説明

人工皮革基体の製造方法

【課題】繊度0.01〜0.5dtex、カット長2〜6mmの超極細繊維(A)と編地基布(B)とが交絡一体化された横段模様のない高品位な人工皮革基体の製造方法を提供する。
【解決手段】繊度0.01〜0.5dtex、カット長2〜6mmである繊維(A)を編地基布(B)に交絡一体化させる人工皮革基体の製造方法である。その製造方法は、繊維(A)を抄造しながら移送される上に載置する工程I 、編地基布(B)の移送方向に対して直角方向に振動する1列のノズル孔を備えた第1高圧液体噴射ノズル(1)を用いて、シート上に描かれるサインカーブ軌跡の周期を20〜100mm、噴射圧力0.5〜6MPaをもって、高圧液流をシートに向けて噴出させ、これを1〜8回処理する工程II、及び、シート搬送方向に対して直角方向に振動する3列のノズル孔を備えた第2高圧液体噴射ノズル(2)を用い、シート上に描かれるサインカーブ軌跡の周期10〜20mm、圧力4〜12MPaとして、1列目、2列目、3列目が描くノズル軌跡の位相差を各々120°をもって高圧液流を噴出して、これを1〜3回処理する工程III とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊度が0.01dtex〜0.5dtexの繊維と編地基布とを交絡一体化する人工皮革基体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工皮革は超極細繊維からなる不織布と高分子弾性体から構成されており、起毛、研削、染色をして最終製品になる。この中で人工皮革の基体に用いる不織布は最終製品の風合い、外観を決める重要なファクターとなる。
【0003】
人工皮革基体である不織布の製造方法の一つに、織編地基布上へ繊度が均一な超極細繊維からなる抄造ウエッブを形成し、ウォータージェットパンチングにより交絡一体化する方法がある。例えば、特開昭54−112285号公報(特許文献1 )によれば、超極細繊維と織編地基布とをウォータージェットパンチングする場合、N列(N:2以上の整数)のノズル孔を備えた高圧液体噴霧ノズルをシート状物の進行方向に対して直角方向に振動させながら高圧液体流噴出させて液体処理を行う技術が開示されている。N列のノズル孔を備えた高圧液体噴霧ノズルにシート搬送方向に対して直角方向に振動を与えると、N本のサインカーブ軌跡が重なり、N本の軌跡の位相差が2π/Nに制御することで均質な軌跡パターンを形成できるが、位相差を制御せずに、これらの処理を多重に繰り返し、ノズル軌跡を多重に重ね合わせると重なり部分が周期的な横段模様となる。
【特許文献1】特開昭54−112285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、外観がより緻密な人工皮革が求められており、人工皮革基体に用いる不織布の緻密化が行われている。使用する超極細繊維の細繊度化、及び、緻密な不織布が形成できるウォータージェットパンチングを用い、さらには、圧力を高くすることが行われるが、こうした不織布の緻密化を行うと、ウォータージェットパンチングの軌跡の重なりに起因する周期的な横段模様が製品表面に残る現象が生じる。この横段模様が除去されない場合、製品品位が著しく低いものとみなされ、高級感が失われてしまう。
【0005】
本発明の目的は、繊度0.01〜0.5dtex、カット長2〜6mmの超極細繊維(A)と編地基布(B)とが交絡一体化された横段模様のない高品位な人工皮革基体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊度0.01〜0.5dtex、カット長2〜6mmである繊維(A)と編地基布(B)とを交絡一体化させる人工皮革基体の製造方法において、繊維(A)を抄造しながら移送される編地基布(B)上に載置する工程I と、編地基布(B)の移送方向に対して直角方向に振動する1列のノズル孔を備えた第1高圧液体噴射ノズル(1)を用いて、シート上に描かれるサインカーブ軌跡の周期を20〜100mm、噴射圧力0.5〜6MPaをもって、高圧液流をシートに向けて噴出し、これを1〜8回処理する工程IIと、シート搬送方向に対して直角方向に振動する3列のノズル孔を備えた第2高圧液体噴射ノズル(2)を用い、シート上に描かれるサインカーブ軌跡の周期10〜20mm、圧力4〜12MPaとして、1列目、2列目、3列目が描くノズル軌跡の位相差を各々120°をもって高圧液流を噴出し、これを1〜3回処理する工程III とを含んでなる繊維(A)と編地基布(B)を交絡一体化させる人工皮革基体の製造方法を主要な構成としている。
【0007】
また、好ましい態様によれば、上記第1高圧液体噴射ノズルを2つ組み合わせて2列構成とした噴射ノズルを単一の振動装置をもって各噴射ノズルが位相差180°をもつように振動させ、シート上に位相差180°のサインカーブ軌跡を重ねてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の人工皮革基体の製造方法について説明する。
