説明

人工毛髪用繊維

【課題】ポリエステル、臭素化エポキシ難燃剤およびアンチモン化合物からなる組成の樹脂により人工毛髪繊維を得る際に、副反応や分解などに起因すると考えられる繊維中の太さが大きく異なる節状の部位(ブツ)が極めて少ない、外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、帯電防止性、耐熱性、難燃性の優れた人工毛髪用繊維を提供する。
【解決手段】 従来の、ポリエステル、臭素化エポキシ難燃剤およびアンチモン化合物の組成に、可塑剤を添加することにより、樹脂組成物の製造のための溶融混練時の剪断発熱を抑えられるだけでなく、溶融紡糸時の樹脂温度も下げることができ、繊維中の太さが大きく異なる節状の部位(ブツ)が極めて少ない難燃性ポリエステル系繊維が得られ、さらに、該繊維表面に繊維処理剤を付着させることにより、外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、帯電防止性、耐熱性、難燃性の優れた人工毛髪用繊維を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、帯電防止性、耐熱性、難燃性の優れた人工毛髪用繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かつらやヘアーウィッグ、ヘアーピース等、頭飾品に用いる人工毛髪として種々の合成繊維のフィラメントが用いられている。そして、このような人工毛髪用の合成繊維フィラメントの材料としては、塩化ビニル、モダアクリル、ポリエステル、ナイロン等が広く用いられている。ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維等は、そのまま人工毛髪として使用するには、難燃性が不十分である。
【0003】
これらの合成繊維の難燃性を向上させようとする試みは種々なされており、例えば、ポリエステル樹脂にリン原子を含有する難燃モノマーを共重合する方法や、ポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法などが知られている。前者の難燃モノマーを共重合する方法としては、例えば、リン原子が環員子となっていて熱安定性の良好なリン化合物を共重合する方法、また、カルボキシホスフィン酸を共重合する方法、ポリアリレートを含むポリエステルにリン化合物を配合又は共重合する方法が提案されている。一方、後者の難燃剤を含有させる方法としては、微粒子のハロゲン化シクロアルカン化合物をポリエステル繊維に含有させる方法、また、臭素原子含有アルキルシクロヘキサンを含有させる方法などが提案されている。
【0004】
これらの難燃化技術を人工毛髪に適用したものとしては、例えば、リン化合物を共重合したポリエステル繊維が提案されている(特許文献1〜3)。しかしながら、人工毛髪には高い耐燃性が要求されるため、これらの共重合ポリエステルを人工毛髪に使用するためにはその共重合量を多くしなければならず、その結果、ポリエステルの耐熱性が大幅に低下し、溶融紡糸が困難になったり、火炎が接近した場合、着火し燃焼はしないが、溶融しドリップしたりするという問題が発生する。
【0005】
ポリエステル繊維に難燃剤を後加工で含有させる方法(特許文献4,5)では、含有処理時間を長時間にする必要がある、大量の難燃剤を使用しなければならないといった課題があり、繊維物性の低下や生産性の低下、製造コストアップなどの問題が発生する。
【0006】
発明者らは、このような問題点を改善するため、ポリエステルに臭素含有難燃剤およびアンチモン化合物を添加した樹脂組成物より人工毛髪繊維を得る方法などを検討してきた(特許文献6、7)。ただし、ポリエステルに対して、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤のような反応性を有する難燃剤を使用した場合や、熱安定性が不十分な難燃剤を使用した場合や、アンチモン化合物などを添加した場合では、ポリエステルと難燃剤の間で反応が起こり、増粘したり、ゲル化を起こしたりしやすく、得られる繊維中に太さが大きく異なる節状の部位(いわゆるブツ)が発生するため、熱処理工程などで繊維が融着する、得られた人工毛髪繊維からなる頭飾品の外観や櫛通りが損なわれる等の問題が残っていた。特に、樹脂組成物を得るための溶融混練工程および樹脂組成物から繊維を得るための溶融紡糸工程において、充分な樹脂流動性を確保するために、溶融時の樹脂温度を高くした場合、上記問題が顕著であった。
【特許文献1】特開2001−64826号公報
【特許文献2】特開2002−115183号公報
【特許文献3】特開2003−41473号公報
【特許文献4】特開2005−9041号公報
【特許文献5】特開2005−23472号公報
【特許文献6】特開2005−42234号公報
