説明

人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法

【課題】人工炭酸泉や炭酸飲料水を製造する際に、二酸化炭素の外に、水素を溶解させて、人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法を提供する。
【解決手段】炭酸泉で温泉法の基準250ppm以上、もしくは療養泉の基準1000
ppm以上の二酸化炭素を溶解させた人工炭酸泉、または微炭酸水を含めた二酸化炭素を溶解させた炭酸飲料水の製造工程中において、前記二酸化炭素の外に、水素を溶解させて、前記人工炭酸泉、または炭酸飲料水を、ORP(標準水素電極基準の酸化還元電位で、単位はV)が、通常大気環境下で平衡となる25℃基準で、ORP=0.84−0.047pH未満の還元系の電位を有する水素含有還元系の炭酸水とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工炭酸泉や炭酸飲料水を製造する際に、二酸化炭素の外に、水素を溶解させて人工炭酸泉、または炭酸飲料水や温水を製造し、該人工炭酸泉、または炭酸飲料水を健康や美容のために役立てるようにした人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を高濃度で溶解させた人工炭酸泉や炭酸飲料水はよく知られており、また水素を溶解した電解水や圧力をかけて水に水素を溶解した水素水についても知られてきている。しかしながら、二酸化炭素に加えて水素を共に溶解させた還元系の水は、これまで存在せず、当然、実用化もされておらず、またその有効性についても明らかにされてこなかった。そして、二酸化炭素に加えて、水素を共に溶解させた人工炭酸泉や炭酸飲料水について、過去の特許文献を遡及検索しても1件もその存在を認めることはできず、単に下記特許文献に示す「人工炭酸泉の調整方法」が公知である。
【0003】
【特許文献1】特開2006−22021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温泉で効果・効能が生理学的、医学的に明らかになっている泉質は非常に少ない。その数少ない中でも、炭酸泉は末梢血流量が増加することから、特にドイツでは「心臓の湯」とも呼ばれ、末梢血管障害、高血圧、心臓病などの循環器系治療に適用されてきている。
【0005】
一方、日本では炭酸泉が非常に少なく、逆に高濃度で二酸化炭素を溶解させた人工炭酸泉が注目を浴びてきており、本格的な医療面だけでなく、女性に多い冷え性や年齢と共に血流が落ちる高齢者にも、また糖尿病関係やリュウマチなどの痛みの緩和などにも有効性が指摘され、非常に期待が持たれている。
【0006】
しかしながら、人工炭酸泉を製造する際に用いられる水は、一般的に水道水を使用する場合が多く、そのため水道水に含まれる殺菌用の塩素により、人工炭酸泉は酸化系となっている。
【0007】
一方、本発明者は、本発明者の発明に係る特許第3632839号において、温泉水の本質的特徴は還元系にあり、生体の皮膚も弱酸性にあるだけでなく還元系で、加齢にともない酸化されて行くことから、塩素を含む酸化系の水は皮膚の酸化を促進し、老化の促進につながることを明らかにしてきたが、更に、加齢により皮膚の脂質が酸化されて、加齢臭物質(2−ノネナール)が生成されることから、加齢臭の促進にもつながることになることも判った。
【0008】
また、本発明者は、還元系は温泉や皮膚だけでなく、図1に示すように、羊水や血液などの体液を含めた生体関連の水(生体水)や、生体を維持するために日々摂取している畜産肉類・魚介類・果実・野菜類等の食品類はすべて還元系であることを明らかにした(Okouchi,“Water desirable for
the human body in terms of Oxidation-Reduction Potential (ORP) to pH
relationship”, J. Food Sci., 67, 1594-1598(2002))。ここで、図1の上下の実線は(1)および(2)式に示す水の酸化および還元分解する境界線をそれぞれ表し、それ故通常の大気環境下にある水は上下の実線で囲まれた領域内に存在することになる。
【0009】
【表1】

【0010】
更に、本発明者は前記特許第3632839号において、図1の破線で示す水の酸化系と還元系を分ける平衡ORP線((3)式)を提案してきた。これにより、pH7を基準として水が酸性とアルカリ性に分類できるように、水を酸化系と還元系の水に分類できることになった。
