説明

人工汗の組成、並びに、人工汗を供給する方法及び人工汗機能を有するセンサおよびセンサ部品

【課題】検出対象物に接触するセンサまたはセンサ部品(センサ周辺材料やセンサ保護材)の、接触にともなう摩擦(激しい振動と摩擦熱)や摩耗や損傷から保護、センサ受容信号のかく乱を防止、センサ受容信号の安定化、接触対象物の識別明瞭化、さらには、接触面の消毒・殺菌・清浄化機能を提供する。
【解決手段】水と、炭素原子と結合した少なくとも1個のOH基を有する少なくとも1種の水溶性化合物の基材成分からなる人工汗7、この各基材成分の濃度と供給量を変化させ、センサ11またはセンサ部品と検出対象物との接触面間の摩擦をコントロールし、センサまたはセンサ部品の摩擦熱・摩耗・損傷からの保護、センサ受容信号の安定化、接触対象物の識別明瞭化、さらにはセンサ接触面の消毒・殺菌・清浄化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工汗の組成、並びに、人工汗を供給する方法、人工汗機能を有するセンサ及びセンサ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
センサが使用される様々な部品において、センシングを行う際、センサまたはセンサが組み込まれた部品が、センシング(検出)する対象物に直接または間接的に接触し発生する高い摩擦(摩擦係数)による摩擦熱や激しい振動がセンサ受容信号をかく乱し、センサまたはセンサ部品を摩耗・損傷させる。これらの課題を解決するため、その可能性のあるセンサまたはセンサ部品(周辺材料を含む)または検出対象物の表面を保護する、あるいはセンサ受容信号を安定化するため、ヒトの感覚器を有する皮膚機能特有の瞬間的かつ流動的な保護膜である汗、これに代わる人工の汗の機能を提案し、提供する必要がある。
【0003】
例えば、先行技術にあるセンサを保護する固定された材料については、特許文献1に開示されるように、圧力センサ表面に保護膜(シリコン窒化膜を固定)を使用する方法、特許文献2に開示されるように、流量センサ表面に保護膜(DLCやアルミナ、SiNを固定)を使用する方法、特許文献3〜4に開示されるように、バイオセンサ表面またはケミカルセンサ表面に保護膜(絶縁性有機物を固定)を使用する方法、特許文献5に開示されるように、超音波センサ表面に保護膜(各種金属、各種合成樹脂、ガラス、ゴムなどを固定)を使用する方法、特許文献6に開示されるように、電気化学センサ表面に保護膜(シリカ含有のエラストマーを固定)を使用する方法、また、先行技術にある潤滑剤を供給するための方法または利用可能な方法として、特許文献7〜9に開示されるように、インクジェット装置により供給する方法、特許文献10に開示されるように、エアロゾルを生成しオイルミストを噴霧供給する方法、特許文献11に開示されるように、センサから得た信号をもとに軸受に潤滑油を自動的に給油する方法、特許文献12に開示されるように、ロボット走行のために潤滑油を自動給油する方法、などが知られている。
【特許文献1】特開2005−181066号公報
【特許文献2】特開2008−82768号公報
【特許文献3】特開2007−10321号公報
【特許文献4】特開2006−220546号公報
【特許文献5】特開2006−94459号公報
【特許文献6】特開平8−193969号公報
【特許文献7】特開2004−351260号公報
【特許文献8】特開2003−19790号公報
【特許文献9】特開2002−370384号公報
【特許文献10】特開2009−226402号公報
【特許文献11】特開2004−316707号公報
