説明

人工漁礁の製造方法

【課題】海藻や珪藻などの水生植物が着生し易く、かつ海底の環境を汚染することなく,焼却灰等の産業副産物を有効に活用することが可能な人工漁礁及びその製造方法を提供する。
【解決手段】焼却灰等が骨材8として砂利や水とともにセメントに加えられ、混錬された後、角柱状に固められて成型されるとともに、対向する2つの側面に、海藻類や珪藻類の胞子を付着させた木片7が一部を露出した状態で埋設され、木片7を覆うように固定紙片6が上記側面に貼設されるとともに、上面18aに木片7が一部を露出させた状態で埋設されたブロック体2aが井桁状に組み上げられた状態で、棒状体3及びナット4,4によって強固に結束された構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の住処となるように海中へ人為的に沈められて使用される人工漁礁に係り、特に、工場から排出される焼却灰等の産業副産物を有効に活用することが可能な人工漁礁及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
隆起した箇所に集まるという魚類の習性を利用して、海底に人工的な漁礁を設置することがある。特に、建築現場で発生する廃材や工場等から排出される焼却灰などの産業副産物について、資源の有効活用という観点から漁礁の材料への再利用が図られている。しかしながら、廃材等を単に海底に沈めるだけでは、魚類の餌となる海藻類や珪藻類などが付着せず、漁礁として機能しないおそれがある。そこで、従来、水生植物が着生し易い人工漁礁について研究が行われており、それに関して、既にいくつかの発明や考案が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「水生植物着生体、及び、それを張設した人工漁礁形成体、並びに、それを立体的に組み立てた人工漁礁」という名称で、水生植物に必要な栄養分を人工漁礁に付着させる技術に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明である人工漁礁形成体は、貝化石を少なくとも片面に付着させたシート状体が、ポーラスコンクリートに混練して形成されたポーラス状の人工漁礁形成片の表面に張設されたものである。
このような構造の人工漁礁形成体においては、水生植物の成長にとって必要な栄養塩基が十分に含まれた貝化石がシート状体に付着されており、水生植物がシート状体に着生し易いため、このシート状体を水生植物の育成床とすることができる。そして、安価で耐久性に優れるコンクリート製品を人工漁礁形成片として使用した場合でも、その表面が上記シート状体で被覆されているため、水生植物の生育に良好な環境を整えることが可能である。
【0004】
特許文献2には、「人工漁礁部材」という名称で、船などで発生する鉄錆の酸化鉄や木製建設廃材の焼却灰や貝殻などを人工漁礁の本体表面に再利用する技術に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、酸化鉄、炭及び貝殻を含んだプレート状のポーラスコンクリートからなり、人工漁礁の本体表面に取り付けられるものである。
このような構造の人工漁礁部材においては、酸化鉄から海水中に放出される鉄イオンが海藻の栄養になるとともに,富栄養化の原因であるリンと反応してリン酸鉄となることにより海水中のリンが除去されるという作用を有する。また、多孔質の炭によって海水中の不純物が吸着される。さらに、貝殻に含まれるカルシウムが海水中に放出されて、リンと反応してリン酸カルシウムとなることによりリンが除去される。従って、これまで廃棄が困難とされた廃材等の再利用を図るとともに、魚類が生息し易い環境を作り出すことが可能である。
【0005】
さらに、特許文献3には、「漁礁用ブロック、漁礁用ブロックの製造方法及び漁礁用ブロックの使用方法」という名称で、海洋生物の生息に適した藻場増殖場を形成するために海底に沈められる漁礁用ブロック等に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示された発明である漁礁用ブロックは、熱可塑性材料を転写元物質に接触させて形成した型枠に、カキ等の粉砕物を含むコンクリート、モルタル又はセメントを流し込むことによって製造されるものである。
このような構造の漁礁用ブロックにおいては、カキ養殖地において大量に発生し、その廃棄処分が問題となっているカキ殻の有効活用を図るとともに、海中に藻類の増殖に優れた環境を作り出すことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−167061号公報
