説明

人工声帯、声帯駆動機構、発声装置及びロボット

【課題】 従来よりも一段と人間の発声に近い音声を生成できる人工声帯、声帯駆動機構、発声装置及びロボットを提供することにある。
【解決手段】 呼気流通孔111の内側面111Aから突出する第1及び第2の軟性突起部101,102を柔軟性に優れた人工声帯用柔軟部材で成型し、呼気流通孔111を通過する気体の圧力によって、上面部112と下面部113とに異なる波状運動を行なわせるようにしたことにより、人間の声帯に近い振動パターンによる音響特性を得ることができ、かくして従来よりも一段と人間の発声に近い音声を生成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は人工声帯、声帯駆動機構、発声装置及びロボットに関し、例えば装置内部に配設された呼気通路に気体を流通させることにより音声を生成して調音する発声装置を備えたロボットに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種音声ガイド等には、多数の発振器とそれらを足し合わせる加算器とからなる電子回路によって電子的に合成した電子音声が用いられてきたが、この電子音声は、声の強弱や高低、抑揚等の変化に欠けるため、人間的な発声には程遠いものであった。
【0003】
そこで、人間と同じような諸器官、すなわち肺部、声帯駆動機構、舌体部、口唇部等を配置した発声装置により人工的に音声を生成し調音するロボットの研究が行なわれているが、未だ満足するものは完成していない。例えば、特開2004−333655号公報における発生装置では、声帯駆動機構により音を生成し、この生成された音を口唇部や歯部、舌体部によって調音を行なうことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
実際上、この声帯駆動機構では、人工的な声帯として超低硬度ゴムでなる一対の柔軟性シート部材が用いられており、筐体内に柔軟性シート部材の面部を対向させるようにして配置し、声帯軸に各柔軟性シート部材の両端部をそれぞれ固定して当該声帯軸を適宜回転駆動させることにより柔軟性シート部材の面部を伸縮させ、高い音や低い音を生成し得るようになされている。また、この声帯駆動機構では、柔軟性シート部材の一端側に配置された声帯軸を互いに遠ざかる方向、或いは近づく方向へ移動させることにより柔軟性シート部材の面部を離隔させ、或いは近接させ、これにより無声音や有声音を生成し得るようになされている。
【特許文献1】特開2004−333655号公報 (第8頁、第9図乃至第12図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる構成の声帯駆動機構においては、高い音や低い音、さらには無声音や有声音についても生成できるものの、複数の各種部品から構成されていることから舌体部側の呼気通路との密閉性を図り難く、また音声を生成すると筐体内の空間等により共鳴が生じ易く、人間の発声に近い自然な音声を生成するには未だ至っていなかった。
【0006】
本発明は上記の点を考慮してなされたもので、従来よりも一段と人間の発声に近い音声を生成することができる人工声帯、声帯駆動機構、発声装置及びロボットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1においては、本体部内を貫通する呼気流通孔と、この呼気流通孔内に設けられ、前記呼気流通孔の内側面から突出する柔軟部材からなる第1及び第2の軟性突起部とを備え、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記呼気流通孔を通過する気体の圧力により、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2においては、記第1及び第2の軟性突起部は、内部に中空部を有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項3においては、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記気体が流入される側の前記一面部の厚みが、前記他面部の厚みよりも厚く形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項4においては、本体部内を貫通する呼気流通孔と、この呼気流通孔内に設けられ、前記呼気流通孔の内側面から突出する柔軟部材からなる第1及び第2の軟性突起部と、該第1及び第2の軟性突起部を変形させることにより所定の呼気流通開口形状を形成可能な声帯駆動手段とを備え、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記呼気流通孔を通過する気体の圧力により、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項5おいては、前記声帯駆動手段は、前記第1及び第2の軟性突起部間を接離方向へ移動させることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項6おいては、前記声帯駆動手段は、前記第1及び第2の軟性突起部を伸長させて張力を与えることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項7おいては、気体が流通可能な呼気通路内に、音声を生成する声帯駆動機構と、舌体部を駆動させることにより前記音声を調音する舌駆動機構と、口唇部及び又は歯部を駆動させることにより前記音声を調音する口唇駆動機構とを配設した発声装置において、前記声帯駆動機構は、本体部内を貫通する呼気流通孔と、この呼気流通孔内に設けられ、前記呼気流通孔の内側面から突出する柔軟部材からなる第1及び第2の軟性突起部とを備え、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記呼気流通孔を通過する気体の圧力により、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項8においては、気体が流通可能な呼気通路内に、音声を生成する声帯駆動機構と、舌体部を駆動させることにより前記音声を調音する舌駆動機構と、口唇部及び又は歯部を駆動させることにより前記音声を調音する口唇駆動機構とを配設した発声装置を有するロボットにおいて、前記声帯駆動機構は、本体部内を貫通する呼気流通孔と、この呼気流通孔内に設けられ、前記呼気流通孔の内側面から突出する柔軟部材からなる第1及び第2の軟性突起部とを備え、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記呼気流通孔を通過する気体の圧力により、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1では、呼気流通孔を通過する気体の圧力によって、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせるようにしたことにより、人間の声帯に近い振動パターンによる音響特性を得ることができ、かくして従来よりも一段と人間の発声に近い音声を生成できる。