【特許文献12】特開平10−216613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、センサまたはセンサ表面に固定された保護膜またはセンサを内部に設けるセンサ周辺材料(以下、センサ部品という)が一旦傷つくとなかなか修復が難しく、センサ部品が有機材料の場合、特に、エラストマーのような柔軟性の高い材料の場合、無機材料のように硬い材料に比べ微小荷重の接触状態(例えば、触覚信号など)をセンサで敏感に検知できるが、弾性ヒステリシス損失の発生や、その平滑面においては吸着現象(スティクションやスティック・スリップ)に伴う高い摩擦係数(摩擦熱)の発生と、同時に発生するはげしい振動により、センサ受容信号がかく乱される、またはセンサ部品が損傷する、または摩耗するなどの課題がある。
【0005】
前記センサ部品が無機材料の場合、特に高硬度の材料は耐摩耗性や耐久性という点で優れているが、センサ部品の接触相手材料が硬い場合には、接触面圧が高くなりやすく、傷(スクラッチ)や凝着摩耗を起こすなどの課題がある。
【0006】
さらに、前記センサ部品が接触する相手材がセンサ部品よりも柔らかい場合、特に、柔軟性の高いエラストマー系の有機材料では、上述の有機材料のセンサ部品同様の課題がある。
【0007】
センサ部品が接触した際に発生する高い摩擦係数とそれに伴うはげしい振動は、その摩擦熱により接触部の表面温度が高温となり、センサ部品にダメージを与える、センサ受容信号をかく乱するなどの課題もある。
【0008】
さらに、センサ部品が接触する対象物によっては、接触した際に有害物質(毒物、微生物、細菌、ウイルスなど)がセンサ部品表面を汚染されるなどの課題もある。
そこで、本発明は、センサ部品と接触相手面との間の摩擦係数を調整し、センサ受容信号の安定化、センサ保護、センサ部品材料および接触相手材料の摩耗と摩擦熱の低減、接触する相手材料の摩擦係数の差を明瞭化し材料の判別を容易にする、センサ部品と接触相手面の相互の接触表面の消毒・殺菌・清浄化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、本発明は、センサ部品またはセンサ機能を有する材料の表面に、水と、炭素原子に結合した少なくとも1個のOH基を有する1種の水溶性化合物(以下、水溶性化合物という)からなる人工の汗(以下、人工汗という)を供給し、かつ人工汗の各基材成分の混合比および/または人工汗の供給量を変化させることで、接触対象物との摩擦係数を流動的にコントロールすることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、センサ部品の表面に人工汗を供給することで、センサ部品が接触する相手面に対し、センサ部品と接触相手面間の吸着や凝着と、それにともなう高い摩擦係数の発生と摩耗を抑制することができ、同時に、センサ受容信号の安定化とセンサまたはセンサ部品を保護することができる。
【0011】
センサ部品と平滑な接触相手面との間にあるわずかな水分が、吸着現象(ラプラス圧力)を発生させ、高い摩擦係数の発生と同時に、センサ受容信号をかく乱するはげしい振動を発生するが、このとき人工汗を供給することで、人工汗の十分な流動膜と水溶性化合物の官能基のヒドロキシル基(OH基)が、水の表面張力(またはラプラス圧力)を低下させ、吸着現象と高い摩擦係数の発生を抑え、安定したセンサ受容信号を提供することができる。
【0012】
センサ部品と粗い接触相手面との接触においては、前記平滑な接触相手面よりも同一条件化で真実接触面積は減少し、その粗さの効果が前記吸着現象を抑える効果を改善する一方で、例えば、触覚センサでは、接触面積(触覚面積)の減少とともに触覚情報が減少し、結果として不明瞭な(微弱な)触覚センサ受容信号となるが、ここに人工汗を供給することで、本来ならば接触できない、例えば、窪みや溝のような部分に、人工汗が浸透し、人工汗が触覚情報を間接的にセンサ部品へと伝達し、センサ受容信号を明瞭化することができる。
【0013】
例えば、紙(セルロース繊維)のような粗い表面で、高い吸湿性(または親水性)の接触相手面では、人工汗中の水分が繊維に浸透すると同時に、その接触面間のラプラス圧力を高くし摩擦係数を増加させ、人工汗中の水溶性化合物がその接触相手面の表面に吸着・保護し、摩耗を抑制することができる。
