説明

人工膜を用いた膜透過性の評価方法及びスクリーニング方法

【課題】廉価で製造可能な合成高分子化合物を利用し、薬物の脂質膜透過性を従来法よりもインビボでの薬物透過性と相関が高くかつ、煩雑な操作や難解な計算を用いることなく、効率的かつ短時間に評価する方法を提供する。
【解決手段】式(I)で表される繰り返し単位を有し、分子量5000乃至500000の高分子化合物を含む人工膜を用いることを特徴とする被験物質の膜透過性測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質に類似した高分子化合物を含む人工膜を用いることを特徴とする、被験物質の膜透過性測定方法に関する。またさらには、当該人工膜を用いた膜透過性測定装置、膜透過性測定キットおよび当該方法によって得られた測定データに基づく被験物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経口投与された医薬品の薬効成分(以下「薬物」という。)は消化管からの吸収、体内への分布過程を経て薬効を発揮し、代謝、排泄過程を経て体内から消失する。そして現在、優れた医薬品の具備すべき条件の一つに優れた吸収特性が挙げられており、吸収過程の評価は必須となっている。薬物の吸収過程は製剤からの薬物の溶出と、それに続く、薬物の消化管脂質膜透過の過程の二つに分類される。経口投与された医薬品は、薬物の水への溶解速度が十分に速い場合、その吸収の律速段階は消化管脂質膜透過性となる。従って、脂質膜透過性を何らかの方法で把握することは医薬品の開発において必須試験系の一つである。
また一方で、医薬品開発のコストは増大し、医薬品開発競争は激化していることから、脂質膜透過性のin vitroでの評価には、生体における実際の消化管吸収性との高い相関性はもちろんのこと、さらに低コスト性や迅速性も求められている。したがって、これらの要望を満たす脂質膜透過性の評価方法が、医薬品の開発を低コストかつ効率的評価を進める上で望まれてきた。
in vitroで用いる脂質膜透過の評価方法としては、従来、CaCo−2やMadin−Darby canine kidney(MDCK)などの単層細胞膜系を用いる方法、あるいは実験動物からの摘出臓器を用いる方法が用いられてきた(非特許文献1,2および3)。しかしながらこれらの方法は、長時間の細胞培養あるいは大量の動物の犠殺を必要とし、コスト、スループットおよび倫理上の問題などから、大規模スクリーニング系としては不十分である。
これに対し、脂質膜透過をin vitroで低コストかつ迅速に評価可能な方法として、前記のような生物由来の脂質膜ではなく、フィルターに脂質などを保持した人工脂質膜を用いる方法も知られるようになってきた。特に、arallel rtificial embrane ermeation ssay(以下PAMPA法)は広く利用されており(非特許文献4、5、6、7、8)、また、PAMPA法に利用可能で更なる改良を加えた人工脂質膜も報告されている(特許文献1、2、非特許文献9、10)。
しかしながら、これら既存の人工脂質膜を用いた方法では、被験物質の透過性が低いために、特に低透過性物質の評価に難点があった。また、in vivoでの生体膜透過性との相関が悪い、測定時間が長い、データの解析方法が難解である、多種類の脂質を溶解する必要がある、或いは試験の準備が非常に煩雑などの課題もあった。
【非特許文献1】Fujikawa M.et al.;Bioorg.Med.Chem.,13,4721−4730,2005
【非特許文献2】Bohet H.et al.;J Curr.Top Med.Chem.,1(5),367−383,2001
【非特許文献3】Tian.R.;Pharm.Res.;19(6):802−809,2002
【非特許文献4】Kansy M.et al.;J.Med.Chem.,41、1007−1010,1998
【非特許文献5】Sugano K.et al.;Int.J.Pharm.,257,245−251,2003
【非特許文献6】Wohnsland F.et al.;J.Med.Chem.,44,923−930,2001
【非特許文献7】Scmmidt D.et al.;Millopore Application Note,Lit. No. AN1725EN00,millipore Corporation,2002
【非特許文献8】Scmmidt D. et al.;Millopore Application Note,Lit. No. AN1729EN00,millipore Corporation,2003
【非特許文献9】Ruell J.A.;Eur.J.Pharm.Sci.;22,365−374,2004
