説明

人工岩礁の造成法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、砕波領域に魚礁を造成可能な、また天然岩礁の修復に適用可能な、更に海藻栽培基質を造成可能な人工岩礁の造成法に関する。
〔従来の技術〕
浅海域は、魚の産卵場所、餌場であり、また海藻が繁殖する場所でもあり、生物にとって極めて重要な場合とされている。またアワビ、イセエビ等の磯ものは、比較的浅く、波浪の大きな砕波領域に生息している。
この砕波領域に人工魚礁を沈設しても、波浪の影響で安定せず、滑動、転倒して陸へ打上げられてしまうため、従来、人工魚礁を砕波領域に経済的に固定設置する方法は知られておらず、砕波領域に人工魚礁を簡易に、安価に、かつ安定的に設置する方法の開発が待たれている。
また、天然岩礁も波浪等の影響を受けて破壊され、段々と小さくなり、魚礁としての機能が低下していき、磯根資源であるアワビ、イセエビ等のすみかが次第に少なくなってきている。
このような天然岩礁の魚礁としての機能を回復させる天然岩礁の修復方法は従来知られておらず、その開発が望まれている。
更に、岩のり等の海藻が採取できる天然の良好な場所は限られており、採取できる数量が少なくなっており、岩のり等の海藻の栽培基質の容易な造成が要望されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、砕波領域に魚礁を簡易に、安価にかつ安定的に設置でき、また天然岩礁を簡単に修復でき、更に海藻栽培基質を容易に造成できる人工岩礁の造成法を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
本発明の人工岩礁の造成法は、上記技術的課題を解決するために、天然岩礁の周囲を取り囲むように、鉄筋コンクリート製魚礁を設置し、次いで前記天然岩礁と前記鉄筋コンクリート製魚礁との間隙に、接着性成分を注入打設してこれらを一体化構造物とすることを手段としている。
本発明の人工岩礁の造成法においては、上記一体化構造物の表面に、更に鋼繊維補強モルタルを吹付けて天然岩礁の外観に似せて造成することもできる。
上記接着性成分としては、例えば水中コンクリート、エポキシ樹脂等が使用され、特に水中コンクリートが好ましい。
〔実施例〕
以下本発明による実施例を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
第1乃至第3図は、それぞれ本発明に係る人工岩礁の造成法により造成された人工岩礁の断面図である。
第1図は砕波領域に天然岩礁を利用して、アワビ、イセエビ等の魚介類の稚魚等の漁場を造成する例を示す。
本発明方法により砕波領域に人工魚礁を造成するに際しては、まず造成に先立って海域の調査を行ない、適当な天然岩礁1を選択する。
次いで、この天然岩礁1の大きさに適合させて鉄筋コンクリート製魚礁2を製作し、これを天然岩礁1の周囲を取り囲むように設置する。
更に、この天然岩礁1と鉄筋コンクリート製魚礁2との間隙に、接着性成分としての水中コンクリート3を注入打設して、天然岩礁1と鉄筋コンクリート製魚礁2とを水中コンクリート3で固めて一体化構造物とする。この際鉄筋コンクリート製魚礁2は、水中コンクリート3の型枠の役目を兼ねている。鉄筋コンクリート製魚礁2の形状は、例えばアワビ、イセエビ、ウニ、イシダイ、マダイ等の各生物の生態に合わせて自由に設計、製造される。またこの鉄筋コンクリート製魚礁2は中央部が空洞状に構成されていてもよい。
このように、本発明の方法によれば。従来全く不可能と考えられていた砕波領域に魚礁を簡易に、安価にかつ安定的に設置して好適な漁場を造成することができる。
第2図は波浪等の影響を受けて破壊され、小さくなった天然魚礁を修復する例を示す。
本発明方法により天然岩礁を修復するに際しては、修復対象となる天然岩礁1の大きさに適合させて鉄筋コンクリート製魚礁2を製作し、これを天然岩礁1の周囲を取り囲むように設置する。
