説明

亜鉛の電解採取方法

【課題】鉛の品位が極めて低い亜鉛を安価に電解採取することができる、亜鉛の電解採取方法を提供する。
【解決手段】鉛を含むアノードを使用して、硫酸亜鉛を含む電解液から亜鉛を電解採取する方法において、純水に二酸化硫黄ガスを吹き込み且つ炭酸ストロンチウムを添加するか、あるいは、純水に硫化水素ガスを吹き込み且つ水酸化ストロンチウムを添加することによって、ストロンチウムイオンを含む水溶液を作製し、このストロンチウムイオンを含む水溶液を電解液に添加した後に亜鉛の電解採取を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛の電解採取方法に関し、特に、鉛を含むアノードを使用して硫酸亜鉛を含む電解液から亜鉛を電解採取する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アノードとして硫酸に不溶な鉛板または鉛−銀合金板を使用して、硫酸亜鉛を含む電解液から亜鉛をカソード上に析出または付着させて、亜鉛を電解採取する方法が知られている。
【0003】
しかし、このような亜鉛の電解採取方法では、アノードから電解液中に少量の鉛イオンが移行して、その一部がカソード上に析出または付着して電着亜鉛に混入する。
【0004】
このような電着亜鉛中に混入する鉛の量を低減させるために、電解液に炭酸ストロンチウムなどの添加剤を少量添加して、電解液中の鉛イオンなどを吸着させて除去する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、アノードとして鉛を含まないDSE電極(寸法安定電極)を使用して、高純度亜鉛を電解採取する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−20989号公報(段落番号0002−0007)
【特許文献2】特開平10−46274号公報(段落番号0020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電解液に炭酸ストロンチウムを添加する方法では、炭酸ストロンチウムの水への溶解度が非常に低いため、電解液中にストロンチウムを均一に分散させることができず、カソード上の電着亜鉛中の鉛の品位をさらに低減させるのは困難である。また、比較的高価なDSE電極を使用せずに、安価な鉛板や(1〜3質量%の銀を含む)鉛−銀合金板を使用して、カソード上の電着亜鉛中の鉛の品位をさらに低減させることが望まれている。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、鉛の品位が極めて低い亜鉛を安価に電解採取することができる、亜鉛の電解採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、鉛を含むアノードを使用して硫酸亜鉛を含む電解液から亜鉛を電解採取する方法において、ストロンチウムイオンを含む水溶液を電解液に添加した後に亜鉛の電解採取を行うことにより、鉛の品位が極めて低い亜鉛を安価に電解採取することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による亜鉛の電解採取方法は、鉛を含むアノードを使用して、硫酸亜鉛を含む電解液から亜鉛を電解採取する方法において、ストロンチウムイオンを含む水溶液を電解液に添加した後に亜鉛の電解採取を行うことを特徴とする。この亜鉛の電解採取方法において、ストロンチウムイオンを含む水溶液が、水に二酸化硫黄ガスを吹き込み且つ炭酸ストロンチウムを添加することによって、炭酸ストロンチウムを溶解させた水溶液であるのが好ましい。あるいは、ストロンチウムイオンを含む水溶液が、水に二酸化硫黄ガスを吹き込み且つ過剰の炭酸ストロンチウムを添加することによって、炭酸ストロンチウムの一部を溶解させるとともに残りを懸濁させた懸濁液でもよい。あるいは、ストロンチウムイオンを含む水溶液が、水に硫化水素ガスを吹き込み且つ水酸化ストロンチウムを添加することによって、水酸化ストロンチウムを溶解させた水溶液でもよい。また、電解採取後の電解液中の全ストロンチウム濃度が50mg/L以上であるのが好ましい。
【0010】
また、本発明による亜鉛の電解採取用電解液は、硫酸亜鉛とストロンチウムイオンを含む電解液において、ストロンチウムイオン濃度が16mg/Lより高いことを特徴とする。この亜鉛の電解採取用電解液において、全ストロンチウム濃度が50mg/L以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉛の品位が極めて低い亜鉛を安価に電解採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電解尾液に炭酸ストロンチウムを添加して撹拌した際の撹拌時間と電解尾液中のストロンチウムイオン濃度との関係を示す図である。
