説明

人工マイクロバブル泉の製造システム及び人工マイクロバブル泉の製造方法

【課題】温浴効果に優れる人工マイクロバブル泉を製造可能なシステムを提供する。
【解決手段】マイクロバブル発生手段からマイクロバブルを発生させて当該マイクロバブルに含まれる気体を温水中に溶解させる、人工マイクロバブル泉の製造システムであって、マイクロバブル発生手段にはスリットが設けられ、当該スリットを介して温水中に気液二相流をせん断式に吐出させることにより温水中にマイクロバブルを発生させる、人工マイクロバブル泉の製造システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた温浴効果を備えた人工マイクロバブル泉を製造するためのシステム、及び、当該人工マイクロバブル泉を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスを含んだ温泉(炭酸泉)に入浴した場合、血管拡張効果や湯冷めし難い等の様々な温浴効果が得られる。近年では、このような炭酸泉を人工的に得るためのシステムが数多く提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
現在汎用されている人工炭酸泉の製造システムのひとつに、いわゆる加圧溶解式の気泡発生装置を用いたものがある。加圧溶解式の気泡発生装置にあっては、炭酸ガスを温水中に高圧下で過飽和に溶解させ、得られた過飽和溶液を大気圧下の浴槽中に吐出させることで、過飽和に溶解していた炭酸ガスの一部が微小核となって、マイクロバブルを発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/020405号パンフレット
【特許文献2】特開2008−212276号公報
【特許文献3】特開2007−14482号公報
【特許文献4】特開2006−320675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、加圧溶解式のシステムにおいてはガスを温水中に過飽和に溶解させる必要がある。そのため、システムが複雑化してしまい、設備コストも増大してしまう。また、ガスが過剰に必要となることもコストの点から問題である。一方、システムを簡略化するため、バブリングによって温水中に気泡を発生させることも考えられるが、これでは温水中のガス濃度を増大させることは困難であり、所望の温浴効果を得ることができない。
【0006】
また、上述の通り、炭酸泉の温浴効果については広く知られているが、それ以外のガス(例えば、空気)用いて、所望の生理的有効性(温浴効果、代謝向上、筋肉疲労回復等)を有する人工マイクロバブル泉を製造できれば、設備コストを一層低減することができる。
【0007】
そこで本発明は、温浴効果に優れる人工マイクロバブル泉を低コストにて製造可能なシステム及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意研究したところ、以下の知見を得た。
(1)気体と液体とを混合してなる気液二相流をスリットからせん断式に吐出させた場合、気液二相流中の気泡をせん断することが可能であり、マイクロバブルを容易に発生させることが可能である。
(2)スリットせん断式にて発生させたマイクロバブルは、ゼータ電位が−20mV以下(平均値については−30mV以下であり、好ましくは−40mV以下である。)であり、加圧溶解式にて発生させたマイクロバブルよりもゼータ電位の絶対値が大きくなる。
(3)スリットを介してせん断式に発生させたマイクロバブルは、温水中に高濃度にて溶解させることが可能である。
(4)スリットを介してせん断式に発生させたマイクロバブルは、気泡収縮速度が小さく、気泡上昇速度も小さいため、温水中に長時間留まることができる。
(5)スリットせん断式にてマイクロバブルを発生させ、人工マイクロバブル泉を容易に製造することができる。この場合において、炭酸ガスに限らず、空気等のその他ガスを用いることができる。当該人工マイクロバブル泉は入浴中の体温上昇効果に優れ、湯冷めもし難い。気泡が潰れる際の気泡が発する圧力、温度上昇が、効果的に人体生理効果に活用されているものと考えられる。
【0009】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
