説明

人工股関節臼蓋術中支援治具

【課題】術前に準備したコンピュータ三次元形状モデルを使って、術中は簡単な構造の治具を用いて、臼蓋穴のリーミングや、臼蓋カップを設置する術中操作を容易に行えるようにする。
【解決手段】本発明による人工股関節臼蓋術中支援治具は、骨盤の臼蓋に複数箇所設定されている臼蓋指示点に位置決めされる臼蓋ピン40a乃至40cと臼蓋底の中心位置決めされる臼蓋底ピン42を下端部に保持し、上端部には軸線で交差する照準部32を有する照準シャフト22と、骨盤における所定の特徴点に下端部が位置決めされる特徴点指示軸24と、照準シャフト22と特徴点指示軸24を平行に保持するとともに、特徴点指示軸24の軸方向と直角な方向に特徴点指示軸24の位置を位置決めする位置決め腕26と、位置決め腕26に一端が揺動自在に連結され骨盤における所定の特徴点に他端が固定される支持シャフト28と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾病や外傷によって破壊された股関節を人工股関節に置換する外科手術で利用される人工股関節臼蓋術中支援治具に関する。
【背景技術】
【0002】
股関節は下肢にある関節の中でも最も重要な関節であり、そこに不具合があると、歩行をはじめとして日常生活に重大な支障が生じる。そして、股関節は外傷により破壊されたり、加齢によって軟骨が変性破壊され関節症に至ることの多い部位でもある。
【0003】
股関節の関節症に対する外科的治療としては、破壊された軟骨を取り去って人工股関節を嵌め込み、金属とプラスチックとの接触で関節機能を再建する人工関節置換術が、最も安定した機能の改善が図られる治療方法として広く実施されている。
【0004】
人工股関節は、臼蓋カップと大腿骨ステムとからなり、臼蓋カップと大腿骨ステムを設置する位置、すなわちそれぞれ骨を摘出した位置の正確さがその人工股関節の適正な動作保証や耐久性に大きく影響する。
【0005】
従来、人工股関節の設置位置は、手術前に、患者の正面と側面のX線写真に、正面および側面の2方向からの投影輪郭が印刷されている透明なシートを重ね合わせることにより決定していた。しかし、この方法では、骨形状の把握がX線の照射方向や撮影時の患者の位置に影響され、正確さに欠けるという問題があった。
【0006】
近年では、X線画像の骨陰影に、CTやMRIで作成した骨形状の3次元モデルのイメージマッチングを行い、起立位の骨形状を3次元的に把握できるようにしたコンビュータシステムが開発されている。このコンピュータシステムに、人工関節のCADデータによる三次元形状モデルを呼び込み、骨形状と荷重環境に適用した人工関節の大きさと位置を決定できるようにしたシステムが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0007】
そして、このようなコンビュータシステムは、人工股関節の臼蓋カップの設置位置の術前決定に用いるだけでなく、手術中での支援も行えるようにしたナビゲーションシステムとしても実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−144454号公報
【特許文献2】特開2004−008707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記したような従来のナビゲーションシステムは、操作が複雑であり、また装置自体が大型で高価であり、大病院でなければ、手術室への導入が困難であるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、術前にコンピュータ三次元形状モデルを使って臼蓋カップの設置位置を決定しておいてから、術中は簡単な構造の治具を用いて、臼蓋穴のリーミングや、臼蓋カップを設置する術中操作を支援するようにした人工股関節臼蓋術中支援治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、患者の骨盤の臼蓋に人工股関節の臼蓋コンポーネントを設置する手術を支援する人工股関節臼蓋術中支援治具であって、前記骨盤の臼蓋に複数箇所設定されている臼蓋指示点に位置決めされる臼蓋ピンと臼蓋底の中心位置決めされる臼蓋底ピンを下端部に保持し、上端部には軸線で交差する照準部を有する照準シャフトと、前記骨盤における所定の特徴点に下端部が位置決めされる特徴点指示軸と、前記照準シャフトと前記特徴点指示軸を平行に保持するとともに、前記特徴点指示軸の軸方向と直角な方向に当該特徴点指示軸の位置を位置決めする位置決め腕と、前記位置決め腕に一端が揺動自在に連結され、骨盤における所定の特徴点に他端が固定される支持シャフトと、からなることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】人工股関節置換手術で用いられる人工股関節の説明図。
