説明

人体検知装置

【課題】省電力化を図りつつも簡便な装置構成で、検知領域における使用者の存在有無を正確に検知することが可能な人体検知装置を提供すること。
【解決手段】この人体検知装置1は、ドップラー信号生成部4が、第一周期毎に、第一周期に比較して十分に短い第二周期間隔で、少なくとも2以上である複数のドップラー信号を生成する第一生成モードを実行し、行動判定部6は、第一周期毎に複数のドップラー信号それぞれの振幅強度と第一閾値とを比較し、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定する第一判定モードを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定方向に伝播波を送り出すことで使用者の存在を検知する人体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波ドップラーセンサーなどのドップラーセンサーを用いて人体を検知することが行われている。マイクロ波ドップラーセンサーは、マイクロ波を伝播波として送信し、対象物によって反射したマイクロ波を受信することにより、対象物の動きを検出するものである。
【0003】
マイクロ波ドップラーセンサーは、センサーから送信するマイクロ波の周波数と、センサーから送信したマイクロ波が人体などの対象物によって反射してセンサーにより受信される信号の周波数との差分信号からドップラー信号を生成するものである。このドップラー信号は、対象物の動き(例えば、対象物の接近や対象物の離反)を表す信号である。従って、このドップラー信号から対象物の動きを検出することができる。
【0004】
マイクロ波ドップラーセンサーにおいては、対象物の動きを検出するため、ドップラー信号の周波数成分及びその大きさを抽出するための処理を行わなければならない。しかしながら、人体などの対象物が接近したり離反したりする時刻は一定でないことから、ドップラーセンサーを常時動作させておく必要がある。すなわち、対象物の動きの検出を適切に行うためには、ドップラーセンサーを常に動作状態にしていた。そのため、ドップラーセンサーを動作するための電力及びドップラー信号の処理のための電力を常に消費することになっていた。
【0005】
このようなマイクロ波ドップラーセンサーの省電力化を目的として、下記特許文献1に記載の技術が提案されている。下記特許文献1に記載の人体検知装置では、センサー出力に含まれる定在波信号に基づいて対象物の存在を検出する第1検出手段と、センサー出力に含まれるドップラー信号に基づいて対象物の動きを検出する第2検出手段と、を有し、第1検出手段の出力に応じて、第2検出手段を動作させるものとしている。
【0006】
具体的には、マイクロ波ドップラーセンサーは、小便器の上部背面側から正面側のボール部に向けて電波を送信するために10.525GHzの電気信号である送信信号を生成する発振回路と、発振回路から出力される送信信号を10.525GHzのマイクロ波として送信する送信手段と、送信手段から送信されたマイクロ波が検出対象物によって反射され、その反射波を受信して電気信号に変換した受信信号を出力する受信手段と、送信信号と受信信号とを混合(ミキシング)して出力するミキシング手段とから構成されている。
【0007】
更に、制御部は、ミキシング手段からのセンサー出力を利用して給水バルブを制御し、小便器のボール部内に洗浄水を供給するために、ローパスフィルター部、アンプ部、人体帯域フィルター部、尿流帯域フィルター部、定在波検出部、対象物検出部、給水バルブ制御部、記憶部、センサー制御部、供給頻度検出部等を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−31825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来の技術では、第1検出手段において、センサー出力に含まれる特許文献1にて定義の定在波信号(以下同じ)に基づいて対象物の存在を検出するものであるから、ローパスフィルター部や人体帯域フィルター部のような抽出手段が必要となる。具体的には、ローパスフィルター部は、センサー出力から送信信号や受信信号の周波数帯域成分を除去する。アンプ部は、ローパスフィルター部によって高周波帯域が除去された信号を増幅して出力する。人体帯域フィルター部は、アンプ部によって増幅された信号の周波数成分のうち、人体検出に不要な周波数帯域(50Hzを超える周波数帯域)を除去するフィルターであり、この人体帯域フィルター部により人体検出用ドップラー信号を抽出する。
【0010】
