説明

人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント、その製造方法並びに人工毛髪

【課題】紫外線照射により短時間で希望の色に変化する人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントおよび人工毛髪の提供。
【解決手段】ポリエステルモノフィラメントの表面にフォトクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂からなる厚さ0.5〜40μmのコーティング層が形成されていることを特徴とする人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射により短時間で希望の色に変化する人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪が使われる形態としては、頭部全体に装着するかつら、部分的にアクセントをつけるつけ毛、人形用毛髪などが挙げられる。
【0003】
そして、従来の人工毛髪は、黒色、茶系を中心としたバリエーションが中心であり、あくまでも薄毛をカバーする人毛代替としての位置づけが強かった。
【0004】
ところが昨今では、ファッション性を重視した赤色、青色、蛍光色など派手な色相からなる人工毛髪が好まれて使われるようになってきており、世の中の頭髪色への意識が変わりつつある。
【0005】
特に若者を中心とした世代では、派手な色相の頭髪色をファッションの一部として楽しむようになっており、頭髪色の変更方法としては、自分の髪の毛を染める方法、またはかつらやつけ毛を装着する方法のどちらかを選択することになる。
【0006】
自分の髪の毛を染める場合は、脱色や染色などにより毛髪を痛めることとなるばかりか、一定期間色相の変更をしないことが前提となるため、フォーマルな場への出席などにおいては、社会生活の支障となる場合が考えられる。
【0007】
一方、かつらなどの人工毛髪を装着する場合は、容易に色や形態など色々なバリエーションに対応することが可能で、かつ簡単に取り外すことができる反面、薄毛のカバーを目的とした従来のかつらとは使用環境が異なり、髪の毛の上に装着するために通気性が悪く、長時間使用するほど温湿度の影響で自分の髪型を大きく乱してしまうため、再度セットアップしたり洗髪したりしなくてはならないという面倒があった。
【0008】
これらの問題の解決手段として、紫外線の照射有無に応じて色彩が変化するフォトクロミック化合物を含有する感光可逆性疑似毛髪が提案されている(例えば、実用新案文献1参照)。フォトクロミック化合物は短時間で色の変化が生じるものの、150℃前後で分解して変色機能が失われるため、この感光可逆性疑似毛髪においては、フォトクロミック化合物の変色機能を失うことなく繊維状物を得る手段として、融点が同等のポリオレフィン樹脂を採用している。
【0009】
しかし、ポリオレフィン樹脂から得られる繊維状物は、人毛と比較すると弾性が高く、風合いが良くないばかりか、熱変形温度が低いためにドライヤーやコテでのヒートセットを行うと変形や大幅な寸法変化が生じ、さらには溶融する場合があるなど、ファッション性を有したかつらとしての基本的な機能を満たしていない。
【0010】
また、フォトクロミック化合物をマイクロカプセルに内包させて熱分解から保護する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この方法はフォトクロミック化合物を保護する上では有効であるものの、加工工程が多くなって高価になるばかりか、顔料粒径が大きくなるため、指定の色相を得るために高濃度でブレンドせざるを得なくなり、人工毛髪の強度低下が懸念される。
【0011】
このように、多様化する現代生活においては、希望する頭髪色に短時間で変えたいというニーズは強いが、ユーザーが満足する製品提供は今日まで達成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実用新案登録第3071403号公報
【特許文献2】特開2006−233351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0014】
したがって本発明の目的は、紫外線照射により短時間で希望の色に変化する人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントおよび人工毛髪を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリエステルモノフィラメントの表面にフォトクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂からなる厚さ0.5〜40μmのコーティング層が形成されていることを特徴とする人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントが提供される。
【0016】
なお、本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントにおいては、前記ポリエステルモノフィラメントがポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートおよびポリプロピレンテレフタレートから選ばれた少なくとも一種からなることがさらに好ましい条件として挙げられる。
【0017】
また、本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの製造方法は、延伸されたポリエステルモノフィラメントの表面に、平均粒子径5μm以下のフォトクロミック化合物と融点110〜180℃で平均粒子径5μm以下の熱可塑性樹脂との混合物を6wt%〜45wt%含有する水系懸濁液を付与した後、150〜200℃で熱処理を行なって水分を除去し、コーティング層を形成することを特徴とし、さらには、
前記フォトクロミック化合物の水系懸濁液中の含有量が1wt%〜40wt%であること、
