説明

人工毛髪用繊維

【課題】天然毛髪の触感に近似する触感を有し、カールセットに要する時間を短くすることができ、更に難燃性能が十分に優れた人工毛髪を提供すること。
【解決手段】本発明は、合成樹脂を繊維化した人工毛髪用繊維である。合成樹脂は、ポリアミド100質量部、難燃剤3〜30質量部を含有するものである。ポリアミドは、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6,ナイロン1,2、ナイロン6,10及びナイロン6,12からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる繊維(以下、人工毛髪用繊維」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪用繊維を構成する素材として、塩化ビニルがある(特許文献1参照)。これは、人工毛髪用繊維における塩化ビニルの加工性、低コスト性が優れているためである。
【0003】
塩化ビニルを素材とする人工毛髪用繊維に対してカールセットなどの加熱を伴う操作を行うと、塩化ビニルの耐熱温度が60〜80℃であるので、繊維の大きな収縮が発生し、繊維のいたみ、切れの生じる場合があった。
【0004】
人工毛髪用繊維の構成素材としてポリエチレンテレフタレートを主体としたポリエステルが使用され、そのポリエステルに難燃性能を持たせる旨が記載されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−156149号公報
【特許文献2】特開2006−70405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリエステルを素材とする人工毛髪用繊維は、耐熱性能の面では、塩化ビニルの使用に比して幾らか改善されるものの、触感が滑らか過ぎて人の毛髪と大きく異なるとともに、カールセットに要する時間が長いという問題があり、更に、難燃性能が不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、合成樹脂を繊維化した人工毛髪用繊維であって、前記合成樹脂が、ポリアミド100質量部、難燃剤3〜30質量部を含有する人工毛髪用繊維である。
【0008】
前記ポリアミドは、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6,ナイロン1,2、ナイロン6,10、及びナイロン6,12からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であるのが好ましい。
【0009】
前記難燃剤は、臭素化ポリスチレンであるのが好ましい。
【0010】
前記合成樹脂は、ポリアミド100質量部、難燃剤3〜30質量部、及びアンチモン化合物0.1〜10質量部を含有することが好ましい。
【0011】
前記アンチモン化合物は、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、及びアンチモン酸ナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、人の毛髪の触感に近い触感を有し、カールセットに要する時間を短くし、更に難燃性能に優れた人工毛髪用繊維である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の人工毛髪用繊維の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態にかかる人工毛髪用繊維は、合成樹脂を繊維化した人工毛髪用繊維であって、前記合成樹脂が、ポリアミド100質量部、難燃剤3〜30質量部を含有する人工毛髪用繊維である。
【0014】
本実施形態で用いられる合成樹脂は、ポリアミド100質量部と、難燃剤3〜30質量部を含有するものである。この合成樹脂は、ポリアミドと難燃剤のみを含有するものであってもよく、別の種類の樹脂や微粒子といった他の素材を本発明の効果を阻害しない範囲でさらに含有してもよい。
【0015】
前記ポリアミドは、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6,ナイロン1,2、ナイロン6,10、及びナイロン6,12からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であるのが好ましく、特に好ましくはナイロン6又はナイロン6,6である。ポリアミドの重量平均分子量(Mw)は、例えば1万〜20万の範囲内のいずれかの値である。
【0016】
前記難燃剤としては、臭素化合物、ハロゲン化合物、リン・ハロゲン化合異物、金属水酸化物・リン−チッソ化合物があり、そのうち、臭素化合物が好ましい。
【0017】
臭素化合物としては、例えば、臭素化ポリスチレン、臭素含有リン酸エステル、臭素化ポリベンジルアクリレート、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン化合物臭素含有イソシアヌル酸化合物があり、より好ましくは、臭素化ポリスチレンである。
【0018】
臭素化ポリスチレンは、ポリスチレンのベンゼン環に水素と替わって結合する臭素数が1〜5個であるものである。ポリ臭素化スチレンは、具体的には、一臭素化スチレン、二臭素化スチレン、三臭素化スチレン、四臭化スチレン及び五臭化スチレンのうちの単体又は複数種の重合体がある。
【0019】
臭素含有リン酸エステルとしては、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ 無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートがある。
【0020】
テトラブロモビスフェノールA誘導体としては、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)がある。臭素含有トリアジン化合物としては、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンがあり、臭素含有イソシアヌル酸化合物としては、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートがある。
【0021】
難燃剤の配合比は、あまりに少ないと難燃効果が発揮されず、あまりに多いと繊維化した際の触感の低下の原因になるため、3〜30質量部であり、特に好ましくは5.0〜20.0質量部である。
【0022】
前記アンチモン化合物は、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、及びアンチモン酸ナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であるのが好ましい。
【0023】