【特許文献2】特開2002−238398号公報
【特許文献3】特開2000−41525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術である特許文献1に開示された発明においては、シート状体がポーラスコンクリートの周面を保護するとともに,ポーラスコンクリートから溶出する栄養素等を透過させるという機能を有するものの、シート状体がメッシュ状の土木防砂シート等によって構成されているため、半永久的に分解することなく海中に残存するという課題があった。また、1つの人工漁礁形成体の上に他の人工漁礁形成体を積み上げた場合、両者の接触面においては、シート状体が水生植物着生体として機能しないという課題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された発明である人工漁礁部材は、人工漁礁の本体表面に取り付けて使用されるプレート状のポーラスコンクリートであることから、鉄イオンやカルシウムが海水中に放出されて前述の作用が発揮されるために、薄く形成する必要がある。しかし、人工漁礁部材の厚さを薄くすると、ポーラスコンクリート及びそれに使用される廃材等の量が少なくなるため、廃材等の十分な活用を図ることができないという課題があった。
【0009】
特許文献3に開示された発明である漁礁用ブロックは、海藻の一種であるカジメを選択的に増殖させるために、カジメの胞子を植え付けたロープが巻き付けられる構造となっている。しかし、このような構造では、ロープがゴミとして海中に残存するおそれがある。また、漁礁用ブロックにロープを巻き付ける作業は煩雑であるため、時間がかかり、その結果、製造コストが高くなってしまうという課題があった。
【0010】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、海藻や珪藻などの水生植物が着生し易く、かつ海底の環境を汚染することなく,焼却灰等の産業副産物を有効に活用することが可能な人工漁礁及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である人工漁礁は、焼却灰、鉱さい、スラグ、陶磁器屑、コンクリート屑、ガラス屑、炭材、煤塵及び鉄屑の少なくともいずれか1つからなる骨材にセメントを配合して成型されたブロック体と、海藻類や珪藻類の胞子が表面に付着された木片と、水中に浸漬されることで経時的に解繊又は溶解する固定シート片と、を備え、木片は、一部を露出した状態でブロック体に埋設され、固定シート片は、木片を覆うようにブロック体の表面に貼設されたことを特徴とするものである。
このような構造の人工漁礁においては、固定シート片が木片を覆っていることから、ブロック体の組み上げや海底への沈設の際に、木片がブロック体から離脱し難いという作用を有する。また、ブロック体を水中に長時間浸漬させると、固定シート片が解繊し、木片が露出する。加えて、ブロック体に骨材として含まれる鉄屑から海藻類の生育に必要な鉄分が供給されるとともに、焼却灰等によって海水が浄化される。すなわち、本発明の人工漁礁においては、ブロック体の表面とその周囲に、海藻や珪藻などの水生植物の増殖に適した環境が容易に作り出されるという作用を有する。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の人工漁礁において、複数のブロック体が井桁状に組み上げられて一体的に結束されたことを特徴とするものである。
このような構造の人工漁礁においては、請求項1に記載の発明の作用に加えて、製造が容易であることに加え、海底での設置状態が安定するという作用を有する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の人工漁礁において、ブロック体は、少なくとも1つの側面に凹状部を有することを特徴とするものである。
このような構造の人工漁礁においては、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、複数のブロック体が積み重ねられた状態でも、凹状部が設けられた箇所では下側のブロック体の上面が上側のブロック体の下面に接触しないため、当該箇所の木片が無駄にならないという作用を有する。
【0014】
請求項4に記載の発明である人工漁礁の製造方法は、海藻類や珪藻類の胞子の培養液に木片を浸漬させる工程と、水中に浸漬されることで経時的に解繊又は溶解する固定シート片の両面に粘着性を付与する工程と、底板と側板を備えて箱型状に形成される型枠において,側板の片面に固定シート片を貼設する工程と、固定シート上に木片を載置する工程と、焼却灰、鉱さい、スラグ、陶磁器屑、コンクリート屑、ガラス屑、炭材、煤塵及び鉄屑の少なくともいずれか1つからなる骨材を砂利や水とともに加えて混練したセメントを型枠に打設する工程と、このセメントを硬化させてブロック体を成型する養生工程と、型枠をブロック体から脱離する工程と、を備えたことを特徴とするものである。
