説明

人工受精用培地組成物

【課題】ウシ胚の培養工程、保存工程において熱ストレスの影響を受けにくい新規培地組成物を提供する。
【解決手段】アスタキサンチン等のキサントフィルを含有する人工受精(体外受精)用培地組成物、および該組成物を用いて、人工受精後のウシ胚の培養及び保存を行う方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工受精用培地組成物、特にウシ胚の培養又は保存の際に使用する体外受精用培地組成物及びこれを用いた体外受精後のウシ胚の培養・保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシは通常分娩で雌1頭が残せる子孫の数が生涯で最大10頭程度と限定されている。効率よく優良な子牛を生産するために、優良な雌牛に対して排卵誘発剤により排卵を誘発し、優良な雄牛の精子を用いて体内人工授精を行った後、子宮から胚を採取し保存して、他の雌牛の卵管又は子宮に胚を移植するという体内人工授精法が広く用いられており、現在世界で新鮮胚から27万頭、凍結保存胚から28万頭の胚移植が実施されている(非特許文献1)。
【0003】
さらに効率よく優良な子牛を生産するために、食肉市場で肉牛の卵巣から未成熟卵子を採取し、培養液中、in vitroにおいて卵子と精子を受精させ胚を発生させた後、ウシ胚を保存し、乳牛の卵管又は子宮に胚を移植する体外受精法が広く行われている。体外受精法は通常は廃棄される卵巣10個から約100個の未成熟卵子が採取され、約10頭の子ウシが生産できるため、体内人工授精より量産化に適した方法として知られ、日本では年間約2000頭の子ウシが誕生している(非特許文献1)。また、超音波診断装置を用いて生きたウシから採取した卵子を用いた体外受精も実用化段階に入っている(非特許文献1)。
【0004】
体外受精において胚の培養液での培養及び保存は生産効率に大きく影響を与えることから、体外受精用の培地として23種類のアミノ酸からなる組成物(特許文献1)、メタロプロテナーゼインヒビターを含む培地(特許文献2)、カゼインホスホペプチドを含む培地(特許文献3)、シクロヘキシミドを含有する培地(特許文献4)、グルタミンを実質的に含まない培地(特許文献5)が知られているが、胚の培養、保存時の熱ストレス耐性を付与する培地は知られていない。
【0005】
キサントフィルは、カロテノイドのうち炭素、水素、酸素から構成されるものをいう。アスタキサンチンは、エビ、カニなどに見られる赤色色素であり、アスタキサンチンを含むキサントフィル類は、抗酸化作用をはじめとする優れた生理活性を持つことが明らかになっている。また、家畜の精液生産効果があることから飼料に用いられているが(特許文献6、特許文献7)、受精した胚に関する影響は知られておらず、培地添加物としても知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3660026号公報
【特許文献2】特公平7−34698号公報
【特許文献3】特開平6−197665号公報
【特許文献4】特開2001−89302号公報
【特許文献5】特開2001−17160号公報
【特許文献6】特許第3897978号公報
【特許文献7】特許第3620858号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】入谷明、最新発生工学総論、p28〜62、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高温による直接的な熱ストレスがウシ初期胚の発生を阻害し、人工受精における胚発生率や受胎率を下げることが問題とされていた。このため、ウシ胚の培養工程、保存工程において熱ストレスの影響を受けにくい新規培地組成物の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは鋭意検討することにより、ウシ胚の培養工程において、培養液にキサントフィルを添加することにより、熱ストレスに強く、受胎率の向上に役立つ培地が提供されることを発見した。
【0010】
本発明は、(1)キサントフィルを含有することを特徴とする人工受精用培地組成物、(2)キサントフィルがアスタキサンチンであることを特徴とする前記(1)記載の培地組成物、(3)人工受精が体外受精であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の培地組成物、並びに(4)人工受精後のウシ胚の培養に用いることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1に記載の培地組成物に関する。
【0011】