このように従来の技術では、抽出手段によって回路構成が複雑なものとなる傾向にある。更に、ドップラーセンサーにおいては、そのベース出力(振幅強度)がセンサー素子の温度特性によって変動するものである。定在波は検知対象が遠くにいればいるほど小さくなるため、遠くにいる検知対象を正確に検知しようとすれば、定在波信号を用いた場合に出力変動を無視することができない。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、省電力化を図りつつも簡便な装置構成で、検知領域における使用者の存在有無を正確に検知することが可能な人体検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る人体検知装置は、所定方向に伝播波を送り出すことで使用者の存在を検知する人体検知装置であって、使用者の存在を検知しようとする検知領域に伝播波を送信する伝播波送信部と、使用者によって反射された伝播波を受信する伝播波受信部と、前記伝播波送信部によって送信された伝播波と、前記伝播波受信部によって受信された伝播波とに基づいてドップラー信号を生成するドップラー信号生成部と、前記ドップラー信号生成部が生成したドップラー信号に基づいて、使用者の状況を判定する判定部と、を備える。前記ドップラー信号生成部は、第一周期毎に、前記第一周期に比較して十分に短い第二周期間隔で、少なくとも2以上である複数のドップラー信号を生成する第一生成モードを実行する。前記判定部は、前記第一周期毎に前記複数のドップラー信号それぞれの振幅強度と第一閾値とを比較し、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定する第一判定モードを実行する。
【0013】
本発明によれば、第一周期よりも十分に短い第二周期間隔で、少なくとも2以上である複数のドップラー信号を生成する第一生成モードを実行し、その複数のドップラー信号それぞれの振幅強度を用いて使用者が検知領域に存在しているか否かを判定する第一判定モードを実行することができる。ドップラー信号はその特性上、使用者の移動速度が異なる場合、伝播送信部及び伝播波受信部と測定対象である使用者との距離が同じ場合であっても、生成されるドップラー信号は異なるものとなる。これは、ドップラー信号が使用者の移動速度に応じて変動し、異なる位置で波形の節や腹を形成することに起因するものである。
【0014】
そこで本発明では上述したように、第一周期毎に複数のドップラー信号を生成し、その第一周期毎に複数のドップラー信号それぞれの振幅強度と第一閾値とを比較して、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定するので、複数のドップラー信号を連続して生成することなく、間欠的に生成して使用者の存在有無を把握することができる。更に、第一周期毎に、その第一周期よりも十分に短い第二周期間隔で複数のドップラー信号を生成し、その十分に短い第二周期間隔で生成されたドップラー信号を利用するので、いずれか一方が波形の節となるようなドップラー信号であっても、他方が波形の腹または腹近傍の大きな振幅領域となるようなドップラー信号とできる。これは本発明の人体検知装置の検知対象である人の移動速度が、ある領域内の値となるために、ドップラー信号も限られた周波数領域内になり、その周波数特性を考慮し、第二周期間隔を最適に設定することで可能となる。従って、波形の腹となるドップラー信号を確実に用いて、その振幅強度と第一閾値とを比較し、使用者が検知領域に存在しているか否かを確実に判断することができる。
【0015】
このように本発明によれば、複数のドップラー信号を第一周期毎に生成することで省電力化を図りつつも、その第一周期毎に第一周期よりも十分に短い第二周期間隔で複数のドップラー信号を生成するという簡便な装置構成で、検知領域における使用者の存在有無を正確に検知することができる。
【0016】
また本発明に係る人体検知装置では、前記ドップラー信号生成部は、前記複数のドップラー信号それぞれを、所定間隔に生成されるドップラー信号の差を取った差分ドップラー信号によって生成し、前記判定部は、複数の前記差分ドップラー信号それぞれの振幅強度と、前記第一閾値とを比較して、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定することも好ましい。
【0017】
この好ましい態様のように、所定間隔に生成されるドップラー信号の差を取ると、伝播波送信部及び伝播波受信部を構成するセンサー素子の温度特性によるベース出力の変動の影響を相殺することができ、使用者の移動に起因するドップラー信号の変動のみを検出することができる。そこで、所定間隔に生成されるドップラー信号の差を取った差分ドップラー信号と第一閾値とを比較し、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定するので、センサー素子に起因するノイズをキャンセルして、より遠方からの使用者の接近有無も検知することが可能となる。
