着量を計算することで測定した。膜厚及びNi共析率はFISCHER社製FISCHER SCOPE X−RAY XDLM−C4を用いて測定した。沈殿、槽付着物の有無、液の変色は目視にて判断した。ランニング試験は前述の条件で100AH/L電解された後、各項目の評価を行った。
【0024】
実施例1〜6と比較例1、2
光沢剤としてZN−204Aを4mL/L添加し、ニッケル供給源を水酸化ニッケル(実施例1)、炭酸ニッケル(実施例2)、塩化ニッケル(実施例3)、硫酸ニッケル(比較例1)、光沢剤として9000Aを12mL/L添加し、ニッケル供給源を水酸化ニッケル(実施例4)、炭酸ニッケル(実施例5)、塩化ニッケル(実施例6)、硫酸ニッケル(比較例2)とした。
100AH/Lランニングの結果を以下の表1に示す。水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケルを使用すると、硫酸ニッケル(比較例1、2)に比して多くの点で優れた結果が得られることがわかる。
【表1】

評価: 良 ○>△>× 劣
【0025】
実施例7〜12と比較例3、4
亜鉛濃度を12g/L、ニッケル濃度を3.5g/L、光沢剤としてZN−204Aを4mL/L添加し、ニッケル供給源を水酸化ニッケル(実施例7)、炭酸ニッケル(実施例8)、塩化ニッケル(実施例9)、硫酸ニッケル(比較例3)、光沢剤として9000Aを12mL/L添加し、ニッケル供給源を水酸化ニッケル(実施例10)、炭酸ニッケル(実施例11)、塩化ニッケル(実施例12)、硫酸ニッケル(比較例4)とした。100AH/Lランニングの結果を表2に示す。水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケルを使用すると、硫酸ニッケル(比較例3、4)に比して多くの点で優れた結果が得られることがわかる。
【表2】

評価: 良 ○>△>× 劣
【0026】
実施例13〜16と比較例5〜8
光沢剤としてZN−204Aを4mL/L添加し、更にバニリンを30mg/L(実施例13)、1−ベンジル−3−カルバモイルピリジニウムクロリド 15mg/L(実施例14)、サッカリン 40mg/L(実施例15)、2−ブチン−1,4−ジオール 20mg/L(実施例16)、又はバニリンを200mg/L(比較例5)、1−ベンジル−3−カルバモイルピリジニウムクロリド 100mg/L(比較例6)、サッカリン 200mg/L(比較例7)、2−ブチン−1,4−ジオール 300mg/L(比較例8)を添加しランニング試験を行った。100AH/Lランニングの結果を表3に示す。この結果は本発明が従来公知のこれらの添加剤の使用を否定するものではないが、小量に抑制すべきことを示している。
【表3】

評価: 良 ○>△>× 劣
【0027】
比較例9〜12
光沢剤として9000Aを12mL/L添加し、ニッケル供給源を硫酸ニッケルとし、更にバニリンを200mg/L(比較例9)、1−ベンジル−3−カルバモイルピリジニウムクロリド 100mg/L(比較例10)、サッカリン 200mg/L(比較例11)、2−ブチン−1,4−ジオール 300mg/L(比較例12)を添加しランニング試験を行った。
100AH/Lランニングの結果を表4に示す。ニッケル供給源として硫酸ニッケルを採用すると、本発明の基本組成では所期の効果が得られず、多量の添加剤を必要とすることが分かる。
【表4】

評価: 良 ○>△>× 劣
【0028】
実施例17〜18と比較例13〜17
光沢剤としてZN−204Aを4mL/L添加し、錯化剤のアミンをジエチレントリアミンとした錯化剤50g/L(実施例17)、テトラエチレンペンタミン(実施例18)に変更してランニング試験を行った。
実施例18のニッケル供給源を硫酸ニッケルとした比較例13、実施例18に1−ベンジル−3−カルバモイルピリジニウムクロリド 100mg/L(比較例14)、サッカリン 300mg/L(比較例15)を加えためっき液、並びに実施例18のニッケル供給源を硫酸ニッケルに変更し更に1−ベンジル−3−カルバモイルピリジニウムクロリド 100mg/L(比較例16)又は、サッカリン 200mg/L(比較例17)を加えためっき液でランニング試験を行った。結果を表5に示す。これによるニッケル供給源として硫酸ニッケルを採用すると本発明では不要な各種の添加剤が多量に必要であることが分かる。
【表5】

評価: 良 ○>△>× 劣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛とニッケルと電導塩とニッケルの錯化剤を含有し、そのニッケル源が一水酸化ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、及び酢酸ニッケルより選択される少なくとも一種であり、かつ、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族スルホンイミド、アセチレン化合物、アリル化合物、ニトリル化合物、硫酸エステルからなる化合物群を含有しない、アルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
【請求項2】
前記めっき液中に硫酸イオンが存在する場合にはニッケル/硫酸イオンで表されるモル比が1を超える請求項1に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
【請求項3】
前記めっき液中にハロゲンイオンが存在する場合にはニッケル/ハロゲンイオンで表されるモル比が0.5を超える請求項1又は2に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
【請求項4】
硫酸イオンを含有しない請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
【請求項5】
前記錯化剤がアミンとエポキシ基含有化合物の反応物である請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
【請求項6】
前記錯化剤原料として用いられるアミンが1分子中の窒素原子数4以上であることを特徴とする請求項5に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液。
【請求項7】
ニッケルの供給源の一部又は全部が、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩化ニッケルであり、更にニッケルの錯化剤を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液用ニッケル補給剤。
【請求項8】
錯化剤がアミンとエポキシ基含有化合物の反応物である請求項7に記載のアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液用ニッケル補給剤。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のめっき液により電解亜鉛−ニッケル合金めっきを行う方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のめっき液に請求項7又は8に記載の補給剤を用いるニッケル補給方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のめっき液を使用し、アルデヒド、ピリジニウム化合物、有機硫黄化合物、ポリアルコール、ポリカルボン酸のいずれも添加しないで実施されるアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき方法。
【請求項12】
請求項11に記載の化合物群のいずれか一種以上の成分を定期的に添加しつついずれの成分も0.0005モル/L以下の濃度で管理するアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液管理方法。
【請求項13】
請求項11に記載の化合物群の定期的な添加を行わないアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液管理方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の管理方法により管理されるアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき液を使用することを特徴とするアルカリ性亜鉛−ニッケル合金めっき方法。
【請求項15】
請求項9又は14の方法により生産される亜鉛−ニッケル合金めっき品。

【公開番号】特開2012−246554(P2012−246554A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121087(P2011−121087)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000232656)日本表面化学株式会社 (29)
【Fターム(参考)】