本発明の人工皮革基体には繊度0.01dtex〜0.5dtexの繊維(A)を用いる。繊維(A)は直接紡糸法により得られた繊維径、カット長が揃ったものが好ましく、繊維間は融着することなく、分繊性、分散性に優れたものを用いる。繊度0.01dtex以下の繊維径の揃った繊維、すなわち、直接紡糸法により得られた0.01dtex以下の繊維は工業的に安価に生産することができず、0.01dtex以下を直接紡糸により紡糸した場合、繊維の分繊性に大きな課題が残り、高品位な表面外観を発生する人工皮革基体である不織布を形成することができない。0.5dtex以上では形成される不織布の風合いが従来の製品と変わらず、より緻密な高級感のある品位の高い人工皮革基体を作るという目的から外れてしまう。
【0009】
本発明では前述の超極細繊維のカット長は2〜6mmの短繊維を用いる。カット長2mm以下では織編地基布へ超極細繊維が交絡せず、製造工程中で脱落する。6mm以上では繊維と基布との交絡が不十分になり、繊維が単に基布上に積載された状態となり、繊維が基布から剥離されやすくなる。
【0010】
本発明に用いる超極細繊維(A)は特に限定されるものではないが、超極細繊維(A)がアクリロニトルを50質量%以上含有することで、アクリル繊維の優れた風合い、発色性を、目的とする人工皮革に付与することができる。アクリロニトルが50質量%以下ではアクリロニトリル系繊維のもつ風合いや発色性が十分でない。
【0011】
本発明の人工皮革基体を構成する超極細繊維(A)に共重合されるモノマーは、通常のアクリル繊維を構成する不飽和モノマーであれば特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。さらに、染色性改良などの目的で、p−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩などを共重合してもよい。
【0012】
本発明に用いる超極細繊維(A)は、湿式紡糸法を用いて製造することができる。ポリマーは溶剤に溶解して紡糸原液として、細孔ノズルより、繊維(A)を構成するポリマーの非溶剤を含む凝固浴中へ吐出して凝固させ、引き取り、湿熱延伸、洗浄、乾燥焼き潰し、乾熱延伸が施される。用いる溶剤としてはジメチルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどの有機溶剤を用いることができる。凝固剤としては、例えば、水、メタノール、エタノールなどを用いることができる。凝固浴は溶剤/非溶剤の混合物を用いることができる。
【0013】
本発明において、アクリロニトリル系ポリマーの分子量は特に限定しないが、分子量5万〜100万が望ましい。分子量が5万未満では紡糸性が低下すると同時に繊維の糸質も悪化する傾向にある。分子量が100万を越えると紡糸原液の最適粘度を与えるポリマー濃度が低くなり、生産性が低下する傾向にある。
【0014】
本発明によって得られる人工皮革基体は編地からなる基布(B)を含有する。本発明によって得られる人工皮革基体の物理的性能は、基布(B)である編物に最も大きく依存している。基布(B)の少なくとも両面が超極細繊維(A)で覆われるので、上述のごとく編地基布(B )と超極細繊維(A)とで機能の分担が可能となる。言い換えれば、シートの物理的性質はほとんど全て基布(B)として用いている編物で決まるが、外観、色調、風合いは繊維(A)により決まる。
【0015】
本発明で使用する編物からなる基布(B)を構成する繊維は特に限定されるものではない。例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニアルコール系繊維、セルロース系繊維、アセテート系繊維の公知の繊維からなるものが使用可能である。
【0016】
使用する超極細繊維(A)を強固に支持するためには、編地基布(B)として潜在的収縮性を有する繊維を有する編物を用い、繊維(A)を編地基布(B)に交絡させてしーと作成したのち、シートを収縮させることが好ましい。シートを前述の手順で収縮させることで交絡をより強固にするとともに、シート表面を緻密化させてより緻密感の高い外観、風合いが得られる。また、この場合の潜在性収縮繊維としては、例えば60〜100℃の熱水中で処理することより10〜60%、好ましくは20〜50%収縮するような繊維を用いることが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる編地基布(B)の目付(度目、g/m2)は、通常、製造できる範疇のものは使用可能であるが、衣料用途や自動車用途の人工皮革を想定する場合は、繊維(A)、編地基布(B)、高分子弾性体を複合した最終製品形態を考慮したとき、目付50g/m2 〜200g/m2 の編物を用いることが好ましい。50g/m2 以下では目的とする実用に耐えるに十分な耐久性をもつシートを得ることが困難である。200g/m2 以上の基布を用いることもできるが、シート質量が高くなり軽量性という点では劣る商品となり実用的でない。
【0018】
次に本発明の人工皮革基体の製造方法を説明する。本発明の人工皮革基体は抄造法により得られた超極細繊維(A)からなる抄造ウェブを抄造しながら編地基布(B)上に載置し、ウォータージェットパンチングにより交絡処理して製造する。また、ウォータージェットパンチングに用いるノズルはシート搬送方向に対して直角方向に振動させ、表面を均質に交絡させるものである。
