説明

人工水底基盤

【課題】 水中動植物の生育・棲息場として好適な人工水底基盤を提供する。
【解決手段】 高炉水砕スラグ又はこれと他の基盤用材料との混合物からなる敷設層を適度に固結させることにより、水中動植物の生育・棲息に好適な環境となることを知見しなされたもので、水底に高炉水砕スラグ又はこれと他の基盤用材料との混合物を敷設して造成された水底基盤であって、少なくとも一部に、高炉水砕スラグの潜在水硬作用により固結し、且つ山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である固結部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中動植物の生育場、棲息場として好適な環境を提供できる人工水底基盤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、浅場とは主に海岸に面した水深10〜15m以浅の周年冠水している浅海域のことであり、また、干潟とは潮汐により冠水・干出を繰り返す泥砂質の海岸のことである。
浅場は、海草や海藻類の生育場、底生生物やその他の魚介類の棲息場や餌場となる水域であり、また、それらの生物の活動を通じて海水や底質の浄化が行われる場所でもある。また同様に、干潟も各種の海草類や底生生物の生育・棲息場であり、特に最近では干潟による海水の高い浄化作用が注目されている。したがって、沿岸海域の環境保全や有用水産資源の確保という観点から、浅場や干潟の存在は非常に重要なものであると言える。また特に、海草類が群生する浅場(アマモ場などの海草藻場)は、多くの種類の魚介類の生息場、産卵場、稚仔魚の生育場、餌場等として重要な役割を果たしている。
【0003】
しかし、近年、埋め立てや港湾の整備、底質のヘドロ化、海砂の流失等によって沿岸海域における多くの浅場や干潟が失われてきた。このため最近では、新たに浅場や干潟を造成する試みが各地で行われるようになりつつある。また、内海や湾内では、特に夏季に比較的水深の深いところで海水の貧酸素化が進行する場合があり、この貧酸素水塊が浅海に移動して、そこに棲息する底生生物の斃死を招くという問題がある。このような問題に対して、海水の貧酸素化が進行する水域に浅場を造成(水底の嵩上げ)する試みもなされている。
従来行われている浅場や干潟の造成では、造成すべき水域に他の場所で採取した天然砂や自然石を投入する方法が採られている。しかし、このように造成用の資材として天然資源(天然砂、自然石)を用いることは、その採取場所での新たな自然破壊を伴うことになるため好ましくない。
【0004】
一方、特許文献1には、鉄鋼製造プロセスで発生する高炉水砕スラグを環境改善材として水底に敷設する方法が示され、また、特許文献2には高炉水砕スラグをアマモなどの海草類の定着基盤として水底に敷設する方法が示されている。高炉水砕スラグは鉄鋼製造プロセスで大量に発生するものであるため、安価に且つ大量に入手することができる材料であり、また、その粒子形状から高炉水砕スラグの敷設層は通水性に優れるなどの利点がある。
【特許文献1】特開2002−370092号公報
【特許文献2】特開2005−52031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法の主たる狙いは、硫化水素の発生源となる水底に高炉水砕スラグを敷設することで硫化水素の発生を防止することにあり、高炉水砕スラグの敷設層は底生生物の棲息に適しているという記載はあるものの、水中動植物の生育場、棲息場として好適な基盤を積極的に提供しようとするものではない。また、特許文献2には、高炉水砕スラグの敷設層は、アマモなどの海草類の安定した定着基盤となり得ることが示されているが、そのような機能は高炉水砕スラグの物理的な性質(粒状物としての水中での安定性・せん断抵抗の高さ)に基づくものであり、したがって、これによる海草類の定着性の向上効果には一定の限界があることが判った。
したがって本発明の目的は、高炉水砕スラグを用いて水中動植物の生育場、棲息場として好適な環境となり得る人工水底基盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高炉水砕スラグにより構成される水底基盤について、水中動植物(アマモ等の海草類、ゴカイ・貝類・甲殻類・底生魚類等の底生生物)の生育・生息性の観点から実験と検討を行い、その結果、高炉水砕スラグ又は高炉水砕スラグと他の基盤用材料との混合物からなる敷設層を適度に固結させた状態とすることにより、水中動植物が生育・棲息するのに非常に好適な環境を提供できることを見出した。