【0011】
【表2】

【0012】
すなわち、(3)式の平衡ORP値より大きい場合を酸化系、小さい場合を還元系、線上は平衡系を意味する。
【0013】
一方、酸化系のものとして、図1に示すように水道水がある。これは殺菌のため加えられている塩素のためであり、塩素が除去されれば平衡系となる。また、国内外を含めて市販ミネラル水は平衡系にある。
【0014】
ここで、生体にかかわるものが還元系の理由としては、従来酸素がない嫌気的還元系環境で誕生した生命が、その後の光合成生物により生産された酸素によって、好気的酸化環境へと推移してきた地球環境の歴史的変化に関与していると推測されている。その変化の過程で、人類をはじめとした様々な生物が、酸素や活性酸素による酸化ストレスに対抗するため、体内に還元系を維持、あるいは獲得してきた結果と考えられる。それ故、生体にとって、還元系は非常に大きな意味を有すると考えられる。
【0015】
具体的には、新鮮な還元系の温泉水に継続的に浴用することは、皮膚の酸化を抑制し、老化抑制につながること、更には加齢臭の抑制に期待できることを、本発明者はこれまでに温泉の新たな効能として提案(大河内ら、「温泉水および皮膚のORP(酸化還元電位)とpHの関係」,温泉科学,49,59-64(1999))してきた。
【0016】
実際的に、本発明者の発明に係る前記特許第3632839号を用いて、人工的に還元系の浴槽水を、水の電解を利用して製造し、その浴槽水に2ヶ月間継続的に浴用させた結果、皮膚の弾力性が向上するという実験結果(図2)が得られた。
【0017】
また、その浴槽水は脂質の酸化も抑制した。皮膚の弾力性は加齢に伴い減少して行くことから、弾力性の回復あるいは向上、更には脂質の酸化抑制はアンチエージング効果をもたらすことになる。
【0018】
前記した各効果は、電解により生成された水素の抗酸化能と、ビタミンCやビタミンEなどの分子の比較的大きい抗酸化物質との比較で、水素が最小の分子のため、皮膚を含めた生体への素早い拡散性による効果と考えられる。
【0019】
本発明者は、図3に示す水を透過させないナイロン・ポリエチレン製膜の内側に精製水を入れ、その外側に還元系の代表となるビタミンC(アスコルビン酸)水溶液、あるいは前記特許第3632839号を用いて、人工的に製造した還元系の水で満たし、内側の精製水のORPの変化を観察した。
【0020】
その結果、図4に示すように、ビタミンCでは、ORPが(3)式で示す平衡ORP線上にある精製水のORPの変化は、時間経過しても観察されず、平衡ORP線上のままにあった。すなわち、還元系ではあるが、ビタミンCは膜を透過しないことが明らかである。そのため、還元系のビタミンCを皮膚に浸透させるために、ビタミンCの誘導体の合成や、電気的に皮膚に強制的に浸透させる工夫がされてきている。
【0021】
一方、図5に示す還元系の水では、水素の膜透過により精製水のORPは時間経過に伴い低下し、水素が膜を浸透する結果を示した。それ故、水素に基づいた還元系の水を浴用として使用したり、我々の尿も加齢にともない酸化されて行くことから、還元系の水を飲用として使用することは、生体にとって外側の皮膚と内側の胃などからの水素の吸収による還元系に基づくアンチエージング効果に、非常に有効と思われる。実際、ヨーロッパでは、発明者が実際測定し、図6に示すように還元系の二酸化炭素を含む新鮮な温泉水を、医者の処方に従い飲泉が行なわれている。
【0022】
そこで、血流量を増加させる人工炭酸泉、あるいは炭酸飲料水を含む炭酸水に、水素に基づいた還元系を組み合わせることで、より優れたアンチエージング効果を有する水が得られることが期待できる。
【0023】
本発明は、前記観点より発明をなしたもので、人工炭酸泉や炭酸飲料水を製造する際に、二酸化炭素の外に、水素を溶解させて還元系の水素含有炭酸水として浴用や飲料として使用することにより、健康や美容のために優れた効果を発揮する人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法を提供するというものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、前記課題を解決する手段として、請求項1記載の発明において、炭酸泉で温泉法の基準250ppm以上、もしくは療養泉の基準1000ppm以上の二酸化炭素を溶解させた人工炭酸泉、または微炭酸水を含めた二酸化炭素を溶解させた炭酸飲料水の製造工程中において、前記二酸化炭素の外に、水素を溶解させて、前記人工炭酸泉、または炭酸飲料水を、ORP(標準水素電極基準の酸化還元電位で、単位はV)が、通常大気環境下で平衡となる25℃基準で、ORP=0.84−0.047pH未満の還元系の電位を有するようにしたことを特徴とする人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法が提供され、
