人工膝関節インプラント
【課題】PS型の人工膝関節インプラントにおいて、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくすることができ、更には患者が自然な屈曲運動を行うことができるようにする。
【解決手段】人工膝関節インプラント1は、患者の大腿骨の遠位部に択一的に取り付けられる大腿骨コンポーネント100,200,300と、患者の脛骨の近位部に択一的に取り付けられる脛骨インサート400,500,600と、を備える。大腿骨コンポーネント100,200,300は、それぞれ、2つの大腿骨関節面107,107;207,207;307,307の後部間に配置されたカム部203を有する。脛骨インサート400,500,600は、カム部203と接触可能なポスト402,502,602を有する。ポスト402,502,602の前後位置が異なっている。
【解決手段】人工膝関節インプラント1は、患者の大腿骨の遠位部に択一的に取り付けられる大腿骨コンポーネント100,200,300と、患者の脛骨の近位部に択一的に取り付けられる脛骨インサート400,500,600と、を備える。大腿骨コンポーネント100,200,300は、それぞれ、2つの大腿骨関節面107,107;207,207;307,307の後部間に配置されたカム部203を有する。脛骨インサート400,500,600は、カム部203と接触可能なポスト402,502,602を有する。ポスト402,502,602の前後位置が異なっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
脛骨の近位部に固定される脛骨要素と、大腿骨の遠位部に固定される大腿骨要素と、を備える人工膝関節インプラントが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された大腿骨要素は、大腿骨に固定されたときに左右に並ぶ内側顆及び外側顆を含んでいる。内側顆及び外側顆のそれぞれが、膝を延ばした姿勢のときに脛骨要素に向かい合う遠位顆と、遠位顆の後方に配置された後顆と、後顆の上方に配置された上顆と、を含んでいる。これら遠位顆、後顆、及び上顆は、脛骨要素の表面と接触するために、大腿骨要素の外周に延びる滑らかな関節表面を形成している。このうち、上顆における関節表面は、大腿骨要素の前方に向かって戻るように湾曲状に延びている。このような構成を採用することで、特許文献1に記載された大腿骨要素は、脛骨要素に対して、少なくとも160度屈曲できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4290803号明細書(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、PS(Posterior Stabilized)型人工膝関節インプラントを用いる場合、患者の前十字靭帯及び後十字靭帯が切除される。そして、カムを有する大腿骨コンポーネントが、患者の大腿骨の遠位部に固定され、且つ、ポストを有する脛骨インサートが、患者の脛骨の近位部に配置される。
【0005】
このようなPS型人工膝関節インプラントが装着された患者において、術後のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上のために、より自然な屈曲状態の実現と、脛骨に対する大腿骨の最大屈曲角度をより深くできるようにすることは、重要な項目である。すなわち、脛骨に対して大腿骨が大きい屈曲角度で安定して屈曲できるという、安定した深屈曲動作の実現が求められている。ここで、本願発明者は、安定した深屈曲動作を妨げる要因として、大腿骨と脛骨との間のギャップ(垂直距離)のバランスが整っていないことに着目した。
【0006】
上記のギャップバランスとは、膝を真っ直ぐ延ばした状態におけるギャップとしての伸展ギャップと、膝を曲げた状態におけるギャップとしての屈曲ギャップとの間の均衡をいう。ギャップバランスを整えることにより安定した深屈曲動作ができる。このギャップバランスを整えるための方法として、下記(i)〜(v)の方法を考えることができる。
【0007】
まず、方法(i)として、患者の側副靭帯等、人工膝関節周辺の軟部組織を、大腿骨及び脛骨から適宜引き剥がす(リリースする)ことが考えられる。しかしながら、この場合、術者は、軟部組織の周辺の血管及び神経を傷つけないように注意をする必要があり、人工膝関節インプラントの設置作業に手間がかかる。
【0008】
また、方法(ii)として、大腿骨コンポーネントの設置位置を変更することが考えられる。具体的には、大腿骨の遠位部に対する、大腿骨コンポーネントの設置位置を、大腿骨の前方寄り又は後方寄り等に配置することが考えられる。しかしながら、この場合、大腿骨コンポーネントを大腿骨に固定するために大腿骨に形成される骨切り面の形状及び位置によっては、大腿骨の遠位部に、ノッチが形成される。ノッチが形成されると、大腿骨に大きな力が作用した際に、ノッチに負荷が集中し、骨折を生じるおそれがある。また、ギャップバランスが整うように大腿骨コンポーネントを配置した場合でも、膝蓋骨に対する大腿骨コンポーネント位置が不適切となるおそれがある。その結果、大腿骨コンポーネントと膝蓋骨との間の摺動を滑らかに行うことができないという、パテラトラッキング不良が生じるおそれがある。
【0009】
また、方法(iii)として、大腿骨コンポーネントのサイズを変更することが考えられる。より具体的には、大腿骨コンポーネントの大きさを、当初予定されていた大きさよりも大きく、又は小さくすることが考えられる。しかしながら、大腿骨コンポーネントを大きいサイズに変更した場合、骨切り量は少なくて済むが、大きな大腿骨コンポーネントによって軟部組織を圧迫され、膝を曲げ難くなるおそれがある。一方、大腿骨コンポーネントを小さいサイズに変更した場合、大腿骨の骨切り量が増える。したがって、大腿骨コンポーネントのサイズを変更することは、患者にとって負担が大きくなる。
