説明

人工歯根用保護カバー

【課題】人工歯根植立後の不安定な初期の固定の時期を保護すると共に患者の負担を軽減するような保護具であって、取り扱いが容易なものを提案する。
【解決手段】
隣在歯と一時的に接続するための接続部を有し、歯根先端部とは、事実上非接触か緩衝材よりなる緩衝部が介在するカバー部材又は、歯根上部周辺のみ分離した構成された蓋部を有するカバー部材を備えたものであって、初期の固定期間が経過した後、取り外しが容易な人工歯根用保護カバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工歯根の植立の際、初期の固定に使用する保護カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】

2ピースタイプの人工歯根は、歯根部を予め生体の硬組織に埋入して初期の固定をし、その後、上部を装着する施術を施すことから取り扱いに時間と手間がかかるのに対し、1ピースタイプの人工歯根は、一つの芯材で構成されていることから組み立て等の必要がなく顎骨に穿孔して植立すれば足りる点で取り扱いが比較的容易である。
【0003】
【特許文献1】特公平3−15905号公報
【特許文献2】特表2008−523935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1ピースタイプの人工歯根は、2ピースタイプに比べ、簡素な構成であり、強度的にも安定しているが、植立後の初期の固定の際、人工歯根の先端が歯肉から突出している状態で、初期の固定を行わなければならない。
初期の固定において、植立後間もない人工歯根は、わずか(50μm〜100μm)でも動かしてはならず、しかもこの状態が長く続く場合がある。又、1ピースタイプに限らず、2ピースタイプでも初期の固定において、ヒーリングキャップを利用する場合等は、施術部位から突出する部分を生じさせるため、施術部位の保護を必要とする場合も多い。また、歯肉から突出する部分が無い状態で初期の固定を行う場合であっても、その部分の保護は必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記に鑑み本発明は、隣在歯との接着手段をもつ保護カバーであって、歯根先端部とは、事実上非接触か緩衝材が介在する構成の人工歯根用保護カバーにより、施術後の歯根の安静を図り、患者の負担を軽減させながらより安定した人工歯根の植立を実現する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、隣在歯との接着により固定される人工歯根表出部の保護を行うことにより、人工歯根を咀嚼等に起因する揺動、外乱から保護し、また、患者への負担が軽減できる等の効果を有する。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、植立後の人工歯根の先端部分に非接触状態で、覆うことができるカバー部材であって、その部位に固定できればよく、機械的嵌合も場合によっては適用可能であるが、好適には、歯科用接着剤による接着固定が示される。歯科用接着剤は、接着性レジンセメント材等の結合が強固で、剥離も比較的簡単に行えるものが好ましい。
接着性レジンセメントの、モノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン、エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等の(メタ)アクリレート系モノマー等が示され、更にスーパーボンドC&B(商標)、パナビアフルロオセメント(商標)、リンクマックス(商標)、等の市販接着性レジンセメントが使用できる。
【0008】
添加するフィラーとしては、例えば、シリカ、ジルコニア、フルオロアルミノシリケートガラス等の無機フィラーを用いることが示され、その他重合性メタクリレート、重合開始剤、着色剤等が配合され接着性レジンセメントが形成される。
【0009】
本発明におけるカバー部材としては、接着性レジンセメントとの接着性が確保でき、咀嚼時の動揺を植立後の歯根に伝えにくい材料が好ましいが、例えば、リン酸カルシウム系セラミックス、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウム系ガラスセラミックス、ハイブリッドレジン材、レジン添加型グラスアイオマーセメント、長石等の天然鉱物等が例示される。
本発明における緩衝部は、十分な領域を持つ間隙が好ましいが、食べかすなどの残渣が入り込んだりするため、又、カバー部を介した衝撃が空気を介して加わる場合があるため、PP、ウレタン等からなる発泡樹脂、天然ゴム等の緩衝材を全体または一部に介在させても良い。
本発明は、人工歯根が初期の固定がされるまで人工歯根上部を一時的に覆うものであればよく、接着剤も接続は強固であるが、一時的な接着がされ、その後、剥離が容易であるものが好ましい。
【実施例1】
【0010】
本発明の一実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)(b)において、1は人工歯根であり、例えばチタン芯材に、アパタイト被覆層を施した後水熱処理したものが例示される。図1(b)は、(a)のカバー部材2付近を拡大したものである。
1aは、人工歯根の歯根上部であり、義歯装着用のテーパが施されている。
2は、カバー部材であり、セラミックス、レジン等で形成され、初期の固定時の咀嚼により生じる衝撃などを人工歯根上部1aに与えないようにするためのものである。
3は、接着部であり、市販の接着性レジンセメント等の歯科用接着剤が使用される。
接着性レジンセメントとしては、例えば、リン酸亜鉛セメント、カルボキシレートセメント、アイオノマーセメント等が例示されるが、市販されているスーパーボンドC&B(商標)(サンメディカル社製)又はパナビアオペーク(商標)(クラレ社製)等も好適に使用される。
4、4‘は、緩衝部であり、図1(a)で示す様に間隙であってもよく、図1(b)の4‘デ示すように発泡性の樹脂、ゴム等で形成された緩衝材であっても良いが、この緩衝部4は、初期の固定の際の人工歯根先端部1aに衝撃が加わらない状態を形成すればよく、十分な広さの間隙で足りる。狭い間隙の場合は、食べかすなどの残渣が残るため好ましくはなく、緩衝部4の幅は、おおよそ幅1〜3mmが好ましい。

