説明

人工呼吸用補助具

【課題】部品構成を簡素化し、その組み立てを容易にする。
【解決手段】マスク部材10は、可撓性を有する素材で形成されて、宛がい部12と、その宛がい部12に突出して設けた突出部13と、その突出部13に開口して設けられた通気孔11と、その通気孔11内に突出するように設けた弁体片14とを有する。連結部材30は、内部に導入通気孔31を設けた筒状部材32と、その導入通気孔31の途中に設けられた弁座部34とを有する。連結部材30とマスク部材10とが接続され、導入通気孔31と通気孔11が連通し、弁体片14は弁座部34に接離可能となって逆止弁として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人工呼吸法として行われている口対口の呼気吹き込みによる人工呼吸(マウスツーマウス人工呼吸)を行うに際し、救護者の口が傷病者(患者)の口に直接触れないようにする人工呼吸用補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
呼吸停止、心臓停止、又はこれに近い状態に陥った傷病者を救助するために、心肺蘇生法が用いられる。
【0003】
心肺蘇生法による救助は、傷病者の鼻孔を手で塞いで、救護者の口を傷病者の口に当て、傷病者の気道内に呼気を直接吹き込むマウスツーマウス人工呼吸を施すことで行い、さらに、心臓停止の場合は心臓マッサージを併用する。
【0004】
このマウスツーマウス人工呼吸は、救護者の口が傷病者の口に直接触れるため、仮に、傷病者が伝染性の疾患を伴っている場合に、救護者がその疾患に感染してしまう恐れがある。
【0005】
このため、救護者の口と傷病者の口とが直接触れないように、その傷病者の口の周辺を覆う人工呼吸用補助具が、各種提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1に記載された人工呼吸用補助具は、傷病者の口の周囲に被せられる柔軟なシートからなるマスク部材の中央に、その傷病者の口の中に入り込むマウスピース部が設けられている。そのマウスピース部は、シート状の前記マスク部材を挟んで、救護者側から傷病者側に向かって貫通する空気通路を備える。この空気通路を介して、呼気の吹き込みが行われる。
【0007】
また、そのマウスピース部の空気通路の途中には、逆止弁が設けられている。その逆止弁によって、救護者側から傷病者側への呼気の流入を許容しつつ、傷病者側から救護者側への空気や異物等の逆流を阻止するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、特許文献2,3には、人工呼吸用補助具の前記マウスピース部を複数の部材に分割し、その分割された部材同士を嵌め合う際に、その部材間に、シート状の前記マスク部材の縁や、逆止弁の弁体を構成するためのシートを嵌め込んで固定する技術が開示されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0009】
また、図9に示す人工呼吸用補助具のように、マスク部材と弁体とを、連続する一枚のシートで構成したものもある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平7−31056号公報
【特許文献2】特開2006−346237号公報
【特許文献3】特開2003−310774号公報
【特許文献4】実開平7−17249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の人工呼吸用補助具では、複数の部材に分割されたマウスピース部に対し、傷病者の口の周辺に宛がわれるシート状のマスク部材や逆止弁用の弁体を、その分割された部材間に挟み込んで固定する必要がある。
【0012】
この固定に際し、マウスピース部を構成するための複数の部材と、シート状のマスク部材や弁体との組み立てが容易ではない。マウスピース部を構成するための部材は、マスク部材や弁体の抜け止めとしてそれを押さえつけるピンや段部を備えており、その構成が複雑であるとともに、そのピンや段部との正確な位置合わせを行わなければならないからである。
【0013】
また、これらのマウスピース部、マスク部材、逆止弁用の弁体等は、外部からの引張り等により互いに外れたり、あるいは破れたりすることを防止する必要があり、それに対応するためには部品が大型化し、また、シート状のマスク部材や弁体を押さえつける前記ピンや段部を備える必要があるなど、その構造が複雑になりがちである。