【0019】
本発明の製造方法は、以下のように、超極細繊維(A)を抄紙法により抄造される抄造ウエッブを編地基布(B)に積載する〔工程I〕、1列配列の第1高圧噴射ノズル(1)によるウォータージェットパンチングする〔工程II〕、3列配列の第2高圧噴射ノズル(2)によるウォータージェットパンチングする〔工程III 〕により編地基布(B)に交絡一体化し、さらに工程I 〜工程III を繰り返してシートを形成した後に、シートを収縮緻密化させる〔工程IV〕を含んでいる。
【0020】
1列配列の第1高圧噴射ノズル(1)は複数本用いることで積載した超極細繊維を低圧(0.5MPa)から中圧(6MPa)へステップを踏んでウォータージェットパンチングするときの圧力を順次上げて緻密化する前段階の不織布を形成する〔工程II〕を含んでいる。
【0021】
3列配列の第2高圧噴射ノズル(2)は中圧(4MPa)から高圧(12MPa)のウォータージェットパンチングにより表面の均一化と不織布の最終的な緻密化をするために採用する。
【0022】
複数列のノズルをシート搬送方向に対して直交して振動させると、ノズル軌跡の重複による周期的な筋状のパターンが形成される。本発明の製造方法ではこれらを横段模様と定義するが、横段模様が製品上に残ると品位が低いとみなされるため、本発明では不織布の緻密化において高圧のウォータージェットパンチングによる横段模様の発生を抑制する人工皮革基体の製造方法に着目している。
【0023】
以下に本発明における工程I 〜工程IVを詳細に説明する。
本発明の工程I は超極細繊維(A)を編地基布(B)に積載する工程である。超極細繊維(A)の積載は超極細繊維(A)を水に分散して所定の濃度のスラリーを調製し、進行する編地基布(B)上に流しこみ、静置、自然脱水後に真空減圧部を通過させることにより抄造する。また、工程I の超極細繊維の積載は多層に分けて繰り返し、工程II、及び、工程III のウォータージェットパンチングによる交絡一体化処理を行う。また、シートを反転して裏面から同様の積載を行い、編地基布(B)の表面と裏面に超極細繊維(A)で覆われた人工皮革基体を作る。超極細繊維(A)を積載する工程I を経たシートを工程II及び工程III のウォータージェットパンチングを経て超極細繊維(A)の交絡一体化処理を完了する。
【0024】
本発明の製造方法の工程IIでは、1列のノズル孔を備える第1高圧液体噴射ノズル(1)を1〜8本用いてウォータージェットパンチングする。これらのノズルはシート搬送方向に列間が並行になるように配置する。高圧液体噴射ノズル(1)はシート搬送方向に対して直角に振動させ、シート表面にサインカーブを描かせて超極細繊維(A)と編地基布(B)とを交絡一体化させる。1列のノズル孔を備える高圧液体噴射ノズル(1)を1〜8本、シートの幅方向に振動させると幅方向に筋状の軌跡パターンが周期的に発生する。使用するノズル本数、軌跡本数によりその位相差を厳密に調整すれば周期的に現れる潜在的な横段模様が発現することはないが、複数本、または、複数列のノズル軌跡の位相差を厳密に制御することは難しい。また、列間ピッチが長い、例えば、30cmにすると、位相差を合わせるためには振動数を低くする必要があり、低速振動の精度を出すことも困難となり、振動速度を抑えることは振動させる意味が薄れる。
【0025】
本発明の工程IIでは、後工程で表面の横段模様が消せるレベルの横段状態に抑えて超極細繊維(A)と編地基布(B)を交絡一体化させ、続く、工程III で横段が発生しないノズル軌跡のパターンで高圧ウォータージェットパンチングする。処理緻密な条件の表面にウォータージェット軌跡を重ね、潜在的に発生する横段模様を人工皮革基体の表面から消すための工程が工程III である。
【0026】
本発明の好適な実施形態では、第1高圧液体噴射ノズル(1)を2つ組み合わせて2列構成の高圧噴射ノズル(3)を形成して単一の振動装置で振動させる。さらに、1列目(1本目)と2列目(2本目)のノズルが描く軌跡の位相差を180°のカーブ軌跡をシート上に重ねるようにすることが好ましい。
【0027】
本発明の好適な実施形態によれば、工程IIを0.5〜6MPaの圧力で2〜10回処理する。第1高圧液体噴射ノズル(1)の圧力が0.5MPa以下では超極細繊維と編地基布(B)を交絡一体化させる圧力とはならず、6MPa以上の圧力では潜在的な横段模様が強く残り、後加工で横段を解消できなくなるので好ましくない。第1高圧噴射ノズル(1)を複数本用いる工程IIでは潜在的に横段模様を形成するが、必要以上の圧力を加えないことが重要となる。
【0028】
第1高圧液体噴射ノズル(1)を用いる本発明の工程IIにおいて、いきなり高圧でウオータージェットパンチングをかけると超極細繊維(A)が基布(B)上から剥離する現象が発生するので、列間、ノズル間の圧力は順次昇圧しながら、軌跡を重ねることが好ましい。例えば、1列目(1本目)の圧力を1MPa、2列目(2本目)の圧力を3MPaとなるように順次昇圧させることが好ましい。
【0029】
