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人工トレーサおよび人工トレーサを用いた漏洩検知方法
説明

人工トレーサおよび人工トレーサを用いた漏洩検知方法

【課題】毒性が無く安価で入手可能な、かつ、検出精度が高い人工トレーサおよび人工トレーサを用いた漏洩検知方法を提供する。
【解決手段】本発明の人工トレーサはトレーサ物質がFe-EDTA錯塩であることを特徴とする。そして、例えば、人工トレーサを用いて鋼製遮水壁の漏洩を検出する場合、トレーサ物質としてFe-EDTA錯塩を用い、鉄の濃度を測定することにより漏洩を検出する。さらに、前記Fe-EDTA錯塩はFe(III) -EDTA錯塩であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工トレーサおよび人工トレーサを用いた漏洩検知方法に関し、例えば、廃棄物処分場で用いられる鋼製遮水壁、遮水シ−トの漏洩検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からの廃棄物処分場の遮水方法としては、例えば、遮水手段として遮水シ−トを用いる方法や鉛直遮水壁を採用する方法がある。後者の場合には、部材自身の剛性が高い鋼矢板や鋼管矢板が鋼製遮水壁材として用いられている。しかし、一般に、この鋼矢板や鋼管矢板は継手を介して隣接する部材と接続されるため、接続部分から汚水が漏洩する可能性があり、そのため、漏洩を防止し、遮水する方法として、さらに、上記遮水シートを用いる方法が適用される場合もある。
【0003】
このような遮水を行っている際に汚水が漏洩した場合には、迅速にかつ精度良く、漏洩を検知することが重要である。例えば、上記遮水シ−トを用いた遮水手段では、遮水シートがなんらかの原因で破損し汚水が漏洩した場合には破損前後での電気的特性の変化を利用して漏洩を検知する、あるいは、処分場内に人工トレーサを投入し、処分場外で採取した水の水質検査により漏洩を検知する手段がとられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、鋼製遮水壁の漏洩を検知する方法としては、上記の電気的特性の変化を利用して漏洩を検知する方法は、鋼矢板や鋼管矢板の電気伝導度が高いため、適用が困難である。
【0005】
また、上記人工トレーサを鋼製遮水壁の漏洩検知方法として用いる場合には、以下のような問題がある。例えば、陸上部の地下水の調査で良く用いられる食塩等の電解質をトレーサとして用いる方法は、海面廃棄物最終処分場で用いる場合には、周囲に海水があるため、食塩等のバックグラウンド濃度が高く適用できない。またフロレッセン等の染料をトレーサとして用いる方法は、色づきで判断するため検出精度が低く、さらに、海水中のマグネシウムイオンやカルシウムイオンの影響を受けて精度が低下する等の問題があり適用が困難である。さらに放射性同位体をトレーサとして用いる方法は環境に対する影響が懸念される。安定同位体をトレーサとして用いる方法は分析に時間と費用がかかる。
【0006】
これに対し、高感度で従来に比べて安価に分析が可能な方法として、例えば特許文献2には、トレーサ物質にインジウムや希土類元素をジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)でキレート化し、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)によってトレーサを分析検出する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平9−243498公報
【特許文献2】特許第2899258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、鋼製遮水壁の漏洩検知方法として用いる場合には上記のような問題があり、トレーサの種類とトレーサを用い漏洩を検知する場所の組み合わせが限られてしまう。
【0008】
特許文献2に記載の方法は、いまだ費用が高価である。
このように、漏洩検知を行うに際し、電気的な漏洩検知方法は、例えば遮水壁で遮水を行う場合には適用できず、また、トレーサ法では、従来から用いられているトレーサ物質では検出精度の問題や毒性から適用が困難な場合がある。また、検出精度を上げるために高感度分析を用いる方法では、トレーサ物質や分析費用が高額なため、広大な面積を対象とする漏洩検知では現実的とはいえない。
【0009】
