説明

人工バリア環境モニタリング装置

【課題】人工バリアの健全性を保ち、また電磁ノイズを受けずに人工バリア環境をモニタリングし、オーバーパック107の腐食状況を監視することである。
【解決手段】本装置は光ファイバセンサ108,109のブリルアン散乱により温度、変位量を測定し、表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ110によりpH、水分、酸素、水素を測定して、人工バリア環境モニタリングを可能にする。光ファイバ108,109,110を利用しているため人工バリア構成物に機械的なインパクトを与えることなく敷設でき、光信号を利用しているため従来方法のような電磁雑音影響を受けずに人工バリア環境モニタリングができる特徴がある。また、オーバーパック107の腐食判断器301を具備することにより、オーバーパック107腐食有無情報を提供することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物を封入したオーバーパックの腐食の有無を判定する人工バリア環境モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高レベルの放射性廃棄物を収容する高レベル放射性物質収納体としてオーバーパックが使用される。
【0003】
原子力発電所などの使用済核燃料から取り出される高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体に封入され、炭素鋼のオーバーパックに入れられ、その周りをベントナイトなどの粘土を緩衝材として取り囲み、地下数百メートルのところに埋設される。このようなオーバーパックや緩衝材は人工バリアと呼ばれる。
【0004】
高レベル放射性物質収納体の地層処分施設を対象とした腐食状況モニタリング装置は、地層処分がまだ計画段階のため具体的な測定器は見当たらない。一般的に、研究段階では腐食を発生させる環境因子(温度、pH、水分、酸素量、水素量など)ごとに専用測定器を用いて測定し、それぞれの結果と腐食状況の目視観察、電子顕微鏡観察あるいはX線分析などの結果との相関関係から環境因子と腐食との関係を求め、腐食要因を分析している。
【0005】
従来、上記環境因子測定には温度はサーミスタ、熱電対など、pHはガラス電極法、比色法、アンチモン電極法、キンヒドロン電極法などのpH計、その他水分計、酸素濃度計、水素濃度計などを用いている。
【0006】
また、光ファイバセンサを使った温度や変位量測定には後方散乱光に含まれるレーリ散乱光、ブリルアン散乱光、ラマン散乱光などを利用した報告例がある。
【0007】
非特許文献1には、BOTDR(Brillion Optical-fiber Time Domain Reflectometer)と呼ばれるブリルアン散乱光に基づく測定法によってモニタリングすべき構造物の情報を得る方法が検討されていることが記載されている。この方法では、光ファイバ内で発生するブリルアン散乱光がひずみに依存して周波数シフトする現象を利用しており、光ファイバに沿って連続的にひずみを直接計測することを行う。
【0008】
その他に表面プラズモン共鳴による屈折率測定を利用した溶液の濃度センサ(特許文献1)、水素センサ(非特許文献2)およびpHセンサ(非特許文献3)などの報告例がある。
【0009】
【特許文献1】特開2005−10025号公報
【非特許文献1】光ファイバブリルアンひずみ分布センサによる構造物のスマート化:成瀬 第25回光波センシング技術研究会 p135-142
【非特許文献2】水素センサ(Surface Plasmon Resonance Hydrogen Sensor Using An Optical Fibre : X.Bevenot et al 14th International Conference on Optical Fiber Sensors p388-391)
【非特許文献3】pHセンサ(A pH sensor made using cellulosic coating on a biconically tapered singlemode optical fiber : F.J.Arregui et al. 14th International Conference on Optical Fiber Sensors p464-467 )