【0018】
また本発明に係る人体検知装置では、前記判定部が前記第一判定モードにおいて、前記第一周期毎に前記第二周期間隔で生成される複数のドップラー信号のいずれか一つが、前記第一閾値よりも小さい第二閾値を越えたと判定した場合に、前記ドップラー信号生成部は、前記第一周期よりも短い第三周期毎に、前記第三周期に比較して十分に短い第四周期間隔で、少なくとも2以上である複数のドップラー信号を生成する第二生成モードを実行し、前記判定部は、前記第三周期毎に前記複数のドップラー信号それぞれの振幅強度と前記第一閾値とを比較し、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定する第二判定モードを実行することも好ましい。
【0019】
この好ましい態様では、第一判定モードにおいて、第一周期毎に第二周期間隔で生成される複数のドップラー信号のいずれもが第一閾値を超えない場合であっても、その第一閾値よりも小さい第二閾値を超えたと判定した場合に、第二判定モードに移行するので、より迅速に使用者が検知領域に存在しているか否かを判定することができる。第二判定モードでは、第一周期よりも短い第三周期毎に、第三周期に比較して十分に短い第四周期間隔で、複数のドップラー信号を生成するので、第一判定モードよりも短い時間で判定を完了させることができる。
【0020】
また本発明に係る人体検知装置では、前記判定部が、前記第二判定モードの実行中において、所定周期連続して使用者が検知領域に存在しないと判定した場合に、前記ドップラー信号生成部は前記第一生成モードの実行に移行すると共に、前記判定部は前記第一判定モードの実行に移行することも好ましい。
【0021】
上述したように第二判定モードは、第一判定モードにおいて使用者が検知領域に存在しているか否かを検知できなかった場合であっても、迅速に検知を完了させるためのモードである。従って、実際に使用者が検知領域に存在しない場合であっても、第二判定モードに移行する場合がある。そこでこの好ましい態様では、第二判定モードの実行中において、所定周期連続して使用者が検知領域に存在しないと判定した場合に、ドップラー信号生成部は第一生成モードの実行に移行すると共に、判定部は第一判定モードの実行に移行することで、通常の検知モードに戻ることができ、省電力状態に移行することができる。
【0022】
また本発明に係る人体検知装置では、前記判定部が、前記第一判定モードの実行によって使用者が検知領域に存在していると判定すると、前記ドップラー信号生成部は、前記第一周期よりも短い第五周期毎に、ドップラー信号を生成する第三生成モードを実行し、前記判定部は、前記第五周期毎に使用者の行動態様を判定する第三判定モードを実行することも好ましい。
【0023】
この好ましい態様では、第一判定モードの実行によって、使用者が検知領域に存在している判定すると、第三生成モード及び第三判定モードの実行に移行し、使用者の行動態様を判定する。第三生成モードでは、第一周期よりも短い第五周期毎にドップラー信号の生成を実行し、第三判定モードでは、その第五周期毎に使用者の行動態様を判定するので、短い周期で確実に使用者の行動態様を判定することができる。
【0024】
また本発明に係る人体検知装置では、前記判定部が、前記第三判定モードの実行によって使用者が検知領域から離隔することを判定すると、前記ドップラー信号生成部は前記第一生成モードの実行に移行すると共に、前記判定部は前記第一判定モードの実行に移行することも好ましい。
【0025】
この好ましい態様では、第三判定モードの実行によって、使用者が検知領域から離隔したと判定すると、ドップラー信号生成部は第一生成モードの実行に移行すると共に、判定部は第一判定モードの実行に移行することで、通常の検知モードに戻ることができ、省電力状態に移行することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、省電力化を図りつつも簡便な装置構成で、検知領域における使用者の存在有無を正確に検知することが可能な人体検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る人体検知装置の機能的な構成を示すブロック構成図である。
【図2】検知領域における使用者の存在有無を判定するためのフローチャートである。
【図3】伝播波の送信態様とデータ取得態様の一例を示す図である。
【図4】伝播波の送信態様とデータ取得態様の一例を示す図である。
【図5】使用者が近接静止するまでの判定を行うフローチャートである。
