説明

人工リンパ節の作製方法

【課題】ストローマ細胞を用いることなく、汎用的に適用できる人工リンパ節組織の形成方法を提供する。
【解決手段】(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインを、三次元構造を有する高分子担体に含浸させ、ストローマ細胞を含まないで、当該ケモカインを含浸させてなる人工リンパ節組織形成用高分子担体を、非ヒト動物に移植して、リンパ節組織を形成する方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無細胞系で人工リンパ節組織を形成する方法及び人工リンパ節組織形成用高分子担体に関する。具体的には、ストローマ細胞や樹状細胞を特に使用することなく、特定のケモカインを含浸させてなる人工リンパ節組織形成用高分子担体を哺乳動物に移植することによって、例えばマウスの系統や動物種に関わりなく、人工リンパ節組織を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンパ節は、リンパ球が抗原提示細胞から抗原情報を受け取り、抗原特異的な獲得免疫反応を惹起するための重要な場所であり、病原微生物や癌細胞を排除して生体を防御するために必須の組織である。さらに、一度その脅威に遭遇するとその情報は免疫学的に記憶され、二度目の同じ脅威に対して速やかに強力な免疫反応が誘導されるが、リンパ節はこのような免疫メモリーの形成や二次反応の中心的な場にもなっている。
【0003】
このようなリンパ節の機能やメカニズムを解明する方法の1つとして、三次元的に構成された人工の免疫組織の構築について検討され、本発明者らの一部は、先に、サイトカインを産生するストローマ細胞や樹状細胞を含浸させたコラーゲンスポンジをマウスの腎皮膜下に移植して人工的にリンパ節組織を形成する方法を報告している(非特許文献1、特許文献1)。
【0004】
人工リンパ節の構築と応用に関し、マウスリンホトキシンアルファ(LTα)又はCCL21、CXCL13及びCCL19の遺伝子を含む発現ベクターを組み込んだストローマ細胞(TEL-2細胞)と樹状細胞を含浸させたコラーゲンスポンジを、マウスの腎皮膜下に移植することによりリンパ節組織が形成されたこと、当該リンパ節を免疫を受けていないマウスに移植し、抗原刺激すると、抗原特異的なIgG抗体が誘導されることが記載されている(非特許文献1−3)。
【0005】
リンホトキシン、CCL21、CCL19、CXCL13、IL-7及びLTβからなるサイトカインを産生することができるストローマ細胞及びコラーゲンスポンジ、さらに樹状細胞を含む人工リンパ節が開示されている(特許文献1)。
【0006】
抗原で非ヒト動物を免疫し、当該動物に、サイトカインを産生することができるストローマ細胞を含むコラーゲンスポンジを移植して、抗原特異的な抗体及び抗原特異的T細胞を産生する人工リンパ節を形成することが記載されている(特許文献2)。
【0007】
抗原で非ヒト動物を免疫し、当該動物に、サイトカインを産生することができるストローマ細胞を含むコラーゲンスポンジを移植して人工リンパ節を形成する。次いで、当該人工リンパ節を免疫不全非ヒト動物に移植し前記抗原で免疫した後、脾臓を取り出し、当該細胞をミエローマ細胞と融合させて抗体産生ハイブリドーマを形成することが記載されている(特許文献3)。
【0008】
しかしながら、これらいずれの先行文献に記載の人工リンパ節もその構成としてストローマ細胞を含むことを要件としている。従来、ストローマ細胞はリンパ節形成の支持細胞となることから、使用することが必須であると考えられていた(非特許文献3、特許文献1)。ストローマ細胞を使用する場合、使用するストローマ細胞によってリンパ節を形成させるためのマウスの系統や動物種が制限されるが、リンパ節を形成させるためのマウスの系統や動物種において適切に使用できるようなストローマ細胞を取得するのは困難である。先行技術文献には、無細胞系で人工リンパ節が形成できることについての記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nature Biotechnology, 22, 1539-1545, 2004
【非特許文献2】The Journal of Clinical Investigation, 117, 997-1007, 2007
【非特許文献3】医学のあゆみ227巻5号407-412頁2008年
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4097544号公報
【特許文献2】特開2006-129839号公報