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術を地層処分された人工バリアに適用した場合、天然バリア(岩盤など)からの地下水流入により、オーバーパックの腐食あるいはオーバーパック腐食によるガラス固体化からの放射性物質の流出などが懸念される。また、センサ自体が大掛かりでありしかもセンサ部と測定機器との間の信号線が金属で接続すると、信号雑音(電磁雑音による影響)が発生する可能性がある。センサ設置時に人工バリアの健全性を保ちつつ、かつ電磁ノイズを受けないセンサが要求される。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みて地下深く埋設される人工バリアを構成するオーバーパックの腐食を確実にモニタリングすることのできる人工バリア腐食モニタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、放射性廃棄物を封入したオーバーパックの腐食有無を判定する人工バリア環境モニタリング装置において、
前記オーバーパックの周囲に温度測定用光ファイバセンサ,変位測定用光ファイバセンサ,およびpH,水分,水素,酸素を測定する表面プラズモン共鳴光ファイバセンサを備え、並びに温度変位測定制御器および表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器を備え、前記温度変位測定制御器を制御して前記温度測定用光ファイバセンサおよび変位測定用光ファイバセンサからのブリルアン散乱光に基づいてそれぞれ温度および変位の変位量を求め、および前記表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器を制御し、前記表面プラズモン共鳴光ファイバセンサからの検出値である表面プラズモン共鳴した光を分光してpH,水分,水素,酸素の物理値に従った波長の光吸収量を求め、前記変位量および波長の光吸収量から演算処理した温度,変位,pH,水分,酸素量増減および水素量増減のすべてを予め定めた値と比較することによって前記オーバーパックの腐食の有無を判定する腐食判定手段を備えること
を特徴とする人工バリア環境モニタリング装置を提供する。
【0013】
また、前記温度変位測定制御器は、BOTDR測定器を使用して散乱光強度から距離と温度および距離と変位量を求めることを特徴とする人工バリア環境モニタリング装置を提供する。
【0014】
また、前記表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器は、分光器を備えることを特徴とする人工バリア環境モニタリング装置を提供する。
【0015】
また、前記オーバーパックには、入口の幅よりも径の大きい円形の溝が直線状もしくはらせん状に掘られ、該溝に前記温度測定用光ファイバセンサ、変位測定用光ファイバセンサおよび表面プラズモン共鳴光ファイバセンサを設置したことを特徴とする人工バリア環境モニタリング装置を提供する。
【0016】
更に本発明は、放射性廃棄物を封入したオーバーパックの腐食有無を判定する人工バリア環境モニタリング装置において、
前記オーバーパックの周囲に設けた温度測定用光ファイバセンサ,変位測定用光ファイバセンサからのブリルアン散乱光に基づいてそれぞれ温度および変位の変位量を求め、および前記オーバーパックの周囲に設けた表面プラズモン共鳴光ファイバセンサからの検出値である表面プラズモン共鳴した光を分光してpH,水分,水素,酸素の物理値に従った波長の光吸収量を求める手段と、前記変位量および波長の光吸収量から演算処理した温度,変位,pH,水分,酸素量増減および水素量増減のすべてを予め定めた値と比較することによって前記オーバーパックの腐食の有無を判定する手段と、を備えた人工バリア環境モニタリングを有すること
を特徴とする人工バリア環境モニタリング装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、オーバーパックの周囲に温度測定用光ファイバセンサ,変位測定用光ファイバセンサ,およびpH,水分,水素,酸素を測定する表面プラズモン共鳴光ファイバセンサを備え、並びに温度変位測定制御器および表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器を備えるようにしているので、オーバーパックの腐食の有無を判定するに必要とされる温度,変位,pH,水分,水素および酸素のセンサ情報を信号雑音に邪魔されることなく確実に得ることが出来、以ってオーバーパックの腐食の有無を判定することのできる人工バリア環境モニタリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0019】
高レベル放射性廃棄物地層処分における人工バリアとその近傍地層領域では、廃棄物からの放熱、周辺岩盤からの地下水侵入、地下水による緩衝材の膨潤圧の発生、周辺岩盤の応力変化、および緩衝材中の酸素や二酸化炭素と地下水による化学反応など、熱的、水理学的、力学的、化学的なプロセスが相互に影響を及ぼし合っており、これらの錬成挙動として現象を捉えることが必要になっている。
【0020】