【図2】骨盤形状三次元モデルにおける骨盤臼蓋を示す平面図。
【図3】骨盤形状三次元モデルの全体を示す立体図。
【図4】本発明の一実施形態による人工股関節臼蓋術中支援治具を示す側面図。
【図5】本発明の一実施形態による人工股関節臼蓋術中支援治具を示す平面図。
【図6】本発明の一実施形態による人工股関節臼蓋術中支援治具の支持シャフトを示す一部断面側面図。
【図7】本発明の他の実施形態による人工股関節臼蓋術中支援治具を示す側面図。
【図8】人工股関節臼蓋術中支援治具を骨盤に設置したときの各部の位置関係を示す模式図。
【図9】骨盤形状の三次元モデルにおいて、人工股関節臼蓋術中支援治具の照準シャフトと臼蓋との位置関係の説明図。
【図10】術中に、人工股関節臼蓋術中支援治具の照準シャフトを上からのぞいたときに見える臼蓋の説明図。
【図11】人工股関節臼蓋術中支援治具を利用した臼蓋穴のリーミング操作の説明図。
【図12】人工股関節臼蓋術中支援治具を利用した臼蓋コンポーネントの位置確認操作の説明図。
【図13】骨盤形状の三次元モデルにおいて、人工股関節臼蓋術中支援治具の照準シャフトと臼蓋コンポーネントとの位置関係の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による人工股関節臼蓋術中支援治具の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、人工股関節置換手術で使用される人工股関節を示す。図1において、参照番号10は骨盤を示し、参照番号12は大腿骨を示している。この人工股関節は、大腿骨12に接合される大腿骨ステム14と、骨盤臼蓋に埋め込まれる半球状の臼蓋コンポーネント16と、大腿骨ステム14に取り付けられ、臼蓋コンポーネント16に傾動自在なヘッド18とから構成されている。臼蓋コンポーネント16は、金属製のアウターシェル19と、ヘッド18を受ける樹脂製のインナーカップ20とから構成されている。
【0014】
人工股関節置換手術では、骨盤臼蓋から軟骨を切除し、さらに、臼蓋の骨を削って半球状の穴を設け、この穴に臼蓋コンポーネント16を装着する。他方、大腿骨12には、大腿骨頭を摘出してから、大腿骨ステム14が挿入される。
【0015】
次に、図2は、コンピュータ上の骨盤形状三次元モデルにおける臼蓋を表した図であり、図3は、骨盤形状3次元モデルの全体を示す図である。術前計画では、コンピュータ上の骨盤形状三次元モデルで臼蓋の三次元的位置を評価するために、次のように三次元座標系と、本発明の人工股関節臼蓋術中支援治具を骨盤に固定するときに参照する複数の参照点が設定されている。
【0016】
まず、図2、図3において、Oは臼蓋底の中心を示す。臼蓋底の中心Oを通り、臼蓋の輪郭を半球と見立てた場合に、半球平面に垂直なベクトルを法線ベクトルncと定義する。臼蓋の半球平面上にある互いに直交する軸を、患者の身体前方向であるYc軸、骨盤における特徴点である前上腸骨棘(ASIS)のある方向であるZc軸とする。Xc軸上には、法線ベクトルncがある。
【0017】
このように座標系を設定してから、臼蓋における参照点A、B、Cを設定する。この場合、参照点A、B、Cは、Yc−Zc平面上にある点であり、次に説明する人工股関節臼蓋術中支援治具の照準シャフトの臼蓋ピンが接触する点である。
【0018】
また、この他にも参照点としては、図3に示すように、骨盤においてとりわけ目立つ特徴点である前上腸骨棘ASISと、腸骨稜点Dがある。前上腸骨棘ASISは、骨盤に2箇所あるが、参照点となるのは、手術する臼蓋に近い方の術側前上腸骨棘ASISである。前上腸骨棘ASISは、本発明の人工股関節臼蓋術中支援治具のASIS指示軸の固定にあたって参照する点である。腸骨稜点Dは、人工股関節臼蓋術中支援治具の腸骨稜点指示軸の固定にあたって参照する点である。