【0010】
また、方法(iv)として、脛骨インサートの厚みを変更することが考えられる。しかしながら、この場合、脛骨インサートと大腿骨コンポーネントとが接触する部分としてのジョイントラインの高さ位置も変わってしまう。その結果、前述したパテラトラッキング不良等が生じるおそれがある。
【0011】
また、方法(v)として、特許文献1に開示されている、後顆の厚みの異なる大腿骨コンポーネントを選択することが考えられる。しかしながら、この場合、後顆の厚みによっては、大腿骨を脛骨に対して、生体本来の位置で屈曲(ロールバック)できず、その結果、患者が膝を屈曲する際に違和感を覚えてしまう。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、人工膝関節インプラントにおいて、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくすることができ、更には患者が自然な屈曲運動を行うことができるようにすることを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工膝関節インプラントは、患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントであって、前記患者の大腿骨の遠位部に取り付けられる大腿骨コンポーネントと、前記患者の脛骨の近位部に取り付けられる脛骨インサートと、を備える。前記大腿骨コンポーネントは、前記遠位部に形成された骨切り面に固定される固定面と、前記大腿骨コンポーネントの外側を向いて湾曲した2つの大腿骨関節面と、前記2つの大腿骨関節面の後部間に配置されたカム部と、前記固定面の後方に配置され前記2つの大腿骨関節面の一部を形成する後顆と、当該後顆の上方に配置され前記2つの大腿骨関節面の一部を形成する上顆と、を有し、前記脛骨インサートは、前記2つの大腿骨関節面と摺動可能な2つの脛骨関節面と、当該2つの脛骨関節面の間から前記2つの大腿骨関節面の間の空間に突出し前記カム部と接触可能なポストと、を含み、前記脛骨インサートは、前記脛骨関節面に対する前記ポストの前後位置の異なる複数の脛骨インサートを含むことを特徴とする。
【0014】
この発明によると、ポストの前後位置が患者にとって最適な位置となるように、複数の脛骨インサートのなかから、最適なものを選んで脛骨に取り付けることができる。これにより、ポストの前後位置を患者にとって最適化することができる。ポストの前後位置を調整することにより、患者の側副靱帯の張力を調整することができる。その結果、患者が膝を延ばしている状態での大腿骨と脛骨との間のギャップとしての伸展ギャップと、患者が膝を曲げている状態での大腿骨と脛骨との間のギャップとしての屈曲ギャップと、のバランスとしてのギャップバランスを、より均衡がとれた状態にすることができる。これにより、安定した深屈曲動作を実現することができる。更に、患者が膝を自然に屈曲動作できるように、側副靭帯を前寄りに配置するという条件を満たしつつ、ポストを可及的に後方に配置することができる。これにより、大腿骨コンポーネントのカムとポストとの摺動の際に、大腿骨又は大腿骨コンポーネントが脛骨インサートにインピンジ(衝突)するまでの屈曲角度を、より大きくすることができる。その結果、脛骨に対して大腿骨をより大きい屈曲角度で屈曲できるという、深屈曲性を向上することができる。
【0015】
しかも、前述した(i)の方法と異なり、ギャップバランスを調整するために、患者の側副靭帯等、人工膝関節周辺の軟部組織を大腿骨及び脛骨から適宜引き剥がす(リリースする)作業を行わなくてもよい。このため、術者は、軟部組織の周辺の血管及び神経を傷つけないように気を使う必要のある、上記のリリース作業を行う必要が無い。よって、人工膝関節インプラントの設置作業かかる術者および患者の負担を少なくできる。
【0016】
また、前述した方法(ii)と異なり、ギャップバランスの調整のために、大腿骨コンポーネントの設置位置を都度変更する必要が無い。このため、大腿骨の固定面の配置箇所の自由度を高くでき、大腿骨にノッチが形成されるような形状の固定面を形成する必要が無い。よって、ノッチに起因する応力集中が大腿骨に生じることがなく、大腿骨の強度低下を招くことを抑制できるので、患者への負担を小さくできる。更に、ギャップバランスの調整のために大腿骨コンポーネントの位置を変更する必要が無い。このため、大腿骨コンポーネントを、膝蓋骨に対して、適切な位置に配置することができる。その結果、大腿骨コンポーネントと膝蓋骨との間の摺動状態を良好にすることができ、パテラトラッキング不良を抑制できる。よって、患者は、膝の自然な屈曲運動を行うことができる。
【0017】
また、前述した方法(iii)と異なり、ギャップバランスの調整のために、大腿骨コンポーネント全体のサイズを変更する必要が無い。このため、ギャップバランスの調整のために大腿骨コンポーネントを大きく又は小さくする必要が無い。よって、大腿骨の骨切り量が大きくならずに済み、余分な骨切り作業が不要であるので、術者および患者への負担を小さくできる。その上、大きな大腿骨コンポーネントによって患者の軟部組織が圧迫されるという不具合を抑制できるので、患者への負担を小さくできる。
【0018】
また、前述した方法(iv)と異なり、ギャップバランスの調整のために、脛骨インサートの厚みを変更する必要が無い。このため、脛骨インサートと大腿骨コンポーネントとが接触する部分としてのジョイントラインの高さ位置は、ギャップバランスの調整作業の影響を受けない。その結果、大腿骨コンポーネントと膝蓋骨との相対的な高さ位置を、ギャップバランスの調整の有無に拘らず一定にできる。即ち、大腿骨コンポーネントと膝蓋骨との相対摺動の態様を、ギャップバランスの調整の有無に拘らず一定にできる。その結果、前述したパテラトラッキング不良等を抑制できる。
