説明

亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料組成物

【課題】ガルバリウム鋼板を含む亜鉛メッキ鋼板に対し、ストロンチウムクロメートなどの有害重金属を含む防錆顔料に匹敵する防錆性能を発揮する無公害型防錆顔料組成物を提供する。
【解決手段】(a)水に難溶性の縮合リン酸アルミニウム塩、または4価金属の層状リン酸塩;および(b)酸化マグネシウムの2成分を含み;重量基準で(a):(b)が1:0.5ないし1:10であることを特徴とする亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料組成物、特に亜鉛メッキ鋼板を素材とするプレコートメタル(PCM)のプライマーに配合される防錆顔料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛メッキ鋼板を素材とするPCMは、メッキ層を化成処理した後、プライマー次いでトップコート層を塗装して製造される。PCMは塗装後に切断、曲げ等の機械加工が行われるので切断面では鋼板および亜鉛メッキ層が露出している。そのため切断面の亜鉛メッキ層に犠牲電極効果のない白錆が発生し、遂にはそこから鋼板部にまで錆が発生する。それ故亜鉛メッキ鋼板に使用される防錆顔料には一次的に亜鉛メッキ層に対する防錆性能が求められる。
【0003】
この用途に対してはこれまでストロンチウムクロメート系防錆顔料が多く用いられて来たが、この顔料は有害な6価クロムを含むので、これに代わる無公害型防錆顔料の開発が望まれていた。
【0004】
上記要望を満たすため、例えば、特開2000−273363号では、Mg/Si原子比が0.025〜1.0である無定形含水ケイ酸マグネシウム化合物よりなる亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料が開示されている。また、特開2001−192869では、Mg/Si原子比が0.025〜1.0である無定形含水ケイ酸マグネシウム化合物により、緻密な無機担体の表面を被覆してなる亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料が開示されている。
【0005】
しかしながら、これら無定形含水ケイ酸マグネシウム化合物自体の防錆性能はストロンチウムクロメートに匹敵するものの、吸油量が高く、結果として粉体としてかさ高いものとなり、塗料として使用する場合には、その扱いが難しいという問題があった。
【0006】
さらに本出願人の特許第3004486号公報には、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、層状リン酸チタン、層状リン酸ジルコニウムまたは層状リン酸セリウムから選ばれた水に難溶性のリン酸化合物と、酸化マグネシウム、含水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムまたはホウ酸マグネシウムより選ばれたマグネシウム化合物よりなる亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料組成物が記載されている。
【0007】
これら公知の亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料組成物は、通常の溶融亜鉛メッキ鋼板に対する防錆性能は優れているが、建材用PCM素材として使われているアルミニウム55%の溶融アルミニウム亜鉛合金メッキ鋼板であるガルバリウム鋼板に対する防錆性能、特にPCM鋼板の切断部である端面からの腐食(エッヂクリープ)が不十分であり、ストロンチウムクロメートの代替として使用出来るものはなく、すぐれた無公害防錆顔料組成物の開発が要望されている。
【発明の開示】
【0008】
この要望を満たすため、本発明は以下の2成分よりなる亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料組成物を提供する。
【0009】
(a)水に難溶性の縮合リン酸アルミニウム塩、または4価金属の層状リン酸塩、および
(b)酸化マグネシウムの2成分を含み;
重量基準で(a):(b)が1:0.5ないし1:10であることを特徴とする。
【0010】
この組成比の防錆顔料組成物とすることで、公知の1成分系または2成分系防錆顔料組成物およびストロンチウムクロメートに比較してガルバリウム鋼板を含む亜鉛メッキ鋼板に対する防錆性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(a)成分
(a)成分は水に難溶性の縮合リン酸アルミニウム塩、または4価金属の層状リン酸塩である。
【0012】
前者の典型例はトリポリリン酸二水素アルミニウムおよびメタリン酸アルミニウムである。トリポリリン酸二水素アルミニウムは主として鋼板用防錆顔料として市販されており、例えば出願人会社からK−フレッシュ#100Pの商品名で販売されている。メタリン酸アルミニウムは例えばトリポリリン酸二水素アルミニウムを高温で焼成し、粉砕することによって製造することができ、例えばK−ボンド#90の商品名で出願人会社から市販されている。