そのため、本実施例では、人工バリアとその近傍地層領域における環境を解析する熱−水−応力−化学錬成モデルを構築し、人工バリア健全性を評価することを行う。図1に熱移動,水分移動応力・変形,化学反応についての相関関係を示す。熱輸送変形による熱生成が熱移動に作用し、対流,水化学,変形による透水性が水分移動に作用し、熱応力,膨潤圧が応力・変形に作用する。
【0021】
図2は、本発明の実施例である人工バリア環境モニタリング装置100の構成を示す図である。図2において、人工バリア環境モニタリング装置100は、人工バリア環境モニタリング部101、データ収集器102、温度変位測定制御器103、表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器104、およびセンサ部105からなる。センサ部105は、温度測定用光ファイバセンサ108、変位測定用光ファイバセンサ109、およびpH、水分、水素、酸素を測定する表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ110からなる。センサ部105の周囲には緩衝材106が設けられる。緩衝材の外側は天然バリア131となる。表面プラズモン共鳴光ファイバセンサとしては従来からあるヘテロ型構造の光ファイバセンサ(特許文献1参照)や後述する図2に示す構造のものを使用する。
【0022】
人工バリア環境モニタリング装置101から出力されるデータ収集開始信号117に基づきデータ収集器102はレーザ光発信器111、BOTDR測定器112、チャネル切替器113、にデータ収集指令118を送信する。これに基づきレーザ光発信器111はレーザ光を発信し、チャネル切替器113を使い温度計測用光ファイバセンサ108と変位測定用光ファイバセンサ109にレーザ光を送る。送ったレーザ光に対する後方散乱光のなかのブリルアン散乱光をBOTDR測定器112を使って測定し、発信してから戻るまでの時間と散乱光強度から距離と温度および距離と変位量を求める。そして、その値をデータ収集器102に送信する。
【0023】
一方、表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器104はデータ収集器102から計測開始指令118を受けた後、p偏光付き白色光源114からp偏光された光をチャネル切替器116を通して表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ110に送る。そして、オーバーパック107表面環境のpH、水分、水素量、酸素量に基づき表面プラズモン共鳴した検出値である光を再びチャネル切替器116を通して分光器115に送り、pH、水分、水素、酸素それぞれの物理量に従った波長の光吸収量を求めデータ収集器102にその値を送る。データ収集器102に集められた温度と変位は距離と時刻の情報とともに、pH、水分、水素、酸素の環境情報は測定時刻とともに、それぞれ人口バリア環境モニタリング装置101に送られる。人工バリア環境モニタリング装置101では収集した温度、変位、pH、水分、水素量、酸素量をリアルタイム表示するとともに、履歴情報表示し、オーバーパック107の腐食状況を監視する。
【0024】
温度および変位を測定する光ファイバセンサ108,109は後方散乱光の収集を目的としているためオープンエンド型とする。また、距離と温度、距離と変位の関係を測定できるため、できる限りオーバーパックの表面積をカバーできるように図1に示すようにらせん状に設置し、変位測定値に対して温度補償をするため温度と変位情報をペアで設置する。一方、表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ110は入射光に対する損失量を測定するため、図2に示すようにループ型にする。
【0025】
117はデータ収集開始信号用光ケーブル、118はデータ収集指令用ケーブル、119は温度、変位測定用レーザ光発信用光ケーブル、120は表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ用光発信用光ケーブル、121は後方散乱光受信用光ケーブル、122は温度、変位の測定データ用ケーブル、123は表面プラズモン共鳴光受信用光ケーブル、124はpH、水分、水素、酸素の測定データ用ケーブル、125は測定データ受信用ケーブルである。
【0026】
表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ110構造を図3に示す。
【0027】
