説明

亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜に対するオーバーコート用組成物

【課題】亜鉛又は亜鉛合金の表面に形成された化成皮膜に対するオーバーコート用組成物であって、高い耐食性と良好な外観を有するオーバーコート皮膜を形成でき、しかも、処理容器に対する目詰まりなどが生じ難い作業性に優れたオーバーコート用組成物を提供する。
【解決手段】カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩及びアミノカルボン酸の酸付加塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のカルボン酸類と3価クロム化合物とを、クロム金属1モルに対してカルボキシル基が1〜10モルとなる割合で40℃〜沸点未満の温度で反応させて得られる加熱反応生成物をクロム金属量として0.1〜10g/L含有するpH3〜9の水溶液からなる、亜鉛又は亜鉛合金上の化成皮膜に対するオーバーコート用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜に対するオーバーコート用組成物、オーバーコート皮膜の形成方法、及びオーバーコート皮膜が形成された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷物質削減を目的として6価クロムが規制される動きが強まり、亜鉛、亜鉛合金等の表面に防錆皮膜を形成する化成処理、すなわちクロメート処理は、6価クロム化合物を含む処理液に代えて、3価クロム化合物を含む処理液を用いる方法が主流となっている。しかしながら、3価クロム化合物を用いる化成処理では、6価クロム化合物を用いる場合と比較して、形成される化成皮膜に傷等が生じた場合に耐食性が低下しやすいという欠点がある。また、意匠性に優れた黒色化成皮膜を形成する場合には、3価クロム化合物を用いた化成処理方法では、形成される皮膜の光沢が悪く、外観が劣るものとなり易い。
【0003】
このような問題に対する対処方法として、化成皮膜上に有機樹脂皮膜、珪素化合物皮膜等によるオーバーコート皮膜を形成する方法が提案されている。このようなオーバーコート皮膜を形成するための処理液としては、非イオン性高分子化合物およびポリアクリル酸塩を含有する処理液(下記特許文献1参照)、3価クロム源、燐酸イオン源、亜鉛イオン源、3価クロムと錯体を形成することができるキレート剤等を含有する処理液(下記特許文献2参照)、ポリオレフィンを含有する処理液(下記特許文献3参照)、リンの酸素酸イオンと3価クロムイオンを含有し、6価クロムを含まない処理液(下記特許文献4参照)、水溶性アミノ官能性シランカップリング剤を含有する処理液(下記特許文献5参照)等が報告されている。
【0004】
しかしながら、上記した処理液の内で、有機樹脂皮膜や珪素化合物皮膜を形成する処理液を用いる場合には、オーバーコート処理の際に被処理物を収容するカゴ状の容器に処理液が付着すると、容器の目詰まりが生じて、連続使用ができなくなり、しかも容器に付着した樹脂皮膜や珪素化合物皮膜を溶解、剥離することが容易ではないため、作業性、生産性が低下するという問題点がある。
【0005】
また、その他の処理液についても、形成される皮膜の耐食性が十分ではなく、より耐食性の向上が望まれている。
【特許文献1】特許第3766707号公報
【特許文献2】特開2005−23372号公報
【特許文献3】特開2005−320405号公報
【特許文献4】特開2005−320573号公報
【特許文献5】特開2006−28597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、亜鉛又は亜鉛合金の表面に形成された化成皮膜に対するオーバーコート用組成物であって、高い耐食性と良好な外観を有するオーバーコート皮膜を形成でき、しかも、処理容器に対する目詰まりなどが生じ難い作業性に優れたオーバーコート用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩及びアミノカルボン酸の酸付加塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のカルボン酸類と3価クロム化合物との加熱反応生成物を有効成分として含むpH3〜9の水溶液をオーバーコート処理液として用いる場合には、上記した目的を達成し得るオーバーコート皮膜が形成されることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜に対するオーバーコート用組成物、オーバーコート皮膜の形成方法、及びオーバーコート皮膜が形成された物品を提供するものである。
1. カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩、及びアミノカルボン酸の酸付加塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のカルボン酸類と3価クロム化合物とを、クロム金属1モルに対してカルボキシル基が1〜10モルとなる割合で40℃〜沸点未満の温度で反応させて得られる加熱反応生成物を、クロム金属量として0.1〜10g/L含有するpH3〜9の水溶液からなる、亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜に対するオーバーコート用組成物。
2. アルカリ金属の含有量が100ppm以下である上記項1に記載のオーバーコート用組成物。
3. 更に、リンの酸素酸及びそのアンモニウム塩からなる群から選ばれた少なくとも一種を0.1〜20g/L含有する上記項1又は2に記載のオーバーコート用組成物。
4. 更に、水溶液高分子化合物を固形分量として0.01〜50g/L含有する上記項1〜3のいずれかに記載のオーバーコート用組成物。
5. 更に、界面活性剤を固形分量として0.001〜20g/L含有する上記項1〜4のいずれかに記載のオーバーコート用組成物。
6. 更に、Ca、Mg、Zn、W、V、Mn、Mo、Al、Si及びSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を金属成分の量として、0.1〜50g/L含有する上記項1〜5のいずれかに記載のオーバーコート用組成物。
7. 亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜を上記項1〜6のいずれかに記載されたオーバーコート用組成物と接触させることを特徴とするオーバーコート皮膜の形成方法。
8. 化成皮膜が、3価クロムを含む処理液を用いて形成された皮膜である上記項7に記載の方法。
9. 上記項7又は8の方法によって形成されたオーバーコート皮膜を有する物品。
【0009】
本発明のオーバーコート用組成物は、カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩、及びアミノカルボン酸の酸付加塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のカルボン酸類と3価クロム化合物との加熱反応生成物を含有するpH3〜9の水溶液を有効成分とするものである。以下、該オーバーコート用組成物について具体的に説明する。
【0010】
オーバーコート用組成物
以下、本発明のオーバーコート用組成物に含まれる成分について説明する。
【0011】
(1)3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物:
本発明のオーバーコート処理用組成物は、カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩及びアミノカルボン酸の酸付加塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のカルボン酸類と3価クロム化合物との加熱反応生成物を含有するものである。
【0012】
カルボン酸類と3価クロム化合物との加熱反応生成物は、例えば水を溶媒として、カルボン酸類と3価クロム化合物とを混合して40℃〜沸点未満、好ましくは70〜90℃程度の温度範囲で撹拌混合することによって得ることができる。
【0013】
カルボン酸類としては、カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩、及びアミノカルボン酸の酸付加塩からなる群から選ばれた少なくとも一種を用いる。これに対して、例えば、カルボン酸のアルカリ金属塩を用いる場合には、本発明と同様の条件によって形成された3価クロム化合物との加熱反応生成物を用いた場合であっても、形成される皮膜の耐食性が劣るものとなる。この理由については明確ではないが、次の様に推定される。即ち、加熱反応生成物を製造する際にカルボン酸のアルカリ金属塩を用いると、オーバーコート用組成物中にアルカリ金属成分が含まれることになり、このアルカリ金属成分が化成皮膜中の金属酸化物、金属水酸化物などと反応してアルカリ金属イオンが遊離し、これがオーバーコート皮膜中又はその表面に残存する。残存したアルカリ金属イオンは、オーバーコ−ト皮膜を乾燥した後にも水分を吸湿し、強アルカリ性水溶液が付着した状態となり易い。その結果、化成皮膜や亜鉛又は亜鉛合金がアルカリ溶液によって侵食されて、耐食性が低下するものと考えられる。一方、カルボン酸類のアンモニウム塩を用いる場合には、遊離したアンモニアがアンモニアガスとして揮発して、オーバーコ−ト皮膜中又はその表面に殆ど残存しない。このため、オーバーコ−ト皮膜が吸湿した場合においても、pH9程度の弱アルカリ性となるだけであり、化成皮膜や下地の亜鉛又は亜鉛合金を侵食することがなく、耐食性が向上し、均一な外観の皮膜となるものと考えられる。カルボン酸又はアミノカルボン酸の酸付加塩を用いる場合も、アンモニウム塩を用いる場合と同様に、オーバーコート皮膜が吸湿した場合においても、強アルカリ性となることがなく、耐食性の低下は生じないと考えられる。