【特許文献7】特開2005−68576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリエステル樹脂の副反応や分解などに起因すると考えられる、繊維中の太さが大きく異なる節状の部位(いわゆる、ブツ)が極めて少なく、外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、帯電防止性、耐熱性、難燃性の優れた人工毛髪用繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、従来のポリエステル、臭素化エポキシ難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤、およびアンチモン化合物からなる樹脂組成物に対して、可塑剤を添加することにより、樹脂組成物の製造のための溶融混練時の剪断発熱を抑えられるだけでなく、溶融紡糸時の樹脂温度も下げることができ、溶融時の樹脂温度が高い場合に起こりやすい副反応や分解などに起因すると考えられる、繊維中の太さが大きく異なる節状の部位(いわゆる、ブツ)が極めて少ない難燃性ポリエステル系繊維が得られ、さらに、該繊維表面に繊維処理剤を付着させることにより、外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、帯電防止性、耐熱性、難燃性の優れた人工毛髪繊維が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリエステル(A)100重量部に対し、臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)5〜30重量部、アンチモン化合物(C)0.5〜10重量部および可塑剤(D)0.5〜5重量部からなる樹脂組成物より得られる難燃性ポリエステル系繊維に、繊維処理剤を0.01〜1.00%omf付着してなる人工毛髪用繊維に関するものである。
【0010】
好ましい態様としては、ポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレ−ト,ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ(エチレンテレフタレ−ト/イソフタレ−ト)、ポリ(エチレンテレフタレート/5−ソジオスルホイソフタレート)、ポリ(エチレン/ポリオキシベンゾイルテレフタレ−ト)、ポリ(ブチレンテレフタレ−ト/イソフタレート)よりなる群から選択される少なくとも一種であり、アンチモン化合物(C)はアンチモン酸ソーダ、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンよりなる群から選択される少なくとも一種であり、可塑剤(D)はリン酸エステル系化合物、リン酸エステルオリゴマー類、ホスファゼンオリゴマー類、脂肪酸エステル類、脂肪族ポリエステル類、および脂肪族ポリカーボネート類、フタル酸エステル化合物、アジピン酸エステル化合物、トリメリット酸エステル化合物、クエン酸エステル化合物よりなる群から選択される少なくとも一種である、人工毛髪用繊維である。より好ましい態様としては、ポリエステル(A)の70重量%以上がポリエチレンテレフタレートであり、可塑剤(D)がリン酸エステル化合物である、人工毛髪用繊維である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、可塑剤を添加することにより、樹脂組成物の製造のための溶融混練時の剪断発熱を抑えられるだけでなく、溶融紡糸時の樹脂温度も下げることができ、溶融時の樹脂温度が高い場合に起こりやすい副反応や分解などに起因すると考えられる、繊維中の太さが大きく異なる節状の部位(いわゆる、ブツ)が極めて少ない難燃性ポリエステル系繊維が得られ、さらに、該繊維表面に繊維処理剤を付着させることにより、外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、帯電防止性、耐熱性、難燃性の優れた人工毛髪用繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の人工毛髪用繊維は、ポリエステル(A)、臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)、アンチモン系化合物(C)および可塑剤(D)からなる組成物より得られる難燃性ポリエステル系繊維に対して、繊維処理剤を付着させてなる繊維である。
【0013】
本発明に用いられるポリエステル(A)は特に限定はなく、10〜100dtexの人工毛髪繊維を紡糸するのに適する樹脂であればよい。
【0014】
本発明におけるポリエステル(A)の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのホモポリマー;ポリ(エチレンテレフタレ−ト/イソフタレ−ト)、ポリ(エチレンテレフタレート/5−ソジオスルホイソフタレート)、ポリ(エチレン/オキシベンゾイルテレフタレ−ト)、ポリ(ブチレンテレフタレ−ト/イソフタレート)などの共重合ポリマーがあげられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本発明においては、得られる人工毛髪用繊維からなる頭飾品の耐熱性を維持するために、ポリエステル(A)中の70重量%以上はポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0016】
本発明における臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)とは、下記一般式(1)で表される臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤である。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基、アリール基、アラルキル基;反応性基を含む炭化水素基、臭素含有アリール基、または臭素含有アラルキル基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、nは1〜80を示す)。