【0007】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下のとおりである。
(1)水底に高炉水砕スラグ又は高炉水砕スラグと他の基盤用材料との混合物を敷設して造成された水底基盤であって、
少なくとも一部に、高炉水砕スラグの潜在水硬作用により固結し、且つ山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である固結部を有することを特徴とする人工水底基盤。
(2)上記(1)の人工水底基盤において、固結部における基盤表面の硬度測定値が30mm以下であることを特徴とする人工水底基盤。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)の人工水底基盤において、下記(a)〜(c)に基づき設定された各測定区で行われる基盤表面の硬度測定において、固結部として測定される箇所(但し、山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である箇所)が10測定箇所中1箇所以上ある(但し、10測定箇所は互いに20cm以上離れている。)ことを特徴とする人工水底基盤。
(a) 1m四方を1つの測定区の単位とし、
(b) 水底基盤の面積A(m)に応じて、下記(1)式により、当該水底基盤における測定区数B(但し、小数点以下切り捨て)を求め、
面積A×0.02=測定区数B … (1)
(c) 当該水底基盤に測定区数B以上の測定区を設定する。但し、水底基盤を100m単位で区画し、各区画内に前記測定区が1つ以上存在するように、測定区を設定する。
【0009】
(4)上記(1)又は(2)の人工水底基盤において、下記(a)〜(c)に基づき設定された各測定区で行われる基盤表面の硬度測定において、固結部として測定される箇所(但し、山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である箇所)が10測定箇所中1箇所以上9箇所以下ある(但し、10測定箇所は互いに20cm以上離れている。)ことを特徴とする人工水底基盤。
(a) 1m四方を1つの測定区の単位とし、
(b) 水底基盤の面積A(m)に応じて、下記(1)式により、当該水底基盤における測定区数B(但し、小数点以下切り捨て)を求め、
面積A×0.02=測定区数B … (1)
(c) 当該水底基盤に測定区数B以上の測定区を設定する。但し、水底基盤を100m単位で区画し、各区画内に前記測定区が1つ以上存在するように、測定区を設定する。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかの人工水底基盤において、浅場、干潟、又は浅場と干潟とが連続した水浜として造成されることを特徴とする人工水底基盤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の人工水底基盤は、高炉水砕スラグ又は高炉水砕スラグと他の基盤用材料との混合物からなり、しかも、少なくとも一部に海草類や底生生物の生育・棲息に適した固結部を有するため、水中動植物の生育場、棲息場として非常に好適な環境を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の人工水底基盤は、水底に高炉水砕スラグ又は高炉水砕スラグと他の基盤用材料との混合物を敷設して造成された水底基盤であって、少なくとも一部に、高炉水砕スラグの潜在水硬作用により固結し、且つ山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である固結部を有する。
ここで、本発明が規定する水底基盤の固結状態は、水底基盤を造成(敷設)して高炉水砕スラグの潜在水硬作用による固結が安定化した段階でのものである。施工条件にもよるが、造成(敷設)して6ヶ月程度経過した段階では固結状態は安定化しているので、本発明での水底基盤の固結状態は、造成(敷設)してから6ヶ月以降の固結状態で評価することが好ましい。
