説明

亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品用ストライク銅めっき液

【課題】亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属素材に対して、安定して密着性の良いストライク銅めっき皮膜を形成できる銅めっき液であって、さらに人体や環境に対する悪影響が少ない銅めっき液を提供する。
【解決手段】
下記(1)及び(2)に示す成分を含有し、pHが10.5〜13の範囲内にあることを特徴とする、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属用のストライク銅めっき液:
(1)酸化銅、水酸化銅、炭酸銅、蟻酸銅及び酢酸銅からなる群から選ばれた少なくとも一種の2価の銅化合物
(2)下記式:


[式中、M及びMは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される基を2個以上有する有機ホスホン酸類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品用のストライク銅めっき液、及び該ストライク銅めっき液を用いるめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛、亜鉛合金等の亜鉛含有金属やマグネシウム、マグネシウム合金等のマグネシウム含有金属等の金属材料は、その表面に不活性皮膜である酸化皮膜が形成され易いために、密着性の良い銅めっき皮膜を直接形成することは困難である。
【0003】
例えば、酸性の銅めっき液を用いる場合には、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属上の酸化皮膜を除去できるために活性表面を形成することは可能であるが、酸性のめっき液によって素材の腐食が進行し、しかも亜鉛及びマグネシウムは、銅とイオン化傾向の差が大きいことから、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属の素材表面は酸性のめっき液によって溶解され、激しく置換反応が生じる。その結果、密着性の良い皮膜を形成することができない。
【0004】
このような背景から、従来、素材が亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属である場合、シアン化銅めっき液によるストライク銅めっき方法が用いられてきた。
【0005】
シアン化銅めっき液は、亜鉛含有金属表面の酸化皮膜を溶解することができ、その一方で金属亜鉛の溶解及び置換反応が緩慢であるため、シアン化銅めっき液を用いてストライクめっきを行うことによって、密着性の良い銅皮膜を形成することが可能となる。
【0006】
また、マグネシウム含有金属に対してめっき処理を行う場合には、常法に従ってジンケート置換皮膜(アルカリ性亜鉛置換皮膜)を形成した後、シアン化銅めっき液を用いてストライクめっきを行うことによって、密着性の良い銅めっき皮膜を形成することができる。
【0007】
以上のように、シアン化銅めっき液によれば、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる素材に対して密着性の良いストライク銅めっき皮膜を形成することが可能である。しかしながら、シアン化銅めっき液は、人体や環境に対して悪影響があるため、シアン化銅めっき液に代わって、上記した素材に対して密着性の良い皮膜を形成することができる新たなストライク銅めっき液が要望されている。
【0008】
一般に、下地保護を目的とするアルカリ性銅めっき液としては、低濃度ピロリン酸銅めっき液又はオキシカルボン酸銅めっき液等が検討されてきた。しかしながら、キレート剤として使用されるピロリン酸やオキシカルボン酸は、銅錯体濃度に対して過剰に添加しない限り、溶液として安定な状態にはならないが、過剰のキレート剤は、上記した素材の腐食を促進するだけでなく、銅金属の置換反応が起きやすくなり、その結果として、密着性の良い銅めっき皮膜を形成することができない。
【0009】
また、キレート安定度定数の高いエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む銅めっき液は、溶液として安定な状態であるが、該めっき液でストライク銅めっきを行った場合、析出性に問題があるだけでなく、素材が腐食するため、結果として密着性の良い銅めっき皮膜を形成することができない。
【0010】
下記特許文献1には、有機ホスホン酸類を含有する銅めっき液を用いて、鉄、真鍮、青銅、亜鉛ダイカスト等の素材に銅めっきを形成させる方法が記載されている。しかしながら、該文献の実施例において実際に用いられている銅塩は硫酸銅であり、また該銅めっき液のpH範囲は、6〜10.5である。このような銅めっき液では、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属は腐食し、安定した密着性を有する銅めっき皮膜を形成することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭59−136491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品に対して、安定して密着性の良い下地銅めっき皮膜、即ちストライク銅めっき皮膜を形成でき、しかも人体や環境に対する悪影響が少ない安全性の高い銅めっき液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記のような技術の現状に鑑みて鋭意研究を進めた結果、銅化合物として特定の化合物を用い、更に、キレート剤として特定の有機ホスホン酸類を選択した上で、めっき液のpH値を特定の範囲内とすることによって、上記した目的を達成し得るストライク銅めっきが得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記の亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品用のストライク銅めっき液、及び該ストライク銅めっき液を用いるめっき方法を提供するものである。
1. 下記(1)及び(2)に示す成分を含有し、pHが10.5〜13の範囲内にあることを特徴とする、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品用のストライク銅めっき液:
(1)酸化銅、水酸化銅、炭酸銅、蟻酸銅及び酢酸銅からなる群から選ばれた少なくとも一種の2価の銅化合物
(2)下記式:
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、M及びMは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される基を2個以上有する有機ホスホン酸類。
2. 有機ホスホン酸類が、
下記式:
【0017】
【化2】