【0019】
また、前述した方法(v)では、ギャップを調節するために、後顆の厚みの異なる大腿骨コンポーネントを選択している。このような方法では、側副靱帯と大腿骨コンポーネントとの相対位置のバランスを調整できない。これに対して、第1発明では、脛骨インサートにおけるポストの前後位置を調整することにより、側副靱帯と大腿骨コンポーネントとの相対位置を調整することができる。その結果、大腿骨を脛骨に対して、生体本来の位置に近い位置で屈曲させることができ、患者は、膝を自然な姿勢で屈曲することができる。
【0020】
従って、本発明によると、人工膝関節インプラントにおいて、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくでき、更には患者が自然な屈曲運動を実現できる。
【0021】
第2発明に係る人工膝関節インプラントは、第1発明の人工膝関節インプラントにおいて、前記大腿骨コンポーネントは、前記固定面の形状が共通で且つ前記後顆の厚みの異なる複数の大腿骨コンポーネントを含むことを特徴とする。
【0022】
この発明によると、大腿骨と脛骨との間のギャップバランスの均衡化と、膝の自然な屈曲を達成するための側副靭帯の配置の実現と、を両立できるように、複数の大腿骨コンポーネントのなかから、最適な大腿骨コンポーネントを選ぶことができる。例えば、患者において屈曲ギャップが小さい場合には、後顆の厚みがより小さい大腿骨コンポーネントを用いることにより、ギャップバランスを調整することができる。また、患者において屈曲ギャップが大きい場合には、後顆の厚みがより大きい大腿骨コンポーネントを用いることにより、ギャップバランスを調整することができる。また、膝の屈曲時の側副靭帯の位置をより前側に配置するためには、大腿骨コンポーネントの中からの、後顆の厚みがより薄いものを用いることが好ましい。更に、ポストの前後位置の異なる脛骨インサートと組み合わせることにより、調整可能なギャップバランスの範囲が広がると共に、ギャップバランスの微調整を行うことができる。更に、後顆の厚みの異なる大腿骨コンポーネントと、ポストの前後位置の異なる脛骨インサートと、を組み合わせることにより、側副靭帯の配置を調整し易くなり、より患者に最適な状態にすることができる。よって、ギャップバランスの均衡化と、側副靭帯の配置の最適化と、を両立できるように、最適な厚みの後顆を有する大腿骨コンポーネントを採用することができる。
【0023】
第3発明に係る人工膝関節インプラントは、第2発明の人工膝関節インプラントにおいて、前記複数の大腿骨コンポーネントのそれぞれの前記後顆における前記大腿骨関節面の曲率半径が異なっていることを特徴とする。
【0024】
この発明によると、後顆における大腿骨関節面の曲率半径を、大腿骨コンポーネントごとに異ならせるという簡易な構成で、各大腿骨コンポーネントの後顆の厚みを異ならせることができる。
【0025】
第4発明に係る人工膝関節インプラントは、第1発明乃至第3発明の何れかの人工膝関節インプラントにおいて、前記複数のポストは、それぞれ、同一の形状に形成されていることを特徴とする。
【0026】
この発明によると、複数の脛骨インサートにおいて、ポストの形状が互いに同じである。このため、人工膝関節の設置手術時において、脛骨インサートの種類を変更したときの、脛骨に対する大腿骨の動きを予想し易い。このため、術者は、患者にとって最適な脛骨インサートを容易に選定することができる。その結果、手術時間の短縮を通じて、術者及び患者の負担をより小さくすることができる。
【0027】
第5発明に係る人工膝関節インプラントは、第1発明乃至第4発明の何れかの人工膝関節インプラントにおいて、前記脛骨の近位部に固定されるために設けられ、前記脛骨インサートを支持し脛骨インサートと協働して脛骨コンポーネントを構成する脛骨トレイを更に備え、前記脛骨トレイは、前記脛骨インサートと単一に成形されているか、又は、前記脛骨インサートと別部材を用いて形成され前記脛骨インサートに固定されていることを特徴とする。
【0028】
この発明によると、脛骨トレイによって、脛骨インサートを、脛骨の近位部に固定することができる。また、脛骨インサートのポストの前後位置を変更することにより、脛骨に対する大腿骨の安定した深屈曲動作を実現している。よって、安定した深屈曲動作を実現するために、脛骨トレイの形状を変更する必要が無い。このため、脛骨のうち、脛骨トレイを固定する近位部の形状を、安定した深屈曲動作の実現のために変更する必要が無く、術者および患者の負担を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、人工膝関節インプラントにおいて、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくでき、更には患者が自然な屈曲運動を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態に係る人工膝関節インプラントの側面図である。
【図2】大腿骨コンポーネント及び脛骨インサートのそれぞれの斜視図である。
【図3】大腿骨コンポーネントが患者の大腿骨に固定され、脛骨コンポーネントが患者の脛骨に固定された状態を、患者の側方から見た状態を示す断面図である。
【図4】大腿骨コンポーネントを後方から見た図である。
【図5】(a),(b),(c)は、それぞれ、複数の大腿骨コンポーネントの側面図である。
【図6】(a),(b),(c)は、それぞれ、脛骨インサートの側面図である。
【図7】(a),(b),(c)は、それぞれ、人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度がゼロである状態を示している。
【図8】(a),(b),(c)は、それぞれ、人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度が90度である状態を示している。