本発明の人工皮革基体の製造において、シート上に描かれるサインカーブはシート搬送速度、ノズル振動速度、ノズル振幅量、ノズル孔径、孔間ピッチ、列間ピッチにより決まる。本発明の工程IIの条件は特に限定されるものではないが、例えば、シート搬送速度3〜10m/min、ノズル振動速度30〜500rpm、ノズル孔径φ0.05〜0.3mm、ノズル振幅1〜5mmを適用することができる。
【0030】
工程IIにおける第1高圧液体噴射ノズル(1)によりシート上に描かれるサインカーブ軌跡の周期が20〜100mm、1列目と2列目のノズル孔より噴射される高圧液体流により描かれるサインカーブ軌跡の位相差を180°として重ね合わせることが好ましい。サインカーブ軌跡の周期が20mm以下では重ね合わされた軌跡のパターンで形成される横段模様の周期が短く、鋭く横段が強く見える。またサインカーブ軌跡の周期が100mm以上では周期が長すぎてノズル振動速度が非常に低速となり、正確な振動を与えることができない。また、周期が長くなりすぎるとノズル振動をさせる意味が薄れる。
【0031】
本発明の工程IIで用いる1列のノズル孔を有する第1高圧液体噴射ノズル(1)は2本の列間を固定して一台の振動装置で振動させる。形成されるサインカーブ軌跡の位相差が180°から外れた位置でノズル軌跡を重ね合わせた場合、横段模様が目立ちやすくなるので好ましくない。位相差が0°の場合は2本のノズル軌跡が重複して1本のノズル軌跡となってしまい軌跡が強く残ってしまうので好ましくなく、
本発明の工程III は、3列のノズル孔を有する第2高圧液体噴射ノズル(2)をもって1〜3回処理する。工程IIで交絡処理したシートの表面の交絡を強化し、表面に横段模様が発生しないようにノズル軌跡を緻密に重ねる工程である。例えば、列間ピッチを5mmにするとノズル軌跡の位相差を厳密に制御することが可能となってくる。
【0032】
本発明の製造方法においてはシート搬送方向に対して直角方向に振動する3列のノズル孔を備えた第2高圧液体噴射ノズル(2)を用いて、シート上に描かれるサインカーブ軌跡の周期が10〜20mm、1列目、2列目、3列目が描くノズル軌跡の位相差が各々120°で重ね合わせる。
【0033】
シート搬送方向に対して直角方向に振動する3列のノズル孔を備えた第2高圧液体噴射ノズル(2)は4〜12MPaの圧力で1〜3回処理することが好ましい。ノズル圧力が4MPa以下では交絡を強化するには十分ではない。工程IIで0.5MPa〜6MPaの圧力で交絡をかけており、それよりも強い圧力で交絡をかけることにより、工程IIで潜在的に発生する横段模様を軽減する。
【0034】
列間ピッチが狭いノズルを用い不織布を緻密に交絡させる場合、使用水量が増えるとウォータージェットパンチングに用いる水量が多くなり、シート表面からの脱水が追いつかなくなり、効率的なパンチングはできないので、圧力12MPa以上は実質的に必要ない。
本発明の製造方法の工程III で用いるシート搬送方向に対して直角方向に振動する3列のノズル孔を備えた第2高圧液体噴射ノズル(2)の設定条件は特に限定されるものではないが、例えば、列間距離5mm、孔間ピッチ1.5mmの3列ノズルを用いることができる。
【0035】
本発明の人工皮革基体の製造方法では熱収縮性を有する編地基布(B)を用い、超極細繊維(A)と編地基布(B)とを交絡一体化させたシートを熱水中で収縮させることが好ましい。このことにより表面が緻密な人工皮革基体を製造することができる。
【0036】
本発明により得られる人工皮革基体には高分子弾性体をその構成成分の一つとして含浸する。高分子弾性体はあくまでも基布と繊維の絡み合いをより強固にすること、あるいはシートに腰をもたせ、天然皮革の性状に近くすることが目的であるから、多量の高分子弾性体(D )を用いる必要はなくシート状物に対して1〜30質量%、好ましくは3〜20質量%程度で十分な効果を発揮する。高分子弾性体が1質量%以上で天然皮革様の風合いを十分に得られる。また、高分子弾性体が30質量%以上では硬い風合いの人工皮革となるので好ましくない。
【0037】
高分子弾性体としては、ポリウレタン弾性体、アクリロニトル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ネオプレン等の合成ゴム、ポリアクリル酸エステルなどの高分子弾性体がある。
【0038】
この中でポリウレタン弾性体は柔軟性や耐摩耗性が優れており、人工皮革には適している。ポリウレタン弾性体のポリオール成分としてはポリエチレンアジペートグリコール、ポリエチレンアジペートグリコールなどのポリエチレンジオール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルグリコール類、ポリカーボネートジオール類がある。また、イソシアネート成分としては、芳香族イソシアネート、脂環族イソシアネート、脂肪族ジイソシアレートが使用できる。また、鎖伸長剤としてエチレングリコールなどグリコール類、エチレンジアミン等のジアミン類等を使用できる。
【0039】