【図6】伝播波の送信態様とデータ取得態様の一例を示す図である。
【図7】伝播波の送信態様とデータ取得態様の一例を示す図である。
【図8】手洗器に用いた場合の、使用状況の判定を行うフローチャートである。
【図9】大便器に用いた場合の、使用状況の判定を行うフローチャートである。
【図10】使用者が退去するまでの判定を行うフローチャートである。
【図11】大便器に使用者が近づく際の差分ドップラー信号の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0029】
本発明の実施形態に係る人体検知装置について図1を参照しながら説明する。図1は、実施形態に係る人体検知装置1の機能的な構成を示すブロック構成図である。図1に示すように、人体検知装置1は、伝播波送信部2と、伝播波受信部3と、ドップラー信号生成部4と、ドップラー信号算出部5(ドップラー信号生成部)と、行動判定部6(判定部)と、を備えている。
【0030】
人体検知装置1は、所定方向に伝播波を送り出すことで使用者の存在及び行動態様を検知する装置である。人体検知装置1は、使用者の存在及び行動態様を検知しようとする検知領域に伝播波を送信して人体検知を行うものである。例えば、人体検知装置1が、手洗器に設置される場合には、使用者が手洗器を使用する際の立ち位置を含む領域に、伝播波としてのマイクロ波を送信する。例えば、人体検知装置1が、大便器に設置される場合には、使用者が大便器を立位使用する際の立ち位置及び着座使用する際の着座位置を含む領域に、伝播波としてのマイクロ波を送信する。
【0031】
続いて、各機能部分について説明する。伝播波送信部2は、使用者の存在を検知しようとする検知領域に伝播波を送信する部分である。伝播波送信部2は、送信した伝播波の情報をドップラー信号生成部4に出力する。
【0032】
伝播波受信部3は、使用者によって反射された伝播波を受信する部分である。伝播波受信部3は、受信した伝播波の情報をドップラー信号生成部4に出力する。
【0033】
ドップラー信号生成部4は、伝播波送信部2によって送信された伝播波と、伝播波受信部3によって受信された伝播波とに基づいてドップラー信号を生成する部分である。ドップラー信号生成部4は、生成したドップラー信号をドップラー信号算出部5に出力する。
【0034】
ドップラー信号算出部5は、ドップラー信号生成部4が生成したドップラー信号に基づいて、差分ドップラー信号を生成する。ドップラー信号算出部5は、差分ドップラー信号を生成しない場合は、ドップラー信号生成部4が生成して出力したドップラー信号を、そのまま行動判定部6に出力する。ドップラー信号算出部5は、差分ドップラー信号を生成する際には、時系列に沿った少なくとも一対のドップラー信号の差を取り、差分ドップラー信号を生成する。
【0035】
行動判定部6は、ドップラー信号生成部4が生成したドップラー信号又はドップラー信号算出部5が算出した差分ドップラー信号に基づいて、使用者の状況を判定する部分である。行動判定部6は、ドップラー信号又は差分ドップラー信号に基づいて、使用者の存在及び行動態様を判定する部分である。
【0036】
続いて、所定方向に伝播波を送り出すことで使用者の存在を検知するフローについて、図2を参照しながら説明する。図2は、検知領域における使用者の存在有無を判定するためのフローチャートである。
【0037】
ステップS01では、センサー駆動周期を1s(第一周期)と設定する。ステップS02では、センサー駆動時期か否かを判断する。センサー駆動時期であれば、伝播波送信部2と、伝播波受信部3と、ドップラー信号生成部4とを駆動する。センサー駆動時期でなければ、ステップS02の処理を繰り返す。
【0038】
センサー駆動時期において具体的には、図3に示すように、1000msec(1s)間隔で、伝播波送信部2が駆動される。伝播波送信部2は、1000msec(1s)間隔で、15msecの間伝播波を送信する。伝播波受信部3は、伝播波送信部2が送信して反射された伝播波を受信し、ドップラー信号生成部4に出力する。
【0039】
ステップS03では、ドップラー信号算出部5が、12msec(第二周期)間隔でドップラー信号を一対形成して検出値A,Bとし、行動判定部6に出力する。なお、具体的な、検出値A,Bとしては、時系列に沿った一対のドップラー信号の差を取った差分ドップラー信号とすることが好ましい。一例として、図7(A)にその手法を示す。図7(A)に示す例では、電波送信を35msec行っている。その電波送信を行っている間に、20msecの間隔で取得されたA1とA2のドップラー信号に基づいて、A2−A1の差分ドップラー信号を検出値Aとし、同じく20msecの間隔で取得されたB1とB2のドップラー信号に基づいて、B2−B1の差分ドップラー信号を検出値Bとすることで、検出値A,Bを差分ドップラー信号とすることができる。