【図9】(a),(b),(c)は、それぞれ、図8(a)、図8(b)及び図8(c)から人工膝関節を取り除いた状態を示す図である。
【図10】(a),(b),(c)は、それぞれ、人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度がゼロである状態を示している。
【図11】(a),(b),(c)は、それぞれ、人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度が90度である状態を示している。
【図12】人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度が最大である許容屈曲角度に近い状態を示している。
【図13】(a)及び(b)は、それぞれ、脛骨コンポーネント及び脛骨トレイの変形例を示す斜視図である。
【図14】実施例及び比較例のそれぞれについての実験結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントとして広く適用することができる。
【0032】
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工膝関節インプラント1の側面図である。人工膝関節インプラント1は、患者の膝関節を人工膝関節へ置換する手術において用いられ、例えば、変形性膝関節症や慢性関節リウマチ等により膝関節が高度に変形した患者に対して、膝を正常な機能に回復させるために用いられる。
【0033】
人工膝関節インプラント1は、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300と、複数の脛骨インサート400,500,600と、を備えている。患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する、PS型人工膝関節置換術の施術時には、人工膝関節インプラント1における複数の大腿骨コンポーネント100,200,300中から、1つの大腿骨コンポーネントが、術者によって選択される。また、施術時には、複数の脛骨インサート400,500,600の中から、1つの脛骨インサートが、術者によって選択される。これにより、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300及び脛骨インサート400,500,600の中から、患者にとって最適な大腿骨コンポーネント及び脛骨コンポーネントが、施術中に選択される。
【0034】
なお、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300は、後顆111,211,311の厚みが互いに異なっている点以外は、概ね、互いに同様の構成を有している。また、複数の脛骨インサート400,500,600は、ポスト402,502,602の前後位置が互いに異なっている点以外は、概ね互いに同様の構成を有している。以下、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300のうち、主に1つの大腿骨コンポーネント200の構成を説明する。また、複数の脛骨インサート400,500,600のうち、主に1つの脛骨インサート500の構成を説明する。
【0035】
図2は、大腿骨コンポーネント200及び脛骨インサート500のそれぞれの斜視図である。図3は、大腿骨コンポーネント200が患者の大腿骨3の遠位部4に取り付けられ、脛骨インサート500が患者の脛骨5の近位部6に取り付けられた状態を、患者の側方から見た状態を示す断面図である。図2及び図3に示すように、大腿骨コンポーネント200は、大腿骨3の遠位部4に固定されている。また、脛骨インサート500は、脛骨5の近位部6に、脛骨トレイ2を介して固定されている。大腿骨コンポーネント200及び脛骨インサート500は、患者の膝の屈伸運動に伴って、相対摺動する。大腿骨コンポーネント200と、脛骨インサート500と、脛骨トレイ2によって、人工膝関節7が形成されている。
【0036】
尚、以下では、「内側」、又は「外側」というときは、大腿骨コンポーネント200及び脛骨インサート500が設置されている患者の膝の内側又は外側をいうものとする。即ち、大腿骨コンポーネント200及び脛骨インサート500が患者の左足に配置されている場合には、内側は、患者にとっての右側をいい、外側は、患者にとっての左側をいう。また、「前」又は「後」をいうときは、患者にとっての前又は後をいうものとする。
【0037】
大腿骨コンポーネント200は、例えば、生体親和性を有する金属材料を用いて形成されている。大腿骨コンポーネント200は、側面視においてU字状に形成されている。大腿骨コンポーネント200は、内側顆201と、外側顆202と、カム部203と、開口部204と、を備えて構成されている。内側顆201及び外側顆202は、それぞれ、左右に並んで配置されている。内側顆201の前部と外側顆202の前部とは、互いに接続されている。大腿骨コンポーネント200の前部は、前方から見たときに、上側に向けて凸となる形状に形成されている。
【0038】
内側顆201及び外側顆202のそれぞれのうち、大腿骨3の近位部6側を向く内側面には、固定面205,205が形成されている。固定面205,205は、大腿骨コンポーネント200を大腿骨3の近位部6に固定するために設けられている。また、固定面205,205は、それぞれ、側方から見たときにU字状に形成されている。固定面205,205は、それぞれ、遠位部4に形成された骨切り面10に固定される。
【0039】