更に、前述のポリオール成分とジイソシアナート成分、及び、鎖伸長剤から強制乳化重合法によって得られた水分散型ポリウレタン弾性体を用いることが好ましい。水分散型ポリウレタン弾性体としては、ポリエーテル系の無黄変ポリウレタン弾性体、カーボネート系の無黄変ポリウレタン弾性体、ポリエステル系の弾性体を用いることができる。さらに、前記水分散型弾性体に耐熱性向上剤として酸化防止剤、光安定剤を併用することが好ましい。酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、ヒドラジン系がある。
【0040】
本発明により得られる人工皮革基体の目付は特に限定されるものではないが、衣料用途、家具、自動車用途で用いる場合、目付50〜400g/m2 が好ましい。50g/m2 以下では目的とする実用に耐えられる十分な耐久性を得られるシートを得ることが困難である。400g/m2 以上では、シート質量が高くなり軽量性という点では劣る商品となり実用的でない。
【0041】
本発明では編地基布(B)に対して、表面から目付20〜100g/m2 の超極細繊維(A)を交絡一体化、裏面から目付20〜100g/m2 の超極細繊維(A)を交絡一体化させることが好ましい。
【0042】
編地基布(B)に対して表面から20g/m2 より低い目付で超極細繊維(A)を交絡させると耐摩耗に対する実用性能が得られない。編地基布(B)に対して表面から目付が100g/m2 を越える超極細繊維(A)を交絡させると横段模様が顕在化するため好ましくない。編地基布(B)に対して裏面から目付が20g/m2 より小さな超極細繊維(A)を交絡させた場合には裏面の基布組織が露出するため、裏面の品位が保てないので好ましくない。裏面から目付が100g/m2 を越える超極細繊維(A)を交絡一体化させても裏面の品位が良くならないので好ましくない。
【0043】
工程V の収縮処理が完了したシートは脱水、乾燥、巻き取り、人工皮革基体となる。さらに、染色処理、高分子弾性体含浸、表面研削処理の加工を施し、製品である人工皮革に仕上げる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
具体的な仕様は次のとおりである。ここに挙げた仕様は典型例にすぎず、多様な変更が可能である。
◎使用繊維(A)
アクリロニトリル/アクリル酸メチル/メタリルオキシベンゼンスルフォン酸ソーダ=91.4/6.9/1.6からなる繊度0.13dtexの超極細アクリル繊維繊維を3mmにカットした。(以下では繊維原料をフロックと称する。)次に、フロックを水中へ分散、パルパーにて離解処理した。離解処理した超極細繊維(A)に希釈水を添加して、スラリー供給タンクに調製した。さらに、ポリアクリルアマイドを添加して粘度22センチポイズの抄紙用スラリーを調製した。
◎編地基布(B)
熱収縮性をもつ72dtex/36fのポリエチレンテレフタレートフィラメントからなる目付100g/m2 の編地(梨地)を用いた。
◎ネット駆動及びシート搬送装置
ステンレス製平織ネットをベルト状につなぎあわせて連続的に回転させる装置上に編地基布(B)を載置、搬送し、抄紙(繊維積載)、ウォータージェットパンチングによる交絡処理を連続的に実施した。装置には抄紙用スラリー供給装置、ウォータージェットノズル、減圧脱水装置のユニットを複数配置した。
また、ネット上に編地基布(A)の張力が制御できるようにピンチェーンを配置し、ネットと同じ速度で駆動した。ネット速度、及び、シート搬送速度は5.0m/minで実施した。
シート表面の形成においてはステンレス製平織#100(日本フィルコン製)を用い、シートを反転させた後の裏面形成にはステンレス製平織#90(日本フィルコン製)を用いた。
◎抄紙
繊維(フロック)積載量は、スラリーの供給量、供給スラリー中の繊維濃度、基布搬送速度、及び、スラリー供給部幅で決まるので所定の目付になるように調製した。
抄紙用スラリーを基布上へ供給後は常圧(自然)脱水する静置部分を通過させながら自然に脱水させた後に、ネット下部に配置した減圧脱水装置により搾水して超極細繊維(A)を編地基布(B)上に積載した。
◎ウォータジェットパンチング
本装置の抄紙積載工程(繊維積載部)を通過した下流側にウォータージェットパンチング装置(WJ交絡装置)を配置した。ウォータージェットノズルは以下の2種類を用いた。本発明の第1高圧噴射ノズル(1)及び第2高圧噴射ノズル(2)はシート搬送方向に対して直角方向に振動させる。これによりシート上にはサインカーブ状のノズル軌跡が描かれる。
【0045】
WJ交絡装置の具体的仕様は次のとおりである。
・第1高圧流体噴射ノズル(1):1 列配列ノズル
・ノズル孔径:φ0.1mm
・幅方向孔間ピッチ:1mm
・ノズル間(列間)ピッチ:300mm
・第2高圧流体噴出ノズル(2):3列ノズル
・ノズル孔径:φ0.15mm
・幅方向孔間ピッチ:1.5mm
・列間ピッチ:5mm
◎表面品位定義
本発明における表面品位の判定は、得られた人工皮革基体を起毛処理、染色処理、高分子弾性体含浸処理、表面研削処理などを加えて、人工皮革表面に仕上げた後に実施した。本発明における表面品位を以下のように定義した。
5級:横段ない表面
4級:横段ほとんどない表面
3級:横段弱い表面
2級:横段ある表面
1級:横段強い表面
【0046】