第1の本発明は、マイクロバブル発生手段からマイクロバブルを発生させて当該マイクロバブルに含まれる気体を温水中に溶解させる、人工マイクロバブル泉の製造システムであって、上記マイクロバブル発生手段にはスリットが設けられ、当該スリットを介して温水中に気液二相流をせん断式に吐出させることにより温水中にマイクロバブルを発生させる、人工マイクロバブル泉の製造システムである。
【0010】
第2の本発明は、スリットを介して気液二相流を温水中にせん断式に吐出させることにより、当該温水中にマイクロバブルを発生させる工程と、発生させたマイクロバブルと温水との界面を介して、マイクロバブルに含まれる気体を温水中に溶解させる工程とを備える、人工マイクロバブル泉の製造方法である。
【0011】
上記本発明において、「マイクロバブル」とは気泡径が10〜80μm程度、好ましくは40〜60μm程度の気泡をいう。「温水」とは入浴に適した温度の水をいい、例えば40℃前後の温水をいう。「人工マイクロバブル泉」とは、マイクロバブルが分散されるとともに、マイクロバブル中に含まれる気体が溶解している人工温泉をいう。「気液二相流」とは、単に気体と液体とを混合してなるものである。本発明において気液二相流中にはマイクロバブルよりも大きな気泡が存在している。「スリットを介して温水中に気液二相流をせん断式に吐出させる」とは以下のような態様をいう。すなわち、気液二相流の主流れ方向とは異なる方向に開口するようにスリットを設ける。これにより、気液二相流の一部が主流れ方向とは異なる方向に曲げられ、せん断式に分断されてスリットから吐出される。本発明においてはこのようにスリットを用いて気液二相流をせん断式に吐出させることにより、気液二相流に含まれる気泡をせん断力によって分断することができ、マイクロバブルを発生させることができる。
【0012】
上記本発明において、発生させたマイクロバブルのゼータ電位は−20mV以下となる。また、当該ゼータ電位の平均値は−30mV以下、好ましくは−40mV以下となる。このように絶対値の大きなゼータ電位を有していることにより、マイクロバブルの分散性が増大し、温水におけるマイクロバブルの滞留時間の増大や高濃度での気体の溶解等が可能となる。
【0013】
本発明においては、特に気体として炭酸ガス又は空気を用いるとよい。所望の温浴効果が得られる人工マイクロバブル泉を、一層低コストで製造することができるためである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、スリットせん断式にてマイクロバブルを発生させ、人工マイクロバブル泉を製造するものである。本発明においてはマイクロバブルを発生させる前に気体を溶解させる必要がない。また、気液二相流とスリットのみを用いればよく、システムが極めて簡易である。すなわち、本発明によれば、従来のシステムよりも運用コスト、設備コスト(使用するガス量、動力)を低減することができる。また、本発明により得られた人工マイクロバブル泉は入浴時の体温上昇効果を有し、入浴後の湯冷めもし難い。すなわち、本発明によれば、温浴効果に優れる人工マイクロバブル泉を低コストにて製造可能なシステム及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に用いられるマイクロバブル発生手段の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る人工マイクロバブル泉の製造システムを説明するための概略図である。
【図3】実施例にて用いたシステムの構成を説明するための概略図である。
【図4】マイクロバブルの気泡径分布に係る測定結果を示す図である。
【図5】マイクロバブルのゼータ電位に係る測定結果を示す図である。
【図6】温水における気泡収縮速度に係る測定結果を示す図である。
【図7】炭酸ガスを用いた場合の温水中の溶解濃度変化に係る測定結果を示す図である。
【図8】炭酸ガスを用いた場合の温水中の溶解濃度変化に係る測定結果を示す図である。
【図9】温水中の炭酸ガスの溶解度持続率に係る測定結果を示す図である。
【図10】人工マイクロバブル泉の製造方法の差による生理活性効果の差について、実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1.人工マイクロバブル泉の製造システム>
