説明

交通量算出装置、交通量算出プログラム及び交通量算出方法

【課題】自由流(非渋滞)状態の交通量を正確に求める。
【解決手段】道路区間を走行する車両の速度データを収集し(S3)、収集した速度に基づいて、交通量と速度の所定の関係を用いて、当該道路区間の交通量を推定する(S4)。そして、この推定した交通量を、前記道路区間を走行する車両の加減速の発生回数若しくは発生時間間隔、前記道路区間を走行する車両の加速度の絶対値の最大値、前記道路区間を走行する車両の速度のばらつき、前記道路区間を走行する車両の車線変更回数、のいずれか1つ以上に基づいて補正する(S8,S9)。この補正は、例えば車両の加減速の発生回数であれば、加減速の発生回数が多い(少ない)ほど、その道路は混んで(空いて)いるという予測に基づいている。
【効果】交通量の算出精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両の時刻ごとの位置、速度、加速度などの情報を地上システムにアップリンクすることのできる車両を「プローブ車両」という。本発明は、プローブ車両の時刻ごとの位置、速度、加速度などの情報(プローブ情報という)を収集し、前記プローブ情報に基づいてプローブ車両の挙動解析を行い、その挙動から道路の交通量を算出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交通量は、道路の一地点における単位時間当たりの車両通過台数で定義され、道路の渋滞を把握し予測するために必要な情報である。道路が同一方向複数車線を有するときは、交通量を車線ごとに定義する場合もある。
交通量を直接計測するには、道路に車両感知センサを設置すればよいが、各道路で交通量をきめ細かく計測するには、多数の車両感知センサの設置が必要になり、莫大な費用がかかることになる。車両感知センサの設置を一部の主要道路に限れば、その主要道路だけの交通量しか分からず、道路全体の正確な交通状況の予測が行えない。
【特許文献1】特開2004-101504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、下記特許文献1のように道路を走行するプローブ車両のプローブ情報を利用して旅行時間を得ることが提案されているが、この旅行時間に基づき車両の速度を求め、速度から交通量を求めることが考えられる。
図5は、交通量Qと速度Vとの一般的な関係を示すグラフである。このグラフは、道路の渋滞の程度によって、自由流領域と渋滞領域に分けることができる。自由流領域では、速度Vは最大速度Vm(Vmはその道路の規制速度である)から低下していくに従って、交通量Qが大きくなる。その関係はほぼ直線式で表される。速度Vが臨界速度Vcに達すると、交通量は最大になる。このときの交通量Qを臨界交通量Qcという。臨界交通量Qcは、その道路が許容できる最大の交通量である。速度Vがさらに低下していくと、渋滞領域に入り、交通量Qは逆に臨界交通量Qcから低下していく。
【0004】
前記交通量Qと速度Vとの関係を示すグラフでは、自由流領域で交通量推定の精度が悪くなることが知られている。実際に、交通量を車両感知センサで計測し、交通量と車両の速度とで決まる座標点を図5のグラフ上にプロットすれば、自由流領域では、座標点のばらつきが顕著である。
道路の渋滞予測においては、事故などの突発事象が発生する前の自由流領域の交通量を把握することが重要であり、予測精度向上につながる。
【0005】
そこで、本発明は、自由流状態の交通量をより正確に求めることができる交通量算出装置、交通量算出プログラム及び交通量算出方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の交通量算出装置は、道路区間を走行する車両の速度データを収集するデータ収集手段と、前記データ収集手段により収集した速度に基づいて、交通量と速度の所定の関係を用いて、当該道路区間の交通量を推定する交通量推定手段と、(a)前記道路区間を走行する車両の加減速の発生回数若しくは発生時間間隔、(b)前記道路区間を走行する車両の加速度の絶対値の最大値、(c)前記道路区間を走行する車両の速度のばらつき、(d)前記道路区間を走行する車両の車線変更回数、のいずれか1つ以上に基づいて、前記推定された交通量を補正する交通量補正手段とを備えることを特徴とする(請求項1)。前記データ収集手段は、道路区間を走行する車両の速度データを直接収集してもよく、車両の位置データに基づいて速度を算出しその速度のデータを収集してもよい。