本発明では、表面品位が3級以上の横段模様感のない高品位表面を形成する人工皮革基体の製造方法の実現を目指している。
【0047】
「実施例1」
A1.シート表面1層目の形成
〔工程I 〕
所定のサイズに切り出した編地基布(B)をウォータージェット装置上のステンレス製平織#100ネット支持体上に載置して、この上に超極細繊維(A)よりなる抄紙スラリーを流しこみ、自然脱水後、サクションボックスにより搾水して、目付29g/m2 の上記超極細繊維(A)を積載した。
〔工程II〕
続いて、装置上に配置したシート搬送方向に対して垂直に振動する1列配列の第1高圧噴射ノズル(1)を2本により交絡処理した。1本目(1列目)と2本目(2列目)の列間を300mmに固定して、これらを1つの振動装置で同期させて振動させた。1本目の圧力2MPa、2本目の圧力3MPa、振動速度175rpm、周波数2.92Hz、振幅1.5mm、周期0.34secでノズル振動を与えた。シート搬送速度を5m/minに設定したので、シート上に描かれるサインカーブのノズル軌跡周期は29mm、1本目と2本目のシート上に描かれるサインカーブの位相差は180°となる。このときの1列目と2列目のノズル軌跡を重ね合わせた軌跡パターンを図1に示す。シート表面には幅約5mmの横段模様が約15mm間隔で周期的に観測された。
〔工程III 〕
次に、列間ピッチ5mmの3列配列の第2高圧噴射ノズル(2)により交絡処理をした。ノズル孔径φ0.15mm、孔間ピッチ1.5mm、圧力4MPa、振動速度360rpm、周波数6Hz、振幅1.5mmでノズル振動を与え、ノズル軌跡周期は13.9mm、シート上に描かれる1列目、2列目、3列目のサインカーブの各位相差は120°を得た。このときの1列目、2列目、3列目のノズル軌跡を重ねあわせた軌跡パターンを図7(360rpm)に示す。横段模様が発生しないノズル軌跡のパターンを重ねたので表面からは横段模様が観察されなかった。
【0048】
A2.表面2層目の形成
A1により編地表面に第1層目が形成されたシート上に、第1層目と同様の処理を行い、29g/m2 の超極細繊維を積層して交絡を行い、第2層目を形成した。
【0049】
A3.シート表面3層目の形成
〔工程I 〕
次に、上記で得られたシート上に同様に29g/m2 の超極細繊維を積層した。
〔工程II〕
続いて、装置上に配置したシート搬送方向に対して直交して振動するノズル孔が1列配列の第1高圧噴射ノズル(1)を4本用いて交絡処理した。1本目(1列目)と2本目(2列目)の列間は300mmで固定して単一の振動装置で同期させて振動し、3本目(1列目)と4本目(2列目)の列間も300mmに固定し、これを単一の振動装置で同期させて振動させた。ノズル孔径φ0.15mm、孔間ピッチ1mm、1本目の噴射圧力0.5MPa、2本目の噴射圧力1MPa、3本目の噴射圧力2MPa、4本目の噴射圧力4MPaにて高圧水流処理をした。このとき、振動速度175rpm、周波数2.92Hz、振幅1.5mm周期0.34secでノズルに振動を与えた。シート搬送速度を5m/minに設定しており、シート状に描かれるサインカーブのノズル軌跡周期は29mm、1本目と2本目のシート上に描かれるサインカーブの位相差は180°、3本目と4本目のシート上に描かれるサインカーブの位相差は180°を得た。幅約5mmの横段模様が約15mm間隔で重ね合わされた。
〔工程III 〕
次に列間ピッチ5mmの3列配列の第2高圧噴射ノズル(2)を2本用いて交絡処理をした。ノズル孔径φ0.15mm、孔間ピッチ1.5mm、振動速度360rpm、周波数6Hz、振幅1.5mmでノズル振動を与え、ノズル軌跡周期は13.9mm、1列目、2列目、3列目のノズル孔によりシート上に描かれるサインカーブの位相差は120°であった。このときの1列目、2列目、3列目のノズル軌跡を重ねあわせた軌跡パターンは図7(360rpm)に示す。噴射圧力は1本目6MPa、2本目8MPaに設定した。工程IIで表面に発生した横段模様は工程III のノズル軌跡を重ねることにより見えなくなった。
【0050】
B1.裏面1層目の形成
〔工程I 〕
A1〜A3の処理により表面が形成されたシートを反転させ、ステンレス製平織#90ネット支持体上に載置して、その裏面に抄造法により25g/m2 の超極細繊維を積載した。
〔工程II〕
続いて、装置上に配置したシート搬送方向に対して直交して振動する1列配列の第1高圧噴射ノズル(1)を2本用いて交絡処理した。1本目(1列目)と2本目(2列目)の列間を300mmに固定して、これらを単一の振動装置で同期させて振動させた。1本目の噴射圧力0.5MPa、2本目の噴射圧力1.5MPa、振動速度175rpm、周波数2.92Hz、振幅1.5mm、周期0.34secでノズル振動を与えた。シート搬送速度を5m/minに設定したため、シート状に描かれるサインカーブのノズル軌跡周期は29mm、1本目と2本目のシート上に描かれるサインカーブの位相差は180°を得た。このときの1列目と2列目のノズル軌跡を重ねあわせた軌跡パターンは図1に示すとおりであり、シート表面には幅約5mmの横段が約15mm間隔で周期的に観測された。
〔工程III 〕