【図2】実施例1〜4および比較例1〜2において電解後の電解液中の全ストロンチウム濃度と電着亜鉛中の鉛の品位との関係を示す図である。
【図3】実施例5〜7において電解後の電解液中の全ストロンチウム濃度と電力原単位との関係を示す図である。
【図4】実施例5〜7において電解後の電解液中の全ストロンチウム濃度と電着亜鉛中の鉛の品位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による亜鉛の電解採取方法の実施の形態では、鉛を含むアノードを使用して、硫酸亜鉛を含む電解液から亜鉛を電解採取する方法において、ストロンチウムイオンを含む水溶液を電解液に添加した後に亜鉛の電解採取を行う。
【0014】
本実施の形態の亜鉛の電解採取方法では、水に二酸化硫黄ガスを吹き込み且つ炭酸ストロンチウムを添加して、炭酸ストロンチウムを溶解させることによって、ストロンチウムイオンを含む水溶液を作製することができる。例えば、純水に二酸化硫黄ガスを吹き込みながら炭酸ストロンチウム粉末を添加したり、純水に炭酸ストロンチウムを添加して二酸化硫黄ガスを吹き込むことによって、炭酸ストロンチウムを溶解させて、ストロンチウムイオンを含む水溶液(炭酸ストロンチウムが過剰の二酸化硫黄ガスに溶解した水溶液)を作製することができる。
【0015】
なお、炭酸ストロンチウム粉末は、二酸化硫黄ガスを吹き込んでpHが(例えば1.5程度まで)下がったことを確認した後に添加するのが好ましい。このように純水に二酸化硫黄ガスを吹き込みながら炭酸ストロンチウム粉末を添加して、炭酸ストロンチウムを溶解させることによって、ストロンチウムイオン(Sr2+)濃度が2.6〜2.8g/Lの高濃度のストロンチウムイオンを含む水溶液を作製することができる。
【0016】
一方、硫酸亜鉛を含む電解液として亜鉛製錬工程で得られた電解尾液を用意し、それぞれ180rpm、300rpmおよび600rpmで撹拌しながら40℃の電解尾液に炭酸ストロンチウム粉末0.1g/Lを1時間で20回に分けて添加したところ、撹拌時間に対する電解尾液中のストロンチウムイオン濃度は図1に示すようになり、電解尾液に炭酸ストロンチウム粉末を添加した場合には最大16mg/Lで過飽和になることがわかった。なお、40℃の純水への炭酸ストロンチウムの溶解度は10mg/L程度であり、通常の方法で炭酸ストロンチウム粉末を電解液に添加しても、電解液中のストロンチウムイオン濃度を16mg/Lより高くすることができない。
【0017】
したがって、本実施の形態の亜鉛の電解採取方法では、作製したストロンチウムイオン濃度が2.6〜2.8g/Lの高濃度のストロンチウム水溶液を1体積%より多く電解液に添加すれば、電解液中のストロンチウムイオン濃度を26〜28mg/Lより多くすることができ、2体積%以上電解液に添加すれば、電解液中のストロンチウムイオン濃度を52〜56mg/L以上にすることができ、炭酸ストロンチウム粉末を電解液に添加する場合(この場合のストロンチウムイオン濃度は最大16mg/L)と比べて、電解液中のストロンチウムイオン濃度を極めて高くすることができる。また、本実施の形態の亜鉛の電解採取方法では、高濃度のストロンチウムイオンを含む水溶液を電解液に添加することにより、ストロンチウムイオンを電解液中に均一に分散させることができ、ストロンチウムによるPb共沈効果を電解液全体にわたって発揮させて、カソード上の電着亜鉛中のPb品位を数ppmまで低減させることができる。
【0018】
また、本実施の形態の亜鉛の電解採取方法では、電解採取後の電解液中の全ストロンチウム濃度が50mg/L以上になるようにするのが好ましい。このような電解採取後の電解液中の全ストロンチウム濃度にするためには、例えば、ストロンチウムイオン濃度が2.6〜2.8g/Lの水溶液を2体積%以上電解液に添加すればよい。
【0019】
また、本実施の形態の亜鉛の電解採取方法では、純水に二酸化硫黄ガスを吹き込み且つ過剰の炭酸ストロンチウム粉末を添加することにより、炭酸ストロンチウムの一部を溶解させるとともに溶け残りを懸濁させた懸濁液として、ストロンチウムイオンを含む水溶液を作製してもよい。このようにすれば、ストロンチウムイオンを含む水溶液の電解液への添加量を少なくすることができる。この場合でも、高濃度のストロンチウムイオンを含む水溶液を電解液に添加することにより、カソード上の電着亜鉛中のPb品位を数ppmまで低減させることができる。