【0007】
この発明の構成によれば、道路区間を走行するプローブ車両の速度データに基づいて交通量を算出する場合に、その道路区間がどの程度混雑しているかを、前記(a)〜(d)に基づいて見積もり、その結果に基づいて、交通量と速度の所定の関係を用いて推定された交通量を補正することができる。したがって、交通量の算出精度を向上させることができる。ここで加速度とは、車両が加速するときの加速度と減速するときの加速度とを両方含むものとする。車両が加速するときの加速度の符号を正とし、減速するときの加速度の符号を負とする。
【0008】
前記交通量補正手段は、前記(c)の速度のばらつきに応じて、ばらつきが大きいほど交通量を多めに、ばらつきが少ないほど交通量を少なめに補正するものであってもよい(請求項2)。速度のばらつきが大きければ、その車両は、加減速を多数回行っていることになるので、道路区間の混雑の程度を推定することができる。そこでプローブ車両の速度のばらつきを考慮した補正を行い、その道路区間の交通量をより正確に算出することができる。
【0009】
車両の速度のばらつきは、例えば車両の速度分布の標準偏差又は移動平均値との差に基づいて数値的に決定することができる(請求項3)。
前記(a)の加減速の発生回数は、車両の加速度を検出又は算出し、その絶対値が所定値を超えた回数としてもよい(請求項5)。または、ブレーキを一定以上踏んだ回数、アクセルを一定以上踏み込んだ回数を加減速の発生回数としてもよい(請求項6)。
【0010】
前記交通量補正手段は、加減速の発生回数に応じて、発生回数が多いほど交通量を多めに、発生回数が少ないほど交通量を少なめに補正する(請求項4)。これは、加減速の発生回数が多いほどその道路は混んでいて、加減速の発生回数が少ないほどその道路は空いているという予測に基づいている。このようにして、交通量と速度の所定の関係を用いて得られる交通量に対して、加減速の発生回数を考慮した補正を行い、その道路区間の交通量をより正確に算出することができる。
【0011】
また、加減速の発生回数と加減速の発生時間間隔とは相関関係があるので、前記交通量補正手段は、加減速の発生時間間隔に応じて、発生時間間隔が短いほど交通量を多めに、発生時間間隔が長いほど交通量を少なめに補正するものであってもよい(請求項7)。
前記交通量補正手段は、車両の加速度の絶対値の最大値に応じて、最大値が大きいほど交通量を多めに、最大値が小さいほど交通量を少なめに補正するものであってもよい(請求項8)。道路区間を走行する車両の加速度の絶対値の最大値が大きければ大きいほど、その車両は急に減速し、若しくは急に加速したということになる。従って、道路が混んでいることが想定できるので、加速度の絶対値の最大値を考慮した補正を行い、その道路区間の交通量をより正確に算出することができる。
【0012】
前記交通量補正手段は、前記車線変更回数に応じて、車線変更回数が多いほど交通量を多めに、車線変更回数が少ないほど交通量を少なめに補正するものであってもよい(請求項9)。この補正は同一方向に複数車線のある道路で有効であるが、道路の混み具合は、車線変更回数と関連する。車線変更を頻繁にする車両が多いほど道路は混んでいるとすることができる。そこで、前記車線変更回数に応じて交通量を補正することにより、その道路区間の交通量をより正確に算出することができる。
【0013】
前記車線変更は、ステアリングの操作角又は方向指示器の操作に基づいて判定することができる(請求項10)。また、車線変更の判断は、高精度位置認識技術が確立し、高精度地図データベースが整備されていれば、車両の位置・軌跡情報に基づいて行うこともできる。
また、本発明の交通量算出プログラムは、コンピュータに格納されて実行されるプログラムであって、実質的に前記交通量算出装置の発明と同一の発明に係るプログラムである(請求項11)。
【0014】
また、本発明の交通量算出方法は、実質的に前記交通量算出装置の発明と同一の発明に係る方法である(請求項12)。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、プローブ車両で収集されたプローブ情報を用いて交通量を精度よく算出することができるとともに、プローブ車両を利用するので車両感知センサ等のインフラ設備への投資が不要のため、費用も少なくて済み、またプローブ車両が走行した全ての道路に対して交通量の収集ができる。
