説明

人参の葉および茎からの、抗癌および抗転移活性を有する画分

【課題】造血促進、癌転移抑制、骨髄保護などの活性に作用を有する抗癌薬またはその補助薬用の組成物の提供。
【解決手段】Panaxginseng、Panaxquinquefolium、Panaxnotoginseng、Panaxpseudoginseng、PanaxjaponicumおよびPanaxvietnamensisよりなる群から選択される1種以上であるパナックス属に属する植物の葉および/または茎からの抽出物。抽出物の調製方法は、以下の工程からなる。a)人参の葉および/または茎を水中で加熱(水熱処理)して、粗抽出溶液を得る工程;b)任意に、前記粗抽出溶液を濃縮する工程;c)前記粗抽出溶液に含まれる多糖を有機溶媒を用いて沈殿させ、前記多糖を分離する工程;およびd)前記有機溶媒を除去して多糖画分を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてパナックス(Panax)属に属する植物の葉および/または茎からの抽出物を含む組成物、並びに多糖の調製方法に関し、より詳細には、免疫細胞(ナチュラルキラー(NK)T細胞、NK細胞など)を活性化することにより抗癌薬および/または癌転移抑制薬として、また造血促進作用、骨髄保護作用、放射線照射感受性保護作用などにより抗癌薬の補助薬(adjuvant)としても作用しうる、パナックス属植物の葉および/または茎から分離された多糖を含む組成物、並びに、パナックス属植物の葉および/または茎を50〜180℃で0.5〜20時間水中で加熱し、それから多糖を抽出することによる、多糖の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毎年、アメリカにおける死亡の20%は癌関連疾患によるものであると報告されている。これらの癌の治療には、通常は化学療法を用いるが、有効であることが知られている抗癌薬はほとんどない。
【0003】
死亡の多くは、原発癌(first occurrence of cancer)そのものよりも、むしろ癌の転移によるものである(非特許文献1)。多くの実験および臨床試験により、癌転移抑制および癌自体の破壊において、自然免疫が重要な役割を果たしていることが確認されている(非特許文献2)。
【0004】
NKT(ナチュラルキラーT)細胞は、α/βT細胞の分化した集団(specialized population)であって、NK系統の受容体を共発現(coexpress)しており、また効果細胞に対する初期的な補助をもたらし、ある種の免疫応答におけるTh1またはTh2の分化を調節する大量のサイトカインを極めて迅速に分泌するという特異な能力を有している(非特許文献3)。更に、それらは感染性の病原体(germs or bacteria)、例えば癌細胞、寄生虫、リステリア(listerias)、結核菌などを排除する(非特許文献4)。
【0005】
NKT細胞に加え、NK細胞、LAK細胞およびマクロファージが、癌細胞、ウィルスおよび細菌による感染を効果的に阻害しうる細胞であることが知られている。より詳細には、NK細胞、LAK細胞およびマクロファージを効果的に活性化することにより、癌細胞の増殖とその転移がブロックされることが知られている。また、免疫刺激薬によるNK細胞の活性化により、癌転移による癌細胞の増殖が阻害されることが報告されている(非特許文献5)。
【0006】
免疫系のこれらの抗癌、抗転移および抗ウィルス機能は、免疫系を活性化する種々のサイトカインの分泌により仲介される。特に、γ−インターフェロン、腫瘍壊死因子−αなどは、抗癌、抗転移および抗ウィルス機能に関連する代表的なサイトカインである。
【0007】
γ−インターフェロンは、主にT細胞で生成され、免疫反応を制御し、またTおよびB細胞、好中球、NK細胞およびマクロファージを活性化して癌細胞を攻撃させるのに役立つ。そのためγ−インターフェロンは、慢性骨髄性白血病や腎臓癌の治療に用いられる。更に、γ−インターフェロンはDNA複製および細胞増殖に対し強力な阻害作用を有するので、癌治療のみならず、ウィルス感染や、多剤耐性細菌および真菌感染の、微生物の増殖抑制による治療にも臨床適用される。
【0008】
腫瘍壊死因子(TNF)−αは、主にマクロファージで生成され、種々の免疫反応(例えば炎症反応)に関与し、特に癌細胞に対して極めて強い毒性を示す。現在、TNF−αは、日本における皮膚癌治療薬としての承認が間近であり、臨床試験の結果を待つ段階にある(pending clinical test results)。
【0009】
しかし、抗癌療法にサイトカインを直接用いると、予期せぬ副作用(炎症、嘔吐など)がもたらされる。そのため、特定のサイトカインのみを用いるよりも、免疫系を全体的に活性化しうる物質を見出すための試験が数多く行われている。
【0010】
NK細胞を含む免疫細胞を活性化する天然物は遺憾ながらほとんど知られていないが、例えばViscum coloratum抽出物由来のレクチン(一部で癌治療の代替療法に用いられている)や、キノコから得られるβ−グルカン系統に属する多糖がある。
【0011】
ところで、パナックス属に属する植物(いわゆる「人参」)が、通常は白参(収穫後、室温で乾燥したもの)または紅参(収穫後、熱処理したもの)の形態で、強壮薬として用いられている。人参の成分および医学的効果を特徴付けるための多くの研究が行われており、報告されている医学的効果には、老化防止、抗動脈硬化(anti−artherosclerosis)、抗高脂血症、肝機能増強、放射線照射の副作用の除去、免疫系増強、抗血栓、脳機能増強、抗ストレス、血糖低下、血圧低下および抗癌作用が含まれる。これらの作用を誘引する主要な成分は、サポニン群に属することが見出されている。近年の研究は、人参の根から酸性多糖を抽出/分離して、その作用を確認することに焦点を合わせたものである。これらの酸性多糖は、マクロファージを活性化し、マクロファージにγ−インターフェロン生成を促進させて、癌細胞の増殖を阻害することが知られている(特許文献1)。
【0012】
これまでのところ、いくつかの例を除き、研究の大半は人参の葉や茎ではなく根のみに集中している。人参の根は、少なくとも6年間栽培して医学的効果を示すようになければならないが、人参の葉や茎は、毎年育てられ廃棄されている。従って、人参根と同様に、人参の葉や茎が特定の生理活性物質を含むことが見出されれば、副産物の利用や環境保護の観点から大きな価値となる。
【0013】
上記したように、人参の葉や茎の利用はいくつかの例(人参葉サポニンを用いる化粧品の製造(特許文献2)、人参葉から塩基性条件下でアグリコンサポニンを得る方法(非特許文献6)、人参葉を含むハーブの抽出物を用いるシャンプーおよびローションの調製(特許文献3)および人参葉を含む清浄な女性用ティッシュの調製(特許文献4))に限られている。
【0014】