【非特許文献10】Chen X.et al.“A Novel Design of Artificial Membrane for Improving the PAMPA Model” Pharm Res.,2008年1月10日オンライン公開
【特許文献1】国際公開第01/070380号パンフレット
【特許文献2】特開2005−221442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、廉価で製造可能な合成高分子化合物を利用し、薬物の脂質膜透過性を従来の方法よりもin vivoでの薬物透過性と相関が高くかつ、煩雑な操作や難解な計算を用いることなく、効率的かつ短時間に評価することを課題とする。また本発明の目的は、医薬品の開発を進める上で薬物の消化管吸収性を低コストに把握するために有用である、薬物の脂質膜透過性を評価する人工膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成するため、人工膜に添加することで膜透過性を改良する化合物について鋭意探索を行ったところ、下記一般式で表される高分子化合物を含む人工膜が迅速な薬物の透過効果を有すること、さらにこの人工膜を用いる膜透過性測定方法がin vivoでの薬物透過性と高い相関を示すことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下によって構成されるものである。
1)
式(I)
【化1】


[式中、XとYの比率が99:1乃至1:99であり、nは2乃至10の整数、Rは水素原子又はOR(式中、Rは水素原子、C1-8アルキル基又はC6-14アリール基を表す。)を意味する。]で表される繰り返し単位を有し、分子量が5000乃至500000である高分子化合物を含む人工膜を用いることを特徴とする被験物質の膜透過性測定方法。
2)
式(I)のXとYの比率が1:2乃至1:3であり、nが4であり、Rが水素原子であり、かつ高分子化合物の分子量が20000乃至200000の範囲であることを特徴とする1)に記載の被験物質の膜透過性測定方法。
3)
(1)人工膜の一方面に被験物質を含む溶液が接するように配置する工程、(2)当該人工膜の他方面に前記被験物質を含まない溶液が接するように配置する工程、(3)所定時間に当該人工膜及び溶液を一定温度に保つ工程、(4)前記一方面側及び/または前記他方面側の前記被験物質の量を測定する工程、及び(5)測定された量に基づき前記被験物質の膜透過性を評価する工程を含むことを特徴とする1)又は2)に記載の被験物質の膜透過性測定方法。
4)
3)に記載の人工膜及び溶液を収容する容器から構成される膜透過性測定キット。
5)
3)に記載の膜透過性測定方法により得られた被験物質の膜透過性のデータに基づき、所望の被験物質を選択することを特徴とする被験物質のスクリーニング方法。
6)
被験物質が医薬品用途の薬剤である5)に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0005】
当該発明の方法により、低コスト、高スループットかつ迅速に、薬物の脂質膜透過性を評価する事ができる。すなわち、本発明の方法により作成された脂質透過性の評価キットは、医薬品の開発を低コストかつ迅速に進める上で有用であり、治療方法が確立していない疾患の薬剤治療の開発の可能性を高めるとともに、薬剤治療における最終的なコストを下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
本発明の方法における人工膜は、多孔質の支持体に高分子化合物を添加することにより構築される。このような支持体の形態としては、例えばシート状あるいは膜状の円形或いは四角形であることが望ましい。大きさは、円形の場合、直径0.01〜4cm、好ましくは0.05〜2cm、さらに好ましくは0.1〜1cmのものが用いられる。厚さは、好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは20〜100μmのものが用いられる。材質としては、例えば、ガラスファイバー、ポリカーボネート、ポリプロピレン、セルロースアセテート、ポリエーテル・サルフォン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)が使用できるが、より好ましくは、PVDFが使用される。孔径は、好ましくは0.01〜20μm、より好ましくは0.05〜10μm、さらに好ましくは0.1〜5μm、最も好ましくは0.1〜1μm程度のものが用いられる。
【0007】
本発明の方法において、多孔質の支持体に添加される高分子化合物としては、以下の一般式で示される繰り返し単位を有する化合物が挙げられる。
式(I)
【化2】