【0019】
本発明における臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)の配合量は、難燃性を確保するために、ポリエステル(A)100重量部に対して、5重量部以上が必要であり、充分な難燃性を得るためには10重量部以上が好ましく、ケイ素含有繊維処理剤を用いる場合、難燃性が著しく低下することから、難燃剤は少なくとも15重量部以上がさらに好ましい。難燃剤(B)の上限配合量としては、30重量部であり、紡糸性、得られる繊維の触感の悪化を防ぐために、28重量部が好ましく、25重量部がより好ましい。
【0020】
本発明に用いられる臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)は、得られる人工毛髪繊維の繊維物性や外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、耐熱性等の要求品質を阻害しない範囲、また、生産安定性が悪化しない範囲であれば、一般的に用いられている他の臭素含有難燃剤を併用することができる。併用できる臭素含有難燃剤の具体例としては、例えば、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダンなどの脂環式臭素化合物、芳香族臭素化合物、臭素化ジフェニルエーテル類、臭素化フェノール類またはそれらの誘導体;トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどの臭素含有リン酸エステル類、ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレートなどの臭素化ポリベンジルアクリレート類;臭素化ポリカーボネートオリゴマー類;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA誘導体;トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンなどの臭素含有トリアジン系化合物;トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有イソシアヌル酸系化合物などがあげられる。
【0021】
これらのうちでも、脂環式臭素化合物、芳香族臭素化合物、臭素化ジフェニルエーテル類、臭素化フェノール類またはそれらの誘導体;臭素化ポリカーボネートオリゴマー類および臭素化ポリベンジルアクリレート類が、付与できる難燃性のレベル、紡糸性、得られる繊維の要求品質等の低下が極めて小さいという点から好ましい。
【0022】
本発明において、臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)および他の臭素含有難燃剤を併用する場合は、ポリエステル(A)100重量部に対して、かかる難燃剤の配合量の合計が30重量部以下であり、かつ、難燃剤の配合量の50重量%以上が臭素化エポキシ系難燃剤(B)とする必要がある。難燃剤の配合量の合計が30重量部を超えると紡糸性、得られる繊維の触感等が悪化する傾向があり、また、難燃剤の配合量の50重量%以上が臭素化エポキシ系難燃剤(B)でない場合は発色性が損なわれる等の問題が生じる傾向がある。
【0023】
本発明においては、臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)を配合することにより難燃性は発現されるが、アンチモン化合物(C)を配合することにより、難燃効果を著しく向上させることができる。
【0024】
本発明におけるアンチモン化合物(C)の具体例としては、例えば、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどがあげられる。これらの中でも、アンチモン酸ナトリウムが、発色性の確保、ポリエステル(A)の分解が起こりにくいという点から、好ましい。
【0025】
本発明におけるアンチモン化合物(C)の配合量は、ポリエステル(A)100重量部に対して、0.5重量部以上が必要であり、充分な難燃性向上効果を得るためには、1重量部以上が好ましい。アンチモン化合物(C)の上限配合量としては、紡糸性、発色性の低下を防ぐために、10重量部が好ましく、6重量部がより好ましい。
【0026】
本発明においては、可塑剤(D)を配合することにより、コンパウンド時の剪断発熱を抑えられるだけでなく、紡糸時の樹脂温度も下げることができ、樹脂温度が高い場合に起こりやすい副反応や分解などに起因すると考えられる、繊維中の太さが大きく異なる節状の部位(いわゆる、ブツ)の生成を抑制することでき、外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、の優れた人工毛髪繊維を得ることができる。
【0027】
本発明における可塑剤(D)としては、特に限定されるものではなく、溶融樹脂の流動性を改善し、溶融混練時や溶融紡糸時にポリエステル(A)の分解等を促進しないものであればよい。
【0028】
