説明

亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物

【課題】クロム成分を全く含まない、クロメート処理液の代替として有用な亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物であって、有機樹脂層の形成工程や電解処理を要することなく、既存のクロメート処理設備を改良するだけで容易に化成処理が可能な新規な化成処理用組成物を提供する。
【解決手段】バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分をバナジウム及びタングステンの合計量として0.05〜0.7モル/L、並びにリン酸化合物を0.1〜4モル/L含有するpH0.3〜2.5の水溶液からなる亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物、及び化成処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロメート皮膜は、亜鉛めっきをはじめとする種々の合金めっきや金属材料に、耐食性、変色防止性、装飾性等を付与するものであり、利便性、性能、コスト等の各種の面で優れていることから、産業界では長年に亘って広範に用いられている。
【0003】
しかしながら、近年、クロメート皮膜には有害な6価クロムが含まれていることから、発癌性など人体への弊害や環境への悪影響が懸念されている。
【0004】
また、産業界では、クロメート処理工程におけるクロム酸フュームの飛散、クロムイオンを含む排液処理への多大な負担、クロメート処理された製品や廃棄物から6価クロム成分の溶出による環境破壊などが問題となっている。
【0005】
このため、クロメート皮膜の使用量が多い自動車製造業や電子材料製造業では、クロメート処理された部材が全廃されようとしている。
【0006】
斯かる状況下、近年では環境に優しく人体に害のない保護膜として、クロム成分を用いることのなく形成できる代替皮膜の開発が広く取り組まれており、次のような代替処理法が提案されている。
(1)バナジン酸塩および水溶性アクリル樹脂等を含有する水溶液を用いて浸漬、噴霧、塗布等の処理によって、亜鉛めっき鋼材に防食性皮膜を形成する方法(特許文献1)。
(2)メタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム等のバナジウム化合物、ポリウレタン等の水溶性乃至水分散性の有機樹脂、シリカ粒子等を含有する組成物を亜鉛系めっき鋼板に塗布して、耐食性に優れた潤滑性皮膜を形成する方法(特許文献2)。
(3)バナジン酸化合物、モリブデン酸化合物及びリン酸塩を含む有機樹脂皮膜を界面反応層を介して亜鉛めっき鋼板基材表面に形成する方法(特許文献3)。
(4)亜鉛系めっき鋼板の表面に、ニッケル等の金属層を析出させ、その上にピロバナジン酸塩等のバナジン酸化合物および水分散性シリカを含有する皮膜層を電解処理により形成する方法(特許文献4)。
【0007】
上記した方法の内で、(1)〜(3)の方法は、いずれも有機樹脂を含有する処理液を用いる方法であり、このような代替皮膜の製造法を採用する場合には、多量の有機物を含む排液を処理する工程を導入する必要がある。このような工程は、通常のクロメート皮膜を形成する工程には含まれないために、従来の処理方法とは処理工程が大きく変わり、処理設備のために多額の設備投資が必要となり、更に、環境への負荷の増大が懸念される。
【0008】
また、有機樹脂を用いる場合の欠点としては、有機樹脂の使用量が多いと金属光沢を著しく劣化させることがあり、更に、有機物の分解による変色や有機物の変質による耐食性の低下も報告されている
また、(4)の方法では、電解処理によって皮膜を形成しているが、この電解処理工程も通常のクロメート皮膜の製造工程には含まれないために、大型設備の導入と多額の設備投資が必要となる。
【0009】
更に、(4)の方法においても、耐食性を高めるために有機樹脂による上塗り皮膜層を形成できるとされており、この場合には、やはり上記した有機樹脂を用いる場合の問題が発生することになる。
【特許文献1】特開2002−146554号公報
【特許文献2】特開2003−183587号公報
【特許文献3】特開2003−277945号公報
【特許文献4】特開2003−193292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した如き従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、クロム成分を全く含まない、クロメート処理液の代替として有用な亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物であって、有機樹脂層の形成工程や電解処理を要することなく、既存のクロメート処理設備を改良するだけで容易に化成処理が可能な新規な化成処理用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、クロムの代替元素として、環境への負荷が低いバナジウム又はタングステンを選択して、これをバナジン酸化合物又はタングステン酸化合物として用い、更に、特定量のリン酸化合物と組み合わせて用いる場合には、クロメート皮膜に匹敵する高い耐食性を有する化成皮膜を、簡単な処理工程によって亜鉛又は亜鉛合金の表面に形成できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物及び化成処理方法を提供するものである。
1. バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分をバナジウム及びタングステンの合計量として0.05〜0.7モル/L、並びにリン酸化合物を0.1〜4モル/L含有するpH0.3〜2.5の水溶液からなる亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物。
2. バナジン酸化合物をバナジウム量として0.05〜0.7モル/L、及びリン酸化合物を0.1〜4モル/L含有するpH0.3〜2.5の水溶液からなる亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物。
3. 更に、硝酸を0.08〜1.5モル/L含有する上記項2に記載の化成処理用組成物。
4. タングステン酸化合物をタングステン量として0.05〜0.7モル/L、及びリン酸化合物を0.1〜4モル/L含有するpH0.7〜2.5の水溶液からなる亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物。
5. 更に、硫酸を0.03〜0.5モル/L含有する上記項4に記載の化成処理用組成物。
6. 更に、緩衝剤を含有する上記項1〜5のいずれかに記載の化成処理用組成物。
7. 更に、水溶性の有機酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機酸類を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の化成処理用組成物。
8. 化成処理対象部分が亜鉛又は亜鉛合金からなる被処理物を、上記項1〜7のいずれかに記載の化成処理用組成物に接触させることを特徴とする亜鉛又は亜鉛合金の化成処理方法。
【0013】
以下、本発明の化成処理用組成物及び化成処理方法についてより詳細に説明する。
【0014】
化成処理用組成物
本発明の化成処理用組成物は、バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分をバナジウム及びタングステンの合計量として0.05〜0.7モル/L、並びにリン酸化合物を0.1〜4モル/L含有する水溶液からなるものである。
【0015】
バナジン酸化合物としては、水溶性のバナジン酸及びその塩であれば、特に限定なく使用できる。このようなバナジン酸化合物としては、5価のバナジウムを含む酸素酸であるバナジン酸、その塩等を用いることができ、その具体例として、メタバナジン酸HVO3、メタバナジン酸ナトリウムNaVO3、メタバナジン酸カリウムKVO3、メタバナジン酸アンモニウムNH4VO3、オルトバナジン酸ナトリウムNa3VO4、オルトバナジン酸カリウムK3VO4、ピロバナジン酸ナトリウムNa427、ピロバナジン酸カリウムK427等を挙げることができる。これらのバナジン酸化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0016】
タングステン酸化合物としても、水溶性のタングステン酸及びその塩であれば、特に限定なく使用できる。この様なタングステン酸化合物としては、例えば、6価のタングステンを含む酸素酸であるタングステン酸、その塩等を用いることができ、その具体例としては、タングステン酸ナトリウムNa2WO4、タングステン酸カリウムK2WO4、タングステン酸アンモニウム(NH42WO4、パラタングステン酸ナトリウムNa10[W124610]、パラタングステン酸アンモニウム(NH410[W124610]、メタタングステン酸カリウムK6[H21240]等を挙げることができる。タングステン酸化合物についても、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0017】
本発明の化成処理用組成物では、バナジン酸化合物とタングステン酸化合物は、いずれか一方のみを用いても良く、両者を混合して用いても良い。
【0018】
本発明の化成処理用組成物では、バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を、リン酸化合物と組み合わせて用いることが必要である。リン酸化合物としては、水溶性のリン酸化合物であれば特に限定なく使用できる。この様なリン酸化合物としては、リン酸、縮合リン酸、これらの塩等を用いることができ、その具体例としては、リン酸H3PO4、リン酸ナトリウムNa3PO4、リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4、リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4、リン酸カリウムK3PO4、リン酸水素二カリウムK2HPO4、リン酸二水素カリウムKH2PO4、リン酸アンモニウム(NH43PO4、リン酸水素二アンモニウム(NH42HPO4、リン酸二水素アンモニウムNH42PO4等を挙げることができる。
【0019】
リン酸イオンは、亜鉛イオンと親和性が高く、化成処理により亜鉛めっきから溶出する亜鉛イオンと結合して亜鉛めっきの保護層を形成する。更に、リン酸イオンは、クロメート代替物質であるバナジン酸イオン又はタングステン酸イオンとも親和性が高く、種々の割合で縮合する。従って、バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分とリン酸化合物とを組み合わせて用いることによって、良好な化成皮膜を形成することができる。
【0020】