【0018】
[式中、Xは水素又は低級アルキル基であり、Yは水酸基又は低級アルキル基であり、M〜Mは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類、
下記式:
【0019】
【化3】

【0020】
[式中、M〜M12は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類、
下記式:
【0021】
【化4】

【0022】
[式中、M13〜M20は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類及び
下記式:
【0023】
【化5】

【0024】
[式中、M21〜M30は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である、上記項1に記載のストライク銅めっき液。
3. 有機ホスホン酸類が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3Na塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸4Na塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)5Na塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)及びジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7Na塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である、上記項2に記載のストライク銅めっき液。
4. 2価の銅イオンを0.1〜1mol/L含有し、かつ、
有機ホスホン酸類を、2価の銅イオン1molに対して、該有機ホスホン酸類が有する下記式:
【0025】
【化6】

【0026】
[式中、M及びMは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表わされる基が1.5mol以上となる量で含有する上記項1〜3のいずれかに記載のストライク銅めっき液。
5. 上記項1〜4のいずれかに記載のストライク銅めっき液中において、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品を陰極として通電することを特徴とするストライク銅めっき方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明のストライク銅めっき液は、従来のシアン化銅めっき液と比較して、安全性の高い物質を有効成分とするものであり、人体や環境に対する悪影響が少ない点で非常に有用性の高いものである。
【0028】
また、本発明のストライク銅めっき液によれば、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品に対して安定して外観及び密着性の良いストライク銅めっき皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のストライク銅めっき液は、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品に対して用いられるストライク銅めっき液、即ち、下地保護用銅めっき液であって、下記(1)及び(2)に示す成分を含有し、pHが10.5〜13の範囲内にあることを特徴とするものである:
(1)酸化銅、水酸化銅、炭酸銅、蟻酸銅及び酢酸銅からなる群から選ばれた少なくとも一種の2価の銅化合物
(2)下記式:
【0030】
【化7】

【0031】
[式中、M及びMは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される基を2個以上有する有機ホスホン酸類。
【0032】
以下、本発明のストライク銅めっき液について具体的に説明する。
ストライク銅めっき液の組成
(1)2価の銅化合物
本発明のストライク銅めっき液は、銅化合物として、酸化銅、水酸化銅、炭酸銅、蟻酸銅及び酢酸銅からなる群から選ばれた少なくとも一種の2価の銅化合物を含有することが必要である。これらの銅化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0033】
本発明のストライク銅めっき液では、銅化合物として、上記した特定の化合物を用いることによって、密着性の良いストライク銅めっき皮膜を形成することができる。これに対して、上記した銅化合物ではなく、例えば、硫酸銅、塩化銅、ピロリン酸銅等を用いる場合には、電解時に被めっき物である亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属を腐食させるだけでなく、密着不良、外観不良、アノードの溶解不良等が生じ易くなる。
【0034】
本発明のストライク銅めっき液に含有される2価の銅イオンの濃度については、特に限定されないが、銅イオンの濃度が低すぎる場合、銅めっき皮膜の析出速度が非常に遅くなり、成膜に長時間を要するので好ましくない。一方、銅化合物の濃度が高すぎる場合、銅めっき液の粘度が高くなって液の流動性が低下し、均一析出性に悪影響を与える。特に、銅化合物が炭酸銅、蟻酸銅又は酢酸銅である場合には、濃度が高すぎると、炭酸根、蟻酸根、酢酸根等が過剰となり、アノードの溶解を阻害してしまう。このため、2価の銅イオンの濃度は、0.1〜1mol/L程度の範囲であることが好ましく、0.2〜0.5mol/L程度の範囲であることがより好ましい。
【0035】
(2)有機ホスホン酸類
本発明のストライク銅めっき液では、キレート剤として、
下記式:
【0036】
【化8】