【0013】
縮合リン酸アルミニウム塩の代りに4価金属の層状リン酸を(a)成分として使用することができる。このものは本出願人の特許第3004486号公報に記載されている防錆顔料組成物の成分の一つであり、その製造法も該公報に記載されている。それらは一般に4価金属の酸化物、水酸化物などをオルトリン酸と反応させることによって製造することができ、生成物はM(IV)(HPO・nHOの形の第二リン酸塩の形を取る。4価金属としてTi,ZrまたはCeが好ましい。
【0014】
(b)成分
市販の酸化マグネシウムを(b)成分として使用することができる。
【0015】
防錆顔料組成物
一般に本発明の防錆顔料組成物は、特許第3004486号の2成分系組成物の配合比率が異なるもので(a)水に難溶性の縮合リン酸アルミニウム塩、または4価金属の層状リン酸塩;および
(b)酸化マグネシウムの2成分を含み;
重量基準で(a):(b)が1:0.5ないし1:10である。
【0016】
2成分の混合方法は任意であり、混合順序および使用する装置のタイプは問わない。典型的には2成分を所定の比率で混合機に仕込み、均一になるまで乾式あるいは湿式で混合される。その際粉砕機能を有する混合装置、例えばジェットミル、サンドグライドミル、アトマイザー、スーパーミクロンミル、フィッツミル、レイモンドミル、ボールミル等を用いて組成物の混合と同時に微細に粉砕するのが好ましい。あるいは、室温から90℃までの水を入れた反応槽にこれらの成分を投入し、所定時間攪拌後、ろ過、乾燥後、上記の粉砕機で粉砕しても良い。
PCMでは、防錆顔料が配合される下塗り塗料は、一般的に3〜10μmと非常に薄膜に塗装され使われる為、微細な粒径の顔料がより適している。
塗料適性だけではなく、ジェットミルなどで超微細化することにより、防錆顔料組成物の比表面積が増大し有効成分が溶出しやすくなるとともに、塗膜中に均一に存在していることで腐食局部近傍に防錆顔料組成物が存在していることで、腐食時の防錆顔料組成物の反応速度が増大し、防錆性能が向上する。
【0017】
本発明の顔料組成物の塗料化および亜鉛メッキ鋼板への塗装方法は、先に引用した特開2001−192869号に開示した方法と同じである。
【実施例】
【0018】
以下の実施例は例証目的であって限定ではない。これらにおいて部および%は特記しない限り重量基準による。
【0019】
製造例1 メタリン酸アルミニウム
テイカ(株)製トリポリリン酸アルミニウム(商品名K−フレッシュ#100P)500gを箱形電気炉に入れ、500℃で2時間焼成し、粉砕することによって白色粉末409.3gを得た。X線回折の結果このものはメタリン酸アルミニウムであることが判明した。このものを(b2)とし、テイカ(株)製トリポリリン酸二水素アルミニウム、商品名K−フレッシュ#100Pを(b1)とした。
【0020】
製造例2 結晶性リン酸チタン
水酸化チタンTi(OH)11.6gと85%リン酸34.6g(P/TiOモル比1.5)とを磁製ルツボ中で攪拌混合し、混合物をルツボごと210℃に温度設定された電気炉に入れ、210℃の加熱水蒸気を吹き込み、水蒸気の存在下210℃で5時間反応させた。この反応生成物を水洗、脱水、乾燥した後粉砕し、白色粉末を得た。X線回折の結果、このものは組成式Ti(HPO・2HOを有する結晶性層状リン酸チタンであり、この層状リン酸チタンの層間距離を粉末X線回折により測定したところ11.6オングストロームであった。このものを(b3)とする。
【0021】
製造例3 結晶性リン酸ジルコニウム
水酸化ジルコニウム(ZrO:85%)29.0gと85%リン酸46.1g(P/ZrOモル比2.0)とを磁製ルツボ中で1時間攪拌混合し、混合物をルツボごと150℃に温度設定された電気炉に入れ、150℃の加熱水蒸気を吹き込み、水蒸気の存在下150℃で20時間反応させた。この反応生成物を水洗、脱水、乾燥した後粉砕し、白色粉末を得た。X線回折の結果、このものは組成式Zr(HPO・HOを有する結晶性層状リン酸ジルコニウムであり、この層状リン酸ジルコニウムの層間距離を粉末X線回折により測定したところ7.6オングストロームであった。このものを(b4)とする。
【0022】
製造例4 結晶性リン酸セリウム
水酸化セリウム(CeO:90%)76.6gと85%リン酸46.1g(P/CeOモル比1.0)とを磁製ルツボ中で1時間攪拌混合し、混合物をルツボごと150℃に温度設定された電気炉に入れ、150℃の加熱水蒸気を吹き込み、水蒸気の存在下150℃で20時間反応させた。この反応生成物を水洗、脱水、乾燥した後粉砕し、白色粉末を得た。X線回折の結果、このものは組成式Ce(HPO・2HOを有する結晶性層状リン酸セリウムであり、この層状リン酸セリウムの層間距離を粉末X線回折により測定したところ18.0オングストロームであった。このものを(b5)とする。
【0023】
実施例1−9、比較例2−4
表1に示す(a)成分と、(b)成分(協和化学工業(株)製酸化マグネシウムT)とを表に示す重量部の組成で80℃の温水中で2時間攪拌、混合し、本発明の防錆顔料組成物および比較例2−4の組成物を得た。
【0024】
【表1】