【0014】
前記特性から、センサ部品が接触する対象物の高吸湿性(または親水性)と低吸湿性(または疎水性)の材料の差を、人工汗を用いることで、対象物表面での人工汗の吸着性または人工汗のぬれ性または人工汗膜の形成能力の差が、接触面間の摩擦の差となって、材料判別を容易にすることができる。
【0015】
さらに、センサ部品と検出対象物間の人工汗の供給とその蒸発にともなう気化熱により、接触面間の摩擦熱を冷却することができる。
【0016】
さらに、人工汗の基材成分の水溶性化合物に、消毒・殺菌性のある、例えば、エチルアルコール(エタノール)や酢酸など、を用いることで、センサ部品または接触する相手材表面を消毒・殺菌・清浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明においては、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明については省略する。また、図面においては、寸法比率は説明のものとは必ずしも一致していない。
【0018】
まず、簡単のため単純なセンサ部品の配置と人工汗を供給する回路と方法、人工汗の組成について説明する。
【0019】
(人工汗供給方法)
図1に基づき、センサ部品の配置と人工汗の供給方法について説明する。人工汗の基材成分である水2、そしてもうひとつの人工汗の基材成分である少なくとも1種類の水溶性化合物3を入れ、人工汗容器の上流に設置されたポンプ(インクジェット式の場合は人工汗容器の下流に設置するのが好ましい)などの加圧装置1あるいは気化装置あるいは毛細管力による負圧による液送などによって、接触をともなうセンサ8表面またはセンサ部品材料9表面に、人工汗の基材成分2、3が人工汗7となって供給される。なお、人工汗容器は、各種水溶性化合物保存のため、複数あってもよい。
【0020】
(人工汗容器)
人工汗容器は、水2に少なくとも1種の水溶性化合物3を予め0〜100質量%の範囲内で設定した濃度の混合液を入れてもよく、この場合、人工汗容器は合計で少なくとも1個でよい。
【0021】
(人工汗の供給量とタイミング)
人工汗の供給のタイミング(または供給量)については、センサ接触部表面に設置されたセンサ8またはセンサ部品内部に設置されたセンサ10から検知される受容信号が、アンプ11により増幅され、A/Dコンバータ12、マイコンまたはパーソナルコンピュータ13に送信される。
【0022】
(センサ部品保護のための人工汗供給のためのループ信号制御・フィードバック信号制御)
コンピュータ13によって、センサ8またはセンサ部品9が検出対象物との接触にともない発生するセンサ受容信号、例えば、圧力信号など、がセンサ8、10またはセンサ部品9で高い摩擦を発生する、または損傷または摩耗するレベルの値、例えば、検知された受容信号の大きさ、周波数、信号波形など、に到達したとき、加圧装置1へインバータ制御またはON−OFF制御、または制御バルブ4へバルブ開閉制御など、制御信号が送信され、センサ受容信号が安全な値に復帰するまで、ループまたはフィードバック制御される。
【0023】
前記制御方法により、人工汗容器より、人工汗7中の水2と少なくとも1種の水溶性化合物3が、個別に複数の配管、または同一配管内へ送られ、人工汗中の固形異物除去のためのろ過フィルタ5を通過し、人工汗を供給する汗孔6へと導かれる。ただし、予め人工汗が十分ろ過されたものが人工汗容器にある場合は、ろ過フィルタ5はなくてもよい。
【0024】
人工汗7が個別の配管で送られてくる場合、水2と少なくとも1種の水溶性化合物3が、汗孔6の空間で瞬間的に混ざり、センサ部品9またはセンサ8の隙間(またはセンサ内部を貫通する孔)を通過して、センサ部品9またはセンサ8表面へ人工汗7が供給される。
【0025】
(センサ部品外部より人工汗が供給される場合)