以上のように、本発明は上記問題を解決するためになされたもので、毒性が無く安価で入手可能な、かつ、検出精度が高い人工トレーサおよび人工トレーサを用いた漏洩検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、種々の検討を加えた。その結果、トレーサ物質としてFe-EDTA錯塩を用いて人工トレーサにより漏洩を検知することにより、従来のさまざまな問題が解決され、種種の遮水手段にも対応可能であることを見いだした。
【0011】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]トレーサ物質がFe-EDTA錯塩であることを特徴とする人工トレーサ。
[2]前記[1]に記載の人工トレーサを用い、漏洩を検知することを特徴とする漏洩検知方法。
[3]人工トレーサを用いて鋼製遮水壁の漏洩を検出するに際し、トレーサ物質としてFe-EDTA錯塩を用い、鉄の濃度を測定することにより漏洩を検出することを特徴とする漏洩検出方法。
[4] 人工トレーサを用いて遮水シ−トの漏洩を検出するに際し、トレーサ物質としてFe-EDTA錯塩を用い、鉄の濃度を測定することにより漏洩を検出することを特徴とする漏洩検出方法。
[5]前記[3]または[4]において、Fe-EDTA錯塩がFe(III) -EDTA錯塩であることを特徴とする漏洩検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、毒性が無く安価で入手可能で、かつ、検出精度が高い人工トレーサおよび人工トレーサを用いた漏洩検知方法を提供する。さらに、本発明の漏洩検知では、遮水手段を選ばず、遮水シ−トを用いる場合、遮水壁を用いる場合のいずれの場合にも適用可能である。また、本発明は陸上、海面を問わず、遮水を行ういずれの場所においても適用が可能であり、中でも、海面廃棄物最終処分場などの海水中における漏洩検知には最適である。さらに、本発明は上記の効果に加え、迅速に処理でき、濃度を検出する際に特別な分析法を必要せす、環境に与える影響も極めて小さい等の効果を有し、産業上有益な漏洩検知方法といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、人工トレーサを用いて漏洩を検知するに際し、トレーサ物質としてFe-EDTA錯塩を用い、鉄の濃度を測定することにより漏洩を検知することを特徴とする。
【0014】
トレーサ物質であるFe-EDTA錯塩の限定理由について説明する。
【0015】
遮水手段、遮水場所が多種多様であることを考慮すると、トレ−サ物質を限定するにあたってはさまざまな条件を満足することが必須となる。
【0016】
例えば、海水中で使用可能とするには、トレ−サ物質の海水中での濃度が低いことが要求される。アルカリ金属またはアルカリ土類金属は、海水のpHが8程度のため海水中で安定である。ゆえに、海水中のバックグラウンド濃度(=アルカリ金属またはアルカリ土類金属濃度)が高く、トレ−サ物質の濃度を測定することにより漏洩を検知するトレ−サ法のトレーサ物質としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属は不適である。またハロゲン元素に関しても、上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属同様、海水のpHでは安定であるため、バックグラウンド濃度が高く、トレーサ物質としては不適である。また、これらハロゲン元素の酸素酸塩(例えばヨウ素酸イオンIO3-、臭素酸イオンBrO3-)を用いることも考えられるが、酸化作用が強く毒性があるため、鋼製遮水壁が溶出したり壊れたりする場合が考えられトレーサ物質として用いることは難しい。
【0017】
以上から、例えば、海水中の漏洩検知であれば、トレ−サ物質としては、海水中の濃度が低く、さらには、毒性が無く、かつ安価に入手できる物質であり、環境に対する影響も少ないものが望ましいといえる。
【0018】
上記を考慮し、海水中以外の他の場所での使用も含めて種々検討を加えた結果、本発明者らは、トレーサ物質としてFeが適していることを見いだした。
【0019】
さらに、例えば、海水pHを考慮すると金属類は水酸化物生成領域であるため、トレーサ物質としては金属錯体の形で用いることが望ましい。
【0020】
検討した結果、本発明では、キレート剤としては産業用用途で広く用いられており、重金属イオンと強固な溶解性錯塩を容易に形成するエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を用いるものとした。EDTAは環境中に排出された場合、どの金属とキレートを作るかによって毒性が異なるが、上記Feとの組み合わせであるFe-EDTA錯塩の毒性は極めて低いと考えられる。また海水中においてFe -EDTA錯塩は安定であり、毒性を持つ物質に変化する可能性は低いと考えられる。
【0021】
