説明

人体用害虫忌避エアゾール剤、及びこれを用いた害虫忌避並びに冷感の付与方法。

【課題】害虫忌避効果や人体並びに火気への安全性にすぐれることはもちろん、さらさら感だけでなく、持続した冷感をも付与させた水ベースの人体用害虫忌避エアゾール剤の提供。
【課題の解決手段】エアゾール原液全体量に対して害虫忌避成分を1〜20質量%及び水を30〜80質量%含有し、かつ無機又は有機粉末を含まないエアゾール原液と、液化噴射ガスとをエアゾール容器に充填してなる人体用害虫忌避エアゾール剤であって、人体の皮膚表面に噴霧塗布したときに、前記水による気化熱の作用と前記液化噴射ガスの蒸発作用に基づき持続した冷感を付与するものである人体用害虫忌避エアゾール剤。より具体的には、人体の皮膚表面に15cm離れた距離から3秒間噴霧塗布したときに、その施用面の皮膚表面温度を1分間以上にわたり15〜90%低下させ得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊、ブヨ、サシバエ、イエダニ、ナンキンムシ等の害虫から人体を守るための人体用害虫忌避エアゾール剤、及びこれを用いた害虫忌避並びに冷感の付与方法に関する。更に詳しくは、害虫忌避効果や人体並びに火気への安全性にすぐれることはもちろん、さらさら感だけでなく、冷感をも付与させた水ベースの人体用害虫忌避エアゾール剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体用害虫忌避剤について、従来より、刺激性の軽減、使用感の改善を目的とした様々な特許が出願されている。人体用害虫忌避剤は基本的に腕、足、首筋等、人体の露出した肌、即ち、外的な刺激を受けやすい部分に塗布するものであり、近年、アレルギー性物質や刺激性物質に対し過敏な反応を起こす人が増加している社会的状況を鑑み、従来一般的に配合していた紫外線吸収剤や紫外線散乱剤、タール色素等の刺激やアレルギーの原因となりやすい原料の配合を減らしたり、皮膚の乾燥を防ぐ保湿剤等を配合したりして、刺激性軽減に重点を置いた処方を指向する動きが活発になっている。
また、組成物中に皮膚に優しい水を配合した水性害虫忌避剤の特許も出願され、例えば、特開2003−192503号公報(特許文献1)は、害虫忌避成分、水溶性溶剤及び水を配合し、水溶性溶剤と水の配合比率を規定することにより、皮膚感触と臭気を改善する試みを開示している。
【0003】
ところで、使用感を改善する方向性としては、(1)さらさら感の付与、(2)清涼感(冷感)の付与があげられる。(1)さらさら感を付与するための一般的な方法として、無機又は有機粉体の配合が有効で、例えば、特開平9−157107号公報(特許文献2)は吸油量が250ミリリットル/100g以下である無水ケイ酸の配合を開示し、また、本発明者らも特開2006−199654号公報(特許文献3)の水性害虫忌避エアゾール組成物において、水ベースであれば相応の(1)さらさら感を有するものの、平均粒子径が0.5〜20μmの無機又は有機粉末を添加することによって、さっぱりした使用感を一層向上させ得ることを述べている。
【0004】
一方、液化石油ガスのような液化噴射ガスやイソペンタン等は、特開昭62−33115号公報(特許文献4)や特開平3−209315号公報(特許文献5)に記載されているように、皮膚に付着すると蒸発に際して皮膚から多量の潜熱を奪うので、その強度を調節することにより(2)清涼感(冷感)を付与できるとされる。しかしながら、液化噴射ガスは瞬間的に蒸発するため、この冷感効果は到底持続しない。
【0005】
本発明者らは、(2)清涼感(冷感)を持続して付与させるには、液化噴射ガスの蒸発作用よりも水の気化熱を利用するのが効果的であると考え、鋭意試験を実施した。その結果、特開2006−199654号公報(特許文献3)の水性害虫忌避エアゾール組成物で配合した無機又は有機粉末は、(1)さらさら感をより改善させるには有効であるものの、(2)清涼感(冷感)の付与にはむしろ逆効果であることを見出し、この知見に基づいて検討を重ね、本発明を完成させるに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−192503号公報
【特許文献2】特開平9−157107号公報
【特許文献3】特開2006−199654号公報
【特許文献4】特開昭62−33115号公報
【特許文献5】特開平3−209315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、害虫忌避効果や人体並びに火気への安全性にすぐれることはもちろん、さらさら感だけでなく、持続した冷感をも付与させた水ベースの人体用害虫忌避エアゾール剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、以下の構成が優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)エアゾール原液全体量に対して害虫忌避成分を1〜20質量%及び水を30〜80質量%含有し、かつ無機又は有機粉末を含まないエアゾール原液と、液化噴射ガスとをエアゾール容器に充填してなる人体用害虫忌避エアゾール剤であって、人体の皮膚表面に噴霧塗布したときに、前記水による気化熱の作用と前記液化噴射ガスの蒸発作用に基づき持続した冷感を付与するものである人体用害虫忌避エアゾール剤。