ある種の研究において、人参の葉から得られた多糖が胃潰瘍の治療に有効であることが示されている(非特許文献7)が、人参の葉や茎からの抽出物が、抗癌作用、癌転移抑制作用などを有することを示唆する研究はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】韓国特許第144130号
【特許文献2】韓国出願公開公報第81−3736号
【特許文献3】韓国特許第23641号
【特許文献4】韓国特許第214223号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Fifler,1991 cancer metastasis.,Br.Med.Bull.47,157−177
【非特許文献2】Schantz et al.,cancer immunol.,Immunother.25.,141−148,1987
【非特許文献3】Annu.Rev.Immunol.1997.15;Albert Bendelae et al.p535
【非特許文献4】Seki et al.,Clin.Immunol.,28,p1069,1996
【非特許文献5】Herberman,1984 J.invest.Dermatol.83,137−140
【非特許文献6】Korean Pharmaceutical Bulletin,38(4),1994,8
【非特許文献7】Planta Med.58,1992,445−448
【非特許文献8】Dubois et al,Anal. Chem.,28,350,1956
【非特許文献9】Blumenkrantz et al,Anal.biochem.,54,484,1973
【非特許文献10】Lowry et al,J.Biol.,Chem.,193,265,1951
【非特許文献11】Plant physiol.,49,926,1972
【非特許文献12】Yoo et al,1994 Vaccine 12,175−180
【非特許文献13】Yoo et al, 1997,Jpn.J.Cancer Res.,88,184−190
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、人参の葉および/または茎からの抽出物が、免疫細胞(NKT細胞、NK細胞、マクロファージなど)を活性化し、またサイトカイン(α−インターフェロン、腫瘍壊死因子−αなど)の分泌を促進して、癌細胞の増殖および転移を抑制し、造血促進作用を補助し、既存の抗癌薬や放射線照射療法における副作用をも低減することを初めて見出した。本発明は、これらの発見に基づいてなされたものである。
【0018】
従って、本発明の目的は、人参の葉および/または茎から得られ、癌抑制作用、造血促進作用、骨髄保護作用、放射線照射感受性保護作用などを有する抽出物を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、有効成分として前記抽出物を含む組成物を提供することにある。
【0020】
本発明の更に他の目的は、前記組成物の新規な用途、例えば抗癌薬、癌転移抑制薬、造血促進薬、放射線照射副作用抑制薬、抗癌薬副作用抑制薬、自己免疫疾患治療薬などを提供することにある。
【0021】
本発明の他の目的は、人参の葉および/または茎から前記抽出物を得る方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本願実験実施例1および比較実施例1による、Panax ginseng C.A.MayerおよびPanax quinquefoliumの葉および茎から得られる多糖の、肺癌の転移に対する抑制作用を示すグラフである。
【図2】本願実験実施例2による、MB40100(人参の葉または茎からの抽出物)の、固形癌に対する抗癌作用を示すグラフである。
【図3】本願実験実施例3による、MB40100の、肺癌の転移に対する予防作用を示すグラフである。
【図4】本願実験実施例4による、MB40100の、肺癌の転移低減に対する作用を示すグラフである。
【図5】本願実験実施例5による、癌細胞に対するNK細胞介在細胞毒性の、MB40100による増強を示すグラフである。
【図6】本願実験実施例6による、人参の葉または茎からの抽出物により誘引される、顆粒球マクロファージコロニー形成単位(GM−CFU)の増加を示すグラフである。
【図7】本願実験実施例7による、抗癌薬により誘引された造血抑制の、MB40100による低減作用(血中白血球数の変化として示されている)を示すグラフである。
【図8】本願実験実施例7による、抗癌薬により誘引された造血抑制の、MB40100による低減作用(血中血漿板数の変化として示されている)を示すグラフである。
【図9】本願実験実施例7による、抗癌薬により誘引された造血抑制の、MB40100による低減作用(脾細胞数の変化として示されている)を示すグラフである。
【図10】本願実験実施例7による、抗癌薬により誘引された造血抑制の、MB40100による低減作用(骨髄細胞数の変化として示されている)を示すグラフである。
【図11】本願実験実施例8による、放射線照射に対する、MB40100による保護作用(脾細胞数の変化として示されている)を示すグラフである。
【図12】本願実験実施例8による、放射線照射に対する、MB40100による保護作用(骨髄細胞数の変化として示されている)を示すグラフである。
【図13−a】本願実験実施例9による、MB40100による免疫細胞の活性化度を示すグラフである。
【図13−b】本願実験実施例9による、MB40100による免疫細胞の活性化度を示すグラフである。
【図13−c】本願実験実施例9による、MB40100による免疫細胞の活性化度を示すグラフである。
【図13−d】本願実験実施例9による、MB40100による免疫細胞の活性化度を示すグラフである。
【図14−a】本願実験実施例9による、MB40100により誘引された抗癌性サイトカインのレベルを示すグラフである。
【図14−b】本願実験実施例9による、MB40100により誘引された抗癌性サイトカインのレベルを示すグラフである。
【図15】本願実験実施例10による、抗癌薬とMB40100の同時投与における、MB40100による、抗癌薬の副作用を阻害する作用を示すグラフである。
【図16】本願実験実施例10による、抗癌薬とMB40100の同時投与による抗癌作用の向上を示すグラフである。
【図17】本願実験実施例11による、抗癌薬とMB40100の同時投与による抗癌作用の向上を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による組成物は、有効成分として、パナックス属に属する植物(以降、「パナックス属植物」または時に「人参」と称する)の葉および/または茎を特定の条件下で処理することによって得ることができる抽出物を含む。本発明で用いるこれらのパナックス属植物には、例えばPanax ginseng C.A.Mayer、Panax quinquefoliumPanax notoginsengPanax pseudoginsengPanax japonicumPanax vietnamensis Ha et Grushv.などが含まれ、本発明においてはこのうち1種以上を用いることができる。