【特許文献3】国際公開パンフレットWO2007/069755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ストローマ細胞を使用する場合、使用するストローマ細胞によってリンパ節を形成させるためのマウスの系統や動物種が制限されるが、リンパ節を形成させるためのマウスの系統や動物種において適切に使用できるようなストローマ細胞を取得するのは困難である。そこで、本発明はこのような制限のない、汎用的に適用できる人工リンパ節の形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
少なくとも特定の3種のケモカインを、三次元構造を有する高分子担体に含浸させ、当該ケモカインを含浸させてなる人工リンパ節組織形成用高分子担体及びそれを非ヒト動物に移植して、人工リンパ節組織を形成する方法による。
【0013】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインが、三次元構造を有する高分子担体に含浸されてなり、かつストローマ細胞を含まない人工リンパ節組織形成用高分子担体を、非ヒト動物に移植して、人工リンパ節組織を形成する方法。
2.人工リンパ節組織形成用高分子担体が、さらにVEGFA又はVEGFCを含浸している、請求項1記載の方法。
3.ケモカインが、CXCL12、CXCL13及びCCL19の少なくとも3種の組み合わせからなる、請求項1又は2記載の方法。
4.ケモカインが、CXCL12、CCL21及びCCL19の少なくとも3種の組み合わせから成る、請求項1又は2記載の方法。
5.三次元構造を有する高分子担体が、コラーゲン、グリコサミノグリカン、ポリグリコール酸、ポリ−L−乳酸、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン及びエチレンビニルアセテートから選択される1種又は複数種の組み合わせからなる高分子担体である請求項1〜4のいずれか1記載の方法。
6.三次元構造を有する高分子担体が、コラーゲンスポンジである、請求項1〜4のいずれか1記載の方法。
7.(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインが含浸された三次元構造を有する高分子担体からなり、ストローマ細胞を含まないことを特徴とする、人工リンパ節組織形成用高分子担体。
8.(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインに加え、さらにVEGFA又はVEGFCが含浸された三次元構造を有する高分子担体からなり、ストローマ細胞を含まないことを特徴とする、人工リンパ節組織形成用高分子担体。
9.三次元構造を有する高分子担体が、コラーゲンスポンジである、請求項7〜8記載の人工リンパ節組織形成用高分子担体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、ストローマ細胞を使用しなくとも人工リンパ節組織を形成することができ、レシピエントであるマウスの系統や動物種に関係なく、人工リンパ節組織を形成することができる。本発明の人工リンパ節組織は、リンパ節組織形成に関わる細胞やメカニズムの解明に有用である。また、本発明の人工リンパ節組織を使用すれば、様々な抗原に対する特異的抗体やエフェクターT細胞を効率よく作製することが可能となる。また、本発明の人工リンパ節組織を免疫力の著しく低下した重症感染症等の個体に一定期間装着し、免疫活性を高めて当該疾患を治癒することなどへの適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】人工リンパ節組織の免疫組織学的解析結果を示す写真図である。(実施例1)図中、BはB細胞の集積領域を示し、TはT細胞の集積領域を示す。
【図2】抗原特異的抗体産生能の検討結果を示す図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、無細胞系で人工リンパ節組織を形成する方法及び人工リンパ節組織形成用高分子担体に関する。本発明において、人工リンパ節組織形成用高分子担体は、その材料としての三次元構造を有する高分子担体とは区別して使用される。材料としての高分子担体は、単に高分子担体という場合がある。
【0017】
リンパ節とは、リンパ系組織(リンパ球が非リンパ系細胞と相互作用する組織)であって、リンパ球系の細胞の成熟や適応免疫応答に重要な役割を果たす組織器官である。本発明の人工リンパ節組織は、三次元構造を有する高分子担体周辺に、B細胞及びT細胞のリンパ球が集積して形成される細胞塊であり、当該細胞塊ではB細胞領域とT細胞領域が分かれて分布している。
【0018】