当該高分子化合物の共重合成分である2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは、例えば、2−ブロモエチルホスホリルジクロリドと2−ヒドロキシエチルメタクリレートを反応させ、2−メタクリロイルオキシエチル2’−ブロモエチルリン酸(MBP)を得、このMBPをトリメチルアミンのメタノール溶液中で反応させて得ることができる。一方の共重合成分であるメタクリル酸エステルの具体的な例としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシプロピル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸2−ブトキシエチル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−メトキシプロピル、メタクリル酸3−フェノキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−メトキシブチル、メタクリル酸4−フェノキシブチル等が挙げられる。この中では、メタクリル酸ブチルが最も好ましい。
【0008】
当該高分子化合物の製造は、例えば2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリル酸エステルを不活性ガスの雰囲気下でラジカル重合させることにより調製でき、更に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリル酸エステルの仕込み量を調節することにより、種々の比率の共重合体を得ることができる。その重合の好ましい比率としては、99:1乃至1:99であり、より好ましくは1:1乃至1:5であり、さらに好ましくは1:2乃至1:3である。また、当該高分子化合物の好ましい分子量の範囲は5000乃至5000000であるが、より好ましくは10000乃至2000000、さらに好ましくは20000乃至200000、さらに特に好ましくは30000乃至100000である。分子量の測定は、当該高分子化合物をテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒に溶解した後、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法を用いて計測することができる。この際、標準物質としてはポリスチレンなどを用いればよい。
【0009】
当該高分子化合物を多孔質の支持体に添加する際、当該高分子化合物以外に、他の化合物をさらに添加してもよい。その例としては、炭化水素、アルコール、脂質などが挙げられる。炭化水素としては、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、不飽和でも飽和でも良い。好ましくはヘキサン、ドデカン、ヘキサデカン、ヘプタジエン、オクタジエン、ノナジエンなどが使用される。アルコールとしては、好ましくはエタノール、ブタノール、ヘキサノール、イソプロピルアルコール、ペンタノールなどが使用される。脂質としては、例えば、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、リン脂質、ステロールなどが挙げられる。飽和脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸などがあげられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトレイン酸、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、アラキドン酸などが挙げられる。リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンなどが挙げられる。ステロールとしては、フィトステロール、コレステロールなどが挙げられる。これらの脂質については、ポリエチレングリコールなどで修飾されたものを使用してもよい。
【0010】
以上に述べた炭化水素、アルコール、脂質などは、一種あるいは二種以上を混合して支持体上に添加してもよい。炭化水素、アルコール及び脂質を混合した場合、それらに対する当該高分子化合物の割合は、好ましくは0.001〜10(g/100mL)であり、さらに好ましくは、0.05〜5(g/100mL)であり、特に好ましくは、0.1〜1(g/100mL)である。ここにおいて(g/100mL)は溶質1gを溶媒100mLに溶解させた場合の濃度を言う。これらの添加物の組成及び多孔質の支持体に対する含量は、評価対象となる被験物質の特徴等を考慮して適宜選択することができる。また上記の添加物以外にも、特定の物質を輸送する担体を支持体に含んでもよい。