【0020】
また、本実施の形態の亜鉛の電解採取方法では、純水に硫化水素ガスを吹き込み且つ水酸化ストロンチウムを添加して、水酸化ストロンチウムを溶解させることによって、ストロンチウムイオンを含む水溶液を作製してもよい。このように純水に硫化水素ガスを吹き込み且つ水酸化ストロンチウムを添加して、水酸化ストロンチウムを溶解させることによって、ストロンチウムイオン濃度が30g/Lの極めて高濃度のストロンチウムイオンを含む水溶液を得ることができる。また、極めて高濃度のストロンチウムイオンを含む水溶液を得ることができるので、ストロンチウムイオンを含む水溶液の電解液への添加量を少なくすることができる。この場合でも、極めて高濃度のストロンチウムイオンを含む水溶液を電解液に添加することにより、カソード上の電着亜鉛中のPb品位を数ppmまで低減させることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明による亜鉛の電解採取方法の実施例について詳細に説明する。
【0022】
[実施例1]
硫酸亜鉛を含む電解液として、亜鉛製錬工程で得られた電解尾液(Zn:65g/L、FA:170g/L、全Pb:0.1mg/L)をろ過した電解液を用意した。また、純水に200mL/分の流量でSOガスを吹き込みながら、40℃においてバッフル付きの二段タービンによって400rpmで10分間撹拌し、炭酸ストロンチウム5g/Lを添加してさらに30分間撹拌し、得られた水溶液を吸引ろ過して、ストロンチウムイオン濃度が2.58g/Lのストロンチウム含有水溶液を用意した。このストロンチウム含有水溶液20mLを電解液0.98Lに添加して、電解採取用電解液1Lを得た。この電解液を使用し、アノードとしてPb−Ag板、カソードとしてAl板を使用し、極間距離を25mmとし、43℃において電流密度700A/mで2時間電解採取を行った。なお、この電解採取は、ストロンチウム含有水溶液を電解液に添加した直後(3分以内)に開始した。
【0023】
電解後の電解液の一部を採取し、0.2μmのフィルタでろ過した後、ポーラログラフィを用いた測定装置(Yanaco社製のPOLAROGRAPHIC ANALYZER P−1100)によりPb2+イオン濃度を測定し、ICPによりSr2+イオン濃度を測定した。その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は検出限界以下(<0.1mg/L)であり、Sr2+イオン濃度は36mg/Lであった。また、電解後の電解液の一部をろ過しないで測定した(電解液中に固体として存在するPbも含めた)全Pb濃度は0.6mg/Lであり、(電解液中に固体として存在するSrも含めた)全Sr濃度は57.1mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は4.0ppmであり、亜鉛の電着量は5.34gであった。また、電流効率は89.8%、平均槽電圧は3.25V、電力原単位は2968(kwh/t−Zn)であった。
【0024】
[実施例2]
実施例1と同じ電解液0.97Lに実施例1と同じストロンチウム含有水溶液30mLを添加して得られた電解採取用電解液1Lを使用した以外は、実施例1と同様の方法により電解採取を行った後、実施例1と同様の方法により電解液中のPb2+イオン濃度、Sr2+イオン濃度、全Pb濃度、全Sr濃度を測定した。
【0025】
その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は検出限界以下(<0.1mg/L)、Sr2+イオン濃度は33.3mg/L、全Pb濃度は0.6mg/L、全Sr濃度は74.6mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は1.5ppmであり、亜鉛の電着量は5.54gであった。また、電流効率は93.1%、平均槽電圧は3.25V、電力原単位は2863(kwh/t−Zn)であった。
【0026】
[実施例3]
実施例1と同じ電解液0.96Lに実施例1と同じストロンチウム含有水溶液40mLを添加して得られた電解採取用電解液1Lを使用した以外は、実施例1と同様の方法により電解採取を行った後、実施例1と同様の方法により電解液中のPb2+イオン濃度、Sr2+イオン濃度、全Pb濃度、全Sr濃度を測定した。
【0027】
その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は0.1mg/L、Sr2+イオン濃度は30.1mg/L、全Pb濃度は0.7mg/L、全Sr濃度は93.0mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は1.9ppmであり、亜鉛の電着量は5.25gであった。また、電流効率は88.3%、平均槽電圧は3.21V、電力原単位は2987(kwh/t−Zn)であった。