本発明の化成処理用組成物では、バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の含有量は、バナジウム及びタングステンの合計量として、0.05〜0.7モル/L程度とすることが必要であり、0.1〜0.4モル/L程度とすることが好ましい。この場合の含有量は、バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物の両方が含まれる場合には、バナジウム元素とタングステン元素の合計量であり、バナジン酸化合物とタングステン酸化合物のいずれか一方のみが含まれる場合には、バナジウム元素又はタングステン元素の量である。
【0021】
また、リン酸化合物の含有量は、0.1〜4モル/L程度とすることが必要であり、0.8〜2.5モル/L程度とすることが好ましい。
【0022】
更に、本発明の化成処理用組成物では、pHを0.3〜2.5程度の範囲とすることが必要である。
【0023】
この様に、本発明の組成物では、バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分とリン酸化合物を上記した濃度範囲で組み合わせて用い、更に、pHを0.3〜2.5の範囲とすることによって、良好な耐食性を有する化成皮膜を形成することが可能となる。尚、pHを所定の範囲に調整するには、必要に応じて、NaOH、KOH,NH4OH等のアルカリ性化合物や、HCl、H2SO4等の酸を添加すればよい。
【0024】
本発明の組成物には、更に、pH変動を抑制して、安定した化成処理を可能とするために、必要に応じて、緩衝剤を添加することができる。緩衝剤としては、特に限定はなく、各種の公知の緩衝剤を用いることができる。例えば、酢酸−酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム−塩酸、塩化カリウム−塩酸、クエン酸−クエン酸二水素ナトリウム等の緩衝剤を用いることができる。緩衝剤の濃度についても特に限定はなく、例えば、それぞれの成分の濃度を1モル/L程度以下とすればよく、一例として、0.002〜1モル/L程度の範囲で用いることができる。
【0025】
本発明の組成物には、更に、必要に応じて、水溶性の有機酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機酸類を添加することができる。有機酸類は、金属イオンに錯化してその溶解度を高める働きをするものであり、これを添加することにより安定した化成処理が可能となる。有機酸としては、特に限定はなく、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸等を用いることができる。これらの塩は、水溶性塩であればよく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を用いることができる。有機酸類の具体例としては、酢酸、酢酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸二水素ナトリウム等を挙げることができる。有機酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機酸類の濃度についても特に限定はなく、例えば、1モル/L程度以下とすればよく、一例として、0.002〜1モル/L程度の濃度範囲で用いることができる。
【0026】
更に、本発明の組成物には、必要に応じて、その他の金属元素を含む化合物を添加することができる。この様な金属元素としては、Mg, Al, Si, Ca, Ba, Ti, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zr, Sn, Ce等を例示できる。これらの金属元素を含む化合物としては、通常、水溶性金属塩を用いればよい。これらの金属元素を含む化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。これらの化合物を用いることにより、形成される化成皮膜の耐食性をより向上させることが可能となる。これらの金属元素を含む化合物の添加量については、特に限定的ではないが、通常、金属イオン濃度として、0.1モル/L程度以下とすればよく、例えば、0.001〜0.1モル/L程度の範囲で用いることができる。
【0027】
本発明の化成処理用組成物において、特に、クロムの代替金属化合物として、バナジン酸化合物を用いる場合には、バナジン酸化合物の濃度をバナジウム量として、0.05〜0.7モル/L程度、好ましくは0.2〜0.4モル/L程度とし、リン酸化合物の濃度を0.1〜4モル/L程度、好ましくは0.8〜1.2モル/L程度とすることが好適である。
【0028】
また、バナジン酸化合物とリン酸化合物を含有する化成処理用組成物は、pHが0.3〜2.5程度であることが好ましく、0.6〜1.8程度であることがより好ましく、1.4〜1.5程度であることが更に好ましい。
【0029】
更に、バナジン酸化合物とリン酸化合物を含有する組成物には、硝酸を0.08〜1.5モル/L程度、好ましくは0.15〜0.9モル/L程度、更に好ましくは0.3〜0.8モル/L添加することによって、形成される化成皮膜の耐食性がより向上する。特に、硝酸濃度が0.3モル/L程度以上の場合には、形成される化成皮膜の光沢が良好となり、硝酸濃度が増加すると光沢がより向上する傾向がある。これは、処理液中に硝酸イオンが存在することによって、亜鉛イオンの溶出が促進され、膜厚が薄い状態で化成皮膜が形成されることによるものと思われる。
【0030】