【0016】
本発明の請求項2では、第1及び第2の軟性突起部自体を軽くできるので、呼気流通孔を通過する気体によって、一面部と他面部とに異なる波状運動を容易に、かつ確実に行なわせることができる。
【0017】
本発明の請求項3では、前記気体が流入される側の一面部の厚みを他面部の厚みよりも厚くすることで、一面部の弾性復元力を他面部よりも大きくさせることができ、これにより呼気流通孔に気体を通過させるだけで一面部と他面部とに異なる波状運動を確実に行なわせることができる。
【0018】
本発明の請求項4では、第1及び第2の軟性突起部における呼気流通開口形状を変化させることにより、一面部と他面部とにおいて行なわれる波状運動を調節でき、かくして人間の声帯に近い振動パターンによる音響特性を得ることができる。
【0019】
本発明の請求項5では、第1及び第2の軟性突起部の張力を保持したままでも有声音と無声音との切換ができるため、切換を素早く行なうことができ、かくして自然な発話を行なうことができる
本発明の請求項6では、第1及び第2の軟性突起部における張力を変化させることができるので、高音や低音が生成でき広い音域で発声を行なうことができる。
【0020】
本発明の請求項7及び8では、舌駆動機構と口唇駆動機構とによって声帯駆動機構で生成した音声を調音することができるので、抑揚、高低、強弱など人間と同じ表現能力を備えた声を人工的に発することが可能となり、歌が歌える等人間のような発声を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明における好ましい実施例について、添付図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1において、1は機械的に発声する発声装置としてのロボット頭部であり、このロボット頭部1は、枠体2内に鼻腔3a,3bを有する鼻部3と、口部4から内部に連なる口腔部4Aとを有し、当該口腔部4Aが呼気通路5、後述する声帯駆動機構14及び連通部6を介してロボット肺部7に連通し得るようになされている。なお、この場合、ロボットの全体図は省略し、以下ロボット頭部1及びロボット肺部7の近傍部分についてのみ説明する。
【0023】
この場合、呼気通路5は、鼻腔3a,3bへの開口部3cの直前で分岐しており、一方の分岐通路5aが口部4に通じているとともに、他方の分岐通路5bが鼻腔3a,3bに通じている。一方の分岐通路5aは、呼気流通方向(この場合、ロボット肺部7から声帯駆動機構14を介して分岐通路5a,5b側に向かう方向)と交差する方向にそれぞれ断面U字状に形成された第1呼気通路形成体8及び第2呼気通路形成体9と、これら第1呼気通路形成体8及び第2呼気通路形成体9と対面した舌体部10とで構成されており、これらは人間に近い共鳴に近づけるために、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)などによる超低硬度ゴムで形成されている。
【0024】
ここで、第1呼気通路形成体8及び第2呼気通路形成体9は、アルミニウムで形成された金属基体11の表面に貼着されている。因みに、このEPDMとしては、例えば、東京ゴム製品工業株式会社製の超低硬度ゴムTP010(ショア硬さ:1Hs(JIS−A)、引張強さ:60kgf/cm2]、伸び:11.8)を用いることができる。特に本実施例においては、舌体部10は、厚さ5[mm]のものと2[mm]のものを張り合わせて7[mm]とし、舌先から折り返して下顎と接着する部分は3[mm]のものとして使用している。舌体部10は、一端が呼気通路5の下端に固着されているととともに、他端が口部4側に配置された構成を有する。
【0025】
呼気通路5の内部側には連通部6を介してロボット肺部7が配設されている。ロボット肺部7は、内部にピストン18を配置したシリンダ17と、該シリンダ17を上下する減速機を有しないアクチュエータを備えたDCサーボモータM1と、その位置を検出するエンコーダEC1とで構成されている。そして、後述する口唇部23及び歯部21が開口している状態においては、呼気通路5に連通する声帯駆動機構14の開口部(図示せず)から空気を吸入可能となっている。なお、この実施の形態の場合、ロボット肺部7は、空気の流入を行なうが排気を阻止する逆止弁16を一端に配しており、この逆止弁16を設けることによって空気の吸入が容易となっている。なお、DCサーボモータM1は、呼気途中で後述する電気制御回路61の指令により回転速度を可変して呼気速度を変更する機能を有している。
【0026】
他方の分岐通路5bには、鼻腔3a,3bへの開口3cを閉鎖する位置に軟口蓋19が取り付けられており、DCサーボモータM2により図示しないワイヤを介して軟口蓋19を回動させ得るようになされている。DCサーボモータM2には、その位置を検出するエンコーダEC2とその初期位置を検出するポテンショメータPM1が付設されている。このような構成により軟口蓋19を開状態とすることで鼻腔3a,3bへ空気(気体)を送り込み、鼻音を発声し得るようになされている。
【0027】
呼気通路5の出口側には、金属基体11の前方表面に上歯21Aが固着され、止め板15の前方表面側に下歯21Bが上下方向にスライド可能に配設されており、これら上歯21A及び下歯21Bにより歯部21が形成される。そして、この歯部21の前方側には後述する口唇駆動機構に連結した口唇固定板22A,22Bが配置され、これら口唇固定板22A,22Bの表面側に口唇用柔軟部材でなる上口唇23A及び下口唇23Bとからなる上下一対の口唇部23がそれぞれ固着されている。
【0028】