(1.1.第1実施形態)
本発明に係る人工マイクロバブル泉の製造システムは、マイクロバブル発生手段からマイクロバブルを発生させてマイクロバブルに含まれる気体を温水中に溶解させるものであり、マイクロバブル発生手段にはスリットが設けられ、スリットを介して温水中に気液二層流をせん断式に吐出させることにより温水中にマイクロバブルを発生させることに特徴を有する。
【0017】
(マイクロバブル発生手段)
本発明に係るマイクロバブル発生手段は、スリットを介して気液二相流の一部をせん断式に吐出可能なものであればよく、種々の形態とすることが可能である。例えば、図1に示すようなマイクロバブル発生手段10が好適である。
【0018】
図1に示すように、マイクロバブル発生手段10は、温水を導入するための温水導入口10aと、気体を導入するための気体導入口10bと、当該温水導入口10a及び気体導入口10bの下流側に接続する筒状体10cとを備えている。筒状体10cの側壁にはスリット10sが複数並列して設けられており、当該スリット10sは所定の角度θだけ傾けられて設けられている。筒状体10cの下流側末端は閉じられており、導入された温水及び気体はスリット10s、10s、…から吐出される。
【0019】
マイクロバブル発生手段10において、温水導入口10aから導入された温水は、矢印Xで示される方向へと流れて行き、筒状体10cへと流れ込む。ここで、温水導入口10aと筒状体10cとの間には絞り部10dが設けられており、当該絞り部10dの側部と連通するように気体導入口10bが設けられている。絞り部10dにおいては温水の流速が増大し、気体導入口10b近傍を負圧とすることが可能であるため、矢印Yで示されるように気体導入口10bから気体が自吸され、絞り部10d内で気液二相流となって筒状体10cの内部へと流れ込む。
【0020】
マイクロバブル発生手段10において、筒状体10cに設けられたスリット10s、10s、…は、気液二相流の主流れ方向Xとは異なる方向Zに開口している。また、図1において、スリット10s、10s、…は、当該スリット10s、10s、…の並列方向に対して角度θだけ傾けられて設けられている。スリット10sの傾斜角度θについては、気液二相流をせん断式に吐出可能であれば特に限定されるものではない。例えば、30°〜90°程度とすることが好ましく、特に50°〜70°とすることが好ましい。傾斜角度θを30°未満、或いは、鈍角とした場合は、マイクロバブルを発生させることが困難となる。尚、一のスリットと他のスリットとで、異なる傾斜角度とすることも可能である。
【0021】
マイクロバブル発生手段10において、スリットの数やスリットの間隔については特に限定されるものではなく、マイクロバブル発生手段10の規模に応じて適宜選択することができる。また、マイクロバブルを効率的に発生させるには、マイクロバブル発生手段10についての入口/出口の面積比が重要となる。すなわち、スリット10s、10s、…の総面積と筒状体10cの径との比を1.5〜2.5程度とすると、マイクロバブルを効率的且つ適切に発生させることができる。
【0022】
このようなマイクロバブル発生手段10を用いることで、人工マイクロバブル泉を容易に製造することが可能となる。図2に、本発明に係る人工マイクロバブル泉の製造システムの一例を概略的に示す。図2に示すように、人工マイクロバブル泉の製造システム100(以下、単に「システム100」という場合がある。)においては、マイクロバブル発生手段10の少なくともスリット10s、10s、…が設けられた部分が、浴槽110に溜められた温水に浸漬される。そして、温水導入口10aから温水を導入するとともに、自給によって気体導入口10bから気体を導入することで、内部にて気液二相流を形成させ、これをスリット10s、10s、…からせん断式に吐出させることにより、浴槽110の温水中にマイクロバブルを発生させるとともに、温水中に気体を溶解させる。
【0023】