このような人工漁礁の製造方法によれば、型枠に打設されたセメントが硬化するまでの間、固定シート片によって木片が保持されるという作用を有する。また、セメントの硬化により、木片がブロック体の表面に対して略均一に埋設されるとともに、固定シート片が木片を覆うようにブロック体の側面に張設されるという作用を有する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の人工漁礁の製造方法において、複数のブロック体を井桁状に組み上げる工程と、これらのブロック体に対して棒状体を上下方向に貫通させ,この棒状体の両端にナットを螺着する工程と、を備えたことを特徴とするものである。
このような人工漁礁の製造方法によれば、請求項4に記載の発明の作用に加えて、ブロック体を組み上げる際、各ブロック体に設けられた貫通孔に棒状体を挿通させることで上下のブロック体の位置ずれが修正されるという作用を有する。また、各ブロック体に対して上下方向に貫通された棒状体の両端にナットを螺着させることにより、それらのブロック体が強固に結束されるという作用を有する。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載の人工漁礁の製造方法において、底板の上面に凸状部が設けられたことを特徴とするものである。
このような人工漁礁の製造方法によれば、請求項4又は請求項5に記載の発明の作用に加えて、凹状部や貫通孔が容易に形成されるという作用を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の人工漁礁によれば、固定シート片がゴミとして海底に残留しないため、海底の環境を汚染することなく、焼却灰等の産業副産物を有効に活用することが可能である。
【0018】
本発明の請求項2に記載の人工漁礁によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、安価に製造することができるとともに、安全性に優れるという効果を奏する。
【0019】
本発明の請求項3に記載の人工漁礁では、請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加えて、複数のブロック体が積み重ねられた状態でも、海藻や珪藻などの水生植物を着生させる領域として、下側のブロック体の上面を有効に利用することができるという効果を奏する。
【0020】
本発明の請求項4に記載の人工漁礁の製造方法によれば、請求項1に記載の発明である人工漁礁を安価に、かつ容易に製造することが可能である。
【0021】
本発明の請求項5に記載の人工漁礁の製造方法によれば、ブロック体を組み上げる際の位置合わせが容易であるため、請求項4に記載の発明の効果がより一層発揮される。
【0022】
本発明の請求項6に記載の人工漁礁の製造方法によれば、請求項3に記載の発明である人工漁礁を安価に、かつ容易に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)及び(b)はそれぞれ実施例1の人工漁礁の側面図及び平面図であり、(c)は人工漁礁を構成するブロック体の外観斜視図である。
【図2】(a)及び(b)はそれぞれ実施例1の人工漁礁の製造に係るブロック体の型枠の外観斜視図及び工程図である。
【図3】(a)乃至(c)は実施例1の人工漁礁の製造工程で用いる枠体の断面図である。
【図4】(a)は実施例1の人工漁礁の製造工程においてブロック体が組み上げられる様子を示す模式図であり、(b)は固定紙片の落剥により木片が露出した状態を示す上記ブロック体の外観斜視図である。
【図5】(a)及び(b)はそれぞれ実施例2の人工漁礁を構成するブロック体の外観斜視図及びその製造手順を示す工程図である。
【図6】(a)乃至(c)は実施例2の人工漁礁の製造工程で用いる枠体の断面図である。
【図7】(a)及び(b)は実施例2の人工漁礁を構成するブロック体の断面図であり、(c)は固定紙片の落剥により木片が露出した状態を示す上記ブロック体の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の人工漁礁は、1つ以上のブロック体によって構成されており、そのブロック体は型枠を用いて成型される。従って、以下の説明では、特に断らない限り、型枠の上板及び底板によって成型される面をそれぞれブロック体の上面及び下面というものとする。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施の形態に係る人工漁礁の実施例1について図1乃至図4を参照しながら説明する(特に、請求項1、請求項2、請求項4及び請求項5に対応)。