また本発明によれば、通常状態(自由流状態)での交通量を正確に算出できることにより、突発事象発生時の渋滞変化を精度よく予測することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の交通量算出装置を含む交通量算出システムの全体構成を示す図である。
交通量算出システムは、プローブ車両に搭載された車載装置1と、地上処理センター2とを含むものである。この地上処理センター2が交通量算出装置として機能する。なお車載装置1で交通量算出装置を構成することもでき、携帯電話機で交通量算出装置を構成することもできるので、その説明は後述する。
【0017】
車載装置1は、車両識別、車種識別のためのコードを持ち、このコードを用いて地上処理センター2と通信することができる。車載装置1は、時刻、当該車両の時刻ごとの位置、速度等のプローブ情報を取得し、取得されたプローブ情報を送信する。なお、車載装置1は、時刻ごとの位置の情報を送信してもよく、この場合速度の情報は、地上処理センター2で演算により求めることができる。
【0018】
地上処理センター2は、車載装置1から収集したプローブ情報を用いて道路区間(交差点から交差点までの道路をいう)の交通量(単位時間あたりの通過台数)を算出する。
車載装置1と地上処理センター2との間の通信手段としては、携帯電話機などの広域通信方式を用いることができる。また、路上通信機を介することを前提にするならば、車載装置1と路上通信機との間で、光ビーコン、無線LAN、DSRC(Dedicated Short Range Communication)等の、比較的エリアの狭い通信方式を用いることもでき、この場合、路上通信機と地上処理センター2との間は、専用通信回線で接続することになる。
【0019】
図2は、車載装置の内部構成を示すブロック図である。車載装置1は、地上処理センター2との間で路車間通信を行う通信機(携帯電話機など)11、人工衛星の電波を利用して時刻ごとの車両位置検出を行うGPS受信機13、車両の速度パルスに基づいて車両の速度データを得る車速センサ15、車両の方位データを得る方位センサ17、GPS受信機13、車速センサ15及び方位センサ17等から得られる各種データに基づいて車両の時刻ごとの位置、速度、加速度を算出する演算装置19、並びに算出された時刻ごとの位置、速度、加速度等のデータを一時的に記憶するメモリ21を備えている。
【0020】
演算装置19は、前記GPS受信機13、車速センサ15及び方位センサ17からデータを入力する他に、車両のステアリングを操作したこと、ブレーキを踏んだこと、アクセルを踏んだこと、方向指示器を動作させたこと、ヘッドライト(前方灯火)を点灯させたこと、ABSが作動したこと、ワイパーを動作させたことを、スイッチ若しくはアクチュエータにより検出して、その検出信号を入力している。これらのスイッチ若しくはアクチュエータを介して得られる情報を「車両補助情報」という。この明細書では、車両補助情報もプローブ情報の中に含めるものとする。
【0021】
図3は、地上処理センター2の内部構成を示すブロック図である。地上処理センター2は、プローブ情報を含む通信信号を受信する受信機31、通信信号の中からプローブ情報を抽出するデータ抽出部33、プローブ情報に基づいて交通量を算出する交通量算出部35、並びにリンクマッチング処理に用いる道路地図データ37を備えている。前記データ抽出部33が請求項記載の「データ収集手段」に相当する。
【0022】
この交通量算出部35の行う交通量算出処理を、フローチャート(図4)を用いて詳しく説明する。この処理機能の全部又は一部は、地上処理センター2のCD−ROMやハードディスクなど所定の媒体に記録された交通量算出プログラムを、地上処理センター2の交通量算出部35のコンピュータが実行することにより実現される。
まず、1台又は複数台のプローブ車両からプローブ情報を取得する(ステップS1)。そしてこれらのプローブ情報に基づいて、リンクマッチング処理(プローブ車両の軌跡を地図上の道路区間に沿わせるための処理)を行い(ステップS2)、プローブ車両が走行した道路区間及び走行した時間若しくは時間帯を特定する。
【0023】
ある道路区間とある時間帯に注目し、プローブ車両が当該道路区間を走行した距離と走行時間とに基づいて、当該時間帯における、当該道路区間の車両の速度Vを求める(ステップS3)。複数のプローブ車両から情報を集めた場合、各車両の速度の平均値を計算して平均速度Vを求める。
速度Vと交通量Qについては、図5に示したような関係が成立するので、交通量算出部35は、この関係に基づいて、交通量Qを算出することができる(ステップS4)。