この実施の形態の場合、口唇用柔軟部材は、人間に近い共鳴に近づけるため、柔軟かつ耐久性に優れた熱可塑性エラストマーに所定量の流動パラフィンを混合したものであり、柔軟性や耐久性を考慮して熱可塑性エラストマーの種類や流動パラフィンとの重量比等が適宜決定される。この実施の形態の場合、柔軟かつ耐久性に優れた熱可塑性エラストマーとしては、株式会社クラレ社製の商品名「セプトン(株式会社クラレ:登録商標)」と商品名「ハイブラー(株式会社クラレ:登録商標)」とを主原料とした超低硬度のクラレプラスチックス株式会社製の商品名「セプトンコンパウンド」を用い、流動パラフィンとしては、例えば和光純薬工業株式会社の20[℃]で密度が0.825〜0.850[g/ml]の流動パラフィンを用いている。またこの場合、口唇部23は、これら熱可塑性エラストマーと流動パラフィンとの重量比を、例えば2:3とした口唇用柔軟部材により成型されている。このように上口唇23A及び下口唇23Bを口唇用柔軟部材で成型することにより、当該上口唇23A及び下口唇23Bの密閉性を従来よりも向上し得るようになされている。
【0029】
次に口唇駆動機構について以下説明する。図2及び図3に示すように、口唇駆動機構40は、口唇固定板22Aの上端及び口唇固定板22Bの下端がそれぞれ固定された支持軸24と、この支持軸24の両端にそれぞれ設けられた口唇可変部41A,41Bとを有する。なお、上側の支持軸24の両端に設けられた一対の口唇可変部41Aは連動して動作するとともに、下側の支持軸24の両端に設けられた一対の口唇可変部41Bについても同様に連動して動作し得るように構成されている。なお、これら口唇可変部41A,41Bは同一構造を有するため、以下支持軸24の一端側に配置した口唇可変部41A,41Bについてのみ説明する。
【0030】
実際上、上側の支持軸24に設けた口唇可変部41Aは、スライドガイド26に沿って上下方向に摺動自在に嵌合されたスライド部材25と、軸方向をx方向としてスライド部材25に回動自在に設けられた第1のプーリ27とを有し、この第1のプーリ27の回転軸27Aに支持軸24の端部が固定されている。
【0031】
この場合、口唇可変部41Aは、支持軸24に折り曲げ可能に設けられた4つの関節部24a,24b,24c,24dによって口唇固定板22Aよりも後方に配置し得るようになされている。
【0032】
図4(a)に示すように、口唇可変部41Aにおける第1のプーリ27には、径方向の一端に第1の接続部材28Aが設けられており、第2のプーリ30Aに装架されたワイヤ29Aがこの第1の接続部材28Aに固定されている。ここで第2のプーリ30Aには、図示しないアクチュエータを備えたDCサーボモータM4と、その位置を検出するエンコーダEC4と、初期位置を検出するためのポテンショメータPM3とが接続されている。
【0033】
スライド部材25には、第1のプーリ27の側部側に第2の接続部材28が設けられており、第3のプーリ30に装架されたワイヤ29がこの第2の接続部材28に固定されている。ここで第3のプーリ30には、図示しないアクチュエータを備えたDCサーボモータM3と、その位置を検出するエンコーダEC3と、初期位置を検出するためのポテンショメータPM2とが接続されている。因みに、図4(a)においては説明の便宜上、第1のプーリ27の両側に第2及び第3のプーリ30,30Aを配置したものとして説明するが、実際上、従動プーリ31とワイヤ29,29Aの長さとを適宜組み合わせることにより、第2及び第3のプーリ30,30Aがスライドガイド26等を避けるように所定箇所に設置されている。
【0034】
かくして支持軸24の両端部に、連動して同じ動作を行なう一対の口唇可変部41Aを設けることにより、以下のようにして口唇固定板22Aを制御することができる。すなわち、口唇可変部41Aは、サーボモータM3,M4により第2及び第3のプーリ30,30Aをそれぞれ独立して回転させ得るが、この際、第2及び第3のプーリ30,30Aを同相である図4(a)の実線の矢印の方向に同じ速度で回転させると、両ワイヤ29,29Aは上方に移動し、これに伴い第1のプーリ27、スライド部材25、口唇固定板22A及び上口唇23Aが上方に移動し、口唇部23を開口し得る。また、第2及び第3のプーリ30,30Aを同相でそれぞれ逆方向(すなわち、図4(a)の実線の矢印とは逆方向)に回転させることにより上口唇23Aを下方へ移動させ口唇部23を閉口し得る。
【0035】
これに対して、第2のプーリ30Aのみを図4(a)の破線の矢印の方向に回転させると、ワイヤ29Aは第1のプーリ27に対して上方に移動し、これに伴い第1のプーリ27は第1の接続部材28Aの位置が上方に変位することで第1のプーリ27が半時計回り方向へ回動し、関節部24a,24b,24c,24dによってこの半時計回り方向を、支持軸24の口唇固定板22Aが前方へ回動する方向へ変位させ、これにより上口唇23Aを前方へ突出させ得る(図2)。
【0036】
一方、この状態で第2のプーリ30Aを逆方向に回転させれば、突出した上口唇23Aを後方側へ回動させ得る。従って、第2及び第3のプーリ30,30Aの回転方向と回転量とを組み合わせることにより口唇固定板22Aを上下に移動させると同時に前後に移動させることもできる。以上、口唇可変部41Aの場合について説明してきたが、口唇可変部41Bについても上下方向が逆転する以外は基本的には同じであるためその説明は省略する。因みに、口唇可変部41Bは、図4(b)に示すような構成となり、同図においてM5,M6は、アクチュエータを備えたDCサーボモータであり、EC5,EC6は、その位置を検出するエンコーダであり、PM4,PM5は、初期位置を検出するためのポテンショメータである。かくして、口唇部23を上下方向及び前後方向へ駆動させることができるとともに、機械的構造たる口唇可変部41Aを口唇部23から遠ざけることができるので、当該口唇部23において人間に近い動きを実現できるとともに、当該口唇部23の近傍付近を従来よりも一段と人間に近い外観に形成することができる。
【0037】
かかる構成に加えて口唇駆動機構40には、図2及び図3に示すように、口角押引手段50が設けられている。この口角押引手段50は、口唇部23の両端中央付近に埋設された板状の口角接続部51と、上口唇23Aの両端上部に埋設された板状の上口唇接続部52と、下口唇23Bの両端下部に埋設された板状の下口唇接続部53とを有し、上口唇接続部52及び下口唇接続部53がそれぞれ接続支持部54,55によって支持されているとともに、当該口角接続部51が口角支持部56によって支持されている。