システム100において、温水導入口10aへと導入される温水の温度は、浴槽110の温水と同様の温度であるとよい。すなわち、実使用時において、浴槽110にお湯を張るときは、マイクロバブル発生装置10から吐出される温水(マイクロバブルを含む温水)をそのまま入浴用の温水として用いることができる。また、浴槽内の温水をポンプにより循環させ、再び温水導入口10aへと導入させるように構成することも可能である。この場合、例えば追い炊き時において、浴槽110の温水を再び温浴効果に優れる人工マイクロバブル泉とすることが可能である。システム100において、温水導入口10aに導入される温水の流量については特に限定されるものではない。
【0024】
システム100において用いられる気体は、炭酸ガス又は空気であることが好ましい。温浴効果に優れた人工マイクロバブル泉を、低コストでより容易に製造することができるためである。また、システム100においては、マイクロバブルを発生させる前に気体を過飽和にて溶解させておく必要がないため、システムを極めて簡略化することができ、設備コストを抑えることが可能となる。
【0025】
システム100により発生させたマイクロバブルは、温水中に高濃度にて溶解させることが可能であり、且つ、気泡収縮速度が小さく、温水中に長時間留まることができる。そして、得られた人工マイクロバブル泉において、溶解ガス濃度を高濃度にて長時間保持することが可能である。これにより、必要となる気体の量を低減でき、コストを一層抑えることが可能となるとともに、温浴効果に優れた人工マイクロバブル泉を得ることが可能となる。この要因の一つとして、システム100により発生させたマイクロバブルのゼータ電位が従来とは全く異なっていることが挙げられる。すなわち、従来のシステム、例えば加圧溶解式のシステム、により発生させたマイクロバブルのゼータ電位が−10mV程度であるのに対し、システム100により発生させたマイクロバブルのゼータ電位は−20mV〜−70mVと高い値となる。
本発明では、このようにゼータ電位が高いマイクロバブルを発生させることで、所望の温浴効果を得ている。このことは、スリットせん断式以外のシステムであっても、ゼータ電位が高いマイクロバブルを発生させることが可能なシステムであれば、所望の温浴効果を備える人工マイクロバブル泉を製造可能であることを示唆している。
【0026】
システム100により発生させたマイクロバブルの他の特徴としては、気泡径が広くばらついていることが挙げられる。すなわち、スリットを介してせん断式に気泡を微細化する場合、気液二相流の一部に付与されたせん断力と、他の部分に付与されたせん断力とが一定とはならず、せん断力によって極めて微細化される気泡から、スリット開口幅程度にまでしか微細化されない気泡まで、種々の気泡径のマイクロバブルが発生する。気泡径が大き過ぎると、浴槽110の温水中で容易に浮上し、温水に溶解しないまま大気中に脱気してしまう虞があるが、システム100により発生させたマイクロバブルは、上述の通りゼータ電位が高く分散性に優れており、温水中で長時間滞留可能であることから、このような問題は低減されている。
【0027】
例えば、炭酸ガスのマイクロバブルを発生させ人工炭酸泉を製造する場合、システム100により得られる人工炭酸泉にあっては、高濃度で炭酸ガスを溶解させることが可能である。システム100によれば、40℃の温水を用いて、いわゆる高濃度炭酸泉とされるpH4.5程度の人工炭酸泉を容易に製造することができる。そして、システム100により得られた高濃度炭酸泉は、炭酸ガス溶解濃度を長時間維持することができる。
【0028】
また、本発明者らが鋭意研究したところ、システム100において、空気を用いた人工マイクロバブル泉を製造した場合でも、得られた人工マイクロバブル泉が極めて温浴効果に優れたものであることを知見した。具体的には、入浴時の体温上昇効果に優れるとともに、入浴後においても湯冷めし難いものであることが分かった。
【0029】
炭酸泉に入浴した場合に血管拡張効果や湯冷め防止効果等の温浴効果が得られることは広く知られているが、空気のマイクロバブル泉が優れた温浴効果を示すことは従来常識にはないものである。本発明により得られる空気のマイクロバブル泉の温浴効果が高いことについて、具体的な理由は判明していないが、例えば、マイクロバブル中の空気が溶解することで、マイクロバブルが徐々に収縮し、消失の瞬間に高圧場が形成されることで、これが皮膚表面に刺激を与え、体温上昇や湯冷め防止効果に繋がったものと考えられる。上述の通り、本発明のようにスリットを介してせん断式にマイクロバブルを発生させたことにより、ゼータ電位が高く気泡寿命が長いマイクロバブルを含んだ人工マイクロバブル泉とすることが出来た結果、空気を用いた場合であっても、このような温浴効果が得られたものと考えられる。実施例にて詳述するように、システム100により得られる人工マイクロバブル泉に入浴した場合、優れた温浴効果が得られる。