本発明は、人工歯根を顎骨に埋入した後、隣在歯R1とR2に接するようなカバー部材2を形成する。
【0011】
カバー部材2の形成は、CAD/CAMを用いた歯科用計測加工装置が好適に利用される。
CAD/CAMによりインプラントを植立した歯牙欠損部の歯間距離を計測する、
計測例として、
人工歯根植立後の欠損部を型取りして凹模型を形成、この凹模型に石膏等の硬化剤を流し込み固化させて凸模型を形成する。この凸模型の一例を図1に示す。
この凸模型の隣在歯間距離、歯幅、歯高値、及び歯肉SNから突出した人工歯根上部1aの形状等を接触、非接触で計測して、その計測値の範囲に収まる用に、カバー部の形状を任意に決定した3次元データを形成する。
【0012】
当該3次元データに基づき、カバー部材2に適した材料により形成した加工用ブロックを研削、切削してカバー部材2を形成する。
得られた、カバー部材2を隣在歯間に挿入し、適時大きさを調整した後、歯科用接着剤を塗布して、人工歯根上部1aを緩衝部4が覆うように且つ緩衝部4が間隙であれば、緩衝部4と人工歯根上部1aが接触しないように挿入する。
初期の固定の期間が経過した後、この接着部3を歯科用切削器等を用いて切削して、カバー部材2を取り出せば、初期の固定がされた人工歯根の先端部、(2ピースタイプでは、埋入部又はヒーリングキャップ)が現れ、この部分に安定的に義歯を装着することができる状態となっているものである。
保護カバーの撤去には、隣接歯から保護カバー側の接合部に切削ディスクを取り付けたマイクロモーターエンジンで切除し分離する。歯面は、研磨用ポイントで仕上げる。
【0013】
本発明は、インプラント保護具として、個々の欠損部に対応したカバー形状を、CAD/CAMを利用して、形成することが好ましい場合もあるが、インプラント植立後、即時の保護使用の場合は、予め、歯根上部に所定の間隙を確保しながら又は、緩衝材が介在しながら挿入可能で、外形が標準的な大きさを備えたカバーを人工歯根と1つの組み合わせとすることがより好ましい。
標準的な大きさとは、歯牙欠損部の平均的な大きさより一回り程度大きい状態を示す。
多少大きめにすることで、取り扱う歯科医師、技工士等が、インプラント植立後、カバーを装着する際、歯科用研削治具を用いて、欠損部に合うように手動又はCAD/CAMを用いて加工する。オフセットを確保した状態まで加工して、上述した歯科用接着剤を塗布して、カバーを図1で示す状態に装着し、固定する。
この様に、既成ブロックと人工歯根を一つの組み合わせとすることで、人工歯根の植立後の即時保護を図ることが可能となる。
【0014】
次に本願発明の他の実施例を図2を参照して詳細に説明する。
図2において、21は、蓋部であり、予め歯根上部1a上に所定の緩衝部23を形成した状態の大きさを備えたものである。
緩衝部23は、カバー部材を伝わってくる外乱、衝撃、振動等に対し緩衝的に使用されるものであり、間隙、発泡性ウレタン等の樹脂材、バネ体等の弾力性部材、等で構成される。
緩衝部23は、人工歯根上部1aに対して外乱、揺動を伝達させない状態を形成するためには、間隙で形成することが好ましいが、歯根上部1aとの均一な間隙を形成する為に、装着時、隣接歯又は隣在歯との接着が安定して形成されるまで、外部より取り出し可能な支持体25を配置しておいても良い。
支持体25は、人工歯根の歯根上部1aと蓋部21との間隙を一定とする為、例えば、図2(b)の点線で示す様に歯根上部1aの側面及び上部に、押圧力では、変形しにくい材質又は、形状を備えた硬質性の紙、樹脂等で、側面は、一部が開放された環状形状の支持部材とし、歯根上部1aの頂上には、直方状、立方状を有した支持部材を配置するような組み合わせ構成を示すことができる。
それぞれの支持部材は、多少の接着性を備えることで、カバー部材22の緩衝部23に一時的に保持されるか、又は、歯根上部1aに一時的に保持されることが例示される。