【0019】
次に、図4は本実施形態による人工股関節臼蓋術中支援治具を示す側面図、図5は、人工股関節臼蓋術中支援治具を示す平面図である。
【0020】
図4、図5において、本実施形態の人工股関節臼蓋術中支援治具は、大きくわけると、照準シャフト22と、ASIS指示軸24と、このASIS指示軸24を位置決めする位置決め腕26と、治具の支柱である支持シャフト28と、を主要な構成要素にして構成されている。
【0021】
まず、位置決め腕26の一端側には、半円状に湾曲した照準固定枠30が固着されている。この照準固定枠30には、次のような構成の照準シャフト22が位置決め腕26の長手方向に対して直角に取り付けられている。
【0022】
この照準シャフト22の上端部には、4枚の矢羽29が十字をなすように固着されており、これら矢羽29によって照準円筒32が照準シャフト22と同軸に保持されることで、照準部が構成されている。図5に示されるように、照準円筒32には突き出るように固定駒33が取り付けられている。照準固定枠30のボス部34には、固定駒33を挟むように止めピン35と固定ねじ36が設けられている。固定ねじ36をボス部34にねじ込むことで、照準円筒32を照準固定枠30に固定することができ、逆に固定ねじ36を戻すことで、照準円筒32を照準固定枠30から外すことができるようになっている。
【0023】
他方、照準シャフト22の下端には、三叉形のピンホルダ38が着脱可能に固定されている。このピンホルダ38には、3本の臼蓋ピン40a、40b、40cがそれぞれローレットノブ41によって固定されている。この場合、臼蓋ピン40a、40b、40cは、照準シャフト22の軸心に関して120°対称に配置されている。これら3本の臼蓋ピン40a、40b、40cは、実際の患者の骨盤における臼蓋の参照点A、B、Cに接触するように位置決めされることになる。
【0024】
また、臼蓋ピン40a、40b、40cは、それぞれ固定駒39に移動可能に嵌合しており、各臼蓋ピン40a、40b、40cがピンホルダ33から突き出る長さを調整することができる。ピンホルダ38の底面には、照準シャフト22と軸心が一致するように臼蓋底指示ピン42が固定されている。照準シャフト22からピンホルダ38を取り外す場合にはローレットノブ43を緩めることで取り外せることができる。
【0025】
なお、図5に示すように、照準円筒32を上からのぞき込むと、ピンホルダ38の中心と十字をなす矢羽29の交差点とが一致するように見える。
【0026】
次に、支持シャフト28は、ヒンジピン44を介して揺動自在に照準固定枠30に連結されている。この実施形態では、図6に示されるように、支持シャフト28は中空になっていて、腸骨稜指示軸46が軸方向に移動可能に挿入されている。この腸骨稜指示軸46は、ローレットノブ47によって支持シャフト28から伸びる長さを調整することができるようになっている。腸骨稜指示軸46の先端には、骨盤にピンを差し込んで腸骨稜指示軸46を骨盤に固定するためのプレート49が取り付けられている。また支持シャフト28では、支柱部48が一体的に略直角に一体成形されており、この支柱部48には、腸骨稜指示軸46を固定するための固定駒50が取り付けられている。
【0027】
次に、ASIS指示軸24について説明する。図4に示すように、位置決め腕26は、上下2枚の細長い平行なガイド板52a、52bを有しており、このガイド板52a、52bに沿ってスライド部材54が摺動自在に係合している。ASIS指示軸24は、このスライド部材54に挿通されるようにして、位置決め腕26の長手方向と直角に支持されている。図5に示されるように、ガイド板52a、52bには長溝56が長手方向に形成されており、この長溝56があるため、スライド部材54とともにASIS指示軸24は、位置決め腕26の長手方向への移動も可能になっている。
【0028】