【0025】
比較例6
市販のCaイオン交換シリカ(グレース社製シールデックスC303)を使用した。
【0026】
比較例7
市販のストロンチウムクロメート(キクチカラー社製)を使用した。
【0027】
塗料試験
1.塗料化および試験板作製
実施例および比較例の顔料を用いて、下表に示す配合組成の焼付型ポリエステル樹脂系塗料(下塗り)を調製し、被塗板の表裏両面に塗膜形成、焼き付け後、予め調製しておいた下表に示す配合組成の焼付型ポリエステル樹脂系塗料(上塗り)を片面のみ塗装、焼き付け塗装板を作製した。この塗装板の両面を切断し端面(切り上げ、切り下げ)とし、上部を2Tの厚みで折り曲げたものを試験板とし、防錆試験を実施した。
【0028】
塗料配合(下塗り)
スーパーベッコライト M−6801−30(NV=30%)1) 52.7%
スーパーベッカミン L−117−60(NV=60%)2) 1.8%
スーパーベッカミン L−105−60(NV=60%)3) 3.7%
酸化チタン JR−6034) 8.7%
試料 13.1%
溶剤(ソルベッソ1005)/シクロヘキサノン/n−ブタノール/ブチルセロ
ソルブ=60/30/6/10) 20.1%
合計 100.0%

P/B=1.1 PVC=26.9
1)大日本インキ化学社製 オイルフリーポリエステル樹脂
2)大日本インキ化学社製 ブチル化メラミン樹脂
3)大日本インキ化学社製 メチル化メラミン樹脂
4)テイカ社製 白色顔料
5)エクソン化学社製 芳香族溶剤
【0029】
塗料配合(上塗り)
スーパーベッコライト M−6401−50(NV=50%)6) 53.3%
スーパーベッカミン LJ820−60(NV=60%)7) 7.8%
酸化チタン JR−6034) 31.3%
溶剤(ソルベッソ1005)/シクロヘキサノン/n−ブタノール/ブチルセロ
ソルブ=60/30/6/10) 7.5%
合計 100.0%

P/B=1.0 PVC=20.0
1)大日本インキ化学社製 オイルフリーポリエステル樹脂
2)大日本インキ化学社製 ブチル化メラミン樹脂
3)大日本インキ化学社製 メチル化メラミン樹脂
4)テイカ社製 白色顔料
5)エクソン化学社製 芳香族溶剤

被塗板1:溶融亜鉛メッキ鋼板(GI) SGCC(日本テストパネル製)
目付244g/m厚み0.3mm
被塗板2:ガルバリウム鋼板(GL)(日本テストパネル製)
目付150g/m 厚み0.6mm
塗装 :バーコーター
硬化条件:焼き付け温度 210℃(物温)
膜厚 :下塗り塗料 5μm、上塗り塗料 15μm
分散 :ペイントコンディショナー

