説明

人工毛髪用繊維束及びそれを用いた頭飾製品

【課題】天然毛髪に近い風合いを備えた人工毛髪用繊維束であって、天然毛髪と同様にしてスチームセットやヘアアイロンセットの方法を用いて容易にスタイリングができ、また、シャンプーの際等の水分によっても、スタイリングにより形成されたカールが伸びにくく、セットが崩れにくい性質を有する、安価な人工毛髪用繊維束、及びそれを用いた頭飾製品を提供することを課題とする。
【解決手段】再生コラーゲン繊維、人毛繊維及び獣毛繊維から選ばれる2種以上の繊維を含有するタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合して得られうることを特徴とする人工毛髪用繊維束を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィッグまたはヘアアクセサリー等の頭飾製品として用いられる人工毛髪用繊維束及びそれを用いた頭飾製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウィッグまたはヘアアクセサリー等の頭飾製品に用いられる繊維としては、ヒトの毛髪(天然毛髪)に由来する人毛繊維や、アクリル系繊維,塩化ビニル系繊維,ポリエステル系繊維等の合成繊維が幅広く用いられている。
【0003】
人毛繊維を用いた頭飾製品は、頭部に装着した場合に風合い(艶や触感)が天然毛髪と似ているために外観上の違和感が少なく、また、耐熱性が高いために、天然毛髪をスタイリングする際に用いられる160℃以上の温度でのヘアアイロンセットの方法を用いて容易にスタイリングすることができる。
【0004】
しかしながら、人毛繊維はヒトに由来するもので、その供給量が限定的であるために、合成繊維に比べて高価であり、特に、長い人毛繊維は、希少であり、非常に高価であるという問題がある。また、その毛質(太さ、硬さ等)が人種や性別、あるいは個人差により大きく異なるために、品質が均質なものを得ることが困難であり、品質斑が生じやすいという問題がある。さらに、水の付着等に対するスタイルの保持性が低く、シャンプーの際の水分等によりスタイリングにより形成したカールが伸びて、セットが崩れやすいという問題がある。
【0005】
一方、合成繊維を用いた頭飾製品は、合成繊維の大量生産が可能であるために人毛繊維に比べて安価であり、また、品質斑も小さく、また、水の付着等に対するスタイルの保持性が高いために、シャンプーの際の水分によっても、人毛繊維のようにはカールが伸びることがなく、セットが崩れにくいという特徴がある。
【0006】
しかしながら、合成繊維は天然毛髪とは風合いが大きく異なり、合成繊維からなる頭飾製品をヒトの頭部に装着した場合には、外観上の違和感が生じやすいという問題がある。また、人工毛髪に用いられるようなアクリル系繊維,塩化ビニル系繊維,ポリエステル系繊維等の合成繊維を形成する樹脂成分は熱可塑性を有するために、ヘアアイロンセットの方法を用いて高温でスタイリングする場合には、樹脂が軟化して、カールが固定される前に自重で伸びてしまい、カールを固定するには一定の冷却時間を確保する必要があるという問題がある。また、高温により、合成繊維が収縮したり、縮れたりしやすいという問題もある。
【0007】
前記のような各種問題を解決するために、例えば、下記特許文献1には、人毛と特定のポリエステル系繊維とを特定の割合で混合してなる毛髪用繊維束が記載されている。
【0008】
前記特許文献1に開示の技術は、人毛と特定のポリエステル系繊維とを混合することにより、ヘアアイロンセットで冷却することなく容易にスタイリングできるという特徴を有し、また、特定のポリエステル系繊維を用いることにより、人毛に由来する品質斑を抑制したものであるが、前記のような構成においては、タンパク質系の繊維として人毛のみを用いているために、原料コストが高いという問題がある。さらに、前記技術において、特に、人毛の混合比率が高い場合においては、毛髪用繊維束中に含有される繊維の繊度の組み合わせの自由度が低く、繊度の組み合わせを調整することによるボリューム感やスタイルの安定感の調整の自由度が低かった。従って、天然毛髪に近い風合いを有し、ヘアアイロンセットで容易にスタイリングでき、且つ、シャンプーの際の水分によってもセットが崩れにくく、ボリューム感やスタイルの安定感の調整の自由度に富んだ安価な人工毛髪用繊維束の開発が求められていた。
【特許文献1】国際公開第2005/037000号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、天然毛髪に近い風合いを備えた人工毛髪用繊維束であって、天然毛髪と同様にしてヘアアイロンセットの方法を用いて容易にスタイリングができ、また、シャンプーの際の水分によっても、スタイリングにより形成されたカールが伸びにくく、セットが崩れにくい性質を有し、さらに、繊度の組み合わせの自由度が高いためにボリューム感やスタイルの安定感の調整の自由度が高い、安価な人工毛髪用繊維束、及びそれを用いた頭飾製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、再生コラーゲン繊維、人毛繊維及び獣毛繊維から選ばれる2種以上の繊維を含有するタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合して得られうることを特徴とする人工毛髪用繊維束である。このような構成により、ヘアアイロンセットの方法を用いて容易にスタイリングができる(以下、この性質をアイロンセット性ともいう)とともにスチームセットの方法を用いたセット性にも優れ、また、シャンプーの際の水分によってもカールが伸びにくいためにセットが崩れにくく(以下、この性質を、耐シャンプー性ともいう)、さらに、天然毛髪に近い風合いを備えた人工毛髪用繊維束を安価に得ることができる。そして、タンパク質系繊維として上記2種以上の繊維を含有するために、繊維の繊度の選択の幅が広がり、ボリューム感やスタイルの安定感の調整が容易になる。
【0011】