【0024】
本発明による組成物の形状には、上記抽出物の効果が示される限り特に制限はなく、例えば固相、懸濁液相、乳液相、液相などが含まれる。組成物中の上記抽出物の量についても、上記抽出物が特定の目的のための活性成分として機能する限り特に制限はない。
以下、本発明をより詳細に記述する。
【0025】
本発明によれば、パナックス属植物の葉および/または茎から抽出物を得るためには、それらの葉および/または茎をまず水(pH4〜10)10〜20当量中、50〜180℃で0.5〜20時間加熱する。上記の通り、パナックス属植物はPanax ginseng C.A.Mayer、Panax quinquefoliumPanax notoginsengPanax pseudoginsengPanax japonicumPanax vietnamensis Ha et Grushv.などのうち1種以上であってよい。この水熱処理の後、人参の葉および/または茎や残渣(remnants)を濾過により除去する。微細な浮遊粒子は、精密濾過法(fine filtering process)および遠心分離により除去する。最終的な濾過法は、孔径0.45μmのフィルターや限外濾過器を用いて行ってよく、遠心分離法は、7000rpmで30分行いうる。そのようにして得られた溶液を、それからの多糖の分離を容易にするため、例えば蒸発により濃縮する。濃縮法は、70℃、760mmHgにおいて、糖屈折計にて測定した際の溶液濃度が20brixになるまで行いうる。濃縮した溶液から多糖を効果的に回収するため、0.1〜1M、好ましくは0.5〜1MのNaClを濃縮した溶液に添加する。そして、1〜4倍容、好ましくは2〜4倍容のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノールなど)またはアセトンを用いて多糖を沈殿させる。沈殿させた多糖を95%以上のアルコールまたはアセトンで数回洗浄して水および不純物を除去し、その後透析または限外濾過を行い塩およびアルコールを除去する。そのようにして得られた多糖を、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥などのうち一種により乾燥させる。
【0026】
標的とする薬物およびその用途に応じ、精製法をより効率的に選択することができる。例となる方法を以下に示す。
分離および濾過が完了した後、溶液をpH約8.0、0.4M NaCl/10mM Tris−HClに調整し、次いでアニオン交換樹脂のカラム(流速30ml/分)にかける。アニオン交換樹脂は、事前に0.4M NaCl/10mM Tris−HClで平衡化し、着色物質や不純物のみが吸着され、多糖は吸着されないようにしておかなければならない。アニオン交換樹脂のカラムを緩衝溶液で十分洗浄する。前記カラムを通過した溶液をpH約6〜7に調整し、次いで吸着剤樹脂のカラム(流速30〜50ml/分)にかける。前記カラムを蒸留水(DW)で十分洗浄する。3倍エタノール沈殿法(three−time ethanol precipitation method)を実施し、全ての多糖がカラムから出たか否かチェックする。流出溶液に3倍容の95%エタノールを添加して、多糖のみを効率よく沈殿させ、多糖を濃縮する。多糖を回収するため、遠心分離(5000rpm、15分)および透析を行う。そのようにして得られた溶液をpH8に調整する。その溶液に10mM Tris−HCl緩衝溶液(pH8)を添加した後、前記溶液をアニオン交換樹脂のカラム(流速15〜20ml/分)にかける。前記カラムを緩衝溶液で十分洗浄した後、0.5M NaClで溶出させる。溶出液に3倍容のエタノールを添加して多糖を沈殿させ、次いで遠心分離を行いそれらを回収する。回収したペレットを95%エタノールで2回洗浄した後、透析(分子量カットオフが6000の透析膜に対して)を行って残存エタノールおよび低分子量の不純物を除去し、次いで凍結乾燥する。
【0027】
溶媒抽出により得られた抽出物を3回蒸留した(triple distilled)水で希釈して濃度を1mg/mlとし、分析した。その結果、Panax ginseng C.A.Mayerでは、中性糖の含有量が68.9%、ウロン酸の含有量が15.9%、タンパク質の含有量が8.7%であり、Panax quinquefoliumでは、中性糖の含有量が57.8%、ウロン酸の含有量が35%、タンパク質の含有量が5.4%であることが示された。
【0028】
イオン交換樹脂、吸着剤樹脂などを用いる精巧な(elaborate)分離/精製法により得られた抽出物を3回蒸留した水で希釈して濃度を1mg/mlとし、分析した。その結果、Panax ginseng C.A.Mayerでは、中性糖の含有量が51.3%、ウロン酸の含有量が46.8%、タンパク質の含有量が0.1%(糖の分布は、ラムノース5.97%、フコース1.22%、アラビノース14.86%、キシロース0.44%、マンノース1.93%、グルコース3%、ガラクトース22.7%、ガラクツロン酸31.4%、グルクロン酸14.4%、KDO(2−ケト−3−デオキシオクツロソン酸)1.38%およびDHA(3−デオキシ−D−リキソ−2−ヘプツロサール酸)(3−deoxy−D−lyxo−2−heptulosaric acid)1.02%であった)であり、Panax quinquefoliumでは、中性糖の含有量が49%、ウロン酸の含有量が50.8%、タンパク質の含有量が0.2%(糖の分布は、ラムノース9.7%、フコース4.1%、アラビノース8.7%、キシロース0.7%、マンノース1.5%、グルコース1.2%、ガラクトース12%、ガラクツロン酸44%、グルクロン酸5%、KDO6%およびDHA1.2%であった)であることが示された。
【0029】
本発明者は、人参の葉および/または茎からの抽出物は、分子量が6,000〜340,000Da、平均分子量が約120,000Daであることを見出した。
【0030】
また、糖の組成は人参の種類によって変動し、例えば中性糖については30〜80%、酸性糖については10〜60%、タンパク質については0.01〜10%であるが、糖は一般にラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、ガラクツロン酸、グルクロン酸、KDOおよびDHAを含んでおり、いずれの抽出物も抗癌、抗転移および/または抗癌薬補助薬作用を示した。
【0031】
人参の葉および/または茎から上記のようにして得られる抽出物または多糖は、免疫系全体(例えばNKT細胞、NK細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞など)を活性化し、また抗癌機能に関連するサイトカインの分泌を促進して、癌細胞の増殖および転移を有意に減少させる。よって、前記組成物を抗癌薬および癌転移抑制薬として用いることができる。また、前記組成物を抗癌薬または放射線照射治療の補助薬(それらの副作用を低減させることによる)として用いることができる。