本発明はまた、(5)人工受精後の胚の培養において、キサントフィルを含有する培地を用いることを特徴とする胚の培養方法、(6)キサントフィルがアスタキサンチンであることを特徴とする前記(5)記載の胚の培養方法、(7)人工受精が体外受精であることを特徴とする前記(5)又は(6)記載の胚の培養方法、並びに(8)胚がウシ初期胚であることを特徴とする前記(5)〜(7)のいずれか1に記載の胚の培養方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の培地組成物は、ウシ胚の培養及び保存工程における培養液にキサントフィルを添加することにより、胚が熱ストレスの影響を受けにくくなる効果を有する。したがって、このようなキサントフィルを含有する本発明の培地組成物は、人工受精における受胎率及び胚発生率の向上に有利な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、キサントフィルとしては、ルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、アスタキサンチン等が挙げられ、とりわけアスタキサンチンを用いることが好ましい。アスタキサンチンとしては、化学合成により得られたアスタキサンチン、オキアミ等の水産物から抽出したアスタキサンチン、藻類から抽出したアスタキサンチン、ファフィアロドチーマ等の酵母から抽出したアスタキサンチン等が挙げられる。培地組成物におけるキサントフィルの濃度は、2.5ppm〜1000ppm、好ましくは2.5ppm〜100ppm、とりわけ好ましくは25ppm〜100ppmである。
【0014】
人工受精用培地とは、卵細胞を培養できる培地、体外における卵細胞の受精に用いることができる培地、又は体内人工授精により採取あるいは体外受精により作出した胚を培養できる培地等をいう。具体的には、199培地、BME培地、CMRL1066培地、MEM培地、マッコイ−5A培地、ウェイマウス培地、トロウェルT−8培地、ハム培地、ライボビッツL−15培地、NCTC培地、ウィリアムス−E培地、ケイン・アンド・フット(Kane and Foote)培地、MCDB104培地、ブリンスター(Brinster)培地、m−タイロード培地、BWW培地、ウィッテン(Whitten)培地、TYH培地、ホップス・アンド・ピット(Hoppes & Pitts)培地、m−KRB培地、BO培地、T6培地、HTF培地、GPM培地、合成卵管液(SOF)、Charles Ronsenkrans培地又はこれらの修正培地等が挙げられる。
【0015】
前記培地には、必要に応じてアミノ酸、糖質、電解質、ビタミン類、微量金属元素、ホルモン、細胞成長因子、脂質又はその構成成分、担体蛋白質、細胞外基質成分(接着因子)、還元物質等を添加してもよい。
【0016】
アミノ酸としては、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン、L−リジン、L−スレオニン、L−バリン、L−メチオニン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−プロリン、グリシン、L−アラニン、L−チロシン、L−ヒスチジン、L−アルギニン、タウリン、L−アスパラギン酸、L−セリン、L−グルタミン酸、L−シスチン、L−グルタミン、L−ヒドロキシプロリン、L−アスパラギン等が挙げられる。
【0017】
糖質としては、グルコース、マルトース、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、トレハロース等が、電解質としては、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等が挙げられる。
【0018】
ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD類、ビタミンE、ニコチン酸、ビオチン、葉酸等が、微量金属元素としては、亜鉛、鉄、マンガン、銅、ヨウ素、セレン、コバルト等が挙げられる。
【0019】
ホルモンとしては、インスリン、ハイドロコーチゾン、デキサメサゾン、トリヨードサイロニン等が、細胞成長因子としては、上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子、成長ホルモン等が挙げられる。
【0020】
脂質又はその構成成分としては、オレイン酸、リノール酸又はリノレン酸等の必須不飽和脂肪酸、コレステロール、エタノールアミン、コリン等が、担体蛋白質としては、血清アルブミン、トランスフェリン等が、細胞外基質成分(接着因子)としては、フィブロネクチン、コラーゲン、ゼラチン等が挙げられ、還元物質としては、2−メルカプトエタノール(ME)、ジチオトレイトール、還元型グルタチオン等が挙げられる。
【0021】
また前記培地には、ペニシリン、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン等の抗生物質、アンホテリシンB、ナイスタチン等の抗かび剤、メタロプロテアーゼインヒビター、シクロホスファミド、カゼインペプチド等の受精促進剤を適宜添加してもよい。
