説明

人工皮革用不織布及び人工皮革

【課題】ポリウレタン樹脂などの高分子弾性体を含浸しなくても、良好な風合と高い耐磨耗性、及び裁ち切り性や形態安定性を兼ね備えた人工皮革用不織布及び該不織布を用いた人工皮革を提供する。
【解決手段】表面繊維層と織編物であるスクリム層との少なくとも2層以上の多層構造をもつ人工皮革用不織布であって、以下の特徴:
(1)該表面繊維層が、少なくとも1種以上の主体短繊維と該主体短繊維の融点よりも20℃以上低い融点を持つ熱融着性短繊維から構成される;
(2)該表面繊維層における、該熱融着性短繊維と該主体短繊維との合計に対する該熱融着性短繊維の混合比率は5〜25%の範囲である;
(3)該熱融着性短繊維の一部又は全部が熱溶融して繊維間接着している;及び
(4)該表面繊維層と該スクリム層の間が交絡一体化した構造である;
を有する前記人工皮革用不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な風合と高い耐磨耗性、及び裁ち切り性や形態安定性を兼ね備えた人工皮革用不織布、並びに該不織布を用いた人工皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
人工皮革は、衣類、靴、鞄、インテリア、自動車や鉄道車両などのシート表皮材、内装材、リボンやワッペン基材などの服飾分野に好適に用いられる。また、近年ではCDやDVDなどのディスク挿入口カバー、ワイピングクロス、精密研磨布、吸液ロールなどの資材分野にも好適に用いられている。
【0003】
これらの分野では、柔らかな風合と良好な耐磨耗性、及び裁ち切り性や形態安定性を兼ね備えた人工皮革が強く求められている。また、近年のエコロジー意識の浸透により、低エネルギー、カーボンニュートラル、脱有機溶媒、リサイクルと言ったキーワードに代表される環境保全に対する要求も高い。
【0004】
以下の特許文献1には、良好な風合と形態安定性に優れた人工皮革用シート基材として、織編物と不織布が積層され交絡一体化されている人工皮革用基材において、該織編物を構成している繊維同士の交点又は糸同士の交点が固定されたことを特徴とする人工皮革基材が開示されている。特許文献1に記載された人工皮革基材は、形態安定性は良好であるが、交点が固定されているため、良好な風合が得難い。また、高い耐磨耗性を得るにはポリウレタン樹脂などの高分子弾性体の含浸が必要であり、コスト面、エコロジー面から満足できるものではない。
【0005】
また、以下の特許文献2には、ポリエステル繊維とポリエステル系融着繊維の混合繊維を絡合処理した後に加熱収縮と熱圧着処理した人工皮革用基材が開示されている。特許文献2に記載された人工皮革基材の製造においては、加熱収縮と熱圧着処理が必須であるため、良好な風合を得難いばかりでなく、例えばスエード調人工皮革にする場合の染色工程に耐え得るまでの形態安定性を得るのは困難であり、人工皮革基材として満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−348434号公報
【特許文献2】特開昭63−66360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ポリウレタン樹脂などの高分子弾性体を含浸しなくても、良好な風合と高い耐磨耗性、及び裁ち切り性や形態安定性を兼ね備えた人工皮革用不織布、並びに該不織布を用いた人工皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべき、鋭意研究し、実験を重ねた結果、表面繊維層と織編物であるスクリム層の少なくとも2層以上の多層構造をもつ不織布の少なくとも表面繊維層に熱融着性短繊維を特定の比率で混合させた後に熱融着処理を施すことで、良好な風合と高い耐磨耗性、及び裁ち切り性や形態安定性を兼ね備えた人工皮革用不織布、並びに該不織布を用いた人工皮革を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、発明は以下の通りのものである。
【0009】
[1]表面繊維層と織編物であるスクリム層との少なくとも2層以上の多層構造をもつ人工皮革用不織布であって、以下の特徴:
(1)該表面繊維層が、少なくとも1種以上の主体短繊維と該主体短繊維の融点よりも20℃以上低い融点を持つ熱融着性短繊維から構成される;
(2)該表面繊維層における、該熱融着性短繊維と該主体短繊維との合計に対する該熱融着性短繊維の混合比率は5〜25%の範囲である;