本発明における可塑剤(D)の具体例としては、リン酸エステル系化合物、リン酸エステルオリゴマー類、ホスファゼンオリゴマー類、脂肪酸エステル類、脂肪族ポリエステル類、および脂肪族ポリカーボネート類、フタル酸エステル化合物、アジピン酸エステル化合物、トリメリット酸エステル化合物、クエン酸エステル化合物が、溶融混練時または溶融紡糸時の溶融樹脂温度を低下させる点から、好ましい。これらのなかでは、リン酸エステル系化合物が、難燃性を低下させない点から、より好ましい。
【0029】
本発明における可塑剤(D)の配合量は、溶融混練時および溶融紡糸時の樹脂温度を下げるために、ポリエステル(A)100重量部に対して、0.5重量部以上が必要であり、充分な樹脂温度低下の効果を得るためには1重量部以上が好ましい。可塑剤(D)の上限配合量としては、紡糸性、耐熱性の低下を防ぐために、5重量部が好ましく、4重量部がより好ましい。
【0030】
本発明の難燃性ポリエステル系組成物には、難燃剤相と熱可塑性樹脂相との間の不透明化を防ぐために、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート−無水マレイン酸共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体−g−ポリスチレン、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体−g−ポリメチルメタクリレート、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体−g−アクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート−無水マレイン酸共重合体−g−ポリスチレン、エチレン−エチル(メタ)アクリレート−無水マレイン酸共重合体−g−ポリメチルメタクリレート、エチレン−エチル(メタ)アクリレート−無水マレイン酸共重合体−g−アクリロニトリル−スチレン共重合体、モンタン酸系ワックス、モンタン酸エステル系ワックス、部分ケン化モンタン酸系ワックス、モンタン酸金属塩、ポリエチレン系ワックス、酸化ポリエチレン系ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素変性ワックス、ポリジメチルシリコーン、変性シリコーンレジンの1種以上からなる添加剤を添加しても良い。
【0031】
本発明における難燃性ポリエステル系組成物には、繊維表面に微細な突起を形成させて繊維表面の光沢を調整するために、さらに、有機微粒子および/または無機微粒子を混合させてもよい。有機微粒子の具体例としては、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シロキサン樹脂、架橋メラミン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン等があげられ、無機微粒子の具体例としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカ等があげられる。
【0032】
本発明で得られる人工毛髪用繊維は、例えば、ポリエステル(A)、臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)、可塑剤(D)等をドライブレンドした後、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練して得られたポリエステル系組成物を、単軸押出機を用いて溶融紡糸して得ることができる。
【0033】
ポリエステル系組成物の製造に用いられる前記混練機の例としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0034】
例えば、スクリュー径44mmの二軸押出機を用いて、バレル設定温度を通常の280〜300℃に対して約10〜30℃低い温度として、吐出量50〜150kg/hr、スクリュー回転数150〜200rpmで溶融混練し、ダイスよりストランドを引取、水冷した後に、ストランドカッターを用いてペレット化して、本発明の組成物を得ることができる。
【0035】
本発明のポリエステル系人工毛髪を、通常の溶融紡糸法により溶融紡糸する場合には、例えば、溶融紡糸機を用いて、押出機、ギアポンプ、口金などの設定温度を、バレル設定温度を通常の280〜310℃に対して約10〜30℃低い温度として、溶融紡糸を行い、得られた紡出糸を、加熱筒中を通過させた後、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取ることにより紡出糸条が得られる。
【0036】
また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度や長さ、冷却風の温度や吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量および口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0037】
本発明においては、得られた紡出糸条は熱延伸されるが、延伸は紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法および、巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。熱延伸は、1段延伸法または2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0038】