本発明の汎用的に適用できる人工リンパ節組織形成用高分子担体は、三次元構造を有する高分子担体に、(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインを含浸させてなり、かつストローマ細胞を含まないものをいう。本発明の人工リンパ節組織は、当該人工リンパ節組織形成用高分子担体を動物に移植して、リンパ節組織を形成する方法による。
【0019】
本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体には、上述の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインのほか、さらにVEGFA (Vascular Endothelial Growth Factor(血管内皮増殖因子)A)又はVEGFC (Vascular Endothelial Growth Factor C)を含んでいても良い。ストローマ細胞は、リンパ節組織を作製しようとするマウスの系統や動物種において適切に使用できるようなものを使用しなければならない。しかしながら、それぞれのマウスの系統や動物種に対して適切に使用できるようなストローマ細胞をそれぞれ取得するのは困難である。そのため、ストローマ細胞を使用する場合、使用するストローマ細胞によってリンパ節を形成させるためのマウスの系統や動物種が制限される。そこで、本発明では、マウスの系統や動物種において制限のない、汎用的に適用できる人工リンパ節組織形成方法を提供するものである。
【0020】
本発明においてストローマ細胞とは、腺あるいは器官に特異的な固有の機能を持つ様々な細胞(実質細胞)を取り巻く微小環境を構成する細胞の総称であり、「支質細胞」ともいう。この「支質細胞」は、文字どおり実質の細胞を物理的に支持するとともに、細胞同士の相互作用により相手の細胞に何らかの作用を及ぼすという意味での支持機能も果たしていると考えられている。ストローマ細胞は、「支持細胞」のほか、「間質細胞」ともいう。
【0021】
ケモカイン (Chemokine) とは、Gタンパク質共役受容体を介してその作用を発現する塩基性タンパク質であり、サイトカインの一群である。白血球などの遊走を引き起こし炎症の形成に関与する。ケモカインは構造上の違いからCCケモカイン、CXCケモカイン、Cケモカイン及びCX3Cケモカインに分類される。これまでに50種類以上のケモカインが同定されている。CCケモカインは、1次構造においてN末端側の2つのシステイン残基(C)が連続していることからこのように称される。また、CXCケモカインは、N末端側の2つのシステイン残基の間にその他のアミノ酸が1つ存在するという配列を有する(CXCモチーフ)。
【0022】
本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体に含まれるケモカインとしては、CXCL13、CCL21、CCL19及びCXCL12が挙げられる。これらの起源は特に特定の生物種に限定されるものではないが、リンパ節組織を作製しようとする動物種に応じて選ぶのが好ましい。ヒト又はマウス由来のものとしては、CXCL13(Gunn, M. et al.,1998, Nature 391:788-803,Gunn, M.D. et al., 1998, Nature 391:799-803)、CCL21(Hedrick, J.A. and A. Zlotnik, 1997, J. Immunol. 159:1589-1593,Hedrick, J.A. and A. Zlotnik, 1997, J. Immunol. 159:1589-1593)、CCL19(Rossi, D. L. et al.,1997, J. Immunol. 158:1033-1036,Ngo, V.N. et al., 1998, J. Exp. Med. 188:181-191)及びCXCL12(UniProtKB/Swiss-Prot P48061(SDF1 HUMAN) Last modified May 18,2010. Version 111,Nagasawa, T.et al., 1994, Proc. Natl. Acad.Sci. USA 91:2305-2309; Tashiro, K et l., 1993, Science 261:600-603)が挙げられる。ヒト又はマウス由来のCXCL13、CCL21、CCL19及びCXCL12は、R&Dシステムズ社(それぞれ、カタログ番号801-CX、470-BC、366-6C、457-6C、361-MI、440-M3、350-NS、460-SD)から購入することもできる。
【0023】
