説明

亜鉛末含有高耐久性無機質塗料組成物

【課題】従来よりも塗膜中の空隙を少なくし、海上等の高湿度環境においても耐久性や防食性に優れた亜鉛末含有無機質塗料組成物を提供する。
【解決手段】(A)無機質バインダー樹脂 10〜200質量部、(B)ポリビニルブチラール樹脂1〜200質量部、(C)カップリング剤 0.1〜50質量部、(D)平均粒子径5μm未満の亜鉛末、及び(E)平均粒子径5〜30μmの亜鉛末、を含有し、成分(D)及び成分(E)が、質量比(D):(E)=5:95〜65:35の比で含有され、かつ(D)成分及び(E)成分の合計質量が、乾燥塗膜固形分中に50〜90質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛末含有高耐久性無機質塗料組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、大型鉄鋼構造物の一次防錆塗料又は、防食下地として有用で、かつ従来の亜鉛末含有塗料より防食性・耐久性に優れた塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バインダー樹脂に比較的多量の亜鉛末を配合した亜鉛末含有塗料は、船舶、橋梁、タンク、プラント、海洋構造物等の防食の目的で広く用いられている。亜鉛末含有塗料は、塗料中に用いるバインダー樹脂の種類により、有機系亜鉛末含有塗料と無機系亜鉛末含有塗料に大別される。
有機系の亜鉛末含有塗料は、一般にエポキシ樹脂やウレタン樹脂、アクリル樹脂等のバインダー樹脂に亜鉛末を多量に含有せしめたものであり、素地調整作業、塗装作業が容易である上に、上塗り塗料に対する適用性が良好である特徴を持っている。
【0003】
一方、塗膜の防食機能が無機系亜鉛末含有塗料と比較すると幾分不足しているため、新設時において長期の防食性を重視する場合には、あまり使用されない。これに対し、無機系亜鉛末含有塗料は一般にアルキルシリケート系の樹脂がバインダーとして用いられており、塗膜の防食機能が優れているため、特に大型鋼構造物の長期の防食目的に適している。しかしながら、素地調整作業、塗装作業性が容易とはいえず、そのため素地の研磨やブラスト処理等の素地調整を入念に行う必要がある。
【0004】
亜鉛末を多量に含有する塗料において、更なる高防食性、付着性を改良することが試みられている。しかしながら、何れの亜鉛末含有塗料においても、他の成分を添加して防食性を向上させる方法が主であるため、大きな効果となっていない。例えば、亜鉛末塗料に亜鉛末以外の防錆顔料等を配合して防食性を向上させる方法が開示されている。(例えば、特許文献1〜3参照)。その添加した効果により防食性は若干向上するが、沈殿が生じやすい等の塗料安定性や分散性が不充分で均一で良好な塗膜を形成しにくい。また、防錆顔料は浸透してきた水分により防食性の良い被膜を形成するが、これらの被膜が亜鉛末表面に形成されて亜鉛末の犠牲防食作用を阻害する傾向にあった。
【0005】
亜鉛末を多量に含有する亜鉛末含有塗料は、亜鉛の電気化学的作用(犠牲防食)を利用して優れた防食性能を発揮するもので、その効果を十分に発揮するためには塗膜中で亜鉛粒子同士の接触が必須であり、そのため顔料体積濃度(PVC)が非常に高い塗膜になることが普通であった。そのような塗膜は非常にポーラスな状態になり、塗膜が脆くなり、また、その塗膜上に上塗塗料を直接塗布すると下層塗膜の空隙などから泡が抜けてくるため、その上塗塗膜は物性・外観ともに低下する。
【0006】
そこで、亜鉛末含有塗料塗膜の空隙率を少なくするための工夫がされており、例えば、バインダー樹脂と亜鉛末、体質顔料からなる亜鉛末含有塗料の顔料体積濃度をある特定値に調節することで、塗膜の空隙が少なく防食性能の高いジンクリッチペイントが得られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、海上橋等の高湿度環境に適用した場合、亜鉛末含有無機質塗料塗装系は亜鉛末含有塗膜層の凝集剥離現象が発生することが知られており、無機系ジンクリッチペイントの塗膜について、塗膜性能・塗膜外観については未だ十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭52−54724号公報
【特許文献2】特開2002−348686号公報
【特許文献3】特開平8−151538号公報
【特許文献4】特開昭56−129270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、かかる実情に鑑み、従来よりも塗膜中の空隙を少なくし、海上等の高湿度環境においても耐久性や防食性に優れる亜鉛末含有無機質塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、以下の構成により、上記課題を達成できることを見出し、本発明に到達したものである。
(A)無機質バインダー樹脂 10〜200質量部
(B)ポリビニルブチラール樹脂 1〜200質量部
(C)カップリング剤 0.1〜50質量部
(D)平均粒子径5μm未満の亜鉛末、及び