【0037】
[式中、M及びMは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される基を2個以上含む有機ホスホン酸類を用いることが必要である。上記した特定の有機ホスホン酸類は、フリーキレート剤濃度に影響されることなく、高pH領域で銅イオンと安定な錯体を形成することができる。このため、これをキレート剤として用いることによって、後述する高pH領域において、良好なストライク銅めっき皮膜を形成することが可能となる。
【0038】
上記した有機ホスホン酸類の具体例としては、
下記式:
【0039】
【化9】

【0040】
[式中、Xは水素又は低級アルキル基であり、Yは水酸基又は低級アルキル基であり、M〜Mは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類、
下記式:
【0041】
【化10】

【0042】
[式中、M〜M12は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類、
下記式:
【0043】
【化11】

【0044】
[式中、M13〜M20は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類、
下記式:
【0045】
【化12】

【0046】
[式中、M21〜M30は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類等を挙げることができる。
【0047】
上記した各式において、低級アルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を例示でき、その具体例として、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル等を挙げることができる。また、アルカリ金属としては、Na、K等を例示できる。
【0048】
上記した有機ホスホン酸類の具体例としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3Na塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸4Na塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)5Na塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7Na塩等を挙げることができる。
【0049】
これらの有機ホスホン酸類は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0050】
本発明のストライク銅めっき液に含有される有機ホスホン酸類の濃度については、特に限定的ではないが、該めっき液に含まれる2価の銅イオン1molに対して、有機ホスホン酸類が有する
下記式:
【0051】
【化13】