【0011】
本発明の方法における人工膜は、例えば、Kansy,M.et al.;J. Med. Chem.,41, 1007−1010,1998に記載された方法等に準じて作成することができる。
【0012】
本発明の方法においては、人工膜を用いて被験物質の膜透過性を測定する工程を含むが、測定に使用する人工膜は、測定に先立って作成し保存しておいても、あるいは測定の直前に作成してもよい。作成された脂質膜の一方(A側とする)に被験物質を含む溶液をおき、他方(B側とする)に被験物質を含まない溶媒をおく。このとき、B側の溶媒は、A側の被験物質溶液の溶媒と同じものであることが好ましい。そして、所定の時間内に一定温度に保った(以下、インキュベートしたとも言う)後、A側からB側へ人工膜を透過した被験物質の量を測定する。その際の温度は、好ましくは20〜40℃、より好ましくは35〜40℃、さらに好ましくは37℃程度である。また温度を保つ時間は、好ましくは5〜180分であり、より好ましくは10〜120分、さらに好ましくは20〜60分である。この際、人工膜を透過した被験物質の量を直接定量するのみでなく、人工膜を透過しないでB側に残った被験物質の量を測定することで、人工膜を透過した被験物質の量を算出してもよい。
【0013】
人工膜の設置方向は、重力に対していずれの方向であってもよく、例えば、重力に対して、平行に設置しても垂直に設置してもよい。また、被験物質を透過させる方向も特に制限されるものではなく、例えば、重力と同方向であっても逆方向であってもよく、垂直方向であってもよい。
【0014】
測定に際しては、1つの容器を人工膜で2つの区画に分けて使用してもよいが、被験物質溶液を入れる容器と、被験物質を含まない溶媒を入れる容器を別々に用意してもよい。例えば、底部に多孔質の支持体が付いた筒状の上部容器と、トップが開放された下部容器とを組み合わせて使用することもできる。上部容器の下端部と下部容器の上端部が同じサイズであることが好ましい。下部容器に被験物質を含まない溶媒を満たし、上部容器を下部容器の上に載せ、多孔質の支持体上に本発明において記載された化合物を添加した後、上部容器に被験物質溶液を入れ、所定時間経過後に下部容器内の被験物質量を測定してもよい。上部容器と下部容器とは、上部容器のフィルターが下部容器の溶媒と接するようにセットする。上部容器と下部容器の間にフィルターを挟んだ状態で、上下容器の間から液が漏れないように固定できればよい。ゴムパッキングなどを利用してもよい。また、多孔質の支持体は、必ずしも上部容器の底部に固定されている必要はない。
【0015】
また、複数の被験物質の膜透過性を迅速に測定するためには、複数のウェルを有するウェルプレートを使用することが好ましい。複数のウェルを有するウェルプレートを下部容器として使用し、各ウェル中に被験物質を含まない溶媒を満たし、その上を多孔質の支持体で覆ってから、各ウェルと適合する位置に貫通孔を有する上部プレート(上部容器として使用)を載せ、各貫通孔内の多孔質の支持体上に人工膜を形成し、被験物質溶液を入れてもよい。あるいは、上部プレートの各貫通孔の底部にフィルターが設けられていてもよい。例えば、細胞の走化性測定用などに用いられるチャンバープレートなどを利用してもよい。
【0016】
いずれの場合においても、上部容器に被験物質を含まない溶媒を入れ、下部容器に被験物質溶液を入れてもよい。
【0017】
人工膜を透過した被験物質の定量方法としては、例えば、吸光度測定法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法、薄層クロマトグラフィ(TLC)法、ガスクロマトグラフィ−マススペクトル(GC−MS)法、液体クロマトグラフィ−マススペクトル(LC−MS)法、蛍光法、核磁気共鳴(NMR)法、赤外分光法、放射性同位元素法、キャピラリー電気泳動(CE)法等を用いることができるが、好ましくは、吸光度、HPLC法、LC−MS法が用いられる。
【0018】
本発明においては、下記の実施例に示したように、Kansy,M.et al.;J.Med.Chem.,41,1007−1010,1998に記載の方法に準じて被験物質の膜透過性を測定したが、それ以外にも、例えば、Sugano K.et al.;Int.J.Pharm.,257,241−251,2003に記載の方法、Obata K.et al.;Drug Dev.Ind.Pharm.;30(2),181−185,2004に記載の方法、Ruell J.A.;Eur.J.Pharm.Sci.;22,365−374,2004に記載の方法、AAPS PharmSci.;1(4):E18、1999に記載の方法等に準じて被験物質の膜透過性を測定することができる。
【0019】
