説明

人工多能性幹細胞の樹立効率改善剤及びそれを用いた効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法

【課題】人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立効率改善効果を有する低分子化合物、並びにそれを用いたiPS細胞の樹立効率改善方法の提供。
【解決手段】核初期化工程において、式(I):


で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率改善方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞(以下、iPS細胞という)の樹立効率の改善方法及びそのための薬剤に関する。より詳細には、本発明は、フェニルシクロプロピルアミン誘導体若しくはフェニルアルキルヒドラジン類化合物を含有するiPS細胞の樹立効率改善剤、並びにそれを用いたiPS細胞の樹立効率改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マウス及びヒト等で胚の破壊を伴わない体細胞由来のiPS細胞が相次いで樹立され(特許文献1、非特許文献1−5)、胚性幹細胞(ES細胞)に代わる移植細胞ソースとして期待を集めている。タンパク質導入或いはアデノウイルスやプラスミド等を用いて外来遺伝子の組込みのないより安全なiPS細胞も開発されてきており(非特許文献6−10)、再生医療への応用が現実味を帯び始めている。
しかし、レトロウイルスやレンチウイルスを用いない方法では、iPS細胞の樹立効率は依然として低く、特に、iPS細胞から分化した組織や個体において腫瘍化が懸念される原がん遺伝子c-Mycを除く3因子(Oct3/4, Sox2, Klf4)を体細胞に導入してヒトiPS細胞を作製した場合、その樹立効率が極めて低いという問題点がある。
【0003】
iPS細胞の樹立効率の向上に関して様々な試みがなされている。Scripps研究所のShen Dingらのグループは、初期化4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)の下流にあるシグナル伝達系(例:TGFβ/ALK5シグナル、MEK/ERKシグナル、Wntシグナル)やエピジェネティック修飾(例:ヒストン脱アセチル化、DNAメチル化)に関与する低分子化合物を用いて初期化遺伝子の機能を補完若しくは代替することを精力的に研究しており、これまでH3K9メチルトランスフェラーゼ阻害剤であるBIX01294、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤であるRG108や5aza-C、L型カルシウムチャネルアゴニストであるBayK、MEK阻害剤であるPD0325901、GSK3β阻害剤であるCHIR99021又はTGFβ受容体阻害剤であるSB431542を用いて、iPS細胞の樹立効率を改善したこと(特許文献2)、CHIR99021にリジン特異的脱メチル化酵素1(LSD1)阻害剤であるトラニルシプロミン(trans-2-フェニルシクロプロピルアミン; PCPA)を組み合わせるとOct3/4とKlf4の2因子のみでヒトケラチノサイトからiPS細胞を樹立できたこと(非特許文献11)を報告している。Shen Dingらはさらに、PCPA、SB431542、PD0325901、CHIR99021に加えて線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)阻害剤であるPD173074でマウスエピステムセル(EpiSC)を処理することにより、より未分化なES細胞様細胞に転換させ得ることを報告している(非特許文献12)。
また、特許文献3には、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるバルプロ酸(VPA)又はPCPAの存在下で線維芽細胞を培養すると、Oct3/4の発現量が上昇することが記載されている。
【0004】
LSD1は、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存的な酸化反応により、ヒストンH3の4番目のリジン残基のモノメチル化体及びジメチル化体(H3K4me1/2)の脱メチル化を触媒する酵素であり、前立腺がんにおいて過剰発現してアンドロゲン受容体と相互作用しており、LSD1をノックダウンするとがん細胞の増殖が抑制されることが知られている。
LSD1阻害剤としては、上記のPCPAやその誘導体が知られているが(非特許文献13)、PCPAはLSD1阻害活性が弱く(IC50=21μM)、また、LSD1は同じアミンオキダーゼファミリーに属するポリアミンオキシダーゼ(PAO)やモノアミンオキシダーゼ(MAO)と相同性が高いために、従来公知のPCPA及びその誘導体はMAO-AやMAO-Bをも阻害してしまい、LSD1のみを選択的に阻害することができないという欠点があった。
宮田及び鈴木らは、式(1)若しくは(2)で表されるフェニルシクロプロピルアミン誘導体を合成し、当該化合物又はそれらの薬学上許容される塩、水和物、溶媒和物若しくはプロドラッグが、MAO-AやMAO-Bの阻害活性に比べてLSD1阻害活性が顕著に高く、LSD1選択的な阻害薬であり、かつがん細胞増殖抑制作用を有しており、抗がん剤として有用であることを見出した(特許文献4、非特許文献14)。
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、
は水素、置換基が結合していてもよいアルキル基、置換基が結合していてもよいフェニル基及び置換基が結合していてもよい複素環基のいずれかを示し、
は分枝を有することがあり置換基が結合していてもよいアルキレン基を示し、
は置換基が結合していてもよいアルキル基、置換基が結合していてもよいフェニル基、置換基が結合していてもよい複素環基及び置換基が結合していてもよいベンジル基のいずれかを示し、
は置換基が結合していてもよいアルキル基、置換基が結合していてもよいフェニル基、置換基が結合していてもよい複素環基、置換基が結合していてもよいアルキルオキシ基、置換基が結合していてもよいフェニルオキシ基、置換基が結合していてもよいアルキルアミノ基及び置換基が結合していてもよいフェニルアミノ基のいずれかを示し、
XはO、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)
【0007】
しかしながら、上記フェニルシクロプロピルアミン誘導体のiPS細胞の樹立効率改善効果については全く報告されていない。また、Shen Dingらの報告を初めとして、PCPAはLSD1阻害のIC50値より1オーダー低い濃度(2μM)で使用されていることから、PCPAのiPS樹立効率改善効果がLSD1阻害作用に基づくか否かは依然として不明のままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/069666号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009/117439号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2010/056831号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2010/143582号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 126: 663-676 (2006)
【非特許文献2】Okita, K. et al., Nature, 448: 313-317 (2007)
【非特許文献3】Nakagawa, M. et al., Nat. Biotechnol., 26: 101-106 (2008)
【非特許文献4】Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007)
【非特許文献5】Yu, J. et al., Science, 318: 1917-1920 (2007)
【非特許文献6】Stadtfeld, M. et al., Science, 322: 945-949 (2008)
【非特許文献7】Okita, K. et al., Science, 322: 949-953 (2008)
【非特許文献8】Yu, J. et al., Science, 324: 797-801 (2009)
【非特許文献9】Zhou, H. et al., Cell Stem Cell, 4: 381-384 (2009)
【非特許文献10】Kim, D. et al., Cell Stem Cell, 4: 472-476 (2009)
【非特許文献11】Li, W. et al., Stem Cell, 27: 2992-3000 (2009)
【非特許文献12】Zhou, H. et al., J. Biol. Chem., 285: 29676-29680 (2010)
【非特許文献13】Biochemistry, 46: 4408-4416 (2007)
【非特許文献14】Ueda, R. et al., J. Am. Chem. Soc., 131: 17536-17537 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、低分子化合物を用いてiPS細胞の樹立効率を改善する手段を提供することであり、それを用いた効率的なiPS細胞の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、成人皮膚由来線維芽細胞にOct3/4、Sox2、Klf4及びL-Mycの4遺伝子を導入した後、細胞を上記式(1)若しくは(2)で表されるフェニルシクロプロピルアミン誘導体、或いは抗うつ薬であるMAO阻害剤フェネルジン(フェネチルヒドラジン)を初めとするフェニルアルキルヒドラジン類化合物の存在下で培養することにより、ヒトiPS細胞の樹立効率を顕著に改善し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 核初期化工程において、式(I):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率改善方法。
[2] 式(I)で表される化合物が、式
【0017】
【化4】

【0018】
で表されるNCL−1、式
【0019】
【化5】

【0020】
で表されるNCL−2、式
【0021】
【化6】

【0022】
で表されるNCL−3、又は式
【0023】
【化7】

【0024】
で表されるNCL−4である、上記[1]記載の方法。
[3] 式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、上記[1]記載の方法。
【0025】
[4] 式(I):
【0026】
【化8】

【0027】
(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【0028】
【化9】

【0029】
(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物を含有してなる、iPS細胞の樹立効率改善剤。
[5] 式(I)で表される化合物が、式
【0030】
【化10】

【0031】
で表されるNCL−1、式
【0032】
【化11】

【0033】
で表されるNCL−2、式
【0034】
【化12】

【0035】
で表されるNCL−3、又は式
【0036】
【化13】

【0037】
で表されるNCL−4である、上記[4]記載の剤。
[6] 式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、上記[4]記載の剤。
[7] 式(I):
【0038】
【化14】