また、請求項2の発明は、前記タンパク質系繊維束(A)と前記合成繊維束(B)との混合割合が(A)/(B)=90/10〜10/90である請求項1に記載の人工毛髪用繊維束である。前記混合割合でタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合した場合には、アイロンセット性と耐シャンプー性をバランスよく備えることができる。
【0012】
また、請求項3の発明は、前記タンパク質系繊維束(A)が人毛繊維と獣毛繊維とからなる繊維束である請求項1又は請求項2に記載の人工毛髪用繊維束である。このような構成により、更に天然毛髪に近い風合いを備えた人工毛髪用繊維束を安価に得ることができる。
【0013】
また、請求項4の発明は、前記タンパク質系繊維束(A)が人毛繊維と再生コラーゲン繊維とからなる繊維束である請求項1又は請求項2に記載の人工毛髪用繊維束である。再生コラーゲン繊維は繊度及び長さを自由に制御することができるために、このような構成により、品質斑が少なく、また、所望のボリューム感やスタイルを得るために必要な繊度及び長さの再生コラーゲン繊維を自由に選択して人工毛髪用繊維束を得ることができる。
【0014】
また、請求項5の発明は、前記タンパク質系繊維束(A)中の前記再生コラーゲン繊維の含有割合が20〜80質量%である請求項4に記載の人工毛髪用繊維束である。このような含有割合で再生コラーゲン繊維を用いることにより、天然毛髪に近い風合いを充分に維持しながら、品質斑がより少ない人工毛髪用繊維束を安価に得ることができる。
【0015】
また、請求項6の発明は、前記再生コラーゲン繊維が、160℃での熱収縮率が5%以下であり、単繊維繊度が30〜90dtexである請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維束である。このような再生コラーゲン繊維を用いた場合には、よりアイロンセット性に優れた人工毛髪用繊維束を得ることができる。
【0016】
また、請求項7の発明は、前記合成繊維束(B)がポリエステル系繊維及び/又はポリアミド系繊維を含有する繊維束である請求項1〜6のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維束である。このような合成繊維束を用いた場合には、特に、アイロンセット性を高く維持することができる。
【0017】
また、請求項8の発明は、前記ポリエステル系繊維及び/又はポリアミド系繊維が、限界酸素指数(LOI値)が25以上で、かつ180℃での熱収縮率が5%以下の繊維である請求項7に記載の人工毛髪用繊維束である。このようなポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維を用いた場合には、難燃性が高く、また、ヘアアイロンセットの際の繊維の収縮や縮れの発生を抑制することができる。
【0018】
また、請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維束を加工してなる頭飾製品である。このような頭飾製品は、スタイリングが容易で、シャンプー等によってもカールが伸びにくく、また、頭部に装着しても違和感がないものである。
【0019】
また、請求項10の発明は、頭飾製品が、ウィービング、ウィッグ、ツーぺ、ヘアーエクステンションまたはヘアアクセサリーである請求項9に記載の頭飾製品である。頭飾製品として、特に、ウィービング、ウィッグ、ツーぺ、ヘアーエクステンションまたはヘアアクセサリーに用いた場合には、前記人工毛髪用繊維束の特性を効果的に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、人工毛髪用繊維束にヘアアイロンセットでカールを施す場合において、カールを固定させるためにセット後に充分な冷却時間を確保する必要がなく、また、カールが形成された人工毛髪用繊維束にシャンプーの際に水分が付着してもカールは伸びにくくセットが崩れにくい。また、2種以上のタンパク質系繊維を用いることにより、繊度の調整の自由度が高いために、ボリューム感やスタイルの安定感の調整が容易である。そして、前記のような優れた特性を備え、且つ天然毛髪に近い風合いを備えた人工毛髪用繊維束を安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0022】
本発明において用いられるタンパク質系繊維束(A)とは、再生コラーゲン繊維、人毛繊維及び獣毛繊維から選ばれる2種以上の繊維を含有するタンパク質系繊維からなる繊維束である。これらのタンパク質系繊維は、天然毛髪と同様にタンパク質を主成分とするために、天然毛髪に近い耐熱性を有するためにアイロンセット性に優れている。以下に、本発明で用いられる各種タンパク質系繊維について詳しく説明する。
【0023】
(再生コラーゲン繊維)
本発明に用いられる再生コラーゲン繊維とは、従来から再生コラーゲン繊維として知られているものが特に制限なく用いられる。
【0024】
前記再生コラーゲン繊維の単繊維繊度としては30〜90dtex、更には、35〜85dtex、とくには、40〜80dtexであることが好ましい。前記繊度が低すぎる場合には、毛髪用繊維としては柔らかすぎるため、スタイリングが難しくなり、高すぎる場合には、繊維が硬くなりすぎて触感がわるくなる傾向がある。
【0025】
また、前記再生コラーゲン繊維としては、160℃での熱収縮率が5%以下であるものが特に好ましい。前記熱収縮率が5%を超える再生コラーゲン繊維を用いた場合には、160℃以上でのヘアアイロンセットによる処理で、収縮したり、縮れが発生しやすくなるため好ましくない。
【0026】
なお、前記熱収縮率は、一般的に熱分析で用いられる熱機械分析装置により、10mg/dtex以下の荷重をかけて、2〜20℃/分の昇温速度で、室温〜融点付近までの熱収縮率を測定することにより得られるものであるが、荷重、昇温速度によってその値が変動するために、本発明における熱収縮率は、荷重を5.55mg/dtex、昇温速度を3℃/分とした場合の熱収縮率である。