図3において、201は表面プラズモン共鳴光ファイバセンサのコア、202は表面プラズモン共鳴光ファイバセンサのクラッド、203は金および銀などの蒸着、204はpH感度のある物質、205は光ファイバケーブルの被覆(ジャケット)、401は表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ用設置溝、402は温度および変位測定光ファイバセンサ用設置溝である。ファイバのクラッド202部分を1部除去し、コア201径を2つのテイパーをつけて小さくして、コア201表面に金や銀などを蒸着203して、セルロースなどpH感度のある物質204をつける。このような2つのテイパーをつけてコア201径を小さくした部分ではエバネッセント波吸収が発生し、固有の波長においてpH濃度と吸収強度の間には相関関係があることがわかっている。表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ110はこのエバネッセント波吸収に共鳴する表面プラズモン共鳴現象を組み合わせたものである。
【0028】
人工バリア環境モニタリング部101の構成を図4に示す。
【0029】
図4において、301は腐食判定器、302はデータ表示器、303は最新データ受信器、304は測定値保存器、305は過去データ参照器、306はデータ収集開始/終了制御器、307は収集データ処理器、311は温度および変位量がしきい値温度よりも高いかどうかの判別器、312はすべての条件が成立かどうかの判別器、313はpHがしきい値よりも小さいかどうかの判別器、314は水分量初期値と現在値の差が下限値より小さいかどうかの判別器、315は酸素量初期値と現在値の差が下限値より小さいかどうかの判別器、316は水素量初期値と現在値の差が上限値より大きいかどうかの判別器、317は規定された期間継続しているかどうかの判別器、318はすべての条件が成立かどうかの判別器、319は腐食有無の判定器、321はグラフ表示器、322は数値表示器、323は、腐食評価表示器、331は距離ごとの最新の温度データ、332は距離ごとの最新の変位データ、333は最新のpHデータ、334は最新の水分データ、335は最新の水素量データ、330は最新の酸素量データ、351は距離ごとの過去の温度データ、352は距離ごとの過去の変位データ、353は過去のpHデータ、354は過去の水分データ、355は、過去の水素量データ、356は過去の酸素量データである。
【0030】
人工バリア環境モニタリング部101は収集データ処理器307とデータ収集開始と終了の制御を行うデータ収集開始/終了制御器306から構成されている。以下、収集データ処理器307の構成および処理内容について説明する。収集データ処理器307は最新データ受信器303、データ表示器302、測定値保存器304、過去データ参照器305、および腐食判定器301から構成されている。最新データ受信器303は図1に示すデータ収集器102から最新のデータを受信するもので、このデータをデータ表示器302と測定値保存器304に送る。データ表示器302は受け取ったデータを数値表示322するとともに測定値保存器304からこれまでのデータを読み取り、最新のデータと合わせて履歴情報としてグラフ表示321する。
【0031】
腐食判定器301は最新データ受信器303にある最新データと過去データ参照器305からあらかじめ設定された期間の過去のデータ351〜356を受け取り、温度、変位、pH、水分、酸素量増減、水素量増減を比較する。腐食判定器301は、「同一場所の温度および変位量がしきい値温度よりも高い」311、「pHがしきい値よりも小さい」313、「水分量の初期値と現在値の差が下限値より小さい」314、「酸素量の初期値と現在値の差が下限値より小さい」315、「水素量の初期値と現在値の差が上限値より大きい」316という条件がすべて同時に成立し、「規定された期間継続している」317場合、「すべての条件が成立」318したと判断し、「腐食があると判定」319して、腐食評価表示323としてデータ表示器302に表示する。
【0032】
以下、判定器の構成について詳細に説明する。
【0033】
図6に温度および変位量がしきい値温度よりも高いかどうかの判別器311の詳細を示す。図6において、501は測定範囲の中の場所Aにおける温度測定値、502は腐食発生可能温度の参照値、503は測定範囲の中の場所Aにおける温度測定値と、腐食発生可能温度の参照値の大小判定器で測定値>参照値のとき条件成立情報を出力する手段504は測定範囲の中の場所Aにおける変位測定値、505は腐食発生可能変位の参照値、506は測定範囲の中の場所Aにおける変位測定値と腐食発生可能変位の参照値の大小判定器で測定値>参照値のとき条件成立情報を出力する手段、507は温度および変位量の条件が同時成立かどうかの判別器、508は場所Aにおいて温度および変位に腐食特有の変位があったと判定し、条件成立情報を出力する手段である。
【0034】
