説明

人工漁礁及びその設置方法

【課題】 石や貝殻等の充填物が存在しなくても藻を生育し魚の餌となる小生物の増殖を図ることが可能な製作が容易で安価な人工漁礁及びその設置方法を提供する。
【解決手段】 海底11に連結されて沈設されている中空構造体13の天井部に形成された開口14に網状部材15が取付けられ、中空構造体13の側部に形成された開口18は魚類通路となって、しかも、中空構造体13の内部を魚類遊泳空間22とし、網状部材15は鉄筋24及びプラスチック棒のいずれかを格子状に並べて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、水深の浅い所に設置して藻を付着させることが可能な人工漁礁及びその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金網製の籠体等のケーシング内に充填物、例えば、石や貝殻を収納した人工漁礁が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような人工漁礁では、石や貝殻を基質(藻類が付着する部分)として藻を生育させ、生育した藻の周囲に、例えば、甲殻類等の魚の餌になる小生物を生息させ、この小生物を魚に索餌させることにより集魚を図っている。また、生育した藻は、魚にとっては隠れ場としても利用できるので、更に集魚作用が向上するようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−101785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された人工漁礁では、石や貝殻は形状や大きさが不規則であるため、ケーシング内に石や貝殻を詰め込むのに多くの人手を要していた。また、石や貝殻が海中に散逸しないように、石や貝殻の形状や大きさに応じてケーシングに加工を施す必要が生じていた。このため、人工漁礁の製作期間が長くなり製造コストが高くなるという問題があった。
更には、従来の人工漁礁においては、内部に空間が少ないので多量の魚類が人工漁礁の内部で遊泳することができないという問題があった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、石や貝殻等の充填物が存在せず、内部に広い空間を有し、魚の餌となる小生物や藻の発生を促進することが可能な安価な人工漁礁及びその設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る人工漁礁は、天井部及び側部には開口を有する中空構造体の前記天井部に形成された開口に網状部材が(例えば、実質水平状態で)取付けられ、前記中空構造体の側部に形成された開口は魚類通路となって、しかも、前記中空構造体の内部を魚類遊泳空間としている。
中空構造体の内部を魚類遊泳空間とし、天井部の開口に網状部材を取付けるだけの構造なので、人工漁礁の製作を短期間で容易に行うことができる。また、中空構造体の内部を魚類遊泳空間とすることで人工漁礁の内部の通水性を良好にすることができる。
【0007】
ここで、第1の発明に係る人工漁礁において、複数の前記中空構造体が連結されて海底に沈設されている場合や、複数の前記中空構造体が積層されて形成されている場合も本発明は適用可能である。
そして、前記網状部材は、鉄筋及びプラスチック棒のいずれかを格子状に並べて形成するのがよく、この場合、前記網状部材の素材ピッチは70〜250mmとするのが好ましい。なお、ここで、格子状とは複数の鉄筋(丸鋼や異形棒鋼を含む)等を平行に配置する場合と、交差して配置する場合がある。また、鉄筋を素材として用いる場合には、腐れ代(錆び代)を考慮してその直径を選定する。
【0008】
また、前記目的に沿う第2の発明に係る人工漁礁の設置方法は、天井部に形成された開口に網状部材が取付けられ、内部に魚類遊泳空間が形成される中空構造体を用いる人工漁礁の設置方法であって、前記中空構造体を、前記天井部を上にして藻場が自然形成される有光水深範囲に設置する。
これによって、網状部材に太陽光が当たり藻の発生が促進され、網状部材の全面に藻を均一に付着させ育成することができる。このため、魚の餌となる小生物を多数増殖することができると共に、着生した藻により太陽光が適度に遮られ魚類遊泳空間を適度に暗い状態にすることができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜5記載の人工漁礁においては、人工漁礁の構造が非常に簡単で、しかも製作が容易なので、人工漁礁を安価に短期間で製造することが可能になる。そして、人工漁礁の内部は魚類遊泳空間となって側部の開口は魚類通路となっているので、内部を小型の魚だけでなく中型、大型の魚も遊泳することができ、これによって、魚類の恰好の住処を形成することが可能になる。