前記熱可塑性樹脂の水系懸濁液中の含有量が5wt%〜40wt%であること、および、
前記熱可塑性樹脂が共重合ポリエステル固体粒子であること
が好ましい製造条件として挙げられる。
【0018】
さらに、本発明の人工毛髪は、上記人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントからなることを特徴とし、人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを複数本引き揃え、メッシュ基布に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下に説明するとおり、紫外線照射により短時間で希望の色に変化する人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントおよび人工毛髪を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)〜(f)はコーティング層形成前の単色ベースポリエステルモノフィラメントの断面図である。
【図2】(g)と(h)はコーティング層形成前の複合色ベースポリエステルモノフィラメントの断面図であり、(g’)と(h’)は複合色ベースポリエステルモノフィラメントの表面の配色状態を表す側面図である。
【図3】図1および図2の記載の単色/複合色ベースポリエステルモノフィラメントの表面にフォトクロミック化合物を含有するコーティング層を形成した本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの断面図である。
【図4】丸断面を例にした本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの紫外線照射時の色変化を示す図であり、(M1)および(M3)は紫外線照射前の状態を示し、(M2)および(M4)は紫外線照射後の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図に従って具体的に説明する。
【0022】
図1の(a)〜(f)は、コーティング層形成前の単色ベースポリエステルモノフィラメントの断面図であり、1は単色ベースポリエステルモノフィラメントである。
【0023】
図2の(g)と(h)は、コーティング層形成前の複合色ベースポリエステルモノフィラメントの断面図であり、(g’)と(h’)は複合色ベースポリエステルモノフィラメントの表面の配色状態を表す側面図であり、2は複合色ベースポリエステルモノフィラメント、3は無着色層、4は着色層を示している。
【0024】
図3は、図1および図2に記載の単色ベースポリエステルモノフィラメント1および複合色ベースポリエステルモノフィラメント2の表面にフォトクロミック化合物を含有するコーティング層を形成した本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの断面図であり、5は人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント、6はコーティング層を示している。
【0025】
図3に示すように、本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5は、ポリエステルモノフィラメントの表面にフォトクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂からなる厚さ0.5〜40μmのコーティング層6が形成されていることを特徴とするものである。
【0026】
つまり、ベースとなるポリエステルモノフィラメントの表面に、紫外線を吸収することにより色変化を発生するフォトクロミック化合物のコーティング層6を有した人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント1である。
【0027】
そのため、本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントは、コーティング層6に紫外線が照射されると、コーティング層6が透明から希望の色に変色し、紫外線照射がされなくなると(例えば屋内に入った場合)透明に戻る。
【0028】
具体的な例を図4にて説明すると、M1のようなベースが黒色の単色ポリエステルモノフィラメント1の表面に、青色に変色するフォトクロミック化合物を含有するコーティング層6が形成されている場合は、紫外線照射前はコーティング層6が透明であるために黒く見え、紫外線照射後はM2のようにコーティング層が青色に変色して青く見える。
【0029】
また、M3のようなベースが青色の単色ポリエステルモノフィラメント1の表面に、黒色に変色するフォトクロミック化合物を含有するコーティング層6が形成されている場合は、紫外線照射前はコーティング層6が透明であるために青く見え、紫外線照射後はM4のようにコーティング層が黒色に変色して黒く見える。
【0030】
まず、本発明でベースとなるポリエステルモノフィラメントは、特に限定はされないが、基本は1本の単糸からなる連続糸であり、断面形状については丸、三角、四角、多角形および中空形などの如何なる断面形状のものであってもよく、例えば図1の(a)〜(f)に示す断面形状の単色ベースポリエステルモノフィラメント1を挙げることができる。
【0031】
また、ベースになるポリエステルモノフィラメントについては、図1に示すような単色である必要はなく、例えば図2の(g)のサイドバイサイド構造や(h)の縞模様構造の複合色ベースポリエステルモノフィラメント2のように、複合紡糸技術を用いてポリエステルモノフィラメントの表面を2色以上にすることにより、より複雑な色彩や立体表現が実現できる。
【0032】
なお、以下においては、特に指定しない限り、単色ベースポリエステルモノフィラメント1および複合色ベースポリエステルモノフィラメント2を単にポリエステルモノフィラメントと称し説明していく。
【0033】