(2)人体の皮膚表面に15cm離れた距離から3秒間噴霧塗布したときに、その施用面の皮膚表面温度を1分間以上にわたり15〜90%低下させるものである(1)に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
(3)前記エアゾール原液中に更にエタノールを含有し、かつ前記液化噴射ガスがジメチルエーテルを主体としたものである(1)又は(2)に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
(4)平均噴霧粒子径が、30〜100μmである(1)ないし(3)のいずれか1に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
(5)前記エアゾール原液と液化噴射ガスの配合比率が、10/90〜50/50(容量)である(1)ないし(4)のいずれか1に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
(6)前記エアゾール容器に装填されるバルブステム口の断面積とボタン噴射口先端の断面積の比率が、1/1〜1/10である(1)ないし(5)のいずれか1に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
(7)前記害虫忌避成分が、ディート、フェノトリン、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、及びp−メンタン−3,8−ジオールから選ばれる1種又は2種である(1)ないし(6)のいずれか1に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
(8)前記水が、硬度700以下の天然ミネラル水である(1)ないし(7)のいずれか1に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
(9)(1)ないし(8)のいずれか1に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤を、人体の皮膚表面に噴霧塗布する害虫忌避並びに冷感の付与方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の人体用害虫忌避エアゾール剤は、水ベースであり、害虫忌避効果や人体並びに火気への安全性にすぐれることはもちろん、さらさら感だけでなく、持続した冷感をも付与させたのでその実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いる害虫忌避成分としては、害虫に対して忌避作用あるいは吸血阻害作用を有する合成あるいは天然の各種化合物が挙げられる。例えば、ディート、フェノトリン、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、p−メンタン−3,8−ジオール、シトロネラール、シトロネロール、シトラール、リナロール、テルピネオール、メントール、α―ピネン、カンファー、ゲラニオール、カランー3,4−ジオールなどを例示できる。更に天然物としては、桂皮、シトロネラ、レモングラス、クローバ、ベルガモット、月桂樹、ユーカリなどから採れる精油、抽出液などを例示でき、これらの1種または2種以上を選択して用いることができる。上記化合物及び天然物のなかでは、ディート、フェノトリン、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、ならびにp−メンタン−3,8−ジオールが好ましい。ディートは長年にわたる使用実績があり、一方、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステルは、ディートとほぼ同等の忌避効果を有し、ディートよりも水に溶けやすいので本発明で用いる内容組成物に適した害虫忌避成分といえる。
害虫忌避成分はその忌避効力等にもよるが、本発明で用いるエアゾール原液全体量に対して1〜20質量%、好ましくは3〜12質量%配合される。
【0011】
本発明では、人体並びに火気への安全性を確保するとともに、さらさら感だけでなく、持続した冷感をも付与させるため、エアゾール原液中に水を配合することを必須とする。
即ち、液化石油ガスのような液化噴射ガスは、皮膚に付着すると蒸発に際して皮膚から多量の潜熱を奪うことが知られているが、これを含む油性の人体用害虫忌避エアゾール剤においては、液化噴射ガスが瞬間的に蒸発するため冷感効果は到底持続しない。