【0022】
本発明の培地組成物は、人工受精における胚の培養又は保存に用いることができる。人工受精における胚の培養又は保存とは、体外受精においては動物卵細胞の培養、その受精時又は受精後の胚の培養又は培養後の保存をいい、体内人工授精においては、発生した胚の子宮等から採取した後の培養又は保存をいう。
【0023】
胚は動物胚であればヒト、ウシ等どのような動物でもよいが、哺乳動物が好ましく、ウシ、ブタ、ヒツジ等の家畜動物がより好ましく、とりわけウシが好ましい。
【0024】
本発明における、卵細胞の培養及び受精時の胚の培養においては、人工受精が体外受精の場合は、未成熟卵子に対してキサントフィルを含有する本発明の培地を加え、卵細胞の培養を行う。次いで、一般に37〜39℃、好ましくは38.5℃、5%炭酸ガス/95%空気中あるいは5%炭酸ガス/5%酸素/90%窒素中、加湿環境中で、精子を添加し受精を行い、本発明の培地中で約1日間培養する。
【0025】
本発明における、人工受精後の胚の培養において、キサントフィルを含有する培地を用いることを特徴とする胚の培養方法は、以下のように行う。人工受精によって得られた受精卵を、裸化すなわち顆粒膜細胞を除去し、この裸化受精卵を本培地中で培養する。2〜3日毎に培地を置換する。上記の培養は通常37℃〜39℃、好ましくは38.5℃にて、5%炭酸ガス/5%酸素/90%窒素中、加湿環境で行なわれる。通常7〜8日間の培養の後、受精卵は胚盤胞に達する。
【0026】
発生した胚は、液体窒素中で保存することができる。体内人工授精においては子宮から採取した胚を、本発明の培地に加え、液体窒素中で保存することができる。
【0027】
キサントフィル、胚等の定義は前記と同義である。
【0028】
本明細書における、「受精」とは、雌雄の生殖細胞が接合する生物学的な現象をいい、「授精」とは、受精を人為的に起こさせることをいう。また、本明細書における、「人工授精」とは、人為的に精液を生殖器に注入する、授精のための技術をいい、「体外受精」とは、体外で精子と卵子を融合する、授精のための技術をいい、「人工受精」とは、人工授精及び体外受精を包含する授精のための技術をいう。
【0029】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0030】
TCM199培地の組成(Kurihara T, Kurome M, Wako N, Ochiai T, Mizuno K, Fujimura T, Takahagi Y, Murakami H, Kano K, Miyagawa S, Shirakura R, Nagashima H. Developmental competence of in vitro matured porcine oocytes after electrical activation. J Reprod Dev. 2002; 48: 271-279)を参考にして、以下の組成の培地(組成物1)を製造する:
CaCl(無水) 200.00mg/L、Fe(NO・9HO 0.72mg/L、KCl 400.00mg/L、MgSO(無水) 97.67mg/L、NaCl 6800.00mg/L、NaHPO・HO 140.00mg/L、アデノシン硫酸 10.00mg/L、ATP(2Na塩) 1.00mg/L、アデニル酸 0.20mg/L、コレステロール 0.20mg/L、デオキシリボース 0.50mg/L、D−グルコース 1000.00mg/L、グルタチオン(GSH) 0.05mg/L、グアニン・HCl 0.30mg/L、ヒポキサンチン(Na塩) 0.354mg/L、フェノールレッド 20.00mg/L、リボース 0.50mg/L、酢酸ナトリウム 50.00mg/L、チミン 0.30mg/L、Tween80(登録商標) 20.00mg/L、ウラシル 0.30mg/L、キサンチン(Na塩) 0.344mg/L、DL−アラニン 50.00mg/L、L−アルギニン・HCl 70.00mg/L、DL−アスパラギン酸 60.00mg/L、L−システイン・HCl・HO 0.11mg/L、L−シスチン・2HCl 26.00mg/L、DL−グルタミン酸・HO 150.00mg/L、L−グルタミン 100.00mg/L、グリシン 50.00mg/L、L−ヒスチジン・HCl・HO 21.88mg/L、L−ヒドロキシプロリン 10.00mg/L、DL−イソロイシン 40.00mg/L、DL−ロイシン 120.00mg/L、L−リジン・HCl 70.00mg/L、DL−メチオニン 30.00mg/L、DL−フェニルアラニン 50.00mg/L、L−プロリン 40.00mg/L、DL−セリン 50.00mg/L、DL−トレオニン 60.00mg/L、DL−トリプトファン 