【0038】
ここで、口角支持部56は、図5に示すような、レリーズ機構73に接続されており、このレリーズ機構73で口角支持部56を押し出すことにより口角接続部51を前方へ突出させ、これに伴い上口唇接続部52及び下口唇接続部53も前方へ突出させ、かくして上口唇23A及び下口唇23Bを前方へ突出し得るようになされている。
【0039】
レリーズ機構73は、口角支持部56のそれぞれに一端が接続される2本の第1のワイヤ74と、この第1のワイヤ74の他端に接続され、口唇部23を突き出す方向(x方向)にスライドガイド75上を摺動可能に嵌合されるスライド部材76と、DCサーボモータM7により回転される駆動プーリ77と、第2のワイヤ78の方向を調整する従動プーリ79と、駆動プーリ77及び従動プーリ79に固定されると共に、スライド部材76に接続されてDCサーボモータM7の回転運動を直線運動に変換する第2のワイヤ78とで構成される。
【0040】
口角押引手段50をこのように構成することにより、口唇部23の左右を同期させて突き出すことができ、母音「う」のような口唇部23を丸め前に付き出すような円唇母音の発生を実現することができる。
【0041】
舌駆動機構60は、図6に示すように、舌体部10を構成する2枚のゴムの間に適宜間隔を空けて複数(例えば7個)の支持部材34が固定され、ループ状に引き回されたワイヤ35にこれら支持部材34が固定されている。ワイヤ35は、金属基体11を貫通して図示しない方向転換手段である従動プーリ及び駆動プーリを経て下顎の箇所から支持部材34に帰還するように張設されている。駆動プーリは、DCサーボモータM8〜M14と、その位置を検出するエンコーダEC8〜EC14と、その初期位置を検出するためのポテンショメータPM7〜PMl3とにそれぞれ接続されており、これらDCサーボモータM8〜M14を独立に回動させることにより支持部材34をそれぞれ独立させて駆動し得、舌体部10の形状を変化させ得る。
【0042】
かくして、舌駆動機構60は、舌体部10を人間に近い自然で多様な形状に変化させ、母音の自然性を向上させることができ、また新たな子音を発声し得る。これに加えて舌体部10の下部の空間領域には、図1に示したように、固定枠13上に、柔軟かつ耐久性に優れた熱可塑性エラストマーに所定量の流動パラフィンを混合した舌体用柔軟部材91が配置されている。これにより、舌体部10の動作時、その舌体用柔軟部材91が当該舌体部10の動きを妨げることを回避でき、かくして声道の音響的境界を明確にできるとともに、舌体部10の自由な形状変化を実現できるので声道の共鳴特性を明瞭にできる。
【0043】
因みに、舌体用柔軟部材91は、柔軟度を考慮して熱可塑性エラストマーの種類や流動パラフィンとの重量比等が適宜決定することになるが、この実施の形態の場合、熱可塑性エラストマーとしては、株式会社クラレ社製の商品名「セプトン(株式会社クラレ:登録商標)」と商品名「ハイブラー(株式会社クラレ:登録商標)」とを主原料とした超低硬度のクラレプラスチックス株式会社製の商品名「セプトンコンパウンド」を用い、流動パラフィンとしては、例えば和光純薬工業株式会社の20[℃]で密度が0.825〜0.850[g/ml]の流動パラフィンを用いている。
【0044】
次に本発明による声帯駆動機構14について以下説明する。
【0045】
図7及び図8に示すように、声帯駆動機構14は、周波数調節部80と、この周波数調節部80の前面に対向するように配置された有声無声音切換部81とが基台82上に設けられており、この有声無声音切換部81に人工声帯100が装着され、支持部本体84の上部にカバー部85が嵌め込まれることにより当該人工声帯100が有声無声音切換部81内に位置決めされている。これにより声帯駆動機構14は、ロボット肺部7から供給される気体としての空気が人工声帯100内を通過しロボット頭部1に排出するようになされている。
【0046】
ここで声帯駆動手段としての有声無声音切換部81は、図9に示すように、z方向に軸方向を配置し所定角度で回動する有声無声音切換用アクチュエータ86と、この有声無声音切換用アクチュエータ86に固定された有声無声音切換用アーム87とを備えており、これら有声無声音切換用アーム87の先端部87Aが人工声帯100に挿通固定された構成を有する。かくして、有声無声音切換部81は、有声音生成時、図10(a)に示すように、有声無声音切換用アクチュエータ86によって有声無声音切換用アーム87の先端部87Aを互いに近づける方向に位置決めすることにより、第1及び第2の軟性突起部間を閉口させ得る。これに対して有声無声音切換部81は、無声音生成時、図10(b)に示すように、有声無声音切換用アクチュエータ86を回転駆動させることにより有声無声音切換用アーム87の先端部を互いに遠ざける方向に位置決めさせ、これにより第1及び第2の軟性突起部101,102間を強制的に開口させ得る。
【0047】
そして、有声無声音切換部81は、有声無声音切換用アクチュエータ86の軸方向をz方向に配置したことで、有声無声音切換用アクチュエータ86を僅かに回動させるだけで有声無声音切換用アーム87を可変でき、かくして有声無声音切換用アクチュエータ86における駆動音の発生を抑制できる。
【0048】
一方、声帯駆動手段としての周波数調節部80は、y方向に軸方向を配置した支軸部88に伝達アーム89を介して周波数調節用アクチュエータ90が接続されており、x方向に沿って前後に延長可能な押出アーム92の一端が支軸部88に固着されている。実際上、押出アーム92は、支軸部88に一端が固着された第1のアーム部92Aと、この第1のアーム部92Aの他端に回動自在に設けられた第2のアーム部92Bとで構成されており、支持部本体84においてx方向に沿って前後に進退可能な声帯保持部93に当該第2のアーム部92Bの他端が回動自在に取り付けられている。
【0049】
ここで周波数調節部80は、低音生成時、図7及び図8に示したように、第1のアーム部92Aの他端をやや斜め下方に位置決めさせることにより、押出アーム92の全長を短くして声帯保持部93を後退させ得る。この結果、周波数調節部80は、声帯保持部93で保持した人工声帯100に外力を与えることなく、人工声帯100の第1及び第2の軟性突起部101,102に対し外力を与えることを回避でき当該人工声帯100に加わる張力を下げることができる。
【0050】
