説明

人工呼吸器

【課題】小型で、かつ適切な蘇生処置を容易に行うことができる人工呼吸器を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る人工呼吸器は、マスク2と、呼吸制御ユニット22と、本体10とを具備する。マスク2は、患者Pに装着されることが可能である。呼吸制御ユニット22は、気体をマスク2に送出する第1の状態と、マスク2から排出される患者Pの呼気を解放する第2の状態とを有し、マスク2に接続される。本体10は、患者Pの後頭部を支持することで頭部後屈姿勢を保持することが可能な第1の本体部R1と、第1の本体部R1に隣接し、呼吸制御ユニット22が配置される第2の本体部R2とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蘇生処置で人工呼吸を使用者(患者)に施す際の気体(吸気ガス)を供給する人口呼吸器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動体外式除細動器(AED)は、医師、救急救命士、看護士等の医療従事者でない一般市民も使用できるようになり、空港、駅、ビルなどの人の集まる場所に広く配置され、救命率上昇に役立っている。蘇生処置では、心臓停止と呼吸停止に対応しなくてはならない。心臓停止に対しては、AEDは有効であるが、呼吸停止に対しては、人工呼吸(マウスツーマウス法等)に頼らなければならないのが現状である。そこで、移動容易な小型の救急対応型の人工呼吸器がAEDとともに広く普及すれば、救命率をさらに高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2011−24383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、蘇生処置時に人工呼吸器を使用する場合、患者の後頭部を後屈させ、あご先を挙上させることによって気道を確保することが必要である。しかしながら、緊急時に、特に医療従事者以外の一般市民が蘇生処置を行う際には、気道確保を適切に行えない可能性が高く、人工呼吸器等を用いたとしても適切な蘇生処置を行うのが困難な可能性があった。
【0005】
さらに、マスクから患者に供給される吸気用気体を所望の圧力に保持するために、人工呼吸器本体と患者に装着されたマスクとの距離を適切に保持することが必要である。しかしながら、医療現場以外における救急対応時において、人工呼吸器本体と患者との距離を常に適切に保持するのは困難であった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、小型で、かつ適切な蘇生処置を容易に行うことができる人工呼吸器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る人工呼吸器は、マスクと、呼吸制御ユニットと、本体とを具備する。
上記マスクは、患者に装着されることが可能である。
上記呼吸制御ユニットは、気体を上記マスクに送出する第1の状態と、上記マスクから排出される上記患者の呼気を解放する第2の状態とを有し、上記マスクに接続される。
上記本体は、上記患者の頭部後屈姿勢を保持することが可能な第1の本体部と、上記第1の本体部に隣接し、上記呼吸制御ユニットが配置される第2の本体部とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る人工呼吸器の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る人工呼吸器を仰臥した患者に使用した際の構成を示す平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る人工呼吸器の支持台の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る人工呼吸器の全体を示す概略図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る人工呼吸器の本体の構成を示す概略平面図であり、(A)は使用時の態様を示し、(B)は非使用時の態様を示している。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る人工呼吸器の本体の構成を示す概略断面図であり、(A)は図5(A)の[B]−[B]方向の断面図であり、(B)は図5(B)の[C]−[C]方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る人工呼吸器は、マスクと、呼吸制御ユニットと、本体とを具備する。