本発明の水底基盤を構成する基盤材(敷設材)としては、高炉水砕スラグのみでもよいし、高炉水砕スラグと他の基盤用材料との混合物でもよい。但し、この混合物には、高炉水砕スラグと他の基盤用材料がほぼ完全に混合された状態のものだけでなく、両者が不均一に混合された状態のものも含まれる。
【0012】
高炉水砕スラグは、製鉄系スラグ系の1つである高炉スラグを水砕処理して固化させたスラグであり、水底に敷設した場合に、以下のような基本的な作用効果が得られる。(1)高炉水砕スラグは、その製造上の理由から多孔質組織のガラス質であり、且つスラグ粒子が角張った形状を有しているため、高炉水砕スラグの敷設層はスラグ間隙が大きく、通水性に優れている。このためスラグ間隙の水が入れ替りやすく、この間隙での溶存酸素濃度が確保されやすい。(2)ガラス質のスラグ粒子からの微量のCa分が長期間にわたってゆっくりと溶出することで間隙水中のpHが8.5程度に維持され、これにより硫酸還元菌による硫化水素の発生が長期間にわたり効果的に抑制される。
【0013】
高炉水砕スラグとしては、軽破砕や粉砕等の処理を経ない生成されたままのスラグ、軽破砕したもの、粉砕したもの等が利用できる。
高炉水砕スラグと混合する他の基盤用材料の種類に特別な制限はないが、例えば、天然砂、浚渫土、建設残土、砕砂、当該敷設場所の底質土、高炉水砕スラグ以外のスラグの中から選ばれる1種以上を用いることができる。天然砂としては、海砂、川砂、山砂等を、浚渫土としては、港湾建設や航路掘削等の海洋土木工事(浚渫)で発生したもの等を用いることができる。なお、浚渫土は、事前に乾燥処理(例えば、天日乾燥等)や脱水処理(薬剤を添加して凝集させた後に脱水・減容化する方法)を施したものであってもよい。
【0014】
また、高炉水砕スラグ以外のスラグとしては、高炉徐冷スラグ(但し、この高炉徐冷スラグは水中でSが溶出しないようにするため、十分にエージング処理したものが好ましい)、製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、都市ゴミ溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰溶融スラグ等の各種スラグを用いることができる。また、製鋼スラグとしては、脱燐スラグ・脱硫スラグ・脱珪スラグ等の溶銑予備処理スラグ、脱炭スラグ、鋳造スラグ、電気炉スラグ等が挙げられるが、通常、製鋼スラグはアルカリ刺激剤として作用する。製鋼スラグとしては、特に脱炭スラグと脱燐スラグが好適である。
【0015】
基盤材として高炉水砕スラグと他の基盤用材料との混合物を用いる場合、高炉水砕スラグは全体の25体積%以上、望ましくは40体積%以上、さらに望ましくは50体積%以上とするのが好ましい。高炉水砕スラグの割合が25体積%未満では本発明が目的とするような固結状態が得られにくい。
また、上述したように製鋼スラグはアルカリ刺激剤として作用するものであるため、これを過剰に配合すると基盤が過度に固結した状態になり、好ましくない。このため製鋼スラグは、高炉水砕スラグ量の30体積%以下とすることが好ましい。
また、基盤材として高炉水砕スラグと浚渫土との混合物を用いる場合には、高炉水砕スラグの割合を25〜75体積%、好ましくは50〜75体積%程度とすることが好ましい。
なお、上述した体積%とは、混合する前の単味の基盤用材料どうしの体積割合を意味するものとする。また、この体積%は通常の山積み状態での基盤用材料の体積を前提としたものであり、実際は、例えばトラック積み又は容器などに入れた状態で測定される体積である。
【0016】
水底基盤は、その少なくとも一部に、主に高炉水砕スラグの潜在水硬作用により固結し、且つ山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値(以下、単に「基盤表面の硬度測定値」という)が10mm以上である固結部(固結領域)を有する。ここで、基盤表面の硬度測定値が10mm未満であるような弱い固結状態の部分では、後述するような固結部による特有の作用効果が適切に得られない。
高炉水砕スラグの潜在水硬作用とは、同スラグの成分とガラス質構造に由来するものであり、アルカリ刺激によりスラグのガラス網目構造が切断されてCaイオンが溶出し、このCaによりカルシウムシリケート系の水和物が生成し、この水和物がバインダーとなって主にスラグ粒子同士が固結する作用である。