本発明の人工毛髪用繊維には、必要に応じて、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。
【0039】
本発明の人工毛髪用繊維の繊維断面の形状としては、少ない繊維処理剤の付着量でも良好な滑り触感、櫛通り性等が付与できる点から、2つ以上の円に近い突起を持つような断面形状(例えば、メガネ断面、クローバー断面、四つ葉のクローバー断面、等)であることが好ましい。
【0040】
本発明の人工毛髪繊維には、繊維処理剤を繊維表面に付着させることにより、触感、風合、帯電防止性を付与して、より人毛に近づけることができる。
【0041】
本発明における繊維処理剤としては、シリコーン系繊維処理剤として、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジオルガノポリシロキサンジオール、フロロシロキサン、アルキル変性シロキサン、高級脂肪酸変性シロキサン、アミノ変性シロキサン、エポキシ変性シロキサン等があげられる。また、非シリコーン系繊維処理剤として、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、これらのランダム共重合ポリエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、N,N−ジヒドロキシエチルアルキルアミド、ポリオキシアルキレンアルキルアミド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンペンタエリスリトールアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン、アルキルアミン塩、アルキルアンモニウム塩、アルキルアラルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピコリニウム塩、脂肪酸塩、ロジン酸塩、硫酸化脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホ脂肪酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホコハク酸モノエステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルスルホコハク酸モノエステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテルスルホコハク酸モノエステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、アルケニル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩などがあげられる。
【0042】
本発明においては、シリコーン系繊維処理剤および非シリコーン系繊維処理剤を組み合わせて用いることが、優れた滑り触感と適度な湿潤性を付与できる点から、好ましい。
【0043】
本発明の人工毛髪用繊維における、繊維処理剤の付着量は、難燃性ポリエステル系組成物(A)から形成される難燃性ポリエステル系繊維の重量に対し、重量比で0.01〜1%omfが好ましく、0.1〜0.5%omfがより好ましい。繊維処理剤の付着量が0.01%omfより少ないと、滑り触感と適度な湿潤性が得られない傾向があり、付着量が1%omfより多いと、残油感(繊維を手で触ったときに手に繊維処理剤が付着し悪印象がある)、簾状になる(繊維の一本一本が充分に拡がらず棒状になってしまう)など商品性を損ねる傾向がある。
【0044】
繊維への付着方法はディップ・ニップ式、スプレー塗布式など均一に付着できる方法であれば、特に限定されない。
【0045】
本発明の人工毛髪用繊維の単繊維繊度は、通常、10〜100dtex、さらには20〜90dtexであるのが、人工毛髪に適している。また、本発明の人工毛髪用繊維としては、160〜200℃で美容熱器具(ヘアーアイロン)が使用できる耐熱性を有していることが好ましい。
【0046】
本発明の人工毛髪用繊維は、染色または原着により着色して使用することができる。染色により着色する場合には、通常のポリエステル系繊維と同様の条件で染色することができる。また、原着の場合には、通常のポリエステル系繊維に用いられる顔料を溶融混練することにより、原着繊維を得ることができる。
【0047】
染色に使用される顔料、染料、助剤などとしては、耐候性および難燃性のよいものが好ましい。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
なお、特性値の測定法は、以下のとおりである。
【0050】
(滑り触感)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを手で触り、フィラメント表面のベタツキ感、滑り触感を評価した。
◎:非常に優れた滑り触感である
○:ベタツキ感がなく、程良い滑り触感である
△:若干ベタツキ感がある、滑り触感がやや不足である、偶にブツが手に当たる
×:ベタツキ感がある、キシミ感がある、滑り触感が不足である、頻繁にブツが手に当たる
【0051】