上記マスクは、患者に装着されることが可能である。
上記呼吸制御ユニットは、気体を上記マスクに送出する第1の状態と、上記マスクから排出される上記患者の呼気を解放する第2の状態とを有し、上記マスクに接続される。
上記本体は、上記患者の頭部後屈姿勢を保持することが可能な第1の本体部と、上記第1の本体部に隣接し、上記呼吸制御ユニットが配置される第2の本体部とを含む。
【0010】
上記人工呼吸器は、患者の頭部後屈姿勢を保持することが可能な第1の本体部を有することによって、患者の気道確保を容易に行うことができる。また、第1の本体部と呼吸制御ユニットとが一体化されているため、蘇生処置時に、呼吸制御ユニットから患者に装着されたマスクまでの距離を短く、かつ処置の状況によらずほぼ一定に保持することができる。このことから、呼吸制御ユニットからマスクへ供給される吸気ガスを所望の圧力に保持することができ、患者に対して適切な吸気ガスを供給することが可能となる。
【0011】
第1の本体部の形状は、患者の頭部後屈姿勢を保持できる形状であれば特に限定されない。例えば、上記第1の本体部は、第1の高さで上記患者の頚部を支持する第1の支持部と、上記第1の高さより低い第2の高さで上記患者の後頭部を支持する第2の支持部とを有する。
このように第1の本体部を形成することによって、患者の後頭部を頚部よりも低い位置で支持できることから、患者に頭部後屈姿勢を保持させ、気道を確保することが容易になる。
【0012】
さらに、上記第2の支持部は、上記第2の高さの底部を有する凹面で形成されてもよい。
このことによって、患者の後頭部をより安定して支持することができる。
【0013】
一実施形態として、上記人工呼吸器は、患者に供給される気体を貯留することが可能なタンク部をさらに具備し、上記呼吸制御ユニットは、加圧ポンプと、弁機構と、第1の通路と、第2の通路とを有する。上記加圧ポンプは、上記内部空間に気体を供給する。上記弁機構は、上記内部空間と上記マスクとの間に配置され、上記第1の状態に対応する第1の位置と、上記第2の状態に対応し上記第1の位置から切り替えられることが可能な第2の位置とを有する。上記第1の通路は、上記加圧ポンプと上記内部空間とを接続する。上記第2の通路は、上記内部空間と上記弁機構とを接続する。
【0014】
上記本体は、内部空間を有し、上記タンク部として構成されてもよい。
このことによって、患者に供給される気体を貯留するタンク部のスペースを省略することができるため、装置を小型化することができる。
【0015】
<第1の実施形態>
[人工呼吸器の構成]
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る人工呼吸器100を示す斜視図であり、図2は、人工呼吸器100を仰臥した状態の患者Pに使用した際の構成を示す平面図である。図3は、図1における[A]−[A]線方向の概略断面図である。
【0016】
人工呼吸器100は、マスク2と、本体10と、呼吸制御ユニット22とを有する。呼吸制御ユニット22は、図1の破線で示す筐体23を有している。また、図2では、説明のため筐体23の上部を取り除いた状態を示している。
【0017】
(本体)
本体10は、吸気用ガスを貯留することが可能な内部空間Sを有し、全体的に略長方形状の板状に形成されており、一方の側部には、搬送時にユーザによって把持されるハンドル28が設けられている。本体10の大きさは特に限定されず、例えば横36cm、縦56cmである。
【0018】
本体10を構成する材料は特に制限されず、例えば繊維強化プラスチック(FRP)を採用することができる。このような材料で構成することによって、後述するように、患者Pの後頭部を安定的に支持することが可能となる。また、例えば心臓マッサージ等の一連の蘇生処置も安定に行うことができる。
【0019】
本体10は、第1の本体部R1と、第2の本体部R2とを有する。第1の本体部R1は、仰臥する患者Pの頭部を支持する支持台11を構成する。支持台11は、本実施形態において、患者Pの後頭部を支持することで頭部後屈姿勢を保持する、枕として形成される。第2の本体部R2は、呼吸制御ユニット22を構成する種々の機器を支持する基台15を構成する。
【0020】