(E)平均粒子径5〜30μmの亜鉛末、
を含有し、成分(D)及び成分(E)が、質量比(D):(E)=5:95〜65:35の比で含有され、かつ(D)成分と(E)成分の合計質量が、乾燥塗膜固形分中に50〜90質量%含有することを特徴とする亜鉛末含有無機質塗料組成物。
【0010】
本発明によれば、海上等の高湿度環境においても耐久性や防食性に優れる亜鉛末含有無機質塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に述べる。
本発明の塗料組成物に用いられるバインダーとしては、無機質バインダー樹脂(A)を使用する。本発明に使用される無機質バインダー樹脂としては、アルキルシリケートの部分加水分解縮合物あるいはその変性物が挙げられる。
【0012】
例えば、 一般式 R1nSi(OR24-n
〔式中、R1は、炭素数1〜8の有機基であり、R2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、0又は1である。〕
で示されるアルキルシリケートの加水分解縮合物が好適に挙げられる。上記式において、R1としての有機基としては、例えば、アルキル基や、シクロアルキル基、アリール基、ビニル基等が挙げられる。ここで、アルキル基としては、直鎖でも分岐したものでもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基は、炭素数が1〜4個のものである。シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基や、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が好適に挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基や、ナフチル基等が挙げられる。上記各官能基は、任意に置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子や臭素原子、フッ素原子等)や、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、メルカプト基、グリシドキシ基、エポキシ基、脂環式基等が挙げられる。
【0013】
2としてのアルキル基としては、直鎖でも分岐したものでもよい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、好ましいアルキル基は、炭素数が1〜2個のものである。
【0014】
このようなアルキルシリケートの具体例としては、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ−n−プロピルシリケート、テトラ−i−プロピルシリケート、テトラ−n−ブチルシリケートなどのnが0の場合のアルキルシリケート;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、
【0015】
γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシランなどの、nが1の場合のアルキルシリケート等が挙げられる。この場合の加水分解率としては、50〜98%が好ましい。また、これら加水分解物は他の有機高分子化合物と反応させた誘導体であっても差し支えない。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらアルキルシリケートの部分加水分解縮合物は、塗装作業性等の観点から縮合度30以下、好ましくは、10以下のものが好ましい。
【0016】
無機質バインダー樹脂の具体的な市販品としては、例えば、エチルシリケート40(コルコート社製)、SH6018や、SR2402、DC3037、DC3074(東レ・ダウコーニング社製)、MS56(三菱化学社製)、エチルシリケート40(多摩化学工業社製)、KR−211や、KR−212、KR−213、KR−214、KR−216、KR−218(信越化学工業社製)、TSR−145や、TSR−160、TSR−165、YR−3187(東芝シリコーン社製)、Silbond 40(Stauffer Chemical 社製)、Ethyl Silicate 40(Union Carbide 社製)等が挙げられる。
【0017】
なお、上記アルキルシリケートの部分加水分解縮合反応に使用される触媒としては、例えば、硫酸や、塩酸、硝酸、蟻酸等の無機酸;ジブチルスズジラウレートや、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジマレエート、ジオクチルスズマレエート、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物;リン酸、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノデシルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジデシルホスフェートなどのリン酸又はリン酸エステル;ジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタニウムなどの有機チタネート化合物;トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物;テトラブチルジルコネート、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトライソブチルジルコネート、ブトキシトリス(アセチルアセトナート)ジルコニウムなどの有機ジルコニウム化合物等が代表的なものとして挙げられる。