【0039】
(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【0040】
【化15】

【0041】
(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物と、核初期化物質とを、体細胞に接触させる工程を含む、iPS細胞の製造方法。
[8] 式(I)で表される化合物が、式
【0042】
【化16】

【0043】
で表されるNCL−1、式
【0044】
【化17】

【0045】
で表されるNCL−2、式
【0046】
【化18】

【0047】
で表されるNCL−3、又は式
【0048】
【化19】

【0049】
で表されるNCL−4である、上記[7]記載の方法。
[9] 式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、上記[7]記載の方法。
[10] 核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Klf4ファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Linファミリーのメンバー及びNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 核初期化物質がOct3/4、Klf4及びSox2、又はそれらをコードする核酸である、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[12] 核初期化物質がOct3/4、Klf4、Sox2並びにc-Myc若しくはL-Myc及び/又はNanog及び/又はLin28若しくはLin28B、又はそれらをコードする核酸である、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[13] 式(I):
【0050】
【化20】

【0051】
(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【0052】
【化21】

【0053】
(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物と、核初期化物質とを含有してなる、体細胞からのiPS細胞の誘導剤。
[14] 式(I)で表される化合物が、式
【0054】
【化22】

【0055】
で表されるNCL−1、式
【0056】
【化23】

【0057】
で表されるNCL−2、式
【0058】
【化24】

【0059】
で表されるNCL−3、又は式
【0060】
【化25】

【0061】
で表されるNCL−4である、上記[13]記載の剤。
[15] 式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、上記[13]記載の剤。
[16] 核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Klf4ファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Linファミリーのメンバー及びNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、上記[13]〜[15]のいずれかに記載の剤。
[17] 核初期化物質がOct3/4、Klf4及びSox2、又はそれらをコードする核酸である、上記[13]〜[15]のいずれかに記載の剤。
[18] 核初期化物質がOct3/4、Klf4、Sox2並びにc-Myc若しくはL-Myc及び/又はNanog及び/又はLin28若しくはLin28B、又はそれらをコードする核酸である、上記[13]〜[15]のいずれかに記載の剤。
[19] 下記の工程:
(1)上記[7]〜[12]のいずれかに記載の方法によりiPS細胞を製造する工程、及び
(2)上記工程(1)で得られたiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させる工程、
を含む、体細胞の製造方法。
[20] iPS細胞の樹立効率改善のための式(I):
【0062】
【化26】

【0063】
(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【0064】
【化27】

【0065】
(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物の使用。
[21] 式(I)で表される化合物が、式
【0066】
【化28】

【0067】
で表されるNCL−1、式
【0068】
【化29】

【0069】
で表されるNCL−2、式
【0070】
【化30】

【0071】
で表されるNCL−3、又は式
【0072】
【化31】

【0073】
で表されるNCL−4である、上記[20]記載の使用。
[22] 式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、上記[20]記載の使用。
[23] iPS細胞の樹立効率改善のための式(I):
【0074】
【化32】

【0075】
(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【0076】
【化33】

【0077】
(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物の使用であって、該化合物を核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
[24] 式(I)で表される化合物が、式
【0078】
【化34】

【0079】
で表されるNCL−1、式
【0080】
【化35】

【0081】
で表されるNCL−2、式
【0082】
【化36】

【0083】
で表されるNCL−3、又は式
【0084】
【化37】

【0085】
で表されるNCL−4である、上記[23]記載の使用。
[25] 式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、上記[23]記載の使用。
[26] 核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Klf4ファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Linファミリーのメンバー及びNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、上記[23]〜[25]のいずれかに記載の使用。
[27] 核初期化物質がOct3/4、Klf4及びSox2、又はそれらをコードする核酸である、上記[23]〜[25]のいずれかに記載の使用。
[28] 核初期化物質がOct3/4、Klf4、Sox2並びにc-Myc若しくはL-Myc及び/又はNanog及び/又はLin28若しくはLin28B、又はそれらをコードする核酸である、上記[23]〜[25]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0086】
核初期化の際に式(I)又は(II)で表される化合物を体細胞に接触させると、iPS細胞の樹立効率を顕著に向上させることができるので、従来樹立効率の低かったc-Mycを除く3因子によるヒトiPS細胞の誘導などに特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、L-Myc)導入による成人皮膚由来線維芽細胞(HDF)からのiPS細胞樹立効率に及ぼすNCL−1〜4及びフェネルジンの添加時期(d1-d5:遺伝子導入後1日目〜5日目;d4-d9:遺伝子導入後4日目〜9日目;d7-d14:遺伝子導入後7日目〜14日目)の効果を示す図である。縦軸はヒトiPS細胞のコロニー数を示す。DMSOは溶媒のみを添加した場合を示す。
【図2】4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、L-Myc)導入による成人皮膚由来線維芽細胞(HDF)からのiPS細胞樹立効率に及ぼすNCL−3及びフェネルジンの添加濃度(1、5、10、50、100及び500μM)の効果を示す図である。縦軸はヒトiPS細胞のコロニー数を示す。DMSOは溶媒のみを添加した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
本発明は、体細胞の核初期化工程において、上記の式(I)及び式(II)で表されるLSD1阻害薬並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物(以下、包括して本発明の樹立効率改善因子ともいう)を該体細胞に接触させることによる、iPS細胞の樹立効率の改善方法を提供する。ここで体細胞の核初期化は、体細胞に核初期化物質を導入することにより行われるので、本発明はまた、体細胞に上記因子と核初期化物質とを接触させることによる、iPS細胞の製造方法を提供する。尚、本明細書では、核初期化物質のみではiPS細胞が樹立できず、本発明の樹立効率改善因子とともに体細胞に接触させることによりiPS細胞が樹立される場合も、「樹立効率の改善」に該当するものとして取り扱う。
【0089】
(a)体細胞ソース
本発明においてiPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ウシ、ブタ、ラット、イヌ等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、及びそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0090】
体細胞を採取するソースとなる哺乳動物個体は特に制限されないが、得られるiPS細胞がヒトの再生医療用途に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者本人又はHLAの型が同一若しくは実質的に同一である他人から体細胞を採取することが特に好ましい。ここでHLAの型が「実質的に同一」とは、免疫抑制剤などの使用により、該体細胞由来のiPS細胞から分化誘導することにより得られた細胞を患者に移植した場合に移植細胞が生着可能な程度にHLAの型が一致していることをいう。たとえば主たるHLA(例えばHLA-A、HLA-B及びHLA-DRの3遺伝子座)が同一である場合などが挙げられる(以下同じ)。また、ヒトに投与(移植)しない場合、例えば、患者の薬剤感受性や副作用の有無を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてiPS細胞を使用する場合には、同様に患者本人又は薬剤感受性や副作用と相関する遺伝子多型が同一である他人から体細胞を採取することが望ましい。
【0091】
哺乳動物から分離した体細胞は、核初期化工程に供するに先立って、細胞の種類に応じてその培養に適した自体公知の培地で前培養することができる。そのような培地としては、例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられるが、それらに限定されない。本発明の樹立効率改善因子及び核初期化物質(さらに必要に応じて、後述する他のiPS細胞の樹立効率改善物質)との接触に際し、例えば、カチオニックリポソームなどの導入試薬を用いる場合には、導入効率の低下を防ぐため、無血清培地に交換しておくことが好ましい場合がある。
【0092】
(b)本発明の樹立効率改善因子
本発明の第1の樹立効率改善因子は、式(I)で表される、LSD1選択的阻害活性を有するフェニルシクロプロピルアミン誘導体(以下、フェニルシクロプロピルアミン誘導体(I)ともいう)、又はその薬学上許容される塩、溶媒和物若しくはプロドラッグである。
【0093】
【化38】