そして、これらベースになるポリエステルモノフィラメントの直径については、特に制限されないが、人工毛髪用途としては丸断面形状であれば0.040mmから0.100mmの範囲が適している。
【0034】
さらに、ベースになるポリエステルモノフィラメントの構成素材としては、ポリエステル系樹脂であれば特に制限されること無く、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが代表例として挙げられる。
【0035】
さらにまた、本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5は、コーティング層6の厚さが0.5〜40μm、好ましくは0.5〜30μm、更に好ましくは0.5〜10μmである。コーティング層6の厚さが40μmを超えると、耐屈曲疲労特性は十分であるが、コーティング層6が肉厚になり線径斑の原因となる。一方、コーティング層6の厚さが0.5μm未満では、コーティング層6とベースとなるポリエステルモノフィラメントとの接着力が弱くなり、剥離や脱落が発生して、本発明が目的とする効果を十分に得られない傾向となる。
【0036】
一方、コーティング層6の形成に使用される熱可塑性樹脂の溶剤としては、炭化水素系、アルコール系、エステル系、ケトン系、エーテル系などの有機溶剤が挙げられるが、これらの有機溶剤を使用する場合には、コーティングした熱可塑性樹脂の熱処理工程に排気、防火、空気清浄設備等を追加する必要とするばかりか、人工毛髪として使用する際に頭皮や周辺皮膚への健康上の影響が懸念される。
【0037】
よって、本発明においては、コーティング層6の形成には水を分散剤とした水系懸濁液を使用する。なお、水系懸濁液中の熱可塑性樹脂にポリアミド系樹脂やポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂を選択した場合は、コーティング処理時の相溶性が悪く、コーティング層6が容易に剥がれ落ちてしまう場合があるため、相溶性が良く、溶融固着性が最も優れる共重合ポリエステルを選択することが好ましく、例えば、エムスケミー・ジャパン株式会社製・商品名「Griltex D1377E Suspension」および「Griltex 9E Suspension」などの市販品を適用することにより、コーティング層6を形成することもできる。
【0038】
また、本発明で使用する水系懸濁液中の熱可塑性樹脂の融点は、ベースのポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステル系樹脂の融点より5℃以上低いことが好ましい。
【0039】
つまり、水系懸濁液中のフォトクロミック化合物と熱可塑性樹脂は数ミクロンの大きさで分散されており、これをベースのポリエステルモノフィラメントに塗布してから、水分を取り除くために乾燥した後、熱処理により溶融してベースのポリエステルモノフィラメント表面にコーティング層6が形成されるが、この熱処理時にベースのポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステル系樹脂の融点より5℃以上低くない場合には、実質的に融点を超える温度で熱処理する必要があり、ベースのポリエステルモノフィラメントが溶融して強度低下を引き起こしやすくなる。
【0040】
しかし、熱可塑性樹脂の融点が低すぎると、コーティング層6の強度が不足して温度耐久性が低くなり、逆に高すぎると熱塑性樹脂を溶融するために高温で熱処理しなければならないため、分散剤である水が急激に蒸発して、人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5の表面に発泡傷が発生する場合があることから、熱処理温度は110〜180℃の範囲であることが必要である。
【0041】
一方、本発明で使用されるフォトクロミック化合物については、有機系のものであれば特に制約は無いが、光開環反応性が良好なスピロナフトオキサジン系化合物や、熱安定性に優れるジアリールエテンなどが好適であり、その他にもナフトピラン系化合物なども挙げられ、少なくともこれらの化合物から1種を選択して用いることが好ましい。
【0042】
本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5において、コーティング層6に塗布するフォトクロミック化合物と熱可塑性樹脂は、それぞれ平均粒子径5μm以下で、これら混合物が6wt%〜45wt%の割合で水系懸濁液中に含有することが好ましく、さらには熱可塑性樹脂が共重合ポリエステルの固体粒子であり、その含有量が5wt%〜40wt%であることが好ましい。
【0043】
つまり、平均粒子径が5μmを超えると、水系懸濁液中の粒子の分散性が悪くなりやすく、得られる人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5のコーティング層6の厚みが不均一になって形態安定度(線径性)に劣るものとなりやすい。そのため、さらに好ましくは平均粒子径2μm以下である。なお、ここで言う平均粒子径とは、レーザー回折散乱法で測定した際の平均粒子径(累積粒度分布率50%(D50))を意味する。
【0044】
また、紫外線照射による発色濃度をコントロールする場合は、フォトクロミック化合物の混合比率を変更することにより、発色濃度が変化する。フォトクロミック化合物の混合比率が増加すると熱可塑性樹脂の混合比率が下がりコーティング層6の厚さが薄くなる。これにより、フォトクロミック化合物の表面積あたりの含有量が増加し、紫外線吸収効率が向上して濃色表現が可能となる。ただし、フォトクロミック化合物の含有量が1wt%未満では色変化が不明瞭となり、目的とする色変化効果が得られないため、含有量は1wt%以上、さらには5wt%以上が好ましい。
【0045】