【0028】
[実施例4]
実施例1と同じ電解液0.95Lに実施例1と同じストロンチウム含有水溶液50mLを添加して得られた電解採取用電解液1Lを使用した以外は、実施例1と同様の方法により電解採取を行った後、実施例1と同様の方法により電解液中のPb2+イオン濃度、Sr2+イオン濃度、全Pb濃度、全Sr濃度を測定した。
【0029】
その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は検出限界以下(<0.1mg/L)、Sr2+イオン濃度は24.6mg/L、全Pb濃度は0.6mg/L、全Sr濃度は116.7mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は3ppmであり、亜鉛の電着量は5.27gであった。また、電流効率は88.6%、平均槽電圧は3.23V、電力原単位は2988(kwh/t−Zn)であった。
【0030】
[比較例1]
実施例1と同じ電解液1Lにストロンチウム含有水溶液を添加しないで電解採取用電解液として使用した以外は、実施例1と同様の方法により電解採取を行った後、実施例1と同様の方法により電解液中のPb2+イオン濃度、Sr2+イオン濃度、全Pb濃度を測定した。
【0031】
その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は0.2mg/L、Sr2+イオン濃度は12.4mg/L、全Pb濃度は1.1mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は29.0ppmであり、亜鉛の電着量は5.39gであった。また、電流効率は90.6%、平均槽電圧は3.23V、電力原単位は2927(kwh/t−Zn)であった。
【0032】
[比較例2]
実施例1と同じ電解液1Lに炭酸ストロンチウム0.085gを添加した後、42℃においてスターラーで10分間撹拌して、全ストロンチウム濃度が約60mg/Lの電解採取用電解液1Lを得た。この電解液を使用して、実施例1と同様の方法により電解採取を行った後、実施例1と同様の方法により電解液中のPb2+イオン濃度、Sr2+イオン濃度、全Pb濃度、全Sr濃度を測定した。
【0033】
その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は0.1mg/L、Sr2+イオン濃度は14.2mg/L、全Pb濃度は0.8mg/L、全Sr濃度は44.2mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は11.6ppmであり、亜鉛の電着量は5.57gであった。また、電流効率は93.6%、平均槽電圧は3.21V、電力原単位は2814(kwh/t−Zn)であった。
【0034】
[比較例3]
実施例1と同じ電解液0.98LにSO溶液(純水に過剰の二酸化硫黄ガスを吹き込んで作製した溶液を10mL分取して純水で100mLに希釈した溶液)20mLを添加して得られた電解採取用電解液1Lを使用した以外は、実施例1と同様の方法により電解採取を行った後、実施例1と同様の方法により電解液中のPb2+イオン濃度、Sr2+イオン濃度、全Pb濃度を測定した。
【0035】
その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は0.5mg/L、Sr2+イオン濃度は13.2mg/L、全Pb濃度は1.3mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は30.1ppmであり、亜鉛の電着量は5.67gであった。また、電流効率は95.3%、平均槽電圧は3.19V、電力原単位は2746(kwh/t−Zn)であった。
【0036】
[比較例4]
実施例1と同じ電解液0.98Lに(純水に炭酸ストロンチウム0.085gを添加した)炭酸ストロンチウムリパルプ液(Sr2+イオン濃度10mg/L)20mLを添加した後、42℃においてスターラーで10分間撹拌して、全Sr濃度が約60mg/Lの電解採取用電解液1Lを得た。この電解液を使用して、実施例1と同様の方法により電解採取を行った後、実施例1と同様の方法により電解液中のPb2+イオン濃度、Sr2+イオン濃度、全Pb濃度、全Sr濃度を測定した。
【0037】