20.00mg/L、L−チロシン(2Na塩) 57.88mg/L、DL−バリン 50.00mg/L、アスコルビン酸 0.05mg/L、α−トコフェロールホスフェート(2Na塩) 0.01mg/L、d−ビオチン 0.01mg/L、カルシフェロール 0.10mg/L、p−パントテン酸カルシウム 0.01mg/L、塩化コリン 0.50mg/L、葉酸 0.01mg/L、i−イノシトール 0.05mg/L、メナジオン 0.01mg/L、ナイアシン 0.025mg/L、ナイアシンアミド 0.025mg/L、p−アミノ安息香酸 0.05mg/L、ピリドキサール・HCl 0.025mg/L、ピリドキシン・HCl 0.025mg/L、リボフラビン 0.01mg/L、チアミン・HCl 0.01mg/L、ビタミンA(アセテート) 0.14mg/L、アスタキサンチン(富士化学工業製) 25mg/L。
【実施例2】
【0031】
前記組成物1においてアスタキサンチンの濃度を50mg/Lに代える以外は同一の組成をした培地(組成物2)を製造する。
【実施例3】
【0032】
前記組成物1においてアスタキサンチンの濃度を100mg/Lに代える以外は同一の組成をした培地(組成物3)を製造する。
【実施例4】
【0033】
前記組成物1に20%NBS(新生子牛血清)を加えた培地(組成物4)を製造する。
【実施例5】
【0034】
前記組成物4に0.1mM β−MEを加える以外は同様の方法により培地(組成物5)を製造する。
【実施例6】
【0035】
基礎培地の作製:修正合成卵管液(Takahashi Y, First NL. In vitro development of bovine one-cell embryos: influence of glucose, lactate, pyruvate, amino acids and vitamins. Theriogenology 1992; 37: 963-978)の組成を参考にして、以下の組成の培地(基礎培地)を作製した:
NaCl 6294.00mg/L、KCl 534.00mg/L、KHPO 162.00mg/L、MgCl(6水和物) 99.60mg/L、CaCl(2水和物) 251.40mg/L、NaHCO 2106.00mg/L、L−アルギニン・HCl 21.00mg/L、L−シスチン 12.00mg/L、L−ヒスチジン 8.00mg/L、L−イソロイシン 26.00mg/L、L−ロイシン 26.00mg/L、L−リジン・HCl 36.98mg/L、L−メチオニン 7.50mg/L、L−フェニルアラニン 16.50mg/L、L−トレオニン 24.00mg/L、L−トリプトファン 4.00mg/L、L−チロシン 18.00mg/L、L−バリン 23.50mg/L、L−グルタミン 146.00mg/L、L−アラニン 8.90mg/L、L−アスパラギン(1水和物) 15.00mg/L、L−アスパラギン酸 13.30mg/L、L−グルタミン酸 14.70mg/L、グリシン 7.50mg/L、L−プロリン 11.50mg/L、L−セリン 10.50mg/L、ビルビン酸ナトリウム 55.00mg/L、乳酸ナトリウム 370.00mg/L、ウシ血清アルブミン 3000.00mg/L、ペニシリン100000.00単位/L、ストレプトマイシン 100mg/L、アンホテリシンB 0.25mg/L。
【0036】
未成熟卵子の回収と成熟培養:食肉市場において解体されたウシからウシ卵巣を回収し、生理食塩水の入ったデュワー瓶に移し研究室まで輸送した。解体後6時間以内にウシ卵巣表面の直径2〜8mmの卵胞から21G注射針を付けた10mlシリンジを用いて卵胞内容物を吸引し、その内容物から顆粒膜細胞付着卵子を回収した。基礎培地においてウシ血清アルブミンを添加せず、D−グルコース 1000.00mg/L、卵胞刺激ホルモン 200IU/L及びウシ胎仔血清 10%(V/V)を添加する以外は同一の組成をした培地(卵子成熟用培地)を作製し、その培地で、60×15mmペトリディッシュ上に50μlのドロップを作製し、流動パラフィンを被せた。回収した顆粒膜細胞付着卵子を1ドロップあたり10個ずつ移し、38.5℃、飽和湿度、5%炭酸ガス、5%酸素、90%窒素のインキュベーター内で22時間培養した。
【0037】
成熟卵子の体外受精:基礎培地においてへパリン 20mg/Lを添加する以外は同一の組成をした培地を作製し60×15mmペトリディッシュ上に45μlのドロップを作製し流動パラフィンを被せ、卵子待機用ドロップとした。黒毛和種の凍結精液(0.5ml)を、37℃の温水中で融解させ、15ml Conical Tube内に調製した90%パーコール 2ml、45%パーコール 2mlの重層の上に乗せた。25℃、700g、30分の遠心分離を行い、上清を吸引除去した。残った精子の沈殿を基礎培地10mlに懸濁し、10分の遠心分離後、上清を吸引除去した。これを洗浄精子とし、血球計算板で精子濃度を計測し、精子濃度2×10sperm/mlになるように基礎培地で希釈した。成熟培養後の顆粒膜細胞付着卵子を卵子待機用ドロップに1ドロップあたり10個ずつ移し、精子希釈液を50μlずつ顆粒膜細胞付着卵子の入った卵子待機用ドロップに投入し、38.5℃、飽和湿度、5%炭酸ガス、5%酸素、90%窒素のインキュベーター内で20時間培養した。