ASIS指示軸24の上部外周部には、雄ねじ57が形成されており、この雄ねじ57には、ローレットナットからなる調整つまみ58、59が螺合するようになっている。この調整つまみ58、59を使って、位置決め腕26からASIS指示軸24の先端までの長さを調整し、また、ASIS指示軸24を固定することができる。この実施形態では、ASIS指示軸24にその長さを示すスケール60が刻まれている。同様に、位置決め腕26の長溝56にそってスケール62が刻まれている。このスケール62は、照準シャフトシャフト22とASIS指示軸24との距離を示している。ASIS指示軸24の先端には、ローレットノブ63を介してASIS指示軸24を固定するための固定駒64が取り付けられている。
【0029】
以上のようなASIS指示軸24は、照準シャフト22と平行になるように位置決め腕26に取り付けられている。
【0030】
なお、図7に示す人工股関節臼蓋術中支援治具は、照準シャフト22と、ASIS指示軸24、支持シャフト28に加えて、補助支持シャフト66を付加した実施形態である。治具をより安定させる場合には、この実施形態のように、補助支持シャフト66を付加するようにしてもよい。
【0031】
本実施形態による人工股関節臼蓋術中支援治具は、以上のように構成されるものであり、次に、人工股関節置換手術での使用法との関連において作用並びに効果について説明する。
【0032】
術前計画
コンピュータ上では、患者のCTデータに基づいて骨盤形状の3次元モデルが構築されており、この骨盤形状の3次元モデルを利用して、人工股関節の臼蓋コンポーネント16を設置する位置が術前計画で決定され、図2、図3に示したように、法線ベクトルnc、3次元座標系と、本発明の人工股関節臼蓋術中支援治具(以下、術中支援治具という)を骨盤に固定するときに参照する基準点である、前上腸骨棘ASIS、臼蓋内の参照点A、B、C、腸骨稜点Dが設定されている。
【0033】
まず、コンピュータ上の骨盤形状3次元モデルにおいて、前上腸骨棘ASIS、参照点A、B、C、腸骨稜点Dなどの参照点と、術中支援治具を構成する照準シャフト22やASIS指示軸24、支持シャフト28との位置関係は図8に示すようになる。
【0034】
照準シャフト22の下端部にある3本の臼蓋ピン40a、40b、40cの先端は、臼蓋内壁の参照点A、B、Cに位置している状態にして、照準シャフト22は、臼蓋に設定した法線ベクトルncと一致する方向に位置決めされる。ASIS指示軸24の下端は、前上腸骨棘ASIS上に位置決めされる。また、支持シャフト28の下端部にある腸骨稜支持軸46の先端は、腸骨稜点D上に位置決めされる。
【0035】
このとき、照準シャフト22とASIS指示軸24とは平行であるので、臼蓋底の中心Oと前上腸骨棘ASISとの距離Lは、照準シャフト22とASIS指示軸24とを支持する位置決め腕26の腕の長さL’に等しくなる。
【0036】
そこで、コンピュータ上の骨盤形状3次元モデルに基づいて、臼蓋底の中心Oと前上腸骨棘ASISとの距離Lを求めておく。さらに、図9において、臼蓋の半球平面上の中心O’の位置を求め、この中心O’からそれぞれ参照点A、B、Cまでの距離を求めておく。
【0037】
次に、上記で求めたこれらの距離に合わせて、術中支援治具を調整することになる。
図4、図5において、臼蓋底の中心Oと前上腸骨棘ASISとの距離Lと同じ距離になるように、スケール62を見ながらスライド部材54とともにASIS指示軸24をスライドさせてからASIS指示軸24を固定する。
【0038】
同様に、臼蓋ピン40a、40b、40cのそれぞれについて、先端までの距離が中心O’からそれぞれ参照点A、B、Cまでの距離に一致するように調整しておく。
【0039】
術中での支援治具の設置
次に、図9は、コンピュータ上の骨盤形状3次元モデルにおいて、術中支援治具の照準シャフト22の下端部にある臼蓋ピン40a、40b、40cを臼蓋内壁の参照点A、B、Cに位置決めした場合に、上から照準円筒32をのぞき込んだときにどうように見えるかをコンピュータ上で照準シャフト22のCADデータを合成して表示した画像を簡略に示す図である。
患者の骨盤の臼蓋に、その参照点であるA、B、Cに臼蓋ピン40a、40b、40cを位置決めした場合には、臼蓋の法線ベクトルncに対して照準シャフト22の軸線が一致していれば、図10のように見えるはずである。
【0040】