図3に示すように本体10は、地面又は床面に設置される第1の面(裏面)13と、これに対向する第2の面(表面)14とを有する。第1の面13は、平坦な面で形成されるが、これに限られない。第2の面14は、第1の本体部R1の領域では、患者Pの頭部後屈姿勢を誘導できるような構造面で形成され、第2の本体部R2の領域では、概略平坦な面で形成される。
【0021】
支持台11は、第1の支持部141と、第2の支持部142とを有する。第1の支持部141は、患者Pの頚部(または、頚部および肩部)を支持し、第2の支持部142は、患者Pの後頭部を支持する。本実施形態において、第1の支持部141は、本体10の一方の端部E1から中央部に向かってその厚みが漸次減少する傾斜面で形成されており、第1の面13を基準として端部E1で最大高さH1を有する。第2の支持部142は、上記傾斜面に隣接する凹面で形成されており、当該凹面の底部は、第1の面13を基準として、高さH1より低い高さH2を有する。
【0022】
支持台11は以上のように構成されることにより、第1の支持部141で患者Pの頚部を高さH1で支持することができ、第2の支持部142で患者Pの後頭部を高さH1より低い高さH2で支持することができる。これにより、支持台11が患者Pの頭部を支持したときに、気道確保が容易な頭部後屈姿勢を安定に保持することができるようになるため、人工呼吸器100による処置をより適切かつ効果的に行うことが可能となる。
【0023】
なお、支持台11の形状は上述の例に限られず、例えば、支持台11の形成領域が全て上述した傾斜面で形成されてもよい。また、高さH1,H2の大きさは特に限定されず、適宜の大きさにそれぞれ設定可能である。また、人工呼吸器100の不使用時には、第1の本体部R1の一部の領域に、図1のようにマスクケース27が配置される。人工呼吸器100の使用時には、図2のようにマスクケース27が取り外されることで、第2の支持部142が露出し、患者Pの後頭部を支持することが可能となる。
【0024】
本体10の内部空間Sは、図示するように第1の本体部R1および第2の本体部R2の各領域にまたがって形成されてもよいし、第1の本体部R1または第2の本体部R2にのみ形成されてもよい。上述のように、内部空間Sは、患者Pへ送出される吸気用気体を貯留するためのもので、内部空間Sを有する本体10は、当該気体を所定圧で蓄圧するタンク部4としての機能をも有する。
【0025】
(呼吸制御ユニット)
図4は、人工呼吸器100の全体を示す概略図である。呼吸制御ユニット22は、加圧ポンプ1と、吸気用電磁弁5、呼気用電磁弁8と、第1の管路(第1の通路)31と、第2の管路(第2の通路)32と、制御部17とを有する。また、吸気用電磁弁5と呼気用電磁弁8とは、弁機構Vを構成する。呼吸制御ユニット22は、筐体23を有し、第2の本体部R2の表面14に配置されている。以下、図1および図4を参照し、呼吸制御ユニット22の構成について説明する。
【0026】
加圧ポンプ1は、吸入口と、第1の管路31を介してタンク部4に接続される吐出口とを有する。加圧ポンプ1は、吸入口から空気(外気)を吸入、加圧し、本体10の内部空間Sへ供給する。加圧ポンプ1としては、例えば、ダイアフラム型のポンプ(例えば、アルバック機工株式会社製(商品名「DFC-4-2」))を使用することができる。このような加圧ポンプ1は、例えば回転数3100min-1(rpm)で、圧力40kPaにおいて5.75NL/minの吐出流量を有している。第1の管路31は、第2の本体部R2の表面壁部を貫通して加圧ポンプ1の吐出口と内部空間Sとの間を連絡する管部材で構成される。
【0027】
加圧ポンプ1は、DCブラシレスモータ1Mで駆動される。モータ1Mは、ドライバ16を介して蓄電池20から駆動電力が供給され、制御部17からの指令に基づいて出力波形を変化させることで加圧ポンプ1を任意の回転速度で運転させる。
【0028】
タンク部4内の吸気ガスは、直ちに供給できるように加圧された状態で貯留されている。一般に、ダイアフラムポンプは吸気弁及び排気弁を有しているので、タンク部を加圧したまま停止させると、吐出弁が圧力により押し付けられることで固着し、起動時に吸気ガスを発生させることができなくなるおそれがある。そこで本実施形態では、第1の管路31内に、タンク部4から加圧ポンプ1への吸気ガスの逆流を防止する逆止弁29が取り付けられている。また、加圧ポンプ1と逆止弁29との間には大気開放用電磁弁9が取り付けられており、ポンプ停止時に圧力を逃がし、吐出弁に吸気ガスの圧力が加わらないように構成されている。大気開放用電磁弁9は、制御部17によって駆動される。
【0029】