【0027】
以下に、再生コラーゲン繊維の製法の一例について説明する。
【0028】
再生コラーゲン繊維は、例えば、牛等の皮からなるコラーゲン原料を溶解処理することにより、可溶化して得られるコラーゲン溶液を、溶液紡糸することにより得られる。
【0029】
コラーゲン原料としては、牛などの動物から得られるフレッシュな床皮や塩漬けされた生皮が用いられる。このようなコラーゲン原料に含有されるコラーゲンは、部分的に架橋している不溶性のコラーゲンであるために、架橋を切断する可溶化処理が施される。前記可溶化処理の方法としては、公知のアルカリ可溶化法や酵素可溶化法などを用いることができる。
【0030】
可溶化されたコラーゲンは、例えば、pH2〜4.5に調整された固形分濃度が1〜15質量%程度のコラーゲン溶液に調製される。
【0031】
そして、前記コラーゲン溶液を、紡糸ノズルやスリットを通して吐出し、無機塩水溶液に浸漬することにより再生コラーゲン繊維が得られる。
【0032】
なお、本発明に用いられる再生コラーゲン繊維としては、有機架橋剤や金属塩と反応させて耐水化させたものが好ましい。このような処理により、コラーゲンに着色が少なくなり、また、吸水率が低下し、湿触感が良好になる。また、耐熱性が向上するために、より高い温度でのアイロンセットやスチームセットによるスタイリングが可能となる。
【0033】
前記有機架橋剤としては、単官能エポキシ化合物が、コラーゲンの着色が少なく、また、繊維の吸水率を低下させる効果が高い点から好ましい。
【0034】
架橋に用いられる単官能エポキシ化合物の量としては、アミノ酸分析法により測定した、再生コラーゲン繊維中の単官能エポキシ化合物と反応可能なアミノ基の量に対し、0.1〜500当量、好ましくは0.5〜100当量、さらに好ましくは1〜50当量である。前記単官能エポキシ化合物の量が少なすぎる場合には、再生コラーゲン繊維に対する耐水化効果が充分でなく、多すぎる場合には、耐水化効果は高いものの、工業的な取扱い性や環境面で好ましくない傾向にある。
【0035】
前記単官能エポキシ化合物による再生コラーゲン繊維の処理温度は、50℃以下であることが好ましい。処理温度が50℃をこえる場合には、再生コラーゲン繊維が変性したり、得られる繊維の強度が低下し、安定的な繊維の製造が困難になる。
【0036】
また、前記金属塩としては、アルミニウム塩が、コラーゲンの着色が少なく、得られる再生コラーゲン繊維に湿潤時のコシが加わり、湿触感が改良される点から好ましい。ここで用いられるアルミニウム塩は特に限定されないが、例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウムまたは塩基性硫酸アルミニウムなどが挙げられる。これらのアルミニウム塩は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐水化処理に用いられるアルミニウム塩の水溶液のアルミニウム塩濃度としては、酸化アルミニウム(Al23)に換算して1〜10質量%であることが好ましい。1質量%未満では再生コラーゲン繊維中のアルミニウム含量が少なくなるために、湿触感が不良となり、カールセットなどの形状を付与しにくくなる傾向があり、また、10質量%をこえる場合には処理後の再生コラーゲン繊維が硬くなって風合いを損ねてしまうおそれがある。
【0037】
なお、前記再生コラーゲン繊維は、通常、オイリング処理して用いられる。
【0038】
前記オイリング処理に用いられる繊維処理剤としては、例えば、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンなどのエマルジョンやプルロニック型ポリエーテル系静電防止剤からなる油剤などを用いることができる。
【0039】
(人毛繊維)
本発明に用いられる人毛繊維とは、天然毛髪に由来する繊維であり、天然毛髪そのもののほか、天然毛髪にキューティクル除去処理や、殺菌、脱色、染色、光沢付与処理等を施して得られる繊維であり、従来から天然毛髪に由来する繊維として毛髪用繊維の用途に用いられている繊維である。
【0040】
(獣毛繊維)
本発明に用いられる獣毛繊維とは、ヒトを除く哺乳類の毛に由来する繊維であり、具体的には、ヤク、ラクダ、ヤギ、馬などの獣に由来する獣毛そのもののほか、獣毛にキューティクル除去処理や、殺菌、脱色、染色、光沢付与処理等を施して得られる繊維である。
【0041】
(合成繊維)
本発明に用いられる合成繊維とは、溶融紡糸工程または溶液紡糸工程により得られる合成樹脂繊維であり、具体的には、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられる。これらの中では、ポリエステル系繊維及びポリアミド系繊維が耐熱性に優れているために、高いアイロンセット性を維持できる点から好ましい。
【0042】
前記合成繊維の単繊維繊度としては、20〜100dtex、更には、30〜90dtex、とくには40〜80dtexであることが好ましい。前記単繊維繊度が低すぎる場合には、毛髪用繊維としては柔らかすぎて、スタイリングが難しくなり、また、高すぎる場合には硬すぎて触感がわるくなる傾向がある。
【0043】
本発明に用いられる合成繊維としては、特に、ポリエステル系繊維及びポリアミド系繊維のいずれかを少なくとも含有し、限界酸素指数(LOI値)が25以上で、180℃の熱収縮率が5%以下であり、単繊維繊度が20〜100dtexである繊維を用いることが好ましい。
【0044】
前記LOI値が25未満になると次第に燃え易くなり、また、燃焼時に溶融滴下(ドリップ)しやすくなる。また、前記熱収縮率が5%を超える場合には、160℃以上のヘアアイロンセットによる処理を行った場合には収縮したり、縮れが発生してしまうおそれがある。
【0045】
なお、上述した熱収縮率は、再生コラーゲン繊維の熱収縮率を測定する方法と同様の方法で測定したものである。
【0046】