なお、図1(a)及び図1(b)では固定紙片、骨材及び木片の図示を省略し、図1(c)及び図4(b)は図1(a)、図1(b)及び図4(a)に示したブロック体の拡大図であり、図1(c)、図3(c)及び図4(b)では骨材を模式的に示している。また、図3(a)は図2(a)に示した型枠の側板において固定紙片を介して木片が接着された状態を示す側面図であり、図3(b)及び図3(c)はいずれも図2(a)におけるA−A線矢視断面図である。
【0026】
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施例における人工漁礁1aは、3つの貫通孔5がそれぞれ形成された複数のブロック体2aと、両端にネジ部を有する棒状体3と、この棒状体3のネジ部に螺合するナット4によって構成される。そして、ブロック体2aは、3本を1つの組として並行に配置され、3つの貫通孔5がいずれも上下に連通し,各組同士が平面視して直交するように互い違いに積み重ねられている。また、ブロック体2aの3つの貫通孔5にはそれぞれ棒状体3が挿通され、棒状体3の両端にはナット4が螺着されている。すなわち、人工漁礁1aは、組み上げられた複数のブロック体2aが棒状体3によって結束された構造となっている。
【0027】
図1(c)に示すように、ブロック体2aは工場等から産業副産物として排出される焼却灰等が骨材8として砂利や水とともにセメントに加えられ、混錬された後、角柱状に固められたものである。そして、ブロック体2aの対向する2つの側面には、海藻類や珪藻類の胞子を付着させた木片7が一部を露出した状態で埋設され、木片7を覆うように固定紙片6が上記2つの側面に貼設されるとともに、ブロック体2aの上面18aには、上述の組み上げ工程において他のブロック体2aの下面が接触する箇所を除いて、木片7が一部を露出させた状態で埋設されている。なお、固定紙片6は木材や草、藁、竹などの天然由来の植物繊維その他の繊維を膠着させて製造されたものである。
【0028】
骨材8には、焼却灰の他、鉱さい、スラグ、陶磁器屑、コンクリート屑、ガラス屑、炭材、煤塵、鉄屑が用いられる。なお、焼却灰、鉱さい、スラグ及び炭材は微細気孔によって水を浄化するという作用を有する。また、鉱さい及びスラグは、陶磁器屑、コンクリート屑及びガラス屑とともに、ブロック体2aの強度を高めるように作用する。さらに、煤塵により、ブロック体2aの形成に用いる生コンクリートの流動性が高まる。そして、鉄屑は海藻類の生育に必要な鉄分を供給するという作用を有する。なお、木片7及び骨材8には破砕と篩い分けにより所定の大きさに選別したものを使用する。具体的には、木片7の大きさは10〜200mmとし、鉱さい、スラグ、陶磁器屑、コンクリート屑及び鉄屑の粒径は25mm以下とする。また、ガラス屑及び炭材の粒径は10mm以下とし、焼却灰の粒径は3mm以下とする。
【0029】
このような構造の人工漁礁1aにおいては、木片7が固定紙片6によって覆われているため、組み上げる際や海底に沈設する際にブロック体2aから離脱し難いという作用を有する。また、ブロック体2aを水中に長時間浸漬させると、固定紙片6が解繊して、海藻や珪藻などの胞子が付着された木片7が露出するという作用を有する(図4(b)参照)。そして、前述したようにブロック体2aに骨材8として含まれる鉄屑から海藻類の生育に必要な鉄分が供給されるとともに、焼却灰等によって海水が浄化される。これにより、ブロック体2aの表面とその周囲に、海藻や珪藻などの水生植物の増殖に適した環境が作り出される。さらに、固定紙片6は天然由来の原料によって成形されたものであり、海水により時間の経過とともに分解されるため、ゴミとして海底に残留するおそれはない。
以上説明したように、本実施例の人工漁礁1aによれば、海底の環境を汚染することなく、焼却灰等の産業副産物を有効に活用することが可能である。また、人工漁礁1aは、ブロック体2aが井桁状に組み上げられて一体的に結束された構造であるため、海底での設置状態が安定する。さらに、製造が容易である。すなわち、人工漁礁1aは安全性が高く、安価に製造可能である。
なお、水中における固定紙片6の解繊までの時間は、固定紙片6の厚みや繊維密度等によって調整することで対応できるので、木片7の露出までに適切な時間を予め自由に設定できる。
【0030】