【0030】
以上のように、システム100によれば、スリットせん断式にてマイクロバブルを発生させ、人工マイクロバブル泉を製造することができる。当該システム100においてはマイクロバブルを発生させる前に気体を溶解させる必要がない。また、気液二相流とスリットのみを用いればよく、極めて簡易な構成を採る。すなわち、設備コストを低減することができる。また、システム100により得られた人工マイクロバブル泉は温浴効果に優れている。以上のように、システム100によれば、優れた温浴効果が得られる人工マイクロバブル泉を低コストにて製造可能である。
【0031】
尚、上記説明では、マイクロバブル発生手段10内における流速変化を用いて外部から気体を自吸する形態について説明したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。高圧ガスボンベを利用して、マイクロバブル発生手段内に気体を供給するものとしてもよい。ただし、簡易な構成でより容易に気液二相流を形成させる観点からは、マイクロバブル発生手段10のように、絞り部10dを設ける等して、内部において流速変化を生じさせるものとし、これにより負圧を生じさせて外部から気体を自吸するものとすることが好ましい。
【0032】
(1.2.第2実施形態)
上記説明では、マイクロバブル発生手段10が筒状体10cを備え、当該筒状体10cに複数のスリット10s、10s、…が形成されるものとして説明したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。気液二相流をせん断式に吐出させ得る形態であれば、これ以外の形態であってもよい。
【0033】
例えば、せん断式によりマイクロバブルを発生させる場合の特徴は、上記の通り、マイクロバブルのゼータ電位が高くなることにあり、とすれば、マイクロバブルのゼータ電位を高くすることが可能なシステムであれば、所望の温浴効果が得られる人工マイクロバブル泉を製造可能と考えられる。
具体的には、マイクロバブル発生手段からマイクロバブルを発生させて当該マイクロバブルに含まれる気体を温水中に溶解させる、人工マイクロバブル泉の製造システムであって、マイクロバブル発生手段により発生させたマイクロバブルのゼータ電位が−20mV以下(平均値が−30mV以下、好ましくは−40mV以下)である、人工マイクロバブル泉の製造システム、とすることによっても所望の温浴効果が得られる人工マイクロバブル泉を製造可能と考えられる。
【0034】
<2.人工マイクロバブル泉の製造方法>
(2.1.第1実施形態)
本発明に係る人工マイクロバブル泉の製造方法は、スリットを介して気液二相流を温水中にせん断式に吐出させることにより、温水中にマイクロバブルを発生させる工程と、発生させたマイクロバブルと温水との界面を介して、マイクロバブルに含まれる気体を温水中に溶解させる工程とを備えている。当該製造方法を実施可能なシステムの詳細については上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0035】
(2.2.第2実施形態)
また、上述したように、スリットせん断式によりマイクロバブルを発生させた場合の特徴は、マイクロバブルのゼータ電位が高くなることにあり、とすれば、マイクロバブルのゼータ電位を高くすれば、スリットせん断方式によらず、所望の温浴効果が得られる人工マイクロバブル泉を製造可能と考えられる。この観点から、温水中にゼータ電位が−20mV以下(平均値が−30mV以下、好ましくは−40mV以下)のマイクロバブルを発生させる工程と、発生させたマイクロバブルと温水との界面を介して、マイクロバブルに含まれる気体を温水中に溶解させる工程とを備える人工マイクロバブル泉の製造方法、によっても、所望の温浴効果が得られる人工マイクロバブル泉を製造可能と考えられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により、本発明に係る人工マイクロバブル泉の製造システムについてさらに詳述するが、本発明は以下の実施例に記載された具体的な形態に限定されるものではない。
