説明

亜鉛めっき処理方法

【課題】添加剤の濃度が低いめっき液を使用して従来と同等以上の特性のめっき皮膜を得ることができる亜鉛めっき処理方法を提供する。
【解決手段】塩化亜鉛40〜90g/L、塩化カリウム180〜240g/L、硼酸20〜40g/L、分子量6000〜20000のポリエチレングリコール2〜5g/L及び安息香酸カリウム2〜5g/Lを含有するめっき液に被処理物を浸漬し、パルス電解することによりめっきを行う。また、分子量6000〜20000のポリエチレングリコール0.5〜5g/L及びベンズアルデヒド0.5〜2.0g/Lを含有するめっき液とすることができる。パルス電解の条件はオン時間0.3〜1.0ms、デューティ比5〜20%、平均電流密度2〜5A/dmとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液のリサイクルが容易な亜鉛めっき処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題に対する関心が高まり、めっき排水を出さないめっき処理方法が求められている。めっき排水を出さないようにするためにはめっき槽から汲み出されためっき液をめっき槽に戻すことが必須であり、ワークに付着して汲み出されるめっき液を洗浄した水洗水を濃縮してめっき槽に戻す方法が知られている。ところがめっき液には通常めっき皮膜の特性改善のための添加剤として各種有機物が加えられており、この添加剤が電解と熱とにより分解されてめっき液中に不純物として蓄積することになる。
【0003】
そのため、分解されやすい添加剤を多量に加えためっき液の場合には、ワークに付着して汲み出されるめっき液を洗浄した水洗水を濃縮してめっき槽に戻すとめっき液中の不純物の増加速度が早まり、めっき液の寿命が短くなることになる。不純物の蓄積を減らしめっき液の寿命を長く保つためには不純物の発生要因となる添加剤の濃度が低いめっき液を使用することが必要であり、一方そのようなめっき液であっても、得られるめっき皮膜は従来と同等以上の特性であることが必要である。
【0004】
亜鉛めっきにおいて、このようなめっき排水の流出を防止し、リサイクル・クローズド化を可能とする技術としては、例えば特許文献1に示されるようなものが知られている。この特許文献1に開示されているのは、硫酸めっき浴に二次成形品を浸漬し、めっき電流としてパルス波形の電流を用いてめっきを行うものであり、めっきを行った二次成形品の水洗は多段で行い、各段での水洗水を順次上流の段に送って最終的にめっき槽に供給し、めっき槽においてめっき浴を蒸発させて該めっき浴へ供給された水洗水を回収するようにしたものである。
【0005】
従来使用されている亜鉛めっき浴としては、硫酸浴、シアン浴、ジンケート浴、塩化浴等がある。硫酸浴は歴史的には最も古いが均一電着性や光沢性の不足から一般の成形品のめっき浴としては使用されず、主に鋼板の表面処理に利用されている。その場合でも高分子化合物の光沢剤の添加が必須である。シアン浴は均一電着性や光沢に優れているがシアン化合物に対する規制が厳しくなり他の浴に転換が進んでいる。ジンケート浴は光沢剤の開発によって光沢が得られるようになり、実用化されるようになっている。塩化浴には各種の浴があるが、電流効率が高く、光沢に優れる特徴があって利用が増大している。そのうち塩化カリウム浴は応力の高いめっき皮膜となりやすく添加剤が必要となるという問題があり、塩化アンモニウム浴は排水処理が難しいという問題がある。塩化アンモニウム浴の排水処理の問題を解決するために塩化カリウムと塩化アンモニウムを併用する浴も使用されている。
【0006】
ところで、特許文献1に示される発明では上記のように均一電着性や光沢性の不足から一般の成形品のめっき浴としては使用されない硫酸浴を使用しており、特に光沢剤を使用しない場合には、均一電着性や光沢性に改善効果のあるパルス波形の電流を用いても従来のめっき方法により得られるめっき皮膜と同等以上の特性のめっき皮膜を得ることは困難であった。さらに、硫酸亜鉛浴は50℃〜80℃と高温であり、蒸気、ミスト等の発生により工場内の環境を悪化させるため排気設備等の環境対策が必要であり、浴の昇温のために多くの熱エネルギーを要するという問題があった。
【特許文献1】特開平11−71696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題点を解決し、添加剤の濃度が低いめっき液を使用して従来と同等以上の特性のめっき皮膜を得ることができる亜鉛めっき処理方法を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するためになされた請求項1の発明は、塩化亜鉛40〜90g/L、塩化カリウム180〜240g/L、硼酸20〜40g/L、分子量6000〜20000のポリエチレングリコール2〜5g/L及び安息香酸カリウム2〜5g/Lを含有するめっき液に被処理物を浸漬し、パルス電解することによりめっきを行うことを特徴とするものである。また、同一の問題を解決するためになされた請求項2の発明は、塩化亜鉛40〜90g/L、塩化カリウム180〜240g/L、硼酸20〜40g/L、分子量6000〜20000のポリエチレングリコール0.5〜5g/L及びベンズアルデヒド0.5〜2.0g/Lを含有するめっき液に被処理物を浸漬し、パルス電解することによりめっきを行うことを特徴とするものである。