これに対して周波数調節部80は、高音生成時、周波数調節用アクチュエータ90を回転駆動させることにより伝達アーム89を介して支軸部を回転させ、これにより第1のアーム部92Aの他端を上方へ押し上げ、押出アーム92の全長をx方向に延長させ得る。かくして、周波数調節部80は、図11に示すように、声帯保持部93で保持した人工声帯100をx方向へ伸長させて人工声帯100の第1及び第2の軟性突起部101,102における張力を上げることができる。
【0051】
続いて一般的な成人とほぼ同じ大きさでなる本実施例のロボットに用いて好適な人工声帯100の構成について以下説明する。因みに、この実施例にて説明する人工声帯100は、呼気通路5等に合わせて、図12に示すように、高さ(z方向)が約50[mm]に選定され、幅(y方向)が約30[mm]に選定され、厚さ(x方向)が約35[mm]に選定されているが、本発明はこれに限らず、人工声帯100の装着場所や装着するロボットの大きさ等に応じてその高さや幅、厚さについては他の数値のものを用いても良い。
【0052】
ここで、この人工声帯100は、従来の複数のゴム板を張り合わせて形成する発想とは異なり、熱可塑性エラストマーのもつ柔らかさ及び粘り強さに着目した人工声帯100である。このためこの人工声帯100では、人間に近い共鳴に近づけるため、柔軟かつ耐久性に優れた熱可塑性エラストマーに、所定量の流動パラフィンを混合した柔軟部材(以下、これを人工声帯用柔軟部材と呼ぶ)を用い、所定の型枠で一体成型された構成を有する。
【0053】
実際上、この実施の形態の場合、柔軟かつ耐久性に優れた熱可塑性エラストマーとしては、株式会社クラレ社製の商品名「セプトン(株式会社クラレ:登録商標)」と商品名「ハイブラー(株式会社クラレ:登録商標)」とを主原料とした超低硬度のクラレプラスチックス株式会社製の商品名「セプトンコンパウンド」を用い、流動パラフィンとしては、例えば和光純薬工業株式会社の20[℃]で密度が0.825〜0.850[g/ml]の流動パラフィンを用いている。
【0054】
またこの場合、実験の結果、人工声帯用柔軟部材は、これら流動パラフィンと熱可塑性エラストマーとの重量比を10:4以下とすると、成型後の人工声帯100において十分な強度を得ることができず、また流動パラフィンと熱可塑性エラストマーとの重量比を10:9以上とすると、人工声帯100の成型中に熱可塑性エラストマーから流動パラフィンが漏れてしまったことから、流動パラフィンと熱可塑性エラストマーとの重量比を10:5〜8程度とすることが好ましく、特に成型後の人工声帯100の柔軟性や耐久性等から10:8程度が最も好ましい。
【0055】
そして、このような人工声帯用柔軟部材で成型される人工声帯100は、図12に示したように、ほぼ正方形状でなる本体部103と、この本体部103の上部及び下部に一体成形された円筒状の呼気流通接続部104,105とで構成されている。図13(a)及び図14(a)に示すように、本体部103の正面103Aには、両側部に段部106を有するとともに、中央部に断面T字状の張引用突出部107を有し、周波数調節部80の声帯保持部93によって張引用突出部107を挟持し得るように構成されている。図13(c)及び図14(a)に示すように、本体部103の背面103Bには、外部と連通する背面中空部108が形成されており、この背面中空部108のほぼ中央部に形成された装着孔109に有声無声音切換用アーム87が挿入されて装着され得るようになされている。
【0056】
また、図13(a)、(b)及び(c)に示すように、本体部103の内部には、正面103A側及び背面103B側に側面103C,103D間に延びる円筒状の隙間110がそれぞれ形成されており、この隙間110に有声無声音切換部81に設けたロッド(図示せず)が挿通されることにより、当該本体部103の四隅で有声無声音切換部81に対し人工声帯100を確実に固定し得るようになされている。
【0057】
かかる構成に加えて本体部103の内部には、図15に示すように、中央部を貫通するように形成された呼気流通孔111を有し、この呼気流通孔111と呼気流通接続部104,105内の円筒空間とが連通していることにより、人工声帯100内において下部から上部へロボット肺部7からの呼気を流通可能に構成されている。因みに、この実施の形態の場合、呼気流通孔111は、呼気流通接続部104,105内の円筒空間とほぼ同一形状の円筒状でなり、その直径が例えば約22[mm]程度に選定されている。
【0058】
また、これに加えて本体部103の呼気流通孔111内には、第1及び第2の軟性突起部101,102が当該本体部103と一体成型されて呼気流通孔111の内側面111Aから突出するように設けられている。この第1及び第2の軟性突起部101,102は、同一構造でなり、呼気流通孔111の中心線Lを境に対称的に配置され、人工的な声門120を形成し得るようになされている。
【0059】
実際上、この第1及び第2の軟性突起部101,102は、やや斜め上方に向かい呼気流通孔111の中心線L付近まで延長する上面部112及び下面部113と、これら上面部112及び下面部113間に中心線Lに沿って延長する先端面部114とをそれぞれ有し、内部に側面103C,103Dまで延びて外部と連通する側部中空部115を備えている。第1及び第2の軟性突起部101,102は、図14(b)に示すように、先端面部114が互いに対向するようにして形成されており、外力が与えられない状態で呼気流通孔111をほぼ閉口し得るようになされている。
【0060】
かくして、呼気流通孔111内には、2つの第1及び第2の軟性突起部101,102が中心線Lの方向に突出し、これにより、呼気流通孔111内に下部から気体たる空気が流入されると、当該空気が先端面部114間を押し広げて上方へ通過し得るようになされている。
【0061】
ここで第1及び第2の軟性突起部101,102は、空気が流入される側の一面部としての下面部113の厚みLCが、他面部としての上面部112の厚みUCよりも厚くなるように選定されており、これにより上面部112の弾性復元力よりも下面部113の弾性復元力のほうが大きく働くように構成されている。
【0062】