【0094】
(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)
【0095】
本明細書中、「アルキル(基)」は、直鎖状若しくは分枝状のアルキル(基)を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、ヘキシル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等のC1−10アルキル(基)が挙げられ、なかでもC1−6アルキル(基)が好ましい。
【0096】
本明細書中、「アルコキシ(基)」は、直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ(基)を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、tert−ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、2,2−ジメチルブトキシ、3,3−ジメチルブトキシ、2−エチルブトキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等のC1−10アルコキシ(基)が挙げられ、なかでもC1−6アルコキシ(基)が好ましい。
【0097】
本明細書中、「アルキレン基」は、直鎖状若しくは分枝状のアルキレン基を意味し、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、1−メチルエチレン、1−メチルトリメチレン、2−メチルトリメチレン、1,1−ジメチルエチレン、1−エチルエチレン、1−メチルテトラメチレン、2−エチルトリメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン等のC1−10アルキレン基が挙げられ、なかでもC1−6アルキレン基が好ましく、エチレンがより好ましい。
【0098】
本明細書中、「アリール(基)」は、芳香性を有する炭化水素基を意味し、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニル等のC6−12アリール(基)が挙げられ、なかでもC6−10アリール(基)が好ましく、フェニルがより好ましい。
【0099】
本明細書中、「アラルキル(基)」に関し、そのアリール部としては、上記「アリール(基)」と同様の基が挙げられ、そのアルキル部としては、上記「アルキル(基)」と同様の基が挙げられる。「アラルキル(基)」の好適な具体例としては、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、1−フェニルプロピル、1−フェニルブチル、1−フェニルペンチル、(1−ナフチル)メチル、(2−ナフチル)メチル、1−(1−ナフチル)エチル、1−(2−ナフチル)エチル、2−(1−ナフチル)エチル、2−(2−ナフチル)エチル等のC6−10アリール−C1−6アルキル(基)が挙げられ、なかでもフェニル−C1−3アルキル(基)が好ましく、ベンジルがより好ましい。
【0100】
本明細書中、「複素環基(「複素環−」も含む)」としては、芳香族複素環基及び非芳香族複素環基が挙げられる。
芳香族複素環基としては、例えば、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1から4個含有する4から7員(好ましくは5又は6員)の単環式芳香族複素環基及び縮合芳香族複素環基が挙げられる。該縮合芳香族複素環基としては、例えば、これら4から7員の単環式芳香族複素環基に対応する環と、1又は2個の窒素原子を含む5又は6員の芳香族複素環(例、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリジン、ピリミジン)、1個の硫黄原子を含む5員の芳香族複素環(例、チオフェン)及びベンゼン環から選ばれる1又は2個が縮合した環から誘導される基等が挙げられる。
芳香族複素環基の具体例としては、例えば、
フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、フラザニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル等の単環式芳香族複素環基;及び
ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾ[b]チエニル、インドリル、イソインドリル、1H−インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾ[d]イソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾ[d]イソチアゾリル、1H−ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、α−カルボリニル、β−カルボリニル、γ−カルボリニル、アクリジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、フェナトリジニル、フェナトリジニル、フェナントロリニル、インドリジニル、ピロロ[1,2−b]ピリダジニル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジル、イミダゾ[1,2−a]ピリジル、イミダゾ[1,5−a]ピリジル、イミダゾ[1,2−a]ピリダジニル、イミダゾ[1,2−a]ピリミジニル、1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピリジル、1,2,4−トリアゾロ[4,3−b]ピリダジニル等の縮合芳香族複素環基;
が挙げられる。
非芳香族複素環基としては、例えば、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1から4個含有する4から7員(好ましくは5又は6員)の単環式非芳香族複素環基及び縮合非芳香族複素環基が挙げられる。該縮合非芳香族複素環基としては、例えば、これら4から7員の単環式非芳香族複素環基に対応する環と、1又は2個の窒素原子を含む5又は6員の芳香族複素環(例、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリジン、ピリミジン)、1個の硫黄原子を含む5員の芳香族複素環(例、チオフェン)及びベンゼン環から選ばれる1又は2個の環が縮合した環から誘導される基、ならびに該基の部分飽和により得られる基等が挙げられる。
非芳香族複素環基の具体例としては、例えば、
アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、チオラニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、オキサゾリジニル、チアゾリジニル、ピペリジル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル等の単環式非芳香族複素環基;及び
イソクロマニル、ジヒドロベンゾピラニル、ジヒドロキノリル、イソクロメニル、クロメニル(2H−クロメニル、4H−クロメニル)、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリル、1,2,3,4−テトラヒドロキノリル、2,3−ジヒドロベンゾフラニル、ベンゾ[1,3]ジオキソリル等の縮合非芳香族複素環基;
が挙げられる。
【0101】
本明細書中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0102】
本明細書中、「アシル(基)」は、ホルミル基;又は「アルキル基(前記と同義)」又は「アルコキシ基(前記と同義)」が結合したカルボニル基を意味する。「アシル(基)」の好適な具体例としては、ホルミル;アセチル、プロピオニル、ブチリル等のC1−6アルキル−カルボニル基;ホルミルオキシ;アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ等のC1−6アルコキシ−カルボニル基等が挙げられる。
【0103】
本明細書中、「シクロアルキル(基)」は、環状の非芳香族炭化水素基を意味し、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル等のC3−10シクロアルキル(基)が挙げられ、なかでもC3−6シクロアルキル(基)が好ましい。
【0104】
「置換されていてもよいアルキル基」、「置換されていてもよいアルコキシ基」、「置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基」及び「置換されていてもよいアルキレン基」における「置換基」としては、特に限定されないが、例えば、
(1) ハロゲン原子、
(2) 水酸基、
(3) アルコキシ基、
(4) アリールオキシ基、
(5) アラルキルオキシ基、
(6) 複素環−オキシ基、
(7) アシルオキシ基、
(8) スルファニル基、
(9) アルキルスルファニル基、
(10) アリールスルファニル基、
(11) アラルキルスルファニル基、
(12) 複素環−スルファニル基、
(13) アルキルスルホニル基、
(14) アリールスルホニル基、
(15) アラルキルスルホニル基、
(16) 複素環−スルホニル基、
(17) モノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、
(18) モノ−若しくはジ−アリールアミノ基、
(19) モノ−若しくはジ−アラルキルアミノ基、
(20) モノ−若しくはジ−複素環−アミノ基、
(21) モノ−若しくはジ−アシルアミノ基、
(22) カルボキシル基、
(23) アルコキシカルボニル基、
(24) アルキルカルボニル基、
(25) アリールカルボニル基、
(26) アリールオキシカルボニル基、
(27) アラルキルカルボニル基、
(28) アラルキルオキシカルボニル基、
(29) 複素環−カルボニル基、
(30) モノ−若しくはジ−アルキルカルバモイル基、
(31) モノ−若しくはジ−アリールカルバモイル基、
(32) モノ−若しくはジ−アラルキルカルバモイル基、
(33) モノ−若しくはジ−複素環−カルバモイル基、
(34) シクロアルキル基、
(35) アリール基、
(36) 複素環基
等が挙げられる。
これらの置換基は置換可能な位置に存在し、その数は1〜数個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個である。置換基の数が2個以上の場合は同一又は異なっていてもよい。
上記の置換基は、さらに、アルキル基、アミノ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子、グアニジノ基等の置換基で置換されていてもよい。
【0105】
「置換されていてもよいアリール基」、「置換されていてもよい複素環基」、「置換されていてもよいアリールオキシ基」、「置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基」及び「置換されていてもよいアラルキル基」における「置換基」としては、特に限定されないが、例えば、
(1) 上記の「置換されていてもよいアルキル基」等の置換基として例示した基、(2) アルキル基(当該アルキル基は、アミノ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子、グアニジノ基等の置換基で置換されていてもよい。)
等が挙げられる。
これらの置換基は置換可能な位置に存在し、その数は1〜数個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個である。置換基の数が2個以上の場合は同一又は異なっていてもよい。
【0106】
式(I)において、Rは、
好ましくは、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rは前記と同義である。)であり、
より好ましくは、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいC6−10アリール基である。)であり、
さらに好ましくは、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいフェニル(好適な置換基は、ハロゲン原子、C1−6アルキル基(グアニジノ基で置換されていてもよい)、C6−10アリール基、非芳香族複素環−カルボニル基(好ましくはピペラジニルカルボニル)、C1−6アルキル−カルバモイル基(アミノ基で置換されていてもよい))である。)であり、
特に好ましくは、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rは、フェニルである。)である。
【0107】
式(I)において、Rは、好ましくは、置換されていてもよいC1−6アルキレン基であり、より好ましくは、置換されていてもよいエチレンであり、特に好ましくはエチレンである。
【0108】
式(I)において、Rは、
好ましくは、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基であり、
より好ましくは、置換されていてもよいC6−10アリール基、又は置換されていてもよいC6−10アリール−C1−3アルキル基であり、
さらに好ましくは、置換されていてもよいC6−10アリール−C1−3アルキル基であり、
さらにより好ましくは、置換されていてもよいベンジル(好適な置換基は、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C3−6シクロアルキル基)であり、
特に好ましくは、ベンジルである。
【0109】
式(I)において、Xは、好ましくは、Oである。
【0110】
式(I)において、アミノ置換シクロプロピル基は、基Xに対して、メタ位又はパラ位に結合していることが好ましい。即ち、式(I)は、好ましくは、
【0111】
【化39】