また、本発明の人工漁礁は上記構造に限らず、例えば、ブロック体2aの側面に、固定紙片6とともに鉄屑を埋設した構造であっても良い。そして、ブロック体2aを断面が四角形以外の角柱や円柱とすることもできる。さらに、骨材8の大きさは本実施例に示した場合に限定されるものではなく、適宜変更可能である。加えて、ブロック体2aを井桁以外の形状に組み上げても良い。また、人工漁礁1aは1つのブロック体2aのみによって構成されていても良い。
【0031】
図2(a)に示すように、ブロック体2aを製造する際に使用する型枠10aは、底板11a、左右側板12a,12a、前後側板12b,12b及び側板押さえ具13,13からなり、上面が開口された箱型状をなしている。なお、左右側板12a,12aは底板11aに対して着脱自在となっており、底板11aに設置する場合は、側板押さえ具13,13によって固定される構造となっている。一方、前後側板12b,12bは床板11aに固定されている。そして、左右底板12a,12a及び前後側板12b,12bが底板11a上に立設された状態の型枠10aに対して、骨材8が砂利や砂とともにセメントに加えられて混錬されたもの(後述の生コンクリート9)が打設される。以下、人工漁礁1aの製造方法について、図3及び図4を適宜参照しながら図2(b)を用いて説明する。
【0032】
図2(b)に示すように、まず、ステップS10において、海藻類や珪藻類の胞子の培養液に多数の木片7を浸漬させる。その結果、海藻類や珪藻類の胞子が木片7の表面に付着する。ステップS12では、2枚の固定紙片6の両面にそれぞれ粘着性を有するフィルムを貼り付けるか、接着剤を噴霧又は塗布する。その後、これらの固定紙片6を左右側板12a,12aの片面にそれぞれ貼設する。そして、固定紙片6の上に木片7を載置する。これにより、左右側板12a,12aの片面に木片7が固定紙片6を介してそれぞれ接着される(図3(a)参照)。
【0033】
次に、ステップS14において、セメントに砂利や水とともに骨材8を加えた後、混錬して生コンクリート9を作る。一方、ステップS16では、左右側板12a,12a及び前後側板12b,12bを底板11a上に立設し、側板押さえ具13,13によって左右側板12a,12aをそれぞれ固定する。さらに、ブロック体2aに貫通孔5を形成するための円柱体(図示せず)を型枠10a内の3箇所に設置する。なお、円柱体の直径は貫通孔5と同一である。その後、ステップS18において、コンクリート打設用ホース14などを用いて、生コンクリート9を型枠10a内に打設する(図3(b)参照)。
【0034】
ステップS20では、型枠10a内の生コンクリート9が硬化する前に、多数の木片7を一部が露出するような状態で上面18aに埋設する(図3(c)参照)。その後、ステップS22において、型枠10aが設置された場所の温度や湿度をコンクリートの養生に適した条件となるように調節した状態で、生コンクリート9を硬化させる。そして、ステップS24では、側板押さえ具13,13とともに左右側板12a,12aを底板11aから外し、型枠10aをブロック体2aから脱離する。
【0035】
次に、複数のブロック体2aを、ステップS26において井桁状に組み上げる。具体的には、まず、地面15に載置された制作台16の上に3本のブロック体2aを1つの組として並行に載置する。さらに、この3本のブロック体2aの上に、3つの貫通孔5がいずれも上下に連通し,各組同士が直交するように、次の3本のブロック体2aを直角に交差させて積み重ねる。このようにして、各組が互い違いになるように、合計18本のブロック体2aを順次積み重ねる。このとき、最下部のブロック体2aの貫通孔5に挿通された棒状体3を、貫通孔5に挿通させるようにして他のブロック体2aを積み重ねる(図4(a)参照)。さらに、ステップS28において、棒状体3の両端にナット4を螺着する。これにより、すべてのブロック体2aが容易かつ強固に結束される。そして、上下を反転すると、図1(a)及び図1(b)に示した人工漁礁1aが完成する。
【0036】
このような人工漁礁の製造方法によれば、木片7に海藻類や珪藻類の胞子を付着させる作業が容易である。また、左右側板12aを底板11aに立設した後、生コンクリート9が硬化するまでの間、木片7が固定紙片6によって保持されるという作用を有する。さらに、生コンクリート9の硬化に伴い、木片7がブロック体2aの表面に対して略均一に埋設されるとともに、固定紙片6が木片7を覆うようにブロック体2aの側面に張設されるという作用を有する。さらに、ブロック体2aを組み上げる際、貫通孔5に棒状体3を挿通させることで上下のブロック体2aの位置ずれが修正されるため、ブロック体2a同士の位置合わせが容易である。従って、上記製造方法によれば、人工漁礁1aを安価に、かつ容易に製造することが可能である。