本発明の人工膜を用いて被験物質をスクリーニングするには、上述のようにして、被験物質の膜透過性を測定し、所定の膜透過性を有する被験物質を選択する。このとき、何らかの基準物質を用いて、当該基準物質よりも膜透過性が高いものまたは低いものを選択してもよい。あるいは当該基準物質と同等の膜透過性を有する被験物質を選択してもよい。
【0020】
本発明の方法において評価対象となる被験物質は、ヒト体内での消化管からの吸収特性を調べる要望のある物質であれば何でもよく、その生理活性、物性や構造などから制限されるものではない。被験物質の例としては、医薬品、薬物、農薬、農薬原体、食品添加物、医薬品として開発段階にある化合物、医薬品としての効果を評価するため収集した化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明のスクリーニングキットは、こうしたスクリーニング方法を迅速・簡便に行う上で役立つものであり、本発明の方法に記載された化合物、および使用説明書を含むものであるが、それ以外に、人工膜の支持体(例えば、フィルターペーパーなど)、膜透過性の測定に使用するウェルプレート、膜透過性測定時の基準物質、特定の物質を輸送する担体、被験物質溶解用の溶媒等を含んでもよい。また、本発明のスクリーニングキットは、ウェルプレートのウェル内に予め人工膜を形成したものであってもよく、例えば、支持体上に予め形成された人工膜を含んでもよい。
【0022】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。例えば、調製される人工膜の厚さ、化合物濃度、溶媒、温度、時間、被験物質の濃度などは、評価対象となる被験物質に合わせて適宜変更できる。
【実施例】
【0023】
(実施例1 被験物質の膜透過性測定)
「人工脂質膜の調製」
式(I)に示される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体であり、XとYの比率が3:7であり、nが4であり、Rが水素原子であり、分子量が約10万であるPUREBRIGHT MB-37-100T(市販品;日油株式会社製)を0.3(g/100mL)の濃度になるようにヘキサノール:ドデカン=1:2(v:v)の混合液に溶解した。得られた溶液の4〜5μLをフィルタープレート(Millipore社製 MultiScreen Filter Plate 疎水性PVDF MAIPN4510、孔径0.45μm)の各ウェルのフィルター部に添加することにより、フィルター部に人工脂質膜を形成した。
「膜透過性の測定」
96ウェルプレート(Millipore社製 MultiScreen 96Well Plate 疎水性PVDF MAIPN4510)の各ウェル(容積360μL)を、Hanks‘Balanced Salt Modified(Sigma−Aldrich社製)を9.7g、D−glucoseを3.5g,4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazineethanesulfonic acidを2.86g,炭酸水素ナトリウムを0.37gの割合で水1Lに溶解し、0.1N水酸化ナトリウムを用いて、予めpH7.35に調整した溶液(以下、Transport緩衝液と記す)で満たした後、フィルター部に人工脂質膜を形成したフィルタープレートをかぶせた。このとき、ウェルプレートのTransport緩衝液とフィルタープレートの間に気泡が存在しないことを確認した。
10〜50%の割合でジメチルスルフォキシドを含有するTransport緩衝液に、表1に示す被験物質群を各2mMの濃度になるように溶解し、サンプル溶液を調整した。この際、被験物質は医薬品として販売されており、ヒトにおける消化管吸収率が報告されている化合物を選択した。調整された各被験物質のサンプル溶液を、人工脂質膜が形成されたフィルタープレート上に150μL添加し、カバープレート(Millipore社製 MultiScreen 96Well Plate MAIPN4510)を置いて蓋をした。蓋をしてから0.5時間、37℃でインキュベートを行った。カバープレートとフィルタープレートを取り除いた後、ウェルプレートの各ウェルの吸光度を250〜450nm(10〜20nm間隔)でマイクロプレートリーダーを用いて測定した。またこのとき、10倍に希釈した標準液も同時にウェルプレートの空いている箇所に300μLの容量で添加し、試験液と同様に吸光度を測定した。
人工脂質膜に対する被験物質の透過性を示すパラメーターとして、膜透過クリアランス値を、当該分野にて一般的に用いられる原理に基づき、次式により算出した(参考文献:AAPS PharmSci.;1(4):E18、1999)。