本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体は、少なくとも3種のケモカイン、具体的には、(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインの適当量、具体的には例えば、各々1ng〜0.1μg、好ましくは、各々2ng〜50ng、特に好ましくは各々4ng〜10ngの範囲の量を生理食塩液や、PBS等の緩衝液に溶解し、当該ケモカインを溶解した溶液を、上記三次元構造を有する高分子担体に滴下し、含浸させることにより、構築することができる。三次元構造を有する高分子担体の体積に対して1〜2倍量程度であれば、三次元構造を有する高分子担体に含浸させることができる。本発明においては、特に(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19の組み合わせが好適である。また、本発明においては、上記(1)又は(2)の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインに加えて、VEGFA又はVEGFCを上記ケモカインと同量程度含んでいるのがより好適である。VEGFA及びVEGFCの起源は特に特定の生物種に限定されるものではないが、例えば、ヒト由来VEGFCとして、UniProtKB/Swiss-Prot P49767(VEGFC HUMAN)Last modified June 15,2010. Version 98、マウス由来VEGFCとして、UniProtKB/Swiss-Prot P97953(VEGFC MOUSE)Last modified July 13,2010. Version 88が挙げられる。また、ヒト由来VEGFAとして、GenBank:AAH11177.2(NCBI Entrez Browser 2010年7月29日検索)、マウス由来VEGFAとして、GenBank:EDL23467.1(NCBI Entrez Browser 2010年7月29日検索)が挙げられる。
【0024】
また、本発明において使用される三次元構造を有する高分子担体としては、高分子生体材料が挙げられ、より詳しくは、生体適合性高分子材料を利用することができる。本発明において「三次元構造」とはリンパ球や樹状細胞などのリンパ節構成細胞を、三次元的に組織化させるための足場(scaffold)を意味する。また、「生体適合性高分子材料」とは、「生体に何らかの方法で適用した時、生体が異物としてそれを排除しようとする反応を極力低く抑えるようにされた、様々な高分子から構成される材料」のことを意味する。
【0025】
このような高分子担体としては、例えば、コラーゲン、グリコサミノグリカン、ポリグリコール酸、ポリ−L−乳酸などが挙げられる。また、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンまたはエチレンビニルアセテートなどの非生体分解性の材料も、単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の三次元構造を有する高分子担体は、それが生体分解性であっても、非生体分解性であってもよく、生体へ移植した際に、それ自身の抗原性による免疫反応および/または物理的刺激による炎症反応を起こしにくい素材である限り、任意の素材を用いることができる。ただし、本発明において使用される三次元構造を有する高分子担体が、人工リンパ節として機能するためには、人工リンパ節の構築に適した孔径(ポアサイズ)の多孔性の高分子担体、即ちスポンジ状であるのが好適である。このようなスポンジ状の高分子担体の孔径は、当業者により適宜決定され得る。
【0027】
コラーゲンは、生体の構成成分であり、炎症反応や免疫反応を低く抑えられる点で、本発明の高分子担体として好ましい。また、「コラーゲンスポンジ」とは、コラーゲンを含むスポンジ構造を有する多孔性高分子担体を意味する。例えば、ウシアキレス腱の不溶性コラーゲンを凍結乾燥することにより、多孔性のスポンジ状にしたコラーゲンスポンジが得られ、本発明に利用可能である。
【0028】
本発明は、人工リンパ節組織形成用高分子担体にも及ぶ。ここで、本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体とは、上記説明したように、(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインが含浸されてなる三次元構造を有する高分子担体からなり、ストローマ細胞を含まないことを特徴とする。当該人工リンパ節組織形成用高分子担体は、ストローマ細胞を含まないことから、レシピエントとして、非ヒト動物、例えばマウス、ラットなど種を問わずに使用することができる。また、ストローマ細胞を含まないことから、ヒトについてもレシピエントとすることができる。
【0029】