【0014】
加熱反応生成物を形成するためのカルボン酸類としては、所定の濃度の水溶液とするために必要な溶解度を有するものであれば特に限定することなく使用できる。例えば、総炭素数が1〜10程度の範囲内にあるカルボン酸、そのアンモニウム塩、総炭素数が1〜10程度の範囲内にあるアミノカルボン酸の酸付加塩等を好適に用いることができる。カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸;マロン酸、コハク酸、シュウ酸等のジカルボン酸;トリカルバリル酸等のトリカルボン酸;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸;グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸等のアミノカルボン酸等を挙げることができる。カルボン酸のアンモニウム塩としては、上記した各カルボン酸のアンモニウム塩を用いることができる。また、アミノカルボン酸の酸付加塩としては、上記したアミノカルボン酸の塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を用いることができる。これらのカルボン酸類は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0015】
特に、マロン酸、コハク酸、シュウ酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスパラギン酸、これらのアンモニウム塩等が好ましい。
【0016】
また、本発明のオーバーコート用組成物をpH4以上の水溶液として用いる場合には、カルボキシル基を2個以上含むカルボン酸、そのアンモニウム塩等を用いることが好ましい。
【0017】
3価クロム化合物としては、特に限定的ではなく、カルボン酸類との加熱反応物を調製する際に、水溶液中に十分に溶解できる化合物であればよい。その具体例としては、硫酸クロム、硝酸クロム、塩化クロム、リン酸クロム、酢酸クロム、水酸化クロム等を挙げることができる。これらの内でリン酸クロム、酢酸クロム等が好ましい。これらの3価クロム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0018】
カルボン酸類と3価クロム化合物との混合割合は、3価クロム化合物におけるクロム金属1モルに対してカルボン酸類におけるカルボキシル基が1〜10モル程度となる量、好ましくは2〜6モル程度となる量とすればよい。即ち、クロム原子を1個含む3価クロム化合物を用いる場合には、モノカルボン酸又はそのアンモニウム塩については、3価クロム化合物1モルに対して1〜10モル程度、ジカルボン酸又はそのアンモニウム塩については、3価クロム化合物1モルに対して0.5〜5モル程度用いればよい。
【0019】
カルボン酸類の使用量が少なすぎる場合には、3価クロム化合物が十分に安定化されず、3価クロム化合物とカルボン酸類の加熱反応中に沈殿、固化する場合があり、形成されるオーバーコート皮膜の耐食性などが劣るものとなりやすい。一方、カルボン酸類の使用量が多すぎる場合は、オーバーコート皮膜が固化しにくくなり、傷が付きやすい皮膜となる。また、排水処理が困難になるなど経済的にも不利である。
【0020】
3価クロム化合物とカルボン酸類の加熱混合時間については、特に限定的ではないが、通常5分〜600分程度、好ましくは10分〜120分程度の範囲とすればよい。この様な範囲内において、加熱温度が低い場合は加熱混合時間を長くすればよく、加熱温度が高い場合には加熱混合時間を短くすればよい。
【0021】
上記化合物を混合する際の水溶液中の濃度については特に限定的ではなく、3価クロム化合物とカルボン酸類を均一に溶解できる濃度範囲であればよい。通常、3価クロム化合物濃度が、クロム金属量として0.1〜80g/L程度の範囲内となるようにすればよく、濃厚溶液となる場合は、オーバーコート用組成物を調製する際に適宜希釈して用いればよい。
【0022】
この様な方法で3価クロム化合物とカルボン酸類を加熱混合することにより、安定な反応物が形成されて、水溶液中において加熱反応生成物が安定に存在することができる。これに対して、3価クロム化合物とカルボン酸類を予め加熱混合することなく、水溶液中に直接添加する場合には、沈殿が生じ易いために処理液の寿命が短くなり、しかも形成されるオーバーコート皮膜は耐食性及び外観に劣るものとなり易い。