次に列間ピッチ5mmの3列配列の高圧噴射ノズル(2)を1本用いて交絡処理をした。ノズル孔径φ0.15mm、孔間ピッチ1.5mm、振動速度360rpm、周波数6Hz、振幅1.5mmでノズル振動を与え、ノズル軌跡周期は13.9mm、1列目、2列目、3列目のシート上に描かれるサインカーブの位相差は120°を得た。このときの1列目、2列目、3列目のノズル軌跡を重ねあわせた軌跡パターンを図7(360rpm)に示す。噴射圧力は1本目6MPa、2本目8MPaに設定した。工程IIで表面に発生した横段模様は工程III のノズル軌跡を重ねることにより見えなくなった。
【0051】
B1’.裏面の1層目に追加処理
〔工程II〕
続いて、装置上に配置したシート搬送方向に対して直交して振動する1列配列の第1高圧噴射ノズル(1)を2本用いて交絡処理した。1本目(1列目)と2本目(2列目)の列間を300mmに固定して、これらを単一の振動装置をもって同期させて振動させた。1本目の噴射圧力1.5MPa、2本目の噴射圧力2.5MPa、振動速度175rpm、周波数2.92Hz、振幅1.5mm、周期0.34secでノズル(1)に振動を与えた。シート搬送速度を5m/minに設定したため、シート状に描かれるサインカーブのノズル軌跡周期は29mm、1本目と2本目のシート上に描かれるサインカーブの位相差は180°を得た。このときの1列目と2列目のノズル軌跡を重ねあわせた軌跡パターンは図1に示すとおりであり、シート表面には幅約5mmの横段が約15mm間隔で周期的に観測された。
〔工程III 〕
次に、列間ピッチ5mmの3列配列の第2高圧噴射ノズル(2)を1本用いて交絡処理を行った。ノズル孔径φ0.15mm、孔間ピッチ1.5mm、振動速度360rpm、周波数6Hz、振幅1.5mmでノズルに振動を与え、ノズル軌跡周期は13.9mm、1列目、2列目、3列目のシート上に描かれるサインカーブの各位相差は120°を得た。このときの1列目、2列目、3列目のノズル軌跡を重ね合わせた軌跡パターンを図2(360rpm)に示す。噴射圧力は3.5MPaに設定した。工程IIで表面に発生した横段模様は工程III のノズル軌跡を重ねることで見えなくなった。
【0052】
B2.裏面2層目の形成
〔工程I 〕
次に、上記で得られたシート上に25g/m2 の超極細繊維を上記抄造法により積層した。
〔工程II〕
続いて、装置上に配置したシート搬送方向に対して直交して振動する1列配列の第1高圧噴射ノズル(1)を4本用いて交絡処理を行った。1本目(1列目)と2本目(2列目)の列間は300mmで固定して単一の振動装置をもって同期して振動させ、3本目(1列目)と4本目(2列目)の列間は300mmに固定し、これらを単一の振動装置をもって同期して振動させた。ノズル孔径φ0.15mm、孔間ピッチ1mm、1本目の噴射圧力0.5MPa、2本目の噴射圧力1MPa、3本目の噴射圧力2MPa、4本目の噴射圧力4MPaにて処理した。振動速度175rpm、周波数2.92Hz、振幅1.5mm周期0.34secでノズル振動を与えた。シート搬送速度を5m/minに設定したため、シート状に描かれるサインカーブのノズル軌跡周期は29mm、1本目と2本目のシート上に描かれるサインカーブの位相差は180°、3本目と4本目のシート上に描かれるサインカーブの位相差は180°を得た。幅約5mmの横段模様が約15mm間隔で重ね合わされた。
〔工程III 〕
次に列間ピッチ5mmの3列配列の高圧噴射ノズル(2)を2本用いて交絡処理を起こった。ノズル孔径φ0.15mm、孔間ピッチ1.5mm、振動速度360rpm、周波数6Hz 、振幅1.5mmでノズル振動を与え、ノズル軌跡周期は13.9mm、1列目、2列目、3列目のノズル孔によりシート上に描かれるサインカーブの各位相差は120°を得た。このときの1列目、2列目、3列目のノズル軌跡を重ねあわせた軌跡パターンを図7(360rpm)に示す。噴射圧力は1本目が5MPa、2本目が5MPaに設定した。工程IIで表面に発生した横段模様は工程III のノズル軌跡を重ねることにより見えなくなった。
【0053】
シート収縮処理〔工程IV〕
以上の処理が終了した素材シートを沸水中に投入して、シート内部に存在する潜在熱収縮性を有する編物を幅方向に16%、長さ方向に12%収縮させてシートを緻密化し、人工皮革基体を作成した。収縮処理前のシート目付は237g/m2 、収縮処理後のシート目付321はg/m2 であった。
【0054】
シート収縮処理は後述する実施例2〜3及び比較例1〜6においても共通に実施した。これらの処理を終了したのち、以下の条件で乾燥処理、染色処理、高分子弾性体を含浸、表面研削処理の各加工を施し、製品である人工皮革に仕上げた。
【0055】
染色処理
起毛機を用いて表面の起毛処理を施した後、高圧液流染色機(日本染色機製ユニエース)を用いて、カチオン染料により染色した。染色レサイプは以下のとおりである。キャメル色に発色するように染色した。
Nichilon Golden Yellow GL (日成化成製):1.0owf%
Nichilon Red RS New (日成化成製):0.26owf%
Nichilon Blue AQN (日成化成製):0.20owf%