【0024】
つぎに、交通量算出部35は、速度Vが自由流領域の速度であるかどうか判定する(ステップS5)。例えば最大速度Vmを76km/hとし、臨界速度Vcを42km/hとすると、速度Vの範囲が42km/hから76km/hまでであれば、自由流領域とする。
自由流領域の場合、交通量Qと速度Vとの関係は、図5に示したように基本的に一次式で表される。その関係を式で表せば、例えば次のようになる。
【0025】
V=76−0.02Q,又は Q=3800−50V (1)
ただし、速度Vの単位はkm/h、交通量Qの単位は台/時とする。
ところが、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、速度Vを直線式に当てはめても、交通量Qの誤差が多いことが分かっている。
そこで本発明の実施の形態では、前記(1)式で推定された交通量Qの値について、以下の(1)〜(4)のいずれかの方法により補正をかける。
【0026】
(1)加減速の発生回数
当該道路区間を走行する車両の加減速の発生回数に基づいて、交通量Qを補正する。
この加減速の発生回数に基づく補正を行うため、交通量算出部35は、プローブ情報に基づいて当該プローブ車両の加速度を求める(ステップS6)。この求め方は、プローブ情報に加速度情報が入っていればそれを用いる。プローブ情報に加速度情報が入っていない場合は、当該プローブ車両の速度を微分して求めても良い。なお加速度は正負の値をとり、加速時には正になり、減速時には負になる。
【0027】
加速度の絶対値が例えば0.3G(Gは重力加速度)を超えたとき、加減速の発生回数を1回と数える。なお複数のプローブ車両が当該道路区間を走行しているときは、各プローブ車両の加減速の発生回数の平均値、最大値、最頻値、パーセンタイル値などをとるものとする。
また、加速度を求めることに代えて、走行時の車両補助情報(ブレーキ情報、アクセル情報)を考慮して、ブレーキを一定以上踏んだ回数、アクセルを一定以上踏み込んだ回数を加減速の発生回数としてもよい。
【0028】
次に交通量の補正を行う。道路区間にわたって、プローブ車両の前記加減速の発生回数を規定回数(しきい値)と比較する(ステップS7)。例えば0回以上1回未満のとき、車両はスムーズに流れているとみなすこととし、補正後の交通量Q′を、Q′=0.8Qとする(ステップS8)。加減速の発生回数が1回以上2回未満のとき、Q′=Qとする。前記加減速の発生回数が2回以上のときQ′=1.2Qとする(ステップS9)。前記1回、2回がしきい値となる。なお、前記しきい値や前記交通量Qに掛ける係数の値は例示であり、道路区間の長さ等により適切な値を設定することが望ましい。ただし、補正後の交通量Q′は、飽和交通量Qcを超えないものとする。他の道路区間についても同様の判定をし(ステップS10)、他の時間帯においても同様の判定をする。
【0029】
このようにして、道路区間ごと時間帯ごとに、交通がスムーズに流れているかどうかを加減速の発生回数で評価し、加減速の発生回数に応じて、発生回数が多いほど交通量Qを多めに、発生回数が少ないほど交通量Qを少なめに補正することができる。なお、交通量Qに対して一定値を積算する代わりに、一定値を加減算してもよい。
(1′)加減速の発生時間間隔
前記(1)の変形として、加速度の発生回数の代わりに、加減速の発生時間間隔を求めてもよい。複数のプローブ車両が道路区間を走行しているときは、各プローブ車両の加減速の発生時間間隔の平均値、最大値、最頻値、パーセンタイル値などをとるものとする。
【0030】
補正式は、道路区間内での加減速の発生時間間隔T(分)をしきい値と比較する。下記1分、3分がしきい値となる。
T < 1 : Q′=1.2Q
1 ≦ T < 3 : Q′=Q
3 ≦ T : Q′=0.8Q
とする。上の式によれば、加減速が平均して1分以内に発生しているとき、道路は混んでいるとみなして、交通量Qを多めに補正する。加減速が平均して3分以上の間隔で発生しているとき、道路は空いているとみなして、交通量Qを少なめに補正する。加減速が1分以上3分未満の間隔で発生しているとき補正しない。ただし補正後の交通量Q′は、飽和交通量Qcを超えないものとする。なお、交通量Qに対して一定値を積算する代わりに、一定値を加減算してもよい。また、前記加減速の発生時間間隔Tと比較するしきい値(1分、3分)や、交通量Qに掛ける係数の値(1.2, 0.8)は例示であり、道路区間の長さ等により適切な値を設定することが望ましい。