【0040】
ステップS04では、行動判定部6が、検出値A,Bいずれかが第一閾値以上となっているか否かを判断する。検出値A,Bのいずれかが第一閾値以上となっていればステップS05の処理に進み、検出値A,Bのいずれもが第一閾値以上となっていなければステップS06の処理に進む。
【0041】
ステップS05では、行動判定部6が、検知領域に使用者が存在するものと判断し、行動態様を判定するためのフロー(後述する)に移行する。
【0042】
ステップS06では、行動判定部6が、検出値A,Bいずれかが第二閾値以上となっているか否かを判断する。第二閾値は、第一閾値よりも小さい値となるように設定されている。検出値A,Bのいずれかが第二閾値以上となっていればステップS07の処理に進み、検出値A,Bのいずれもが第二閾値以上となっていなければステップS02の処理に戻る。
【0043】
ステップS07では、センサー駆動周期を100msec(第三周期)と設定し、カウンターNを0に設定する。ステップS08では、センサー駆動時期か否かを判断する。センサー駆動時期であれば、伝播波送信部2と、伝播波受信部3と、ドップラー信号生成部4とを駆動する。センサー駆動時期でなければ、ステップS08の処理を繰り返す。
【0044】
具体的には、図4に示すように、センサー駆動時期によらず連続的に伝播波送信部2が駆動される。伝播波送信部2は、連続して伝播波を送信する。伝播波受信部3は、伝播波送信部2が送信して反射された伝播波を受信し、ドップラー信号生成部4に出力する。ドップラー信号生成部4は、100msec周期且つ12msec(第四周期)間隔でドップラー信号を一対形成する。
【0045】
ステップS09では、ドップラー信号生成部4が、12msec間隔でドップラー信号を一対形成して検出値A,Bとし、行動判定部6に出力する。
【0046】
ステップS10では、行動判定部6が、検出値A,Bいずれかが第一閾値以上となっているか否かを判断する。検出値A,Bのいずれかが第一閾値以上となっていればステップS11の処理に進み、検出値A,Bのいずれもが第一閾値以上となっていなければステップS12の処理に進む。
【0047】
ステップS11では、行動判定部6が、検知領域に使用者が存在するものと判断し、行動態様を判定するためのフロー(後述する)に移行する。
【0048】
ステップS12では、カウンターNをカウントアップする。ステップS13では、カウンターNが3となっているか否かを判断する。カウンターNが3となっていなければステップS08の処理に戻り、カウンターNが3となっていればステップS01の処理に戻る。
【0049】
続いて、所定方向に伝播波を送り出すことで使用者の行動態様を検知するフローについて、図5を参照しながら説明する。図5は、検知領域における使用者の行動態様を判定するためのフローチャートであって、使用者が近接静止するまでの判定を行うフローチャートである。図5に示すフローは、図2を参照しながら説明したフローによって、使用者が検知領域内に入ったことを検知した後のフローである(図2のステップS05、ステップS11)。
【0050】
ステップS21では、センサー駆動周期を4msec(第五周期)と設定する。具体的には、図6に示すように、センサー駆動時期によらず連続的に伝播波送信部2が駆動される。伝播波送信部2は、連続して伝播波を送信する。伝播波受信部3は、伝播波送信部2が送信して反射された伝播波を受信し、ドップラー信号生成部4に出力する。ドップラー信号生成部4は、4msec(第五周期)間隔でドップラー信号を生成する。ドップラー信号生成部4は、生成したドップラー信号をドップラー信号算出部5に出力する。
【0051】
ドップラー信号算出部5は、時系列に沿った一対のドップラー信号の差を取った差分ドップラー信号を生成する。一例としては、図7(B)に示すように、A,B,C,Dそれぞれのドップラー信号に基づいて、C−Aの差分ドップラー信号、D−Bの差分ドップラー信号を生成する。このように算出することで、4msec間隔の差分ドップラー信号が生成される。尚、差分ドップラー信号の生成にあたっては、データを間引いて例えば12msec間隔の差分ドップラー信号を生成することも好ましいものである。
【0052】
ステップS22では、生成した差分ドップラー信号が、判断開始閾値を超えたか判断する。差分ドップラー信号が判断開始閾値を超えていればステップS23の処理に進み、差分ドップラー信号が判断開始閾値を超えていなければステップS22の処理を繰り返す。
【0053】
ステップS23では、行動判定部6が差分ドップラー信号の振幅強度を算出する。ステップS24では、行動判定部6が差分ドップラー信号の周波数を算出する。