タンク部4の容量は特に限定されず、例えば2Lである。また、本体10は、内部空間Sと接続されたリリーフ弁30を有する。リリーフ弁30は、タンク部4の内圧が例えば40kPaG以上となると開放され、これによって加圧ポンプ1の過負荷が防止される。
【0030】
タンク部4は、第2の管路32を介して吸気用電磁弁5と接続されている。第2の管路32には減圧弁6と流量計7が取り付けられ、減圧弁6の下流側が、例えば104.26kPa(3kPaG)に保たれる。第2の管路32は、例えば、第2の本体部R2の表面壁部を貫通して内部空間Sと吸気用電磁弁5との間を連絡する管部材で構成される。
【0031】
吸気用電磁弁5は、タンク部4内の吸気ガスをマスク2へ送出する供給弁として機能する。吸気用電磁弁5は連通位置(第1の位置)及び遮断位置(第2の位置)を有し、吸気時は連通位置に、呼気時は遮断位置にそれぞれ切り替えられる。図4は、吸気用電磁弁5が遮断位置にあるときの様子を示している。吸気用電磁弁5の切り替えは制御部17によって制御される。吸気用電磁弁5を通過した吸気ガスは、第3の管路25を介してマスク2へ送出される。
【0032】
第3の管路25は、吸気用電磁弁5とマスク2との間を連結する。第3の管路25は、少なくとも一部は可撓性のある配管部材で構成されてもよく、例えば蛇腹形状の樹脂材料からなる配管部材を採用することができる。第3の管路25は、非使用時は図1のように筐体23とマスクケース27とに一部が収容され、使用時には図2のようにマスクケース27が取り外され、マスク2を患者Pに装着できる長さ(例えば50cm程度)に引き出される。
【0033】
第3の管路25には、フィルタ12と、リリーフ弁43と、圧力計14が取り付けられている。リリーフ弁43は、患者Pの気道が閉塞された場合などのように、第3の管路25が所定の異常圧力値に達したときに開放される。
【0034】
また、第3の管路25には、呼気用電磁弁8に連絡する第4の配管26が接続されている。呼気用電磁弁8は連通位置(第2の位置)及び遮断位置(第1の位置)を有し、吸気時は遮断位置に、呼気時は連通位置にそれぞれ切り替えられる。図4は、呼気用電磁弁8が連通位置にあるときの様子を示している。呼気用電磁弁8の切り替えは制御部17によって制御される。
【0035】
本実施形態においては、呼吸制御ユニット22が本体10上に設置されているため、使用時における第3の管路25を短くできる。また、同一の本体10上に、支持台11と呼吸制御ユニット22とがそれぞれ設けられているため、処置時において吸気用電磁弁5とマスク2との間の距離をほぼ一定に保つことが可能となる。これにより、第3の管路25の長さの変化を原因とするマスク2への吸気用気体の供給圧、供給量等の変動を抑制することができる。
【0036】
マスク2は、患者Pの口鼻を覆うことができる形状、大きさを有する。マスク2は、患者Pへの装着時に、その装着状態を保持可能な保持具を備えていても良い。マスク2は、非使用時は図1のように、第3の管路25の一部とともに、本体10の第2の面14上に配置されたマスクケース27内に収納されている。使用時には図2のように、第2の面14上からマスクケース27が取り外され、マスク2が患者Pに装着される。
【0037】
マスクケース27は、例えば布で形成されており、ファスナー等によって内部からマスク2と第3の管路25とを取り出すことができる。なお、マスクケース27の内部には、例えば大人用、小児用などの複数のマスクを収容し、患者Pによって異なるマスクを選択できるようにすることも可能である。
【0038】
制御部17は、人工呼吸器100の制御系を構成する。制御部17は、コンピュータで構成され、加圧ポンプ1(ドライバ16)、吸気用電磁弁5、呼気用電磁弁8及び大気開放用電磁弁9の駆動を制御する。制御部17は、吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8の切り替えを同期して制御することで、患者Pへ吸気ガスを送出する状態(第1の状態)と、患者Pから呼気を排出する状態(第2の状態)とを交互に切り替える。
【0039】
また、制御部17は、流量計7、圧力計14の出力に基づいて、ガス供給系の動作を監視する。例えば、制御部17は、吸気時に、圧力計14によって所定圧力が検出されない場合、マスク2の装着不良と判定し、表示部18又はスピーカ19を介して所定のアナウンスを出力することで、使用者に注意を促す。一方、制御部17は、定められた呼吸回数を経過した後、吸気用電磁弁5と、呼気用電磁弁8の両方を閉じる。そのときの圧力計14の出力をモニタすることによって患者Pの自立呼吸の回復を検出するように構成されていてもよい。