【0032】
本発明による組成物は、それ自体で、または担体(医薬の分野において従来許容されているもの)と組み合わせて、従来の投与形態、例えば経口投与剤(丸剤、カプセル剤、液剤、分散液剤など)、注射剤などに処方することができる。経口投与において薬物が胃酸で分解されるのを防ぐため、前記組成物を制酸薬と同時投与したり、腸溶性コーティングのある処方にしてもよい。
【0033】
人体への多糖の投与量は、有効成分の吸収速度、不活性化速度、排泄速度や、患者の年齢、性別、現在の容体などを検討して、適切に決定しなければならず、一般には、成人に対し1日あたり100μg〜6000mg、好ましくは20〜5000mgである。
【0034】
本発明による組成物は、抗癌薬またはその補助薬を更に含んでいてもよく、またそれらと同時投与してもよい。抗癌薬の種類に特に制限はなく、その例にはタキソール(登録商標)およびシスプラチン(登録商標)が含まれる。
【0035】
以下の実施例を参照して、本発明をより詳細に記載する。ただし、本発明の範囲はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
調製実施例1:人参の葉および/または茎からの、多糖粗抽出物の調製
Panax ginseng C.A.Mayerの葉および/または茎100gを1リットルの水に添加し、それらから活性成分を抽出すべく100℃で5時間加熱した。濾過により液相を葉および/または茎から分離し、7,000rpmで30分間遠心分離して、それから不溶性の不純物を除去した。上清(多糖を含む)を70℃、760mmHgで20brixとなるまで濃縮して、100mlの濃縮溶液を得た。最終濃度1Mとなるよう塩化ナトリウムを添加し、次いで300mlのエタノールを添加した。得られた混合物を1時間放置して沈殿を起こさせた。沈殿物を100mlの95%エタノールで洗浄して(2回)不純物を除去し、次いで透析し、更に凍結乾燥して多糖粗抽出物を得た。
【0037】
Panax quinquefoliumの葉および/または茎に対しても上記の方法を繰り返し、多糖粗抽出物を得た。
【0038】
調製実施例2:人参の葉および/または茎からの多糖の調製
Panax ginseng C.A.Mayer500gを5リットルの蒸留水に添加し、3時間加熱して抽出溶液を調製した。抽出溶液からスラリーをガーゼで分離した。抽出溶液を7,000rpmで20分間遠心分離して、上清を分離した。上清をpH約8.0、0.4M NaCl/10mM Tris−HClに調整し、次いでアニオン交換樹脂(PA312系強塩基型アニオン交換樹脂、Samyang社製)のカラム(流速30ml/分)にかけた。アニオン交換樹脂は、事前に0.4M NaCl/10mM Tris−HClで平衡化し、不純物のみが吸着され、多糖は吸着されないようにした。アニオン交換樹脂のカラムを緩衝溶液で十分洗浄し、前記カラムを通過した溶液をpH約6〜7に調整した。得られた溶液を吸着剤樹脂(HP−20、三菱製)のカラム(流速30〜50ml/分)にかけた。前記カラムを蒸留水(DW)で十分洗浄し、次いで3倍エタノール沈殿法を行い、溶液が全てカラムを通過したことを確認した。流出溶液に3倍容の95%エタノールを添加して、多糖のみを効率よく沈殿させ、多糖を濃縮した。多糖を回収するため、溶液を5000rpmで15分間遠心分離し、次いで透析を行った。得られた溶液をpH8、10mM Tris−HClに調整し、アニオン交換樹脂(Q−セファロース、ファルマシアバイオテック社製)のカラム(流速15〜20ml/分)にかけて吸着させた。カラムを10mM Tris−HCl緩衝溶液で洗浄し、0.5M NaClで溶出させた。溶液に3倍容のエタノールを添加して多糖を沈殿させた。溶液を5000rpmで15分間遠心分離して沈殿を得た。沈殿を95%エタノールで2回洗浄して不純物を除去し、透析(分子量カットオフ6000以下)を行って残存エタノールを除去し、次いで凍結乾燥して多糖を得た。
【0039】
Panax quinquefoliumの葉および/または茎に対しても上記の方法を繰り返し、多糖を得た。
【0040】
調製実施例3:MB40100(人参の葉および/または茎からの抽出物)の調製および注射用溶液の調製
調製実施例2においてアニオン交換樹脂(Q−セファロース)のカラム(流速15〜20ml/分)にかけた、Panax ginseng C.A.Mayer由来の溶液をシリカゲル充填カラムにかけて、それから発熱性物質を除去した。3倍容のエタノールを添加して多糖を沈殿させ、遠心分離により多糖を回収し、95%エタノールで2回洗浄して不純物を除去した。得られた沈殿物(segment)を3回蒸留した水に溶解し、透析(分子量カットオフ6000以下)を行って残存エタノールを除去した。滅菌のため、得られた画分を0.2μm濾過システムに付し、発熱性物質を含まない溶液を調製した。この無菌溶液を3mlバイアル中で凍結乾燥して、多糖画分を得た。乾燥多糖画分を生理食塩水に溶解して注射用溶液を調製し、後述の実施例において用いた。Panax ginseng C.A.Mayerの葉または茎から抽出したこの多糖を「MB40100」と命名した。
【0041】
実験実施例1:人参の葉および/または茎から得られた抽出物の分析
前記調製実施例において調製した抽出物について成分分析を行った。
糖の総含有量は、標準物質としてガラクトースを用いたフェノール−硫酸法(非特許文献8)により測定した。ウロン酸の含有量は、標準物質としてβ−D−ガラクツロン酸を用いたm−ヒドロキシビフェニル法(非特許文献9)により測定した。タンパク質の含有量は、標準物質としてウシアルブミンを用いたローリー法(非特許文献10)により測定した。KDO(3−デオキシ−D−マンノ−2−オクツロソン酸)の含有量は、チオバルビツール酸法により測定した。
【0042】
多糖の分析は、アルジトールアセテートを誘導体とするジョーンズ法(非特許文献11)を用いて、気−液クロマトグラフィー(GLC)法により行った。
【0043】
調製実施例1で得られた粗抽出物を3回蒸留した水に溶解して濃度を1mg/mlとし、上記の方法で分析した。その結果、Panax ginseng C.A.Mayerでは、中性糖の含有量が68.9%、ウロン酸の含有量が15.9%、タンパク質の含有量が8.7%であり、Panax quinquefoliumでは、中性糖の含有量が57.8%、ウロン酸の含有量が35%、タンパク質の含有量が5.4%であることが示された。
【0044】