その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は0.1mg/L、Sr2+イオン濃度は14.2mg/L、全Pb濃度は1.1mg/L、全Sr濃度は45.4mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は16.9ppmであり、亜鉛の電着量は5.45gであった。また、電流効率は91.6%、平均槽電圧は3.17V、電力原単位は2838(kwh/t−Zn)であった。
【0038】
[比較例5]
実施例1と同じ電解液0.98LにSO溶液(純水に過剰の二酸化硫黄ガスを吹き込んで作製した溶液を10mL分取して純水で100mLに希釈した溶液)20mLを添加するとともに炭酸ストロンチウム0.085gを添加して、全Sr濃度が約60mg/Lの電解採取用電解液1Lを得た。この電解液を使用して、実施例1と同様の方法により電解採取を行った後、実施例1と同様の方法により電解液中のPb2+イオン濃度、Sr2+イオン濃度、全Pb濃度、全Sr濃度を測定した。
【0039】
その結果、電解後の電解液中のPb2+イオン濃度は0.1mg/L、Sr2+イオン濃度は13.7mg/L、全Pb濃度は0.8mg/L、全Sr濃度は47.0mg/Lであった。また、得られた電着亜鉛中のPb品位は12.9ppmであり、亜鉛の電着量は5.35gであった。また、電流効率は89.9%、平均槽電圧は3.20V、電力原単位は2914(kwh/t−Zn)であった。
【0040】
実施例1〜4および比較例1〜5の結果を表1および表2に示し、実施例1〜4および比較例1〜2の電解後の電解液中の全Sr濃度とカソードの電着亜鉛中のPb品位との関係を図2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
[実施例5]
硫酸亜鉛を含む電解液として、亜鉛製錬工程で得られた電解尾液(Zn:65g/L、FA:170g/L、全Pb:0.1mg/L)をろ過した電解液を用意した。また、純水1Lに200mL/分の流量でSOガスを吹き込みながら、40℃においてバッフル付きの二段タービンによって400rpmで10分間撹拌し、炭酸ストロンチウム5g/Lを添加してさらに30分間撹拌し、得られた炭酸ストロンチウムの懸濁液(溶解した炭酸ストロンチウムと溶け残りの炭酸ストロンチウムを含む懸濁液)を5Cのろ紙で吸引ろ過して、溶け残りの炭酸ストロンチウムを除去したストロンチウム含有水溶液を用意した。このストロンチウム含有水溶液を電解液に添加して、電解採取用電解液0.95Lを得た。なお、ストロンチウム含有水溶液の添加量を変えて、種々のストロンチウム濃度の電解採取用電解液を得た。これらの電解液を使用し、アノードとして電極面積35cmのPb−Ag板、カソードとして電極面積35cmのAl板を使用し、極間距離を25mmとし、43℃において電流密度700A/mで2時間電解採取を行った。なお、この電解採取は、ストロンチウム含有水溶液を電解液に添加した直後(3分以内)に開始した。
【0044】
[実施例6]
実施例5で得られた炭酸ストロンチウムの懸濁液を吸引ろ過しないで、溶け残りの炭酸ストロンチウムを含むストロンチウム含有水溶液を用意し、このストロンチウム含有水溶液を実施例5と同様の電解液に添加して、電解採取用電解液0.95Lを得た。なお、ストロンチウム含有水溶液のパルプ濃度および添加量を変えて、種々のストロンチウム濃度の電解採取用電解液を得た。これらの電解液を使用して、実施例5と同様の方法により電解採取を行った。
【0045】
ストロンチウム含有水溶液の添加量を5mLとした場合の電解後の電解液中の(Sr2+イオンと固体として存在するSrを含む)全Sr濃度は51.8mg/Lであり、得られた電着亜鉛中のPb品位は7.7ppm、電力原単位は2864(kwh/t−Zn)であった。また、ストロンチウム含有水溶液の添加量を10mLとした場合の電解後の電解液中の(Sr2+イオンと固体として存在するSrを含む)全Sr濃度は54.10mg/Lであり、得られた電着亜鉛中のPb品位は8.9ppm、電力原単位は2864(kwh/t−Zn)であった。
【0046】
[実施例7]