【0018】
本発明で用いられるポリビニルブチラール樹脂(B)には特に制限はなく、一般にポリビニルアルコール樹脂とブチルアルデヒドをアセタール化反応させて得られるものを使用することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、それを構成する部分として、ブチルアセタール部分、ビニルアルコール部分、脂肪酸ビニルエステル部分を有するもののみならず、更にこれらに加えて原料として用いる変性ポリビニルアルコールなどに由来する変性による部分等を有するものも包含される。本発明で用いるポリビニルブチラール樹脂は、ブチラール化度、平均重合度、構成部分及びその割合等の異なる2種以上を組合せて用いることも出来る。ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度は、有機溶剤への溶解性、塗膜の柔軟性、可塑剤との相溶性等の点より70〜90質量%のものが好ましい。また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度は、塗装作業性の良好な塗料を得られる等の点より、58〜77mol%、更には58〜71mol%のものが特に好ましい。
【0019】
(B)成分は、(A)無機質バインダー樹脂10〜200質量部に対して、1〜200質量部配合され、好ましくは5〜150質量部配合される。(B)成分が上記範囲より少ないと、塗膜の成膜性が低下し、塗膜乾燥後にクラックが生じたり、塗膜中に空隙が生じやすくなる。また、(B)成分が上記範囲より多いと、塗膜の耐溶剤性が低下し、この上に上塗塗料を塗布した場合にリフティング等のトラブルが起こりやすくなるので好ましくない。
本発明で用いられるカップリング剤(C)は、鋼材の錆層への濡れ性や含浸性を向上させ、また、その上に塗装する塗料との付着性を向上させるためのカップリング剤である。カップリング剤としては、アルミニウム系カップリング剤、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤などがあるが、そのうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
シラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)等が挙げられる。この中でも特に、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのようなエポキシ基を含有するシラン系カップリング剤が好ましい。
【0021】
チタン系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジドデシルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタイノルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート等が挙げられる。
【0022】
アルミニウム系カップリング剤の具体例としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレート、イソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテートモノ(ジオクチルホスフェート)、アルミニウム−2−エチルヘキサノエートオキサイドトリマー、アルミニウムステアレートオキサイドトリマー、アルキルアセトアセテートアルミニウムオキサイドトリマー等が挙げられる。
【0023】
ジルコニウム系カップリング剤の具体例としては、例えば、ジルコニウムトリブトキシステアレート、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
【0024】
本発明の塗料組成物においては、カップリング剤(C)がシラン系カップリング剤であることが好ましく、更には、エポキシ基含有シランカップリング剤であることが特に好ましい。エポキシ基含有シランカップリング剤の具体例としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロぺニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイミノオキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリイソプロぺニルオキシシランとグリシドールとの付加物等が代表的なものとして挙げられる。これらのカップリング剤は単独又は異なる種類であっても2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