骨切り面10は、大腿骨コンポーネント200を遠位部4に固定する前に、術者によって人工的に形成された面である。骨切り面10は、例えば、術者がカッタ等の器具を用いて遠位部4の一部を切除することで、形成されている。骨切り面10は、例えば、前側を向く第1面11と、前斜め下側を向く第2面12と、下側を向く第3面13と、後斜め下を向く第4面14と、後側を向く第5面15と、を有している。固定面205,205は、それぞれ、これら第1〜第5面11〜15に沿う形状に形成されており、これら第1〜第5面11〜15のそれぞれに、骨セメント、又は生体活性材料コーティング等を用いて固定されている。
【0040】
また、骨切り面10の第1面11から第5面15にかけて、後述するポスト502を配置するための凹部16が形成されている。凹部16は、第2面12〜第5面15に亘って形成されて、前後方向に延びている。凹部16は、遠位部4を前後方向に貫通するように延びている。これにより、凹部16は、膝の屈曲運動の際に、ポスト502が大腿骨3に接触することを抑制している。
【0041】
内側顆201及び外側顆202のそれぞれにおいて、大腿骨3の遠位部4の外側を向く外側面には、2つの大腿骨関節面207,207が形成されている。大腿骨関節面207,207は、患者の膝の屈伸運動に伴って脛骨インサート500と摺動する湾曲面として設けられている。大腿骨関節面207,207は、それぞれ、凸湾曲形状に形成され、遠位部4の遠位端としての第3面13と対向するとともに、遠位部4の後部としての第5面15と対向しており、側方から見て、遠位部4の一部を取り囲んでいる。大腿骨関節面207の前端208は、膝が真っ直ぐの状態のときに、ポスト502の前方に配置されている。
【0042】
大腿骨関節面207,207は、内側顆201及び外側顆202にそれぞれ備えられる遠位顆210,210、後顆211,211及び上顆212,212によって形成されている。
【0043】
図4は、大腿骨コンポーネント200を後方から見た図である。図3及び図4に示すように、遠位顆210,210は、それぞれ、大腿骨3の遠位部4の遠位面としての第3面13と対向するように配置されている。後顆211,211は、それぞれ、遠位顆210,210から後斜め上方へ向けて延びる部分として設けられている。後顆211,211は、それぞれ、固定面205,205の後方に配置されており、主に、第4面14及び第5面15と対向するように配置されている。後顆211,211の上端は、それぞれ、側面視において、カム部203の後方に位置している。上顆212,212は、それぞれ、後顆211,211の上端から上方へ向けて延びる部分として設けられている。上顆212,212は、第5面15に対向するように配置されている。
【0044】
上記の構成により、大腿骨関節面207,207は、それぞれ、遠位顆210,210の外側面としての第1関節面207a,207aと、後顆211,211の外側面としての第2関節面207b,207bと、上顆212,212の外側面としての第3関節面207c,207cと、を有している。
【0045】
内側顆201と外側顆202との間に、カム部203が配置されている。カム部203は、大腿骨関節面207,207の後部間に配置されている。カム部203は、膝の屈曲角度が所定角度以上のときに、脛骨インサート500と接触することにより、膝の屈曲運動を案内する。カム部203は、内側顆201の後顆211及び上顆212と、外側顆202の後顆211及び上顆212との間に配置された、小片状の部分である。
【0046】
図2及び図3に示すように、カム部203の前部は、固定面205,205に対して前方に突出している。カム部203の前側面は、平坦な面に形成されている。また、カム部203の後側面は、上顆212,212の外側面(第3関節面207c、207c)に対して、前方に配置されている。これにより、カム部203の後部には、前方へ向けて窪む窪み部203aが形成されている。カム部203の前方に、開口部204が形成されている。
【0047】
開口部204は、脛骨インサート500のポスト502が挿通される部分である。開口部204は、内側顆201と外側顆202との間に配置されており、大腿骨コンポーネント200を貫通する孔部として設けられている。開口部204は、内側顆201及び外側顆202のそれぞれの後顆211,211から前方に向けて延びている。
【0048】
上記の構成を有する大腿骨コンポーネント200は、脛骨コンポーネント18によって、摺動可能に支持される。脛骨コンポーネント18は、人工膝関節インプラント1の一要素としての脛骨トレイ2と、脛骨インサート500とを備えて構成されている。脛骨トレイ2は、脛骨インサート500を支持するトレイ本体19と、トレイ本体19の裏面から突出するスタッド部20と、を備えて構成されている。スタッド部20は、脛骨5の近位部6に形成された髄腔部5aに嵌合されており、骨セメント、又は生体活性材料コーティング等を用いて脛骨5の近位部6に固定されている。髄腔部5aは、術者によって形成される孔部である。トレイ本体19は平板状に形成されており、近位部6の端面上に配置されている。トレイ本体19は、大腿骨コンポーネント200側を向く表面を有している。このトレイ本体19の表面に、脛骨インサート500が固定されている。
【0049】
脛骨インサート500は、合成樹脂等を用いて形成されており、平板状のプレート501と、プレート501から開口部204へ突出するポスト502と、を備えて構成されている。プレート501は、左右に細長い円板状に形成されている。プレート501には、内側窩503及び外側窩504が形成されている。
【0050】
内側窩503及び外側窩504は、それぞれ、大腿骨コンポーネント200の内側顆201及び外側顆202と摺動可能に接触する窪みとして設けられている。内側窩503と外側窩504との間にはポスト502が配置されている。平面視において、ポスト502は、内側窩503と外側窩504とに挟まれている。内側窩503及び外側窩504のそれぞれにおいて、前端部の厚みは、後端部の厚みよりも大きい。内側窩503及び外側窩504は、それぞれ、大腿骨コンポーネント200の内側顆201及び外側顆202を受けるための窪みを有している。