なお、木片7を固定する部材は、前述のような天然由来の繊維(パルプ)を原料として水中に浸漬された場合に経時的に解繊されるものの他、図3(a)乃至図3(c)で示されるとおり、左右側板12a,12aの片面に貼設可能及びその上に木片7を載置可能であって、左右側板12a,12aの片面に木片7が、それを介してそれぞれ接着でき、さらに、海水に浸漬されることで経時的に海水中へ溶解するようなものであれば、必ずしも固定紙片でなくともよい。例えば、合成樹脂を原料とする合成紙からなるシート片を固定紙片の代わりに用いることもできる。その際にも、その固定シート片の厚みや密度等を調整することで海水中への溶解時間を調整可能である。但し、海水中に溶解した際に、環境上問題のないようなものであることが望ましい。
【実施例2】
【0037】
本発明の実施の形態に係る人工漁礁の実施例2について図5乃至図7を参照しながら説明する(特に、請求項3及び請求項6に対応)。
なお、図5(a)は図1(c)に相当し、図5(b)は図2(b)に相当する。また、図6(b)及び図6(c)はそれぞれ図3(b)及び図3(c)に相当し、図7(c)は図4(b)に相当する。さらに、図7(b)は図7(a)に対して上下を反転させた状態を示している。そして、図5乃至図7において、図1乃至図4に示した構成要素について同一の符号を付すことにより、それらに関する説明を一部省略する。
【0038】
図5(a)に示すように、本実施例における人工漁礁1bは、実施例1の人工漁礁1aにおいてブロック体2aの代わりにブロック体2bを用いるものである。そして、ブロック体2bは、ブロック体2aにおいて長手方向に貫通孔17を有するとともに、凹状部20aが設けられた上面18aに海藻類や珪藻類の胞子を付着させた木片7が一部を露出した状態で埋設されるとともに、木片7を覆うように固定紙片6が上面18aに貼設された構造となっている。
【0039】
図6(a)及び図6(b)に示すように、ブロック体2bを製造する際に使用する型枠10bは実施例1の型枠10aにおいて、長手方向の全長にわたって凸状部21aが設けられた上板19を備えるとともに、底板11aの代わりに,長手方向の全長にわたって凸状部21bが設けられた底板11bを備えるものである。以下、本実施例の人工漁礁1bの製造方法について、図6及び図7を適宜参照しながら図5(b)を用いて説明する。なお、実施例1で図2(b)を用いて既に説明した工程については同一のステップ番号を付して、その説明を省略する。
【0040】
図5(b)に示すように、ステップS13では、上板19の凸状部21aに、ステップS12で使用した固定紙片6を貼設し、この固定紙片6の上に木片7を載置する。これにより、上板19の凸状部21a側の面に木片7が固定紙片6を介してそれぞれ接着される(図6(a)参照)。また、ステップS18では、ステップS16で左右側板12a,12a、前後側板12b,12b、底板11b及び側板押さえ具13,13を用いて組み立てた型枠10b(図6(b)参照)の内部に、ステップS14で作製した生コンクリート9を打設する。さらに、ステップS19において、上板19を型枠10bの上部に取り付ける(図6(c)参照)。その後、ステップS22のコンクリートの養生工程を経た後、ステップS24において、上板19、側板押さえ具13,13及び左右側板12a,12aを底板11bや前後側板12bから外し、型枠10bを脱離する。これにより、図7(a)に示すように、上面18a及び下面18bにそれぞれ凹状部20a,20bを有するとともに、上面18aに木片7が一部を露出した状態で埋設され、固定紙片6が木片7を覆うように貼設されたブロック体22aが得られる。なお、図5(b)において、ステップS13及びステップS19の工程を省略すると、下面18bのみに凹状部20bが形成されたブロック体22bが得られる。そして、上下を反転させたブロック体22b(図7(b)参照)の上にブロック体22aを積み重ねることにより、ブロック体2b(図5(a)参照)となる。なお、ブロック体2bにおいても、水中に長時間浸漬させることにより、固定紙片6が解繊して、海藻や珪藻などの胞子が付着された木片7が露出するという作用はブロック体2aの場合と同様に発揮される(図7(c)参照)。
【0041】