【0040】
表示部18は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等によって構成され、制御部17によって表示制御される。表示部18は、制御部17の出力に基づいて、患者Pの状況、マスクの装着状況を表示する。さらに、制御部17は、表示部18に当該人工呼吸器100の操作手順(マスクの装着手順、蘇生手順など)を表示させる。このとき、スピーカ19を用いた音声での案内が同時に行われてもよい。これにより、医療従事者以外の一般市民による救急対応処置が可能となる。
【0041】
人工呼吸器100は、屋内又は屋外の所定場所に設置されたベース24に対して着脱自在に取り付けられており、使用時にベース24から取り外されて使用場所まで移動される。この際、本体10に設けられたハンドル28を用いることで、人工呼吸器100の搬送作業が容易となる。
【0042】
ベース24は、商用電源等の電力供給源に接続された充電器33を備えている。筐体23は、電源供給系を構成する蓄電池20を内蔵しており、ベース24に設置されることでコンダクタ21を介して蓄電池20を充電可能である。蓄電池20としては、例えば、容量が3AHのニッケル水素電池(24V)が使用可能である。
【0043】
次に、以上のように構成される本実施形態の人工呼吸器100の使用方法および動作について説明する。
【0044】
[人工呼吸器の使用方法および動作]
【0045】
不使用時、マスクケース27は本体10の第2の面14上に配置され、マスク2および第3の管路25を収容している。吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8は図4に示すようにそれぞれ遮断位置及び連通位置にある。タンク部4には、あらかじめ、所定の圧力(例えば141.3kPa)の吸気ガスが貯留されている。また、減圧弁6と吸気用電磁弁5との間のガス圧力は、例えば104.26kPaに維持されている。
【0046】
使用時、本体10の第1の面13を使用場所の任意の平面に向けて設置する。そしてマスクケース27を第2の面14上から取り外し、マスクケース27からマスク2および第3の管路25を取り出す。患者Pの頚部を支持台11の第1の支持部141で支持するとともに、後頭部をその第2の支持部142で支持する。これにより、患者Pの頭部後屈姿勢が保持され、気道が確保される。その後、マスク2を患者Pに装着する。
【0047】
制御部17は、吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8の駆動を制御して、患者Pへの吸気ガスの供給と呼気の排出を交互に切り替える。本実施形態では、所定の呼吸パターンに従って吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8を駆動する。例えば、呼吸間隔5秒に対して、吸気時間は1.66秒、呼気時間は3.33秒である。制御部17は、使用開始と同時に加圧ポンプ1を一定回転数(例えば3100rpm)で連続的に運転する。
【0048】
加圧ポンプ1は、最低吸気圧力(例えば104.26kPa)を保持しつつ、呼気時間の終了までの間に、吸気時に消費されたガス量を補充する。したがって、タンク部4には常に吸気に必要なガス量が確保される。
【0049】
以上のように、本体10は、患者Pの頭部後屈姿勢を保持することが可能な支持台11(第1の本体部R1)を備えているため、患者Pの気道確保が容易になり、医療従事者以外の一般市民による救急対応処置であっても、適切かつ効果的な処置を行うことができる。
【0050】
また、呼吸制御ユニット22が本体10に配置されているため、蘇生処置時に、呼吸制御ユニット22から患者Pに装着されたマスク2までの距離をほぼ一定に保持することができるとともに、第3の管路25を短く構成することができる。したがって、呼吸制御ユニット22からマスク2へ供給される吸気ガスを所望の圧力に保持することができる。
【0051】
また、タンク部4と本体10とが一体的に構成されているため、人工呼吸器100を小型化することができる。このことによって、可搬性に優れた人工呼吸器100を提供することができ、設置場所の自由度を高めることができる。
【0052】
<第2の実施形態>