【0054】
ステップS25では、差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値を超え、且つ差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値より高い期間が第一所定時間を超えたか否かを判断する。差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値を超え、且つ差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値より高い期間が第一所定時間を超えていれば、ステップS26の処理に進む。差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値を超え、且つ差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値より高い期間が第一所定時間を超えていなければ、ステップS23の処理に戻る。
【0055】
ステップS26では、検知領域内の所定位置に対する使用者の移動であると判定し、使用者が接近中であると判定する。
【0056】
ステップS27では、差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値よりも大きな第二行動閾値を越えたか否かを判断する。差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値よりも大きな第二行動閾値を越えていれば、ステップS28の処理に進む。差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値よりも大きな第二行動閾値以下であれば、退去判断に進む(図10のステップS63)。
【0057】
ステップS28では、差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値を下回った状態が、所定期間続いたか判断する。差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値を下回った状態が、所定期間続いた場合には、ステップS29の処理に進む。差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値を下回った状態が、所定期間続いていない場合には、ステップS28の処理を継続する。
【0058】
ステップS29では、検知領域内の所定位置に使用者が静止したと判定する。尚、使用者の静止を判定するにあたっては、使用者の移動距離を累積算出し、この移動距離に基づいて判定することも好ましい。行動判定部6は、差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値を超えている期間において、差分ドップラー信号の周波数に基づいて使用者の移動距離を算出し、その算出した移動距離が所定距離を上回った場合に、検知領域内の所定位置に使用者が静止したと判定する。
【0059】
続いて、所定位置に使用者が静止した後の行動態様を検知するフローについて、図8及び図9を参照しながら説明する。図8は、静止した使用者の行動態様を判定するためのフローチャートであって、使用者が手洗器を利用する際の判定を行うフローチャートである。図9は、静止した使用者の行動態様を判定するためのフローチャートであって、使用者が大便器を利用する際の判定を行うフローチャートである。図8及び図9に示すフローは、図5を参照しながら説明したフローによって、使用者が検知領域内で静止したことを検知した後のフローである(図5のステップS29)。
【0060】
まず図8を参照しながら、使用者が手洗器を利用する際の判定について説明する。
【0061】
ステップS41では、差分ドップラー信号の振幅強度が第二行動閾値よりも小さな第三行動閾値を越え、差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値を超えているか判断する。差分ドップラー信号の振幅強度が第二行動閾値よりも小さな第三行動閾値を越え、差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値を超えていれば、ステップS42の処理に進む。差分ドップラー信号の振幅強度が第二行動閾値よりも小さな第三行動閾値を越え、差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値を超えていなければ、退去判断に進む(図10のステップS61)。ステップS42では、使用者が吐水装置に向けて手を差し出したと判定する。
【0062】