【0037】
<1.実験に用いたシステムの構成>
実施例に係るシステムとして、図3に示すようなシステム200を用いた。すなわち、温水を溜めた浴槽220中に、マイクロバブル発生手段210を設置した。マイクロバブル発生手段210の温水導入口にはポンプ230を接続して、浴槽220内の温水を循環可能とした。一方、マイクロバブル発生手段210の気体導入口に流量計240を介して炭酸ガスボンベ又は空気ボンベ250を接続した。また、浴槽220内の温水のpHを測定するpH測定装置260も設置した。一方、比較例に係るシステムとして、温水を溜めた浴槽中に、加圧溶解式にて炭酸ガスのマイクロバブルを発生可能なシステムを設置した。このようなシステムを用いて、下記の種々の評価を行った。
【0038】
<2.評価結果>
(2.1.マイクロバブルの気泡径について)
各システムにおいて発生するマイクロバブルの気泡径を測定した。気泡径はマイクロスコープによって直接計測し、また、光透過法による上昇する気泡群の速度から気泡径分布も併せて測定した。結果を図4に示す。
【0039】
図4に示す結果から明らかなように、実施例に係るシステムによりマイクロバブルを発生させた場合、10μm〜80μmまで、種々のサイズのマイクロバブルが発生した。一方、比較例に係るシステムにおいては30μm程度のマイクロバブルが多量に発生し、ばらつきがほとんどなかった。マイクロバブルの平均気泡径をそれぞれ算出したところ、実施例に係るシステムの場合は51μm、比較例に係るシステムの場合は31.5μmであった。実施例に係るシステムでは、気液二相流中の気泡をせん断力によって種々の径に分断していることが分かる。
【0040】
(2.2.マイクロバブルのゼータ電位について)
各システムにおいて発生するマイクロバブルのゼータ電位を測定した。ゼータ電位は電気泳動法で測定した。結果を図5に示す。
【0041】
図5に示す結果から明らかなように、実施例に係るシステムによりマイクロバブルを発生させた場合、当該マイクロバブルのゼータ電位は−70mV〜−20mVと大きくばらついていた。一方、比較例に係るシステムにあっては、ゼータ電位が−10mV程度とほぼ一定の値であった。いずれの場合においても、ゼータ電位と気泡径との相関は確認されなかった。マイクロバブルの平均ゼータ電位をそれぞれ算出したところ、実施例に係るシステムの場合は−42mV、比較例に係るシステムの場合は−10mVであった。この結果から、実施例に係るシステムにより得られるマイクロバブルは、高いゼータ電位を有しており、分散性等に優れるものであることが分かった。
【0042】
(2.3.気泡収縮速度について)
各システムにおいて発生するマイクロバブルのうち、20μmのマイクロバブルに注目して、当該マイクロバブルの収縮速度を測定した。収縮速度はセル(流路)に気泡を導入し、気泡の収縮をマイクロスコープで観察することによって測定した。結果を図6に示す。
【0043】
図6に示す結果から明らかなように、実施例に係るシステムにより得られるマイクロバブルの方が、比較例に係るシステムにより得られるものよりも、気泡収縮速度が小さい。すなわち、実施例に係るシステムにより得られるマイクロバブルは気泡寿命が長いことが分かった。
【0044】
(2.4.人工炭酸泉とした場合の炭酸ガス溶解濃度について)
各システムを用いて温水(体積:9L、温度:40℃)に対する炭酸ガスの溶解効率を評価した。実施例に係るシステムにおいては、供給する炭酸ガス圧力を0.04MPa、炭酸ガス流量を200ml/minとして温水中にマイクロバブルを発生させて人工炭酸泉を製造した。比較例に係るシステムにおいては、タンク内圧力を0.4MPaとし、加圧溶解させた炭酸溶液を、40℃温水(9L)中に、200ml/minの量で供給して炭酸泉を製造した。また、参考までに、温水中で炭酸ガス200ml/minを単にバブリングした場合の溶解効率についても評価した。評価の指標は得られた人工炭酸泉のpHとした。すなわちpHが低いほど、人工炭酸泉中に高濃度にて炭酸ガスが溶解していることを意味する。結果を図7示す。
【0045】