山中式表面硬度計(標準型:藤原製作所社製)とは、地盤表面の硬度を測定するための器具であり、内蔵されたバネが基盤表面の硬さに応じて縮小する際のバネの縮小長さ(単位:mm)で表面硬度を表し、その数値が大きいほど表面硬度が大きいこと示している。
【0017】
水底基盤が固結部を有することにより、アマモ等の海草類の地下茎や根の拘束力が強くなり、波浪などに対して海草類が抜けにくくなることにより、その定着性が高まる。アマモ、コアマモ、オオアマモ、リュウキュウスガモ等の海草類は定着基盤内で地下茎や根を伸ばし、それを基盤材に絡めることにより、波浪などによって基盤から容易に抜けないようにしながら成長・増殖する。しかし、基盤が砂などのようにサラサラした粒状物からなる場合には、波浪などによって基盤から地下茎が抜けやすく、海草類が増殖しにくいという問題がある。これに対して本発明の水底基盤は、元々海草類に対する拘束力が得られやすい高炉水砕スラグを基盤材としている上に、上述した固結部を有しているため、波浪などに対する海草類の拘束力が非常に強く、波浪などにより強い水流が作用しても海草類が引き抜かれにくい。また、固結部には海草類の地下茎や根が絡みやすく、それらのアンカーの役目を果たすことによっても、海草類を非常に抜けにくくする。特に、後者は発芽直後の海草類の定着に大きく寄与する。
【0018】
さらに、天然の水底では主に泥砂質に棲息する底生生物のうち、ゴカイ・カニ・シャコ等のマクロベントスは水底に巣穴を設けて棲家とする種であり、またこのほかに、他の生物が設けた巣穴に共生する種も存在する。これらの生物が繁殖するのに好適な環境は、ある程度の固さ(硬さ)を有する水底である。これは、ある適度の硬さを有する水底でないと巣穴を維持できないためである。したがって、水底基盤が適度な硬さの固結部を有することにより、ゴカイやカニなどの底生生物の棲家として好適な環境が提供されることになる。さらに、このような底生生物が水底基盤内で巣穴を形成して繁殖すると、これらの生物の働きにより当該基盤やその下層の底質、さらには基盤上層の堆積物が上下混合されることで、海草類の生育に必要な栄養分が十分に混じり合った基盤が形成され、さらに、底質の下層方向に酸素が供給されるため、底質が還元的になりすぎることが抑えられ、これらによって海草類の生育が効果的に促進されることになる。
【0019】
水底基盤が、少なくとも一部に固結部を有する形態としては、下記(a)〜(c)に基づき設定された各測定区で行われる基盤表面の硬度測定において、固結部として測定される箇所(但し、山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である箇所)が10測定箇所中1箇所以上、望ましくは3箇所以上ある(但し、10測定箇所は互いに20cm以上離れている。)ような形態が好ましい。
(a) 1m四方を1つの測定区の単位とし、
(b) 水底基盤の面積A(m)に応じて、下記(1)式により、当該水底基盤における測定区数B(但し、小数点以下切り捨て)を求め、
面積A×0.02=測定区数B … (1)
(c) 当該水底基盤に測定区数B以上の測定区を設定する。但し、水底基盤を100m単位で区画し、各区画内に前記測定区が1つ以上存在するように、測定区を設定する。
【0020】
このような形態で固結部が存在することは、水底基盤全体に固結部が分布していることを意味している。
なお、水底基盤に上記測定区数Bだけ測定区を設定するということは、設定される測定区(1m四方)の合計面積が水底基盤の面積Aの2%ということであるが、上記測定区数Bを超えて測定区が設定され、これら各測定区において測定される基盤表面硬度が上記条件を満足することになれば、水底基盤全体における固結部の分布がより均一であるということになるのでより好ましい。
また、上記(c)において、水底基盤を100m単位で区画する場合には、10m四方の正方形単位で区画する(正方形に区画できない領域では、なるべく縦横の比が小さい長方形に区画する)ことが特に好ましい。
一方、固結部の硬さが過剰であると、海草類の地下茎や根が適切に成長できず、また底生生物もうまく巣穴を形成することができなくなる。このため固結部は適度な表面硬度を有することが好ましく、具体的には基盤表面の硬度測定値は30mm以下であることが好ましい。
【0021】