さらに、水系懸濁液中のフォトクロミック化合物と熱可塑性樹脂との混合物の含有量が45wt%を超える場合は、コーティング層6を形成するための水成分が不足してコーティング樹脂自体の流動性が低下し、ベースのポリエステルモノフィラメントの表面に均一なコーティングが困難となり、得られる人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5の線径斑が大きくなりやすいばかりか、使用中にコーティング層6が脱落して、その脱落片が頭部周辺に付着して見栄えを悪くするといった問題を生ずることがある。
【0046】
さらに、熱可塑性樹脂を40wt%以上の高濃度で添加した場合も同様の好ましくない状況が発生するが、熱可塑性樹脂が5wt%未満の濃度では、十分な耐屈曲疲労特性が得られないばかりか、コーティング層6が脱落しやすくなる。
【0047】
次に、本発明の人工毛髪用モノフィラメントの製造方法について詳細を説明する。
【0048】
ベースとなるポリエステルモノフィラメントの製造に際しては、一般に公知の紡糸方法を適用することができ、例えば、1軸または2軸のエクストルーダー混連押出機、あるいはプレッシャーメルター型などの溶融紡糸機を使用することができる。
【0049】
また、黒色や青色などの着色ポリエステルモノフィラメントを製造する方法は、原料となるポリエステルチップを着色したマスターバッチを使用し、白色のポリエステルチップと任意の混合率で色濃度を調整する。
【0050】
例えば、1軸のエクストルーダー型溶融紡糸機を使用する場合は、予め前乾燥したポリエステル系樹脂を溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、紡糸口金孔から溶融したポリエステル系樹脂を押し出す。
【0051】
なお、ポリエステル系樹脂の分解ガスに起因するフィッシュアイ状欠陥の少ないポリエステルモノフィラメントを得るためには、溶融紡糸する際の温度設定を、ポリエステル系樹脂の融点よりも20〜100℃高い温度で溶融混練して押し出すことが好ましい。
【0052】
次に、押し出された溶融物は、引き続き冷却媒体中に導かれて冷却固化される。なお、冷却媒体としては、例えば、水やポリエチレングリコールなど挙げることができるが、ポリエステルモノフィラメントの表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定しない。
【0053】
そして、冷却固化された未延伸糸は、ポリエステルモノフィラメントとして必要な強度を得るために、加熱1段延伸または多段延伸される。この際に使用される熱媒体についても、空気、温水、蒸気、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイルなどが挙げられるが、ポリエステルモノフィラメントの表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定しない。
【0054】
かくして得られたポリエステルモノフィラメントには、次いでフォトクロミック化合物と熱可塑性樹脂とを含有する水系懸濁液が塗布された後、熱処理してその表面にコーティング層6が形成され、その後、必要に応じて仕上げ油剤を付着して巻き取られる。
【0055】
なお、コーティング層6を形成するためのコーティング手段としては、ディップ、ローラー、ノズル、ドクター・ナイフ法などにより、延伸されたポリエステルモノフィラメントの表面にコーティング層6成分の溶液を塗布する方法が有効である。
【0056】
さらに、コーティング層6の熱処理温度は、分散剤が水であるため100℃以上であるが、好ましくは150〜200℃である。150℃よりも低温の場合は、乾燥に時間がかかるため、生産性の点から好ましくない。一方、200℃よりも高温の場合は、水が急激に蒸発するため、得られる人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5の表面に凹凸状の発泡傷が生じやすい。
【0057】
本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5の製造方法は、コーティング層6の形成に使用する分散剤が水であるため、コーティングの熱処理装置には特別な排気、防火、空気清浄設備等を用意する必要が無く、安全で経済的にも有効な手段であるといえる。
【0058】
以上説明したように、本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5は、薄膜でかつ強固なフォトクロミック化合物を含有するコーティング層6を形成することにより、紫外線照射によって好みの色に変色させることが可能となる。また、ベースとなるポリエステルモノフィラメントが人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント5の大半を占める構造となっているため、高強力で耐久性に優れたものとなり、人工毛髪はもとより、人形用毛髪にも好適に使用することが可能な、付加価値の高い人工毛髪用モノフィラメントである。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の人工毛髪ポリエステルモノフィラメントについて、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
また、実施例における人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価は以下の方法で行った。
【0061】
[融点]
PERKIN−ELMER製DSC7を使用し、JIS 7121に準じて、昇温速度10℃/分の条件で測定し、2nd−runのピーク温度を融点とした(単位:℃)。
【0062】
[人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの色相変化]
人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを紫外線照射の無い暗所にて3時間保管したサンプル色(評価1)をスタンダード色とし、紫外線を3分間照射した際(評価2)と、紫外線照射の無い暗所に再度投入し、3分後の色相変化を評価した(評価3)。
【0063】
[コーティング層の厚さ]