【0010】
特に、請求項2記載の人工漁礁においては、複数の中空構造体が連結されて海底に沈設されているので、陸上での製造や搬送に便利な比較的小型又は中型の中空構造体で大型の人工漁礁を形成することができる。
【0011】
また、請求項3記載の人工漁礁においては、複数の中空構造体が積層されて形成されているので、人工漁礁の高さを上げることができ、比較的深い海であっても、太陽光の届く人工漁礁を設置することができる。
【0012】
請求項4記載の人工漁礁においては、網状部材は、鉄筋及びプラスチック棒のいずれかを格子状に並べて形成しているので、製造が容易かつ安価となる。
【0013】
請求項5記載の人工漁礁においては、網状部材の素材ピッチは70〜250mmであるので、小魚が適当に通過でき、しかも、藻が生い茂っても網状部材の開口部が藻で塞がり難いという利点がある。
【0014】
そして、請求項6記載の人工漁礁の設置方法においては、中空構造体を、天井部を上にして藻場が自然形成される有光水深範囲に設置しているので、網状部材に太陽光が当たって藻が生え、これによって小動物や小魚が集まる。
また、中空構造体が魚の隠れ場を提供できると共に、多くの酸素の供給を行うことができ好適な産卵場を提供することが可能になる。その結果、魚の増産を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の第1の実施の形態に係る人工漁礁の斜視図、図2は同人工漁礁を海底に設置した際の説明図、図3(A)、(B)はそれぞれ同人工漁礁を形成する中空構造体に網状部材を取付けた際の平面図及び側面図、図4は本発明の第2の実施の形態に係る人工漁礁の側面図である。
【0016】
図1、図2に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る人工漁礁10は、海底11に連結されて沈設された複数(本実施の形態では6個)の中空構造体13と、中空構造体13の天井部に形成された開口14に取付けられた網状部材15とを有している。以下これらについて、詳細に説明する。
【0017】
図3(A)、(B)に示すように、中空構造体13は、例えば、実質的に同一サイズの6枚のコンクリート板16を、隣り合うコンクリート板16の間の内側角度が実質的に120°になるように組み合わせて側部が構成された断面が正六角形となる筒状体である。ここで、中空構造体13の側部となる各コンクリート板16の中央部には、隅部に隅取り部17が設けられ魚類通路となる矩形状の開口18が形成されている。そして、図1、図2に示すように、各中空構造体13の側部同士を当接させながら中空構造体13を環状に並べ、コンクリート板16に予め形成しておいた掛止部19に連結金具20を取付けて中空構造体13同士を連結することにより人工漁礁10が形成されている。ここで、中空構造体の形状は、断面が正六角形に限定されることはなく、任意の形状とすることができる、ただし、人工漁礁の組立を容易にするには、断面を正三角形、正方形、又は長方形とすることが好ましい。
【0018】
このような構成とすることにより、各中空構造体13の内側に魚類遊泳空間22を形成することができる。また、各中空構造体13の上端部、すなわち天井部には正六角形状の開口14を形成することができる。そして、中空構造体13を海底11に沈設した際、各中空構造体13の外側に面した開口18を介して魚類遊泳空間22は海中と連通するので、魚類遊泳空間22内を海流が通過すると共に、魚は魚類遊泳空間22と海中との間を自由に行き来することができる。なお、天井部は通常実質水平であるが、水平に対して15度、更に場合によって30度以内の範囲で傾いている場合もある。
【0019】
網状部材15は、例えば、鉄で形成された矩形状の枠部23と、枠部23の内側に、例えば、鉄筋24を格子状に交差させて配置することにより形成される網部25を有している。なお、鉄筋を枠部の内側に平行に配置して網部を形成してもよい。