さらに、水底基盤は、以上述べたような固結部と非固結部とが適度に混在している(固結部と非固結部とが斑状に存在する)ことが好ましい。ここで、非固結部とは基盤表面の硬度測定値が10mm未満の部分(領域)である。このような水底基盤では、上述したような棲家として固結部を好む底生生物(例えば、ゴカイやカニ等)に加えて、非固結部(基盤が固結していない部分)を好む底生生物(例えば、貝類やカレイ等の底生魚類等)、さらには固結部と非固結部の境界面を好む底生生物(例えば、特定のカニやエビ等)に好適な棲息環境も提供できる。このため、1つの水底基盤内に多様な生物にそれぞれ好適な棲息環境を提供することができ、生物の種類及び生育・棲息量ともに増加させることができる。さらに、非固結部についても、そこに棲息する底生生物の働きにより当該基盤やその下層の底質が上下混合されることで、海草類の生育に必要な栄養分や酸素が十分に混じり合った基盤が形成され、海草類の生育が効果的に促進されることになる。
【0022】
水底基盤において固結部と非固結部とが適度に混在している形態としては、下記(a)〜(c)に基づき設定された各測定区で行われる基盤表面の硬度測定において、固結部として測定される箇所(但し、山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である箇所)が10測定箇所中1箇所以上9箇所以下、望ましくは3箇所以上7箇所以下ある(但し、10測定箇所は互いに20cm以上離れている。)ような形態が好ましい。
(a) 1m四方を1つの測定区の単位とし、
(b) 水底基盤の面積A(m)に応じて、下記(1)式により、当該水底基盤における測定区数B(但し、小数点以下切り捨て)を求め、
面積A×0.02=測定区数B … (1)
(c) 当該水底基盤に測定区数B以上の測定区を設定する。但し、水底基盤を100m単位で区画し、各区画内に前記測定区が1つ以上存在するように、測定区を設定する。
このような形態で固結部が存在することは、水底基盤全体に固結部が分布しており、且つ固結部と非固結部とが適度に混在していることを意味している。
なお、上記測定区数Bを超えて測定区が設定されることがより好ましいこと、また、上記(c)において10m四方の正方形単位で区画する(正方形に区画できない領域では、なるべく縦横の比が小さい長方形に区画する)ことが特に好ましいこと、などは先に述べたとおりである。
【0023】
水底基盤において、主に高炉水砕スラグの潜在水硬作用によって固結部を形成する方法は任意であるが、例えば、次のような方法を採ることができる。
(1) 高炉水砕スラグを陸上において長期間野積み養生させることにより、高炉水砕スラグの潜在水硬作用によって少なくとも一部を固結させ、この固結したスラグを利用する。例えば、一部のみが固結した高炉水砕スラグをそのまま基盤材として用い、水底基盤を造成することもできるし、或いは一部又は全部が固結した高炉水砕スラグを破砕処理又はハンドリング時の衝撃により適宜解砕させ、これを基盤材として用い、水底基盤を造成することもできる。
【0024】
(2) 高炉水砕スラグの粒度分布を制御することにより、敷設後の水中において高炉水砕スラグの適度な潜在水硬作用が得られるようにする。具体的には、高炉水砕スラグの粒度をD20=0.15〜1.2mm、D50=0.6〜1.9mm程度にすることが好ましく、このような高炉水砕スラグ又はこれと他の基盤用材料との混合物で造成された水底基盤は、所望の固結状態が得られやすい。高炉水砕スラグを上記のような粒度分布とするために、スラグの篩い分け、破砕、粉砕などを適宜実施し、粒度を調整することができる。
(3) 上記(2)に示したような粒度分布の高炉水砕スラグ若しくはさらに固結しやすい粒度分布(より細かい粒度分布)を有する高炉水砕スラグを用い、一部又は全部が固結した敷設層(基盤)を一旦形成し、その後(例えば、基盤材を敷設してから1週間〜数ヶ月後)、その固結部の一部を人為的又は自然に解砕させる。人為的に解砕する方法としては、潜水夫などによる人力作業のほか、グラブ船などのグラブ、海底耕運機などの重機を用いてもよい。
【0025】