(3)該熱融着性短繊維の一部又は全部が熱溶融して繊維間接着している;及び
(4)該表面繊維層と該スクリム層の間が交絡一体化した構造である;
を有する前記人工皮革用不織布。
【0010】
[2]前記熱融着性短繊維が全融タイプの熱融着性短繊維である、前記[1]に記載の人工皮革用不織布。
【0011】
[3]前記主体短繊維と前記熱融着性短繊維の両者がポリエステル系繊維である、前記[1]又は[2]に記載の人工皮革用不織布。
【0012】
[4]前記主体短繊維と前記熱融着性短繊維の両者がポリアミド系繊維である、前記[1]又は[2]に記載の人工皮革用不織布。
【0013】
[5]表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の3層構造をもつ、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の人工皮革用不織布。
【0014】
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の人工皮革用不織布の表面繊維層の表面を、下記(1)又は(2):
(1)前記熱融着性短繊維を熱融着処理する前に起毛処理する;
(2)前記熱融着性短繊維を熱融着処理した後に起毛処理する;
のいずれかの工程で起毛処理して得られるスエード調又はヌバック調人工皮革。
【0015】
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の人工皮革用不織布の表面に被覆層を有する銀付き調人工皮革。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る人工皮革用不織布を用いた人工皮革は、良好な風合と高い耐磨耗性、及び裁ち切り性や形態安定性を兼ね備えているため、衣類、靴、鞄、インテリア、自動車や鉄道車両などのシート表皮材や内装材、リボンやワッペン基材などの服飾分野、CDやDVDなどのディスク挿入口カバー、ワイピングクロス、精密研磨布、吸液ロールなどの資材分野に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
表面繊維層を構成する主体短繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル系短繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのボリアミド系短繊維などが好適に用いられるが、これらに限定されるものではなく、目的とする用途によって適宜選択すればよい。天然皮革様風合が得られ易い点やスエード調やヌバック調表面感が得られ易い点からは、上記主体短繊維は、単繊維繊度が0.6dtex以下である極細短繊維であることが好ましく、単繊維繊度が0.02〜0.33dtexである極細短繊維がより好ましい。0.02dtex未満の単繊維繊度では、染色時の染料濃度が非常に高くなり、また、染色堅牢度や耐光性が不充分であり実用的ではない。
【0018】
上記極細短繊維としては、溶融紡糸法により直接紡糸されたものを短繊維化したものや、共重合ポリエステルを海成分に、そしてレギュラーポリエステルを島成分に用いた海島繊維から海成分を溶解または分解することによって除去して得られる極細繊維など、極細繊維発生型繊維から取り出したものを短繊維化したものなどが使用できる。
【0019】
本発明に用いる熱融着性短繊維は、前記主体短繊維の融点よりも20℃以上低い融点を持つものであり、主体短繊維が2種以上の場合は最も低い融点を持つ主体短繊維の融点よりも20℃以上低い融点を持つことが必要である。主体繊維の融点と熱融着性短繊維の融点の差が20℃未満である場合は、熱融着処理により該主体短繊維の一部が溶融する場合があり、風合が硬化したり、スエード調やヌバック調の良好な表面感が得られないなどの欠点がある。
【0020】