次いで、この天然岩礁1と鉄筋コンクリート製魚礁2との間隙に、接着性成分としての水中コンクリート3を注入打設してこれらを一体化構造物とする。この際一体化構造物の表面に、更に鋼繊維補強モルタルを吹付けて天然岩礁の外観に似せて造成することもできる。この吹付け処理は、直接一体化構造物の表面に吹付けてもよいし、また予め陸上で前記鉄筋コンクリート製魚礁2に吹付けておくことにより行ってもよい。
このように、本発明の方法によれば、波浪の大きな場所で波浪等により破壊され、小さくなった天然岩礁を簡単に修復して魚礁としての機能を回復させることができ、自然環境を修復することができる。
第3図は岩のり等の海藻の繁殖する海藻栽培基質を造成する例を示す。
本発明により海藻栽培基質を造成するに際しては、まず造成に先立って海域の調査を行ない、適当な天然岩礁1を選択する。
次いで、この天然岩礁1の大きさに適合させて鉄筋コンクリート製魚礁2を製作し、これを天然魚礁1の周囲を取り囲むように設置する。
更に、この天然岩礁1と鉄筋コンクリート製魚礁2との間隙に、接着性成分としての水中コンクリート3を注入打設してこれらを一体化構造物とする。この際天然岩礁の外観に似せ、しかも海藻を生え易くする目的で、一体化構造物の表面に、更に鋼繊維補強モルタルを吹付ける。この吹付けに際しては、無機質顔料を添加することにより、例えば、アワビ、サザエの殻等の色に似せて造成して自然環境にマッチさせることもできる。
なお本発明方法においては、一個の天然岩礁毎に一体化構造物としても、または第3図に示されるように、複数個の天然岩礁をまとめて一体化構造物としてもよい。
このようにして得られた鋼繊維補強モルタルを吹付けた一体化構造物の表面が潮間帯に位置するように、本発明の人工岩礁を造成すると、その表面に海藻栽培基質4が造成される。
このように、本発明の方法によれば、岩のり等の海藻栽培基質を、自由に、安全な場所に、かつ容易に造成することができ、岩のり等の海藻の増産に寄与することができる。
〔発明の効果〕
本発明に係る人工岩礁の造成法は、砕波領域に魚礁を簡易に、安価にかつ荒波による人工岩礁の流出、損失等も全くなく、安定的に設置することができ、また破壊されて小さくなった天然岩礁を簡単に修復して魚礁としての機能を回復させることができ、更に海藻栽培基質を容易に造成することできるものである。このように本発明に係る人工岩礁の造成法によれば、魚介類の生息環境を新たに又は再び造り出し、また魚介類の生残率を高めて増殖させ、更に破壊された自然環境を修復することができる。
【図面の簡単な説明】
第1乃至第3図は本発明に係る人工岩礁の造成法により造成された人工岩礁の断面図である。
1……天然岩礁
2……鉄筋コンクリート製魚礁
3……水中コンクリート
4……海藻栽培基質

【特許請求の範囲】
【請求項1】天然岩礁の周囲を取り囲むように、鉄筋コンクリート製魚礁を設置し、次いで前記天然岩礁と前記鉄筋コンクリート製魚礁との間隙に、接着性成分を注入打設してこれらを一体化構造物とすることを特徴とする人工岩礁の造成法。
【請求項2】請求項1記載の人工岩礁の造成法において、上記一体化構造物の表面に、更に鋼繊維補強モルタルを吹付けることを特徴とする人工岩礁の造成法。
【請求項3】上記接着性成分として水中コンクリートを用いることを特徴とする請求項1又は2記載の人工岩礁の造成法。

【第1図】
image rotate


【第2図】
image rotate


【第3図】
image rotate


【特許番号】第2789535号
【登録日】平成10年(1998)6月12日
【発行日】平成10年(1998)8月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−240327
【出願日】平成2年(1990)9月11日
【公開番号】特開平4−121132
【公開日】平成4年(1992)4月22日
【審査請求日】平成9年(1997)3月26日
【出願人】(999999999)住友大阪セメント株式会社