(4) 上記(2)に示したような粒度分布の高炉水砕スラグ又はさらに固結しやすい粒度分布(より細かい粒度分布)の高炉水砕スラグと他の基盤用材料(特に、浚渫土のようなスラグ以外の基盤用材料)とを混合する際に、その混合状態を不均一にし(完全混合状態にしない)、その状態で水底に敷設する。このように混合状態が不均一であると、高炉水砕スラグが多い部分では固結部が生じやすく、他の基盤用材料が多い部分では固結部が生じにくくなる。高炉水砕スラグと他の基盤用材料とを不均一に混合するには、陸上の重機によるショベル混合、台船上によるグラブ混合など利用できる。また、敷設時にスラグと他の基盤用材料を交互に敷設し、その後、自然に又は人為的に混合させるようにしてもよい。
【0026】
本発明の水底基盤は種々の場所に種々の目的で造成することができるが、特に好ましくは、水中動植物の生育場・棲息場となる浅場、干潟、又は浅場と干潟とが連続した水浜として造成される。一般に、浅場とは主に海岸に面した水深10〜15m以浅の周年冠水している浅海域のことであり、また、干潟とは潮汐により冠水・干出を繰り返す泥砂質の海岸のことである。したがって、元々水深が深いためにアマモ等の海草類が育ちにくい海域において、アマモ等の海草類が生育可能な浅場を造成する場合などにも、本発明の水底基盤を好適に利用できる。
さきに述べたように、造成された浅場や干潟は多様な生物が生育・棲息可能な場所となり、また、アサリ等のような有用水産資源の生産場としても利用できるようになる。
但し、本発明は水中動植物の生育・棲息場用としての基盤以外に、例えば、漁礁などの構造物の基盤、底質浄化用の基盤などのような種々の目的で造成される基盤に適用することができる。
【0027】
本発明の水底基盤では、海草類が群生する海草藻場(例えば、アマモ場)や有用貝類の漁場(例えば、アサリ場、シジミ場など)とするために、海草類の移植や播種、有用貝類やその稚貝の放流などを行ってもよい。また、造成された水底基盤上に、漁礁や藻礁用のブロックや他の構造物などを設置してもよい。
なお、本発明の水底基盤は、例えば、(1)既存の底質の上に造成する、(2)既存の底質を浚渫などで除去した後に造成する、(3)既存の底質上に浚渫土層を造成し、その上に造成する、(4)既存の底質を浚渫などで除去した後、浚渫土層を造成し、その上に造成する、(5)水底に潜堤を設置し、その内側に造成する、などのような種々の形態で造成することができる。
【0028】
本発明の水底基盤が造成される場所は、海域・海浜だけでなく、湖沼・内海・河口などの水域・水浜を含む。また、具体的な水域としては、例えば、海岸に面した急深の水域で水産的に未利用な水域、水深は浅場並であるが底質がヘドロ化して水産的に未利用な水域、夏季に貧酸素状態が進行しやすい水域、再生・修復が必要な現存する浅場や干潟などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
水底基盤の厚さは特に制限はなく、使用目的、海底の地形や水深等に応じて適宜選択すればよいが、通常20cm以上、より望ましくは40cm以上が好ましい。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
沿岸海域における水深3mの平坦な海底に1m×1mの区画を13区画設け、これらの区画に対して基盤材(敷設材)を約30cmの厚さに敷設し、人工水底基盤の試験区No.1〜No.13を造成した。高炉水砕スラグとしては粒度分布が異なる3種類のものを用い、適宜組み合わせて配合した。高炉水砕スラグの粒度分布は、軽破砕・篩い分けなどを適宜行って調整した。また、高炉水砕スラグ以外の基盤用材料として浚渫土を用いた。基盤用材料の混合は、傾動型コンクリートミキサーに材料を入れ、約10秒間ミキサーを回転させて行った。
【0030】
水底基盤の試験区を造成してから6ヵ月後に、各区画の基盤表面硬度を山中式表面硬度計(標準型)を用いて測定した。この測定では、各区画において10測定箇所(但し、10測定箇所は互いに20cm以上離れている。)を選定して表面硬度の測定を行い、硬度測定値が10mm以上となる測定箇所の数を調べた。また、各試験区の中央部0.25m(0.5m×0.5mの範囲)の領域に棲息していた底生生物(貝類やゴカイなどのマクロベントス)の湿重量を調査した。また、水底基盤の試験区を造成してから5ヵ月後にアマモの播種(25粒/試験区)を実施し、播種1ヵ月後の発芽数を調査した。
それらの結果を、各試験区に用いた基盤材の構成(配合比率)とともに表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