【0023】
本発明のオーバーコート用組成物において、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物の濃度は、クロム金属量として0.1〜10g/L程度とすればよく、0.5〜5g/L程度とすることが好ましい。該加熱反応生成物の濃度が低すぎる場合には、被処理物の表面を十分に被覆することができず、耐食性が不十分となり、外観が不均一となり易い。また、濃度が高すぎる場合には、被処理物の形状によって液溜まり部分に厚くオーバーコート皮膜が形成され、外観の均一性を損なうだけでなく、経済的にも不利である。
【0024】
(2)その他の成分
(i)リンの酸素酸類:
本発明のオーバーコート用組成物には、更に、必要に応じて、リンの酸素酸及びそのアンモニウム塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のリンの酸素酸類を配合することができる。リンの酸素酸類を配合することによって、pH緩衝領域が7程度にも存在することになり、高耐食性で均一な外観を付与するオーバーコート皮膜が形成される。
【0025】
リンの酸素酸としては、正リン酸、縮合リン酸、亜リン酸、次亜リン酸等を用いることができる。特に、正リン酸及びそのアンモニウム塩が好ましい。
【0026】
リンの酸素酸類は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。本発明の組成物におけるリンの酸素酸類の濃度は、リン元素量として、0.1〜20g/L程度とすることが好ましく、0.2〜10g/L程度とすることがより好ましい。
【0027】
(ii)水溶性高分子化合物:
本発明のオーバーコート処理用組成物には、更に、必要に応じて水溶性高分子化合物を配合することができる。水溶性高分子化合物を配合することによって、上記した加熱反応生成物が低濃度である場合にも、均一な外観のオーバーコート皮膜を形成することが可能となる。
【0028】
水溶性高分子化合物としては、オーバーコート用組成物中に溶解するものであればよく、例えば、水酸基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を含む高分子化合物、ペプチド結合を含む高分子化合物、多糖類などを用いることができる。これらの水溶性高分子化合物は、アルカリ金属を含有しないものであることが好ましい。
【0029】
水溶性高分子化合物の具体例としては、水酸基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を含む高分子化合物として、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等を例示でき、ペプチド結合を含む高分子化合物としては、ゼラチン、ポリペプタイド等を例示でき、多糖類としては、アルギン酸、アルギン酸グリコールエステル、ペクチン等を例示できる。
【0030】
水溶性高分子化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。これらの高分子化合物の濃度は、固形分量として0.01〜50g/L程度とすることが好ましく、0.1〜20g/L程度とすることがより好ましい。高分子化合物の配合量が上記範囲を下回ると、高分子化合物の添加による効果を十分に発揮することができない。一方、該高分子化合物の配合量が多すぎると、大きな弊害はないが経済的に不利である。
【0031】
(iii)界面活性剤:
本発明のオーバーコート処理用組成物には、更に、必要に応じて、界面活性剤を配合することができる。
【0032】
界面活性剤を配合することによって、オーバーコート組成物の表面張力が低下して、被処理物の表面に均一に処理液が広がり、容易に均一な外観の皮膜を形成できる。更に、液切れがよくなり、液溜まり部の発生が抑制され、複雑な形状をした被処理品に対しても均一な外観のオーバーコート皮膜を形成することが可能となる。
【0033】
界面活性剤としては、オーバーコート用組成物に溶解するものであれば特に限定されず、カチオン性界面活性剤、アニオン性活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを使用できる。これらの界面活性剤は、アルカリ金属を含有しないものであることが好ましい。界面活性剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0034】