もし、臼蓋の法線ベクトルncに対して照準シャフト22の軸線が傾いていたり、参照点A、B、Cに対して臼蓋ピン40a、40b、40cが正確に位置決めされていない場合には、見え方が図9と図10とでは違ってくる。
【0041】
したがって、上記の調整が済んだ術中支援治具を、術前計画に従って患者の骨盤に設置した場合には、実際に照準シャフト22を上から見ると、各参照点A、B、Cを指示する臼蓋ピン40a、40b、40cおよび照準円筒32で十字をなす矢羽29の位置関係が図9に示した術前計画のコンビュータ上のモデル画像と一致すれば、術中支援治具が正しく位置決めされたことになる。
【0042】
こうして、術中支援治具が正確に位置決めされたことを確認したら、ASIS指示軸24の固定駒64および腸骨稜指示軸46の固定駒49にピンを差し込んで骨盤に固定する。
【0043】
術中操作
次に、術中支援治具を利用しながら行う術中操作について説明する。この術中操作として主なものには、臼蓋穴のリーミング、人工関節の臼蓋コンポーネント16のアウターシェル19およびインナーカップ20の骨盤への設置、臼蓋コンポーネント16の設置の確認がある。
【0044】
まず、図11は、臼蓋穴のリーミング操作を示す。リーマーシャフト70の先端にリーマー72を取り付けたリーミング器具を使って、術中支援治具によりリーマーシャフト70の位置を管理する。
【0045】
臼蓋穴のリーミングを行う場合、術中支援治具では、照準シャフト22は取り外される。その替わりに、リーミングの最中は、半円状の照準固定枠30の円弧中心にリーマーシャフト70が位置し、かつ、このリーマーシャフト70がASIS指示軸24に平行に保たれるように管理する。このようにリーマーシャフト70の姿勢を管理することによって、リーマーシャフト70は臼蓋の法線ベクトルncと一致する状態に保たれるので、術前計画通りに臼蓋穴をリーミングすることが容易になる。
【0046】
リーミングが完了したら、次は、公知の図示しない取付器具を利用して、臼蓋コンポーネント16を構成する部品のうち、先にアウターシェル19を臼蓋穴に挿入する。アウターシェル19を取り付けたあと、図示しないインナーカップ挿入器を利用して、インナーカップ20をアウターシェル19に取り付けることになる。なお、このような臼蓋コンポーネント16の設置操作の間、術中支援治具では照準シャフト22が取り外されているので、設置操作の邪魔になることはない。
【0047】
こうして、臼蓋コンポーネント16を骨盤に設置したら、次のように術中支援治具を利用して、設置が正しく行われたかどうかを確認する。
図12において、照準シャフト22の下端部からは、臼蓋ピン40a、40b、40cを保持するピンホルダ38を取り外し、このピンホルダ38の替わりに、インナーカップ20に嵌合する半球形状のボール部材74を取り付けておき、照準シャフト22の長さを術前計画で求められている長さに調整しておく。
【0048】
この場合、照準シャフト22にボール部材74を取り付け、このボール部材74をインナーカップ20に嵌合させた場合に、照準シャフト22を上から見るとどのように見えるかは、骨盤形状3次元モデルに基づいて、コンピュータ上で画像が作成されている。例えば、図13はその画像の例である。
【0049】
したがって、照準シャフト22を上から見た場合に、図 に示した術前計画のコンビュータ上のモデル画像と一致すれば、臼蓋コンポーネント16が正しく骨盤に設置されたことになる。
【0050】
以上のように術中支援治具を骨盤に設置することで、術前計画で求めておいたモデル画像と比較しながら、臼蓋コンポーネントを正確に設置することができる。
【0051】
術中操作の他の方法
上述した術中支援治具を利用しながら行う術中操作では、図4に示した術中支援治具を用いているが、図7に示した実施形態の術中支援治具を用いる場合には、臼蓋穴のリーミングを次のように行ってもよい。
【0052】
図7の術中支援治具では、補助支持シャフト66が付加されており、この補助支持シャフト66は、鋼線が通れるように中空のシャフトである。リーミングをする前準備として、補助支持シャフト66をガイドに利用して、患者の骨盤に鋼線を打つ。術中支援治具からは照準シャフト22をあえて取り外すことはせず、鋼線が法線ベクトルncと平行になるように適正に打たれたら、鋼線を残して術中支援治具全体を骨盤から取り外すことになる。