センサ部品9の外部より人工汗7が供給される場合、人工汗基材成分である水2と少なくとも1種の水溶性化合物3は、バルブ4を通過した後、同一配管または個別の配管と前記汗孔6に相当する空間を通過し、センサ8またはセンサ部品9表面に供給される。このとき、孔工6部に噴霧ノズル等を付加するなど、人工汗7の供給状態を調整することが望ましい。
【0026】
(汗孔の説明)
図2に示すように、汗孔6(aとb)は、センサ部品9の内部または表面に配置し、個別に送られてくる人工汗基材成分の水2と少なくとも1種の水溶性化合物3が、汗孔6の空間汗孔(b)の最大容積10mlの空間内で混合し、人工汗7としてセンサ部品9表面に汗孔6(a)より排出・供給される。このとき人工汗7は、気体、ミスト(噴霧)、液体のいずれかの状態でよく、また、汗孔6内に、親水性材料、例えば、親水性高分子ゲル/ゾル、親水性ファイバなど、を封入または導入してもよい。
【0027】
図2のセンサ部品9材料が弾性体(エラストマー)の場合、検出対象物との接触の際に発生する圧力による圧迫により、人工汗7がセンサ部品9表面に排出・供給される。
【0028】
(人工汗機能を有するセンサ部品の応用例)
人工汗機能を有するセンサ部品の応用例として、多指型ロボットハンドに装備されたセンサ部品9と、センサ(8、10)の配置および人工汗供給孔の部分断面図を、図3に示す。後述の各種センサを装備可能であるロボットハンドの接触部分には、後述の各種センサ部品9材料が使用され、摩擦を調整するための人工汗の供給孔(汗孔6)が装備される。
【0029】
(センサ部品表面の凹凸またはテクスチャ)
センサ部品9またはセンサ8の表面に人工汗溜まり(汗溝)や、人工汗による不要なすべりを防止するために、センサ部品9の表面に、ドット径またはライン幅が50nm〜10mmで高さ1nm〜10mmの少なくとも1個のドットパターンおよび/またはラインパターンの凹凸を形成し、凹部または/および凸部の表面にある少なくとも1個の汗孔6から、人工汗7が分泌・供給される。このとき、汗孔6の孔径は1nm〜10mmであり、人工汗の各基材成分(2、3)が孔より別々または一緒に分泌・供給される。
【0030】
図4平面図に示すように、ドットパターンは、例えば、四角形(ドットパターン1)、円形(ドットパターン2)、三角形、多角形、または不定形の突起または窪みである。
【0031】
図4平面図に示すように、ラインパターンは、例えば、ストライプパターン1のように縞状、もしくは同心円状のストライプパターン2などの縞状の凹凸形状を形成する。
【0032】
(人工汗の組成)
人工汗は、水2と、炭素原子に結合した少なくとも1個のヒドロキシル基を有する少なくとも1種の水溶性化合物3を、基材成分とし、水または水溶性化合物を0〜100質量%の範囲内で濃度を変化させることで、摩擦係数を調整するためのものである。
【0033】
(水溶性化合物の説明)
水溶性化合物3としては、水溶性かつ炭素原子に結合したOH基を有する化合物であればよい。ここで言う炭素原子に結合したOH基とは、カルボキシル基(−COOH)やフェノール基等の複雑な官能基に含まれるものも含む概念である。
【0034】
このような水溶性化合物3としては、炭素原子に結合したOH基を有する水溶性の炭化水素類の他、水溶性アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、アルカンジオール、エリスリトール、グリセリン、ポリグリセリン、キシリトール、ジグリセリン、ヘキサジオール、ヘキシトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等)、ヒアルロン酸等)、カルボン酸類(例えば、酢酸等)、炭素原子に結合したOH基を有する水溶性エステル類、炭素原子に結合したOH基を有する水溶性エーテル類、炭素原子に結合したOH基を有する水溶性ハロゲン化有機化合物等が挙げられる。これらの中でも、特に、水溶性アルコール類が好ましい。
【0035】
(人工汗基材成分以外の添加剤)