以下に、本発明で用いられる合成繊維として、とくに、好ましい繊維であるポリエステル系繊維及びポリアミド繊維について、詳しく説明する。
【0047】
前記ポリエステル系繊維は、ポリエステル系樹脂またはポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸して得られる繊維である。
【0048】
前記ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートや前記ポリアルキレンテレフタレートを主体として、更に、少量の共重合成分が共重合された共重合ポリエステル、あるいは、前記ポリアルキレンテレフタレートや共重合ポリエステルとポリアリレートやポリカーボネート等とをポリマーアロイして得られる樹脂等が挙げられる。
【0049】
また、前記ポリアミド系繊維は、ポリアミド系樹脂またはポリアミド系樹脂組成物を溶融紡糸して得られる繊維である。
【0050】
前記ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612などのポリアミド、及びこれらのナイロンを主体とし、更に、少量の共重合成分が共重合された共重合ポリアミド等が挙げられる。
【0051】
前記ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂の固有粘度としては、0.5〜1.4であるのが好ましく、さらには0.6〜1.2であるのが好ましい。前記固有粘度が低すぎる場合には、得られる繊維の機械的強度が低下する傾向があり、高すぎる場合には、分子量の増大に伴い溶融粘度が高くなり、溶融紡糸が困難になり、繊度の調整が困難になる傾向がある。
【0052】
なお、ポリエステル系樹脂組成物およびポリアミド系樹脂組成物には、リン系難燃剤や臭素系難燃剤等の難燃剤を含有させることにより、難燃性を付与することが好ましい。
【0053】
前記リン系難燃剤としては、例えば、ホスフェート系化合物、ホスホネート系化合物、ホスフィネート系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、ホスホナイト系化合物、ホスフィナイト系化合物、ホスフィン系化合物、縮合リン酸エステル系化合物、リン酸エステルアミド化合物および有機環状リン系化合物などからなるものが挙げられる。
【0054】
また、前記臭素系難燃剤としては、例えば、臭素含有リン酸エステル類、臭素化ポリスチレン類、臭素化ポリベンジルアクリレート類、臭素化エポキシオリゴマー類、臭素化ポリカーボネートオリゴマー類、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物、臭素含有イソシアヌル酸系化合物などからなるものが挙げられる。
【0055】
これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
前記難燃剤の含有割合は、樹脂成分100質量部に対し、5〜30質量部、更には、6〜25質量部、とくには、7〜20質量部であることが好ましい。前記含有割合が少なすぎる場合には難燃効果が得られ難くなり、多すぎる場合には機械的特性、耐熱性、耐ドリップ性が損なわれる。
【0057】
また、ポリエステル系樹脂組成物およびポリアミド系樹脂組成物には、更に難燃効果を高めるために難燃助剤を含有させてもよい。
【0058】
前記難燃助剤の具体例としては、例えば、メラミンシアヌレート、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
前記難燃助剤の含有割合は、樹脂成分100質量部に対し、10質量部以下、更には、8質量部以下、とくには、6質量部以下であることが好ましい。難燃助剤の含有割合が多すぎる場合には、紡糸時の加工安定性や繊維の外観および透明性が損なわれる傾向がある。
【0060】
ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂には、更に、必要に応じて、艶消し材や耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。
【0061】
前記艶消し材としては、有機微粒子や無機微粒子を使用することができる。
【0062】
前記有機微粒子としては、樹脂成分と相溶しないか、部分的に相溶しない構造を有する有機樹脂が好ましく用いられ、具体的には、例えば、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンなどが好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定的に光沢調整効果を発現するためには、耐熱性および分散性の点から、架橋ポリスチレン樹脂および架橋アクリル粒子が好ましい。
【0063】
また、前記無機微粒子としては、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂の屈折率に近い屈折率を有するものが繊維の透明性や発色性に優れる点から好ましく、例えば、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカ、あるいは、これらの複合粒子などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでは、酸化ケイ素、酸化ケイ素を主体とした複合粒子で、特に、球形に近い微粒子が光沢調整効果は高い点から好ましい。本発明に用いられる無機微粒子は、必要に応じてエポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物等で表面処理されてもよい。
【0064】
前記ポリエステル系樹脂組成物及びポリアミド系樹脂組成物は、通常の溶融混練により得られる。溶融混練に用いられる混練機の例としては、例えば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。これらの中では、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0065】