かくして第1及び第2の軟性突起部101,102は、呼気流通孔111の下部から空気が送り込まれると、当該空気が先端面部114間を通過する際、下面部113が初めに空気に押され上面部112よりも早く振動を始めるという位相を異にした振動(すなわち、波状の運動)が行なわれるように構成されている。そして、第1及び第2の軟性突起部101,102では、このような位相を異にした振動をほぼ左右対称に行ない、先端面部114の下部が上部よりも早く開口及び閉口を行なうように構成されている。特に第1及び第2の軟性突起部101,102では、上面部112に働く弾性復元力よりも下面部113に働く弾性復元力のほうが大きく働くように選定されていることにより、下面部113に近い先端面部114の下部にべルヌーイ効果による陰圧が発生し、これにより先端面部114の閉口動作が助けられ、その結果、第1及び第2の軟性突起部101,102において上面部112と下面部113とが位相を異にした波状の運動を一段と容易に行なえ得るようになされている。
【0063】
実際上、この実施の形態の場合、第1及び第2の軟性突起部101,102は、上面部112の厚みUCを約0.5〜1.0[mm]とし、下面部113の厚みLCを1.0〜2.0[mm]とし、かつ下面部113の厚みLCが上面部112の厚みUCよりも厚く(すなわち、上面部112の厚みUC<下面部113の厚みLC)なるように選定されることが好ましく、特に上面部112の厚みUCを約0.5[mm]とした場合、下面部113の厚みLCを1.0〜2.0[mm]に選定することが望ましい。なお、上面部112を0.5[mm]以上としたのは、成型型枠によって0.5[mm]よりも薄い上面部112を成型することが困難であるためである。
【0064】
この場合、ロボット肺部7から人工声帯100へ空気を呼気流率173〜519[ml/s]で流通させて実験した結果、上面部112の厚みUCを下面部113の厚みLCよりも厚くした場合(すなわち、上面部112の厚みUC>下面部113の厚みLCとした場合)には、空気が単に先端面部114間を通過するだけで、当該空気の圧力によって上面部112と下面部113とが位相を異にした振動(すなわち波状の運動)を行なわなかったので不適である。これに対して上面部112の厚みUCと下面部113の厚みLCとを同じ約0.5[mm]とした場合には、上面部112と下面部113とが位相を異にした振動を非対称的に行ない不安定な振動となったため不適である。また上面部112の厚みUCと下面部113の厚みLCとを同じ約1.0[mm]とした場合には、流動パラフィンと熱可塑性エラストマーとの重量比を10:5〜8程度としたとき、上面部112と下面部113とが位相を異にした振動を行なわなかったり、行なったりし、不安定な振動となったため不適である。さらに上面部112の厚みUCと下面部113の厚みLCとを同じ約2.0[mm]とした場合には、空気が単に先端面部114間を通過するだけで、当該空気の圧力によって上面部112と下面部113とが位相を異にして振動しなかったので不適である。
【0065】
ここで、これら本実施例の発声装置を制御する電気回路は、図16に示すようにCPUとインターフェースを有した電気制御回路61を有し、この電気制御回路61は、各ポテンショメータPM1〜PM14の初期位置信号を初期位置検出手段62から受け、またEC1〜EC15による各移動 部材の動作位置信号を移動部材位置検出手段63から受け、ROM64に記憶されているプログラムに従って各サーボモータM1〜M15を駆動するモータ駆動手段66を制御するように構成されている。なお、図16において、65はRAMであり、67は入出力手段である。
【0066】
以上の構成において、まず、第1ステップとして、ロボット肺部7のエンコーダEC1の指示にしたがってサーボモータM1によってシリンダ17内のピストン18を最下点に移動する。この際、シリンダ17内が負圧となり逆止弁16から空気がシリンダ17内に流入する。
【0067】
次に、第2ステップとして、発声段階においては、舌駆動機構60において、ポテンショメータPM7〜13のデータとEC8〜14のデータに基き初期位置検出手段62と移動部材位置検出手段63により7つの支持部材34の位置を確認したら、発声音に対応する位置に各指示部材34を移動する。
【0068】
続いて、第3ステップとして、サーボモータM2を作動させて軟口蓋19を所定の位置に回動し、さらに、口唇駆動機構40において第2及び第3のプーリ30,30Aを駆動して口唇部23(上口唇23A及び下口唇23B)を所定形状に移動し、さらに歯部制御手段においてワイヤ32を所望量引っ張ることで歯部21の開度を調整する。
【0069】
さらに、第4ステップとして、声帯駆動機構14の周波数調節部80において周波数調節用アクチュエータ90を作動させ、人工声帯100における声門120の長手方向の長さ(声門長)を変化させて張力を与え、発声音に対応するものとする。また、必要に応じて有声無声音切換用アクチュエータ86を作動させて有声音・無声音の調整を行なう。このとき、有声無声音切換部81では、有声無声音切換用アクチュエータ86を僅かに回動させるだけで有声無声音切換用アーム87を可変できるので、有声無声音切換用アクチュエータ86における駆動音の発生を極力抑制でき、かくして有声音・無声音の調整を行なう際に、当該有声無声音切換用アクチュエータ86の駆動音が声帯音源に影響を与えることを防止できる。また、有声無声音切換部81では、有声無声音切換用アーム87の可変角度(この場合、約20[deg])を小さくできるので、人工声帯100と有声無声音切換用アーム87との間に生じる摺動音等についても極力抑制でき、かくして有声音・無声音の調整を行なう際に、当該摺動音等が声帯音源に影響を与えることを防止できる。
【0070】
また、この実施の形態の場合、人工声帯100は、本体部103の背面103Bに外部と連通する背面中空部108や、本体部103の側面側に外部と連通する側部中空部115が設けられていることにより、周波数調節部80によって本体部103に張力を与えた際や、有声無声音切換用アーム87により第1及び第2の軟性突起部101,102を開口させた際に、背面中空部108や側部中空部115が変形することにより先端面部114間の呼気流通開口形状(すなわち声門120の形状)を容易に、かつ確実に変形させることができる。
【0071】
そして、第5ステップとして、サーボモータM1を作動させてピストン18がシリンダ17内の空気を排気することによって第1音が発声され、その後、ピストン18の動作中に第2ステップ〜第4ステップが必要に応じて個別もしくは並列的に行なわれ断続的に音を発声し、所定音数の発声が終了すると、サーボモータM1が停止して呼気が停止する。
【0072】
その後は、第6ステップとして、ロボット肺部7のエンコーダEC1の指示にしたがってサーボモータM1によって、シリンダ17内のピストン18を最下点に移動してシリンダ17内に空気を補給する。このようなステップを繰り返すことにより発声することができる。