膜透過クリアランス値=Cog×Aac/Aog×Vac/1000/1000/T/60/60/S
Cog;10倍に希釈した標準液の初期濃度(この実施例では200μM)
Aog;10倍に希釈した標準液のマイクロプレートリーダーより得られた吸光度
Aac;マイクロプレートリーダーより得られたサンプルの吸光度
T;インキュベーション時間(0.5時間)
Vac;ウェルプレートに添加したトランスポート緩衝液の容積(ここでは200μL)
S;膜表面積(ここでは0.266cm
さらに、実施例1〜2および比較例1〜4については、当該分野にて一般的に用いられる統計学的手法によりヒトにおける消化管吸収率と膜透過性クリアランス値の間の相関関係を解析した。すなわち、各化合物のヒトにおける消化管吸収率を縦軸に、得られた膜透過性クリアランス値の片対数値を横軸にとり、非線形最小2乗法により求められた近似直線に基づいて相関係数Rの2乗値である決定係数Rをマイクロソフトエクセル(商品名;マイクロソフト社製)により算出した。決定係数Rは、ヒトにおける消化管吸収率と膜透過性クリアランス値との間の相関性を示す指標であり、1に近いほど両者の間で相関性が優れるものと判断した。その結果を表1に示した。
【0024】
(実施例2 被験物質の膜透過性測定)
式(I)に示される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体であり、XとYの比率が3:7であり、nが4であり、Rが水素原子であり、分子量が約3万であるPUREBRIGHT MB-37-50T(市販品;日油株式会社製)を0.3(g/100mL)の濃度になるようにヘキサノール:ドデカン=1:2(v:v)の混合液に溶解した。得られた溶液の4〜5μLをフィルタープレート(Millipore社製 MultiScreen Filter Plate 疎水性PVDF MAIPN4510、孔径0.45μm)の各ウェルのフィルター部に添加することにより、フィルター部に人工脂質膜を形成した。
形成した人工脂質膜を用いた被験物質の膜透過性の測定は、実施例1と同様の方法にて行った。
【0025】
(比較例1)
Wohnslandらの方法(非特許文献6)に従い、ヘキサデカンをヘキサンに5(g/100mL)の濃度になるように溶解した。得られた溶液の4〜5μLを実施例1と同じフィルタープレートの各ウェルのフィルター部に添加することにより、フィルター部に人工脂質膜を形成した。
形成した人工脂質膜を用いた被験物質の膜透過性の測定は、実施例1と同様の方法にて行った。
【0026】
(比較例2)
Kansyらの方法をより最適化した方法として、Schmidtらの方法(非特許文献7)が報告されている。本法に従い、lecithinを4(g/100mL)の濃度になるように、ドデカンに溶解した。得られた溶液の4〜5μLを実施例1と同じフィルタープレートの各ウェルのフィルター部に添加することによりフィルター部に人工脂質膜を形成した。
形成した人工脂質膜を用いた被験物質の膜透過性の測定は、実施例1と同様の方法にて行った。
【0027】
(比較例3)
Ruell J.A.らの方法(非特許文献9)に従い、1,2−dioleoyl−sn−glycer−3−phosphocholineを2(g/100mL)の濃度になるように、ドデカンに溶解した。得られた溶液の4〜5μLを実施例1と同じフィルタープレートの各ウェルのフィルター部に添加することにより、フィルター部に人工脂質膜を形成した。
形成した人工脂質膜を用いた被験物質の膜透過性の測定は、実施例1と同様の方法にて行った。
【0028】
(比較例4)
Sugano K.らの方法(非特許文献5)に従い、L−α−phosphatidylcholine,L−α−phosphatidylserine,L−α−phosphatidylethanolamine,L−α−phosphatidylinositol,Cholesterolをそれぞれ、L−α−phosphatidylcholine:L−α−phosphatidylserine:L−α−phosphatidylethanolamine:L−α−phosphatidylinositol:Cholesterol=0.8:0.2:0.8:0.2:1.0の割合で溶解した1,7−octadiene溶液を作成した。得られた溶液の4〜5μLを実施例1と同じフィルタープレートの各ウェルのフィルター部に添加することにより、フィルター部に人工脂質膜を形成した。
形成した人工脂質膜を用いた被験物質の膜透過性の測定は、実施例1と同様の方法にて行った。
【0029】