ポリエステル系繊維及びポリアミド系繊維は、前記樹脂又は樹脂組成物を通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0066】
具体的には、例えば、押出機、ギアポンプ、口金などの温度を250〜310℃に設定して溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒中に通過させた後、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取ることにより紡出糸が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度や長さ、冷却風の温度や吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量及び口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0067】
得られた未延伸糸は熱延伸されるが、延伸は未延伸糸を一旦巻き取ってから延伸する2工程法および巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。熱延伸は、1段延伸法または2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0068】
本発明に用いられる合成繊維は、触感やくし通りを向上させるために、シリコーン系繊維処理剤、非シリコーン系繊維処理剤などで処理されていることが好ましい。上記シリコーン系繊維処理剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、両末端水酸基ジメチルポリシロキサン、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、エポキシ基含有オルガノポリシロキサン、アミノ基含有オルガノポリシロキサン、エステル基含有オルガノポリシロキサン、ポリオキシアルキレン含有オルガノポリシロキサンが挙げられ、上記非シリコーン系繊維処理剤としては、例えば、ポリエーテル系化合物、脂肪酸エステル系化合物、有機アミン系化合物、有機アミド系化合物、有機脂肪酸エステル類、有機アンモニウム塩、有機脂肪酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸エステル塩、有機リン酸エステル塩などが挙げられる。
【0069】
次に、上記説明した各種繊維を混合して得られる、本発明の人工毛髪用繊維束について詳しく説明する。
【0070】
本発明の人工毛髪用繊維束は再生コラーゲン繊維、人毛繊維及び獣毛繊維から選ばれる2種以上の繊維を含有するタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合して得られうるものである。
【0071】
タンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合することにより得られうる人工毛髪用繊維束は、ヘアアイロンセットでスタイリングする際に、短時間でセットが固定されるためにアイロンセット性に優れている。また、シャンプーの際の水によっても、セットされたカールの形状が崩れにくい。
【0072】
また、本発明に用いられるタンパク質系繊維束(A)はタンパク質を主成分とする再生コラーゲン繊維、人毛繊維、獣毛繊維からなる2種以上のタンパク質系繊維を含有するものである。このように、タンパク質系繊維と合成繊維とを組み合わせて人工毛髪用繊維束を形成する場合において、前記2種以上のタンパク質繊維を組み合わせることにより、タンパク質系繊維として高価な人毛繊維のみを用いる場合に比べて安価でアイロンセット性及び耐シャンプー性の優れた人工毛髪用繊維束が得られ、また、繊度の組み合わせの自由度が高いためにボリューム感やスタイルの安定感の調整の自由度の高いという特性を得ることができる。
【0073】
人毛繊維は天然毛髪と同様の優れた性質、具体的には、優れたアイロンセット性や天然毛髪に近い風合いを有する点で人工毛髪用繊維として用いることは好ましいが、人毛繊維のみからなる頭飾製品は、天然毛髪に由来する点から高価であり、また、毛質のばらつきが大きいために求める繊度や長さの人毛繊維を入手することが困難である。
【0074】
獣毛繊維も、人毛繊維と同様に、高いアイロンセット性を有する点で好ましいが、人毛繊維に比べると天然毛髪との風合いの差がやや大きい。しかしながら、人毛繊維よりは大幅に安く、また、ヤク、ラクダ、ヤギ、馬などの獣の種類を適宜選択することにより幅広い繊度の繊維が得られる点から好ましく、人毛繊維に遜色のないアイロンセット性等の優れた特性を有する。
【0075】
一方、再生コラーゲン繊維は、人毛繊維と同様にタンパク質を主成分とするが、紡糸工程により得られるものであるために、所望の繊度や所望の長さの繊維が得られる。また、工業的に生産できるものであるために人毛繊維に比べて大幅に安価である。
【0076】
以下にタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とのそれぞれの組み合わせに沿って、本発明を更に詳しく説明する。
(人毛繊維と獣毛繊維と合成繊維との組み合わせ)
人毛繊維と獣毛繊維とからなるタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合して得られる人工毛髪用繊維束は、ヘアアイロンセットの際に、充分な冷却時間を確保することなくセットが固定される点から好ましく、また、シャンプーの際に水に接触しても、セットされたカールの形状が崩れることを充分に抑制することができる。そして、獣毛繊維は人毛繊維と比較的近い特性を有するために、人毛繊維の風合いを高く維持することができる。また、獣毛繊維は人毛繊維よりも安価であるために、人毛繊維のみを用いるのと同様の優れた特性を有する人工毛髪用繊維束を安価に得ることができる。
【0077】