さらに、鋼製遮水壁の漏水検知用途に用いた場合、鋼製遮水壁からの鉄分の溶出により検知精度が悪化することが懸念されるが、熱力学的に安定なFeの溶解度は極めて低く、海水中の鉄はすばやく3価の粒状水酸化鉄として除去されるため、試料をろ過処理することでコンタミネーションを防ぐことが可能である。
【0022】
また、遮水シ−トを用いて遮水を行った場合の漏洩検知に対しても、トレ−サ物質としてFe-EDTA錯塩を用いて人工トレ−サにより行う方法は特段の問題なく行うことが可能である。陸上で遮水が行われる場合においてもトレ−サ物質としてFe-EDTA錯塩を用いて人工トレ−サにより行う方法は、同様に、特段の問題なく行うことが可能である。以上より、本発明では、人工トレ−サを用いて漏洩を検知する際の人工トレ−サ物質としてFe-EDTA錯塩を用いることとする。
【0023】
なおFe-EDTA錯塩の量は、用いられる場所のFeの濃度により異なり、適宜、設定条件に合わせ決定される。例えば、海水中において、トレ−ザ物質として本発明のFe-EDTA錯塩を用いる場合、海水中の鉄の濃度は0.001μg/kg以下であるため、トレーサ物質として投入するFe-EDTA錯塩の量は、試料を採取する地点での濃度が0.001μg/kg以上になるようにするのが好ましい。
【0024】
さらに、採取した試料の鉄濃度の定量においては、0.001μg/kg以上の検出精度を持つ検出方法を用いるのが好ましい。ただし試料を採取する地点でのトレーサ濃度を高くすることが可能であるならば、より低い検出精度の検出方法を用いることで分析に要する費用を少なくすることも可能である。
【0025】
Fe-EDTA錯塩におけるFeは特に限定しない。Fe(II)や、Fe(III)等を用いることができる。しかし、Fe(III)-EDTA錯塩は他のFe-EDTA錯塩に比べて作りやすく安定であるため、Fe(III)を使用することが好ましい。トレーサ物質としてFe(III)-EDTA錯塩を用いることで、海水中の使用においても検出精度が高く、環境に与える影響が極めて小さく、安価に遮水壁の漏洩を検知することが一層可能となる。
【0026】
本発明の漏洩検知方法は、人工トレーサ内の所定の場所に上記Fe-EDTA錯塩を注入し、一定時間経過後に、漏洩検出対象の処理水中の鉄濃度を測定することにより漏洩を検出する方法である。Fe-EDTA錯塩を注入するに際しては、水溶液として注入することが処理水中への拡散の容易性から好ましい。また、鉄の濃度の測定は原子吸光法など広く普及している方法を用いることが可能である。このように広く普及している方法を用いることで分析に要する時間と費用を少なくすることが可能となる。
【0027】
なお、本発明においては、トレーサ物質がFe-EDTA錯塩であることを特徴とするが、EDTAと反応し、錯体を形成し、EDTAとの錯塩とした場合に安定性があり、遮水場所(例えば海水)における濃度が所定の濃度以下であれば、Feに代わりに他の元素を使用することも可能である。このような元素として、例えば、Ni、CoやCa等が上げられる。
【実施例1】
【0028】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
図1は、遮水処理を施した鋼矢板継手の漏洩試験を実施するための鋼矢板継手の漏洩試験装置の構造を示したものである。図1において、継手1が取り付けられた試験器2内に、加圧した状態でトレ−サ溶液3を満たし、海水4を満たした水槽5中に試験器2を設置した。この時、試験器2内は0.03MPaの水圧になるよう加圧された状態で、アクリル製のパイプ6とホ−ス7を通じてトレ−サ溶液3が耐圧容器1内に流入される。なお、トレ−サ溶液3としては、本発明例として0.02molのFe(III)-EDTA錯塩の水溶液を、比較例としてフロレッセン染料である0.02molのフルオロセイン溶液を用いた。
【0030】
図1を用いて、2週間放置後、水槽5中の海水4を採取した。採取した海水4に対し、本発明例では、乾燥ろ紙でろ過後、少量の硝酸を添加して原子吸光法で鉄の濃度を分析した。一方、比較例では、漏洩したフルオロセインが海水中のCaと反応して生成するCa−フルオロセイン錯塩を蛍光光度法で分析することによりフルオロセインの濃度を測定した。また、Fe(III)-EDTA錯塩の水溶液及びフルオロセイン溶液の漏水量は、試験前後での試験器2内の水溶液の体積の減少量を計測することにより算出した。
【0031】
なお、継手1としては、水膨張性の止水ゴムを鋼矢板継手内に挿入して止水処理を施したもの(図2中、ケース1)と、止水ゴムの表面に布を貼り付け人為的に漏水が発生するようにしたもの(図2中、ケース2)と、鋼矢板の代わりに継手の無い平鋼を用い漏水が発生しないもの(図示せず、ケース3)の3種類で試験を行った。ケ−ス1とケ−ス2のそれぞれの継手詳細断面図を図2に示す。