【0038】
体外受精胚の培養:基礎培地においてD−グルコース 270.00mg/L、ジメチルスルホキシド 0.025%(v/v)を添加する以外は同一の組成をした培地(組成物6)を作製した。前記組成物6においてアスタキサンチン(マリンケミカル研究所)2.5ppmを添加する以外は同一の組成をした培地(組成物7)を作製した。前記組成物7においてアスタキサンチンの濃度を25ppmに代える以外は同一の組成をした培地(組成物8)を作製した。体外受精開始後20時間に顆粒膜細胞付着卵子から顆粒膜細胞を除去し、1細胞期胚を得た。得られた1細胞期胚を通常処理においては38.5℃の温度条件下で培養し、暑熱処理においては培養開始後0〜10時間及び24〜34時間の2回、40.5℃に温度設定したインキュベーターで培養した。いずれのインキュベーターも飽和湿度、5%炭酸ガス、5%酸素、90%窒素に設定した。それぞれの温度条件下における培地は、組成物6、組成物7あるいは組成物8を4ウェルプレートに1ウェルあたり500μlで入れたものとした。すなわち通常処理かつアスタキサンチン無添加(通常−無添加区)、通常処理かつアスタキサンチン2.5ppmあるいは25ppm添加(通常−Ax2.5区あるいは通常−Ax25区)、暑熱処理かつアスタキサンチン無添加(暑熱−無添加区)、暑熱処理かつアスタキサンチン2.5ppmあるいは25ppm添加(暑熱−Ax2.5区あるいは暑熱−Ax25区)の6区に分けて培養した。体外受精の開始日を0日目とし、3日目に基礎培地においてD−グルコース 270.00mg/Lを添加する以外は同一の組成をした培地に交換した。さらに5日目に基礎培地においてD−グルコース 270.00mg/L、β−ME 0.1mM及びウシ胎仔血清 10%(v/v)を添加する以外は同一の組成をした培地に交換した。3日目以後の培地は、60×15mmペトリディッシュ上に50μlのドロップを作製し、流動パラフィンを被せた状態で用いた。3日目における分割率と5−8細胞期への発生率及び8日目における胚盤胞発生率を計測した。分割率及び発生率は1元配置の分散分析後Sidak法を用いて多重比較を行った。その結果、通常−無添加区と比較して、暑熱−無添加区では分割率、5−8細胞期及び胚盤胞への発生率が有意に低下した。一方、暑熱−Ax2.5区あるいは暑熱−Ax25区では、アスタキサンチンの濃度依存的に胚発生率が回復し、暑熱−Ax25区においては、通常−無添加区との間に有意差が見られなかった。以上の結果より、生理的な暑熱条件によってウシ初期胚発生が直接阻害されることが示され、その発生阻害をアスタキサンチンが緩解しうることが示された(表1)。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサントフィルを含有することを特徴とする人工受精用培地組成物。
【請求項2】
キサントフィルがアスタキサンチンであることを特徴とする請求項1記載の培地組成物。
【請求項3】
人工受精が体外受精であることを特徴とする請求項1又は2記載の培地組成物。
【請求項4】
人工受精後のウシ胚の培養に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の培地組成物。
【請求項5】
人工受精後の胚の培養において、キサントフィルを含有する培地を用いることを特徴とする胚の培養方法。
【請求項6】
キサントフィルがアスタキサンチンであることを特徴とする請求項5記載の胚の培養方法。
【請求項7】
人工受精が体外受精であることを特徴とする請求項5又は6記載の胚の培養方法。
【請求項8】
胚がウシ初期胚であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の胚の培養方法。

【公開番号】特開2010−187629(P2010−187629A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37625(P2009−37625)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月25日 日本繁殖生物学会発行の「The Journal of Reproduction and Development,Vol.54,Supplement,August 2008」に発表
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【Fターム(参考)】