【0073】
この場合、例えば有声音及び低音生成時、呼気流通孔111の下部からシリンダ17内の空気が送り込まれる前においては、図17(a)及び図18(a)に示すように、人工声帯100における第1及び第2の軟性突起部101,102はその自重によって先端面部114が互いに近接した状態となって呼気流通孔111をほぼ閉口する。
【0074】
この状態のおいて、呼気流通孔111の下部から空気が送り込まれると、図17(b)及び図18(b)と、図17(c)及び図18(c)とに示すように、当該空気が先端面部114間を通過して上方側へ流出する。この際、第1及び第2の軟性突起部101,102では、空気の圧力によって下面部113が上方に押され先端面部114の下部が初めに押し広げられた後、遅れて先端面部114の上部側たる上面部112が押し広げられて呼気流通孔111が開口する。
【0075】
その後、図17(d)及び図18(d)と図19(a)及び図20(a)とに示すように、上面部112が押し広げられ開口した状態において、下面部113に働く弾性復元力及び大きな陰圧の発生により、初めに当該下面部113が閉口する。
【0076】
続いて、図19(b)及び図20(b)とに示すように、上面部112が閉口し始め、図19(c)及び図20(c)に示すように、再び第1及び第2の軟性突起部101,102の先端面部114が互いに近接した状態となって呼気流通孔111をほぼ閉口する。
【0077】
このようにして人工声帯100では、呼気流通孔111を通過する気体によって、第1及び第2の軟性突起部101,102における上面部112と下面部113とに位相を異にした波状運動を行なわせることができ、その結果、図21に示すような人間の声帯に近い振動パターンによる音響特性を得ることができる。
【0078】
また、この実施の形態による人工声帯100では、本体部103の正面103A側及び背面103B側に側面間に延びる円筒状の隙間110に有声無声音切換部81に設けたロッドが挿通され、当該本体部103の四隅で有声無声音切換部81に対し確実に固定されていることにより、呼気流通孔111内を通過する空気によって第1及び第2の軟性突起部101,102以外の箇所が振動することを防止でき、かくして第1及び第2の軟性突起部101,102が振動することによる声帯音源だけを確実に得ることができる。
【0079】
また、人工声帯100では、側部中空部が外部と連通していることから、呼気流通孔111を通過する空気によって下面部113が押されても、内部の空間を変化させることにより第1及び第2の軟性突起部101,102を容易に、かつ確実に変化させることができる。
【0080】
さらに、この人工声帯100では、呼気流通孔111内に第1及び第2の軟性突起部101,102を本体部103と一体成型させたことで、連通部6から呼気通路5までの間の声道の密閉性を向上でき、かくして呼気通路5の口唇部側で反射・共鳴した音が声帯駆動機構14に入射するのを防止できる。
【0081】
以上のように、本実施例では、呼気流通孔111の内側面111Aから突出する第1及び第2の軟性突起部101,102を柔軟性に優れた人工声帯用柔軟部材で成型し、呼気流通孔111を通過する気体の圧力によって、上面部112と下面部113とに異なる波状運動を行なわせるようにしたことにより、人間の声帯に近い振動パターンによる音響特性を得ることができ、かくして従来よりも一段と人間の発声に近い音声を生成できる。
【0082】
また、第1及び第2の軟性突起部101,102の内部に側部中空部115を有するようにしたことにより、当該第1及び第2の軟性突起部101,102自体を軽くできるので、呼気流通孔111を通過する気体によって、上面部112と下面部113とに異なる波状運動を容易に、かつ確実に行なわせることができる。
【0083】
そして、第1及び第2の軟性突起部101,102は、下面部113の厚みLCが、上面部112の厚みUCよりも厚く形成したことで、下面部113の弾性復元力を上面部112よりも大きくさせることができ、これにより呼気流通孔111に気体を通過させるだけで上面部112と下面部113とに異なる波状運動を確実に行なわせることができる。
【0084】
さらに、第1及び第2の軟性突起部101,102を変形させることにより、第1及び第2の軟性突起部101,102間の所定の呼気流通開口形状を形成可能な周波数調節部80及び有声無声音切換部81を設けるようにした。これにより上面部112と下面部113とにおいて行なわれる波状運動を調節でき、かくして人間の声帯に近い振動パターンによる音響特性を得ることができる。
【0085】
この場合、第1及び第2の軟性突起部101,102間を接離方向へ移動させる有声無声音切換部81を設けるようにしたことにより、第1及び第2の軟性突起部101,102の張力を保持したままでも有声音と無声音との切換ができるため、切換を素早く行なうことができ、かくして自然な発話を行なうことができる。
【0086】
また、第1及び第2の軟性突起部101,102を伸長させて張力を与える周波数調節部80を設けるようにしたことにより、第1及び第2の軟性突起部101,102における張力を変化させることができるので、高音や低音が生成でき広い音域で発声を行なうことができる。
【0087】
さらに、舌駆動機構60と口唇駆動機構40とを空気が流通可能な呼気通路5内に配設することで、声帯駆動機構14で生成した音声を舌駆動機構60と口唇駆動機構40とによって調音できるので、抑揚、高低、強弱など人間と同じ表現能力を備えた声を人工的に発することが可能となり、歌が歌える等人間のような発声を実現することができる。
【0088】
なお、上述した実施の形態においては、成人した人間とほぼ同じ大きさのロボットに用いるために人工声帯100の寸法を選定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ロボット頭部1やロボット肺部7等の形状や大きさに応じて任意に人工声帯100の寸法を選定するようにしても良い。
【0089】
また、上述した実施の形態においては、柔軟かつ耐久性に優れた熱可塑性エラストマーとして、超低硬度のクラレプラスチックス株式会社製の商品名「セプトンコンパウンド」を用いたが、本発明はこれに限らず、要は、呼気流通孔111を通過する気体の圧力によって、上面部112と下面部113とに異なる波状運動を行なわせることができれば、この他種々熱可塑性エラストマーを用いるようにしても良い。