本発明に用いる熱融着性短繊維は、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリ乳酸系のホモポリマーや、これらポリマーを変性したホモポリマーやコポリマーなどの単一成分から成る全融タイプ繊維や、これらポリマーの2成分以上から成る芯鞘型やサイドバイサイド型などの複合タイプ繊維などから選択できるが、融着力の高さや染色での同色性の点から、ポリマー系を前記主体短繊維と同じにすることが好ましい。すなわち、主体短繊維がポリエステル系である場合には、ポリエステル系の熱融着性短繊維を選択し、また主体短繊維がポリアミド系である場合には、ポリアミド系の熱融着性短繊維を選択することが好ましい。また、高い融着力が得られ、且つ柔らかな風合が得られる点では、全融タイプの熱融着性短繊維を選択するのが好ましい。複合タイプを選択した場合、例えば芯鞘型を選択した場合は、芯部が家屋で言うところの桁や筋交いの役割をはたすので、風合が硬くなり、一方で融着部における融着成分量が少ないために高い耐磨耗性が得られ難い、あるいは染色工程などで融着部が剥がれ易く、裁ち切り性や形態安定性が得難いなどの欠点がある。
【0021】
本発明における熱融着性短繊維の表面繊維層における混合比率は5〜25%である。混合比率とは、熱融着性短繊維と主体短繊維の合計重量に対する熱融着性短繊維の重量の百分率である。混合比率が5%未満である場合は充分な融着力が得られないので、良好な耐磨耗性や形態安定性を得難く、一方、混合比率が25%を超える場合には、風合が硬くなり、また主体繊維の密度が低下するので耐磨耗性が低下し好ましくない。熱融着性短繊維の表面繊維層における混合比率は、より好ましくは7〜20%である。
【0022】
本発明の一態様である表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の構成を採る場合の裏面繊維層を構成する短繊維は特に限定しないが、前記した表面繊維層の主体短繊維、熱融着性短繊維、及び熱融着性短繊維の混合比率と同様のものであっても構わない。
本発明の表面繊維層及び裏面繊維層は、前記各繊維からカード法、エアレイ法などの乾式法、水中に各繊維を分散させたスラリーを用いた抄造法などにより製造することができるが、各繊維の均一分散性や極細短繊維が利用できる点では、抄造法が好ましい。カード法では、単繊維繊度0.6dtex以下の極細繊維はカーディングローラーの針に繊維が巻き付き繊維の開繊が困難であり、エアレイ法でも極細繊維の分散が困難である。また乾式法で得られた繊維層は均一分散性に劣ると言う欠点がある。
【0023】
本発明のスクリム層に使用する織編物は、染色による同色性の点から主体短繊維と同じポリマー系が好ましい。編物の場合、22〜28ゲージで編み上げたシングルニットが好ましい。織物の場合は、編物よりも高い寸法安定性と強度が実現できる。織物には加工糸の無撚糸や400〜1200T/mの有撚糸が好適に使われる。織物の場合には、耐磨耗性、裁ち切り性や形態安定性を更に向上させる目的で、織物を構成する糸の一部に熱融着性繊維を用い、表面繊維層及び裏面繊維層に含まれる熱融着性短繊維を熱融着処理させると同時に熱融着処理することも可能である。
【0024】
織物を構成する糸の一部に用いる熱融着性繊維は、熱融着処理後の引張強度保持の点から芯鞘型、サイドバイサイド型などの複合タイプが好ましい。また、打ち込み比率は織物の経緯トータルの打ち込み本数に対して50%以下、さらに好ましくは25%以下である。50%を超える打ち込み本数では風合が硬くなるので好ましくない。熱融着性繊維の打ち込みは、2本毎、3本毎のように特定の本数毎に打ち込み、織物組織に対して熱融着性繊維が均一に配置されるようにする。また、経糸の一部のみへの打ち込み、緯糸の一部のみへの打ち込み、あるいは経緯両方の一部への打ち込みのいずれの方法でもよい。かかる複合タイプ融着性繊維の低融点部ポリマーの融点は主体短繊維の融点よりの20℃以上低いことが好ましい。
【0025】
本発明における交絡一体化はスパンレース法と呼ばれる水流交絡法、ニードルパンチ法などを用いることができるが、スクリム層である織編物の組織を破壊することがない水流交絡法が好ましい。
【0026】
本発明における熱融着処理には、ドラム乾燥機やカレンダー機のような接触式乾燥機、ピンテンタードライヤーのようなエアースルー乾燥機が使えるが、表面のフィルム化防止、高密度化防止、良好な風合発現の点からエアースルー乾燥機の使用が好ましい。処理温度は、熱融着性短繊維又は熱融着性繊維の融点の10℃以上高い温度、好ましくは20℃以上高い温度である。処理温度と熱融着性短繊維又は熱融着性繊維の融点との差が10℃未満であると、十分充分な熱融着効果が得られない場合がある。
【0027】
上記方法により得られた人工皮革用不織布は、表面繊維層の表面を起毛し、染色処理することによってスエード調やヌバック調の人工皮革として用いられる。起毛処理としては、サンドペーパーでバフィングするなどの公知の方法を用いることができる。その場合、表面繊維層の熱融着性短繊維を熱融着させる前に起毛処理を行えばスエード調の表面感が得られる。一方、熱融着性短繊維を熱融着させた後に起毛処理を行えばヌバック調の表面感が得られる。