[実施例2]
沿岸海域における水深3mの平坦な海底に1m×1mの区画を7区画設け、これら区画に対して粒度分布が異なる高炉水砕スラグ(基盤材)を約30cmの厚さに敷設し、人工水底基盤の試験区No.1〜No.7を造成した。高炉水砕スラグとしては粒度分布が異なる8種類のものを用い、適宜組み合わせて配合した。高炉水砕スラグの粒度分布は、軽破砕・篩い分けなどを適宜行って調整した。基盤用材料(2種類の高炉水砕スラグ)の混合は、傾動型コンクリートミキサーに材料を入れ、約10秒間ミキサーを回転させて行った。
【0033】
水底基盤の試験区を造成してから6ヵ月後に、各区画の基盤表面硬度を山中式表面硬度計(標準型)を用いて測定した。この測定では、各区画において10測定箇所(但し、10測定箇所は互いに20cm以上離れている。)を選定して表面硬度の測定を行い、硬度測定値が10mm以上となる測定箇所の数を調べた。また、各試験区の中央部0.25m(0.5m×0.5mの範囲)の領域に棲息していた底生生物(貝類やゴカイなどのマクロベントス)の湿重量を調査した。また、水底基盤の試験区を造成してから5ヵ月後にアマモの播種(25粒/試験区)を実施し、播種1ヵ月後の発芽数を調査した。
それらの結果を、各試験区に用いた高炉水砕スラグの粒度分布とともに表2に示す。
【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に高炉水砕スラグ又は高炉水砕スラグと他の基盤用材料との混合物を敷設して造成された水底基盤であって、
少なくとも一部に、高炉水砕スラグの潜在水硬作用により固結し、且つ山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である固結部を有することを特徴とする人工水底基盤。
【請求項2】
固結部における基盤表面の硬度測定値が30mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の人工水底基盤。
【請求項3】
下記(a)〜(c)に基づき設定された各測定区で行われる基盤表面の硬度測定において、固結部として測定される箇所(但し、山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である箇所)が10測定箇所中1箇所以上ある(但し、10測定箇所は互いに20cm以上離れている。)ことを特徴とする請求項1又は2に記載の人工水底基盤。
(a) 1m四方を1つの測定区の単位とし、
(b) 水底基盤の面積A(m)に応じて、下記(1)式により、当該水底基盤における測定区数B(但し、小数点以下切り捨て)を求め、
面積A×0.02=測定区数B … (1)
(c) 当該水底基盤に測定区数B以上の測定区を設定する。但し、水底基盤を100m単位で区画し、各区画内に前記測定区が1つ以上存在するように、測定区を設定する。
【請求項4】
下記(a)〜(c)に基づき設定された各測定区で行われる基盤表面の硬度測定において、固結部として測定される箇所(但し、山中式表面硬度計(標準型)による基盤表面の硬度測定値が10mm以上である箇所)が10測定箇所中1箇所以上9箇所以下ある(但し、10測定箇所は互いに20cm以上離れている。)ことを特徴とする請求項1又は2に記載の人工水底基盤。
(a) 1m四方を1つの測定区の単位とし、
(b) 水底基盤の面積A(m)に応じて、下記(1)式により、当該水底基盤における測定区数B(但し、小数点以下切り捨て)を求め、
面積A×0.02=測定区数B … (1)
(c) 当該水底基盤に測定区数B以上の測定区を設定する。但し、水底基盤を100m単位で区画し、各区画内に前記測定区が1つ以上存在するように、測定区を設定する。
【請求項5】
浅場、干潟、又は浅場と干潟とが連続した水浜として造成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の人工水底基盤。

【公開番号】特開2006−288322(P2006−288322A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116299(P2005−116299)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】