【0030】
2.防錆性試験(トータル140点満点)
被塗板1種類当たり70点、一般亜鉛メッキとガルバリウムとで別採点。

2.1 塩水噴霧試験(SST)(30点満点×2種類)
上記塗装条件で被塗板上に塗膜を形成することによって作成した試験板に、カッターナイフで被塗板表面に達するクロスカットを入れ、槽内温度を35℃に保った塩水噴霧試験器内に静置して、5%塩化ナトリウム水溶液を1kg/cmの圧力で所定時間(GI1500時間、GL750時間)、塗膜に噴霧し、錆発生状況および塗膜の膨れを観察して、以下の評価基準に基づき評価した。なお、腐食状況は平面部の膨れと錆の発生面積、並びにカット部、端面切り上げ部、端面切り下げ部、折り曲げ部の腐食幅で評価した。いずれの評価においても、評価点が高いほど防錆能が優れている。

サビ発生防止効果の評価基準(ASTM D610−68(1970) に準拠)
平面部
サビ発生面積 0.1%未満 : 5点
サビ発生面積 0.1%以上〜1%未満 : 4点
サビ発生面積 1%以上〜10%未満 : 3点
サビ発生面積 10%以上〜33%未満 : 2点
サビ発生面積 33%以上 : 1点

フクレ発生防止効果の評価基準(ASTM D−714−59(1965)に準拠)

平面部
8F以下 : 5点
8M,6F : 4点
8MD,6M,F : 3点
8D,6MD,4M,2F : 2点
6D,4MD以上、2M以上 : 1点
カット部、端面部
腐食幅 0〜1mm : 5点
腐食幅 1〜2mm : 4点
腐食幅 2〜4mm : 3点
腐食幅 4〜7mm : 2点
腐食幅 7〜10mm : 1点

2.2 複合サイクル試験(CCT)(30点満点×2種類)
塩水噴霧試験と同様にカッターナイフで被塗板表面に達するクロスカットを入れた試験板を、複合サイクル試験器内に静置して、JIS H8502 めっきの耐食性試験に記載されている中性塩水噴霧サイクル試験の条件(1)塩水噴霧試験 5%NaCl溶液噴霧 35℃ 2時間 (2)乾燥 60℃ 4時間(3)湿潤 湿度95RH%以上 50℃ 2時間(8時間/1サイクル)で、所定時間(GI 1504時間 188サイクル、GL 800時間 100サイクル)、試験を行った。錆発生状況および塗膜の膨れを観察して、塩水噴霧試験と同様の評価基準に基づき評価した。

2.3 耐湿試験(HT)(10点満点×2種類)
クロスカットしていない上記試験板を槽内温度50℃,相対湿度95%以上に保った耐湿試験器内に500時間静置し、塗膜の膨れを観察し、塩水噴霧試験の平面部のフクレ発生防止効果と同様の評価基準により評価した。
【0031】
3.結果
結果は表2に示す。
【0032】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水に難溶性の縮合リン酸アルミニウム塩、または4価金属の層状リン酸塩;および
(b)酸化マグネシウムの2成分を含み;
重量基準で(a):(b)が1:0.5ないし1:10であることを特徴とする亜鉛メッキ鋼板用防錆顔料組成物。
【請求項2】
前記(a)成分の層状リン酸塩の4価金属がTi,ZrまたはCeである請求項1の防錆顔料組成物。
【請求項3】
前記(a)成分の縮合リン酸アルミニウム塩がトリポリリン酸二水素アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムである請求項1の防錆顔料組成物。
【請求項4】
前記(a)成分の層状リン酸塩が第二リン酸チタンである請求項1の防錆顔料組成物。
【請求項5】
亜鉛メッキ鋼板がガルバリウム鋼板である請求項1ないし4のいずれかの防錆顔料組成物。

【公開番号】特開2008−169438(P2008−169438A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4012(P2007−4012)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】