(くし通り)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントの最上部を片手に持って垂直に垂らし、くし(NEW DELRIN COMB No.826)を0.3m/sの速さでトウフィラメントの上部3cmの所から下へ、完全に30回以上通過させ、くしの通り易さを評価した。
○:ほとんど抵抗ない(軽い)
△:若干抵抗がある(重い)、櫛を通したときに引っ掛かる箇所がある
×:かなり抵抗がある、または、途中で引っかかってしまい完全に通過させることが出来ない
【0052】
(帯電防止性)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントに、室温25℃、湿度40%の恒温恒湿室に24時間放置した後に、同室にて、トウフィラメントの最上部を片手に持って垂直に垂らし、くし(NEW DELRIN COMB No.826)を0.3m/sの速さでトウフィラメントの上部3cmの所から下へ、完全に30回以上通過させた際のトウフィラメントの状態を観察した。
○:変化なし(静電気で広がらない)
△:静電気で1〜50本が外側にはねる
×:静電気で全体的に広がる
【0053】
(限界酸素指数)
16cm/0.25gのフィラメントを秤量し、端を軽く両面テープでまとめ、懸撚器で挟み撚りをかける。十分に撚りがかかったら、試料の真中を二つに折り2本を撚り合わせる。端を粘着テープで止め、全長7cmになるようにする。105℃で60分間前乾燥を行ない、さらにデシケーターで30分以上乾燥する。乾燥したサンプルを所定の酸素濃度に調整し、40秒後8〜12mmに絞った点火器で上部より着火し、着火後点火器を離す。5cm以上燃えるか、3分以上燃え続けた酸素濃度を調べ、同じ条件で試験を8回繰り返し、限界酸素指数とした。
【0054】
(製品中のブツの数)
総繊度100万dtexのフィラメントを20cmの長さに切った毛束30本を白い画用紙の上におき、ファイバー1本ずつが重ならないように拡げ、繊維中の太さが大きく異なる節状の部位(ブツ)の数を目視でカウントし、ファイバー100g中のブツの数の平均値を算出した。
【0055】
(難燃性)
総繊度4.7万dtexのフィラメントを15cmの長さに切り、一方の端をクランプで挟んでスタンドに固定して垂直に垂らす。有効長12cm(クリップより下)に固定したフィラメントに20mmの炎を3秒間接炎させ、燃焼させ評価した。
◎:残炎時間が0秒(着火しない)
○:3秒未満
△:3〜10
×:10秒以上
また、耐ドリップ性の評価も行った。
◎:ドリップ数が0
○:5以下
△:6〜10
×:11以上
【0056】
(製造例1〜6)
表1に示す比率(重量部)の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥してドライブレンドした後、二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)に供給し、バレル設定温度270℃にて溶融混練し、ペレット化した後に、水分量100ppm以下に乾燥させた。
次いで、溶融紡糸機(シンコーマシナリー(株)製、SV30)を用いてバレル設定温度260℃にて、直径1mmφのノズル孔を40孔有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、20℃の冷却風により空冷し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を80℃の温水浴中で延伸を行ない、4倍延伸糸とし、200℃に加熱したヒートロールを用いて、100m/分の速度で巻き取り、熱処理を行ない、単繊維繊度が50dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
さらに、表1に示した比率になるように繊維処理液を調製し、得られた繊維を用いた総繊度100万dtexのトウフィラメントに、トウ重量に対して含液率25%になるように、ディップ・ニップ式法にて前記繊維処理液を付着させた繊維束を、熱風乾燥機で120℃にて10分間乾燥させ人工毛髪用繊維を得た。
【0057】
【表1】

【0058】
*1:ポリエチレンテレフタレート、ユニチカ(株)製
*2:ポリブチレンテレフタレート、KOLON社製
*3:臭素化エポキシ系難燃剤、阪本薬品工業(株)製
*4:臭素化フェノキシ系難燃剤、阪本薬品工業(株)製
*5:アンチモン酸ナトリウム、日本精鉱(株)製
*6:トリフェニルホスフェート、大八化学工業(株)製
*7:トリクレジルホスフェート、大八化学工業(株)製
*8:トリキシレニルホスフェート、大八化学工業(株)製
*9:ポリ(1,3−ブタンジオールアジペート)、大八化学工業(株)製
*10:モンタンワックス/フッ素系ワックスブレンド品、クラリアントジャパン(株)製
*11:メラミン−シリカ複合粒子、日産化学(株)製
*12:アミノ変性ポリオルガノシロキサン、東レ・ダウコーニング(株)製
*13:アミノ変性ポリオルガノシロキサン、丸菱油化工業(株)製
*14:エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合ランダムポリエーテル、丸菱油化工業(株)製
*15:カチオン性界面活性剤、丸菱油化工業(株)製。
【0059】
(比較例1〜3)