ステップS43では、差分ドップラー信号の振幅強度が第三行動閾値を下回った期間が、所定期間連続したか否かを判断する。差分ドップラー信号の振幅強度が第三行動閾値を下回った期間が、所定期間連続していれば、ステップS44の処理に進み、差分ドップラー信号の振幅強度が第三行動閾値を下回った期間が、所定期間連続していなければ、ステップS43の処理を継続する。ステップS44では、使用者が吐水装置から手を引き離したと判定する。
【0063】
続いて図9を参照しながら、使用者が大便器を利用する際の判定について説明する。
【0064】
ステップS51では、ステップS29において使用者が静止したと判断する前に、差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値よりも小さな第四行動閾値を下回った後、第一所定時間よりも短い第二所定時間内(換言すれば、ステップS29において使用者が静止したと判断する前)にその振幅強度が第四行動閾値を上回り、更に、差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値より高い期間が第一所定時間を超え、その後、前記差分ドップラー信号の振幅強度が前記第四行動閾値を所定期間下回ったか否かを判断する。この条件を満たせば、ステップS52の処理に進み、この条件を満たさなければ、ステップS53の処理に進む。
【0065】
ステップS51の処理は、図11に示すように、使用者が大便器に近づくと、差分ドップラー信号の振幅強度が増大し、そこで脱衣行動していると差分ドップラー信号の振幅強度が大きいものの、使用者が大便器に着座する場合には、着座体勢に移行する着座準備のための短い時間において使用者の動きが一時的に止まり、着座するための動きにより差分ドップラー信号の振幅強度が大きくなった後、着座が完了すると再度差分ドップラー信号の振幅強度が小さくなることを利用するものである。
【0066】
ステップS52では、使用者が大便器に着座して排便を行うと判定する。尚、行動判定部6は、使用者が大便器に着座して排便を行うと判定した後に、差分ドップラー信号の振幅強度が第四行動閾値を上回った期間が第三所定時間を超えないか、又は差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値よりも低い場合に、使用者が大便器に着座しながらその一部を動かしたものと判定することも好ましい。
【0067】
ステップS53では、行動判定部6が、検知領域内の所定位置に対する使用者の移動であると判定した後において、使用者が大便器に着座して排便を行うと判定しない場合であるので、使用者が大便器に着座しないで排便を行うと判定する。
【0068】
ステップS54では、差分ドップラー信号の振幅強度が第四行動閾値を上回った期間が第三所定時間を超え、差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値よりも高いか否かを判断する。差分ドップラー信号の振幅強度が第四行動閾値を上回った期間が第三所定時間を超え、差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値よりも高い場合にはステップS55の処理に進み、そうでない場合はステップS54の処理を継続する。ステップS55では、使用者が大便器から離座したものと判定する。
【0069】
続いて図10を参照しながら、使用者が退去する際の判定について説明する。図10は、使用者が退去する際の判断フローを示したフローチャートである。
【0070】
ステップS61では、差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値を上回り、且つ差分ドップラー信号の周波数が第一周波数閾値よりも高い期間が第四所定時間を超えたか否かを判断する。差分ドップラー信号の振幅強度が前記第一行動閾値を上回り、且つ前記差分ドップラー信号の周波数が前記第一周波数閾値よりも高い期間が第四所定時間を超えていれば、ステップS62の処理に進み、その条件を満たさなければ、図8のステップS41又は図9のステップS51の処理に戻る。ステップS62では、検知領域内の所定位置からの使用者の移動であると判定する。
【0071】