図5および図6は、本発明の一実施形態に係る人工呼吸器300の本体60の構成を示す図であり、図5は概略平面図、図6(A)は図5(A)の[B]−[B]方向の概略断面図、図6(B)は図5(B)の[C]−[C]方向の概略断面図を示している。また、図5(A)および図6(A)はそれぞれ本体60における人工呼吸器300の使用時の態様を示し、図5(B)および図6(B)はそれぞれ非使用時の態様を示している。また、図5および図6において、人工呼吸器の本体60以外の構造は省略している。本実施形態においては、第1の実施形態と共通する部分は説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0053】
本体60は、第1の本体部R10と、第2の本体部R20と、第3の本体部R30と、第4の本体部R40と、第5の本体部R50と、第6の本体部R60とを有する。それぞれの本体部は、いずれも全体的に略長方形状の板状に形成されている。第1の本体部R10と第2の本体部R20とは、第3の本体部R30を介して接続されており、第1の本体部R10の一辺と第3の本体部R30の一辺、第2の本体部R20の一辺と第3の本体部R30の一辺とは、それぞれヒンジ等によって回動可能に接続されている。さらに、第2の本体部R20の、第3の本体部R30と接続された一辺を除く3辺は、それぞれ第4の本体部R40、第5の本体部R50、第6の本体部R60の一辺と、ヒンジ等によって回動可能に接続されている。
【0054】
第1の本体部R10は、第1の実施形態と同様に構成される。すなわち、使用時において、仰臥する患者の頭部を支持する支持台を構成し、患者の後頭部を支持することで頭部後屈姿勢を保持する枕として形成される。第2の本体部R20は、呼吸制御ユニットを構成する種々の機器を支持する基台を構成する。
【0055】
なお、吸気用ガスを貯留することが可能なタンク部を形成する部位は特に制限されない。例えば、第1の本体部R10の内部空間や、第2の本体部R20の内部空間に形成されることもできる。これによって、人工呼吸器100を小型化することができる。また、第2の本体部R20上に独立した構造として配置することも可能である。
【0056】
非使用時には、図5(B)および図6(B)のように、本体60は略直方体状である筐体73として構成されている。例えば、第1の本体部R10は、筐体73の上部の蓋として構成され、患者の頭部を支持するための構造面を内側に向けて収容される。第2の本体部R20は、筐体73の基部を構成する。また、第3の本体部R30と、第4の本体部R40、第5の本体部R50および第6の本体部R60は、それぞれ筐体73の側壁として構成される。
【0057】
非使用時には、第1の本体部R10の、第3の本体部R30と接続された一辺以外の3辺が、第4の本体部R30、第5の本体部R50および第6の本体部R60の一辺と、それぞれ係合可能に構成されている。また、側壁を構成する各本体部間においても同様に係合可能に構成することができる。係合の方法については、特に限られず、例えば留め金等を採用することができる。これによって、筐体73を移動させる際にもその構造を保持することができ、人工呼吸器300の可搬性を高めることができる。
【0058】
以上のような構成の本体60は、使用時には、板状に展開されることが可能である。ここで、本体60の展開方法について説明する。まず、非使用時の筐体73の第2の本体部R20を、使用場所の地面又は床面に設置する。そして、第1の本体部R10と第4の本体部R40、第5の本体部R50および第6の本体部R60との留め金等をそれぞれ外し、第1の本体部を第3の本体部R30に対して約90°回動させる。これによって筐体73の上部が開放される。そして、第3の本体部R30を第2の本体部R20に対して約90°回動させる。これによって、第1の本体部R10および第3の本体部R30が展開され、使用場所に設置された状態となる。さらに、第4の本体部R40、第5の本体部R50および第6の本体部R60をそれぞれ第2の本体部R20に対して約90°回動させる。これによって、本体60は、図5(A)、図6(A)のように全体として板状に展開されることができる。
【0059】
以上のような本体60を具備する人工呼吸器300においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、支持台としての第1の本体部R10が筐体73の蓋として構成されているため、人工呼吸器を小型化することができ、可搬性に優れた人工呼吸器を提供することができる。
【0060】