本発明では、特に、低発泡性である非イオン性界面活性剤、表面張力を低下させて良好な液切り性を付与できるフッ素系界面活性剤などが好ましい。これらの内で、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル等を例示できる。フッ素系界面活性剤としては、フルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸ジエタノールアミド、モノパーフルオロアルキルエチルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンパーフルオロアルキルエチルエーテル等を例示できる。
【0035】
界面活性剤の濃度は、固形分量として0.001〜20g/L程度であることが好ましく、0.005〜10g/L程度であることがより好ましい。
【0036】
(iv)金属化合物:
本発明の組成物には、更に、必要に応じて、Ca、Mg、Zn、W、V、Mn、Mo、Al、Si及びSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を配合することができる。これらの化合物を配合することにより、オーバーコート皮膜の均一性が向上し、外観および耐食性を向上させることができる。特に、Zn又はMnを含有する化合物は、オーバーコート皮膜の光沢性、艶を向上させて、意匠性を良好にすることができる。
【0037】
金属化合物としては、本発明のオーバーコート用組成物中に溶解するものであれば特に限定なく使用できる。例えば、上記した金属成分を含む硝酸塩、硫酸塩、塩化物などの無機酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩などの有機酸塩、水酸化物、酸化物、酸素酸、酸素酸のアンモニウム塩等を例示できる。これらの化合物は、一種のみ用いても良く、二種以上混合して用いても良い。また、二種以上の金属成分を同時に含む化合物を用いても良い。
【0038】
上記した金属化合物の濃度は、金属成分の量として、0.1〜50g/L程度であることが好ましく、0.5〜20g/L程度であることがより好ましい。
【0039】
(v)アルカリ金属:
上記(1)項に記載した通り、本発明のオーバーコート用組成物にアルカリ金属が含まれる場合には、形成されるオーバーコート皮膜の耐食性が低下する。このため、本発明組成物に添加する各成分は、アルカリ金属を含まないものであることが好ましい。また、本発明の組成物中のアルカリ金属の量は、100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、全く存在しないことが特に好ましい。
【0040】
(3)オーバーコート処理用組成物の調製:
本発明のオーバーコート用組成物は、上記した加熱反応生成物と、必要に応じて加えることのできる各成分を所定の割合で含有する水溶液である。例えば、上記した加熱反応生成物を形成した水溶液中に、必要に応じて他の成分を添加し、水を加えて濃度を調整し、pH調整してもよく、或いは、加熱反応物の必要量を水溶液の状態で採取し、他の成分と混合し、必要に応じて、水を加えて濃度を調整し、pH調整してもよい。この場合、各成分を別個に溶解させても良く、或いは各成分を予め混合したものを添加しても良い。また、全成分を含有する濃厚溶液として調整しておき、使用時に希釈して用いても良い。
【0041】
また、加熱反応生成物以外の成分については、加熱反応生成物の生成後に添加する他に、加熱反応生成物の生成反応前又は反応の際に添加して、3価クロム化合物とカルボン酸の加熱反応時に存在させてもよい。
【0042】
本発明のオーバーコート用組成物は、pH3〜9程度であることが必要であり、4〜7程度であることが好ましい。このようなpH範囲とすることによって、被処理物表面の化成皮膜を侵すことなくオーバーコート皮膜が形成され、均一な外観となる。pHが低すぎる場合には、化成皮膜や下地の亜鉛または亜鉛合金皮膜が侵食され易く、外観が不均一となり、耐食性も低下し易い。一方、pHが高すぎる場合にも、化成皮膜や亜鉛または亜鉛合金皮膜が侵食されて、外観、耐食性等が低下し易い。特に、アンモニウムイオンの含有量が多くなりすぎると、アンモニアの揮発が多くなるので作業環境上好ましくない。
【0043】
本発明のオーバーコート用組成物は、各成分を溶解した状態において所定のpH範囲にある場合には、pH調整を行うことなく使用できる。また、予め各成分を混合した混合物中に、所定のpH値に調整するために必要な酸成分またはアンモニア水を添加しておき、この混合物を同時に水に溶解してもよい。更に、加熱反応生成物を作製する前に、予め所定のpHとするために必要な酸成分又はアンモニア水を添加しておいてもよく、加熱反応の途中で添加してもよい。
【0044】