また、本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体の大きさは、レシピエントとしての動物の種類や移植部位により、適宜決定することができる。例えば、レシピエントがマウスであり、移植部位が腎被膜下の場合は、当該人工リンパ節組織形成用高分子担体の大きさは、1〜5mm×1〜5mm×1〜5mm、好ましくは、約3mm角とすることができる。
【0030】
上記本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体を、レシピエントとしての動物に移植して、人工リンパ節を形成する。
本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体が移植される部位としては、用途目的に応じて異なるが、例えばマウスやラットにおいて実験動物構築のため、人工リンパ節モデル動物を構築しようとする場合には、腎被膜下、鼠径部又は腋窩の皮下、フットパット(肉球)などに移植することができる。また、例えば、ワクチン等による免疫治療の補助等のためにヒトに移植する場合には、上下肢の皮下へ埋め込み移植することができる。
【0031】
本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体の移植から約3週間後には、レシピエントの生体内で本発明の人工リンパ節組織が構築され得る。このようにして構築された人工リンパ節組織は、生体から回収され、さらに別の動物に再移植して二次免疫されるか、in vitro培養に供されるか、免疫不全症の個体に治療のために用いられるか、または、適切な保存剤(例えば、10%DMSO)を添加した培養液中で−80℃以下の低温にて保存して、使用前に調製して用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の理解を深めるために、以下に実施例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではないことはいうまでもない。
【0033】
(実施例1)人工リンパ節組織形成用高分子担体による人工リンパ節組織形成の検討
A.人工リンパ節組織形成用高分子担体の移植
三次元構造を有する高分子担体としてのコラーゲンスポンジ(株式会社高研社製、CS-35)を約3mm角(3×3×3mm)に切断した。このコラーゲンスポンジ切片に、表1に示したケモカイン、VEGFCを1%BSA(ウシ血清アルブミン)含有PBS(pH7.4)に、最終濃度が0.5μg/mlとなるように溶解した溶液10μlを滴下して含浸させ、本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体を作製した。
【0034】
吸引麻酔(イソフルラン)下、外科的処置により8〜12周齢のBalb/cマウスの腎皮膜の下で腎臓との間に、上記本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体を移植した。移植は2つの腎臓に、それぞれ腎上極付近と下極付近の2ケ所、合計4ケ所に移植した。
【0035】
【表1】

【0036】
B. 人工リンパ節組織の免疫組織学的解析
移植3週間後に、人工リンパ節組織形成用高分子担体による移植組織を取り出し、免疫組織染色法によりT細胞及びB細胞の集積の検討を行った。すなわち、取り出した移植組織をOCT Compound4583(Sakura Finetek社製)を用いて包埋し、液体窒素により凍結ブロックを作製した。次いで、厚さ5μmの凍結切片を作製してAPS(アミノシラン)コートしたスライドガラスに貼り付け、風乾後、−20℃の冷アセトンで10分間固定し、FITG-抗B220抗体(B細胞マーカー、BD Biosciences社製)及びPE-抗Thy1.2抗体(T細胞マーカー、BD Biosciences社製)を使用し、定法に従って免疫組織染色を行った。
【0037】
その結果、CXCL12、CXCL13及びCCL19の組み合わせ、又は、CXCL12、CCL19及びCCL21の組み合わせでケモカインを用いた場合に、B細胞及びT細胞の集積とクラスターの形成が認められ(表1、図1)、人工リンパ節組織が形成されたことが明らかとなった。また、表1の実験番号1−10及び1−12において、VEGFCの代わりにVEGFAを使用しても同様の結果が得られた。
【0038】
(実施例2)抗原特異的抗体産生能の検討
A 人工リンパ節組織形成用高分子担体の移植
5〜6周齢のBalb/cマウスに、胸腺依存性抗原である4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニルアセチル−オブアルブミン(NP-OVA、Biosearch Technologies社製)をマウス1頭当たり100μg腹腔内投与した。3〜4週間後に、実施例1と同様にして表2に示したケモカイン、VEGFCをコラーゲンスポンジ切片に含浸させ、作製した本発明の人工リンパ節組織形成用高分子担体を、免疫処理した上記マウスの腎皮膜下へ、実施例1と同様に移植した。