また、請求項2記載の発明において、人工炭酸泉、または微炭酸水を含めた二酸化炭素を溶解させた炭酸飲料水の製造工程中において、爆発限界以下の水素含有炭酸ガスボンベを用い、そのボンベ圧を利用して、水素および二酸化炭素を水に溶解させる方法を用いることを特徴とする請求項1記載の人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法が提供され、
更に、請求項3記載の発明において、人工炭酸泉、または微炭酸水を含めた二酸化炭素を溶解させた炭酸飲料水の製造工程中において、都市ガスを含む炭化水素の燃料改質で生成される水素と二酸化炭素を利用して、該水素と二酸化炭素を溶解させる方法を用いることを特徴とする請求項1記載の人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明方法によって得られた還元系の水素含有炭酸水は、弱酸性から弱アルカリ性で還元系の生体水に類似した水であり、人工温泉として使用すれば、二酸化炭素による皮膚血流量の増加などの炭酸泉としての従来の効果に加えて、水素による還元系の抗酸化力をもたらし、皮膚の酸化抑制および老化抑制につながり、また飲水用に用いれば従来の炭酸飲料水の特性に加え、水素の抗酸化力による活性酸素の消去が期待できるアンチエージング効果を有する健康および美容効果を有する水として有効となる。
【発明の実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、炭酸泉で温泉法の基準250 ppm以上、もしくは療養泉の基準1000
ppm以上の二酸化炭素を溶解させた人工炭酸泉、または微炭酸水を含めた二酸化炭素を溶解させた炭酸飲料水の製造工程中において、前記二酸化炭素の外に、水素を溶解させて、前記人工炭酸泉、または炭酸飲料水をORP(標準水素電極基準の酸化還元電位で、単位はV)が、通常大気環境下で平衡となる25℃基準で、ORP=0.84−0.047pH未満の還元系の電位を有するようにしたことを特徴とする人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法である。
【0027】
人工炭酸泉や炭酸飲料水を含む水素含有炭酸水を製造する方法としては、人工炭酸泉装置では、炭酸ガスボンベのボンベ圧を利用して中空糸膜を介して二酸化炭素を水に溶解する方法(図7)、あるいは加圧溶解式のマイクロバブル、またはナノバブル製造装置(図8)を用いて、空気の代わりに炭酸ガスボンベからの二酸化炭素を水に溶解する方法、更には炭酸飲料水を含めた炭酸水の製造工程で圧力をかけて二酸化炭素を溶解する方法が知られており、これらの方法で使用する二酸化炭素に加えて、水素を合わせて溶解させることにある。
【0028】
より具体的には、前記マイクロバブル、またはナノバブル製造装置で使用する炭酸ガスボンベの代わりに、爆発限界以下の水素含有炭酸ガスボンベを使用して、水や温水にそれらのガスを溶解させることで、ORP(標準水素電極基準の酸化還元電位で、単位はV)が、通常大気環境下で平衡となる25℃基準で、ORP=0.84−0.047pH満の還元系の電位を有する水素含有人工炭酸水の製造が可能となる。
【0029】
また更に、図9に示す都市ガスを含むメタンガスなど炭化水素の燃料改質で生成される二酸化炭素と水素を利用して、それらを水または温水に溶解することで、ORP(標準水素電極基準の酸化還元電位で、単位はV)が、通常大気環境下で平衡となる25℃基準で、ORP=0.84−0.047pH未満の還元系の電位を有する水素含有人工炭酸水の製造が可能となる。
【実施例1】
【0030】
200リットル、40℃の浴槽(水道水)に、炭酸ガスボンベ圧を利用し、中空糸膜を介して二酸化炭素を水に溶解させる人工炭酸泉装置(図7)と、空気の微細気泡を生成させるための空気導入部から、空気の代わりに炭酸ガスボンベからの二酸化炭素を導入させた加圧溶解式のマイクロバブル発生装置(図8)を用い、浴槽水に二酸化炭素を溶解させたときの、二酸化炭素濃度と時間の関係を、図10に示した。流量は10リットル/分の流速で浴槽水を循環処理した。いずれも、個人差および年齢にかかわらず、皮膚血流量が上昇するとされている二酸化炭素濃度700ppmを越え、温泉法の療養泉の基準1000