各成分を溶解した状態でpHが高すぎる場合には、カルボン酸類などの有機酸、リン酸などの無機酸を添加して所定のpH範囲に調整すればよい。一方、pHが低すぎる場合には、アンモニア水を添加して所定のpH範囲に調整すればよい。
【0045】
オーバーコート皮膜の形成方法
本発明のオーバーコート用組成物は、亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜に対してオーバーコート皮膜を形成するために用いられるものである。
【0046】
処理対象物としては、亜鉛又は亜鉛合金自体を素材とする物品の他、湿式めっき法などによって、各種素材上に亜鉛又は亜鉛合金による皮膜を形成した物品も用いることができる。亜鉛合金の種類については、特に限定的ではなく、例えば、亜鉛を50重量%程度以上含む各種合金を処理対象物とすることができる。具体例としては、亜鉛−鉄合金、亜鉛−ニッケル合金等を挙げることができる。
【0047】
亜鉛又は亜鉛合金上に形成される化成皮膜の種類については特に限定的ではなく、例えば、6価クロム化合物を含む処理液から形成された化成皮膜である、所謂クロメート皮膜;3価クロム化合物を含む処理液から形成された3価クロムの酸化物を主成分とする化成皮膜である、所謂3価クロム化成皮膜;コバルト、ニッケル、鉄、モリブデン、バナジウム、タングステン、セリウム、リン、珪素などを主成分とし、クロムを全く含まない、所謂クロムフリー化成皮膜等に対してオーバーコート皮膜を形成するために用いることができる。
【0048】
これらの化成皮膜の内で、特に、6価クロムを含まない、3価クロム化成皮膜上に本発明の組成物を用いてオーバーコート皮膜を形成する場合には、有害な6価クロム化合物を用いることなく、亜鉛又は亜鉛合金に対して良好な耐食性及び外観を付与することが可能となる。
【0049】
本発明のオーバーコート用組成物を用いる処理方法については特に限定的ではなく、被処理物における化成皮膜表面と本発明組成物とが十分に接触できる方法であれば良い。例えば、浸漬法、スプレー法、塗布法等を適用できるが、通常は、本発明の組成物中に被処理物を浸漬することによれば効率の良い処理が可能となる。
【0050】
処理時の液温については、例えば、浸漬法では、10〜80℃とすればよく、20〜50℃程度とすることが好ましい。処理液の温度が低すぎる場合には、オーバーコート用組成物の粘度が高くなり、被処理物の形状によっては液溜り部分に厚くオーバーコート皮膜が形成され、外観の均一性を損ない易くなる。また、温度が高すぎる場合には、処理作業時の熱的損失が大きくなるため経済的に好ましくない。
【0051】
浸漬時間は、通常、5〜120秒程度とすればよく、処理液の液温が高い場合は処理時間を短くし、液温が低い場合には処理時間を長くすればよい。例えば、処理液の液温が20〜50℃程度の場合には、浸漬時間を10〜60秒程度とすることが好ましい。
【0052】
被処理物の表面にオーバーコート用組成物を接触させた後は、水洗処理を行っても良いが、過度に水洗を行うと、オーバーコート用組成物が洗い流されて、外観が不均一となり、耐食性も低下する。このため、水洗を行わずに、そのまま乾燥することが好ましい。
【0053】
乾燥は室温で行っても良いが、40〜200℃程度の乾燥温度とすることが好ましく、60〜150℃程度の乾燥温度とすることがより好ましい。乾燥時間は、1〜60分程度とすればよく、10〜30分程度とすることが好ましい。
【0054】
この様な方法により、亜鉛又は亜鉛合金上に化成皮膜が形成された被処理物に対して、高耐食性および均一な外観を有するオーバーコート皮膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0055】
本発明のオーバーコート用組成物によれば、下記のような顕著な効果が得られる。
(1)本発明のオーバーコ−ト用組成物は、有害な6価のクロム化合物を含有しない安全性の高い処理液であり、亜鉛又は亜鉛合金の表面部分に化成処理が形成された被処理物に対して、高耐食性と均一な外観を付与することができる。
(2)本発明のオーバーコ−ト用組成物は安定性が良好であり、長期間優れた性能を維持して、安定に使用できる。
(3)オーバーコート処理の際に処理容器に対する目詰まりなどが生じ難く、作業性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0057】
製造例1
45%酢酸クロム溶液250g/L、シュウ酸二水和物120g/L、及びL−酒石酸30g/Lをイオン交換水に溶解し、90℃において120分間混合して加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物1とする。
【0058】
製造例2
45%酢酸クロム溶液250g/L、アスパラギン酸100g/L、及びマロン酸10g/Lをイオン交換水に溶解し、90℃において30分間混合して加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物2とする。