【0052】
[式中、M及びMは上記に同じ。]で表わされる基が1.5mol以上程度となる量であることが好ましく、1.8〜5mol程度となる量であることがより好ましい。有機ホスホン酸類の濃度がこの様な範囲内にあることによって、高pH領域で銅イオンと安定な錯体を形成することができ、良好なストライク銅めっき皮膜を形成できる。これに対して、有機ホスホン酸類の濃度が低すぎる場合には、アノードの溶解が阻害され、銅の供給を十分行うことができず、結果として密着性の良いストライク銅めっき皮膜を形成することができない。
【0053】
(3)ストライク銅めっき液のpH
本発明のストライク銅めっき液のpHは、10.5〜13であることが必要である。上記した特定の銅化合物及び有機ホスホン酸類を含有し、かつ、上記したpH範囲とすることによって、安定したストライク銅めっき液を得ることができる。pHのより好ましい範囲は、11〜12.5である。pHの値が低すぎる場合、被めっき物の置換反応が起きるため、好ましくない。
【0054】
pHを上記範囲にするために、例えば、水酸化物を用いて調整すればよい。きる。水酸化物としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等を用いることができる。さらに具体的な例示としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
被めっき物
本発明のストライク銅めっき液は、亜鉛、亜鉛合金等の亜鉛含有金属又はマグネシウム、マグネシウム合金等のマグネシウム含有金属からなる物品を被めっき物としてストライク銅めっき皮膜を形成するために用いられるものである。特に、物品がマグネシウム含有金属であるとき、シアン化銅めっき液によって皮膜が形成される場合と比較して密着性が同等又は優れているため、好ましい。
【0056】
尚、亜鉛含有金属の内で、亜鉛合金としては、亜鉛と、Al−Cu等との合金を例示できる。これらの亜鉛合金では、例えば、亜鉛の含有量が95重量%程度以上の合金を被めっき物とすることができる。また、マグネシウム含有金属の内で、マグネシウム合金としては、マグネシウムと、Al−Zn等との合金を例示できる。これらのマグネシウム合金では、例えば、マグネシウムの含有量が90重量%程度以上の合金を被めっき物とすることができる。
【0057】
被めっき物の物品の種類については特に限定的ではなく、被めっき皮膜を形成すべき部分が亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属で形成されている物品であれば良い。
【0058】
ストライク銅めっき方法
上記した本発明のストライク銅めっき液を用いてストライク銅めっき皮膜、即ち、下地保護用の銅めっき皮膜を形成する方法については、常法に従えば良く、例えば、脱脂、弱酸活性化等の前処理を行った後、本発明のストライク銅めっき液を用いてストライク銅めっき処理を行えばよい。
【0059】
尚、マグネシウム含有金属を被めっき物とする場合には、常法に従って、ジンケート処理(アルカリ性亜鉛置換)を行って亜鉛置換皮膜を形成した後、本発明のストライク銅めっき液を用いてストライク銅めっきを行えば良い。この場合、ジンケート処理としては、例えば、硫酸亜鉛、ピロリン酸カリウム等を主成分とする公知のジンケート浴を用いて、公知の処理条件に従って行うことができる。
【0060】
本発明のストライク銅めっき液を用いてストライク銅めっきを行う場合には、めっき液の液温は、20〜60℃程度とすることが好ましく、30〜50℃程度とすることがより好ましく、攪拌又は未攪拌下に行うことができる。
【0061】
また、平均陰極電流密度は、通常、0.5〜10A/dmとすることが好ましく、0.5〜5A/dmとすることがより好ましい。尚、陰極と陽極の面積比については、特に限定的ではないが、通常、陰極/陽極の面積比を1以上とすることが好ましい。
【0062】
形成されるストライク銅めっき皮膜の膜厚については、通常、1〜3μm程度とすればよく、めっき時間については、3〜10分程度とすればよい。
【0063】
上記した方法でストライク銅めっき皮膜を形成した後、該皮膜上に目的とするめっき皮膜を形成することによって、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品に対して高い密着性を有し、外観にも優れた各種のめっき皮膜を形成できる。このようなめっきとしては、銅、ニッケル、クロム等を例示できる。これらのめっき条件については、常法に従えばよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
(I)ストライク銅めっき液の調製
下記組成を有する本発明ストライク銅めっき液1〜6及び比較銅めっき液1〜3を調製した。
【0065】
本発明銅めっき液1:
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸 0.4mol/L
水酸化銅 0.4mol/L
水酸化カリウム 1.13mol/L
【0066】
本発明銅めっき液2:
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3Na塩 0.2mol/L
アミノトリ(メチレンホスホン酸)5Na塩 0.1mol/L
蟻酸銅 0.2mol/L
水酸化ナトリウム 0.2mol/L
【0067】
本発明銅めっき液3:
ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7Na塩 0.2mol/L
酢酸銅 0.4mol/L
水酸化ナトリウム 0.4mol/L
【0068】
本発明銅めっき液4:
エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸) 0.2mol/L
酢酸銅 0.3mol/L
水酸化ナトリウム 1.5mol/L
【0069】
本発明銅めっき液5:
アミノトリ(メチレンホスホン酸) 0.2mol/L
塩基性炭酸銅 0.1mol/L
水酸化ナトリウム 0.3mol/L
【0070】
本発明銅めっき液6:
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸 0.3mol/L
酸化銅 0.2mol/L
水酸化カリウム 1.5mol/L
【0071】
比較銅めっき液1:
シアン化銅 0.22mol/L
シアン化ナトリウム 0.6mol/L
フリーシアン化ナトリウム 0.2mol/L
【0072】
比較銅めっき液2:
ピロリン酸銅 0.46mol/L
ピロリン酸カリウム 1.0mol/L
アンモニア水 2.0mol/L
【0073】
比較銅めっき液3:
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸 0.5mol/L
ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7Na塩 0.2mol/L
水酸化銅 0.7mol/L
水酸化カリウム 0.7mol/L
【0074】
(II)前処理工程
被めっき物として、亜鉛ダイカスト品及びマグネシウムダイカスト品を用いた。当該被めっき物は、本発明のストライク銅めっき液によるストライク銅めっき皮膜が形成される前に、各々下記に示す前処理を行った。
【0075】
[亜鉛ダイカスト品]
1)切削加工
2)バフ研磨
3)溶剤バフカス除去
4)脱脂
リン酸ソーダ5wt%及び界面活性剤1wt%を含有する水溶液中に60℃で5分間浸漬した。
5)陰極電解脱脂
錯化剤5wt%及び界面活性剤少量を含有する40℃の水溶液中に浸漬し、2分間5A/dmの電流を流した。
6)弱酸活性化
硫酸1〜3wt%程度を含有する水溶液中に室温で30〜60秒間浸漬した。
【0076】
[マグネシウムダイカスト品(AZ−31及びAZ−91)]
1)強アルカリ脱脂
2)エッチング
3)スマット除去
4)ピロリン酸ジンケート処理
硫酸亜鉛50g/l、ピロリン酸カリウム150g/l、フッ化カリウム7g/l及び炭酸ソーダ5g/lを含有し、pHが10.2〜10.4である水溶液中に、65℃で3分間浸漬した。
【0077】
(III)ストライク銅めっき皮膜の形成
前処理工程を終えた亜鉛ダイカスト品及びマグネシウムダイカスト品に対して、上記した本発明のめっき液1〜6及び比較のめっき液1〜3を用いてストライク銅めっき皮膜を形成した。なお、各々以下の表2に記載された電流密度で、ストライク銅めっきを行った。このときの本発明めっき液1〜6及び比較めっき液1〜3の温度及びpHを併せて以下の表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
(IV)銅めっき皮膜の形成
ストライク銅めっき皮膜が形成された亜鉛ダイカスト品及びマグネシウムダイカスト品に対して、さらに各々以下の処理を行い、銅めっき皮膜を形成した。
【0080】
[亜鉛ダイカスト品]
1)硫酸銅による銅めっきの形成
【0081】
[マグネシウムダイカスト品]
1)ピロリン酸銅による銅めっきの形成
2)硫酸銅による銅めっきの形成
【0082】
なお、本発明のストライク銅めっき液によって形成されるストライク銅めっきの厚みは3μm、上記した処理によって得られた銅めっき皮膜の厚みは20μmとした。
【0083】
評価
上記(IV)項のめっきの形成によって銅めっき皮膜が形成された素材に対して、下記の方法で特性を評価した。結果を下記の表2に示す。
1.皮膜外観
銅めっき皮膜が形成された亜鉛ダイカスト品又はマグネシウムダイカスト品の表面状態を目視で観察した。
2.加熱密着試験
銅めっき皮膜が形成された亜鉛ダイカスト品又はマグネシウムダイカスト品を200℃となるように加熱し、1時間保持した。その後、銅めっき皮膜の膨れ現象の発生状態を観察した。
3.折り曲げ試験
銅めっき皮膜が形成された亜鉛ダイカスト品又はマグネシウムダイカスト品を折り曲げて、破断した。その後、破断面における皮膜剥離の有無を観察した。
【0084】
【表2】