【0051】
内側窩503のうち、大腿骨コンポーネント200の内側顆201と対向する面には、脛骨関節面506が形成されている。同様に、外側窩504のうち、大腿骨コンポーネント200の外側顆202と対向する面には、脛骨関節面506が形成されている。これら2つの脛骨関節面506,506は、それぞれ、脛骨5の近位部6側へ向けて凹湾曲した形状に形成されている。内側窩503の脛骨関節面506は、内側顆201の大腿骨関節面207と摺動可能に接触している。また、外側窩504の脛骨関節面506は、外側顆202の大腿骨関節面207と摺動可能に接触している。
【0052】
ポスト502は、カム部203との摺動によって、人工膝関節7の屈曲を促進するために設けられている。ポスト502は、プレート501を平面視したときにプレート501の略中央に配置されている。即ち、ポスト502は、左右方向におけるプレート501の中央に配置され、且つ、前後方向におけるプレート501の中央に配置されている。
【0053】
ポスト502は、柱状に形成されており、プレート501からの高さが高くなるに従い、前後方向の厚みが小さくなっている。また、ポスト502を前方から見たときに、ポスト502は、根元部から中間部にかけて、左右方向の厚みが一定の形状とされている。また、ポスト502の先端部は、先細りとなるように左右方向の厚みが次第に小さくされている。
【0054】
ポスト502の後面には、ポスト502と摺動接触するための摺動面507が形成されている。摺動面507は、前側に向けて窪む面として設けられており、人工膝関節7の屈曲角度が所定値以上のときに、カム部203に対して摺動する。
【0055】
ポスト502の後方において、プレート501には、切欠部508が形成されている。切欠部508は、ポスト502と接触しているときのカム部203がプレート501に接触することを抑制するために設けられている。切欠部508は、プレート501の後端部のうち、左右方向の中央に形成されている。
【0056】
図5(a),図5(b)及び図5(c)は、それぞれ、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300の側面図である。図5(b)に示すように、大腿骨コンポーネント200の大腿骨関節面207は、複数の曲率半径を有している。具体的には、大腿骨関節面207は、曲率半径R20,R21,R22及びR23を有している。
【0057】
大腿骨関節面207のうち、遠位顆210における前側部分の一部は、曲率半径R20を有している。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R20を有する部分の後端207dは、大腿骨3の第4面14の下方に位置している。大腿骨関節面207のうち、この後端207dから後方へ向けて延びる部分の曲率半径R21が、曲率半径R20よりも小さい値となっている。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R21を有する部分は、大腿骨コンポーネント200の後端まで延びている。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R21を有する部分の後端207eは、カム部203の後方に位置している。大腿骨関節面207のうち、この後端207eから固定面205側へ向けて延びる部分の曲率半径R22が、曲率半径R21よりも小さい値となっている。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R22を有する部分の前端207fは、側面視において、カム部203の上部寄りに配置されている。大腿骨関節面207のうち、この前端207fから固定面205まで延びる部分の曲率半径R23が、曲率半径R22よりも小さい値となっている。即ち、R20>R21>R22>R23となっている。
【0058】
上記の構成により、遠位顆210における大腿骨関節面207(第1関節207a)は、2種類の曲率半径R20,R21を有している。また、後顆211における大腿骨関節面207(第2関節207b)は、2種類の曲率半径R21,22を有している。更に、上顆212における大腿骨関節面207(第1関節207c)は、2種類の曲率半径R22,R23を有している。
【0059】
次に、図5(a)、図5(b)及び図5(c)を参照して、大腿骨コンポーネント100及び大腿骨コンポーネント300について説明する。前述したように、大腿骨コンポーネント100,200,300の違いは、主に、側面視における後顆111,211,311の厚みの違いにある。尚、大腿骨コンポーネント100,300のうち、大腿骨コンポーネント200と同様の構成については、図に、大腿骨コンポーネント200と同一の符号を付して、説明を省略する。また、大腿骨コンポーネント100,300のうち、大腿骨コンポーネント200の要素に対応する要素については、大腿骨コンポーネント200の要素に対応する符号を付して説明する。例えば、大腿骨コンポーネント100,300の大腿骨関節面については、大腿骨コンポーネント200の大腿骨関節面207に対応する符号として、大腿骨関節面107,307という符号を付して説明する。
【0060】
図5(a)に示すように、大腿骨コンポーネント100は、遠位顆110と、後顆111と、上顆112と、を有している。また、大腿骨コンポーネント100の大腿骨関節面107は、複数の曲率半径を有している。具体的には、大腿骨関節面107は、曲率半径R10,R11,R12及びR13を有している。
【0061】