調製実施例2で得られた粗抽出物を3回蒸留した水に溶解して濃度を1mg/mlとし、上記の方法で分析した。その結果、Panax ginseng C.A.Mayerでは、中性糖の含有量が51.3%、ウロン酸の含有量が46.8%、タンパク質の含有量が0.1%(糖の組成は、ラムノース5.97%、フコース1.22%、アラビノース14.86%、キシロース0.44%、マンノース1.93%、グルコース3%、ガラクトース22.7%、ガラクツロン酸31.4%、グルクロン酸14.4%、KDO1.38%およびDHA(d−デオキシ−D−リキソ−2−ヘプツロサール酸)1.02%であった)であり、Panax quinquefoliumでは、中性糖の含有量が49%、ウロン酸の含有量が50.8%、タンパク質の含有量が0.2%(糖の組成は、ラムノース9.7%、フコース4.1%、アラビノース8.7%、キシロース0.7%、マンノース1.5%、グルコース1.2%、ガラクトース12%、ガラクツロン酸44%、グルクロン酸5%、KDO6%およびDHA1.2%であった)であることが示された。
【0045】
分子量は、GS−520HQ、GS−320HQおよびGS−220HQ (Shodex Asahipack GSシリーズ、昭和電工製)を直列に連結して、HPLCで測定した。この測定によれば、人参の葉および/または茎からの抽出物は、分子量が6,000〜340,000Da、平均分子量が約120,000Daであった。
【0046】
糖の組成は人参の葉および茎の種類によって変動し、例えば中性糖については30〜80%、酸性糖については10〜60%、タンパク質については0.01〜10%であるが、糖の組成は一般にラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、ガラクツロン酸、グルクロン酸、KDOおよびDHAを含んでおり、いずれの抽出物も抗癌・抗転移作用を示し、また抗癌薬の補助薬機能が見られた。
【0047】
比較実施例1:Panax ginseng C.A.MayerおよびPanax quinquefoliumから抽出された多糖の活性の比較
各調製実施例で得られた各抽出物の肺癌転移抑制能を測定したところ、Panax ginseng C.A.Mayerでの抑制率は88.3%、Panax quinquefoliumでの抑制率は83.1%であることが判明した(図1を参照)。以下の実施例においては、Panax ginseng C.A.Mayerから抽出された多糖であるMB40100を用いた。これは、このものが癌転移に対しより高い抑制率を示すことによる。
【0048】
実験実施例2:MB40100の固形癌に対する抗癌作用
Sarcoma 180細胞(非上皮性癌細胞株)1×10個を、BALB/cマウス(1群あたり20匹)の鼠径部に注射した。注射より3日後、10日間にわたり、MB40100を1日1回経口投与(投与量:10および20mg/kg)し、経口投与の後、癌の大きさを対照群のそれと比較した。UV2237P細胞(上皮性癌細胞株)に対しても上記の方法を繰り返した。図2に示す通り、非上皮性癌細胞株に関しては、MB40100処理により、癌の大きさが投与量10mg/kgでは60%、投与量20mg/kgでは70%減少した。上皮性癌細胞株に対しては、対応する投与量において、癌の大きさが各々65%および78%減少した。
【0049】
実験実施例3:MB40100の肺癌転移に対する予防作用
7.5%FBS、ビタミン溶液、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸およびL−グルタミンを含むイーグルスMEM培地中で、Colon 26−M3.1細胞(高度転移性結腸癌細胞)を培養した。この癌細胞をBALB/cマウスに注射し、癌転移度を測定することにより、Colon 26−M3.1細胞の肺癌転移実験を行った(非特許文献12)。MB40100をPBSに溶解して0.2μmの滅菌濾紙で濾過し、種々の投与量(500μg、100μg、20μgおよび4μg)で各マウスに静脈注射した。注射から2日後、前記Colon 26−M3.1細胞を注射(マウス1匹あたり細胞2.5×10個)し、癌転移に対する予防作用を評価した。注射から14日後、マウスを屠殺してその肺をブアン液中に保存した。肺に転移した癌細胞数を計数した。図3に示す通り、静脈注射したMB40100は、Colon 26−M3.1の肺への転移を有意に阻害した。
【0050】
実験実施例4:MB40100の肺癌転移に対する治療作用
7.5%FBS、ビタミン溶液、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸およびL−グルタミンを含むイーグルスMEM培地中で、Colon 26−M3.1細胞(高度転移性結腸癌細胞)を培養した。この癌細胞をC57BL/6マウスおよびBALB/cマウスにそれぞれ注射し、癌転移度を測定することにより、Colon 26−M3.1細胞の肺癌転移実験を行った(非特許文献12)。MB40100をPBSに溶解して0.2μmの滅菌濾紙で濾過し、種々の投与量で各マウスに静脈注射した。前記Colon 26−M3.1細胞をマウスに注射(マウス1匹あたり細胞2.5×10個)し、転移癌の増殖を誘引した。注射から1日後および4日後、各々、500μg、100μgおよび20μgのMB40100をマウスに静脈注射し、癌転移に対する治療作用を測定した。癌細胞の注射から14日後、マウスを屠殺してその肺を取り出し、ブアン液中に保存した。肺に転移した癌細胞数を顕微鏡を通じて計数した。図4に示す通り、静脈注射したMB40100は、投与量に応じて、肺に転移したColon 26−M3.1細胞の増殖を有意に阻害した。
【0051】
実験実施例5:MB40100により活性化された、癌細胞に対するNK細胞介在細胞毒性の測定
MB40100により活性化された、癌細胞に対するNK細胞介在細胞毒性の測定を、放射性同位元素51Crの活性を測定することにより評価した(非特許文献13)。500μg、100μg、20μgおよび4μgのMB40100を1群あたり2匹のBALB/cマウスにそれぞれ静脈注射した。注射から2日後、マウスの脾細胞を採取した。丸底96穴プレート中の脾細胞を含む各溶液に、51Cr−標識Yac−1細胞を、各々エフェクター(脾細胞):標的(Yac−1)細胞比(E/T比)100:1、50:1、25:1および12.5:1で添加した。それらを5%CO、37℃の条件下で6時間培養した。培養後、プレートを10分間遠心し、次いで各ウェルの上清を綿棒で吸収した。ガンマカウンターを用いて放射性同位元素の量を測定した。NK細胞により生じた細胞毒性を、下記式:
細胞毒性(%)=(実験的放出−自然放出)/(最大放出−自然放出)×100
により放射活性(カウント/分)として算出した。
【0052】
図5からわかるように、MB40100を注射したマウスの脾細胞におけるNK細胞の活性は、MB40100の濃度に依存して増加し、500μg、100μgおよび20μgを投与した群では、対照群に比べ各々3〜10倍に増加した。NK細胞の活性は通常、E/T比に応じて幾分変化するが、この実験実施例におけるNK細胞の活性は、E/T比に関係なく有意に増加した。
【0053】
実験実施例6:顆粒球マクロファージコロニー形成単位(GM−CFU)の形成による造血機能の促進