【0112】
又は
【0113】
【化40】

【0114】
である。
【0115】
好適なフェニルシクロプロピルアミン誘導体(I)は、
が、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rは前記と同義である。)で表される基であり、
が、置換されていてもよいC1−6アルキレン基であり、
が、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基であり、
Xが、Oである化合物である。
【0116】
より好適なフェニルシクロプロピルアミン誘導体(I)は、
が、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rは置換されていてもよいC6−10アリール基である。)で表される基であり、
が、置換されていてもよいC1−6アルキレン基であり、
が、置換されていてもよいC6−10アリール基、又は置換されていてもよいC6−10アリール−C1−3アルキル基であり、
Xが、Oである化合物である。
【0117】
さらに好適なフェニルシクロプロピルアミン誘導体(I)は、
が、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rは置換されていてもよいフェニルである。)で表される基であり、
が、置換されていてもよいエチレンであり、
が、置換されていてもよいC6−10アリール−C1−3アルキル基であり、
Xが、Oである化合物である。
【0118】
さらにより好適なフェニルシクロプロピルアミン誘導体(I)は、
が、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rは置換されていてもよいフェニルである。)で表される基であり、
が、エチレンであり、
が、置換されていてもよいベンジルであり、
Xが、Oである化合物である。
【0119】
特に好適なフェニルシクロプロピルアミン誘導体(I)は、
が、水素原子、又は式−NHCO−R(式中、Rはフェニルである。)で表される基であり、
が、エチレンであり、
が、ベンジルであり、
Xが、Oである化合物である。
【0120】
具体的には、式
【0121】
【化41】

【0122】
で表されるNCL−1、式
【0123】
【化42】

【0124】
で表されるNCL−2、式
【0125】
【化43】

【0126】
で表されるNCL−3、式
【0127】
【化44】

【0128】
で表されるNCL−4であり、より好ましくはNCL−1、NCL−3及びNCL−4であり、さらに好ましくはNCL−1及びNCL−3であり、特に好ましくはNCL−3である。
【0129】
フェニルシクロプロプルアミン誘導体(I)の薬学上許容される塩としてしては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、グリコール酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、これらの塩を組合せて用いることもできる。好ましくは塩酸塩である。
【0130】
フェニルシクロプロプルアミン誘導体(I)のプロドラッグとは、生体内で加水分解されてフェニルシクロプロピルアミン誘導体(I)に変換される化合物をいい、例えば、アミノ基をアルカノイル基(アシル基)に置換した誘導体(すなわちアミド化した誘導体)、ヘミアミナールエーテル誘導体、アルコキシカルボニルオキシメチル基に置換した誘導体、N−オキシド誘導体等が挙げられる。
【0131】
フェニルシクロプロプルアミン誘導体(I)はWO 2010/143582記載の方法及びそれに準じた方法によって合成することができる。具体的には以下の製法によって合成され得る。尚、スキーム中の各反応条件は一例を示すものであって、当業者であれば所望により適宜変更及び修飾することができる。特に断りのない限り、スキーム中の各記号の定義は上述と同義である。
以下、式(I)中のRが式−NHCO−R(式中、Rは前記と同義である。)で表される基であり、XがOであり、かつRがエチレン基の場合を例にとって説明する。
製法1(式(I)化合物の製造−メタ位)
工程1−1
【0132】
【化45】

【0133】
上記工程により、前駆体である化合物(9)を合成する。
工程1−2
【0134】
【化46】

【0135】
上記工程により、前駆体である化合物(13)を合成する。
工程1−3
工程1−1で合成したカップリング前駆体である化合物(9)と、工程1−2で合成したカップリング前駆体である化合物(13)とを用いて下記に示す合成ルートに従い、光延反応を用いたカップリング反応を行う。
【0136】
【化47】

【0137】
製法2(式(I)化合物の製造−パラ位)
工程2−1
【0138】
【化48】

【0139】
上記工程により、前駆体である化合物(21)を合成する。
工程2−2
工程1−2で合成したカップリング前駆体である化合物(13)と、工程2−1で合成したカップリング前駆体である化合物(21)とを用いて下記に示す合成ルートに従い、光延反応を用いたカップリング反応を行う。
【0140】
【化49】

【0141】
製法3(式(I)化合物の製造−メタ位)
工程3−1
【0142】
【化50】

【0143】
上記工程により、前駆体である化合物(24)を合成する。
工程3−2
工程1−1で合成したカップリング前駆体である化合物(9)と、工程3−1で合成したカップリング前駆体である化合物(24)とを用いて下記に示す合成ルートに従い、光延反応を用いたカップリング反応を行う。
【0144】
【化51】

【0145】
製法4(式(I)化合物の製造−パラ位)
工程2−1で合成したカップリング前駆体である化合物(21)と、工程3−1で合成したカップリング前駆体である化合物(24)とを用いて下記に示す合成ルートに従い、光延反応を用いたカップリング反応を行う。
【0146】
【化52】

【0147】
本発明の第2の樹立効率改善因子は、式(II)で表されるフェニルアルキルヒドラジン化合物(以下、フェニルアルキルヒドラジン化合物(II)ともいう)、又はその薬学上許容される塩、溶媒和物若しくはプロドラッグである。
【0148】
【化53】

【0149】
(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
【0150】
置換基RにおけるC1-4アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等が挙げられ、なかでもC1−3アルキル(基)が好ましい。
置換基RにおけるC1-3アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられ、なかでもC1−3アルコキシ(基)が好ましい。
置換基Rにおけるアリール基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニル等のC6−12アリール(基)が挙げられ、なかでもフェニルが好ましい。
置換基Rにおけるアラルキル基としては、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、1−フェニルプロピル、1−フェニルブチル等が挙げられ、なかでもフェニル−C1−3アルキル(基)が好ましく、ベンジルがより好ましい。
置換基Rにおけるフェニルアルコキシ基としては、例えば、フェニルメトキシ、フェニルエトキシ、フェニルプロポキシ等が挙げられる。
置換基Rにおけるアルキレンジオキシ基としては、例えば、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ等が挙げられる。
置換基Rにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0151】
置換基R’におけるC1-3アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル等が挙げられる。
置換基R’におけるC3-6シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。
置換基R’におけるアラルキル基としては、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、1−フェニルプロピル等が挙げられ、なかでもベンジルが好ましい。
【0152】
置換基R”におけるC1-6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、ヘキシル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル等が挙げられ、なかでもC1−3アルキル(基)が好ましい。
置換基R”におけるC1-6ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル等が挙げられる。
置換基R”におけるC2-4アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、1−(2−プロペニル)、1−(2−ブテニル)等が挙げられる。
置換基R”における置換されていてもよいアリール基としては、例えば、フェニル、ヒドロキシフェニル、メトキシフェニル、クロロフェニル、アセトキシフェニル等が挙げられる。
置換基R”における置換されていてもよいアラルキル基としては、例えば、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルイソプロピル、p−クロロフェニルプロピル等が挙げられる。
置換基R”におけるC3-6シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。
置換基R”におけるC2-4アルキニル基としては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル等が挙げられる。
【0153】
置換基Yにおける直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基としては、例えば、エチレン、1−メチルエチレン、プロピレン、2−メチルメチレン、ブチレン、1−メチルプロピレン、2−メチルプロピレン、3−メチルプロピレン、3−メチルブチレン等が挙げられ、なかでもエチレンが好ましい。
【0154】
特に好適なフェニルアルキルヒドラジン化合物(II)は、
R、R’及びR”が水素原子であり、
Yがエチレンである下式で表される化合物、即ち、フェネルジン(フェネチルヒドラジン)である。
【0155】
【化54】