【0039】
B.抗原特異的抗体産生能の測定
人工リンパ節組織形成用高分子担体を移植してから3週間後に、マウス1頭当たり100μg/mlのNP-OVAを静脈投与により再度免疫処理を行った。さらに5日間経過後に移植組織(人工リンパ節組織)を取り出し、すり潰して細胞を回収した。得られた細胞数を表2に示した。次に、得られた細胞1×10個を用いて、Nature Biotechnology, 22, 1539-1545, 2004に記載された方法に準じてELISPOT/FACSアッセイを行い、抗体を産生しているB細胞の数を測定した。
【0040】
【表2】

【0041】
その結果、8個の移植組織から回収された全細胞数は、いずれの条件の場合でもコントロール(2−5)と比べてあまり差を認めなかった(表2)。一方、実験番号(2−1)〜(2−4)の各種ケモカインを含む人工リンパ節組織形成用高分子担体を移植した場合は、実験番号(2−5)のコントロールに比べてIgM抗体産生細胞の増加が顕著に認められた(図2)。このことから、移植片(人工リンパ節組織)へのB細胞の移入が起こっていることが分かる。また、抗原低親和性IgG産生細胞(NP30)のみならず、高親和性IgG産生細胞(NP3)の増加も見られた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上詳述したように、本発明の方法によれば、特にストローマ細胞を使用しなくとも人工リンパ節組織を形成することができ、レシピエントであるマウスの系統や動物種に関係なく、人工リンパ節組織を形成することができる。本発明の人工リンパ節組織は、リンパ節組織形成に関わる細胞やメカニズムの解明に有用である。また、本発明の人工リンパ節組織を使用すれば、様々な抗原に対する特異的抗体やエフェクターT細胞を効率よく作製することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインが、三次元構造を有する高分子担体に含浸されてなり、かつストローマ細胞を含まない人工リンパ節組織形成用高分子担体を、非ヒト動物に移植して、人工リンパ節組織を形成する方法。
【請求項2】
人工リンパ節組織形成用高分子担体が、さらにVEGFA又はVEGFCを含浸している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ケモカインが、CXCL12、CXCL13及びCCL19の少なくとも3種の組み合わせからなる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ケモカインが、CXCL12、CCL21及びCCL19の少なくとも3種の組み合わせから成る、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
三次元構造を有する高分子担体が、コラーゲン、グリコサミノグリカン、ポリグリコール酸、ポリ−L−乳酸、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン及びエチレンビニルアセテートから選択される1種又は複数種の組み合わせからなる高分子担体である請求項1〜4のいずれか1記載の方法。
【請求項6】
三次元構造を有する高分子担体が、コラーゲンスポンジである、請求項1〜4のいずれか1記載の方法。
【請求項7】
(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインが含浸された三次元構造を有する高分子担体からなり、ストローマ細胞を含まないことを特徴とする、人工リンパ節組織形成用高分子担体。
【請求項8】
(1)CXCL12、CXCL13及びCCL19、又は、(2)CXCL12、CCL19及びCCL21の少なくとも3種の組み合わせからなるケモカインに加え、さらにVEGFA又はVEGFCが含浸された三次元構造を有する高分子担体からなり、ストローマ細胞を含まないことを特徴とする、人工リンパ節組織形成用高分子担体。
【請求項9】
三次元構造を有する高分子担体が、コラーゲンスポンジである、請求項7〜8記載の人工リンパ節組織形成用高分子担体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−36151(P2012−36151A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179889(P2010−179889)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】