人工汗機能をさらに改善する目的で、人工汗基材成分2,3中に基材成分以外の添加剤を加えてもよく、このとき添加剤濃度は1質量ppm〜10質量%の範囲内が望ましく、例えば、粒径1nm〜100μmの固体潤滑剤(フッ素系粒子、フッ素添加カーボンやアモルファスカーボンやグラファイトやC60などの炭素粒子、二硫化モリブデン粒子等)を添加するなど好例である。この場合、図1のろ過フィルタ5のろ過精度は、粒径サイズよりも大きくしなくてはならない。
【0036】
人工汗7は、検出対象物表面に残渣あるいは汚染しないものが望ましく、この場合、例えば、エタノールやメタノールなどが好例である。
【0037】
高温環境または引火または発火してはならない使用環境では、人工汗の水溶性化合物は、例えば、エチレングリコールなどの難燃性の材料が好ましい。
【0038】
(センサ部品の説明)
図1に示すセンサ部品9は、センサ検出対象物と直接接触をともなうセンサの保護膜またはセンサまたはセンサを内部に設けるセンサ周辺材料であり、無機材料(セメント、耐火物、磁性材料、金属の製錬加工物、ガラスなど)および/または有機材料(化学合成樹脂、高分子ゲルまたはゾル、ゴム、合成繊維、セルロースなど)である。
【0039】
(センサの種類)
図1に示すセンサ8またはセンサ10の種類は、人工汗を用いることが可能な物理センサまたは化学センサの全般で、例えば、力センサでは、圧力センサ、光学的圧力センサ、半導体圧力センサ、SAWフォースセンサ、ひずみセンサなど、また、光センサでは、例えば、光量センサ、超高速光センサ、ホトトランジスタ、フォトンセンサ、画像センサ、半導体イメージセンサ、色センサ、光の位相センサ、偏光応用のセンサなど、また、温度センサでは、接触式温度センサ、非接触式温度センサ、集電型温度センサ、SAW型放射温度センサ、光ファイバ温度センサなど、また、速度センサでは、例えば、光ドップラー速度センサ、光集積化速度センサ、光ファイバジャイロスコープ、集積化加速度センサ、磁気型加速度センサ、流速または流量センサなど、化学物質センサでは、半導体ガスセンサ、固体電解質ガスセンサ、接触燃焼式ガスセンサ、公害ガスモニタリングセンサ、非接触式ガスセンサ、レーザーガスセンサ、イオンセンサ、分子認識センサなど、バイオセンサでは、酵素センサ、分子素子、DNAチップなど、リアクター型バイオセンサ、などである。
【0040】
(人工汗によるセンサ部品および検出対象物の表面の消毒・殺菌)
図1に示すセンサ部品9またはセンサ8と検出対象物との接触面または表面を消毒・殺菌するには、人工汗7の水溶性化合物3に、例えば、エタノールや酢酸などを使用し、特に、エタノール水溶液の場合、エタノール体積濃度を70〜90%(15℃環境)の範囲内の人工汗7を供給するのが好ましい。
【0041】
(人工汗によるセンサ部品および検出対象物の表面の清浄化)
図1に示すセンサ部品9またはセンサ8と検出対象物との接触面または表面を清浄化するには、水および/または炭素数1〜3個の水溶性化合物の人工汗が望ましく、このときの人工汗の供給量は1cm当り10ml/秒以下の流量で、かつ可能な限り高流量で供給(フラッシング)することが好ましい。
【実施例】
【実施例1〜7】
【0042】
まず、水溶性化合物(ここではエタノール)の水中質量濃度を0〜100質量%の範囲内で変化させた人工汗を、平滑な(表面粗さRa0.01μm)かつ清浄なアクリル樹脂表面に滴下し、各濃度の人工汗の滴形をデジタル・マイクロスコープにより撮影し、その滴形から接触角(人工汗膜の形成能)を確認した。
【0043】
さらに、図5のシリコーンゴム製ヒト指型触覚センサ(ひずみゲージ)と前記アクリル樹脂との接触表面に、前記水溶性化合物の人工汗を濃度別に定量(0.06ml)供給し、定荷重下(0.25N)かつ往復動(0〜0.02m/s)の範囲内で摩擦係数を測定し、人工汗の有効性を確認した。
【0044】
(比較例1)
人工汗を供給しない以外は、実施例1〜7同様にして摩擦係数を測定した。
【実施例8】
【0045】