【0156】
フェニルアルキルヒドラジン化合物(II)の薬学上許容される塩としてしては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、グリコール酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、これらの塩を組合せて用いることもできる。好ましくは塩酸塩である。
【0157】
フェニルアルキルヒドラジン化合物(II)のプロドラッグとは、生体内で加水分解されてフェニルアルキルヒドラジン化合物(II)に変換される化合物をいい、例えば、アミノ基をアルカノイル基(アシル基)に置換した誘導体(すなわちアミド化した誘導体)、ヘミアミナールエーテル誘導体、アルコキシカルボニルオキシメチル基に置換した誘導体、N−オキシド誘導体等が挙げられる。
【0158】
フェニルアルキルヒドラジン化合物(II)は、米国特許第3,000,903号記載の方法及びそれに準じた方法によって合成することができる。
【0159】
本発明の樹立効率改善因子は、iPS細胞の樹立効率改善に十分で且つ細胞毒性がみられない濃度範囲で使用することができるが、例えばNCL−3の場合であれば、0.1〜50μM、好ましくは1〜10μM、フェネルジンの場合であれば、0.1〜200μM、好ましくは1〜100μMの濃度で用いることができる。
本発明の樹立効率改善因子の体細胞への接触は、該因子を適当な濃度でDMSO等の非水性溶媒に溶解し、ヒト又は他の哺乳動物より単離した体細胞の培養に適した培地(例えば、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地(約5〜20%の胎仔ウシ血清を含んでもよい)等)中に、該溶液を因子濃度が上記の範囲となるように添加して、細胞を一定期間培養することにより実施することができる。接触期間は体細胞の核初期化が達成されるのに十分な時間であれば特に制限はないが、例えば、約4〜約14日間、好ましくは約5〜10日間接触させることができる。体細胞と接触させるタイミングも特に制限はなく、核初期化物質と同時に体細胞と接触させてもよいし、核初期化物質と接触後約1〜約10日目に接触させてもよい。好ましくは核初期化物質と接触後約5〜約10日目、より好ましくは約6〜約8日目の体細胞に、本発明の樹立効率改善因子を接触させることができる。
【0160】
(c)核初期化物質
本発明において「核初期化物質」とは、体細胞に導入することにより、或いは本発明の樹立効率改善因子と共に体細胞に接触させることにより、該体細胞からiPS細胞を誘導することができる物質(群)であれば、タンパク性因子又はそれをコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)、或いは低分子化合物等のいかなる物質から構成されてもよい。核初期化物質がタンパク性因子又はそれをコードする核酸の場合、好ましくは以下の組み合わせが例示される(以下においては、タンパク性因子の名称のみを記載する)。
(1) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(2) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17又はSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2又はKlf5で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), L-Mycで置換可能である。)
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Fbx15, Nanog, ERas, TclI
(4) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, SV40 Large T antigen(以下、SV40LT)
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E6
(6) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E7
(7) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV6 E6, HPV16 E7
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, Bmil
(以上、WO 2007/069666を参照(但し、上記(2)の組み合わせにおいて、Sox2からSox18への置換、Klf4からKlf1若しくはKlf5への置換については、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007) 等も参照。「Oct3/4, Klf2(又はKlf5), c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) も参照。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, hTERT, SV40LT」の組み合わせについては、Nature, 451, 141-146 (2008)も参照。)
(9) Oct3/4, Klf4, Sox2(Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)
(10) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28(Science, 318, 1917-1920 (2007)を参照)
(11) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28, hTERT, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)を参照)
(12) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28(Cell Research (2008) 600-603を参照)
(13) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)も参照)
(14) Oct3/4, Klf4(Nature 454:646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2:525-528(2008))を参照)
(15) Oct3/4, c-Myc(Nature 454:646-650 (2008)を参照)
(16) Oct3/4, Sox2 (Nature, 451, 141-146 (2008), WO2008/118820を参照)
(17) Oct3/4, Sox2, Nanog (WO2008/118820を参照)
(18) Oct3/4, Sox2, Lin28 (WO2008/118820を参照)
(19) Oct3/4, Sox2, c-Myc, Esrrb (ここで、EssrrbはEsrrgで置換可能である。Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(20) Oct3/4, Sox2, Esrrb (Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(21) Oct3/4, Klf4, L-Myc (Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 107, 14152-14157 (2010) を参照)
(22) Oct3/4, Nanog
(23) Oct3/4 (Cell 136: 411-419 (2009)、Nature, 08436, doi:10.1038 published online(2009)
(24) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28, SV40LT(Science, 324: 797-801 (2009)を参照)
(25) Nr5a2, Sox2, Klf4, c-Myc (ここで、Nr5a2はNr5a1で置換可能である。Cell Stem Cell. 6:167-74 (2010)を参照)
(26) Oct3/4, Sox2, Klf4, Tbx3 (Nature. 463:1096-100 (2010) を参照)
(27) Nr5a2, Sox2, c-Myc, GLISl (WO 2010/098419を参照)
【0161】
上記(1)-(27)において、Oct3/4を含む場合、Oct3/4に代えて他のOctファミリーのメンバー、例えばOct1A、Oct6などを用いることもできる。また、Sox2を含む場合、Sox2(又はSox1、Sox3、Sox15、Sox17、Sox18)に代えて他のSoxファミリーのメンバー、例えばSox7などを用いることもできる。さらに上記(1)-(27)においてc-Myc又はLin28を核初期化物質として含む場合、c-Myc又はLin28に代えてそれぞれL-Myc又はLin28Bを用いることもできる。
【0162】
また、上記(1)-(27)には該当しないが、それらのいずれかにおける構成要素をすべて含み、且つ任意の他の物質をさらに含む組み合わせも、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。また、核初期化の対象となる体細胞が上記(1)-(27)のいずれかにおける構成要素の一部を、核初期化のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該構成要素を除いた残りの構成要素のみの組み合わせもまた、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。
【0163】
これらの組み合わせの中で、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc若しくはL-Myc, Nanog, Lin28若しくはLin28B及びSV40LTから選択される少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上が、好ましい核初期化物質の例として挙げられる。
とりわけ、得られるiPS細胞を治療用途に用いることを念頭においた場合、c-Mycを用いない初期化因子の組み合わせが好ましい。例えばOct3/4, Sox2及びKlf4の3因子の組み合わせ(即ち、上記(9))、Oct3/4, Sox2, Klf4及びL-Mycの4因子の組み合わせ(即ち、上記(2))、又はこれらの組み合わせを含みかつc-Mycを含まない組み合わせを例示することができる。一方、iPS細胞を治療用途に用いることを念頭に置かない場合(例えば、創薬スクリーニング等の研究ツールとして用いる場合など)は、Oct3/4, Sox2及びKlf4の3因子、Oct3/4, Sox2, Klf4及びL-Mycの4因子のほか、Oct3/4, Sox2, Klf4及びc-Mycの4因子、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc/L-Myc及び/又はNanog及び/又はLin28/Lin28Bの5又は6因子、さらにSV40 Large Tを加えた6又は7因子などを例示することができる。
【0164】
上記の各タンパク性因子のマウス及びヒトcDNA配列情報は、WO 2007/069666又はWO 2010/098419に記載のNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ(Nanogは当該公報中では「ECAT4」との名称で記載されている。尚、Lin28、Lin28B、Esrrb、Esrrg、L-Myc、Nr5a2、Nr5a1及びTbx3のマウス及びヒトcDNA配列情報は、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。)、当業者は容易にこれらのcDNAを単離することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
L-Myc NM_008506 NM_001033081
Nr5a2 NM_030676 NM_205860
Nr5a1 NM_139051 NM_004959
Tbx3 NM_011535 NM_005996
【0165】
核初期化物質としてタンパク性因子自体を用いる場合には、得られたcDNAを適当な発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入し、該細胞を培養して得られる培養物から組換えタンパク性因子を回収することにより調製することができる。一方、核初期化物質としてタンパク性因子をコードする核酸を用いる場合、得られたcDNAを、ウイルスベクター、プラスミドベクター、エピソーマルベクター等に挿入して発現ベクターを構築し、核初期化工程に供される。
【0166】
(d)核初期化物質の体細胞への導入方法
核初期化物質の体細胞への導入は、該物質がタンパク性因子である場合、自体公知の細胞へのタンパク質導入方法を用いて実施することができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)若しくは細胞透過性ペプチド(CPP)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes)、Pro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)及びProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)及びChariot Kit(Active Motif)、HVJエンベロープ(不活化センダイウイルス)を利用したGenomONE(石原産業)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。核初期化物質を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
【0167】