これらの発明において、パルス電解の条件はオン時間0.3〜1.0ms、デューティ比5〜20%、平均電流密度2〜5A/dmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パルス電解することによりめっきを行うことで従来と同等以上の特性のめっき皮膜を得ることができ、特に表面の平滑性に優れ、6価クロメート処理、3価クロメート処理を従来と同じ作業工程で施すことができる利点がある。めっき液には添加剤としてポリエチレングリコール2〜5g/L及び安息香酸カリウム2〜5g/Lもしくはポリエチレングリコール0.5〜5g/L及びベンズアルデヒド0.5〜2g/L加えただけで添加剤の濃度が低いので、汲み出されためっき液をめっき槽に戻してもめっき液の寿命を縮めることがない利点がある。また、25℃〜30℃の常温でめっきができるので、加えられた添加剤の熱による分解は僅かであり、工場内の環境を悪化させることがなく、めっき液の昇温のための大きな熱エネルギーを要しない利点がある。さらに、めっき処理後の被処理物を水洗した洗浄水は減圧濃縮して減容し、めっき槽に戻すことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための最良の形態について具体的に説明する。
本発明の処理方法に使用するめっき液は前記塩化浴のうち、塩化亜鉛、塩化カリウム、硼酸を含む塩化カリウム浴の組成を基本とし、それに添加剤として分子量6000〜20000のポリエチレングリコールを加え、請求項1の発明では安息香酸カリウムを、請求項2の発明ではベンズアルデヒドをさらに加えたものである。塩化浴には前記のように電流効率が高く、光沢に優れるという特徴があることが知られているが、塩化カリウム浴は応力の高いめっき皮膜となりやすく添加剤が必要になるという問題があった。本発明は添加剤を最適なものとし、パルス電解することにより添加剤の必要量を大幅に低減したものである。
【0011】
被処理物は従来と同様の工程で前処理したうえめっき液に浸漬し、パルス電流を流してめっき処理する。このときめっき液は連続濾過し、エア撹拌しておくことが好ましい。パルス電流のオン期間被処理物の表面には金属亜鉛が析出し、オフ期間には被処理物の表面近傍の亜鉛イオン濃度が回復する。このときポリエチレングリコールと安息香酸カリウムは析出表面に吸着して析出成長を抑制するように作用し、光沢を有する亜鉛めっきが得られる。ポリエチレングリコールと安息香酸カリウムは両方を加えることが必要であり、安息香酸カリウムをベンズアルデヒドで代替しても同様の効果が得られる。めっき処理後の被処理物は水洗するが、水洗に使用した洗浄水は減圧濃縮して減容し、めっき槽に戻すことができる。
【0012】
本発明ではこのようにめっき処理されるものであり、以下本発明の亜鉛めっき処理方法により得られるめっき皮膜の特性について具体的な実施例により説明する。以下の説明においてめっき皮膜の特性は従来の方法によりめっき処理されたものを基準として評価している。この基準となるものは塩化亜鉛70g/L、塩化カリウム200g/L、硼酸30g/Lを含有するめっき液に市販の添加剤例えばディップソール株式会社製商品番号EZ−988をメーカーの指定量加えて液温を30℃とし、電流密度2A/dmとなる直流電流を18分間流してめっき処理したものであり、基材は厚さ0.3mm、40mm×50mmの鉄板でめっき皮膜の膜厚は8μmとなっている。各実施例においても同一の基材を使用しており、めっき皮膜の平滑度、光沢等の外観は走査電子顕微鏡SEM及び目視により基準となるものと比較して評価している。
【0013】
また、亜鉛めっきの場合クロメート処理するのが普通であることから耐蝕性はクロメート処理したうえ評価している。基準となるものは上記のような従来の方法でめっき処理されたものを市販のクロメート処理剤ユケン工業株式会社製商品名メタスYFA−Sにより3価クロメート処理したものと、重クロム酸ナトリウム5g/L、硝酸3mL/L、塩酸1mL/Lを含有するクロメート処理液により6価クロメート処理したものである。各実施例においてもこれらと同一条件で3価クロメート処理及び6価クロメート処理しており、JIS H 8502による塩水噴霧試験で評価している。塩水噴霧試験の結果、基準となるものは3価クロメート処理したものが白色生成物発生まで240時間、赤錆発生まで480時間、6価クロメート処理したものが白色生成物発生まで240時間、赤錆発生まで600時間であった。各実施例のものがこれらより長ければ耐蝕性は従来と同等以上ということができることになる。
【実施例1】
【0014】
塩化亜鉛70g/L、塩化カリウム200g/L、硼酸30g/L、分子量20000のポリエチレングリコール1g/L及び安息香酸カリウム3g/Lを含有するめっき液を液温30℃として2枚の鉄板を浸漬し、オン時間0.3ms、オフ時間2.7ms、平均電流密度2A/dmとなるパルス電流を20分間流してめっき処理した。デューティ比は10%となる。めっき皮膜の膜厚は約8μmであり、表面の平滑度、光沢等外観、は従来の方法によりめっき処理したものと同等であった。また、クロメート処理したものを塩水噴霧試験した結果では、3価クロメート処理したものが白色生成物発生まで350時間、赤錆発生まで600時間、6価クロメート処理したものが白色生成物発生まで240時間、赤錆発生まで800時間であり、3価クロメート処理および6価クロメート処理した両方において従来と同等以上であった。