人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント試料をミクロトームで厚さ15μmに輪切りにし、マイクロスコープ(KEEYENCE社製 デジタルHDマイクロスコープVH−7000)を使用して、表面コーティング層の厚さを4点測定し、この4点の測定値の平均をコーティング層の厚さとした。
【0064】
[耐屈曲疲労特性]
JIS P−8115に準じて測定した。具体的には、屈曲疲労試験機(東洋精機製 MIT屈曲疲労試験機)を使用し、荷重0.25g/d、振れ回数175回/分、振れ角度約270度(左右に各約135度)の条件で、得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを繰り返し折り曲げ回数1000回実施し、コーティング層の脱落の有無を評価した。
【0065】
[線径斑]
アンリツ社製レーザー外径測定機KL−151Aを使用した。人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント試料300mを30m/分の速度で測定し、平均線径Dmean、最大線径Dmax、最小線径Dminから下記式(I)により線径斑Rを算出した。
=(Dmax−Dmin)/Dmean×100 ・・・ (I)
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートチップ(東レ株式会社製T−701T)90wt%とT701Tを黒色に着色したマスターバッチチップ10wt%との混合物を、エクストルーダー型溶融紡糸機に連続供給し、300℃で溶融押出して70℃の温水で冷却・固化した後、90℃の温水浴中で3.6倍に延伸し、更に180℃の乾熱浴中で1.528倍に延伸(全延伸倍率5.5倍)することにより黒色ポリエステルモノフィラメント(ベースポリエステルモノフィラメント)を得た。
【0066】
次いで、融点120℃、平均粒子径2μmの共重合ポリエステル固体粒子を含有する水系懸濁液(エムスケミー・ジャパン製 Griltex D1377E Suspension)と平均粒子径2μmのスピロナフトオキサジン系フォトクロミック化合物(商品名:フォトローム 日本ケミックス社製)を混合調整し、水系懸濁液中の含有量を共重合ポリエステル固体粒子が30wt%、フォトクロミック化合物の含有量を5wt%として、トータルの含有量が35wt%となるコーティング層形成用の水系懸濁液を製作した。
【0067】
このコーティング層形成用の水系懸濁液をベースポリエステルモノフィラメントにディップ法により塗布し、180℃の熱風浴内で熱処理することにより、表層に厚さ15μmのコーティング層を有した直径0.07mmの人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを得た。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2]
実施例1において、コーティング層形成用の水系懸濁液中の共重合ポリエステル固体粒子の濃度を10wt%とし、フォトクロミック化合物の含有量を5wt%に変更した以外は、実施例1に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0069】
[実施例3]
実施例1において、水系懸濁液中の共重合ポリエステル固体粒子の濃度を10wt%とし、フォトクロミック化合物の含有量を20wt%に変更した以外は、実施例1に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0070】
[実施例4]
実施例1において、水系懸濁液中の共重合ポリエステル固体粒子の濃度を5wt%とし、フォトクロミック化合物の含有量を30wt%に変更した以外は、実施例1に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0071】
[実施例5]
実施例1において、水系懸濁液の平均粒子径を4μmに変更した以外は実施例4に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
実施例1において、水系懸濁液をディップ法により塗布した後の熱処理温度を120℃に変更した以外は、実施例1に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0073】
[比較例2]
実施例1において、水系懸濁液をディップ法により塗布した後の熱処理温度を220℃に変更した以外は、実施例1に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例3]
実施例1において、水系懸濁液中の共重合ポリエステル系樹脂の平均粒子径を8μmに変更した以外は、実施例4に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0075】
[比較例4]
実施例1において、フォトクロミック化合物の含有量を2wt%とし、水系懸濁液中の共重合ポリエステル固体粒子を2wt%に変更した以外は、実施例1に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0076】
[比較例5]
実施例1において、水系懸濁液の共重合ポリエステル固体粒子の濃度を50wt%に変更した以外は、実施例1に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られ人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0077】
[比較例6]
実施例1において、水系懸濁液を融点90℃で平均粒子径2μmの共重合ポリアミド固体粒子を濃度30wt%に調製した水系懸濁液(エムスケミー・ジャパン製 Griltex D1500A Suspension)に変更した以外は、実施例1に準じて人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを作製した。得られた人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の結果から明らかなように、本発明の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントは、紫外線照射により希望の色に短時間で変色する実用性の高いものであった。