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT (Frankel, A. et al, Cell 55, 1189-93 (1988); Green, M. & Loewenstein, P.M. Cell 55, 1179-88 (1988))、Penetratin (Derossi, D. et al, J. Biol. Chem. 269, 10444-50 (1994))、Buforin II (Park, C. B. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50 (2000))、Transportan (Pooga, M. et al. FASEB J. 12, 67-77 (1998))、MAP (model amphipathic peptide) (Oehlke, J. et al. Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39 (1998))、K-FGF (Lin, Y. Z. et al. J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995))、Ku70 (Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003))、Prion (Lundberg, P. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90 (2002))、pVEC (Elmquist, A. et al. Exp. Cell Res. 269, 237-44 (2001))、Pep-1 (Morris, M. C. et al. Nature Biotechnol. 19, 1173-6 (2001))、Pep-7 (Gao, C. et al. Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65 (2002))、SynBl (Rousselle, C. et al. Mol. Pharmacol. 57, 679-86 (2000))、HN-I (Hong, F. D. & Clayman, G L. Cancer Res. 60, 6551-6 (2000))、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。PTD由来のCPPとしては、11R (Cell Stem Cell, 4:381-384(2009)) や9R (Cell Stem Cell, 4:472-476(2009))等のポリアルギニンが挙げられる。
【0168】
核初期化物質のcDNAとPTD若しくはCPP配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。
【0169】
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。
【0170】
タンパク質導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下等)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回又は4回)繰り返して行うことができる。導入操作を繰り返し行う場合の間隔としては、例えば6時間〜7日間、好ましくは12〜48時間若しくは7日間が挙げられる。
【0171】
iPS細胞の樹立効率を重視するのであれば、核初期化物質を、タンパク性因子自体としてではなく、それをコードする核酸の形態で用いることが好ましい。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、或いはDNA/RNAキメラであってもよいが、また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。好ましくは該核酸は二本鎖DNA、特にcDNAである。
核初期化物質のcDNAは、宿主となる体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクター、動物細胞発現プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。
【0172】
用いるベクターの種類は、得られるiPS細胞の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、アデノウイルスベクター、プラスミドベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクター、エピソーマルベクターなどが使用され得る。
【0173】
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0174】
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0175】
核初期化物質である核酸(初期化遺伝子)は、各々別個の発現ベクター上に組み込んでもよいし、1つの発現ベクターに2種類以上、好ましくは2〜3種類の遺伝子を組み込んでもよい。遺伝子導入効率の高いレトロウイルスやレンチウイルスベクターを用いる場合は前者が、プラスミド、アデノウイルス、エピソーマルベクターなどを用いる場合は後者を選択することが好ましい。さらに、2種類以上の遺伝子を組み込んだ発現ベクターと、1遺伝子のみを組み込んだ発現ベクターとを併用することもできる。
【0176】
上記において複数の初期化遺伝子(例えば、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycから選択される2つ以上、好ましくは2〜3遺伝子)を1つの発現ベクターに組み込む場合、これら複数の遺伝子は、好ましくはポリシストロニック発現を可能にする配列を介して発現ベクターに組み込むことができる。ポリシストロニック発現を可能にする配列を用いることにより、1種類の発現ベクターに組み込まれている複数の遺伝子をより効率的に発現させることが可能になる。ポリシストロニック発現を可能にする配列としては、例えば、口蹄疫ウイルスの2A配列(PLoS ONE3, e2532, 2008、Stem Cells 25, 1707, 2007)、IRES配列(U.S. Patent No. 4,937,190)など、好ましくは2A配列を用いることができる。
【0177】
初期化遺伝子を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、該核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。例えば、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる具体的手段が WO2007/69666、Cell, 126, 663-676 (2006) 及び Cell, 131, 861-872 (2007) に開示されており、ベクターとしてレンチウイルスベクターを用いる場合については、Science, 318, 1917-1920 (2007) に開示がある。iPS細胞を移植治療等の医療用途に利用する場合、初期化遺伝子の発現(再活性化)は、iPS細胞から分化させた移植細胞における発癌リスクを高める可能性があるので、初期化遺伝子は細胞の染色体に組み込まれず、一過的に発現することが好ましい。かかる観点からは、染色体への組込みが稀なアデノウイルスベクターの使用が好ましい。アデノウイルスベクターを用いる具体的手段は、Science, 322, 945-949 (2008)に開示されている。また、アデノ随伴ウイルスも染色体への組込み頻度が低く、アデノウイルスベクターと比べて細胞毒性や炎症惹起作用が低いので、別の好ましいベクターとして挙げられる。センダイウイルスベクターは染色体外で安定に存在することができ、必要に応じてsiRNAにより分解除去することができるので、同様に好ましく利用され得る。センダイウイルスベクターについては、J. Biol. Chem., 282, 27383-27391 (2007) や特許第3602058号に記載のものを用いることができる。
【0178】
レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを用いる場合は、いったん導入遺伝子のサイレンシングが起こったとしても、後に再活性化される可能性があるので、例えば、Cre/loxPシステムを用いて、不要となった時点で核初期化物質をコードする核酸を切り出す方法が好ましく用いられ得る。即ち、該核酸の両端にloxP配列を配置しておき、iPS細胞が誘導された後で、プラスミドベクター若しくはアデノウイルスベクターを用いて細胞にCreリコンビナーゼを作用させ、loxP配列に挟まれた領域を切り出すことができる。また、LTR U3領域のエンハンサー−プロモーター配列は、挿入突然変異によって近傍の宿主遺伝子を上方制御する可能性があるので、当該配列を欠失、若しくはSV40などのポリアデニル化配列で置換した3’-自己不活性化(SIN)LTRを使用して、切り出されずゲノム中に残存するloxP配列より外側のLTRによる内因性遺伝子の発現制御を回避することがより好ましい。Cre-loxPシステム及びSIN LTRを用いる具体的手段は、Chang et al., Stem Cells, 27: 1042-1049 (2009) に開示されている。
【0179】
一方、非ウイルスベクターであるプラスミドベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。ベクターとしてプラスミドを用いる具体的手段は、例えばScience, 322, 949-953 (2008) 等に記載されている。
【0180】
プラスミドベクターやアデノウイルスベクター等を用いる場合、遺伝子導入は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下など)行うことができる。2種以上の発現ベクターを体細胞に導入する場合には、これらの全ての種類の発現ベクターを同時に体細胞に導入することが好ましいが、この場合においても、導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下など)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回又は4回)繰り返して行うことができる。
【0181】
尚、アデノウイルスやプラスミドを用いる場合でも、導入遺伝子が染色体に組み込まれることがあるので、結局はサザンブロットやPCRにより染色体への遺伝子挿入がないことを確認する必要がある。そのため、上記Cre-loxPシステムのように、いったん染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、該遺伝子を除去する手段を用いることは好都合であり得る。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクター若しくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる。piggyBacトランスポゾンを用いる具体的手段は、Kaji, K. et al., Nature, 458: 771-775 (2009)、Woltjen et al., Nature, 458: 766-770 (2009) に開示されている。
別の好ましい非組込み型ベクターとして、染色体外で自律複製可能なエピソーマルベクターが挙げられる。エピソーマルベクターを用いる具体的手段は、Yu et al., Science, 324, 797-801 (2009)に開示されている。
【0182】
本発明に用いられるエピソーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要なベクター要素としては、具体的には、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子であり、例えば、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子が挙げられる。
【0183】
また、エピソーマル発現ベクターは、初期化遺伝子の転写を制御するプロモーターを含む。該プロモーターとしては、前記と同様のプロモーターが用いられ得る。また、エピソーマル発現ベクターは、前記と同様に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子などをさらに含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0184】
エピソーマルベクターは、例えばリポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。具体的には、例えばScience, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0185】
iPS細胞からエピソーマルベクターが除去されたか否かの確認は、該ベクターの一部をプローブ又はプライマーとして用い、iPS細胞から単離したエピソーム画分を鋳型としてサザンブロット分析又はPCR分析を行い、バンドの有無又は検出バンドの長さを調べることにより実施することができる。エピソーム画分の調製は当該分野で周知の方法と用いて行えばよく、例えば、Science, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0186】
(e)他のiPS細胞の樹立効率改善物質
従来iPS細胞の樹立効率が低いために、近年、その効率を改善する物質が種々提案されている。よって前記本発明の樹立効率改善因子に加え、他の樹立効率改善物質を体細胞に接触させることにより、iPS細胞の樹立効率をより高めることが期待できる。
他のiPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA(TSA)、酪酸ナトリウム(Cell Stem Cell, 7: 651-655 (2010))、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNA及びshRNA(例、HDAC1 siRNA SmartpoolTM(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine (5’azaC))(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNA及びshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNA、shRNA、ドミナントネガティブ体など (Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008); Nature 460, 1132-1135 (2009)))、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、2i/LIF (2iはmitogen-activated protein kinase signalling及びglycogen synthase kinase-3の阻害剤; PLoS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、ES細胞特異的miRNA(例えば、miR-302-367クラスター (Mol. Cell. Biol. doi:10.1128/MCB.00398-08)、miR-302 (RNA (2008) 14: 1-10)、miR-291-3p, miR-294及びmiR-295 (以上、Nat. Biotechnol. 27: 459-461 (2009)))、3’-phosphoinositide-dependent kinase-1 (PDK1) acitvator(例、PS48 (Cell Stem Cell, 7: 651-655 (2010)) など)、神経ペプチドY(WO 2010/147395)、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2及びプロスタグランジンJ2)(WO 2010/068955)等が挙げられるが、それらに限定されない。前記で核酸性の発現阻害剤はsiRNA若しくはshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
【0187】
尚、前記核初期化物質の構成要素のうち、例えばSV40 large T等は、体細胞の核初期化のために必須ではなく補助的な因子であるという点において、iPS細胞の樹立効率改善物質の範疇にも含まれ得る。核初期化の機序が明らかでない現状においては、核初期化に必須の因子以外の補助的な因子について、それらを核初期化物質として位置づけるか、或いはiPS細胞の樹立効率改善物質として位置づけるかは便宜的であってもよい。即ち、体細胞の核初期化プロセスは、体細胞への核初期化物質及びiPS細胞の樹立効率改善物質の接触によって生じる全体的事象として捉えられるので、当業者にとって両者を必ずしも明確に区別する必要性はないであろう。
【0188】
他のiPS細胞の樹立効率改善物質の体細胞への接触は、該物質が(a) タンパク性因子である場合、(b) 該タンパク性因子をコードする核酸である場合に応じて、核初期化物質についてそれぞれ上記したと同様の方法により、実施することができる。一方、該物質が(c) 低分子化合物である場合、該物質の体細胞への接触は、該因子を適当な濃度で水性若しくは非水性溶媒に溶解し、ヒト又は他の哺乳動物より単離した体細胞の培養に適した培地(例えば、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地(約5〜20%の胎仔ウシ血清を含んでもよい)等)中に添加して、細胞を一定期間培養することにより実施することができる。因子濃度は用いる樹立効率改善物質の種類によって異なるが、約0.1nM〜約100μMの範囲で適宜選択される。接触期間は細胞の核初期化が達成されるのに十分な時間であれば特に制限はないが、通常は陽性コロニーが出現するまで培地に共存させておけばよい。
【0189】
他のiPS細胞の樹立効率改善物質は、該物質の非存在下と比較して体細胞からのiPS細胞樹立効率が有意に改善される限り、核初期化物質と同時に体細胞に接触させてもよいし、また、どちらかを先に接触させてもよい。一実施態様において、例えば、核初期化物質がタンパク性因子をコードする核酸であり、iPS細胞の樹立効率改善物質が化学的阻害物質である場合には、前者は遺伝子導入処理からタンパク性因子を大量発現するまでに一定期間のラグがあるのに対し、後者は速やかに細胞に作用しうることから、遺伝子導入処理から一定期間細胞を培養した後に、iPS細胞の樹立効率改善物質を培地に添加することができる。別の実施態様において、例えば、核初期化物質とiPS細胞の樹立効率改善物質とがいずれもウイルスベクターやプラスミドベクターの形態で用いられる場合には、両者を同時に細胞に導入してもよい。
【0190】
(f)培養条件による樹立効率の改善
体細胞の核初期化工程において低酸素条件下で細胞を培養することにより、iPS細胞の樹立効率をさらに改善することができる(Cell Stem Cell., 5(3): 237-241 (2009); WO2010/013845を参照)。本明細書において「低酸素条件」とは、細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、大気中のそれよりも有意に低いことを意味する。具体的には、通常の細胞培養で一般的に使用される5-10% CO2/95-90%大気の雰囲気中の酸素濃度よりも低い酸素濃度の条件が挙げられ、例えば雰囲気中の酸素濃度が18%以下の条件が該当する。好ましくは、雰囲気中の酸素濃度は15%以下(例、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下など)、10%以下(例、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下など)、又は5%以下(例、4%以下、3%以下、2%以下など)である。また、雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは0.1%以上(例、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上など)、0.5%以上(例、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.95以上など)、又は1%以上(例、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上など)である。
【0191】
細胞の環境において低酸素状態を創出する手法は特に制限されないが、酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーター内で細胞を培養する方法が最も容易であり、好適な例として挙げられる。酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーターは、種々の機器メーカーから販売されている(例えば、Thermo scientific社、池本理化学工業、十慈フィールド、和研薬株式会社などのメーカー製の低酸素培養用CO2インキュベーターを用いることができる)。
【0192】
低酸素条件下で細胞培養を開始する時期は、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、体細胞への本発明の樹立効率改善因子及び核初期化物質の接触より前であっても、該接触と同時であっても、該接触より後であってもよいが、例えば、体細胞に核初期化物質を接触させた直後から、或いは接触後一定期間(例えば、1ないし10(例、2,3,4,5,6,7,8又は9)日)おいた後に低酸素条件下で培養することが好ましい。
【0193】
低酸素条件下で細胞を培養する期間も、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、例えば3日以上、5日以上、7日以上又は10日以上で、50日以下、40日以下、35日以下又は30日以下の期間等が挙げられるが、それらに限定されない。低酸素条件下での好ましい培養期間は、雰囲気中の酸素濃度によっても変動し、当業者は用いる酸素濃度に応じて適宜当該培養期間を調整することができる。また、一実施態様において、iPS細胞の候補コロニーの選択を、薬剤耐性を指標にして行う場合には、薬剤選択を開始する迄に低酸素条件から正常酸素濃度に戻すことが好ましい。
【0194】
さらに、低酸素条件下で細胞培養を開始する好ましい時期及び好ましい培養期間は、用いられる核初期化物質の種類、正常酸素濃度条件下でのiPS細胞樹立効率などによっても変動する。
【0195】
(g)iPS細胞の選択及び確認
本発明の樹立効率改善因子と核初期化物質(及び他のiPS細胞の樹立効率改善物質)とを接触させた後、細胞を、例えばES細胞の培養に適した条件下で培養することができる。マウス細胞の場合、通常の培地に分化抑制因子としてLeukemia Inhibitory Factor(LIF)を添加して培養を行う。一方、ヒト細胞の場合には、通常、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及び/又は幹細胞因子(SCF)を添加することが望ましい。
【0196】
また通常、細胞は、フィーダー細胞として、放射線や抗生物質で処理して細胞分裂を停止させたマウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)の共存下で培養される。MEFとしては、通常STO細胞等がよく使われるが、iPS細胞の誘導には、SNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))等がよく使われている。フィーダー細胞との共培養は、核初期化物質の接触より前から開始してもよいし、該接触時から、或いは該接触より後(例えば1-10日後)から開始してもよい。
【0197】
iPS細胞の候補コロニーの選択は、薬剤耐性とレポーター活性を指標とする方法と目視による形態観察による方法とが挙げられる。前者としては、例えば、分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子(例えば、Fbx15、Nanog、Oct3/4など、好ましくはNanog又はOct3/4)の遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子及び/又はレポーター遺伝子をターゲッティングした組換え体細胞を用い、薬剤耐性及び/又はレポーター活性陽性のコロニーを選択するというものである。そのような組換え体細胞としては、例えばFbx15遺伝子座にβgeo(β-ガラクトシダーゼとネオマイシンホスホトランスフェラーゼとの融合タンパク質をコードする)遺伝子をノックインしたマウス(Takahashi & Yamanaka, Cell, 126, 663-676 (2006))由来のMEFやTTF、或いはNanog遺伝子座に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子とピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス(Okita et al., Nature, 448, 313-317 (2007))由来のMEFやTTF等が挙げられる。一方、目視による形態観察で候補コロニーを選択する方法としては、例えばTakahashi et al., Cell, 131, 861-872 (2007)に記載の方法が挙げられる。レポーター細胞を用いる方法は簡便で効率的ではあるが、iPS細胞がヒトの治療用途を目的として作製される場合、安全性の観点から目視によるコロニー選択が望ましい。
【0198】
選択されたコロニーの細胞がiPS細胞であることの確認は、上記したNanog(若しくはOct3/4)レポーター陽性(ピューロマイシン耐性、GFP陽性など)及び目視によるES細胞様コロニーの形成によっても行い得るが、より正確を期すために、アルカリフォスファターゼ染色や、各種ES細胞特異的遺伝子の発現を解析したり、選択された細胞をマウスに移植してテラトーマ形成を確認する等の試験を実施することもできる。
【0199】
(h)iPS細胞の用途
このようにして樹立されたiPS細胞は、種々の目的で使用することができる。例えば、ES細胞などの多能性幹細胞で報告されている分化誘導法(例えば、神経幹細胞への分化誘導法としては、特開2002-291469、膵幹様細胞への分化誘導法としては、特開2004-121165、造血細胞への分化誘導法としては、特表2003-505006に記載される方法などがそれぞれ例示される。この他にも、胚様体の形成による分化誘導法としては、特表2003-523766に記載の方法などが例示される。)を利用して、iPS細胞から種々の細胞(例、心筋細胞、血液細胞、神経細胞、血管内皮細胞、インスリン分泌細胞等)への分化を誘導することができる。したがって、患者本人やHLAの型が同一若しくは実質的に同一である他人から採取した体細胞を用いてiPS細胞を誘導すれば、そこから所望の細胞(即ち、該患者が罹病している臓器の細胞や疾患に対する治療効果を発揮する細胞など)に分化させて該患者に移植するという、自家移植による幹細胞療法が可能となる。さらに、iPS細胞から分化させた機能細胞(例、肝細胞)は、対応する既存の細胞株よりも実際の生体内での該機能細胞の状態をより反映していると考えられるので、医薬候補化合物の薬効や毒性のin vitroスクリーニング等にも好適に用いることができる。
【0200】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0201】
遺伝子導入
マウスエコトロピックウイルスレセプターSlc7a1遺伝子を発現させた成人皮膚由来線維芽細胞(aHDF-Slc7a1)を既報の方法(Cell, 131, 861-872, 2007)に従って作製した。このaHDF-Slc7a1を3×105個/60mmディッシュの割合で蒔き、その翌日、上記刊行物に記載された方法に従ってpMXs-hOCT3/4、pMXs-hKLF4、pMXs-hSOX2及びpMXs-Hu-L-Myc(全てAddgeneより入手可能)を用いて作製したウイルス含有液で遺伝子導入を行った。
【0202】
薬剤の添加時期検討
上記方法で得られた細胞へ遺伝子導入後1日目から5日目(d1-d5)、4日目から9日目(d4-d9)及び7日目から14日目(d7-d14)の間に、DMSO(基剤のみ)、10μMのフェネルジン(Sigma)及び各LSD1阻害剤(NCL-1(式I-1)、NCL-2(式I-2)、NCL-3(式I-3)及びNCL-4(式I-4);J. AM. CHEM. SOC. 131, 17536-17537, 2009)を培地へ添加した。
【0203】
【化55】