【0031】
(2)加速度の絶対値の最大値
道路区間での加速度の絶対値の最大値をAとする。なお複数のプローブ車両が道路区間を走行しているときは、各プローブ車両の加速度の絶対値の最大値Aの平均値、最大値、最頻値、パーセンタイル値などをとるものとする。この絶対値の最大値Aに応じて、交通量Qの補正をかける。最大値Aと比較される下記0.2G、0.3Gがしきい値となる。
【0032】
A<0.2G : Q′=0.8Q
0.2G≦A<0.3G : Q′=Q
0.3G≦A : Q′=1.2Q
この補正方法は、交通の流れを、発生した加速度の絶対値の最大値で評価するものである。例えば車両がブレーキを強く踏んだとき、あるいは強く加速したとき、大きな最大値Aが発生するので、その道路区間を混んでいるとみなして、交通量Qを多めに補正する。車両がいつも軽くブレーキ、アクセルを踏んでいれば、最大値Aは小さいので、その道路区間を空いているとみなして、交通量Qを少なめに補正する。ただし補正後の交通量Q′は、飽和交通量Qcを超えないものとする。なお、交通量Qに対して一定値を積算する代わりに、一定値を加減算してもよい。また、前記加速度の絶対値の最大値Aと比較するしきい値(0.2G、0.3G)や、交通量Qに掛ける係数の値(1.2, 0.8)は例示であり、適宜設定される値である。
【0033】
(3)速度のばらつき
速度のばらつきに応じて交通量を補正することもできる。
速度のばらつきは、いろいろな指標で表すことができるが、まずは標準偏差σで表す場合について説明をする。
一般に、統計データをxi(i=1,2,...,N)としたとき、その平均値μと標準偏差σは、次のように算出される。
【0034】
μ = Σ (xi/N),
σ2= (Σ (xi - μ)2)/(N−1)
道路区間内でのプローブ車両の速度Vの標準偏差σ(単位km/h)に応じて、交通量Qの補正をかける。複数のプローブ車両が道路区間を走行しているときは、各プローブ車両の速度の標準偏差σの平均値、最大値、最頻値、パーセンタイル値などをとるものとする。下記の式で6km/h、10km/hがしきい値となる。
【0035】
σ < 6 : Q′=0.8Q
6 ≦ σ < 10 : Q′=Q
10 ≦ σ : Q′=1.2Q
この式によれば、車両が加減速を頻繁に行わず、標準偏差σが小さい、つまり速度のばらつきが小さいとき、道路が比較的空いているとみなして交通量を小さめに補正する。車両が加減速を頻繁に行って標準偏差σが大きい、つまり速度のばらつきが大きいとき、道路が比較的混んでいるとみなして、交通量を大きめに補正する。ただし補正後の交通量Q′は、飽和交通量Qcを超えないものとする。なお、交通量Qに対して一定値を積算する代わりに、一定値を加減算してもよい。
【0036】
なお、前記標準偏差σと比較するしきい値(6km/h、10km/h)や、交通量Qに掛ける係数の値(1.2, 0.8)は例示である。
次に、速度のばらつきを評価する指標として「移動平均値との差」を用いる場合を詳しく説明する。速度データをxi(i=1,2,...,N)とし、その移動平均値をx’i(i=1,2,...,N)とする。移動平均をとるときの平均回数は任意に選べるが、例えば直近の5回とする。移動平均のとり方は単純な5回平均でもよいが、それ以外に直近のデータほど重みをつけてもよく、前回の移動平均値を今回の移動平均値に加味するという方法でもよい。
【0037】
移動平均値が求まれば、速度データxiとその移動平均値x’i との差の2乗平均値偏差(以下「差分平均値」という)Mを次のように算出する(総和Σは1からNまでとる)。
M=SQRT{ (1/N)Σ (xi- x’i )2
この差分平均値Mが大きいほど速度のばらつきが大きく、交通量が多いと考えることができる。そこで、各速度と差分平均値Mとの値に応じて、交通量Qの補正を行う。例えば、下記の式で2km/h、4km/hをしきい値とする。
【0038】
M<2 : Q′=0.8Q
2≦M< 4 : Q′=Q
4≦M : Q′=1.2Q
この式によれば、車両が加減速を頻繁に行わず、差分平均値Mが小さい、つまり速度のばらつきが小さいとき、道路が比較的空いているとみなして交通量を小さめに補正する。車両が加減速を頻繁に行って差分平均値Mが大きい、つまり速度のばらつきが大きいとき、道路が比較的混んでいるとみなして、交通量を大きめに補正する。ただし補正後の交通量Q′は、飽和交通量Qcを超えないものとする。なお、交通量Qに対して一定値を積算する代わりに、一定値を加減算してもよい。