表2に示す比率(重量部)の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥してドライブレンドした後、二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)に供給し、シリンダ設定温度280℃にて溶融混練し、ペレット化した後に、水分量100ppm以下に乾燥させた。
次いで、溶融紡糸機(シンコーマシナリー(株)製、SV30)を用いてシリンダ設定温度280℃にて、直径1mmφのノズル孔を40孔有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、20℃の冷却風により空冷し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を80℃の温水浴中で延伸を行ない、4倍延伸糸とし、200℃に加熱したヒートロールを用いて、100m/分の速度で巻き取り、熱処理を行ない、単繊維繊度が50dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
さらに、表2に示した比率になるように繊維処理液を調製し、実施例と同様にして人工毛髪用繊維を得た。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例および比較例にて得られた人工毛髪用繊維について、櫛通り性、滑り触感、帯電防止性、製品中のブツ数および難燃性の評価を行った。評価結果を、表3に示す。また、表3には、二軸押出機および溶融紡糸機のダイス付近で測定した溶融樹脂温度を、それぞれ、溶融混練時および溶融紡糸時の樹脂温度として示した。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示したように、実施例では可塑剤を添加した結果、溶融混練時の剪断発熱を抑え、溶融紡糸時の樹脂温度を下げることができ、樹脂温度が高い場合に起こりやすい副反応や分解など反応が抑制されたためブツの発生が大きく減少し、極めてブツの少ない外観(発色、光沢)、滑り触感、櫛通り性、帯電防止性、耐熱性、難燃性の優れた人工毛髪用繊維が得られていることが確認された。
【0064】
一方、比較例1および2では、押出時、紡糸時の樹脂温度が高く、ブツが多く発生した結果、滑り触感や櫛通り性に悪影響を及ぼすことが判る。また、比較例3では、溶融混練時、溶融紡糸時の樹脂温度は抑えられており、ブツの発生も抑えられているものの、難燃性が不充分であることが判り、比較例5では、溶融混練時、溶融紡糸時の樹脂温度は抑えられているものの、糸性状が悪く、櫛通り、触感、難燃性が不充分であることが判る。比較例6では繊維処理剤が付着していないため、比較例7では繊維処理剤が過剰に付着しているため、頭飾製品としての必要品質が伴っていないことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル(A)100重量部に対し、臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤(B)5〜30重量部、アンチモン化合物(C)0.5〜10重量部および可塑剤(D)0.5〜5重量部からなる組成物より得られる難燃性ポリエステル系繊維に、繊維処理剤を0.01〜1.00%omf付着してなる人工毛髪用繊維。
【請求項2】
ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレ−ト,ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ(エチレンテレフタレ−ト/イソフタレ−ト)、ポリ(エチレンテレフタレート/5−ソジオスルホイソフタレート)、ポリ(エチレン/ポリオキシベンゾイルテレフタレ−ト)およびポリ(ブチレンテレフタレ−ト/イソフタレート)よりなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである、請求項1記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
ポリエステル(A)中の70重量%以上が、ポリエチレンテレフタレートである、請求項1または2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
アンチモン化合物(C)が、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンよりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
可塑剤(D)が、リン酸エステル系化合物、リン酸エステルオリゴマー類、ホスファゼンオリゴマー類、脂肪酸エステル類、脂肪族ポリエステル類、および脂肪族ポリカーボネート類、フタル酸エステル化合物、アジピン酸エステル化合物、トリメリット酸エステル化合物、クエン酸エステル化合物よりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】
可塑剤(D)が、リン酸エステル化合物である、請求項5記載の人工毛髪用繊維。

【公開番号】特開2007−126786(P2007−126786A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320666(P2005−320666)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】