説明

亜麻仁の加熱処理方法

【課題】油分の酸化を防止しつつ、所定値以下になるまでシアン化合物を亜麻仁から効率良く除去する方法を提供すること。
【解決手段】所定量の亜麻仁を缶体内に収容しS1、当該缶体を密閉S2した状態で加熱して、缶体温度を90〜115℃で所定時間維持する蒸らし加熱処理S3を行う亜麻仁の熱処理方法とした。さらに、前記蒸らし加熱処理の後、前記缶体を真空引きし、減圧下の状態で、最高温度80℃に設定した真空加熱処理を所定時間行う処理方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食料や飼料に用いられる亜麻仁の加熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康食品の素材として、血液中の脂質濃度を下げるはたらきがあるとされるオメガ3系脂肪酸が含まれる材料が注目されている。オメガ3系脂肪酸が含まれる食材の一つとして亜麻仁がある。この亜麻仁は古くから知られている食材ではあるが、オメガ3系脂肪酸であって、体外から摂取しなければならない必須脂肪酸であるα−リノレン酸(ALA)が多く含まれている。
【0003】
また、亜麻仁は、上記α−リノレン酸(ALA)以外にも栄養素を豊富に含み、食物繊維も多いことから、健康食品材料として改めて見直されつつあり、近年では、サプリメントとして提供されることも多い。
【0004】
また、特許文献1に開示されているように、亜麻仁は家畜の飼料(養豚用)などにも適用されている。飼料に適用する際に、特許文献1では、亜麻仁種子を粉砕し、粉砕した亜麻仁種子を直ちに固形加工して酸化の促進を防止している。亜麻仁の油分は酸化し易く、酸化すると有害化するおそれがあるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−6719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、栄養価が高く、食用、あるいは飼料用として注目される亜麻仁ではあるが、一方では、亜麻仁には有害なシアン化合物が含まれていることも知られている。そして、亜麻仁を日本国内で食用とするためには、シアン化合物の含有率を10PPM以下にしなければならない。
【0007】
一般に、亜麻仁からシアン化合物を除去するためには、加熱処理を行うことによってシアン化合物を除去している。したがって、特許文献1のように、亜麻仁種子を粉砕し、粉砕した亜麻仁種子を直ちに固形加工するだけでは、シアン化合物を一定値以下まで除去することはできない。
【0008】
かといって、種子を加熱(ロースト)し、これを粉末状に粉砕した場合は油分が滲み出ていまい食品材料として商品化することは難しい。また、亜麻仁を単に加熱しただけ(ロースト)では、温度が高過ぎると酸化を促進してしまうし、温度が低いと処理時間が長くかかってしまう。
【0009】
このように、現状では、油分の酸化を防止しつつ、所定値以下になるまでシアン化合物を亜麻仁から効率良く除去する方法は確立されていない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決する亜麻仁の加工方法として、所定の手順で亜麻仁を熱処理することにより効率良くシアン化合物を除去することのできる亜麻仁の熱処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
所定量の亜麻仁を缶体内に収容し、当該缶体を密閉した状態で加熱して、缶体温度を90〜115℃で所定時間維持する蒸らし加熱処理を行うこととした。
【0012】
所定量の亜麻仁を缶体内に収容し、当該缶体を密閉した状態で加熱して、缶体温度を100〜115℃で、少なくとも30分以上所定時間維持する蒸らし加熱処理を行うこととした。
【0013】
前記蒸らし加熱処理の後、前記缶体を真空引きし、減圧下の状態で、最高温度80℃に設定した真空加熱処理を所定時間行うこととした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、亜麻仁からシアン化合物を10PPM以下まで効率的に除去することができる。しかも、亜麻仁の風味を損なうことがなく、かつ、後に油分などが滲みだしたりすることもない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る亜麻仁の加熱処理の一実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明に係る亜麻仁の加熱処理の他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施形態に係る亜麻仁の熱処理方法は、効率良くシアン化合物を除去することを目的としている。なお、ここで亜麻仁とは、植物「亜麻」の種子を指す。
【0017】
亜麻仁には、シアン化合物の1つである青酸配糖体が含まれていることが知られている。青酸配糖体は、人体に極めて重大な悪影響を与え得るシアノ基を含むシアノヒドリンをアグリコンとする配糖体であり、亜麻仁を食用とするためには、シアン化合物としての青酸配糖体を可及的に取り除くことが必要である。
【0018】
本実施形態に係る亜麻仁の熱処理方法は、所定量の亜麻仁を缶体内に収容し、当該缶体を密閉した状態で加熱して、缶体温度を90〜115℃で所定時間維持する蒸らし加熱処理を行うことに特徴がある。
【0019】
以下、本実施形態に係る亜麻仁の加熱処理の流れを、図1に基づいて説明する。また、亜麻仁の加熱処理に用いる装置としては、周知の乾燥機に用いられるように、内部に高温蒸気を流通可能とするとともに、複数の攪拌羽根を突設した回転軸を備えた缶体(図示せず)を備えた構成のものである。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る亜麻仁の加熱処理では、先ず、所定量の亜麻仁を加熱装置の缶体内に収容し(ステップS1)、次いで、当該缶体を密閉する(ステップS2)。
【0021】
そして、缶体温度の設定を最高115℃となるようにして、90〜115℃で所定時間維持する蒸らし加熱処理を行う(ステップS3)。このステップS3の加熱攪拌処理では、缶体内に収容されている亜麻仁は、前記攪拌羽根により攪拌されながら加熱されている。
【0022】
この加熱攪拌処理において、亜麻仁に含まれる前述のシアノ基(人体に極めて重大な悪影響を与え得る)の大部分が除去されることになる。すなわち、この加熱攪拌処理において、亜麻仁に含まれる水分が蒸気となって缶体内に充満し、加水分解によってアグリコンとして糖と結びついている前記シアノヒドリンが糖から切り離され、蒸気中に排出されていくと考えられる。
【0023】
そして、ステップS3の加熱攪拌処理を、例えば60分〜130分程度行った後、缶体から亜麻仁を取り出す(ステップS4)。
【0024】
その後、取りだした亜麻仁を常温にて冷却し(ステップS5)、その後、粉砕機によって食料、あるいは飼料に適するように、粉末状あるいは粒状となるように細かく粉砕し(ステップS6)、所定量となるように計量して袋詰めする(ステップS7)。
【0025】
このように、亜麻仁を所定時間かけて蒸らし加熱処理すると、元々240ppm程度含有されていたシアン化合物(青酸配糖体)が、食料や飼料に適する程度まで大幅に減少することが分かった。
【0026】
また、従来のように、亜麻仁をローストするのではなく蒸らし加熱しているので、空気は水蒸気に置換されて油分は酸素と触れにくくなり、油分の酸化防止が図られる。また、ローストのように亜麻仁の表面が焦げたりするおそれもなく、細胞壁も傷つきにくいために油分の滲みだしも抑制される。そのため、本実施形態によって処理された亜麻仁は、時間を経ても油分の滲みだしなどが極めて少なく、保存性も良好となる。
【0027】
他の実施形態として、図2に示す加熱処理としてもよい。これは、蒸らし加熱と真空加熱とを組み合わせた処理となっており、図1で示したステップS3とステップS4の間に、缶体を減圧する真空引処理(ステップS31)とかかる真空引きした状態での加熱攪拌処理(ステップS32)を行うようにしている。よって、以下では、図1の処理と共通する処理についての説明は省略し、ステップS31及びステップS32の処理を中心に説明する。
【0028】
図2に示すように、缶体温度を90〜115℃の状態にして所定時間維持する蒸らし加熱処理(ステップS3)を行った後、缶体内が略80℃以上にならない程度まで減圧(真空引き)する(ステップS31)。
【0029】
そして、比較的低温(最高80℃程度)で所定時間加熱攪拌処理を行う(ステップS32)。かかる真空加熱処理を行うことで、加熱温度を最高80℃に制限しつつも水分とともにシアノヒドリンをさらに亜麻仁から除去することができる。また、このとき、缶体内の温度は比較的低温のため、亜麻仁の油分の酸化促進も抑制されるとともに、シアン化合物を含む蒸気ごと強制排出することができる。
【0030】
このように、本実施形態によれば、オメガ3系脂肪酸を多く含む油分(所謂「亜麻仁油」)の酸化を防止しつつ、食料としても全く問題の無いレベルまでシアン化合物を除去することができる。
【0031】
表1に、上述してきた亜麻仁の加熱処理方法の実施例1−9を示す。表1中、「蒸らし」は缶体を密閉し、加熱温度を最高115℃に設定して加熱する蒸らし加熱方式を示し、「真空」は缶体密閉し、加熱温度が80℃に抑制された真空加熱方式を示す。また、「ロースト」とは、缶体を密閉しつつも空気をブロワで送るとともに抜きながら115℃の温度で加熱する方式を示す。また、使用した亜麻仁は、処理前の状態でシアン化合物の含有量が240ppm、含水率は8%であった。
【表1】