このような構造の人工漁礁1bにおいては、あるブロック体2bの上に他のブロック体2bを積み重ねた際に、凹状部20aが設けられた箇所では下側のブロック体2bの上面が上側のブロック体2bの下面に接触しないため、当該箇所の木片7が無駄にならない。従って、海藻や珪藻などの水生植物を着生させる領域として、下側のブロック体2bの上面を有効に利用することができる。また、貫通孔17は魚類の産卵場所や休息場所となるため、漁礁としての機能がより一層発揮される。そして、上記製造方法によれば、凹状部20aや貫通孔17が容易に形成される。従って、このようなブロック体2bを井桁状に組み上げ、棒状体3とナット4を用いて結束することによれば、人工漁礁1bを安価に、かつ容易に製造することが可能である。
【0042】
なお、本発明の人工漁礁の構成は、本実施例に示した場合に限定されるものではない。例えば、凸状部21a,21bは、必ずしも上板19や底板11bの全長にわたって設けられる必要はなく、凸状部21a,21bが上板19や底板11bの少なくとも一部に設けられた構造であっても良い。さらに、本実施例では貫通孔17の断面が6角形となっているが、これに限らず、6角形以外の多角形でも良く、また、円形であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の請求項1乃至請求項6に記載された発明は、海底に天然礁となるべき起伏が少なく、これまで漁場として適さなかった場所に、魚類を集めて、新たに漁場を形成する必要がある場合などに適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1a,1b…人工漁礁 2a,2b…ブロック体 3…棒状体 4…ナット 5…貫通孔 6…固定紙片 7…木片 8…骨材 9…生コンクリート 10a,10b…型枠 11a,11b…底板 12a…左右側板 12b…前後側板 13…側板押さえ具 14…コンクリート打設用ホース 15…地面 16…制作台 17…貫通孔 18a…上面 18b…下面 19…上板 20a,20b…凹状部 21a,21b…凸状部 22a,22b…ブロック体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰、鉱さい、スラグ、陶磁器屑、コンクリート屑、ガラス屑、炭材、煤塵及び鉄屑の少なくともいずれか1つからなる骨材にセメントを配合して成型されたブロック体と、
海藻類や珪藻類の胞子が表面に付着された木片と、
水中に浸漬されることで経時的に解繊又は溶解する固定シート片と、
を備え、
前記木片は、一部を露出した状態で前記ブロック体に埋設され、
前記固定シート片は、前記木片を覆うように前記ブロック体の表面に貼設されたことを特徴とする人工漁礁。
【請求項2】
複数の前記ブロック体が井桁状に組み上げられて一体的に結束されたことを特徴とする請求項1記載の人工漁礁。
【請求項3】
前記ブロック体は、少なくとも1つの側面に凹状部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の人工漁礁。
【請求項4】
海藻類や珪藻類の胞子の培養液に木片を浸漬させる工程と、
水中に浸漬されることで経時的に解繊又は溶解する固定シート片の両面に粘着性を付与する工程と、
底板と側板を備えて箱型状に形成される型枠において,前記側板の片面に前記固定シート片を貼設する工程と、
前記固定シート片上に前記木片を載置する工程と、
焼却灰、鉱さい、スラグ、陶磁器屑、コンクリート屑、ガラス屑、炭材、煤塵及び鉄屑の少なくともいずれか1つからなる骨材を砂利や水とともに加えて混練したセメントを前記型枠に打設する工程と、
このセメントを硬化させてブロック体を成型する養生工程と、
前記型枠を前記ブロック体から脱離する工程と、
を備えたことを特徴とする人工漁礁の製造方法。
【請求項5】
複数の前記ブロック体を井桁状に組み上げる工程と、
これらのブロック体に対して棒状体を上下方向に貫通させ,この棒状体の両端にナットを螺着する工程と、
を備えたことを特徴とする請求項4記載の人工漁礁の製造方法。
【請求項6】
前記底板の上面に凸状部が設けられたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の人工漁礁の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−210190(P2012−210190A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78329(P2011−78329)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【特許番号】特許第4914524号(P4914524)
【特許公報発行日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【出願人】(511083341)株式会社ファクト (1)
【Fターム(参考)】