(C)成分は、錆層への濡れ性や含浸性を向上させ、また、その上に塗装する塗料との付着性を向上させるために配合するものである。(C)成分は、(A)無機質バインダー樹脂10〜200質量部に対して、0.1〜50質量部配合され、好ましくは0.5〜30質量部配合される。50質量部より多すぎても前記効果の向上は認められず、経済的にも不利である。
本発明で使用される亜鉛末は、亜鉛が溶出して犠牲陽極作用を有するものであり、平均粒子径5μm未満の亜鉛末(D)と平均粒子径5〜30μmの亜鉛末(E)とを使用する。
【0026】
亜鉛末の(D)成分と(E)成分は、塗膜を形成する場合に塗膜中の空隙を減少し、塗膜密度を向上するために、(D)成分と(E)成分を、質量比で(D):(E)=5:95〜65:35の比で含有し、かつ(D)成分と(E)成分の合計質量が、乾燥塗膜固形分中に50〜90質量%含有することが必要である。配合比が上記範囲を外れると、塗膜中の空隙が多くなるため塗膜物性が低下し好ましくない。亜鉛末の合計質量が、50質量%未満では、塗膜の防食性能が低下し、90質量%を越えると塗膜が脆くなり塗膜物性が低下するため好ましくない。塗膜中では粒子径の大きい亜鉛末(E)の粒子が充填した隙間に粒子径の小さい亜鉛末(D)が入り込み、平均粒子径の異なる2種類の亜鉛末を上記範囲に調節することで上塗塗膜への気泡が発生しにくく、塗膜物性の低下が少なく平滑な塗膜が得られる。
【0027】
亜鉛末(D)成分と(E)成分の配合比は、質量比で(D):(E)=20:80〜40:60)であることが更に好ましい。また、亜鉛末の合計質量が、乾燥塗膜固形分中に60〜85質量%含有することが更に好ましい。
バインダー樹脂等と亜鉛末が密に分散された塗膜においては、塗膜中で亜鉛粒子同士がネットワークを形成していると考えられ、塗膜の導電性を向上し、更に塗膜表面の電位を均一に保持するため、高い防食性能を発揮するものと考えられる。
【0028】
本発明の塗料で使用される溶媒は、上記の(A)〜(C)成分を溶解あるいは分散できる有機溶剤が良い。有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、エタノール、メタノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル系溶剤が使われる。
【0029】
溶媒の配合量は、バインダー樹脂100質量部に対して、100〜1000質量部含有することが好ましい。100質量部に満たない場合は、塗料粘度が高くなり、塗料安定性および塗装作業性が劣る。一方、1000質量部より多い場合は、塗料粘度が低くなりすぎ、十分な膜厚が得られず耐食性が低下する。
本発明の塗料組成物は、亜鉛末等を均一に分散せしめるために分散剤を用いても良い。分散剤としては、第4級アンモニウム塩などのカチオン系、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩などのアニオン系、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型などのノニオン系が挙げられる。
その他に使用される添加剤として、タレ止め剤や顔料等を配合することが可能である。タレ止め剤としては、通常、塗料に配合されて構造粘性を発現し、塗料に揺変性を付与するもので、例えば、無定形シリカ、コロイド炭酸カルシウム、有機ベントナイト、水添ヒマシ油、脂肪族アミド、高級脂肪酸、マイクロジェル粒子等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられるが、特に有機ベントナイト系のタレ止め剤が、少量の添加で大きな構造粘性を発現するので好ましい。また、顔料としては、通常の防錆塗料に用いられる体質顔料、防錆顔料、着色顔料を用いることができる。具体的にはタルク、マイカ、硫酸バリウム、クレー、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、ベンガラ、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、メタホウ酸バリウム、モリブデン酸アルミニウム、リン酸鉄等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0030】
塗料組成物は、常法に従って調製が可能であり、例えば無機質バインダー樹脂成分を含むバインダー溶液と亜鉛末を含む粉末成分とを別容器に保存し、使用直前に両者を混合する1液1粉末形で使用することができる。
このようにして調整した塗料は、エアースプレー、エアレススプレー等の手段で鉄骨構造物等に塗布されるが、エアレススプレーで塗布することが一般的である。塗料は乾燥膜厚で50μm以上になるように塗装され、常温で48時間以上乾燥する.