すべり接触面が紙(PPC用紙、粗さRa2.38μm)以外は、実施例1〜7同様にして摩擦実験を実施した。
【実施例9】
【0046】
図5のシリコーンゴム製ヒト指型触覚センサに、人工汗を定量(0.06ml)供給した場合とそうでない場合の、アクリル表面と紙(PPC用紙)の差を、内部にある垂直に配置した2つのひずみゲージの信号で比較した。
【0047】
(評価)
まず、アクリル表面において、エタノール濃度0〜100質量%範囲内の人工汗の接触角測定結果を図6に示す。
【0048】
図6に示されるように、人工汗中のエタノール濃度の上昇とともに水の接触角(表面張力)が、瞬時に低下することから、エタノール濃度を意図的に変化させることで、水の接触角を瞬時に調整できることが容易に理解できる。
【0049】
これは、本発明の最も主要な特徴である人工汗の基材成分である水溶性化合物(ここではエタノール)中の官能基であるヒドロキシル基(OH基)が、もうひとつの基材成分の水分子と検出対象物(ここではアクリル表面)に吸着し、水の表面張力を弱め、結果として、水溶性化合物またはヒドロキシル基の濃度、すなわち、エタノール濃度の変化とともに、人工汗の膜形成能力を瞬時に変化・調整できることが理解できる。
【0050】
表1に、実施例1〜7の接触角測定結果と摩擦実験結果を示す。
【表1】

【0051】
図6に示された人工汗の接触角(膜形成能力あるいは吸着能力)の変化にともない、表1の結果に示すように、摩擦係数も変化させることが可能であることが理解できる。
【0052】
図5に示されたシリコーンゴム製ヒト指型触覚センサは、アクリル表面に対し摩擦係数でおおよそ1を越えると、時間の経過とともに、シリコーンゴムは破断し、内部のひずみセンサに大きな損傷を与えることがわかっている。
【0053】
このようなセンサまたはセンサ部品または検出対象物にダメージを与えるようなセンサ受容信号を検知した際、適切な供給量または水溶性化合物濃度の人工汗が供給されれば、適切な摩擦係数に調整でき、センサまたはセンサ部品または検出対象物を保護できることが容易に理解できる。
【0054】
図7に、実施例1〜7(人工汗あり)および比較例1(人工汗なし)に係わる摩擦係数と水中エタノール濃度の関係を示す。
【0055】
図5のシリコーンゴム製ヒト指型触覚センサのアクリル表面との接触において、センサを保護するためには、図7の近似曲線より、おおよそ水溶性化合物(エタノール)濃度を20質量%以上にしてやればよい。ただし、図5のようにロボットハンドの“握る”という機能においては、摩擦係数は低すぎても問題であり、できるだけ水溶性化合物(実施例ではエタノール)濃度は低い値に設定することが好ましい。
【0056】
また、図7に示すように、水溶性化合物(エタノール)濃度の上昇とともに、摩擦係数の変動が小さくなる傾向も理解できる。
【0057】
すなわち、接触面における吸着現象(スティクション現象)やスティック・スリップのように、センサまたはセンサ部品が検出対象物に吸着したり、離れたりする現象により、激しい振動が発生するため、このような条件下でのセンサ検出操作は、センサ受容信号をかく乱するなど、センサにとっては好ましくない。
【0058】
このような課題に対しても、人工汗中の水溶性化合物濃度(実施例ではエタノール濃度)を調整することで、前記のはげしい振動を抑制し、安定した接触を実現することができる。
【0059】
表1および図7に示される比較例1結果のように、人工汗がない場合は、人工汗を供給した場合(実施例1〜7)よりも高い摩擦係数を示すことがわかる。
【0060】
図8に、実施例8の結果を示す。
【0061】
図8に示されるように、図5のシリコーンゴム製ヒト指型触覚センサが紙(PPC用紙)表面に接触した際、人工汗が水単体では接触の際に発生する紙(PPC用紙)の摩耗を、人工汗中の水溶性化合物(ここではエタノール)が抑制することがわかる。
【0062】
図9に、実施例9の結果を示す。
【0063】