なお、使用時においても第4の本体部R40、第5の本体部R50および第6の本体部R60が展開されず、呼吸制御ユニット周囲の3面を覆う筐体の側壁となるように構成されることも可能である。また、第4の本体部R40、第5の本体部R50および第6の本体部R60は、使用時に第2の本体部R20から取り外すことができる構成とすることもできるし、必要に応じて省略することもできる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0062】
例えば、以上の実施形態では、本体10に支持される患者Pの頭頂部側に呼吸制御ユニット22が配置された例を説明したが、これに限られず、当該患者Pの頭部の側方側に呼吸制御ユニットが配置されてもよい。
【0063】
以上の実施形態では、第2の支持部が凹面で形成されているとしたが、これに限られず、平面で形成されてもよい。また、第1の本体部R1は、患者Pの後頭部および頚部だけでなく、肩部あるいは背部まで支持できる大きさに形成されてもよい。
【0064】
また、本体10の裏面側である第1の面13は平面である場合に限られず、本体10を使用場所に安定して設置できる形状であればよく、例えば凹面であってもよい。また、当該第1の面に複数の突起(脚部)を配置してもよい。
【0065】
マスクケース27は必要に応じて省略可能であり、この場合、例えば筐体23の中にマスクを収容できる構成としてもよい。
【0066】
呼吸制御ユニットにおける呼吸パターン、単位時間あたりの呼吸回数、吸気ガス量、最低吸気圧力等は適宜変更することが可能であり、これらの条件に応じて加圧ポンプとして適宜のポンプを選定することができる。
【0067】
以上の実施形態では、吸気と呼気を切り替える弁機構として、一対の2ポート2位置電磁弁5,8を用いたが、これに限られない。例えば、タンク部からマスク側へ吸気ガスを送出する第1の位置と、タンク部とマスクとの間を遮断する第2の位置と、マスクを大気に開放する第3の位置とを有する、3ポート3位置電磁弁を上記弁機構として用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…加圧ポンプ
2…マスク
4…タンク部
5…吸気用電磁弁
8…呼気用電磁弁
10,60・・・本体
22・・・呼吸制御ユニット
23,73…筐体
31・・・第1の管路
32・・・第2の管路
100,300…人工呼吸器
R1,R10・・・第1の本体部
R2,R20・・・第2の本体部
S・・・内部空間
V・・・弁機構
D・・・管部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に装着されることが可能なマスクと、
気体を前記マスクに送出する第1の状態と、前記マスクから排出される前記患者の呼気を解放する第2の状態とを有し、前記マスクに接続される呼吸制御ユニットと
前記患者の頭部後屈姿勢を保持することが可能な第1の本体部と、前記第1の本体部に隣接し、前記呼吸制御ユニットが配置される第2の本体部とを含む本体と
を具備する人工呼吸器。
【請求項2】
請求項1に記載の人工呼吸器であって、
前記第1の本体部は、
第1の高さで前記患者の頚部を支持する第1の支持部と、
前記第1の高さより低い第2の高さで前記患者の後頭部を支持する第2の支持部とを有する
人工呼吸器。
【請求項3】
請求項2に記載の人工呼吸器であって、
前記第2の支持部は、前記第2の高さの底部を有する凹面で形成される
人工呼吸器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の人工呼吸器であって、
前記患者に供給される気体を貯留することが可能なタンク部をさらに具備し、
前記呼吸制御ユニットは、
前記タンク部に気体を供給する加圧ポンプと、
前記タンク部と前記マスクとの間に配置され、前記第1の状態に対応する第1の位置と、前記第2の状態に対応し前記第1の位置から切り替えられることが可能な第2の位置とを有する弁機構と、
前記加圧ポンプと前記タンク部とを接続する第1の通路と、
前記タンク部と前記弁機構とを接続する第2の通路とをさらに具備する
人工呼吸器。
【請求項5】
請求項4に記載の人工呼吸器であって、
前記本体は、内部空間を有し、前記タンク部として構成される
人工呼吸器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−17767(P2013−17767A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155600(P2011−155600)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)