アンチモン化合物は、難燃性の向上のために採用されたものである。着火された際の合成樹脂の中でアンチモン化合物が吸熱作用を発揮する。この吸熱作用により、人工毛髪用繊維自体の難燃性が向上する。
【0024】
アンチモン化合物の配合比は、あまりに少ないと吸熱効果が発揮されず、あまりに多いと紡糸性の低下の原因になるため、0.1〜10質量部であるのが好ましい。
【0025】
本実施形態の人工毛髪用繊維の繊度は、10〜100dtexが好ましく、好ましくは30〜80dtexであり、より好ましくは35〜75dtexである。
【0026】
本実施形態の人工毛髪用繊維の製造方法としては、ポリアミド100質量部と、難燃剤3〜30質量部と、必要に応じてアンチモン化合物0.1〜10質量部とを予備混練した後、混練機を用いて溶融混練し、溶融混練によって得られた混練物を溶融紡糸法によって溶融紡糸する方法がある。
【実施例】
【0027】
本発明の人工毛髪用繊維の実施例を、比較例と対比しつつ表を用いて、詳細に説明する。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1の人工毛髪用繊維は、ポリアミドとしてのナイロン6(宇部興産株式会社製1030B)100質量部、難燃剤としての臭素化フェノキシ樹脂難燃剤(東都化成株式会社製YPB−43M)15質量部の組成物を、単繊維度が50dtexの人工毛髪用繊維にしたものである。
【0030】
実施例・比較例の人工毛髪用繊維の製造方法について説明する。
ポリアミド、ポリエステル、難燃剤、及び三酸化アンチモンを個々に水分量1500ppm以下となるように乾燥させ、乾燥した素材を表1に示す配合比で混合した。混合された混合物を280℃の温度にて溶融混練してからペレット状に成型した。溶融混練及びペレット成型は、二軸押出機を用いた。
【0031】
ペレットを、再度、水分量が1500ppm以下となるように乾燥した後、溶融紡糸機にて未延伸の糸状に成形し、未延伸の糸を4倍に延伸させて単繊維度50dtex人の工毛髪用繊維を製造した。
【0032】
表1の評価について説明する。
【0033】
<難燃性>
難燃性は、実施例・比較例の人工毛髪用繊維を長さ20cm、総重量1.0グラムに調整して繊維束を形成し、この繊維束の一端を固定して垂直に垂らし、下端に高さ30mmの炎を3秒間接触させ、繊維束から炎を外した時からの延焼時間で評価した。延焼時間は、測定試料3個の平均値である。
優:延焼時間が0秒
良:延焼時間が3秒未満
可:延焼時間が3秒以上10秒未満
不可 :延焼時間が10秒以上
【0034】
<触感>
触感は、実施例・比較例の人工毛髪用繊維を長さ200mm、重量1.0gに束ね、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の手触りによる判定で、次の評価基準で評価した。
優:技術者10人全員が、触感が良いと評価したもの
良:技術者の8人又は9人が、触感が良いと評価したもの
可:技術者の5人以上7人以下が、触感が良いと評価したもの
不可:技術者の4人以下が、触感が良いと評価したもの
【0035】
<カールセット性>
カールセット性は、実施例・比較例の人工毛髪用繊維を長さ50cm、総重量2.0グラムに調整して繊維束を形成し、この繊維束に180℃の鉄製の焼き鏝(鏝の直径1.4cm)に巻いてカールをかけた後、焼き鏝から離して、一方端を固定して吊り下げた時にカールがあるか否かで確認した。カールがなされた状態の定義として、吊り下げた際の人工毛髪用繊維の基端と先端の間隔が、カール前の全長50cmの0.85倍未満(42.5cm未満)になった場合とした。評価前の試料は、評価のばらつきを無くすために、温度23℃、湿度50%で24時間保管した試料を採用した。評価にあっては、焼き鏝での加熱時間を数種類設け、次の基準で判断した。
優:焼き鏝での加熱時間が5秒未満でカールセットされた
良:焼き鏝での加熱時間が5秒以上10秒未満でカールセットされた
不可:焼き鏝での加熱時間が10秒以上でカールセットされた
【0036】
表1にある他の素材は、以下のものを採用した。
ナイロン6,6:東レ株式会社製、CM3001−N
ポリエステル:三菱化学株式会社製、BK−2180
臭素化ポリスチレン系難燃剤:アルベマール日本株式会社、HP−7010
三酸化アンチモン:日本精鉱株式会社製、PATOX−U、平均粒子径0.02μm
【0037】
表1に示したように、実施例1〜4の人工毛髪用繊維は、ポリアミドと、臭素含有難燃剤との混合割合が適切に調整されることで、比較例に対して難燃性能、触感、及びカールセット性能が優れていた。特に、実施例4の人工毛髪用繊維は、他の実施例に比して難燃性能が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかる人工毛髪用繊維は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる繊維である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂を繊維化した人工毛髪用繊維であって、
前記合成樹脂が、ポリアミド100質量部、難燃剤3〜30質量部を含有する人工毛髪用繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のポリアミドが、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6,ナイロン1,2、ナイロン6,10、及びナイロン6,12からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物である人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記難燃剤が、臭素化ポリスチレンである請求項1又は請求項2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記合成樹脂が、ポリアミド100質量部、難燃剤3〜30質量部、及びアンチモン化合物0.1〜10質量部を含有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記アンチモン化合物が、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、及びアンチモン酸ナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項4記載の人工毛髪用繊維。

【公開番号】特開2011−246844(P2011−246844A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121205(P2010−121205)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】