硫酸亜鉛を含む電解液として、亜鉛製錬工程で得られた電解尾液(Zn:65g/L、FA:170g/L、全Pb:0.1mg/L)をろ過した電解液を用意した。また、純水300mLに水酸化ストロンチウム30gを添加してリパルプした後、200mL/分の流量でHSガスを吹き込みながら、40℃においてバッフル付きの二段タービンによって400rpmで30分間撹拌した後、得られた水溶液を5Cのろ紙で吸引ろ過して、ストロンチウム含有水溶液を用意した。なお、吸引ろ過による残渣は殆どなく、ストロンチウム含有水溶液中の全Sr濃度は30.3g/Lであった。このストロンチウム含有水溶液を電解液に添加して、電解採取用電解液0.95Lを得た。ストロンチウム含有水溶液を電解液に添加すると局部的に白色の析出物が生じ、撹拌すると液の赤色がなくなって白濁した。XRD測定の結果、析出物はSrSOであり、それ以外のピークは見当たらなかった。なお、ストロンチウム含有水溶液の添加量を変えて、種々のストロンチウム濃度の電解採取用電解液を得た。これらの電解液を使用して、実施例5と同様の方法により電解採取を行った。
【0047】
ストロンチウム含有水溶液の添加量を2mLとした場合の電解後の電解液中の(Sr2+イオンと固体として存在するSrを含む)全Sr濃度は53.9mg/Lであり、得られた電着亜鉛中のPb品位は5.1ppm、電流効率は81.9%、電力原単位は3259(kwh/t−Zn)であった。また、ストロンチウム含有水溶液の添加量を3mLとした場合の電解後の電解液中の(Sr2+イオンと固体として存在するSrを含む)全Sr濃度は90.12mg/Lであり、得られた電着亜鉛中のPb品位は3.0ppm、電流効率は84.6%、電力原単位は3163(kwh/t−Zn)であった。
【0048】
実施例5〜7の電解後の電解液中の全Sr濃度と電力原単位との関係を図3に示し、全Sr濃度とカソードの電着亜鉛中のPb品位との関係を図4に示す。
【0049】
図3に示すように、SOガスを吹き込みながら炭酸ストロンチウムを溶解させ且つ溶け残りの炭酸ストロンチウムを含むストロンチウム含有水溶液(炭酸ストロンチウムの懸濁液)を電解尾液に添加した電解液を使用して電解採取した場合(実施例6)では、炭酸ストロンチウムの懸濁液の添加量によらず電力原単位が殆ど等しく、また、SOガスを吹き込みながら炭酸ストロンチウムを溶解させ且つ溶け残りの炭酸ストロンチウムを除去したストロンチウム含有水溶液を電解尾液に添加した電解液を使用して電解採取した場合(実施例5)と比べて、電力原単位が100kwh/t−Zn程度向上した。
【0050】
図4に示すように、実施例5、実施例6および実施例7(HSガスを吹き込みながら水酸化ストロンチウムを溶解させ且つ溶け残りの水酸化ストロンチウムを除去したストロンチウム含有水溶液を電解尾液に添加した電解液を使用して電解採取した場合)のいずれも、電解後の電解液中の全Sr濃度の増加とともにカソードの電着亜鉛中のPb品位が減少する傾向があった。また、懸濁の有無によるPb品位の違いはほとんど見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛を含むアノードを使用して、硫酸亜鉛を含む電解液から亜鉛を電解採取する方法において、ストロンチウムイオンを含む水溶液を電解液に添加した後に亜鉛の電解採取を行うことを特徴とする、亜鉛の電解採取方法。
【請求項2】
前記ストロンチウムイオンを含む水溶液が、水に二酸化硫黄ガスを吹き込み且つ炭酸ストロンチウムを添加することによって、炭酸ストロンチウムを溶解させた水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛の電解採取方法。
【請求項3】
前記ストロンチウムイオンを含む水溶液が、水に二酸化硫黄ガスを吹き込み且つ過剰の炭酸ストロンチウムを添加することによって、炭酸ストロンチウムの一部を溶解させるとともに残りを懸濁させた懸濁液であることを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛の電解採取方法。
【請求項4】
前記ストロンチウムイオンを含む水溶液が、水に硫化水素ガスを吹き込み且つ水酸化ストロンチウムを添加することによって、水酸化ストロンチウムを溶解させた水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛の電解採取方法。
【請求項5】
前記電解採取後の電解液中の全ストロンチウム濃度が50mg/L以上であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の亜鉛の電解採取方法。
【請求項6】
硫酸亜鉛とストロンチウムイオンを含む電解液において、ストロンチウムイオン濃度が16mg/Lより高いことを特徴とする、亜鉛の電解採取用電解液。
【請求項7】
全ストロンチウム濃度が50mg/L以上であることを特徴とする、請求項6に記載の亜鉛の電解採取用電解液。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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