ppmに達した。しかしながら、図11に示すように水道水を沸かしただけの浴槽水では、殺菌用に含まれている塩素により、浴槽水は酸化系となっており、二酸化炭素を溶解させるに従い、pHは徐々に弱酸性側にシフトするものの、浴槽水は酸化系のままであった。
【0031】
そこで、炭酸ガスボンベに爆発限界以下の濃度の4%の水素を混合した炭酸ガスボンベに代えて、前記と同様の実験を行った。その結果、浴槽水は前記いずれの装置でも、二酸化炭素濃度は1000ppmに達すると同時に、ORPは図12に示すように通常大気環境下で平衡となる25℃基準で、ORP=0.84−0.047pH未満の還元系の電位を有する水素含有人工炭酸水が製造できた。
【実施例2】
【0032】
従来のビールを含む炭酸飲料水に溶解させる二酸化炭素に代えて、爆発限界以下の水素濃度を含む炭酸ガスボンベを用いることで、水素含有炭酸飲料水の製造が可能となった。特に、生ビールでは、炭酸ガスボンベからの二酸化炭素を、サーバーを通じてビールジョッキなどに注ぐが、従来の炭酸ガスボンベに爆発限界以下の濃度4%の水素を混合した炭酸ガスボンベを使用することにより、水素含有の生ビールが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】生体関連の水(生体水)および各種飲料、食品類のORP-pH関係を示す図である。
【図2】人工的に製造した還元水による継続的な浴用による皮膚の弾力性の向上を示す図である。
【図3】還元水およびビタミンC(アスコルビン酸)水溶液の還元性物質の膜透過実験図である。
【図4】ビタミンC(アスコルビン酸)の膜透過に及ぼす精製水のORP-pH関係を示す図である。
【図5】電解還元水の膜透過に及ぼす精製水のORP−pH関係を示す図である。
【図6】ヨーロッパの温泉水(飲泉)のORP-pH関係図である。
【図7】中空糸膜式人工炭酸泉製造装置の説明図である。
【図8】加圧溶解式のマイクロバブル発生装置の説明図である。
【図9】コジェネレーションシステムにおける人工炭酸泉の応用例を示す図である。
【図10】中空糸膜式および加圧溶解式マイクロバブル発生装置を用いた浴槽中の二酸化炭素濃度の経時変化を示す図である。
【図11】二酸化炭素を溶解させた人工炭酸泉におけるORP−pH関係図である。
【図12】4%水素を含む炭酸ガスボンベを用いた際の中空糸膜式および加圧式マイクロバブル装置での人工炭酸泉のORP-pH関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸泉で温泉法の基準250ppm以上、もしくは療養泉の基準1000
ppm以上の二酸化炭素を溶解させた人工炭酸泉、または微炭酸水を含めた二酸化炭素を溶解させた炭酸飲料水の製造工程中において、前記二酸化炭素の外に、水素を溶解させて、前記人工炭酸泉、または炭酸飲料水を、ORP(標準水素電極基準の酸化還元電位で、単位はV)が、通常大気環境下で平衡となる25℃基準で、ORP=0.84−0.047pH未満の還元系の電位を有するようにしたことを特徴とする人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法。
【請求項2】
人工炭酸泉、または微炭酸水を含めた二酸化炭素を溶解させた炭酸飲料水の製造工程中において、爆発限界以下の水素含有炭酸ガスボンベを用い、そのボンベ圧を利用して、水素および二酸化炭素を水に溶解させる方法を用いることを特徴とする請求項1記載の人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法。
【請求項3】
人工炭酸泉、または微炭酸水を含めた二酸化炭素を溶解させた炭酸飲料水の製造工程中において、都市ガスを含む炭化水素の燃料改質で生成される水素と二酸化炭素を利用して、該水素と二酸化炭素を溶解させる方法を用いることを特徴とする請求項1記載の人工炭酸泉、または炭酸飲料水を水素含有還元系の炭酸水とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−202113(P2009−202113A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47871(P2008−47871)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(500101298)有限会社 アクアサイエンス (5)
【Fターム(参考)】