【0039】
上の例では、速度のばらつきを評価する指標として標準偏差σと差分平均値Mとをあげたが、これ以外に、レンジ(範囲)、尖度などを用いても良い。
(4)車線変更回数
同一方向に複数車線を有する道路区間での車線変更回数に応じて交通量Qの補正を行う。なお複数のプローブ車両が道路区間を走行しているときは、各プローブ車両の車線変更回数の平均値、最大値、最頻値、パーセンタイル値などをとるものとする。
【0040】
車線変更は、車両のステアリングの操作角に基づいて判断することができる。すなわち、直進状態からステアリングを一定角度以上右又は左に回し、その状態を所定時間範囲で保持し、その後ステアリングを逆方向に一定角度以上回し、その状態を所定時間範囲保持し、その後直進に戻した場合、車線変更回数1回と数えることができる。
また、走行時の車両補助情報(方向指示器情報)を考慮して車線変更を判断しても良い。右又は左の方向指示器が操作され、その状態を所定時間範囲保持し、その後方向指示器が解除されたとき車線変更回数1回と数える。また、車線変更の判断は、高精度位置認識技術が確立し、高精度地図データベースが整備されていれば、車両の位置・軌跡情報に基づいて行うこともできる。
【0041】
なお、車両は右折又は左折する場合も、車両は方向指示器を点灯するので右折又は左折を車線変更と誤検知するおそれもある。そこでこの場合、交差点、分岐地点など道路区間の形状の特徴により、交差点、分岐地点に近い場所ではプローブ情報に基づいて交通量を算出しないようにするとよい(交通量を算出しない条件については後述する)。これによって、右折又は左折を車線変更と誤検知するおそれはなくなる。
【0042】
交通量Qの補正は、車線変更回数Nに応じて、
N < 1 : Q′=0.8Q
1 ≦ N < 2 : Q′=Q
2 ≦ N : Q′=1.2Q
という具合にして行う。前記1回、2回がしきい値となる。ほとんどの車両が車線変更をしなかった場合、つまり車線変更回数Nが1未満のとき、道路が比較的空いているとみなして、交通量を小さめに補正する。車両が車線変更を2回以上しているとき、道路が比較的混んでいるとみなして、交通量を大きめに補正する。ただし、補正後の交通量Q′は、飽和交通量Qcを超えないものとする。なお、交通量Qに対して一定値を積算する代わりに、一定値を加減算してもよい。
【0043】
(5)交通量の補正をする際に考慮すべき事項
走行時の車両補助情報のうち、ライト情報、ABS作動情報、ワイパー情報を考慮して、ライト点灯時(夜間)、ABS作動時(凍結)、ワイパー作動時(雨天)は、走行速度が全体的に低くなるため、加減速発生回数のしきい値、加減速発生時間間隔のしきい値、加速度最大値のしきい値、速度ばらつきのしきい値、車線変更回数のしきい値(これらのしきい値をまとめて「各種しきい値」という)を通常より小さな値にして判定を行うとよい。
【0044】
また、外部環境の状況(気象情報、昼/夜等)を考慮して、各種しきい値を変化させても良い。例えば、雨天時、夜間は、走行速度が低くなるため、各種しきい値を通常より小さな値にして判定を行うとよい。
また、道路区間の道路種別(高速道路(都市間、都市内)/国道/主要道/細街路等)、リンク種別(本線/連結道/ランプ道等)、道幅を考慮して、各種しきい値を変化させても良い。例えば、種別ごとのしきい値の大きさは、以下のとおりとする。
【0045】
道路種別: 都市間高速>都市内高速>国道>主要道>細街路
リンク種別: 本線>連結路>ランプ道
道幅: 広い道>狭い道。
また、道路形状(直線、カーブ地点、カーブ手前、上り、下り等)を考慮して、各種しきい値を変化させても良い。例えば、形状ごとのしきい値の大きさは、以下のとおりとする。
【0046】
道路形状: 本線(下り)>本線(上り)>カーブ手前>カーブ地点。
また、道路区間の特徴(信号機の有無、交差点、分岐地点、車線数変化点、カーブ地点その手前、トンネル、踏み切り、料金所)を考慮して、例えば、信号機手前、分岐地点、車線数変化点、カーブ地点手前、トンネル、踏み切り、料金所では交通量の算出を中止することが好ましい。このような場所では、大きな加速度が発生したり、車両の走行方向が大きく変化したりするので、交通量を補正するのに適さないからである。
【0047】
また、ドライバごとに過去の走行情報を保持しておき、当該道路区間を頻繁に走行するドライバについて、そのドライバの加減速の発生回数や速度の標準偏差と、実際の交通量の相関関係の統計データを作成しておき、そのドライバが走行した情報と統計データの比較により交通量の推定を行うようにしてもよい。