バナジン酸化合物とリン酸化合物を含有する化成処理用組成物に緩衝剤を添加する場合には、上記した緩衝剤の内で、酢酸−酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム−塩酸、クエン酸−クエン酸二水素ナトリウム等の有機酸系の緩衝剤を用いることによって、化成処理用組成物の安定性がより一層向上して、化成処理液中における固体成分の析出を抑制できる。これは、バナジウムイオンに有機酸イオンが配位して、化成処理用組成物中のバナジウム成分の溶解度が高くなることによるものと思われる。特に、酢酸−酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム−塩酸等の酢酸系緩衝剤を用いる場合に、安定性が非常に向上する。
【0031】
本発明の化成処理用組成物において、クロムの代替金属化合物として、タングステン酸化合物を用いる場合には、タングステン酸化合物の濃度をタングステン量として0.05〜0.7モル/L程度、好ましくは0.1〜0.3モル/L程度とし、リン酸化合物の濃度を0.1〜4モル/L程度、好ましくは1.4〜2.5モル/L程度とすることが好適である。
【0032】
タングステン酸化合物とリン酸化合物を含有する化成処理用組成物では、pHは0.7〜2.5程度であることが好ましく、0.9〜1.2程度であることがより好ましく、1.1〜1.2程度であることが更に好ましい。
【0033】
上記組成物には、タングステン酸化合物とリン酸化合物の他に、更に、硫酸を0.03〜0.5モル/L程度、好ましくは0.06〜0.12モル/L程度添加することによって、化成皮膜の耐食性をより向上させることができる。
【0034】
また、タングステン酸化合物とリン酸化合物を含有する組成物では、更に、必要に応じて、ホウ酸化合物を添加することでき、これによって、表面状態が緻密で、非常に均質な化成皮膜を形成することが可能となる。ホウ酸化合物としては、水溶性のホウ酸化合物であれば特に限定なく使用できる。この様なホウ酸化合物としては、ホウ酸、その塩等を用いることができ、その具体例としては、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム等を挙げることができる。ホウ酸化合物の添加量は、ホウ素量として、例えば、0.1モル/L程度以下とすることができ、0.001〜0.01モル/L程度とすることが好ましい。
【0035】
化成処理方法
本発明の化成処理用組成物による処理方法については特に限定はなく、該化成処理用組成物を処理対象物の処理面に接触させればよい。具体的な処理方法としては、通常、該化成処理用組成物中に被処理物を浸漬すればよいが、例えば、該化成処理用組成物を被処理物に噴霧する方法などによっても、本発明組成物による化成処理を行うことができる。
【0036】
該化成処理用組成物に浸漬する場合には、例えば、浴温5〜60℃程度、浸漬時間30〜120秒程度の範囲内とすればよく、具体的な処理温度及び処理時間については、有効成分の種類、濃度、処理液のpH等に応じて適宜決めればよい。
【0037】
尚、本発明の化成処理用組成物による処理に先立って、必要に応じて、被処理物に対して洗浄、活性化などの前処理を行うことができる。洗浄方法は常法に従えば良く、必要に応じて、電解脱脂等を適用することもできる。活性化方法としては、例えば、酸洗浄によって、被処理物表面の酸化物を除去すればよい。例えば、0.5〜1重量%程度の硝酸水溶液中に被処理物を5〜35℃程度で10〜30秒程度浸漬すればよい。
【0038】
本発明の化成処理用組成物の処理対象物は、処理対象となる表面部分が亜鉛又は亜鉛合金によって形成されている物品であればよい。例えば、亜鉛又は亜鉛合金を材質とする各種の物品の他、鋼板などの各種の基材上に亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき皮膜を形成した物品や溶融亜鉛めっき処理を施した物品であってもよい。亜鉛合金としては、特に限定はなく、亜鉛を主要金属成分とする各種合金を用いることができる。例えば、亜鉛ダイカスト1種、亜鉛ダイカスト2種等の亜鉛ダイカスト合金や、ZAMAK合金、ILZRO合金等の鋳物用亜鉛合金、超塑性亜鉛合金等を適用対象とすることができる。また、各種のめっき方法で形成された亜鉛合金めっき皮膜であっても良い。
【0039】
本発明の化成処理用組成物による化成処理を行うことにより、被処理物の表面に金属光沢を有する薄い灰色の化成皮膜や、濃青色乃至黒色の化成皮膜が形成される。特に、バナジン酸化合物を含む化成処理用組成物を用いる場合には、金属光沢を有する薄い灰色の化成皮膜が形成されやすく、タングステン酸化合物を含む化成処理用組成物を用いる場合には、濃青色または黒色の化成皮膜が形成されやすい傾向がある。これらの化成皮膜は、亜鉛、酸素、リン、及びバナジウム又はタングステンを含む皮膜となり、被処理物の亜鉛又は亜鉛合金に優れた耐食性を付与できる。
【0040】
尚、化成処理を行った場合には、通常、被処理物表面の厚さが2μm程度減少する。このため、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき皮膜を処理対象物とする場合には、めっき皮膜の減少による保護機能低下を防ぐために、めっき皮膜厚さは、7μm程度以上であることが好ましい。
【0041】