また、スタイリングにおいて、ボリューム感やスタイルの安定感を調整するためには、繊度の異なる繊維を混合することが有効であるが、タンパク質系繊維束(A)として人毛繊維と獣毛繊維とからなる混合物を用いることにより、幅広い繊度の組み合わせが可能になる。
【0078】
(人毛繊維と再生コラーゲン繊維と合成繊維との組み合わせ)
人毛繊維と再生コラーゲン繊維とからなるタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合して得られる人工毛髪用繊維束は、ヘアアイロンセットでスタイリングする際に、充分な冷却時間を必要とせずに、セットが固定される点から好ましく、また、シャンプー等において水に接触しても、セットされたカールの形状が崩れにくい。そして、再生コラーゲン繊維は、工業生産が可能であるために安価であり、また、紡糸工程の条件を調整することにより、バラつきが少なく、また、所望の繊度や長さを有するものが得られるために、人毛繊維と再生コラーゲン繊維とを混合したタンパク質系繊維束を用いることにより、幅広い繊度の組み合わせが可能となり、ボリューム感やスタイルの安定感の調整の自由度が高い点から特に好ましい。
【0079】
なお、人毛繊維と再生コラーゲン繊維とからなるタンパク質系繊維束(A)を用いる場合においては、前記再生コラーゲン繊維の含有割合が20〜80質量%、更には30〜70質量%であることが好ましい。前記再生コラーゲン繊維の割合が多すぎる場合には、人毛繊維の風合いが充分に出にくくなる傾向がある。また、少なすぎる場合には、タンパク質系繊維の繊度の調整の自由度が低くなり、また、コストメリットが小さくなる。
【0080】
(獣毛繊維と再生コラーゲン繊維と合成繊維との組み合わせ)
獣毛繊維と再生コラーゲン繊維とからなるタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合して得られる人工毛髪用繊維束は、ヘアアイロンセットでスタイリングする際に、充分な冷却時間を必要とせずにセットが固定される点から好ましく、また、シャンプー等において水に接触しても、セットされたカールの形状が崩れることを充分に抑制することができる。そして、獣毛繊維及び再生コラーゲン繊維はいずれも安価であるために、高価な人毛繊維のみを用いた場合に比べて遜色のない特性を有する人工毛髪繊維を大幅に安価に得ることができる。
【0081】
前記のような本発明の人工毛髪用繊維束においては、タンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)との混合割合は、タンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)との混合割合(%)が、(A)/(B)=90/10〜10/90、更には、80/20〜20/80、とくには70/30〜30/70であることが好ましい。
【0082】
前記タンパク質系繊維束(A)の混合割合が少なすぎる場合には、ヘアアイロンセットでスタイリングする際に、セットを固定するために充分な冷却時間が必要となり、また、合成繊維束(B)の混合割合が多すぎる場合には、シャンプーの際に水に接触した場合において、セットされたカールの形状が崩れることを充分に抑制できない傾向がある。
【0083】
このような本発明の人工毛髪用繊維束は各種頭飾製品、具体的には、ウィッグ、ツーぺ、ブレード、ヘアアクセサリー、ドールヘアー等、特にウィッグ、ツーぺ、ヘアアクセサリーの毛髪原料として好ましく用いられる。
【0084】
ウィッグとは、婦人用、紳士用を問わず、頭部に面で取り付ける主におしゃれを楽しむための装飾品であり、その装着面積によって部分ウィッグ、ハーフウィッグ、七分ウィッグ、フルウィッグに分けられる。
【0085】
一方、ヘアアクセサリーとは、自毛や頭皮に取り付けるウィッグを除く装飾品の総称であり、例えば、ヘアピンやヘアクリップなどを介して自毛に取り付け、自毛を長く見せるエクステンションや、頭皮に沿って網状に編んで自毛に縫い合わせたり、頭皮や自毛に接着剤等で主に帯状に取り付けるウィービング(単に繊維を束ねたものや、当業者では、一般にウエフトと呼ばれる繊維を腰蓑状に加工した繊維束、さらにそれらにカール形状を付与した装飾品)などが挙げられる。
【0086】
本発明の人工毛髪用繊維束を用いて、頭飾製品に加工する方法は、公知の製法で行える。例えば、ウィッグを作る場合には、該繊維束ウィッグ用ミシンで縫製して蓑毛を作り、これをパイプに巻いてスチームセットやヘアアイロンセットにてカールを付与し、カールの付いた蓑毛をヘアキャップに縫い付け、スタイルを整えることにより作製できる。
【実施例】
【0087】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
本実施例および比較例で使用した原料は、以下のとおりである。
ポリエステル系樹脂:ポリエチレンテレフタレート(三菱化学(株)製、BK−2180)
ポリアミド系樹脂:ナイロン66(デュポン社製、ザイテルFE3218)
獣毛繊維:モヘア(アンゴラ山羊の毛)、平均単繊維繊度 40dtex程度
人毛繊維:平均単繊維繊度 50dtex程度のもの
リン系難燃剤:環状リン化合物系難燃剤(三光(株)製、MエステルHP)
臭素系難燃剤:臭素化フェノキシ系難燃剤(東都化成(株)製、YPB−43M)
臭素化エポキシ系難燃剤:(阪本薬品工業(株)製、SR−T20000)
エチレンビステトラブロモフタルイミド:アルべマール浅野社製のSaytex BT−93
難燃助剤:アンチモン酸ナトリウム(日本精鉱(株)製のSA−A、一次粒子径2.4
μm)
つや消し剤:メラミン/シリカ複合粒子である日産化学工業(株)製、オプトビーズ2000M、平均粒子径1.9μm
【0089】
(製造例1〜6)