以上のようにして、交通量算出部35は、交通量算出の対象とした道路区間について、交通量を補正することができる。交通量算出の対象としない他の道路区間については、交通量の変化が走行速度に顕著に現れる道路区間の交通量に基づいて、交通量の推定を行うようにしてもよい。具体的には、都市内高速道路のような特定路線内で、道路区間ごとに加減速の発生回数、速度の標準偏差等と交通量の相関関係のデータを作成し、相関が顕著に現れる区間についてプローブ情報から交通量の推定を行い、その交通量の情報を他の区間にも適用する。
【0048】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば、いままでの説明では、道路区間のQ−V関係式を、どの道路区間に対しても同じ形で直線近似していたが、直線の傾き、切片などは道路種別(例えば、都市間高速、都市内高速、一般道路)に応じて最適値に設定することが好ましい。また、直線近似に限らず、あらかじめ計測した実測データに基づいて最小二乗法などで算出した曲線式を近似式として使用してもよい。また、Q−V関係式を、道路種別ごと(例えば、都市間高速、都市内高速、一般道路)に応じて設定するだけでなく、各路線(国道何号線など)単位で交通量の実測値とプローブ情報から得られる速度情報からQ−V関係式を作成しておいてもよい。
【0049】
さらに、いままでの説明では、プローブ情報の収集処理と交通量算出処理はすべて地上処理センター2で行っていたが、これらの処理をすべて車載装置で行っても良い。また、GPS位置検出機能を有する携帯電話機を用いて、プローブ情報の収集処理と交通量算出処理を当該携帯電話機で行っても良い。
この車載装置単独で行う交通量算出処理を、図6を参照して説明する。
【0050】
図6は、プローブ情報の取得と交通量算出処理を行う車載装置のブロック図であり、車載装置1は、GPS受信機13、車速センサ15及び方位センサ17等から得られる各種データに基づいて車両の位置、速度、加速度を算出する演算装置19、並びに車両の位置、速度、加速度に基づいて交通量を算出する交通量算出部35、並びにリンクマッチング処理に用いる道路地図データ37を備えている。各ブロックの機能は、図2の装置構成と図3の装置構成においてすでに説明したとおりである。この図6の実施形態では、車載装置1単独で交通量を算出することができるところに特徴がある。なお、他のプローブ車両との間で車々間通信を行うことができる車載装置であれば、他のプローブ車両のプローブ情報を受信して、複数のプローブ情報を用いてさらに正確に交通量の補正を行うこともできる。
【0051】
携帯電話機単独で交通量算出処理を行う構成を、図7を参照して説明する。図10は、プローブ情報の取得と交通量算出処理とを行う携帯電話機1′のブロック図であり、携帯電話機1′は、内蔵するGPS受信機13から得られるデータに基づいて車両の位置を算出し、位置の変化に基づいて速度を算出し、速度の変化に基づいて加速度を算出する演算装置19、並びに車両の位置、速度、加速度に基づいて交通量を算出し出力する交通量算出部35、並びにリンクマッチング処理に用いる道路地図データ37を備えている。各ブロックの機能は、図2の装置構成と図6の装置構成においてすでに説明したとおりである。算出した交通量の情報は、携帯電話機の画面などに出力し表示したり、外部に送信したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の交通量算出装置の全体構成を示す図である。
【図2】車載装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】地上処理センターの内部構成を示すブロック図である。
【図4】車両の加減速の発生回数に基づく交通量算出処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】交通量Qと速度Vとの一般的な関係を示すグラフである。
【図6】プローブ情報の取得と交通量算出処理を行う車載装置のブロック図である。
【図7】プローブ情報の取得と交通量算出処理を行う携帯電話機のブロック図である。
【符号の説明】
【0053】
1 車載装置
1′携帯電話機
2 地上処理センター
11 通信機
13 GPS受信機
15 車速センサ
17 方位センサ
19 演算装置
21 メモリ
31 受信機
33 データ抽出部