35mmペトリ皿(2mmグリッド付き、Nalgen Nunc製)に、1mlあたり細胞1×10個の骨髄細胞を入れ、MethoCult(カナダ国Stem Cell社製)アガー1mlを用いて、種々の濃度のMB40100で処理し、インキュベーター中37℃、5%COの条件下で7日間培養した。対照群にはMB40100なしのアガーを用いた。7日間培養後、培養した35mmペトリ皿を2mmグリッド付き60mmペトリ皿に乗せ、コロニー数を顕微鏡を通じて計数した。10μg処理群ではコロニー数が168であり、対照群と差がなかったが、50μgおよび100μg処理群では、対照群に比べ各々コロニー数が36.6%および32.5%増加した(図6を参照)。
【0054】
実験実施例7:MB40100の、抗癌薬による造血抑制のレベルを低減させる作用
抗癌薬(シクロホスファミドなど)は一般に、生体内で免疫抑制薬として機能し、免疫系の細胞数を減少させる。これは抗癌薬の代表的な副作用である。本実施例においては、MB40100の同時投与(シクロホスファミド投与により起こる免疫抑制を低減させることを期待したもの)において免疫細胞数を測定した。
【0055】
マウスに対しシクロホスファミド(250mg/kg)を投与し、その24時間および48時間後に異なる投与量(10mg/kgおよび20mg/kg)のMB40100を各々腹腔内投与した(abdominally administered)。7日後、マウスを屠殺して骨髄細胞および脾細胞を取り出し、これらの細胞数をトリパンブルー排除法で計数した。
【0056】
遠位眼球静脈(eyeball distal vein)からヘパリン処理ガラス毛細管を用いて末梢血を素早く収集し、K3−EDTA処理血液収集管(blood−gathering tube)に回収して、自動血球分析装置(automatic globule analyzer)で試験した。
【0057】
A.シクロホスファミド投与後の白血球(WBC)数の変化
自動血球分析装置で測定したところ、正常マウスの遠位眼球静脈から収集した血液中の白血球数は平均7800であったが、シクロホスファミド投与マウスでは、白血球数は5300(正常マウスに比べ約30%減少)であった。一方、シクロホスファミド投与の2日後にMB40100を10mg/kgおよび20mg/kg投与したマウス群では、白血球数は各々6600および6400(シクロホスファミドのみを投与したマウスに比べ約15%多い)であった。
【0058】
更に、シクロホスファミド投与の1日後にMB40100を投与したマウス群では、白血球数は対照群に比べ12.1%多かったが、MB40100の濃度に応じた差はなかった。また、シクロホスファミド投与の前後、計2回のMB40100投与を受けたマウス群では、白血球数は対照群に比べ約15%多かった(図7を参照)。
【0059】
B.末梢血中の血小板数の変化
シクロホスファミドのみを投与したマウスでは、血小板数は正常マウスに比べ約56%少なかった。MB40100を投与すると、シクロホスファミドのみを投与したときに比べ血小板数は約6.6%増加し、回復効果を示した。また、MB40100投与がシクロホスファミド投与の前か後かによらず、増加は6〜7%であった(図8を参照)。
【0060】
C.脾細胞数の変化
シクロホスファミドのみを投与したマウスでは、脾細胞数は正常マウスに比べ約72.8%少なかった。一方、シクロホスファミド投与前にMB40100を20mg/kg投与すると、シクロホスファミドのみを投与したときに比べ脾細胞数は約26.8%増加した。また、シクロホスファミド投与後にMB40100を10mg/kgおよび20mg/kg投与したマウス群では、各々、脾細胞数は約33%および43%増加した。以上の結果は、抗癌薬による免疫細胞の抑制を、MB40100が低減しうることをしめすものである(図9を参照)。
【0061】
D.骨髄細胞数の変化
シクロホスファミド投与の7日後、屠殺したマウスの骨髄細胞数を計数した。正常マウスの骨髄細胞密度は1mlあたり41.1×10個であったが、シクロホスファミドを投与したマウスの骨髄細胞密度は1mlあたり29.6×10個であった(抗癌薬により29.2%減少)。しかし、シクロホスファミド投与の2日前にMB40100を10mg/kgおよび20mg/kg投与したマウス群では、シクロホスファミド投与マウス群に比べ、細胞数が各々17.1%および18.1%多かった。また、シクロホスファミド投与後にMB40100を20mg/kg投与したマウス群では、細胞数が10.78%多かった(図10を参照)。
【0062】
実験実施例8:MB40100の、放射線照射に対する保護作用
癌治療においては、しばしば放射線照射療法を抗癌剤投与と併用するが、これは骨髄細胞を破壊し、正常免疫細胞の形成・複製に負の作用を有するので、造血および免疫の機能を低下させる。この実験では、MB40100の同時投与が、放射線照射処理に伴う造血および免疫の機能の低下を低減しうるか否かを試験した。
【0063】
BALB/cマウス(雄、体重18〜22g)にMB40100を腹腔内投与し、48時間後、4.5Gy(半数致死量(semi−lethal amount))のコバルト(60Co)γ線に曝露させた。照射から5日および9日後、いずれにおいても(irrespectively)、マウスを屠殺して骨髄細胞および脾細胞を採取し、各々の細胞数をトリパンブルー排除法で計数した。対照群に対しては、MB40100に代えてPBSを投与した。
【0064】
A.脾細胞数の変化
正常マウスに4.5Gy(半数致死照射量)のコバルト(60Co)γ線を照射し、その5日後には、脾細胞数は1mlあたり15.8×10個であり、これは正常マウスの脾細胞数のわずか3%であったが、9日後には14.8%まで回復した。しかし、照射2日前に10mg/kgのMB40100を投与したマウス群では、照射5日後の脾細胞数が7.6%であり、9日後には18.2%まで回復した。
【0065】
照射2日前に20mg/kgのMB40100を投与したマウス群では、照射5日後の脾細胞数が4.6%(10mg/kg投与群より少ない)であり、9日後にはそれ以上増えていなかった。また、照射1日後にMB40100を投与したマウス群では、脾細胞数は増加していたが、MB40100の濃度に応じた差は見られなかった。照射の前や後にMB40100を投与したマウス群では、MB40100を投与していないマウス群に比べ脾細胞数が増加していた(図11を参照)。
【0066】
B.骨髄細胞数の変化
照射5日後、マウスの左大腿部から骨髄細胞を回収したところ、細胞数は正常マウスの5.3%であった。照射9日後には、正常マウスの11.8%まで増加した。しかし、照射の前や後にMB40100を10mg/kgおよび20mg/kg投与したマウス群では、未処理マウスに比べ、照射5日後に屠殺したマウスで6〜7%、照射9日後に屠殺したマウスで約15.7%細胞数が多かった。よって、MB40100は、放射線照射マウスの骨髄細胞の保護を補佐し、造血機能を維持することが確認された(図12を参照)。
【0067】
実験実施例9:免疫細胞の活性化および抗癌性サイトカインの生成