【0014】
そこで、この発明は、人工呼吸用補助具の部品構成を簡素化し、その組み立てを容易にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、この発明は、傷病者に宛がわれるマスク部材と、そのマスク部材に取付けられる連結部材とを備え、前記マスク部材は可撓性を有する素材で形成されて、傷病者の口周辺に宛がわれる宛がい部と、傷病者の口内に挿入されるよう前記宛がい部の表面側に突出して設けた突出部と、その突出部に開口して設けられ前記宛がい部を表裏に貫通する通気孔と、その通気孔内に突出するように設けた弁体片とを有し、前記連結部材は、その内部に筒軸方向に貫通する導入通気孔を設けた筒状部材と、その導入通気孔の端部又は途中に設けられた弁座部とを有し、前記連結部材の筒軸方向一端が、前記マスク部材における前記通気孔の裏面側開口に嵌めて固定されることで、前記導入通気孔と前記通気孔とは連通しており、前記弁体片が前記弁座部の傷病者側に向く面に接離可能となって、その接離により、救護者側から傷病者側への呼気の流れのみを許容する逆止弁として機能することを特徴とする人工呼吸用補助具とした。
【0016】
連結部材は筒軸方向に貫通する導入通気孔を有し、救護者は、その連結部材の筒軸方向他端を口に入れて、一端側に向かって呼気を吹き込むことができる。そして、マスク部材は通気孔を有し、導入通気孔からの呼気は、その通気孔を通じて傷病者の口から肺へ送り込まれる。
この発明では、傷病者に宛がわれるマスク部材を可撓性を有する部材で構成したので、そのマスク部材と連結部材との接続が簡単である。すなわち、マスク部材を弾性変形させながら、連結部材の一端に嵌め込み固定できるからである。また、逆止弁を構成するための弁体片はマスク部材に一体であり、その弁体は、連結部材の嵌め込みによって自然と弁座部に対する位置が決まるから、この点においても組み立てが容易である。
さらに、傷病者に宛がわれるマスク部材を可撓性を有する部材で構成したことから、宛がい部は、傷病者の口周辺の皮膚にぴったりとフィットし、その密着によって呼気の漏れを生じさせにくくなるという効果も期待できる。
【0017】
以上のように、本構成によれば、人工呼吸用補助具の部品構成を簡素化し、その組み立てを容易にできる。なお、可撓性を有する部材としては、ゴムや軟質の樹脂などが挙げられる。
【0018】
この構成において、前記連結部材は、前記筒状部材の外面に凸部を有し、前記マスク部材は、前記通気孔の内面に凹部を有し、前記凸部が前記凹部に入り込むことで、前記連結部材と前記マスク部材とが抜け止めされている構成を採用することができる。
【0019】
マスク部材を可撓性を有する部材で構成したので、マスク部材を連結部材の一端に嵌め込み固定する際に、マスク部材は弾性変形が可能であるから、このような凸部と凹部による係合が容易に可能である。
【0020】
なお、この係合に係る凸部と凹部は、相互に係合可能なように、マスク部材と連結部材とに少なくとも1組設けられていればよく、その箇所数は限定されない。また、凸部を連結部材の筒状部材の外面全周に連続的に設け、凹部をマスク部材の通気孔の内面全周に連続的に設けてもよい。
【0021】
また、凸部と凹部を逆にし、前記連結部材は、前記筒状部材の外面に凹部を有し、前記マスク部材は、前記通気孔の内面に凸部を有し、前記凸部が前記凹部に入り込むことで、前記連結部材と前記マスク部材とが抜け止めされている構成を採用することもできる。
【発明の効果】
【0022】
この発明は、人工呼吸用補助具の部品構成を簡素化し、その組み立てを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施形態を示し、(a)は正面図、(b)は斜視図、(c)は(b)を長手方向に沿って切断した図
【図2】同実施形態を示し、(a)は分解斜視図、(b)は(a)を長手方向に沿って切断した図
【図3】同実施形態を示し、(a)はマスク部材と連結部材とを接続する前の状態を示す断面図、(b)はマスク部材と連結部材とを接続した状態を示す断面図
【図4】マスク部材の詳細を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(a)のC−C断面図、(d)は底面図、(e)は斜視図、(f)は底面側から見た斜視図
【図5】連結部材の詳細を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B断面図、(c)は(a)のC−C断面図、(d)は斜視図