35 交通量算出部
37 道路地図データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路区間を走行する車両の速度データを収集するデータ収集手段と、
前記データ収集手段により収集した速度に基づいて、交通量と速度の所定の関係を用いて、当該道路区間の交通量を推定する交通量推定手段と、
次の(a)〜(d)のいずれか1つ以上に基づいて、前記推定された交通量を補正する交通量補正手段とを備えることを特徴とする交通量算出装置。
(a)前記道路区間を走行する車両の加減速の発生回数若しくは発生時間間隔、
(b)前記道路区間を走行する車両の加速度の絶対値の最大値、
(c)前記道路区間を走行する車両の速度のばらつき、
(d)前記道路区間を走行する車両の車線変更回数。
【請求項2】
前記交通量補正手段は、前記速度のばらつきに応じて、ばらつきが大きいほど交通量を多めに、ばらつきが少ないほど交通量を少なめに補正するものである請求項1記載の交通量算出装置。
【請求項3】
前記車両の速度のばらつきは、車両の速度分布の標準偏差又は移動平均値との差を算出することによって求められる請求項1又は請求項2記載の交通量算出装置。
【請求項4】
前記交通量補正手段は、加減速の発生回数に応じて、発生回数が多いほど交通量を多めに、発生回数が少ないほど交通量を少なめに補正するものである請求項1記載の交通量算出装置。
【請求項5】
車両の加速度の絶対値が所定値を超えた回数を前記車両の加減速の発生回数とする請求項1記載の交通量算出装置。
【請求項6】
ブレーキを踏み込んだ回数、アクセルを踏み込んだ回数を加減速の発生回数とする請求項1記載の交通量算出装置。
【請求項7】
前記交通量補正手段は、加減速の発生時間間隔に応じて、発生時間間隔が短いほど交通量を多めに、発生時間間隔が長いほど交通量を少なめに補正するものである請求項1記載の交通量算出装置。
【請求項8】
前記交通量補正手段は、車両の加速度の絶対値の最大値に応じて、最大値が大きいほど交通量を多めに、最大値が小さいほど交通量を少なめに補正するものである請求項1記載の交通量算出装置。
【請求項9】
前記交通量補正手段は、前記車線変更回数に応じて、車線変更回数が多いほど交通量を多めに、車線変更回数が少ないほど交通量を少なめに補正するものである請求項1記載の交通量算出装置。
【請求項10】
前記交通量補正手段は、ステアリングの操作角又は方向指示器の操作に基づいて車両の車線変更を判定する請求項1又は請求項9記載の交通量算出装置。
【請求項11】
コンピュータに格納されることによって実行される交通量算出プログラムであって、
道路区間を走行する車両の速度データを収集するステップと、
前記データ収集手段により収集した速度に基づいて、交通量と速度の所定の関係を用いて、当該道路区間の交通量を推定するステップと、
次の(a)〜(d)のいずれか1つ以上に基づいて、前記推定された交通量を補正するステップとを備えることを特徴とする交通量算出プログラム。
(a)前記道路区間を走行する車両の加減速の発生回数若しくは発生時間間隔、
(b)前記道路区間を走行する車両の加速度の絶対値の最大値、
(c)前記道路区間を走行する車両の速度のばらつき、
(d)前記道路区間を走行する車両の車線変更回数。
【請求項12】
道路区間を走行する車両の速度データを収集するデータ収集手順と、
前記データ収集手段により収集した速度に基づいて、交通量と速度の所定の関係を用いて、当該道路区間の交通量を推定する交通量推定手順と、
次の(a)〜(d)のいずれか1つ以上に基づいて、前記推定された交通量を補正する交通量補正手順とを実行することを特徴とする交通量算出方法。
(a)前記道路区間を走行する車両の加減速の発生回数若しくは発生時間間隔、
(b)前記道路区間を走行する車両の加速度の絶対値の最大値、
(c)前記道路区間を走行する車両の速度のばらつき、
(d)前記道路区間を走行する車両の車線変更回数。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−140007(P2009−140007A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312551(P2007−312551)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504126112)住友電工システムソリューション株式会社 (78)
【Fターム(参考)】