本発明の化成処理用組成物を用いて化成処理を行った後、更に、必要に応じて、無機系皮膜又は有機系皮膜からなるオーバーコートを形成することにより、耐食性をより向上させることができる。無機系皮膜としては、コロイダルシリカ、ケイ酸塩化合物等による皮膜を例示でき、有機系皮膜としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂等による皮膜を例示できる。オーバーコートは、常法に従って形成することができ、例えば、塗布、スプレー、浸漬等の方法を採用できる。オーバーコートの厚さについては、特に限定的ではないが、例えば、0.1〜10μm程度とすればよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明の化成処理用組成物は、クロム成分を含まない処理液であり、形成される化成皮膜は、クロメート皮膜に匹敵する優れた耐食性を有するものとなる。
【0043】
また、本発明の処理液は、クロメート処理液と同様に、浸漬などの方法による処理が可能であり、既存のクロメート処理設備を利用できるので、設備投資等の経費を大きく削減できる。
【0044】
このため、本発明の化成処理用組成物は、人体や環境への悪影響が少なく、経済的に有利な処理液であり、従来のクロメート処理液に変わり得る化成処理液として、非常に高い有用性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0046】
実施例1〜8
100mm×33mmの鉄板に7〜9μmの亜鉛めっき皮膜を形成した試験片を被処理物として用い、下記の方法で化成処理を行った。
【0047】
まず、水酸化カリウム60g/l、ピロリン酸カリウム30g/l、グルコン酸ナトリウム30g/、ジエチレントリアミン五酢酸25g/l、及び界面活性剤 約1g/lを溶解した水溶液を電解液として用い、試験片を陰極として、液温25℃、電流密度4A/dm2で15秒間通電して電解脱脂を行った。
【0048】
次いで、試験片を水洗した後、0.5重量%の硝酸水溶液に10秒間浸漬し、再び水洗して活性化した。
【0049】
次いで、下記表1に示すメタバナジン酸ナトリウムを含む水溶液からなる化成処理液中に表1に示す各条件で試験片を浸漬して化成処理を行った。
【0050】
化成処理後の各試験片について、JIS Z 2731(2000)に基づく中性塩水噴霧試験を行い、12時間毎に白さびの発生を確認した。表1に、各試験片について、白さびが発生するまでの試験時間を記載する。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例9〜16
下記表2に示すタングステン酸ナトリウムを含む化成処理液を用いること以外は、実施例1と同様にして、化成処理を行った。表2に、各化成処理液の組成及び処理条件と、化成処理後の中性塩水噴霧試験の結果を示す。
【0053】
【表2】

【0054】
以上の表1及び表2から明らかなように、本発明の化成処理液を用いて処理された試験片は、JIS H 8610「電気亜鉛めっき」に規定される有色クロメート皮膜の中性塩水噴霧試験による耐食性評価の「白色腐食生成物が発生してはならない最低時間」である48時間をクリアーできるものであった。従って、この結果から、本発明の化成処理用組成物によれば、クロメート皮膜に匹敵する優れた耐食性を有する化成皮膜を形成できることが明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジン酸化合物及びタングステン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分をバナジウム及びタングステンの合計量として0.05〜0.7モル/L、並びにリン酸化合物を0.1〜4モル/L含有するpH0.3〜2.5の水溶液からなる亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物。
【請求項2】
バナジン酸化合物をバナジウム量として0.05〜0.7モル/L、及びリン酸化合物を0.1〜4モル/L含有するpH0.3〜2.5の水溶液からなる亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物。
【請求項3】
更に、硝酸を0.08〜1.5モル/L含有する請求項2に記載の化成処理用組成物。
【請求項4】
タングステン酸化合物をタングステン量として0.05〜0.7モル/L、及びリン酸化合物を0.1〜4モル/L含有するpH0.7〜2.5の水溶液からなる亜鉛又は亜鉛合金の化成処理用組成物。
【請求項5】
更に、硫酸を0.03〜0.5モル/L含有する請求項4に記載の化成処理用組成物。
【請求項6】
更に、緩衝剤を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の化成処理用組成物。
【請求項7】
更に、水溶性の有機酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機酸類を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の化成処理用組成物。
【請求項8】
化成処理対象部分が亜鉛又は亜鉛合金からなる被処理物を、請求項1〜7のいずれかに記載の化成処理用組成物に接触させることを特徴とする亜鉛又は亜鉛合金の化成処理方法。


【公開番号】特開2006−176847(P2006−176847A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372868(P2004−372868)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(504472927)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】