【0053】
他方、残った鋼線は、法線ベクトルncと平行になっているので、この鋼線を基準にしてリーマーシャフトの姿勢を管理しながら、簡易な方法により臼蓋穴のリーミングを行うようにしてもよい。
臼蓋穴のリーミングについては、上記の鋼線を利用して次のようにしてもよい。すなわち、上記のようにして患者の骨盤に鋼線を打った後、鋼線を残して術中支援治具を取り外す。その替わりに、術中支援治具の半円状の照準固定枠30に形状の類似した簡素なリーミング用治具を鋼線に取り付け、このリーミング用治具を利用してリーミングシャフトの姿勢を管理しながら、臼蓋穴のリーミングを行うようにしてもよい。
以上、本発明について、好適な実施形態を挙げて説明したが、術中支援治具を用いた術中操作は、上記実施形態に限定されるものではなく、従来から用いられている器具と組み合わせるなどして、さまざまな術中操作が可能である。
【符号の説明】
【0054】
10…骨盤、12…大腿骨、14…大腿骨ステム、16…臼蓋コンポーネント、22…照準シャフト、24…ASIS指示軸、26…位置決め腕、28…支持シャフト、29…矢羽、30…照準固定枠、32…照準円筒、38…ピンホルダ、40a、40b、40c…臼蓋ピン、46…腸骨稜指示軸、ASIS…前上腸骨棘、A、B、C…臼蓋のおける参照点、D…腸骨稜点、nc…法線ベクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の骨盤の臼蓋に人工股関節の臼蓋コンポーネントを設置する手術を支援する人工股関節臼蓋術中支援治具であって、
前記骨盤の臼蓋に複数箇所設定されている臼蓋指示点に位置決めされる臼蓋ピンと臼蓋底の中心位置決めされる臼蓋底ピンを下端部に保持し、上端部には軸線で交差する照準部を有する照準シャフトと、
前記骨盤における所定の特徴点に下端部が位置決めされる特徴点指示軸と、
前記照準シャフトと前記特徴点指示軸を平行に保持するとともに、前記特徴点指示軸の軸方向と直角な方向に当該特徴点指示軸の位置を位置決めする位置決め腕と、
前記位置決め腕に一端が揺動自在に連結され、骨盤における所定の特徴点に他端が固定される支持シャフトと、
からなることを特徴とする人工股関節臼蓋術中支援治具。
【請求項2】
前記照準シャフトは、前記位置決め腕に設けられている照準固定枠に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の人工股関節臼蓋術中支援治具。
【請求項3】
前記照準シャフトの下端部には 前記臼蓋ピンと前記臼蓋底ピンを保持するピンホルダが着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の人工股関節臼蓋術中支援治具。
【請求項4】
臼蓋に定義された法線ベクトルに対して垂直な平面上に前記臼蓋指示点が設定されることを特徴とする請求項1に記載の人工股関節臼蓋術中支援治具。
【請求項5】
前記照準シャフトの下端部には、前記ピンホルダと交換して、骨盤に設置された臼蓋コンポーネントに装着可能なボール部材が取り付け可能であることを特徴とする請求項3に記載の人工股関節臼蓋術中支援治具。
【請求項6】
前記特徴点指示軸が位置決めされる骨盤上の特徴点は、前上腸骨棘であることを特徴とする請求項1に記載の人工股関節臼蓋術中支援治具。
【請求項7】
前記支持シャフトが位置決めされる骨盤上の特徴点は、腸骨稜点であることを特徴とする請求項1に記載の人工股関節臼蓋術中支援治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−231988(P2012−231988A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102959(P2011−102959)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.研究集会名 第37回 日本臨床バイオメカニクス学会 2.主催者名 中村孝志、堤 定美 3.開催日 平成22年11月 1日
【出願人】(596053415)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】