【0032】
表1から分かるように、亜麻仁については、蒸らし加熱処理を行うことで、含有される大部分のシアン化合物を除去することが可能となっている。
【0033】
また、蒸らし加熱処理の後、真空加熱処理を行うことで、より確実にシアン化合物を除去することが可能となる。また、加熱処理時間としても60分〜120分の間でよいため、極めて生産効率の高い処理といえる。
【0034】
しかも、本実施形態に係る処理によって得られた亜麻仁粉末あるいは亜麻仁粒は、オメガ3系脂肪酸が含まれる油分を喪失することもないため、栄養価の高いサプリメント、あるいは飼料として用いることができる。
【0035】
以上、説明してきたように、本実施形態によれば、油分の酸化を防止しつつ、所望する値になるまで、有害となるシアン化合物を亜麻仁から効率良く除去することができ、亜麻仁の食品化、飼料化に大きく寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の亜麻仁を缶体内に収容し、当該缶体を密閉した状態で加熱して、缶体温度を90〜115℃で所定時間維持する蒸らし加熱処理を行うことを特徴とする亜麻仁の熱処理方法。
【請求項2】
所定量の亜麻仁を缶体内に収容し、当該缶体を密閉した状態で加熱して、缶体温度を100〜115℃で、少なくとも30分以上所定時間維持する蒸らし加熱処理を行うことを特徴とする亜麻仁の熱処理方法。
【請求項3】
前記蒸らし加熱処理の後、前記缶体を真空引きし、減圧下の状態で、最高温度80℃に設定した真空加熱処理を所定時間行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の亜麻仁の熱処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−254060(P2012−254060A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130303(P2011−130303)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(509246622)有限会社ヤスカネ・ジャパン (1)
【Fターム(参考)】