【0028】
染色処理においては、例えば、主体短繊維がポリエステル系繊維の場合は分散染料を用い、主体繊維がポリアミド系繊維の場合は酸性染料を用いることが一般的である。染色方法は、染色加工業者に周知の常法であることができ、人工皮革においては均染性の点から液流染色機が好適に用いられる。このようにして染色された人工皮革はソーピングや必要に応じて化学的還元剤の存在下で還元洗浄され、余剰染料が除去される。
【0029】
銀付き人工皮革に仕上げる場合は、人工皮革用不織布の熱融着性短繊維の熱融着処理を行い、必要に応じて染色処理を行った後、表面に湿式ポリウレタンや乾式ポリウレタンなどの高分子弾性体を塗工したり、離型紙上に形成した銀面層を人工皮革用不織布に貼り付けるなどの公知の方法により被覆層を形成して、銀付き人工皮革を製造する。
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、それらは本発明の範囲を限定するものではない。尚、実施例及び比較例中の性能測定結果は以下の方法で測定した。
【0031】
(1)風合(柔軟性)
サンプルを20cm×20cmの正方形にカットし測定サンプルとする。測定サンプルを水平面上に置き、正方形の頂点をA、B、C、Dとして、対角線で対面する頂点部AとC、又はBとDの一方の頂点を他方の頂点へ重ね合わせる。例えば頂点Aを水平面に置き、頂点Cを頂点Aに重ね合わせる。次いで、頂点Cが測定サンプルに接触した状態で対角線ACに沿って頂点Aから徐徐に遠ざけてゆき、頂点Cが測定サンプル面から離れた点をEとした場合のEと頂点C間の距離を風合値として風合の代用特性とした。風合値が小さい程良好な風合とする。評価基準を以下に示す。風合値が26cm未満を合格(○又は◎)とした。
×:風合値が28cm以上
△:風合値が26cm以上28cm未満
○:24cm以上26cm未満
◎:24cm未満
【0032】
(2)耐磨耗性JIS−L−1018(E法:マーチンデール法)
この試験方法での評価基準を以下に示す。20000回磨耗後にスクリムが露出しない場合を合格(○又は◎)とし、測定結果としてスクリムが露出した磨耗回数に基づき、評価した。
×:10000回でスクリムが露出する
△:10000回ではスクリム露出しないが20000回でスクリムが露出する
○:20000回ではスクリム露出しないが30000回でスクリムが露出する
◎:30000回でスクリムが露出しない
【0033】
(3)形態安定性
人工皮革用不織布を、主体短繊維がポリエステル系の場合は130℃×10分間、主体短繊維がポリアミド系の場合は90℃×10分間、液流染色((株)日阪製作所製CUT−T−5Rタイプサーキュラー染色機使用)し、形態に変化が見られない場合に合格(○)とし、形態変化の状態に応じて以下の評価基準で評価した。
×:表面繊維層又は裏面繊維層の一部又は全部が脱落し、穴空き状態
△:表面繊維層又は裏面繊維層の一部がスクリムから剥離し、膨らんだ状態又は表面に凹凸の変形が見られる
○:形態に変化が見られない
【0034】
(4)裁ち切り性
サンプルをタテ7cm×ヨコ5cmの長方形にカットし、ヨコ方向に5mm間隔でタテ方向に5cmの切れ込みを入れ、測定サンプルとする。測定サンプルはサンプル毎に経、緯各1枚計2枚作製する。次いで、家庭用洗濯機((株)日立製作所製PS−H35L型)に水15リットルと6号のシリコンゴム栓4個、及び経緯2枚の測定サンプルを投入し、標準水流で、15分間処理を1単位として5単位処理した後の露出長1mm以上のスクリム露出数をカウントする。露出数10個以下を合格(○又は◎)とし、露出数に応じて以下の評価基準で評価した。
×:16以上
△:11〜15
○:5〜10
◎:5以下
【実施例】
【0035】
[実施例1〜5]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.17dtex、融点255℃の極細ポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体短繊維とした。熱融着性短繊維として融点181℃のポリエチレンテレフタレートコポリマーからなる単繊維繊度1.7dtex、長さ5mmの全融タイプ熱融着性短繊維キャスベン8000(ユニチカ(株)製1.7T5−8000タイプ)を用いた。