【実施例2】
【0015】
平均電流密度を2A/dmから3A/dmに変え、他は実施例1と同一条件としてめっき処理した。めっき皮膜の膜厚は約8μmであり、表面の平滑度、光沢等外観、は従来の方法によりめっき処理したものと同等であった。また、クロメート処理したものを塩水噴霧試験した結果では、3価クロメート処理したものが白色生成物発生まで280時間、赤錆発生まで600時間、6価クロメート処理したものが白色生成物発生まで280時間、赤錆発生まで750時間であり、3価クロメート処理および6価クロメート処理した両方において従来と同等以上であった。
【実施例3】
【0016】
ポリエチレングリコールを分子量20000のものから分子量6000のものに代え、他は実施例1と同一条件としてめっき処理した。めっき皮膜の膜厚は約8μmであり、表面の平滑度、光沢等外観、は従来の方法によりめっき処理したものと同等であった。また、クロメート処理したものを塩水噴霧試験した結果では、3価クロメート処理したものが白色生成物発生まで280時間、赤錆発生まで600時間、6価クロメート処理したものが白色生成物発生まで280時間、赤錆発生まで520時間であり、3価クロメート処理および6価クロメート処理した両方において従来と同等以上であった。
【実施例4】
【0017】
平均電流密度を2A/dmから3A/dmに変え、他は実施例3と同一条件としてめっき処理した。めっき皮膜の膜厚は約8μmであり、表面の平滑度、光沢等外観、は従来の方法によりめっき処理したものと同等であった。また、クロメート処理したものを塩水噴霧試験した結果では、3価クロメート処理したものが白色生成物発生まで280時間、赤錆発生まで600時間、6価クロメート処理したものが白色生成物発生まで280時間、赤錆発生まで670時間であり、3価クロメート処理および6価クロメート処理した両方において従来と同等以上であった。
【実施例5】
【0018】
塩化亜鉛70g/L,塩化カリウム200g/L、硼酸30g/L、分子量20000のポリエチレングリコール5g/L及びベンズアルデヒド0.5g/Lを含有するめっき液を液温30℃として2枚の鉄板を浸漬し、オン時間1.0ms、オフ時間9.0ms、平均電流密度3A/dmとなるパルス電流を20分間流してめっき処理した。デューティ比は10%となる。めっき皮膜の膜厚は約8μmであり、表面の平滑度、光沢等外観、は従来の方法によりめっき処理したものと同等であった。また、クロメート処理したものを塩水噴霧試験した結果では、3価クロメート処理したものが白色生成物発生まで240時間、赤錆発生まで480時間、6価クロメート処理したものが白色生成物発生まで240時間、赤錆発生まで480時間であり、3価クロメート処理したものにおいて従来と同等以上であった。
【0019】
以上の実施例によっても明らかなように、本発明によればパルス電解してめっき処理することにより添加剤としてポリエチレングリコールと、安息香酸カリウムあるいはベンズアルデヒドのいずれかをそれぞれ僅かに加えるだけで従来と同等以上の外観のめっき皮膜が得られ、これをクロメート処理したものは従来と同等以上の耐蝕性が得られるものである。この加えられる添加剤は従来の4分の1以下と少なく、分解して生ずる不純物はめっき液の温度が低いこともあって僅かであり、めっきプロセスに重大な悪影響を与えるものではない。したがって、汲み出されためっき液をめっき槽に戻してもめっき液の寿命を縮めることがない利点がある。また、常温でめっきができるので、工場内の環境を悪化させることがなく、めっき液の昇温のための大きな熱エネルギーを要しない利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化亜鉛40〜90g/L、塩化カリウム180〜240g/L、硼酸20〜40g/L、分子量6000〜20000のポリエチレングリコール2〜5g/L及び安息香酸カリウム2〜5g/Lを含有するめっき液に被処理物を浸漬し、パルス電解することによりめっきを行うことを特徴とする亜鉛めっき処理方法。
【請求項2】
塩化亜鉛40〜90g/L、塩化カリウム180〜240g/L、硼酸20〜40g/L、分子量6000〜20000のポリエチレングリコール0.5〜5g/L及びベンズアルデヒド0.5〜2.0g/Lを含有するめっき液に被処理物を浸漬し、パルス電解することによりめっきを行うことを特徴とする亜鉛めっき処理方法。
【請求項3】
パルス電解の条件がオン時間0.3〜1.0ms、デューティ比5〜20%、平均電流密度2〜5A/dmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の亜鉛めっき処理方法。

【公開番号】特開2007−100197(P2007−100197A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294648(P2005−294648)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)
【Fターム(参考)】