図7に示す結果から明らかなように、実施例に係るシステムにより人工炭酸泉を製造した場合、当該人工炭酸泉のpHを4.5程度にまで低下させることができる。すなわち、いわゆる高濃度炭酸泉を容易に製造することが可能である。一方、比較例に係るシステムあっては、長時間経過後でもpHが4.7程度にまでしか下がらなかった。
【0046】
実施例に係るシステムにおいては、ゼータ電位の高いマイクロバブルを発生させることができる結果、マイクロバブルの分散性が高まり、長時間に亘り、温水中に留まることができる一方で、比較例に係るシステムにおいては、このような効果が得られず、マイクロバブルが急速に脱気してしまったものと考えられる。すなわち、比較例に係るシステムにあっては、過飽和溶液を供給する以上の速度で炭酸ガスが脱気してしまい、pHを下げることができなかったと考えられる。尚、図7に示す結果から明らかなように、単にバブリングしただけでは炭酸ガスを高濃度に溶解させることはできず、実施例のようにスリットを介してせん断式にマイクロバブルを発生させることの効果は明確である。
【0047】
念のため、バブリングの炭酸ガス流量を変化させた場合についても評価した。結果を図8に示す。図8に示す結果から明らかなように、バブリングの炭酸ガス流量を変化させたとしても、pHは5.0程度までしか下がらず、実施例に係るシステムにより得られるような高濃度炭酸泉を製造することはできなかった。
【0048】
(2.5.人工炭酸泉における炭酸ガスの溶解度持続率について)
上記のようにして得られた人工炭酸泉それぞれについて、溶解度持続率を測定した。具体的には、得られた各人工炭酸泉を所定時間放置し、pHの上昇値の経時変化を測定した。結果を図9に示す。
【0049】
図9に示す結果から明らかなように、実施例に係るシステムにより得られた人工炭酸泉は、開始時から12時間経過後においてもpHは0.2程度上昇しただけ(pH4.7程度)なのに対し、比較例に係るシステムにより得られた炭酸泉は、12時間経過後において開始時よりもpHが0.3以上上昇した(pH5以上)。バブリングにより得られる炭酸泉についても同様で、pHが0.3以上上昇しており、炭酸ガスの溶解濃度を維持することができなかった。すなわち、実施例に係るシステムによれば、高濃度の炭酸泉を製造できるだけでなく、炭酸ガスの溶解濃度を長時間維持可能な人工炭酸泉とすることができる。
【0050】
このように、実施例に係るシステムによれば、高濃度炭酸泉を容易に製造でき、且つ、炭酸泉中の炭酸ガス濃度を長時間に亘り維持することができる。そのため優れた温浴効果が期待できる。このことを実証するため、得られた人工炭酸泉の生理活性効果を確認した。また、炭酸ガスに替えて空気を用いてマイクロバブルを発生させ、人工マイクロバブル泉を製造し、得られた人工マイクロバブル泉の生理活性効果についても併せて確認した。
【0051】
(2.6.人工炭酸泉、人工マイクロバブル泉の生理活性効果について)
検体として自然発症高血圧ラット(Spontaneously Hypertensive Rat:SHR)を用いた。温浴前にラットにエーテル麻酔を施し、5分間室温にて安静にさせ、その後15分間温浴(40℃)させた。5分間の安静時、15分間の温浴時、及び、温浴後10分間のそれぞれについて、直腸の温度変化を計測した。4個体のラットに対して、同様の実験を5回ずつ行ったところ、いずれも同一の傾向が見られた。1個体についての結果を図10に示す。
【0052】
図10に示す結果から明らかなように、実施例に係るシステムにより得られた人工炭酸泉にて温浴を行った場合、温浴中のラットの直腸温度が、湯温(40℃)よりも高い40.7℃にまで上昇した。また、入浴後10分間においても当該体温が急激に下がることがなく、湯冷めし難いことが分かった。人工炭酸泉だけではなく、空気を用いた人工マイクロバブル泉とした場合においても同様の効果が確認できた。
【0053】
一方、比較例に係るシステムにより得られた人工炭酸泉にあっては、温浴中のラットの直腸温度は湯温程度にまでしか上昇しなかった。尚、入浴後10分間においては比較的緩やかに体温が低下しており、40℃温水にて温浴するよりは人工炭酸泉で温浴したほうが湯冷めし難いといえる。
【0054】