該主体短繊維と該熱融着性短繊維の混合比率が、重量比で95:5(実施例1)、93:7(実施例2)、90:10(実施例3)、80:20(実施例4)、75:25(実施例5)に混合したものを用い、これらの短繊維を水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付110g/mの表面繊維層用抄造シートを作製した。裏面繊維層として該主体短繊維と該熱融着性短繊維の混合比率が、重量比で97:3に混合したものを水中に分散させてスラリーを作製した後、抄造法によって目付60g/mの裏面繊維層用抄造シートを作製した。
表面繊維層用抄造シートと裏面繊維用抄造シートの間に166dtex/48fのポリエチレンテレフタレート糸から成る目付100g/mの織物スクリムを挿入し、3層積層体を作製した。
【0036】
該3層積層体へ直進流噴射ノズルを用いた高速水流を噴射して絡合させて交絡一体化した後に、エアースルー方式のピンテンター乾燥機を用いて100℃で乾燥して3層構造の人工皮革用不織布を得た。
該人工皮革用不織布の表面繊維層の表面を400メッシュのサンドペーパーでバフィングすることによって起毛処理した後にピンテンター乾燥機を用いて200℃で熱処理することで熱融着性短繊維の熱融着処理を行った。
次いで青色分散染料(BlueFBL:住友化学製)を用い、液流染色機にて130℃で染色しスエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革の性能測定値を、以下の表1に示す。
また、上記製造プロセスにおいて、高速水流の噴射による交絡一体化後にピンテンター乾燥機を用いて200℃で乾燥させると同時に熱融着性短繊維の熱融着処理を行った後、起毛処理、次いで染色を行って得た人工皮革はヌバック調であった。
【0037】
[比較例1と2]
実施例1において、表面繊維層の主体短繊維と熱融着性短繊維の混合比率が、重量比で97:3(比較例1)、60:40(比較例2)であることを除き、実施例1と同様にして得られたスエード調人工皮革の性能測定値を、以下の表1に示す。
【0038】
[比較例3]
実施例3において、熱融着性短繊維が、単繊維繊度2.2dtex、長さ5mmの鞘部が融点181℃のポリエチレンテレフタレートコポリマー、芯部が融点255℃のポリエチレンテレフタレートモノポリマーから成る芯鞘型複合タイプの熱融着性短繊維キャスベン8080(ユニチカ(株)製2.2T5−8080タイプ)であることを除き、実施例3と同様にして得られたスエード調人工皮革の性能測定値を、以下の表1に示す。
【0039】
[実施例6]
実施例2において、裏面繊維層が主体短繊維100%であり、織物スクリムを構成する緯糸の3本中1本(緯糸打ち込み本数の33%、経緯トータルの打ち込み本数の17%)が、鞘部が融点180℃のポリエチレンテレフタレートコポリマー、芯部が融点255℃のポリエチレンテレフタレートモノポリマーから成る芯鞘型複合タイプの熱融着性繊維ベルカップル(KBセーレン(株)製167/16LHCタイプ)であることを除き、実施例2と同様にして得られたスエード調人工皮革の性能測定値を、以下の表1に示す。
【0040】
[比較例4]
実施例6において、表面繊維層が主体繊維100%であり、織物スクリムを構成する緯糸の全て(経緯トータルの打ち込み本数の50%)が、鞘部が融点180℃のポリエチレンテレフタレートコポリマー、芯部が融点255℃のポリエチレンテレフタレートモノポリマーから成る芯鞘型複合タイプの熱融着性繊維ベルカップル(KBセーレン(株)製167/16LHCタイプ)であることを除き、実施例6と同様にして得られたスエード調人工皮革の性能測定値を、以下の表1に示す。
【0041】
[比較例5]
実施例3において、表層繊維層の目付が270g/mであり、裏面繊維層とスクリムを用いず、表面繊維層のみの単層構造であることを除き、実施例3と同様にして得られたスエード調人工皮革の性能測定値を、以下の表1に示す。
【0042】
[実施例7]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.6tex、融点253℃の極細ナイロン66繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体短繊維とした。熱融着性短繊維として融点135℃のナイロンコポリマーから成る長さ5mmの全融タイプ熱融着性短繊維FLOR−M(ユニチカ(株)製1350タイプ)を用いた。