大腿骨関節面107のうち、遠位顆110における前側部分の一部が、曲率半径R10を有している。大腿骨関節面107のうち、曲率半径R10を有する部分の後端107dは、大腿骨3の第3面13の下方に位置する。大腿骨関節面107のうち、この後端107dから後方へ向けて延びる部分の曲率半径R11が、曲率半径R10よりも小さい値となっている。大腿骨関節面107のうち、曲率半径R11を有する部分は、大腿骨コンポーネント100の後端を含み、且つこの後端よりも上方に延びている。曲率半径R11を有する部分の上端107eは、カム部203の上部の後方に位置している。大腿骨関節面107のうち、この上端107eから固定面205側へ向けて延びる部分の曲率半径R12が、曲率半径R11よりも小さい値となっている。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R12を有する部分の前端107fは、側面視において、カム部203と重なっている。大腿骨関節面107のうち、この前端107fから固定面205まで延びる部分の曲率半径R13が、曲率半径R12よりも小さい値となっている。即ち、R10>R11>R12>R13となっている。
【0062】
上記の構成により、遠位顆110における大腿骨関節面107(第1関節面107a)は、2種類の曲率半径R10,R11を有している。また、後顆111における大腿骨関節面107(第2関節面107b)は、1種類の曲率半径R11を有している。更に、上顆112における大腿骨関節面107(第3関節面107c)は、2種類の曲率半径R12,R13を有している。
【0063】
図5(c)に示すように、大腿骨コンポーネント300は、遠位顆310と、後顆311と、上顆312と、を有している。また、大腿骨コンポーネント300の大腿骨関節面307は、複数の曲率半径を有している。具体的には、大腿骨関節面307は、曲率半径R30,R31,R32及びR33を有している。
【0064】
大腿骨関節面307のうち、遠位顆310における前側部分の一部が、曲率半径R30を有している。大腿骨関節面307のうち、曲率半径R30を有する部分の後端307dは、固定面205の後方側に位置する。大腿骨関節面307のうち、この後端307dから後方へ向けて延びる部分の曲率半径R31が、曲率半径R30よりも小さい値となっている。大腿骨関節面307のうち、曲率半径R31を有する部分は、後斜め下に向けて凸となる状となっている。大腿骨関節面307のうち、曲率半径R31を有する部分の後端307eは、前後方向において、固定面205と、大腿骨コンポーネント300の後端との間に位置している。大腿骨関節面307のうち、この後端307eから上方へ延びる部分の曲率半径R32が、曲率半径R31よりも小さい値となっている。大腿骨関節面307のうち、曲率半径R32を有する部分は、大腿骨コンポーネント300の後端を含み、且つこの後端よりも上方に延びている。曲率半径R32を有する部分の上端307fは、側面視において、カム部203と重なる位置に配置されている。大腿骨関節面307は、この上端307fから固定面205まで延びる部分の曲率半径R33が、曲率半径R32よりも小さい値となっている。即ち、R30>R31>R32>R33となっている。
【0065】
上記の構成により、遠位顆310における大腿骨関節面307(第1関節面307a)は、少なくとも1種類の曲率半径R31を有している。また、後顆311における大腿骨関節面307(第2関節面307b)は、2種類の曲率半径R31,R32を有している。更に、上顆312における大腿骨関節面307(第3関節面307c)は、2種類の曲率半径R32,R33を有している。上記の構成を有する大腿骨コンポーネント100,200,300においては、それぞれの固定面205,205,205の形状は、同一とされている。また、曲率半径R10=R20=R30とされており、第3面13の下方において、遠位顆110,210,310のそれぞれの肉厚は、概ね同じとされている。
【0066】
一方で、曲率半径R11<R21<R31とされている。また、曲率半径R12<R22<R32とされている。更に、曲率半径R13<R23<R33とされている。このように、曲率半径を異ならせる構成により、大腿骨コンポーネント100の後顆111の厚みと比べて、大腿骨コンポーネント200の後顆211の厚みが大きく、更に、大腿骨コンポーネント200の後顆211の厚みと比べて、大腿骨コンポーネント300の後顆311の厚みが大きくされている。
【0067】
図6(a)、図6(b)及び図6(c)は、それぞれ、複数の脛骨インサート400,500,600の側面図である。図6(a)、図6(b)及び図6(c)を参照して、次に、脛骨インサート500及び脛骨インサート600について説明する。前述したように、脛骨インサート400,500,600の違いは、主に、ポスト402,502,602の前後位置の違いにある。尚、脛骨インサート400,600のうち、脛骨インサート500と同様の構成については、図に、脛骨インサート500と同一の符号を付して、説明を省略する。
【0068】
脛骨インサート400,500,600において、それぞれのポスト402,502,602の形状は、同一形状とされている。一方で、これらのポスト402,502,602において、脛骨関節面506に対する前後位置は、それぞれ、異なっている。具体的には、脛骨インサート400において、プレート501の後端からポスト402の後端までの前後方向の距離を距離D4と定義する。また、脛骨インサート500において、プレート501の後端からポスト502の後端までの前後方向の距離をD5と定義する。更に、脛骨インサート600において、プレート501の後端からポスト602の後端までの前後方向の距離をD6とする。この場合、距離D4>D5>D6とされている。したがって、プレート501の後端からの切欠部508の前方への切り込み深さも同様に、脛骨インサート400,500,600毎に異なっている。
【0069】
[人工膝関節の屈曲動作の説明]