本発明は、冷感を持続して付与させるには、液化噴射ガスの蒸発作用よりも水の気化熱を重視するのが効果的であるとの知見に基づき完成に至ったものである。
ここで、持続した冷感とは、人体の皮膚表面に15cm離れた距離から3秒間噴霧塗布したときに、その施用面の皮膚表面温度を1分間以上にわたり15〜90%低下させる性能を言う。そして、水の配合量は、エアゾール原液全体量に対して30〜80質量%、好ましくは40〜80質量%が適当である。
この発明において、皮膚表面温度を低下させる性能とは、使用前の体温と0℃との差を100%とした場合の使用後における温度低下の比率の数値を表わす。
【0012】
配合される水としては、硬度700以下の天然ミネラル水が好ましい。海洋深層水、海洋表層水、地下深層水、山麓の涌き水等のミネラル水は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン等の金属イオンを含み、人体に不足しがちなミネラル成分を補給しやすいことから各方面で注目されており、例えば、逆浸透膜法等により濾過、脱塩処理を行い硬度を100〜1000程度に調整したものが飲料として販売されている。本発明では、硬度700以下のミネラル水を皮膚に直接塗布することで、少量のミネラル成分による保湿感、さっぱり感が付与され、冷感のアップにも寄与することが認められた。これに対し、硬度が700を超える水を用いると、エアゾール原液の安定性に支障をきたす場合があるうえ、冷感作用にも影響を及ぼすので好ましくない。上記の天然ミネラル水のうち、特に硬度が10〜200に調整された海洋深層水はミネラル成分のバランスが良く、また水深200m以上の無光層より採取しているため、清浄性、安定性が良好で、製剤化した際、使用感、製剤安定性に優れるものである。
【0013】
本発明では、害虫忌避成分を溶解しエアゾール原液の安定性向上のために、上記水の特性に支障を来たさない量である限り、炭素数が2〜5の低級アルコール及び/又はグリコールを配合してもよい。低級アルコールとしてはエタノールやイソプロパノール、また、グリコールとしてはジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等が挙げられ、これらを単独、又は混合して使用することができる。なかでも、エタノールが使いやすく、特に、肌への作用が緩和で、かつ食品用として一般的な醸造エタノールが好ましい。
【0014】
また、本発明で用いるエアゾール原液には、上記成分以外に内容組成物の安定性を一層高めるために界面活性剤を配合することができる。界面活性剤としては、特にHLBが11〜16のノニオン系界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエーテル{HLB=12.4}、ポリオキシエチレン(20モル)オレイルエーテル{HLB=15.1}、ポリオキシエチレン(9モル)ラウリルエーテル{HLB=13.6}、ポリオキシエチレン(10モル)セチルエーテル{HLB=12.9}、ポリオキシエチレン(15モル)ステアリルエーテル{HLB=14.2}、ポリオキシエチレン(15モル)イソステアリルエーテル{HLB=14.2}等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノオレエート{HLB=15.7}、ポリオキシエチレン(10モル)ソルビタンモノラウレート{HLB=14.9}、ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノステアレート{HLB=15.7}等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン(14モル)モノオレエート{HLB=13.7}、ポリオキシエチレン(9モル)モノラウレート{HLB=13.3}、ポリオキシエチレン(14モル)ミリステート{HLB=14.6}等のポリオキシエチレンアルキルエステル類等が挙げられ、これらを単独、又は混合して使用することができる。界面活性剤は肌への刺激性を考えると極力低減するのが好ましいが、HLBが11〜16のノニオン系界面活性剤は少量の配合で内容組成物の安定化に効果がある。
【0015】
市販されている油性の人体用害虫忌避エアゾール剤には、さらさら感を付与するために無機又は有機粉末を配合しているものが多いが、本発明では配合しない。これは、試験の結果、水を含む人体用害虫忌避エアゾール剤では、無機又は有機粉末を配合することによって、水による冷感作用が低減する傾向が見出されたためである。
【0016】
更に、本発明のエアゾール原液には、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、酢酸トコフェロール、カンフル等の消炎剤、パラアミノ安息香酸、アミルサリシネート、オクチルシンナメート、メトキシ桂皮酸オクチル、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤や紫外線散乱剤、あるいは硫酸アルミニウム、クロルヒドロキシアルミニウム、フェノールスルホン酸亜鉛等の制汗剤、安定剤、香料等を内容組成物の安定性に影響のない範囲で配合することも可能である。