ステップS63では、差分ドップラー信号の振幅強度が前記第一行動閾値を下回る期間が所定期間続いたか否かを判断する。差分ドップラー信号の振幅強度が前記第一行動閾値を下回る期間が所定期間続いていなければ、ステップS63の処理に戻る。差分ドップラー信号の振幅強度が前記第一行動閾値を下回る期間が所定期間続けば、ステップS64の処理に進む。ステップS64では、振幅強度が最後に第二行動閾値を越えた時点から使用者が第一距離閾置以上進んでいるかを判定し、その条件を満たしていればステップS65に進み、人がいなくなったと判定する。このS64の処理によって、使用者が接近している状態で移動開始したことを、差分ドップラー信号の振幅強度が第一行動閾値よりも大きな第二行動閾値を越えたことで判断し、その後使用者が少し遠ざかって振幅強度が第二行動閾値を下回ると、その時点からの移動距離によって使用者がどの程遠ざかったのかを正確に算出して、使用者の接近状態から十分に遠ざかった位置に移動したことを正確に判断することができる。なお、移動距離の算出は、差分ドップラー信号の周波数から求められる使用者の移動速度と時間との関係から算出することが可能である。S64の条件を満たしていなければ、図5のステップ29に進む。
【0072】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0073】
1:人体検知装置
2:伝播波送信部
3:伝播波受信部
4:ドップラー信号生成部
5:ドップラー信号算出部
6:行動判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に伝播波を送り出すことで使用者の存在を検知する人体検知装置であって、
使用者の存在を検知しようとする検知領域に伝播波を送信する伝播波送信部と、
使用者によって反射された伝播波を受信する伝播波受信部と、
前記伝播波送信部によって送信された伝播波と、前記伝播波受信部によって受信された伝播波とに基づいてドップラー信号を生成するドップラー信号生成部と、
前記ドップラー信号生成部が生成したドップラー信号に基づいて、使用者の状況を判定する判定部と、を備え、
前記ドップラー信号生成部は、第一周期毎に、前記第一周期に比較して十分に短い第二周期間隔で、少なくとも2以上である複数のドップラー信号を生成する第一生成モードを実行し、
前記判定部は、前記第一周期毎に前記複数のドップラー信号それぞれの振幅強度と第一閾値とを比較し、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定する第一判定モードを実行することを特徴とする人体検知装置。
【請求項2】
前記ドップラー信号生成部は、前記複数のドップラー信号それぞれを、所定間隔に生成されるドップラー信号の差を取った差分ドップラー信号によって生成し、
前記判定部は、複数の前記差分ドップラー信号それぞれの振幅強度と、前記第一閾値とを比較して、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定することを特徴とする人体検知装置。
【請求項3】
前記判定部が前記第一判定モードにおいて、前記第一周期毎に前記第二周期間隔で生成される複数のドップラー信号のいずれか一つが、前記第一閾値よりも小さい第二閾値を越えたと判定した場合に、
前記ドップラー信号生成部は、前記第一周期よりも短い第三周期毎に、前記第三周期に比較して十分に短い第四周期間隔で、少なくとも2以上である複数のドップラー信号を生成する第二生成モードを実行し、
前記判定部は、前記第三周期毎に前記複数のドップラー信号それぞれの振幅強度と前記第一閾値とを比較し、使用者が検知領域に存在しているか否かを判定する第二判定モードを実行することを特徴とする請求項1に記載の人体検知装置。
【請求項4】
前記判定部が、前記第二判定モードの実行中において、所定周期連続して使用者が検知領域に存在しないと判定した場合に、
前記ドップラー信号生成部は前記第一生成モードの実行に移行すると共に、前記判定部は前記第一判定モードの実行に移行することを特徴とする請求項3に記載の人体検知装置。
【請求項5】
前記判定部が、前記第一判定モードの実行によって使用者が検知領域に存在していると判定すると、
前記ドップラー信号生成部は、前記第一周期よりも短い第五周期毎に、ドップラー信号を生成する第三生成モードを実行し、
前記判定部は、前記第五周期毎に使用者の行動態様を判定する第三判定モードを実行することを特徴とする請求項1に記載の人体検知装置。
【請求項6】
前記判定部が、前記第三判定モードの実行によって使用者が検知領域から離隔することを判定すると、
前記ドップラー信号生成部は前記第一生成モードの実行に移行すると共に、前記判定部は前記第一判定モードの実行に移行することを特徴とする請求項5に記載の人体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−211878(P2012−211878A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78595(P2011−78595)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】