表1に、実施例1〜2および比較例1〜4にて算出された膜透過性クリアランス値(clearance value)、各化合物のヒトにおける消化管吸収率(Fa(%))および決定係数Rを示した。なお、表中の「E.」は実施例を、「R.E.」は比較例を、「ref.」は被験物質のヒトにおける消化管吸収率に関する参考文献番号を、「No.」は被験物質の化合物番号を示し、「−」は、被験物質の膜透過が見られなかったことを示している。また、被験物質の化合物番号及び被験物質名、並びに被験物質のヒトにおける消化管吸収率に関する参考文献番号及び参考文献名は以下の通りである。
【0030】
被験物質(化合物番号(No.):名称)
1:アテノロール
2:アルプレノロール
3:スルピリド
4:クロザピン
5:プロプラノロール
6:フロセミド
7:塩酸ラニチジン
8:バルサルタン
9:スルファサラジン
10:テルブタリン
11:アシクロビル
12:ピロキシカム
13:ワルファリンナトリウム
14:チモロールマレイン酸
15:メトラゾン
16:ラベタロール塩酸塩
17:メソトレキセート
18:ファモチジン
19:ヒドロクロロチアジド
20:テストステロン
21:クロルプロマジン
22:イミプラミン塩酸塩
23:カルバマゼピン
24:酢酸グアナベンズ
【0031】
被験物質のヒトにおける消化管吸収率に関する参考文献
(ヒトにおける消化管吸収率に関する参考文献番号(ref.):参考文献名)
1:Sugano K. et al., Int. J. Pharm., 241, 241−251, 2002
2:国際公開第01/070380号パンフレット
3:Wohnsland et al.,J. Med. Chem., 44, 923−930, 2001
【0032】
【表1】

【0033】
表1に見られるように、比較例1〜3では多くの被験物質が実施時間の中では人工脂質膜を通過できずに、クリアランス値が算出不能であり、決定係数Rも算出不能であった。また、比較例4においては、全ての被験物質でクリアランス値の算出が可能であったものの、文献から得られたヒトにおける消化管吸収率Fa(%)との相関が悪かった。一方、実施例1、2は全ての被験物質でクリアランス値の算出が可能であり、ヒトにおける消化管吸収率Fa(%)と優れた相関性が認められた。
これらのことから、本発明の方法は、0.5時間という短時間で被験物質の膜透過性測定が可能であり、比較例よりも医薬品である被験物質の膜透過性の測定において優れていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の方法により、薬物の膜透過性をin vivoとの相関よく、迅速に測定できる。本方法は薬物のスクリーニングにおいて有用であるため、医薬品の創薬研究への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】


[式中、XとYの比率が99:1乃至1:99であり、nは2乃至10の整数、Rは水素原子又はOR(式中、Rは水素原子、C1-8アルキル基又はC6-14アリール基を表す。)を意味する。]で表される繰り返し単位を有し、分子量が5000乃至500000である高分子化合物を含む人工膜を用いることを特徴とする被験物質の膜透過性測定方法。
【請求項2】
式(I)のXとYの比率が1:2乃至1:3であり、nが4であり、Rが水素原子であり、かつ高分子化合物の分子量が20000乃至200000の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の被験物質の膜透過性測定方法。
【請求項3】
(1)人工膜の一方面に被験物質を含む溶液が接するように配置する工程、(2)当該人工膜の他方面に前記被験物質を含まない溶液が接するように配置する工程、(3)所定時間に当該人工膜及び溶液を一定温度に保つ工程、(4)前記一方面側及び/または前記他方面側の前記被験物質の量を測定する工程、及び(5)測定された量に基づき前記被験物質の膜透過性を評価する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の被験物質の膜透過性測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の人工膜及び溶液を収容する容器から構成される膜透過性測定キット。
【請求項5】
請求項3に記載の膜透過性測定方法により得られた被験物質の膜透過性のデータに基づき、所望の被験物質を選択することを特徴とする被験物質のスクリーニング方法。
【請求項6】
被験物質が医薬品用途の薬剤である請求項5に記載のスクリーニング方法。


【公開番号】特開2009−250727(P2009−250727A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97554(P2008−97554)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】