図9に示されるように、図5のシリコーンゴム製ヒト指型触覚センサ内に垂直に配置された2つの触覚センサ(ひずみゲージAとB)の受容信号のプロット座標位置において、従来技術のように人工汗がない場合、接触対象物のアクリル樹脂と紙(PPC用紙)との判別が困難であることがわかる。
【0064】
ここに、人工汗を供給することで、かつ水溶性化合物(ここではエタノール)濃度を高くすることで、センサA信号とセンサB信号のプロット座標位置において、接触対象物のアクリル樹脂と紙(PPC用紙)を分離し、判別(識別)を容易にすることが理解できる。
【0065】
これらの実施例1〜9の結果から、人工汗の基材成分の水と少なくとも1種の水溶性化合物(実施例ではエタノールを使用)の濃度を変化させる、および/または人工汗の供給の有無によって、センサまたはセンサ部品または検出対象物の摩擦をコントロールし、それらの材料を摩耗から保護、接触にともなうはげしい振動を抑制、接触対象物の判別を容易にする機能を理解できる。
【0066】
おそらく、人工汗の基材成分の水分子によるメニスカス効果や分子吸着性と、もうひとつの基材成分である水溶性化合物の親水基(すなわちヒドロキシル基)の吸着性と水溶性化合物中の疎水基(または親油基)の吸着性と人工汗膜形成能力等が、センサまたはセンサ部品または検出対象物との摩擦係数をコントロールし、前記機能を発揮しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の好適な実施形態を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明の好適な実施形態を示す図1に続く模式斜視図および部分断面図である。
【図3】図3は、本発明の好適な実施形態に係わる応用例(多指型ロボットハンド)の模式斜視図および部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の好適な実施形態を示す図2に続くセンサまたはセンサ部品表面の凹凸パターンに関する模式平面図である。
【図5】図5は、実施例1〜7に用いられたシリコーンゴム製ヒト指型触覚センサ(ひずみセンサ)の内部構成の斜視図である。
【図6】図6は、実施例1〜7に係わる人工汗(水とエタノール)の濃度別接触角の測定写真である。
【図7】図7は、実施例1〜7において摩擦係数と人工汗アルコール濃度の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例8において人工汗中のアルコール(エタノール)の有無を比較した実施後の紙表面の写真である。
【図9】図9は、実施例9においてヒト指型触覚センサ(図5)の2つのひずみセンサ(触覚センサ)信号出力を人工汗の有無または濃度別に比較したグラフである(人工汗なし、人工汗(水)、人工汗(エタノール50質量%))。
【符号の説明】
【0068】
1・・・ポンプまたは加圧装置、2・・・人工汗(水)、3・・・水溶性化合物、4・・・バルブ、5・・・ろ過フィルタ、6・・・汗孔、7・・・人工汗、8・・・外部センサ、9・・・センサ部品(センサ周辺材料またはセンサ保護材料)、10・・・内部センサ、11・・・アンプ(センサ用増幅器)、12・・・A/Dコンバータ、13・・・マイクロコンピュータまたはパーソナルコンピュータによるセンサ受容信号の情報処理、14・・・人工汗の供給量調整のためのフィードバック制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの検出対象物と接触をともなうセンサまたはセンサ保護膜またはセンサを内部に設けるセンサ周辺材料(以下、センサ部品という)の表面に、水と、炭素原子に結合した少なくとも1個のヒドロキシ基(OH基)を有する少なくとも1種の水溶性化合物(以下、水溶性化合物という)を、基材とする水溶性化合物の水中濃度を0〜100質量%の範囲内で変化させた混合物(以下、人工汗という)を供給することにより、接触面間の摩擦をコントロールし、センサ受容信号の安定化、センサ部品の材料またはセンサ検出対象物の摩耗や損傷から保護する方法。