表1に示す配合比率の配合物を水分量100ppm以下に乾燥し、ドライブレンドした。そして、前記配合物を二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)に供給し、バレル設定温度230〜280℃で溶融混練し、ペレット化した。そして、前記ペレットを水分量100ppm以下程度に乾燥した後、溶融紡糸機(シンコーマシナリー(株)製、SV30)に供給し、バレル設定温度250〜300℃で扁平比が1.4:1の繭形断面ノズル孔を有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、20℃の冷却風により空冷し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。次に、得られた未延伸糸を85℃に加熱したヒートロールを用いて4倍に延伸し、200℃に加熱したヒートロールを用いて熱処理を行い、30m/分の速度で巻き取り、合成繊維(マルチフィラメント)を得た。そして、前記合成繊維を親水性繊維処理剤の水溶液に浸漬したのち、熱風乾燥機を用い、120℃で10分間乾燥させた。
【0090】
なお、前記親水性繊維処理剤の水溶液はKWC−Q(エチオキサイド−プロピレンオキサイドのランダム共重合ポリエーテル;丸菱油化(株)製)/KWC−B(アミノ変性シリコーン;丸菱油化(株)製)/加工剤No.29(カチオン性界面活性剤;丸菱油化(株)製)=0.08/0.12/0.06%omfとなるように調製した水溶液である。
【0091】
得られた合成繊維について、単繊維繊度、LOI値、熱収縮率を評価した。LOI値、熱収縮率の評価は以下の方法で行った。
<限界酸素指数、LOI値>
16cm/0.25gのフィラメントを秤量し、端を軽く両面テープでまとめ、懸撚器で挟み撚りをかけた。そして、充分に撚りをかけた後、試料の真中を二つに折りさらに、撚り合わせた。そして、端をセロテープ(登録商標)で止め、全長7cmになるようにしてサンプルを作成した。前記サンプルを105℃で60分間乾燥し、さらに、デシケーターで30分間以上乾燥した。乾燥されたサンプルを所定の酸素濃度に調整し、40秒後、8〜12mmに絞った点火器で上部より着火し、着火後点火器を離す操作をした。このときに、5cm以上燃えるか、3分間以上燃え続けたときの酸素濃度を調べ、同じ条件で試験を3回繰り返し、限界酸素指数(LOI値)とした。LOI値が大きいほど燃え難く、難燃性が高い。
<熱収縮性>
セイコー電子工業(株)製、SSC5200H熱分析TMA/SS150Cを用いて、フィラメントの熱収縮率を測定した。長さ10mmのフィラメント10本を取り、5.55mg/dtexの荷重をかけ、昇温速度3℃/分で30〜280℃の範囲で熱収縮率を測定し、180℃における収縮率を評価した。
【0092】
結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
(製造例7)
牛の床皮を原料とし、アルカリで可溶化した皮片に30質量%に希釈した過酸化水素水溶液を投入した後、乳酸水溶液で溶解し、pH3.5、固形分7.5質量%に調整した原液を作製した。そして、前記原液を減圧下で撹拌脱泡機(8DMV型、(株)ダルトン製)により撹拌脱泡処理し、ピストン式紡糸原液タンクに移送し、さらに減圧下で静置して、脱泡を行なった。かかる原液をピストンで押し出した後、ギアポンプで定量送液し、孔径10μmの焼結フィルターで濾過した後、孔径0.275mm、孔長0.5mm、孔数300の紡糸ノズルを通し、硫酸ナトリウム20質量%を含有してなる25℃の凝固浴(ホウ酸および水酸化ナトリウムでpH11に調整)へ紡出速度5m/分で吐出し、再生コラーゲン繊維を得た。得られた再生コラーゲン繊維を、エピクロロヒドリン1.7質量%、水酸化ナトリウム0.0246質量%、および硫酸ナトリウム(中性無水芒硝、東ソー(株)製)17質量%を含有した水溶液に25℃で4時間浸漬した後、さらに反応液温度を43℃に昇温して2時間浸漬した。反応終了後に反応液を除去し、25℃の水を用いて3回バッチ水洗を行なった。この後、硫酸アルミニウム(硫酸バンド、日本軽金属(株)製)5.0質量%、クエン酸三ナトリウム塩(精製クエン酸ナトリウムM、扶桑化学工業(株)製)0.9質量%、水酸化ナトリウム1.2質量%を含有した水溶液に30℃で浸漬し、反応開始から2時間後、3時間後および4時間にそれぞれ5質量%水酸化ナトリウム水溶液を反応液に添加した。その後、25℃の水を用いて3回バッチ水洗を行なった。ついで、作製した繊維の一部をアミノ変性シリコーンのエマルジョンおよびプルロニック型ポリエーテル系静電防止剤からなる油剤を満たした浴槽に浸漬して油剤を付着させた。そして、50℃に調整した熱風対流式乾燥機を用いて緊張下で乾燥させた。得られた繊維をパイプ軸方向と平行に新聞紙の上に均一に広げ、新聞紙と共にパイプに巻きその上から包帯で巻きつけ固定した。ついで85℃のオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器 HICLAVE HA−300P/V、(株)平山製作所製)で1時間湿熱処理を行なった後、115℃に調整した送風定温恒温機(DN43、ヤマト科学(株)製)で2時間乾燥し、単繊維繊度57dtexで、160℃における熱収縮率4%の再生コラーゲン繊維のフィラメントを得た。
【0095】
(実施例1〜10及び比較例1〜7)
製造例1〜6の合成繊維、製造例7の再生コラーゲン繊維、人毛繊維、獣毛繊維を表2及び表3に示した割合で混合し、ハックリングして糸条を整えて人工毛髪用繊維束を得た。
【0096】
得られた人工毛髪用繊維束を用いて、以下の評価方法により、アイロンセット性、スチームセット性、耐シャンプー性、触感及びコスト性を評価した。
<アイロンセット性>
長さ45cm、総繊度約15万dtexの繊維束を2つ折にして、一方の端を糸で集束した。この集束された繊維束をテスト用のマネキンヘッドに固定して吊り下げ、180℃に加熱したヘアアイロンで毛先から毛束を10秒間巻き込んだ後、ヘアアイロンを抜き取り、試料にカールを付与した。このままカールが維持される試料については、冷却処理が必要でないと判断(○)とした。この際、明らかにカールが伸びてしまった試料については、冷却処理が必要であると判断(×)とした。