【0032】
上記により得られた結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より、本発明例としてFe(III)-EDTA錯塩の水溶液を用いた場合、漏水の無いケース3では鉄濃度は検出限界以下であった。ケース1とケース2では数ppmレベルの鉄濃度が検出され、ケ−ス1の鉄濃度が最も低かった。この鉄濃度の結果からは、ケ−ス3では漏水はなく、ケ−ス1に比べてケ−ス2の方が漏水していることになる。
【0035】
一方、容器内の水溶液の体積減少量は、ケ−ス3はなく、ケ−ス1に比べ、ケース2が大きく、この結果からはケ−ス3では漏水がなく、ケ−ス1に比べてケ−ス2の方が漏水していることがわかる。
【0036】
以上から、本発明による方法で得られた結果は、実際の漏水量の結果と同じ傾向が得られている。
【0037】
一方、比較例としてフルオロセイン溶液を用いた場合、漏水の無いケース3ではフルオロセイン濃度は検出限界以下であったが、ケース1とケース2のフルオロセイン濃度は0.21ppmと0.17ppmと同程度のレベルの濃度が検出され、さらにケ−ス2のフルオロセイン濃度が最も低かった。このフルオロセイン濃度の結果からは、ケ−ス3では漏水はなく、ケ−ス2に比べてケ−ス1の方が漏水していることになる。このように、比較例による方法で得られた結果は、実際の漏水量の結果と異なった傾向になっている。
【実施例2】
【0038】
図3は、海面廃棄物最終処分場において、本発明の人工トレーサを鋼製遮水壁の漏洩検知に用いた場合の一実施形態を示す図である。図3において、遮水壁8は廃棄物層9の側面を取り囲むように構築され、処分場内外の地下水の流れを遮断するように設けられている。遮水壁8に対して、海水側には、遮水壁8と外周護岸13の間にトレ−サ注入孔10およびトレ−サ溶液11が、廃棄物層側には、取水孔12がそれぞれ設けられている。図3によれば、まず、トレ−サ注入孔10にFe(III)-EDTA錯塩の水溶液を注入する。通常、処分場内の水位は処分場外の水位より低くなるように管理されている。そのため、万一、遮水壁8に漏洩があった場合は、トレーサ物質であるFe(III)-EDTA錯塩が処分場内に流入する。よって、一定時間経過後に取水孔12より処分場内の地下水を採取し、処分場内の鉄濃度を調べることにより漏洩の有無を検知することができる。さらに、処分場内のサンプリング箇所を複数も設け、複数の地点で検出されたトレ−サ濃度から、通常行われている地下水流動解析評価技術を用いて、漏洩箇所、漏洩時期、漏洩量を推定することも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の漏洩検知方法は、検出精度が高く、かつ毒性が無く安価な方法なので、遮水手段を選ばず、漏洩検知の必要があるいずれの場所にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】鋼矢板継手の漏洩試験装置を示す図である。(実施例1)
【図2】継手詳細断面図である(実施例1)。
【図3】海面廃棄物最終処分場において、本発明の人工トレーサを鋼製遮水壁の漏洩検知に用いた場合の一実施形態を示す図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0041】
1 継手
2 試験器
3 トレ−サ溶液
4 海水
5 水槽
6 アクリルパイプ
7 ホ−ス
8 遮水壁
9 廃棄物層
10 トレ−サ注入孔
11 トレ−サ溶液
12 取水孔
13 外周護岸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーサ物質がFe-EDTA錯塩であることを特徴とする人工トレーサ。
【請求項2】
請求項1に記載の人工トレーサを用い、漏洩を検知することを特徴とする漏洩検知方法。
【請求項3】
人工トレーサを用いて鋼製遮水壁の漏洩を検出するに際し、トレーサ物質としてFe-EDTA錯塩を用い、鉄の濃度を測定することにより漏洩を検出することを特徴とする漏洩検出方法。
【請求項4】
人工トレーサを用いて遮水シ−トの漏洩を検出するに際し、トレーサ物質としてFe-EDTA錯塩を用い、鉄の濃度を測定することにより漏洩を検出することを特徴とする漏洩検出方法。
【請求項5】
前記Fe-EDTA錯塩がFe(III) -EDTA錯塩であることを特徴とする請求項3または4に記載の漏洩検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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