【0017】
本発明は、かかるエアゾール原液と液化噴射ガスとをエアゾール容器に充填して人体用害虫忌避エアゾール剤を製する。
液化噴射ガスとしては、ジメチルエーテル(DME)や液化石油ガス(LPG)があげられる。ジメチルエーテルは噴霧粒子を適度に微粒化し、塗布面のべとつき感の軽減に寄与するので、本発明ではジメチルエーテル主体の液化噴射ガスを好適に使用するが、若干量のLPGや圧縮ガス(窒素ガス、炭酸ガス等)を加えてもよいことはもちろんである。一方、LPG主体の液化噴射ガスは、使用感の改善に繋がらないばかりか、製剤の安定性の面でも好ましくない場合が認められたが、シャーベット状に噴出させるタイプでは有用であった。
検討結果によれば、本発明の好ましい内容組成物は、害虫忌避成分を含有するエアゾール原液中に水を40〜80質量%とエタノールを配合し、かつ前記液化噴射ガスがジメチルエーテルを主体としたものであり、水による気化熱の作用に加え、液化噴射ガスによる蒸発作用が協働して実用的な冷感が持続して付与される。
【0018】
本発明の人体用害虫忌避エアゾール剤は、その平均噴霧粒子径が30〜100μmであり、噴霧粒子が過度に飛散しないというメリットを有する。
また、エアゾール容器に充填されるエアゾール原液と液化噴射ガスの配合比率は、10/90〜50/50(容量)が適当であり、その内圧は25℃において0.2〜0.7MPa程度、好ましくは0.3〜0.5MPa程度に調整される。
【0019】
エアゾール容器に装填される各パーツの仕様も適宜決定すればよいが、所定の性能を奏するために、例えば、バルブステム口の断面積とボタン噴射口先端の断面積の比率は1/1〜1/10に設計するのが好ましい。1/10を超えると噴射時にボタンからの液だれを生じる恐れがある。
【0020】
こうして得られた本発明の人体用害虫忌避エアゾール剤は、水ベースで火気に対する安全性が高く、人体への刺激性をほとんど有さない。しかも、さらさら感だけでなく、持続した冷感をも奏するので、蚊、ブヨ、サシバエ、イエダニ、ナンキンムシ等の刺咬被害防除に対して極めて有用なものである。
【0021】
次に具体的な実施例ならびに試験例に基づき、本発明の人体用害虫忌避エアゾール剤について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
害虫忌避成分としてディート3.5g、微量のメントール、及び脱塩処理した硬度200の海洋深層水18.0gに、95%エタノール14.8g(18.5mL)を加え、全量を36.3g(40mL)として本発明で用いるエアゾール原液を調製した。
このエアゾール原液をエアゾール容器に封入後、その上部にバルブ部分(ステム口断面積/ボタン噴射口先端の断面積:1/6)を取り付け、該バルブ部分を通じてジメチルエーテルガス60mLを加圧充填(内圧:0.4MPa;25℃に調整)して本発明の人体用害虫忌避エアゾール剤を得た。
【0023】
このエアゾール剤は、消防法における非危険物に該当し、火気に対する安全性にすぐれた。エアゾール剤を15cm離れた距離から腕の皮膚表面に3秒間噴霧したところ、平均噴霧粒子径は40μmであり、また、皮膚表面温度の推移をみると、処理前の35.3℃が数十秒後に最低温度の14.2℃(低下率:59.8%)となり、1分後においても26.7℃(低下率:24.4%)で冷感が持続した。このさっぱりとした冷感に加え、屋外での実使用では蚊に対して8時間以上にわたり忌避効果を奏し、極めて有用な人体用害虫忌避エアゾール剤であることが認められた。
【実施例2】
【0024】
実施例1に準じ、害虫忌避成分として3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル4.5g、及び脱塩処理した硬度100の海洋深層水26.5gに、95%エタノール15.2g(19.0mL)を加え、全量を46.2g(50mL)として本発明で用いるエアゾール原液を調製した。
このエアゾール原液をエアゾール容器に封入後、その上部にバルブ部分(ステム口断面積/ボタン噴射口先端の断面積:1/4)を取り付け、該バルブ部分を通じて混合液化噴射ガス(ジメチルエーテル/LPG=9/1)50mLを加圧充填(内圧:0.3MPaに調整)して本発明の人体用害虫忌避エアゾール剤を得た。
本エアゾール剤の平均噴霧粒子径は63μmで、実施例1の場合と同様、火気に対する安全性や忌避効果はもちろん、冷感の持続性[処理前:35.1℃、数十秒後の最低温度:12.9℃(低下率:63.2%)、1分後:25.6℃(低下率:27.1%)]にすぐれ実用性の高いものであった。また、本エアゾール剤で用いた害虫忌避成分の3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステルは、ディートに比べると水に溶けやすいため製剤化の面で有利であった。