【0080】
一方、本発明の条件を満たさない人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントは、上記効果を十分に発揮せず、例えば、水系懸濁液の共重合ポリエステル固体粒子の濃度が低い人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント(比較例4)は、フォトクロミック化合物による紫外線照射による色変化性能を有していても、コーティング層の厚さが不十分で耐屈曲疲労特性が劣るものであった。
【0081】
また、熱処理温度が低い人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント(比較例1)は、コーティング層の固着力が十分ではなく、繰り返し折り曲げによりコーティング層が脱落した。
【0082】
さらに、水系懸濁液中の共重合固体粒子の融点が低いポリアミド樹脂系を使用した人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント(比較例6)は、ベースのポリエステルモノフィラメントのポリエステル系樹脂との相溶性が良くなく、繰り返し折り曲げによってコーティング層が容易に脱落するばかりか、融点が低いために強度が不足して温度耐久性も低くなった。
【0083】
さらに、本発明の条件を外れる高い熱処理温度で作製した人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント(比較例2)や、水系懸濁液の共重合ポリエステル固体粒子の濃度が高い人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント(比較例5)、および平均粒子径が大きい人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント(比較例3)は、線径斑の悪化などにより人工毛髪としての品位に劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、フォトクロミック化合物の色変化を効果的に利用した人工毛髪を得ることができる。詳しくはベースとなるポリエステルモノフィラメントの表層にフォトクロミック化合物からなるコーティング層を共重合ポリエステル系樹脂の溶融固着力を利用して形成する。溶融固着は両成分が含有する水系懸濁液を使用しており、製造に関して環境負荷もなく、人工毛髪として使用された際の安全性も高く産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0085】
1 単色ベースポリエステルモノフィラメント
2 複合色ベースポリエステルモノフィラメント
3 無着色層
4 着色層
5 人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント
6 コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルモノフィラメントの表面にフォトクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂からなる厚さ0.5〜40μmのコーティング層が形成されていることを特徴とする人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記ポリエステルモノフィラメントがポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートおよびポリプロピレンテレフタレートから選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
延伸されたポリエステルモノフィラメントの表面に、フォトクロミック化合物と融点110〜180℃で平均粒子径5μm以下の熱可塑性樹脂との混合物を6wt%〜45wt%含有する水系懸濁液を付与した後、150〜200℃で熱処理を行なって水分を除去し、コーティング層を形成することを特徴とする請求項1〜2に記載の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
前記フォトクロミック化合物の水系懸濁液中の含有量が1wt%〜40wt%であることを特徴とする請求項3に記載の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂の水系懸濁液中の含有量が5wt%〜40wt%であることを特徴とする請求項3に記載の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が共重合ポリエステル固体粒子であることを特徴とする請求項3に記載の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6項のいずれか1項に記載の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントからなることを特徴とする人工毛髪。
【請求項8】
請求項1〜6項いずれか1項に記載の人工毛髪用ポリエステルモノフィラメントを複数本引き揃え、メッシュ基布に固定されていることを特徴とする人工毛髪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102416(P2012−102416A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249666(P2010−249666)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】