【0090】
さらに、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、呼気流通孔111を通過する気体の圧力によって、上面部112と下面部113とに異なる波状運動を行なわせることができれば、例えば上面部112の厚みUC<下面部113の厚みLCとなる範囲内で、ロボット肺部7からの空気の排出量に応じて上面部112と下面部113との厚みをそれぞれ任意に選定するようにしても良く、この他種々の変形実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明による発声装置の全体構成を示す断面図である。
【図2】口唇駆動機構の正面構成を示す斜視図である。
【図3】口唇駆動機構の背面構成を示す斜視図である。
【図4】口唇可変部の構成を示す正面図である。
【図5】レリーズ機構を示す概略斜視図である。
【図6】舌駆動機構の構成を示す概略斜視図である。
【図7】声帯駆動機構の全体構成(1)を示す斜視図である。
【図8】声帯駆動機構の全体構成(2)を示す斜視図である。
【図9】有声無声音切換部の全体構成を示す斜視図である。
【図10】有声音生成時及び無声音生成時における有声無声音切換用アームの可動の様子を示す上面図である。
【図11】声帯保持部によって人工声帯に張力を与えたときの様子を示す上面図である。
【図12】人工声帯の全体構成を示す斜視図である。
【図13】人工声帯の正面構成、側面構成及び背面構成を示す概略図である。
【図14】人工声帯の水平断面構成及び上面構成を示す概略図である。
【図15】人工声帯の側断面構成を示す断面図である。
【図16】電気回路を示すブロック図である
【図17】第1及び第2の軟性突起部における開口までの波動運動の様子(1)を示す上面図である。
【図18】第1及び第2の軟性突起部における開口までの波動運動の様子(2)を示す側断面図である。
【図19】第1及び第2の軟性突起部における閉口までの波動運動の様子(1)を示す上面図である。
【図20】第1及び第2の軟性突起部における閉口までの波動運動の様子(2)を示す側断面図である。
【図21】理想的な人間の声帯音源スペクトルと本発明による人工声帯で得られた人工声帯音源スペクトルとを対比させたグラフである。
【符号の説明】
【0092】
1 ロボット頭部(発声装置)
14 声帯駆動機構
80 周波数調節部(声帯駆動手段)
81 有声無声音切換部(声帯駆動手段)
100 人工声帯
101 第1の軟性突起部
102 第2の軟性突起部
103 本体部
112 上面部(他面部)
113 下面部(一面部)
111 呼気流通孔
111A 内側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部内を貫通する呼気流通孔と、この呼気流通孔内に設けられ、前記呼気流通孔の内側面から突出する柔軟部材からなる第1及び第2の軟性突起部とを備え、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記呼気流通孔を通過する気体の圧力により、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせることを特徴とする人工声帯。
【請求項2】
前記第1及び第2の軟性突起部は、内部に中空部を有することを特徴とする請求項1記載の人工声帯。
【請求項3】
前記第1及び第2の軟性突起部は、前記気体が流入される側の前記一面部の厚みが、前記他面部の厚みよりも厚く形成されていることを特徴とする請求項2記載の人工声帯。
【請求項4】
本体部内を貫通する呼気流通孔と、この呼気流通孔内に設けられ、前記呼気流通孔の内側面から突出する柔軟部材からなる第1及び第2の軟性突起部と、該第1及び第2の軟性突起部を変形させることにより所定の呼気流通開口形状を形成可能な声帯駆動手段とを備え、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記呼気流通孔を通過する気体の圧力により、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせることを特徴とする声帯駆動機構。
【請求項5】
前記声帯駆動手段は、前記第1及び第2の軟性突起部間を接離方向へ移動させることを特徴とする請求項4記載の声帯駆動機構。
【請求項6】
前記声帯駆動手段は、前記第1及び第2の軟性突起部を伸長させて張力を与えることを特徴とする請求項4記載の声帯駆動機構。
【請求項7】
気体が流通可能な呼気通路内に、音声を生成する声帯駆動機構と、舌体部を駆動させることにより前記音声を調音する舌駆動機構と、口唇部及び又は歯部を駆動させることにより前記音声を調音する口唇駆動機構とを配設した発声装置において、前記声帯駆動機構は、本体部内を貫通する呼気流通孔と、この呼気流通孔内に設けられ、前記呼気流通孔の内側面から突出する柔軟部材からなる第1及び第2の軟性突起部とを備え、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記呼気流通孔を通過する気体の圧力により、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせることを特徴とする発声装置。
【請求項8】
気体が流通可能な呼気通路内に、音声を生成する声帯駆動機構と、舌体部を駆動させることにより前記音声を調音する舌駆動機構と、口唇部及び又は歯部を駆動させることにより前記音声を調音する口唇駆動機構とを配設した発声装置を有するロボットにおいて、前記声帯駆動機構は、本体部内を貫通する呼気流通孔と、この呼気流通孔内に設けられ、前記呼気流通孔の内側面から突出する柔軟部材からなる第1及び第2の軟性突起部とを備え、前記第1及び第2の軟性突起部は、前記呼気流通孔を通過する気体の圧力により、一面部と他面部とに異なる波状運動を行なわせることを特徴とするロボット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−317878(P2006−317878A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143245(P2005−143245)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)