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものとする。
【0032】
<製造例1> 無機質バインダー樹脂の製造
反応容器にエチルシリケート40(コルコート社製、Si(OC254とその加水分解縮合物の混合物)100部、エタノール100部、水5部及び1%硫酸5部を入れ、40℃に2時間保ちながら攪拌を継続し、無機質バインダー樹脂溶液(固形分30%)を得た。
【0033】
<製造例2> バインダー溶液1の製造
上記で得た溶液150部に、エスレックBM−1(積水化学工業株式会社製)5部をイソプロパノール10部で希釈したものを加え、SH6040(東レ・ダウコーニング株式会社製)を3部を混合攪拌し、バインダー溶液1(固形分35%)を得た。
【0034】
<製造例3〜5> バインダー溶液2〜4の製造
以下の表1の配合に従い、製造例2と同様にバインダー溶液2〜4を製造した。

<実施例1〜5及び比較例1〜3> 無機質ジンクリッチペイントの調製
上記で得たバインダー溶液1〜4に、表1で示す各成分を配合して攪拌・混合し、各無機質ジンクリッチペイントを得た。
得られた各無機質ジンクリッチペイントについて、下記性能試験に供した。性能試験結果を表1に併せて示す。
【0035】
<耐溶剤性試験>
厚み3.0×大きさ70×150mmのサンドブラスト鋼板に上記塗料(実施例1〜5、比較例1〜3)を、乾燥膜厚が75μmとなるようにエアスプレー塗装した後、23℃、50%相対湿度環境で3日間乾燥させた塗膜上にキシレン1mlを滴下し、その上をガーゼで10往復した後の塗膜の状態を、以下の基準で評価した。
(判定基準)
○:正常
△:表面が溶解する
×:完全に塗膜が溶解する
【0036】
<塩水噴霧試験>
厚み3.0×大きさ70×150mmのサンドブラスト鋼板に上記塗料(実施例1〜5、比較例1〜3)を、乾燥膜厚が75μmとなるようにエアスプレー塗装した後、23℃、50%相対湿度環境で14日間乾燥させた試験片下部に素地に到達するように幅1mmのカットを施した後、JIS K 5400 9.1 耐塩水噴霧性の試験方法に準拠し、3000時間塩水噴霧した後の塗膜外観を、以下の基準で目視判定した。
【0037】
(判定基準)
○:塗膜表面に、異常なし
△:クロスカット部周辺に、直径2mm以下の赤さびが発生
×:クロスカット部周辺に、直径2mm以上の赤さびが発生
【0038】
<凝集剥離促進試験>
厚み3.0×大きさ70×150mmのサンドブラスト鋼板に上記塗料(実施例1〜5、比較例1〜3)を、乾燥膜厚が75μmとなるようにエアスプレー塗装した後、23℃、50%相対湿度環境で3日間乾燥させ、エポニックス#30HB下塗(大日本塗料(株)製)を専用シンナーにて40%希釈した塗料をミストコート塗料としてエアスプレー塗装し23℃、50%相対湿度環境で1日養生後、下塗り塗料としてエポニックス#30HB下塗(大日本塗料(株)製)を乾燥膜厚120μmとなるようにエアスプレー塗装し23℃、50%相対湿度環境で1日養生後、中塗り塗料としてVフロン#100H中塗り(大日本塗料(株)製)を乾燥膜厚30μmとなるようにエアスプレー塗装し23℃、50%相対湿度環境で1日養生後、上塗塗料としてVフロン#100H上塗り(大日本塗料(株)製)を乾燥膜厚25μmとなるようにエアスプレー塗装した後、23℃、50%相対湿度環境で14日間乾燥させたものを試験塗板とした。
【0039】
作製した試験塗板を90℃、100%相対湿度環境にて3ヶ月間試験に供した後の塗膜外観を以下の基準で目視判定した。
(判定基準)
○:塗膜に異常なし
△:塗膜にふくれが発生
×:塗膜にワレおよび剥離が発生
【0040】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無機質バインダー樹脂 10〜200質量部
(B)ポリビニルブチラール樹脂 1〜200質量部
(C)カップリング剤 0.1〜50質量部
(D)平均粒子径5μm未満の亜鉛末、及び
(E)平均粒子径5〜30μmの亜鉛末、
を含有し、成分(D)及び成分(E)が、質量比(D):(E)=5:95〜65:35の比で含有され、かつ(D)成分及び(E)成分の合計質量が、乾燥塗膜固形分中に50〜90質量%であることを特徴とする亜鉛末含有無機質塗料組成物。
【請求項2】
前記(A)無機質バインダー樹脂が、次式、
1nSi(OR24-n
〔式中、R1が、炭素数1〜8の有機基であり、R2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、0又は1である。〕
で示されるアルキルシリケートの加水分解縮合物である、請求項1に記載の亜鉛末含有無機質塗料組成物。
【請求項3】
前記(C)カップリング剤が、アルミニウム系カップリング剤、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤のうちの少なくとも1種である請求項1又は2に記載の亜鉛末含有無機質塗料組成物。

【公開番号】特開2012−77132(P2012−77132A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221853(P2010−221853)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】