個々の支持部材を組み合わせた支持体25は、例えば紐状の部材で連結し、外部へ他端が延びた状態とする構成が示される。
支持体25は、カバー部材22と隣接歯との接着層の硬化により安定的に固定状態となるまで、歯根上部1aとカバー部材22との間隙を一定に保持することが好ましい。
硬化後、支持体25から延びている紐の端部を引くことで、支持体25全部が外部へ取り出される。外部へ取り出すタイミングは、上述したように、接着層の接着状態に係り、素早く接着する接着材を利用することがより好ましい。
蓋部21は、例えば、PP、ウレタン、PET等の硬化性の樹脂、金属、セラミックス等で形成されており、好ましくは、その周辺に接合されるカバー部材22との接着性が高い材料が選択される。
又は、カバー部材22との接着性が高くなるように蓋部21の表面が処理されてもよい。
22は、カバー部材であり、主にレジン材等の硬化性樹脂、セラミックス、金属で形成される。
【0015】
本実施例では、予め歯根上部1aに対し、その形状に対応した緩衝部23を有した蓋部21を1組として付属的に備えておく。例えば、歯科医師、歯科技工士が歯根1を植立後、蓋部21の即時装着を必要とする場合、蓋部21上にカバー部材22造形することが示される。
即ち、歯根1が植立された後、隣接歯R1,R2間の領域に印象をとる等して凹模型を形成し、この模型の凹形状部位に半液体状、ゲル状、粘土状のカバー部材用の材料を注ぐと共に半硬化の状態で蓋部21を押し当てる等して組み込み、そのまま経時的に硬化させて固形のカバー部材22を造形しても良い。
得られたカバー部材22を歯根上部1aに装着する場合は、支持体25を、例えば間隙からなる緩衝部23に一時的に配置する。カバー部材22と隣接歯R1,R2との接触面24に上述した歯科用接着剤を介在させる。
又、半硬化状のカバー部材22に独自の接着性がある場合は、そのままカバー部材22と隣接する歯R1,R2を接着させてもよい。
カバー部材22は、蓋部21上に粘土状のレジン材等により、築盛する等して造形させても良く、その後、欠損部に補綴され、硬化後、又は硬化途中で形状を調整しても良い。
又、カバー部材22をセラミックス、金属等の固形材とする場合は、蓋部との結合面を凹部とした半製品とし、これをCAD/CAM、歯科医による手動切削手段等を用いてカバー部材22としての外形を作成しても良い。

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、歯根植立直後の絶対安静に近い状態に適した保護カバーであり、患者への負担が軽減され、人工歯根の取り扱いを容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 人工歯根
2 カバー部材
3 接着部
4 緩衝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋入後の人工歯根を覆うカバー部材であって、前記カバー部材は、隣接歯と一時的に接続するための接続部、埋入後の歯根部との間に緩衝領域として形成した緩衝部を有する人工歯根用保護カバー。
【請求項2】
前記緩衝部が、間隙又は緩衝材よりなる請求項1に記載の人工歯根用保護カバー。
【請求項3】
前記接続部は、歯科用接着剤により形成される請求項1に記載の人工歯根用保護カバー。
【請求項4】
前記緩衝材が発泡樹脂材、ゴム材である請求項1に記載の人工歯根用保護カバー。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−115304(P2010−115304A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289652(P2008−289652)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)
【Fターム(参考)】