【0059】
製造例3
45%酢酸クロム溶液250g/L、DL−リンゴ酸150g/L、及びクエン酸一水和物20g/Lをイオン交換水に溶解し、80℃において20分間混合して加熱反応させた後、25%アンモニア水70ml/Lを添加して60℃で60分間混合して加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物3とする。
【0060】
製造例4
30%リン酸クロム溶液350g/L、シュウ酸アンモニウム100g/L、及び70%グリコール酸30g/Lをイオン交換水に溶解し、70℃において60分間混合して加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物4とする。
【0061】
製造例5
30%リン酸クロム溶液350g/L、DL−リンゴ酸70g/L、及びマレイン酸70g/Lをイオン交換水に溶解し、80℃において60分間混合して加熱反応させた後30℃まで冷却し、25%アンモニア水150ml/Lを添加して70℃で30分間混合して加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物5とする。
【0062】
実施例1〜8
軟鋼板(50×100×0.5mm)の表面に、アルカリ性亜鉛めっき浴(ジンケート浴)(奥野製薬工業(株)、商標名NCジンク90)を用いて厚さ10μmの亜鉛めっき皮膜を形成した。次いで、市販の3価クロム化合物を含む化成処理液(商標名:ESコ−トA、奥野製薬工業(株))を用いて、淡黄色の3価クロム化成皮膜を形成した。
【0063】
上記した方法で淡黄色の3価クロム化成皮膜を形成した物品を被処理物として用い、下記表1に示す各組成のオーバーコート用組成物を用いて表1に記載の処理条件で浸漬処理を行い、80℃で20分間乾燥して、オーバーコート皮膜を形成した。尚、各オーバーコート用組成物は、表1に示す各成分をイオン交換水に溶解したものである。また、表1において、加熱反応物1〜5の配合量の単位は、ml/Lであり、その他成分の配合量の単位は、g/Lである。
【0064】
更に、上記した淡黄色の化成皮膜形成用化成処理液に代えて、黒色化成皮膜形成用の市販の3価クロム化合物を含む化成処理液(商標名:ESコ−トブラックSOP、奥野製薬工業(株))を用いて、黒色の3価クロム化成皮膜を形成し、これ以外は、上記した方法と同様にして、オーバーコート皮膜を形成した。
【0065】
【表1】

【0066】
※1 ジュリマー AC−10S 日本純薬株式会社
※2 ゼラチン AU−P ゼライス株式会社
※3 アデカプルロニックL64 株式会社ADEKA (PO/EOブロックポリマー)
※4 ZONYL FSO デュポン株式会社
※5 pH調整は、何れもアンモニア水を使用した。
【0067】
比較例1
オーバーコート皮膜を形成することなく、その他は、実施例1〜8と同様の処理を行った。
【0068】
比較例2
45%酢酸クロム溶液250g/L、シュウ酸二水和物120g/L、L−酒石酸30g/L及び水酸化ナトリウム10g/Lをイオン交換水に溶解し、90℃において120分間加熱反応させて得られた加熱反応物100mL/Lをイオン交換水中に添加し、水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。
【0069】
得られた水溶液をオーバーコート用組成物として用い、液温30℃の該組成物中に化成皮膜を形成した被処理物を30秒間浸漬する方法でオーバーコート皮膜を形成すること以外は、実施例1〜8と同様の方法で処理を行った。
【0070】
比較例3
30%リン酸クロム溶液350g/L、シュウ酸ナトリウム100g/L及び70%グリコール酸30g/Lをイオン交換水に溶解し、70℃において60分間加熱反応させて得られた加熱反応物80mL/Lをイオン交換水中に添加し、水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。
【0071】
得られた水溶液をオーバーコート用組成物として用い、液温50℃の該組成物中に化成皮膜を形成した被処理物を20秒間浸漬する方法でオーバーコート皮膜を形成すること以外は、実施例1〜8と同様の方法で処理を行った。
【0072】
比較例4
30%リン酸クロム溶液350g/L、シュウ酸100g/L、及び70%グリコール酸30g/Lをイオン交換水に溶解し、該水溶液を加熱することなく、30℃で60分間攪拌して得られた混合物50mL/Lをイオン交換水中に添加し、アンモニア水を用いてpH5.5に調整した。
【0073】