<スチームセット性>
長さ30cm、総繊度5万dtexの繊維束を、直径25mmφのアルミパイプにスパイラルに巻き、ゴムバンドで固定した後、高圧殺菌装置(平山製作所(株)製)内に挿入して密閉し、スチームを発生させて120℃に昇温し、120℃になってから1時間セットした。冷却後、繊維束をパイプからはずして5分間水に浸漬し吸水させてから、ろ紙で表面の水分を取り除いた後にカールした繊維束の一方の端を固定して吊り下げた。
セット性の評価は、吊り下げた直後の長さ(セット前のカールが付いていない初期長は25cm)を測定した。測定値が長くなるほどカールが伸びていることを示し、25cmになるとカールが完全に取れたことを示す。
<耐シャンプー性>
前記スチームセット性の評価において、吊り下げた繊維束を吊ったままで乾燥し、再度水に浸漬して吸水させることを3回繰り返した後の長さを測定した。
<触感>
専門美容師による官能評価を行い、4段階で評価した。
◎:天然毛髪と同等の非常に柔らかな風合い
○:天然毛髪に近い柔らかな風合い
△:天然毛髪に比べやや硬い風合い
×:天然毛髪に比べ硬い風合い
<コスト性>
タンパク質系繊維として、人毛繊維のみを用いた場合とその他のタンパク質系繊維を混合した場合とのコスト差を一般的な市場価格を基準に算定した。
○:コストが人毛繊維のみを用いた場合の60%未満
△:コストが人毛繊維のみを用いた場合の60%以上80%未満
×:コストが人毛繊維のみを用いた場合の80%以上
【0097】
結果を表2及び表3に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
実施例1〜10により得られた人工毛髪用繊維束を評価した表2において、前記人工毛髪用繊維束はいずれもアイロンセット性に優れており、また、スチームセット性及び耐シャンプー性の評価においても、長さが短く、カールが維持されていることがわかる。
【0101】
また、触感においてもいずれも天然毛髪と同等かそれに近い触感を有していた。そして、コスト性は、タンパク質系繊維として人毛繊維のみを用いた場合に比べて、60%未満のコストに抑制できた。
【0102】
そして、実施例1〜10の人工毛髪用繊維束においては、57dtexの再生コラーゲン繊維、50dtexの人毛繊維および40dtexの獣毛繊維を組み合わせて用いているために、タンパク質系繊維として人毛繊維のみを用いる場合よりも、ボリューム感やスタイルの安定感の調整の自由度が高い。
【0103】
一方、表3において、再生コラーゲン繊維のみからなる人工毛髪用繊維束である比較例1及び人毛繊維のみからなる人工毛髪用繊維束である比較例2においては、スチームセット性及び耐シャンプー性が悪かった。また、ポリエチレンテレフタレート系繊維又はポリアミド繊維のみからなる人工毛髪用繊維束である比較例3及び4においては、スチームセット性及び耐シャンプー性には優れているが、アイロンセット性が悪いことがわかる。
【0104】
また、再生コラーゲン繊維とポリエチレンテレフタレート系繊維との混合物からなる人工毛髪用繊維束である比較例5及び獣毛繊維とポリアミド系繊維との混合物からなる人工毛髪用繊維束である比較例7においては、天然毛髪の触感に比べて硬い風合いであった。
【0105】
さらに、人毛繊維とポリエチレンテレフタレート系繊維との混合物からなる人工毛髪用繊維束である比較例6においてはコスト性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生コラーゲン繊維、人毛繊維及び獣毛繊維から選ばれる2種以上の繊維を含有するタンパク質系繊維束(A)と合成繊維束(B)とを混合して得られうることを特徴とする人工毛髪用繊維束。
【請求項2】
前記タンパク質系繊維束(A)と前記合成繊維束(B)との混合割合が(A)/(B)=90/10〜10/90である請求項1に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項3】
前記タンパク質系繊維束(A)が人毛繊維と獣毛繊維とからなる繊維束である請求項1又は請求項2に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項4】
前記タンパク質系繊維束(A)が人毛繊維と再生コラーゲン繊維とからなる繊維束である請求項1又は請求項2に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項5】
前記タンパク質系繊維束(A)中の前記再生コラーゲン繊維の含有割合が20〜80質量%である請求項4に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項6】
前記再生コラーゲン繊維が、160℃での熱収縮率が5%以下であり、単繊維繊度が30〜90dtexである請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項7】
前記合成繊維束(B)がポリエステル系繊維及び/又はポリアミド系繊維を含有する繊維束である請求項1〜6のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項8】
前記ポリエステル系繊維及び/又はポリアミド系繊維が、限界酸素指数(LOI値)が25以上で、かつ180℃での熱収縮率が5%以下の繊維である請求項7に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維束を加工してなる頭飾製品。
【請求項10】
前記頭飾製品が、ウィービング、ウィッグ、ツーぺ、ヘアーエクステンションまたはヘアアクセサリーである請求項9に記載の頭飾製品。

【公開番号】特開2007−169806(P2007−169806A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366524(P2005−366524)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】