測定範囲の場所Aにおける温度測定値501および変位測定値504とそれぞれの参照値502,505との大小判定器503,506の構成からなる。同時刻における場所Aの温度測定値501および変位測定値504が腐食発生の可能性のあるそれぞれの参照値502,505よりも大きいと大小判定器503,506が判別し、2つの条件が同時に成立したと判別器507が判断した場合、腐食発生に対する温度および変位に有意な変化があったと判断器508が判定し、条件成立情報を条件判別器312に送る。
【0035】
図7にpHがしきい値よりも小さいかどうかの判別器313の詳細を示す。pH測定値601と参照値602との大小判定器603の構成からなる。図7において、601はpH測定値、602は腐食発生可能pHの参照値、603はpH測定値と腐食発生可能pHの参照値の大小判定器で測定値<参照値のとき条件成立情報を出力する手段である。pH測定値601が腐食発生の可能性のある参照値602よりも小さい場合、腐食発生に対するpH測定値601に有意な変化があったと大小判定器603が判断し、条件成立情報を条件判別器312に送る。
【0036】
図8に水分量初期値と現在値の差が下限値より小さいかどうかの判別器314の詳細を示す。水分量の初期値702と現在値701の差と参照値703の大小判定器704の構成からなる。図8において、701は水分量測定値、702は初期の水分量測定値、703は腐食発生可能水分量の参照値、704は現在の水分量測定値と初期の水分量測定値の差と参照値の大小判定器で、(現在の水分量測定値−初期の水分量測定値)<参照値のとき条件成立情報を出力する手段である。水分量の初期値702と現在値701の差が腐食発生の可能性のある参照値703よりも小さい場合、腐食発生に対する水分量に有意な変化があったと大小判定器704が判断し、条件成立情報を条件判別器312に送る。
【0037】
図9に酸素量初期値と現在値の差が下限値より小さいかどうかの判別器315の詳細を示す。酸素量の初期値802と現在値801の差と参照値803の大小判定器804の構成からなる。図9において、801は酸素量測定値、802は初期の酸素量測定値、803は腐食発生可能酸素量の参照値、804は現在の酸素量測定値と初期の酸素量測定値の差と参照値の大小判定器で、(現在の酸素量測定値−初期の酸素量測定値)<参照値のとき条件成立情報を出力する手段である。酸素量の初期値802と現在値801の差が腐食発生の可能性のある参照値803よりも小さい場合、腐食発生に対する酸素量に有意な変化があったと大小判定器804が判断し、条件成立情報を条件判別器に送る。
【0038】
図10に水素量初期値と現在値の差が上限値より大きいかどうかの判別器の詳細を示す。水素量の初期値902と現在値901の差と参照値903の大小判定器904の構成からなる。図10において、901は水素量測定値、902は初期の水素量測定値、903は腐食発生可能水素量の参照値、904は現在の水素量測定値と初期の水素量測定値の差と参照値の大小判定器で(現在の水素量測定値−初期の水素量測定値)>参照値のとき条件成立情報を出力する手段である。水素量の初期値902と現在値901の差が腐食発生の可能性のある参照値903よりも大きい場合、腐食発生に対する水素量に有意な変化があったと大小判定器904が判断し、条件成立情報を条件判別器312に送る。
【0039】
オーバーパック107に光ファイバセンサ108,109,110を敷設する方法の例を図5に示す。光ファイバセンサ108,109,110は機械的強度が小さいためオーバーパック107に図5に示すような溝401、402を作成し、その溝の中に温度測定用光ファイバセンサ108、変位測定用光ファイバセンサ109、表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ110を埋め込む。この溝401、402の形状は光ファイバセンサ108,109,110にダメージを与えないような形状が望ましいため、円形としている。
【0040】
以上説明した実施例により地下数百メートルに埋設した高レベル放射性廃棄物の人工バリア環境モニタリングが可能になり、高レベル放射性廃棄物が外に漏れないようにしているオーバーパックの金属腐食監視装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】熱−水−応力−化学の錬成挙動の概念図。
【図2】光ファイバセンサを用いて人工バリア環境の温度、変位、pH、水分、酸素、水素を測定し、オーバーパックの健全性を監視する情報を提供する実施例である人工バリア環境モニタリング装置101の構成図。
【図3】表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ110の構造例を示す図。
【図4】人工バリア環境モニタリング装置101においてオーバーパック107の腐食有無を判断するデータ処理および判定ルールの構成例を示す図。