以上のように、スリットを介してせん断式にマイクロバブルを発生させることで、簡易なシステム構成で、従来とは異なる性質(ゼータ電位、気泡径、収縮速度等)を有するマイクロバブルを発生でき、これにより温浴効果に優れる人工マイクロバブル泉を製造可能であることが分かった。
【0055】
(2.7.温水の浄化効果について)
尚、本発明者らが鋭意研究を進めたところ、上記の温浴効果の他、本発明に係るシステムにより得られた人工マイクロバブル泉においては、マイクロバブルが湯中の浮遊物(ゴミ等)の表面を覆い、当該浮遊物を水面まで浮上させることができ、湯中の浮遊物が容易に除去可能となることが分かった。例えば、水と油(ごま油)とのエマルジョンに対してマイクロバブルを発生させたところ、油を効果的に浮上させることができた。さらに、温水中に繊維片を沈殿させ、これに対してマイクロバブルを発生させたところ、繊維片のほとんどを水面まで浮上させることができた。
【0056】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う人工マイクロバブル泉の製造システム及び人工マイクロバブル泉の製造方法もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る人工マイクロバブル泉の製造システムによれば、温浴効果に優れる人工マイクロバブル泉を低コストにて製造可能である。当該システムは構成が極めて簡易であり、一般家庭の浴室においても容易に設置することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 マイクロバブル発生手段
10a 温水導入口
10b 気体導入口
10c 筒状体
10d 絞り部
10s スリット
100 人工マイクロバブル泉の製造システム
110 浴槽
200 実施例に係るシステム
210 マイクロバブル発生手段
220 浴槽
230 ポンプ
240 流量計
250 ガスボンベ
260 pH測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロバブル発生手段からマイクロバブルを発生させて該マイクロバブルに含まれる気体を温水中に溶解させる、人工マイクロバブル泉の製造システムであって、
前記マイクロバブル発生手段にはスリットが設けられ、該スリットを介して温水中に気液二相流をせん断式に吐出させることにより温水中に前記マイクロバブルを発生させる、
人工マイクロバブル泉の製造システム。
【請求項2】
前記マイクロバブルのゼータ電位が−20mV以下である、請求項1に記載の人工マイクロバブル泉の製造システム。
【請求項3】
前記気体が炭酸ガス又は空気である、請求項1又は2に記載の人工マイクロバブル泉の製造システム。
【請求項4】
スリットを介して気液二相流を温水中にせん断式に吐出させることにより、該温水中にマイクロバブルを発生させる工程と、
発生させた前記マイクロバブルと前記温水との界面を介して、該マイクロバブルに含まれる気体を該温水中に溶解させる工程と、
を備える、人工マイクロバブル泉の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロバブルのゼータ電位が−20mV以下である、請求項4に記載の人工マイクロバブル泉の製造方法。
【請求項6】
前記気体として炭酸ガス又は空気を用いる、請求項4又は5に記載の人工マイクロバブル泉の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−52155(P2013−52155A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193256(P2011−193256)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月3日 日本機械学会東北学生会主催の「日本機械学会東北学生会 第41回卒業研究発表講演会 講演論文集」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年8月 日本混相流学会年会講演会2011(京都)実行委員会発行の「日本混相流学会 年会講演会2011 講演論文集」に発表
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】