C57/BL6マウスにMB40100を10mg/kg腹腔内投与し、1時間ごとに脾細胞を採取した。免疫細胞に対し蛍光標識受容体を用いるFACS分析を行った。その結果、免疫性に関連する全ての細胞(NKT細胞、NK細胞、樹状細胞、マクロファージ、CD4細胞、CD8細胞、B細胞など)が活性化され、MB40100投与後約16時間後に活性化が最大となることが示された。
【0068】
各免疫細胞から分泌されるサイトカインの量を測定するため、C57/BL6マウスにMB40100を10mg/kg腹腔内投与し、16時間後に脾細胞を採取した。各免疫細胞から分泌されるサイトカインの量を、各免疫細胞に対する蛍光標識受容体および抗サイトカイン抗体を用いて、細胞内染色法で測定した。その結果、MB40100を投与したマウス群では、NKT細胞およびT細胞から分泌されるTNF−aおよびIL−3が増加し、マクロファージおよび樹状細胞から分泌されるIL−12およびTNF−aも増加することが示された(図14を参照)。
【0069】
実験実施例10:抗癌薬と同時投与したMB40100の相乗効果(1)
C57BL/6マウスに、癌細胞株B16−BL16を皮内注射した(マウス1匹あたり細胞1×10個)。癌細胞注射の1日後から、0.2μmのフィルターで濾過したMB40100を、3日おきに4回静脈注射した(マウス1匹あたり1mgおよび200μg)。抗癌薬シスプラチンを静脈注射した(各々マウス1匹あたり100μg、50μgおよび20μg)。マウスを、抗癌薬のみ投与したものと、MB40100を抗癌薬と同時に投与したものの2群に分け、癌の大きさおよび重さを測定した。その結果、同時投与群のマウスでは、癌細胞の増殖が約43%抑制されることが示された。即ち、MB40100をシスプラチンと同時に投与したマウス群では、マウスは活発に動き、正常マウスの体重に回復した。これに対し、50μgのシスプラチンのみ投与したマウス群では、重篤な副作用(体重低下、運動減少など)が観測された。この結果、MB40100は、造血系の刺激および免疫反応の活性化に関与すると考えられる(図15および16を参照)。
【0070】
実験実施例11:抗癌薬と同時投与したMB40100の相乗効果(2)
実験対象として胸腺欠損ヌードマウスを用いた。抗癌薬(タキソール)を投与したマウス群、MB40100を投与したマウス群並びにタキソールおよびMB40100を同時投与したマウス群において、癌の大きさを測定した。マウスの状態と毒性を考慮し、タキソールは、癌注射の6日後から、3日おきに7回投与した(12.5mg/kg)。MB40100は、癌注射の2日前に1回、癌注射の後は3日おきに(タキソール投与の日とは重複しない)腹腔内投与した(10mg/kg)。使用した細胞株はPC−3であり、マウス1匹あたり細胞2×10個を皮下注射した。
【0071】
癌注射の14〜31日後に、癌の大きさを測定した。タキソールおよびMB40100を同時投与した群における癌の大きさは、タキソールのみを投与した群における癌の大きさよりも小さかった。このことは、MB40100と抗癌薬の同時投与は、固形癌の抑制に関して相乗効果を有することを示している。
【0072】
実験実施例12:錠剤の調製
【0073】
【表1】

【0074】
上記処方箋の成分を均一に混合し、次いで打錠機で、1錠あたり500mgの錠剤となるように圧縮した。
【0075】
実験実施例13:散剤の調製
【0076】
【表2】

【0077】
上記処方箋の成分を均一に混合し、次いで組み立て装置(assembly machine)で、1カプセルあたり500mgとなるようにカプセルに充填した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
パナックス属に属する植物の葉および/または茎から抽出される、本発明による抽出物または多糖は、癌転移に対して抑制作用を示し、そのため癌治療薬、癌転移の予防および治療薬、並びに抗癌薬および放射線照射治療用の補助薬として使用できる。
【0079】
従って、前記抽出物または多糖画分を含む組成物は、免疫系(NKT細胞、NK細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞などを含む)を全体的に活性化し、また抗癌関連サイトカインの分泌を促進する作用を有するので、癌細胞の増殖および転移を有意に抑制するので、前記組成物は、抗癌および抗癌転移薬として、また一般的な抗癌薬または放射線照射治療の補助薬(それらの副作用、例えば白血球数の減少を低減させることによる)として使用できる。
【0080】
本発明は、その精神および必須の特徴から逸脱することなくいくつかの態様をとりうるので、上記の実施例は、特に指定のない限り、先行する記載の詳細により一切限定されると理解すべきものではなく、むしろ添付の請求の範囲に定義されるその精神および範囲内において広く解釈すべきものであり、従って、請求の範囲内にふくまれるあらゆる変更および修飾、またはそのような範囲の等価物は、添付の請求の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パナックス属に属する植物の葉および/または茎から得られる抽出物を活性成分として含む抗癌薬またはその補助薬用の組成物。
【請求項2】
前記パナックス属に属する植物は、Panax ginsengPanax quinquefoliumPanax notoginsengPanax pseudoginsengPanax japonicumおよびPanax vietnamensisよりなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抽出物は、多糖を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抽出物は、前記葉および/または茎を水中で加熱すること(水熱処理)により得られることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記多糖は、中性糖、ウロン酸および/またはタンパク質を含む糖タンパクからなることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記多糖は、KDOを含むことを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記多糖の糖組成は、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、ガラクツロン酸、グルクロン酸、KDOおよびDHAを含むことを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
癌細胞の増殖および転移を抑制する作用を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
上皮由来または非上皮由来の固形癌に対して治療および/または予防作用を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
癌に対して治療および/または予防作用を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