得られた水溶液をオーバーコート処理用組成物として用い、液温25℃の該組成物中に化成皮膜を形成した被処理物を20秒間浸漬する方法でオーバーコート皮膜を形成すること以外は、実施例1〜8と同様の方法で処理を行った。
【0074】
比較例5
アクリル酸エステル樹脂を有効成分とする市販のオーバーコート処理液(商標名:ESガードJ、奥野製薬工業株式会社)を用い、液温30℃、pH8の該組成物中に化成皮膜を形成した被処理物を20秒間浸漬する方法でオーバーコート皮膜を形成すること以外は、実施例1〜8と同様の方法で処理を行った。
【0075】
比較例6
リチウムシリケート20g/Lをイオン交換水に溶解したpH12水溶液をオーバーコート処理用組成物として用い、液温40℃の該組成物中に化成皮膜を形成した被処理物を10秒間浸漬する方法でオーバーコート皮膜を形成すること以外は、実施例1〜8と同様の方法で処理を行った。
【0076】
性能評価試験
上記した実施例1〜8及び比較例1〜6の各方法でオーバーコート皮膜を形成した各処理品については、以下の方法で性能評価を行った。
(外観)
形成された化成皮膜の色調及び均一性を目視によって評価した。
(耐食性試験)
JIS Z 2371に基づく中性塩水噴霧試験法によって、120時間後、240時間後、360時間後の耐食性を評価した。
【0077】
淡黄色の3価クロム化成皮膜を形成した被処理物についての試験結果を下記表2に示し、黒色の3価クロム化成皮膜を形成した被処理物についての試験結果を下記表3に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
以上の結果から明らかなように、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物を含み、アンモニア水でpHを調整して得られた組成物を用いてオーバーコート皮膜を形成した実施例1〜8では、形成されたオーバーコート皮膜は、外観及び耐食性がいずれも良好であった。
【0081】
よって、本発明のオーバーコート用組成物を用いることによって、亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜に対して、耐食性及び外観が良好なオーバーコート皮膜を形成できことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩、及びアミノカルボン酸の酸付加塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のカルボン酸類と3価クロム化合物とを、クロム金属1モルに対してカルボキシル基が1〜10モルとなる割合で40℃〜沸点未満の温度で反応させて得られる加熱反応生成物を、クロム金属量として0.1〜10g/L含有するpH3〜9の水溶液からなる、亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜に対するオーバーコート用組成物。
【請求項2】
アルカリ金属の含有量が100ppm以下である請求項1に記載のオーバーコート用組成物。
【請求項3】
更に、リンの酸素酸及びそのアンモニウム塩からなる群から選ばれた少なくとも一種を0.1〜20g/L含有する請求項1又は2に記載のオーバーコート用組成物。
【請求項4】
更に、水溶液高分子化合物を固形分量として0.01〜50g/L含有する請求項1〜3のいずれかに記載のオーバーコート用組成物。
【請求項5】
更に、界面活性剤を固形分量として0.001〜20g/L含有する請求項1〜4のいずれかに記載のオーバーコート用組成物。
【請求項6】
更に、Ca、Mg、Zn、W、V、Mn、Mo、Al、Si及びSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を金属成分の量として、0.1〜50g/L含有する請求項1〜5のいずれかに記載のオーバーコート用組成物。
【請求項7】
亜鉛又は亜鉛合金上に形成された化成皮膜を請求項1〜6のいずれかに記載されたオーバーコート用組成物と接触させることを特徴とするオーバーコート皮膜の形成方法。
【請求項8】
化成皮膜が、3価クロムを含む処理液を用いて形成された皮膜である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7又は8の方法によって形成されたオーバーコート皮膜を有する物品。

【公開番号】特開2008−255408(P2008−255408A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98201(P2007−98201)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【出願人】(595056871)株式会社石実メッキ工業所 (3)
【Fターム(参考)】