【0204】
【化56】

【0205】
【化57】

【0206】
【化58】

【0207】
全ての条件において、遺伝子導入後6日目に細胞を新しいディッシュへ蒔き直した。遺伝子導入後25日から30日において、ES細胞様コロニー数の計測を行い、その結果を図1及び表1に示す。d7-d14において薬剤を添加する条件が最もコロニー形成効率を高くすることが確認された。
【0208】
【表1】

【0209】
薬剤の濃度検討
上記のとおり遺伝子導入して得られた細胞を遺伝子導入後6日目に新しいディッシュへ蒔き直し、遺伝子導入後7日目から14日目(d7-d14)の間に、1μMから500μMのフェネルジン及びNCL-3、又はDMSO、10μMのフェネルジン、NCL-1、NCL-2、NCL-3及びNCL-4を添加して培養した。遺伝子導入から30日目にES細胞様コロニー数及び非ES細胞様コロニー数を計測した。その結果を図2及び表2に示す。尚、500μMの添加ではいずれの薬剤においても細胞は死滅した。NCL-3では、1μM及び10μMの添加でコロニー形成数が高く、フェネルジンでは、50μM又は100μMの添加でコロニー形成数が高かった。
【0210】
【表2】

【0211】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「特許請求の範囲」の精神及び範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本発明によれば、iPS細胞の樹立効率を顕著に向上させることができるので、従来樹立効率の低かったc-Mycを除く3因子によるヒトiPS細胞の誘導など、ヒトiPS細胞の細胞移植治療への応用に特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核初期化工程において、式(I):
【化1】


(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【化2】


(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率改善方法。
【請求項2】
式(I)で表される化合物が、式
【化3】


で表されるNCL−1、式
【化4】


で表されるNCL−2、式
【化5】


で表されるNCL−3、又は式
【化6】


で表されるNCL−4である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
式(I):
【化7】


(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【化8】


(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物を含有してなる、iPS細胞の樹立効率改善剤。
【請求項5】
式(I)で表される化合物が、式
【化9】


で表されるNCL−1、式
【化10】


で表されるNCL−2、式
【化11】


で表されるNCL−3、又は式
【化12】


で表されるNCL−4である、請求項4記載の剤。
【請求項6】
式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、請求項4記載の剤。
【請求項7】
式(I):
【化13】


(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【化14】


(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物と、核初期化物質とを、体細胞に接触させる工程を含む、iPS細胞の製造方法。
【請求項8】
式(I)で表される化合物が、式
【化15】


で表されるNCL−1、式
【化16】


で表されるNCL−2、式
【化17】


で表されるNCL−3、又は式
【化18】


で表されるNCL−4である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Klf4ファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Linファミリーのメンバー及びNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
核初期化物質がOct3/4、Klf4及びSox2、又はそれらをコードする核酸である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
核初期化物質がOct3/4、Klf4、Sox2並びにc-Myc若しくはL-Myc及び/又はNanog及び/又はLin28若しくはLin28B、又はそれらをコードする核酸である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
式(I):
【化19】


(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【化20】


(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物と、核初期化物質とを含有してなる、体細胞からのiPS細胞の誘導剤。
【請求項14】
式(I)で表される化合物が、式
【化21】


で表されるNCL−1、式
【化22】


で表されるNCL−2、式
【化23】


で表されるNCL−3、又は式
【化24】


で表されるNCL−4である、請求項13記載の剤。
【請求項15】
式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、請求項13記載の剤。
【請求項16】
核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Klf4ファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Linファミリーのメンバー及びNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、請求項13〜15のいずれか1項に記載の剤。
【請求項17】
核初期化物質がOct3/4、Klf4及びSox2、又はそれらをコードする核酸である、請求項13〜15のいずれか1項に記載の剤。
【請求項18】
核初期化物質がOct3/4、Klf4、Sox2並びにc-Myc若しくはL-Myc及び/又はNanog及び/又はLin28若しくはLin28B、又はそれらをコードする核酸である、請求項13〜15のいずれか1項に記載の剤。
【請求項19】
下記の工程:
(1)請求項7〜12のいずれか1項に記載の方法によりiPS細胞を製造する工程、及び
(2)上記工程(1)で得られたiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させる工程、
を含む、体細胞の製造方法。
【請求項20】
iPS細胞の樹立効率改善のための式(I):
【化25】


(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【化26】


(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物の使用。
【請求項21】
式(I)で表される化合物が、式
【化27】


で表されるNCL−1、式
【化28】


で表されるNCL−2、式
【化29】


で表されるNCL−3、又は式
【化30】


で表されるNCL−4である、請求項20記載の使用。
【請求項22】
式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、請求項20記載の使用。
【請求項23】
iPS細胞の樹立効率改善のための式(I):
【化31】


(式中、
は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は式−NHCO−R(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基、又は置換されていてもよいモノ−若しくはジ−アリールアミノ基を示す。)で表される基を示し、
は、置換されていてもよいアルキレン基を示し、
は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい複素環基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
Xは、O、NH、NHCO、CONH、S又はCHを示す。)及び式(II):
【化32】


(式中、
Rは、水素原子、或いは、C1-4アルキル基、C1-3アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェニルアルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アルキレンジオキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1〜5個の置換基を示し、
R’は、水素原子、C1-3アルキル基、C3-6シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、
R”は、水素原子、C1-6アルキル基、C1-6ヒドロキシアルキル基、C2-4アルケニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、C3-6シクロアルキル基、C2-4アルキニル基、チエニルメチル基又はピリジルメチル基を示し、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖C2-5アルキレン基を示す。)
で表される化合物並びにそれらの薬学上許容される塩、溶媒和物及びプロドラッグからなる群より選択される1以上の化合物の使用であって、該化合物を核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
【請求項24】
式(I)で表される化合物が、式
【化33】


で表されるNCL−1、式
【化34】


で表されるNCL−2、式
【化35】


で表されるNCL−3、又は式
【化36】


で表されるNCL−4である、請求項23記載の使用。
【請求項25】
式(II)で表される化合物がフェネルジン(フェネチルヒドラジン)である、請求項23記載の使用。
【請求項26】
核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Klf4ファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Linファミリーのメンバー及びNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、請求項23〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
核初期化物質がOct3/4、Klf4及びSox2、又はそれらをコードする核酸である、請求項23〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
核初期化物質がOct3/4、Klf4、Sox2並びにc-Myc若しくはL-Myc及び/又はNanog及び/又はLin28若しくはLin28B、又はそれらをコードする核酸である、請求項23〜25のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−200185(P2012−200185A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66827(P2011−66827)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】