【0085】
表2からも明らかなように、本願発明のストライク銅めっき液によってストライク銅めっき皮膜が形成された亜鉛ダイカスト品及びマグネシウムダイカスト品は、従来から使用されていたシアン化銅めっき液(比較めっき液1)によるものと同様、外観が良好であり、密着性の試験の結果も良好で優れた物性を有するものであった。
【0086】
特に、素材がマグネシウムダイカスト品であるときの銅めっき皮膜の密着性は、シアン化銅めっき液によって形成されたものと同じであるか、又は優れていた。
【0087】
一方、ピロリン酸銅めっき液によってストライク銅めっき皮膜を形成した亜鉛ダイカスト品及びマグネシウムダイカスト品は、外観は良好であるが、密着性に関してはめっき仕上がりの時点で既に不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のストライク銅めっき液は、従来のシアン化銅めっき液と比較して人体や環境に対する悪影響が少ない点で非常に有用性が高く、さらに亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属が置換反応及び腐食を起こすことなく、安定して外観及び密着性の良い銅めっき皮膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)に示す成分を含有し、pHが10.5〜13の範囲内にあることを特徴とする、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品用のストライク銅めっき液:
(1)酸化銅、水酸化銅、炭酸銅、蟻酸銅及び酢酸銅からなる群から選ばれた少なくとも一種の2価の銅化合物
(2)下記式:
【化1】

[式中、M及びMは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される基を2個以上有する有機ホスホン酸類。
【請求項2】
有機ホスホン酸類が、
下記式:
【化2】

[式中、Xは水素又は低級アルキル基であり、Yは水酸基又は低級アルキル基であり、M〜Mは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類、
下記式:
【化3】

[式中、M〜M12は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類、
下記式:
【化4】

[式中、M13〜M20は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類及び
下記式:
【化5】

[式中、M21〜M30は同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表される有機ホスホン酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である、請求項1に記載のストライク銅めっき液。
【請求項3】
有機ホスホン酸類が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3Na塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸4Na塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)5Na塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)及びジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7Na塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である、請求項2に記載のストライク銅めっき液。
【請求項4】
2価の銅イオンを0.1〜1mol/L含有し、かつ、
有機ホスホン酸類を、2価の銅イオン1molに対して、該有機ホスホン酸類が有する下記式:
【化6】

[式中、M及びMは同一又は異なって、それぞれ水素又はアルカリ金属である。]で表わされる基が1.5mol以上となる量で含有する請求項1〜3のいずれかに記載のストライク銅めっき液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のストライク銅めっき液中において、亜鉛含有金属又はマグネシウム含有金属からなる物品を陰極として通電することを特徴とするストライク銅めっき方法。

【公開番号】特開2010−168626(P2010−168626A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12834(P2009−12834)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】