【実施例3】
【0025】
実施例1に準じて表1に示す各種人体用害虫忌避エアゾール剤を調製し、下記に示す試験を行った。結果を表2に示す。
(1) 平均噴霧粒子径
レーザー光を利用する噴霧粒子測定装置を用いて測定した。
(2)冷感の持続性
人体用害虫忌避エアゾール剤を15cm離れた距離から腕の皮膚表面に3秒間噴霧し、皮膚表面温度を経時的[処理前、最低温度記録時、及び1分後]に測定し、処理前の皮膚表面温度に対する温度低下率も求めた。また、冷感を下記基準により併せて評価した。
◎:心地よい冷感あり、 ○:やや冷感あり、 △:殆ど冷感なし、 ×:冷感なし。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
本発明の人体用害虫忌避エアゾール剤は、べたつきが無くさっぱりとした冷感が持続し、人体用害虫忌避エアゾール剤として高い実用性が認められた。なお、使用する水としては、実施例6及び9の対比から、硬度が700以下の天然ミネラル水でが好ましく、また水の配合量は実施例8の結果を考慮すると、エアゾール原液全体量に対し40〜80質量%が好適であった。
これに対し、比較例1のように、水を配合せずエアゾール原液と液化噴射ガスの配合比率が10/90〜50/50の範囲を外れるエアゾール剤は冷感が長続きせず、一方、水を含有するエアゾール原液であっても、比較例2の如く、無機粉体を配合することによって水による冷感作用が低減された。また、液化噴射ガスでなく圧縮ガスを用いた比較例3は十分な冷感作用を奏せず、更に非エアゾールでスプレータイプの比較例5についても冷感作用が幾分劣ったことから、液化噴射ガスが水と協働して冷感作用に寄与することも明らかとなった。加えて、比較例4のように、水の配合量が80質量%を超えると内容組成物が分離し製剤として不適当であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の人体用害虫忌避エアゾール剤は、人体用の害虫忌避用途だけでなく、殺虫・殺ダニ用や殺菌・抗菌用、あるいは消臭・防臭用途等にも利用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール原液全体量に対して害虫忌避成分を1〜20質量%及び水を30〜80質量%含有し、かつ無機又は有機粉末を含まないエアゾール原液と、液化噴射ガスとをエアゾール容器に充填してなる人体用害虫忌避エアゾール剤であって、人体の皮膚表面に噴霧塗布したときに、前記水による気化熱の作用と前記液化噴射ガスの蒸発作用に基づき持続した冷感を付与するものであることを特徴とする人体用害虫忌避エアゾール剤。
【請求項2】
人体の皮膚表面に15cm離れた距離から3秒間噴霧塗布したときに、その施用面の皮膚表面温度を1分間以上にわたり15〜90%低下させるものであることを特徴とする請求項1に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
【請求項3】
前記エアゾール原液中に更にエタノールを含有し、かつ前記液化噴射ガスがジメチルエーテルを主体としたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
【請求項4】
平均噴霧粒子径が、30〜100μmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
【請求項5】
前記エアゾール原液と液化噴射ガスの配合比率が、10/90〜50/50(容量)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
【請求項6】
前記エアゾール容器に装填されるバルブステム口の断面積とボタン噴射口先端の断面積の比率が、1/1〜1/10であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
【請求項7】
前記害虫忌避成分が、ディート、フェノトリン、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、及びp−メンタン−3,8−ジオールから選ばれる1種又は2種であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
【請求項8】
前記水が、硬度700以下の天然ミネラル水であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の人体用害虫忌避エアゾール剤を、人体の皮膚表面に噴霧塗布することを特徴とする害虫忌避並びに冷感の付与方法。

【公開番号】特開2013−53129(P2013−53129A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140294(P2012−140294)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】