【図6】同実施形態の作用を示し、(a)は救護者側から傷病者側に呼気を吹き込んだ際の状態を示す断面図、(b)は傷病者側から救護者側への空気等の逆流を阻止している状態を示す断面図
【図7】同実施形態の変形例を示し、(a)はマスク部材と連結部材とを接続する前の状態を示す断面図、(b)はマスク部材と連結部材とを接続した後の状態を示す断面図、(c)は(b)の底面図、(d)は連結部材と弁体との位置関係を示す一部切断した斜視図
【図8】人工呼吸用補助具の使用状態を示す説明図
【図9】従来例の断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の一実施形態を、図1乃至図6に基づいて説明する。この実施形態は、救護者が傷病者(患者)に対して口対口の呼気吹き込みによる人工呼吸(マウスツーマウス人工呼吸)を行う際に使用する人工呼吸用補助具40である。
【0025】
人工呼吸用補助具40の構成は、図1及び図2に示すように、傷病者に宛がわれるマスク部材10と、そのマスク部材10に取り付けられる連結部材30とで構成される。
【0026】
マスク部材10は、図4に示すように、傷病者の口周辺に宛がわれるシート状の宛がい部12と、傷病者の口内に挿入されるよう宛がい部12の表面側に突出して設けた突出部13とを備える。突出部13は、平面視楕円形状を成す宛がい部12の中央から、表面側(使用時における傷病者側)に向かって突出している。突出部13は、その外形が平面視長方形である角筒状である。この突出部13の角筒の長手方向が、傷病者の口の幅方向に向くように使用される。
【0027】
その角筒状の突出部13の内側は、救護者が吹き込んだ呼気が通過する通気孔11となっている。通気孔11は、表面側においては突出部13の先端に開口し、裏面側においては宛がい部12の裏面に開口する。すなわち、通気孔11は、宛がい部12を表裏に貫通する。
【0028】
この実施形態では、マスク部材10は、可撓性を有する素材であるゴムで形成されている。なお、これを、可撓性を有する軟質の樹脂で形成してもよい。
【0029】
また、その通気孔11内には、対の弁体片14,14が対向して設けられている。各弁体片14は平面視長方形状を成し、その長辺の方向に沿って、すなわち、根元部14aから先端部14bに向かって、通気孔11の内面から突出するように設けられている。その弁体片14は、宛がい部12や突出部13と一体に成形されており、その素材がゴムや軟質の樹脂であるから、弁体片14は呼気の流れによって揺動する。
【0030】
さらに、その通気孔11の内面には、図2(a)(b)に示すように、全周に亘って連続する環状の凹部(溝部)16が設けられている。なお、宛がい部12の表面に設けられた多数の溝は、この面が傷病者の皮膚に触れた際のすべり止めである。
【0031】
連結部材30は、図5に示すように、その内部に筒軸方向に貫通する導入通気孔31を設けた筒状部材32と、その導入通気孔31の一端側(使用時における傷病者側)の端部に設けられた弁座部34とを有する。
【0032】
筒状部材32は、その外形が平面視長方形状を成す角筒状の部材であり、その一端は、マスク部材10における通気孔11内に、裏面側開口からぴったりと入り込む形状となっている。また、その他端は、マスク部材10の裏面側開口から突出している。
【0033】
このため、図3(a)から図3(b)に示すように、連結部材30の筒状部材32の筒軸方向一端が、マスク部材10における通気孔11の裏面側開口に嵌めて固定されることで、導入通気孔31と通気孔11とは連通している。
【0034】
このように人工呼吸用補助具40が組み立てられた状態で、図1(c)や図3(b)に示すように、マスク部材10の弁体片14が、連結部材30の弁座部34の一端側(傷病者側)に向く面に接離可能となって、救護者側から傷病者側への呼気の流れのみを許容する逆止弁として機能する。
【0035】
この固定の際に、連結部材30は、筒状部材32の外面に全周に亘って連続する環状の凸部33を有している。
【0036】
この凸部33が、マスク部材10の凹部16に入り込むことで、連結部材30とマスク部材10とが抜け止めされている。マスク部材10を可撓性を有する部材で構成したので、マスク部材10を連結部材30の一端に嵌め込み固定する際に、マスク部材10は弾性変形が可能であり、このような凸部33と凹部16による係合が容易に可能である。
【0037】