造血促進、骨髄保護、免疫促進、放射線照射治療補助、抗ウィルスおよび抗菌活性のうち少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
造血促進活性を有することを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
白血球および血小板の減少を含む、一般的な抗癌薬の副作用を低減する活性を有することを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
骨髄および脾臓を放射線照射から保護する活性を有することを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
NKT細胞、NK細胞、マクロファージ、T細胞およびB細胞を含む免疫系の活性を促進する活性を有することを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
NKT細胞、NK細胞、マクロファージ、T細胞およびB細胞を活性化し、抗癌物質である腫瘍壊死因子、γ−インターフェロンおよびインターロイキン1を分泌させて抗癌、抗菌および/または抗ウィルス活性を示すことを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
抗癌薬および/またはその補助薬を更に含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
前記抗癌薬は、タキソール、シスプラチンまたはシクロホスファミド、或いはそれらのうち2種以上であることを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
担体または賦形剤を更に含むことを特徴とする請求項1〜7および17のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
前記担体または賦形剤は、薬学的に許容される、飲料または食物の形態のものであることを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
活性成分としての請求項1〜7のいずれかの組成物、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、造血促進、骨髄保護、免疫促進、抗癌薬補助薬、放射線照射治療補助、ウィルスおよび微生物病原体に対する保護、癌予防および癌治療を目的とする医薬組成物。
【請求項22】
制酸薬を更に含むことを特徴とする請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
単回または複数回投与用の、錠剤、散剤、硬または軟カプセル剤、分散液、注射液、乳液および非経口投与形態よりなる群から選ばれる形態であることを特徴とする請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記活性成分の投与量は、成人の平均体重を基準として1日あたり0.1〜6,000mgであることを特徴とする請求項21〜23のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項25】
パナックス属に属する植物(以降「人参」と称する)の葉および/または茎から抽出物を調製する方法であって、
a)人参の葉および/または茎を水中で加熱(水熱処理)して、粗抽出溶液を得る工程;
b)任意に、前記粗抽出溶液を濃縮する工程;
c)前記粗抽出溶液に含まれる多糖を有機溶媒を用いて沈殿させ、前記多糖を分離する工程;および
d)前記有機溶媒を除去して多糖画分を得る工程
を含む抽出物を調製する方法。
【請求項26】
前記工程c)およびd)の前に、先行する工程で得られた生成物をアニオン交換クロマトグラフィーにより精製し、透析する工程を更に含むことを特徴とする請求項25に記載の抽出物を調製する方法。
【請求項27】
前記水熱処理を、50〜180℃で0.5〜20時間行うことを特徴とする請求項25に記載の抽出物を調製する方法。
【請求項28】
前記有機溶媒は、アルコールまたはアセトンであることを特徴とする請求項25に記載の抽出物を調製する方法。
【請求項29】
前記アルコールは、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールまたはプロパノールであることを特徴とする請求項28に記載の抽出物を調製する方法。
【請求項30】
請求項25〜29のいずれかの抽出物を調製する方法により得られる抽出物を含む組成物であって、中性糖の含有量は30〜80%、ウロン酸の含有量は10〜60%、タンパク質の含有量は0.01〜10%であることを特徴とする組成物。
【請求項31】
前記抽出物は、タンパク質を含まないことを特徴とする請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記抽出物は、パナックス属に属する植物の葉および/または茎の多糖を含み、前記多糖の分子量は、6,000〜340,000Daであることを特徴とする請求項30に記載の組成物。
【請求項33】
前記多糖の糖組成は、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、ガラクツロン酸、グルクロン酸、KDOおよびDHAを含むことを特徴とする請求項30〜32のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−a】
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【図13−b】
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【図13−c】
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【図13−d】
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【図14−a】
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【図14−b】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−93928(P2011−93928A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1632(P2011−1632)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【分割の表示】特願2004−506832(P2004−506832)の分割
【原出願日】平成15年5月28日(2003.5.28)
【出願人】(504435416)エムディー バイオアルファ カンパニー リミテッド (6)
【Fターム(参考)】