【図5】オーバーパック107への光ファイバセンサ取り付け構造例を示す図。
【図6】同一場所における温度および変位の参照値の大小判定器構造例。
【図7】pH測定値と参照値の大小判定較器構造例を示す図。
【図8】水分量の初期値と現在値の差と参照値の大小判定器構造例を示す図。
【図9】酸素量の初期値と現在値の差と参照値の大小判定器構造例を示す図。
【図10】水素量の初期値と現在値の差と参照値の大小判定器構造例を示す図。
【符号の説明】
【0042】
100…人工バリア環境モニタリング装置、101…人工バリア環境モニタリング部、102…データ収集器、103…温度変位測定制御器、104…表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器、106…緩衝材、107…オーバーパック、108…温度測定用光ファイバセンサ、109…変位測定用光ファイバセンサ、110…表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ、111…レーザ光発信器、112…BOTDR測定器、113…チャネル切替器、114…P偏光付き白色光源、115…分光器、116…チャネル切替器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃棄物を封入したオーバーパックの腐食有無を判定する人工バリア環境モニタリング装置において、
前記オーバーパックの周囲に温度測定用光ファイバセンサ,変位測定用光ファイバセンサ,およびpH,水分,水素,酸素を測定する表面プラズモン共鳴光ファイバセンサを備え、並びに温度変位測定制御器および表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器を備え、前記温度変位測定制御器を制御して前記温度測定用光ファイバセンサおよび変位測定用光ファイバセンサからのブリルアン散乱光に基づいてそれぞれ温度および変位の変位量を求め、および前記表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器を制御し、前記表面プラズモン共鳴光ファイバセンサからの検出値である表面プラズモン共鳴した光を分光してpH,水分,水素,酸素の物理値に従った波長の光吸収量を求め、前記変位量および波長の光吸収量から演算処理した温度,変位,pH,水分,酸素量増減および水素量増減のすべてを予め定めた値と比較することによって前記オーバーパックの腐食の有無を判定する腐食判定手段を備えること
を特徴とする人工バリア環境モニタリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記温度変位測定制御器は、BOTDR測定器を使用して散乱光強度から距離と温度および距離と変位量を求めることを特徴とする人工バリア環境モニタリング装置。
【請求項3】
請求項1において、前記表面プラズモン共鳴光ファイバセンサ測定制御器は、分光器を備えることを特徴とする人工バリア環境モニタリング装置。
【請求項4】
請求項1において、前記オーバーパックには、入口の幅よりも径の大きい円形の溝が直線状もしくはらせん状に掘られ、該溝に前記温度測定用光ファイバセンサ、変位測定用光ファイバセンサおよび表面プラズモン共鳴光ファイバセンサを設置したことを特徴とする人工バリア環境モニタリング装置。
【請求項5】
放射性廃棄物を封入したオーバーパックの腐食有無を判定する人工バリア環境モニタリング装置において、
前記オーバーパックの周囲に設けた温度測定用光ファイバセンサ,変位測定用光ファイバセンサからのブリルアン散乱光に基づいてそれぞれ温度および変位の変位量を求め、および前記オーバーパックの周囲に設けた表面プラズモン共鳴光ファイバセンサからの検出値である表面プラズモン共鳴した光を分光してpH,水分,水素,酸素の物理値に従った波長の光吸収量を求める手段と、前記変位量および波長の光吸収量から演算処理した温度,変位,pH,水分,酸素量増減および水素量増減のすべてを予め定めた値と比較することによって前記オーバーパックの腐食の有無を判定する手段と、を備えた人工バリア環境モニタリングを有すること
を特徴とする人工バリア環境モニタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−93413(P2007−93413A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283831(P2005−283831)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(390023928)日立エンジニアリング株式会社 (134)
【Fターム(参考)】