染液水量:180L
酢酸(90%):90g
酢酸 Na :45g
染色温度×時間:105℃×1時間
【0056】
高分子弾性体含浸
上記染色処理シートは乾燥した後に水分散型ポリウレタンEvafanol AP-12 (日華化学製、エーテル系ポリウレタン)のエマルジョン(濃度4質量%dispに調製)を含浸した。含浸率が100%になるようにマングル絞りをした。次にアルギン酸ナトリウム3%水溶液を#100メッシュのスクリーンを介して表面にコートして乾燥させた。本シートへのポリウレタンの理論付着量は4%である。
【0057】
表面研削処理
上記高分子弾性体含浸処理上がりのシートはサンドペーパー(#180)により表面研削をした。さらに、シートは洗浄処理して乾燥した。
【0058】
表面品位評価
得られたシート表面表面品位(横段感)を被験者5名により決定した。実施例1で製造したシートの表面品位は3級であり横段は弱い状態であった。
実施例1と同様の手順で高圧噴射ノズル(1)の圧力構成、振動設定を変更した実施例2〜3、比較例1〜6を実施し、その表面品位を評価した。実施例2及び3は、工程IIにおける第1高圧噴射ノズル(1)の振動数を125rpm、75rpmとするとともに、軌跡周期を0.40mm、66.7mmとした以外は実施例1と同じ条件のもとで処理した。また比較例1〜3は、工程IIにおける第1高圧噴射ノズル(1)の振動の位相差を0°とした以外は実施例1と同じ条件で処理した。比較例4〜6は、シート表面第3層形成時の工程IIにおける第1高圧噴射ノズル(1)の噴射圧力を1本目1mpa、2本目3MPa、3本目5MPa、4本目7MPaに設定し、第1高圧噴射ノズル(1)の振動数を175rpm、125rpm、75rpmとし、第1高圧噴射ノズル(1)の軌跡周期を28.6mm、40.0mm、66.7mmとする以外実施例と同じ条件で処理した。これらの実施例1〜3及び比較例1〜6を表1に示す。
【0059】
本発明によれば、表1から理解できるとおり、表面に緻密感があり、しかも横段模様のない表面品位の高い人工皮革が得られる人工皮革基体を製造できる。
【0060】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1高圧噴射ノズルの振動数175rpm、位相差180°のときのシート上に描く噴射軌跡を示す軌跡図である。
【図2】第1高圧噴射ノズルの振動数150rpm、位相差0°のときのシート上に描く噴射軌跡を示す軌跡図である。
【図3】第1高圧噴射ノズルの振動数125rpm、位相差180°のときのシート上に描く噴射軌跡を示す軌跡図である。
【図4】第1高圧噴射ノズルの振動数100rpm、位相差0°のときのシート上に描く噴射軌跡を示す軌跡図である。
【図5】第1高圧噴射ノズルの振動数75rpm、位相差180°のときのシート上に描く噴射軌跡を示す軌跡図である。
【図6】第1高圧噴射ノズルの振動数50rpm、位相差0°のときのシート上に描く噴射軌跡を示す軌跡図である。
【図7】第2高圧噴射ノズルの振動数360rpm、位相差120°のときのシート上に描く噴射軌跡を示す軌跡図である。
【符号の説明】
【0062】
なし。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度0.01〜0.5dtex、カット長2〜6mmである繊維(A)と編地基布(B)とを交絡一体化させる人工皮革基体の製造方法において、
繊維(A)を抄造しながら移送される編地基布(B)上に載置する工程I と、
編地基布(B)の移送方向に対して直角方向に振動する1列のノズル孔を備えた第1高圧液体噴射ノズル(1)を用いて、シート上に描かれるサインカーブ軌跡の周期を20〜100mm、噴射圧力0.5〜6MPaをもって、高圧液流をシートに向けて噴出し、これを1〜8回処理する工程IIと、
シート搬送方向に対して直角方向に振動する3列のノズル孔を備えた第2高圧液体噴射ノズル(2)を用い、シート上に描かれるサインカーブ軌跡の周期10〜20mm、圧力4〜12MPaとして、1列目、2列目、3列目が描くノズル軌跡の位相差を各々120°をもって高圧液流を噴出し、これを1〜3回処理する工程III と、
を含んでなる繊維(A)と編地基布(B)を交絡一体化させる人工皮革基体の製造方法。
【請求項2】
前記第1高圧液体噴射ノズル(1)を2つ組み合わせた2列構成の噴射ノズル(3)をもって、単一の振動装置をもって振動させ、位相差180°のサインカーブ軌跡をシート上に重ねることを含む請求項1に記載された人工皮革基体の製造方法。
【請求項3】
前記編地基布(B)が熱収縮性を有し、工程III の終了後に前記編地基布(B)を加熱収縮することを含む請求項1又は2に記載された人工皮革基体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−256810(P2009−256810A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103946(P2008−103946)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】