そして、枠部23の対向する短辺をそれぞれ各中空構造体13の正六角形状の開口14の対向する一対の辺の内側に嵌入させることにより、網状部材15が中空構造体13に取付けられている。なお、鉄筋24としては、表面に凹凸のある異形棒鋼を使用するのがよい。表面に凹凸が存在することにより藻が付着し易くなると共に、定着し易くもなる。
【0020】
ここで、鉄筋24の径は、例えば、12mm〜30mmであり、鉄筋24のピッチは、70〜250mmである。鉄筋24の間隔が70mm未満では、鉄筋24に付着した藻が密生状態で生育するため、藻の成長が抑制されて好ましくない。一方、鉄筋24のピッチが250mmを超えると生育する藻の総数が少なくなって、魚の餌となる小生物の増殖作用が鈍くなって好ましくない。
なお、網状部材15が設置される水深が浅い場合(例えば、藻場が自然形成される5〜30mの水深)は、海中の酸素濃度が高いため鉄筋24が錆び易く、網部25の寿命を一定期間確保するためには、鉄筋24の径を大きくする必要がある。一方、網状部材15が設置される水深が深い場合は、海中の酸素濃度が低くなるため鉄筋24が錆び難く、鉄筋24の径を小さくできる。
【0021】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る人工漁礁10の設置方法について説明する。
先ず、人工漁礁10を設置する場所を選定し、その場所の地形、広さ、及び海流の状態を調査する。ここで、選定場所の海底11が、海面26から差し込んだ太陽光の減少が少なく藻の生育に必要な光量が得られる有光水深H(海水の汚濁状況により変化するが漁場となる海域では、例えば、水深5〜30m)の範囲内に存在する場合、図1、図2に示すように、海底11に直接複数の中空構造体13を並べて配置することができる。そして、調査結果に基づいて、中空構造体13と網状部材15の大きさを決定し製作を行う。なお、有光水深Hの範囲では、海中の酸素濃度が高いため鉄筋24が錆び易い。このため、網部25の寿命を一定期間確保するためには、鉄筋24の径を、例えば、16mm以上にする必要がある。
【0022】
中空構造体13と網状部材15の製作が完了すると、中空構造体13の側部同士を当接させながら中空構造体13を天井部を上にして環状に並べ、コンクリート板16に形成した掛止部19に連結金具20を取付けて中空構造体13同士を連結する。次いで、各中空構造体13の天井部の開口14に網状部材15を取付ける。これによって、人工漁礁10の製作が完了する。そして、作製した人工漁礁10を、船に積載して設置場所まで運び、例えば、クレーンを用いて海中に吊り下げ海底11に沈設する。
【0023】
海底11に沈設された人工漁礁10では、各中空構造体13の魚類遊泳空間22内を外側に面した開口18を介して海流が自由に通過できるので、網状部材15の網部25には次第に藻が付着してくる。また、網状部材15には藻の生育に必要な太陽光が届くため、網部25に付着した藻は徐々に成長し、人工漁礁10の上部には藻場が形成されるようになる。そして、藻場の形成に伴って、魚の餌となる小生物が藻場で増殖し、小生物を餌にする魚類が集まってくるようになり、人工漁礁10を用いて新たな漁礁が形成されるようになる。
【0024】
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る人工漁礁29は、藻の生育に必要な光量が得られない水深の海底30に沈設されるもので、海底30に櫓構造体31を設置し、その上に人工漁礁10(第1の実施の形態)を載置した構造となっている。ここで、人工漁礁10の中空構造体13の天井部に形成された開口14の水深は、海面26から藻の生育に必要な光量が得られる有光水深Hの範囲に調整されている。また、櫓構造体31は、例えば、複数のコンクリート柱33を連結して形成され海底30に隙間を設けて立設された複数の脚部34と、脚部34で支持される、例えば、コンクリート製の台座部35を備えている。そして、隣り合う脚部34の間には、例えば、鉄製の連結部材36が設けられている。
【0025】