また、逆止弁を構成するための弁体片14がマスク部材10に一体であり、その弁体片14は、連結部材30の嵌め込みによって自然と弁座部34に対する位置が決まるから、この点においても組み立てが容易である。
【0038】
また、図3(b)に示すように、マスク部材10における通気孔11の裏面側開口の縁部15はその全周に亘ってやや突出して形成されており、通気孔11周囲の剛性が高められている。
【0039】
この人工呼吸補助具40の作用を説明すると、救護者は、図8に示すように、連結部材30の他端を口に入れて、その連結部材30の導入通気孔31に呼気を吹き込む。呼気は、導入通気孔31、そして、マスク部材10の通気孔11を通じて、傷病者の口から肺へ送り込まれる。
【0040】
このとき、呼気が、導入通気孔31、通気孔11へ流入することで、弁体片14が、図6(a)で実線で示す位置から鎖線で示す位置へと揺動し、傷病者側への呼気の流れが許容される。
【0041】
また、図6(b)に矢印で示すように、傷病者側から救護者側への空気や液体、固形物、その他異物の流れが生じた際には、弁体片14が、図6(b)で実線で示す位置から鎖線で示す位置へと揺動し、救護者側への流れが阻止される。
【0042】
さらに、連結部材30の変形例として、図7に示すものもある。この例では、弁体片14が接離する弁座の構成を、弁体片14の通気孔11内面側への付け根部分(根元部14a)を除く3方に配置したものである。
【0043】
すなわち、図7(d)に示すように、弁体片14の先端部分(先端部14b)は、弁座部34の傷病者側に向く面に接離可能であり、弁体片14の先端部分と付け根部分とを結ぶ方向の両側の縁(長辺の縁)は、連結部材30の側壁に設けた側方弁座部35に接離可能である。弁体片14と弁座との接触延長が増えるので、逆止弁の機能がより効果的である。
【0044】
また、図7(d)中に実線で示す状態と鎖線で示す状態とに弁体片14が接離(開閉)動作する際には、その動きが、両側のガイド壁部36に案内されるので、開閉動作がよりスムーズになる。
【符号の説明】
【0045】
1,40 人工呼吸用補助具
2 マスク部材
3 マウスピース部
4 弁体
5 給気口
6 排気口
7 弁座
10 マスク部材
11 通気孔
12 宛がい部
13 突出部
14 弁体片
15 縁部
16 凹部
30 連結部材
31 導入通気孔
32 筒状部材
33 凸部
34 弁座部
35 側方弁座部
36 ガイド壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傷病者に宛がわれるマスク部材(10)と、そのマスク部材(10)に取付けられる連結部材(30)とを備え、
前記マスク部材(10)は可撓性を有する素材で形成されて、傷病者の口周辺に宛がわれる宛がい部(12)と、傷病者の口内に挿入されるよう前記宛がい部(12)の表面側に突出して設けた突出部(13)と、その突出部(13)に開口して設けられ前記宛がい部(12)を表裏に貫通する通気孔(11)と、その通気孔(11)内に突出するように設けた弁体片(14)とを有し、前記連結部材(30)は、その内部に筒軸方向に貫通する導入通気孔(31)を設けた筒状部材(32)と、その導入通気孔(31)の端部又は途中に設けられた弁座部(34)とを有し、
前記連結部材(30)の筒軸方向一端が、前記マスク部材(10)における前記通気孔(11)の裏面側開口に嵌めて固定されることで、前記導入通気孔(31)と前記通気孔(11)とは連通しており、前記弁体片(14)が前記弁座部(34)の傷病者側に向く面に接離可能となって、その接離により、救護者側から傷病者側への呼気の流れのみを許容する逆止弁として機能することを特徴とする人工呼吸用補助具。
【請求項2】
前記筒状部材(32)の外面及び前記通気孔(11)の内面の一方に凸部(33)を、他方に凹部(16)を有し、前記凸部(33)が前記凹部(16)に入り込むことで、前記連結部材(30)と前記マスク部材(10)とが抜け止めされていることを特徴とする請求項1に記載の人工呼吸用補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−40063(P2012−40063A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181560(P2010−181560)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(510222419)株式会社ミムゴ (4)