該主体短繊維と該熱融着性短繊維の混合比率が、重量比で90:10に混合したものを用い、これらの短繊維を水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付110g/mの表面繊維層用抄造シートを作製した。裏面繊維層として該主体短繊維と該熱融着性短繊維の混合比率が、重量比で97:3に混合したものを水中に分散させてスラリーを作製した後、抄造法によって目付60g/mの裏面繊維層用抄造シートを作製した。
【0043】
表面繊維層用抄造シートと裏面繊維用抄造シートの間に110dtex/48fのナイロン66糸から成る目付60g/mの織物スクリムを挿入し、3層積層体を作製した。
該3層積層体へ直進流噴射ノズルを用いた高速水流を噴射して絡合させて交絡一体化した後に、エアースルー方式のピンテンター乾燥機を用いて100℃で乾燥して3層構造の人工皮革用不織布を得た。
該人工皮革用不織布の表面繊維層の表面を400メッシュのサンドペーパーでバフィングすることによって起毛処理した後にピンテンター乾燥機を用いて160℃で熱処理することで熱融着性短繊維の熱融着処理を行った。
次いで青色酸性染料(Kayanol NavyBlue R:日本化薬製)を用い、液流染色機にて90℃で染色しスエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革の性能測定値を、以下の表1に示す。
【0044】
[比較例6]
実施例7において、主体短繊維の繊維長が7.5mm、表層繊維層の目付が230g/mであり、裏面繊維層とスクリムを用いず、表面繊維層のみの単層構造であることを除き、実施例7と同様にして得られたスエード調人工皮革の性能測定値を、以下の表1に示す。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る人工皮革用不織布を用いて得られる人工皮革は、衣類、靴、鞄、インテリア、自動車や鉄道車両などのシート表皮材や内装材、リボンやワッペン基材などの服飾分野、CDやDVDなどのディスク挿入口カバー、ワイピングクロス、精密研磨布、吸液ロールなどの資材分野などにおいて好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面繊維層と織編物であるスクリム層との少なくとも2層以上の多層構造をもつ人工皮革用不織布であって、以下の特徴:
(1)該表面繊維層が、少なくとも1種以上の主体短繊維と該主体短繊維の融点よりも20℃以上低い融点を持つ熱融着性短繊維から構成される;
(2)該表面繊維層における、該熱融着性短繊維と該主体短繊維との合計に対する該熱融着性短繊維の混合比率は5〜25%の範囲である;
(3)該熱融着性短繊維の一部又は全部が熱溶融して繊維間接着している;及び
(4)該表面繊維層と該スクリム層の間が交絡一体化した構造である;
を有する前記人工皮革用不織布。
【請求項2】
前記熱融着性短繊維が全融タイプの熱融着性短繊維である、請求項1に記載の人工皮革用不織布。
【請求項3】
前記主体短繊維と前記熱融着性短繊維の両者がポリエステル系繊維である、請求項1又は2に記載の人工皮革用不織布。
【請求項4】
前記主体短繊維と前記熱融着性短繊維の両者がポリアミド系繊維である、請求項1又は2に記載の人工皮革用不織布。
【請求項5】
表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の3層構造をもつ、請求項1〜4のいずれか1項に記載の人工皮革用不織布。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の人工皮革用不織布の表面繊維層の表面を、下記(1)又は(2):
(1)前記熱融着性短繊維を熱融着処理する前に起毛処理する;
(2)前記熱融着性短繊維を熱融着処理した後に起毛処理する;
のいずれかの工程で起毛処理して得られるスエード調又はヌバック調人工皮革。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の人工皮革用不織布の表面に被覆層を有する銀付き調人工皮革。

【公開番号】特開2011−231436(P2011−231436A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105306(P2010−105306)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】