【請求項2】
前記方法を用い、人工汗を供給する機能を有する物理センサ(例えば、光、力、振動、音波、電波、温度、電気などの物理信号を検出するセンサ)または化学センサ(例えば、ガス、匂いなど種々の化学物質を検出するセンサ)。
【請求項3】
前記センサからの受容信号の値または波形をコンピュータで判別し、請求項1人工汗の加圧装置または送液装置または気化装置またはバルブ(例えば、流量調整弁または開閉弁など)へ、ループ制御またはフィードバック制御することで、請求項1記載の人工汗の濃度および/または供給量を単位面積1cm当り0〜10ml/秒の範囲内でコントロールし、請求項1方法と請求項2センサを用い、センサ部品と検出対象物との接触面の摩擦を調整する方法。
【請求項4】
請求項1記載の人工汗が、気体またはミスト(噴霧)または液体のいずれかの状態で、請求項1センサ部品の内部または外部より、請求項1センサ部品と検出対象物との接触面または表面に、請求項1、3のいずれかの方法を用いて供給される方法。
【請求項5】
請求項1記載の人工汗が、前記いずれかの状態で、重力滴下式または加圧装置(例えば、ポンプ、コンプレッサ、レーザー加熱式またはピエゾ素子加圧式などのインクジェット装置等)または毛細管力(メニスカス力)により発生する負圧により送液または自然気化式または加熱式気化装置によるガス拡散等により、請求項1センサ部品または検出対象物の接触面または表面に、請求項1、3、4のいずれかの方法を用いて供給される方法。
【請求項6】
請求項1、3〜5のいずれかの方法を用い、個別または同一配管で送られる請求項1記載の人工汗が、請求項1センサ部品材料内部に設置された配管径よりも大きな断面積をもつ球状または円筒状の最大空間容積10mlの空間(または隙間)で、請求項1記載の人工汗の基材成分を均一に混合し、請求項1、3〜5のいずれかの方法を用いて、人工汗を分泌・供給する方法。
【請求項7】
前記人工汗を混合する空間(または隙間)が、請求項1センサ部品材料の接触にともなう弾性変形によって圧迫され、請求項1、3〜6のいずれかの方法を用いて、請求項1人工汗を分泌・供給する方法。
【請求項8】
請求項1記載のセンサ部品の表面に、ドット径またはライン幅が50nm〜10mmで、高さ1nm〜10mmの少なくとも1個のドット状および/またはライン状の凹凸を有し、凹部または/および凸部の表面にある人工汗の排出または供給孔(以下、汗孔という)から、請求項1人工汗が、請求項1、3〜7記載のいずれかの方法を用いて供給される方法。
【請求項9】
前記汗孔の孔径が直径1nm〜10mmで、請求項1記載の人工汗の各基材成分(水と少なくとも1種の水溶性化合物)が、汗孔より別々または一緒に、請求項1、3〜8記載のいずれかの方法を用いて供給される方法。
【請求項10】
請求項1人工汗の水または水溶性化合物の混合比を0〜100質量%の範囲内で変化させ、請求項1記載のセンサ部品または請求項2センサを用い、かつ請求項1、3〜9記載のいずれかの方法を用い、接触する材料固有の摩擦係数の差から、検出対象物の材料または物性、例えば、親水性と疎水性など、を判別する方法。
【請求項11】
請求項1水溶性化合物に消毒・殺菌性の材料、例えば、エタノールや酢酸など、を用いることにより、請求項1センサ部品と検出対象物との接触面または表面を、請求項1、3〜9記載のいずれかの方法を用いて消毒・殺菌・清浄化する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−53024(P2012−53024A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211352(P2010−211352)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(310018102)NSSL株式会社 (2)