このような構成とすることにより、各中空構造体13の魚類遊泳空間22内を、中空構造体13の外側に面した開口18を介して海流が自由に通過でき、網状部材15の網部25には次第に藻が付着してくる。また、網状部材15には藻の生育に必要な太陽光が届くため、網部25に付着した藻は徐々に成長し、中空構造体13の上部には藻場が形成されるようになる。そして、藻場の形成に伴って、魚の餌となる小生物が藻場で増殖し、小生物を餌にする魚類が集まってくるようになる。一方、櫓構造体31には、中空構造体13の魚類遊泳空間22に集まった小型の魚類を餌とする大型の魚類が集まるようになる。その結果、従来は魚が集まらない場所に人工漁礁29を設けることにより、新たに漁礁を形成することができる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の人工漁礁及びその設置方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、網状部材の素材として丸鋼や異形棒鋼を含む鉄筋の代りにプラスチック棒を使用してもよい。更に、プラスチック棒の表面に凹凸を形成してもよい。なお、プラスチック棒には海水による腐食が生じないので、取り扱いが容易な範囲でプラスチック棒の径を小さくすることができる。
中空構造体を6枚のコンクリート板を組み合わせて形成したが、例えば、中空構造体用の型枠に網状部材をセットしてコンクリートを流し込んで一体的に製造することもできる。また、中空構造体をコンクリート製としたが、鉄で形成することもできる。更に、コンクリートとプラスチック、あるいは鉄とプラスチックを組み合わせて中空構造体を作製してもよい。また、人工漁礁を作製する際、中空構造体を全て同一の形状としたが、寸法の異なる中空構造体を用い人工漁礁を作製するようにしてもよい。
【0027】
前記実施の形態では、中空構造体を有光水深範囲に設置する場合について説明したが、太陽光の届かない(水深が30mを超える)深い水深の海底に設置する場合も当然本発明が適用される。この場合は、網状部材に甲殻類等の魚の餌になる小動物が付着し、これを求めて魚類が集まるようになって、漁礁を形成することができる。
また、櫓構造体を構成する脚部及び台座部をコンクリート製としたが、脚部及び台座部を鉄製としても、あるいは鉄とコンクリートを組み合わせて形成してもよいし、櫓構造体の内部に複数の孔を備えた仕切り部材を取付けて、その内部を多段に分割するようにしてもよい。更に、櫓構造体を設ける代りに、単に中空構造体を積層させて、最上段の中空構造体の天井部の開口が有光水深範囲に位置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る人工漁礁の斜視図である。
【図2】同人工漁礁を海底に設置した際の説明図である。
【図3】(A)、(B)はそれぞれ同人工漁礁を形成する中空構造体に網状部材を取付けた際の平面図及び側面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る人工漁礁の側面図である。
【符号の説明】
【0029】
10:人工漁礁、11:海底、13:中空構造体、14:開口、15:網状部材、16:コンクリート板、17:隅取り部、18:開口、19:掛止部、20:連結金具、22:魚類遊泳空間、23:枠部、24:鉄筋、25:網部、26:海面、29:人工漁礁、30:海底、31:櫓構造体、33:コンクリート柱、34:脚部、35:台座部、36:連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井部及び側部には開口を有する中空構造体の前記天井部に形成された開口に網状部材が取付けられ、前記中空構造体の側部に形成された開口は魚類通路となって、しかも、前記中空構造体の内部を魚類遊泳空間としていることを特徴とする人工漁礁。
【請求項2】
請求項1記載の人工漁礁において、複数の前記中空構造体が連結されて海底に沈設されていることを特徴とする人工漁礁。
【請求項3】
請求項1記載の人工漁礁において、複数の前記中空構造体が積層されて形成されていることを特徴とする人工漁礁。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の人工漁礁において、前記網状部材は、鉄筋及びプラスチック棒のいずれかを格子状に並べて形成したことを特徴とする人工漁礁。
【請求項5】
請求項4記載の人工漁礁において、前記網状部材の素材ピッチは70〜250mmであることを特徴とする人工漁礁。
【請求項6】
天井部に形成された開口に網状部材が取付けられ、内部に魚類遊泳空間が形成される中空構造体を用いる人工漁礁の設置方法であって、
前記中空構造体を、前記天井部を上にして藻場が自然形成される有光水深範囲に設置することを特徴とする人工漁礁の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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