図7(a)、図7(b)及び図7(c)は、それぞれ、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度がゼロである状態を示している。図7(a)、図7(b)及び図7(c)は、それぞれ、人工膝関節7の脛骨インサートが異なる場合を示している。より詳細には、図7(a)は、人工膝関節7が脛骨インサート400を備えている場合を示しており、図7(b)は、人工膝関節7が脛骨インサート500を備えている場合を示しており、図7(c)は、人工膝関節7が脛骨インサート600を備えている場合を示している。
【0070】
また、図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、それぞれ、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度が90度である状態を示している。図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、それぞれ、図7(a)、図7(b)及び図7(c)に対応する図である。
【0071】
脛骨インサート400を用いた場合の人工膝関節7の屈曲の動作は、図7(a)及び図8(a)に示されている。また、脛骨インサート500を用いた場合の人工膝関節7の屈曲の動作は、図7(b)及び図8(b)に示されている。更に、脛骨インサート600を用いた場合の人工膝関節7の屈曲の動作は、図7(c)及び図8(c)に示されている。
【0072】
図7(b)に示すように、脛骨インサート500を用いて人工膝関節7を形成した場合において、人工膝関節7が屈曲を開始すると、大腿骨コンポーネント200の大腿骨関節面207は、脛骨関節面506に対して摺動しつつ、前方へ向けて旋回する。このとき、大腿骨3及び大腿骨コンポーネント200は、図7(b)において、時計回り方向に回転する。これにより、大腿骨コンポーネント200のカム部203は、前方へ移動し、カム部203が、ポスト502に近づくように変位する。
【0073】
そして、屈曲角度が所定角度を超えて大きくなると、図8(b)に示すように、大腿骨コンポーネント200のカム部203は、ポスト502の摺動面507に接触する。これにより、人工膝関節7が屈曲しているときに、カム部203は、ポスト502の摺動面507に受けられ、前方への変位を規制されつつ、摺動面507に対して摺動回転する。これにより、大腿骨コンポーネント200は、ポスト502との接触部を支点にして更に回転する。
【0074】
尚、図7(a)及び図8(a)に示すように、人工膝関節7において、脛骨インサート400を用いた場合も、脛骨インサート500を用いた場合と同様の屈曲動作が行われる。また、図7(c)及び図8(c)に示すように、人工膝関節7において、脛骨インサート600を用いた場合も、脛骨インサート500を用いた場合と同様の屈曲動作が行われる。また、大腿骨コンポーネント200に代えて、大腿骨コンポーネント100又は大腿骨コンポーネント300(図5参照)を用いた場合も、上記と同様の屈曲動作が行われる。
【0075】
[脛骨コンポーネントの変更によるギャップバランスの調整]
ここで、図7(b)及び図8(b)を参照して、人工膝関節7の屈曲角度がゼロである状態としての伸展状態において、大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との距離が、所定の伸展ギャップG51となっている。また、人工膝関節7の屈曲角度が90度の状態において、大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との距離が、所定の屈曲ギャップG52となっている。そして、伸展ギャップG51と屈曲ギャップG52との差が、ギャップバランスとして定義される。尚、ギャップとは、脛骨5の中心軸線に沿う、大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との間の直線距離をいう。また、伸展ギャップとは、人工膝関節7が真っ直ぐであることにより屈曲角度がゼロであるときのギャップをいう。更に、屈曲ギャップとは、人工膝関節7が曲がった状態であることにより屈曲角度が90度のときのギャップをいう。
【0076】
また、図7(a)及び図8(a)に示すように、脛骨インサート400を用いた場合の人工膝関節7の伸展ギャップG41及び屈曲ギャップG42が規定されている。そして、伸展ギャップG41と屈曲ギャップG42との差が、ギャップバランスとして定義される。また、図7(c)及び図8(c)に示すように、脛骨インサート600を用いた場合の人工膝関節7の伸展ギャップG61及び屈曲ギャップG62が規定されている。そして、伸展ギャップG61と屈曲ギャップG62との差が、ギャップバランスとして定義される。
【0077】
図9(a)は、図8(a)から人工膝関節7を取り除いた状態を示す図である。なお、図9(a)の大腿骨3の前後位置は、図8(a)でポスト402とカム203が接触した位置となっている。同様に図9(b)は、図8(b)から人工膝関節7を取り除いた状態を示す図であり、図9(c)は、図8(b)から人工膝関節7を取り除いた状態を示す図である。
【0078】
図8(a)、図8(b)及び図8(c)を参照して、脛骨インサート400,500,600では、ポスト402,502,602の前後位置が異なっている。その結果、大腿骨コンポーネント200が脛骨インサート400に対して摺動しているときの大腿骨3の位置は、大腿骨コンポーネント200が脛骨インサート500に対して摺動しているときの大腿骨3の位置と比べて、距離α1だけ前寄りに位置している。また、大腿骨コンポーネント200が脛骨インサート500に対して摺動しているときの大腿骨3の位置は、大腿骨コンポーネント200が脛骨インサート600に対して摺動しているときの大腿骨3の位置と比べて、距離α2だけ前寄りに位置している。そのため、ポスト402,502,602の前後位置を異ならせることにより、側副靭帯21の一端と他端との前後方向の相対位置を異ならせることができ、よって、側副靱帯21の張力を調整できる。前述したように、図9(a)、図9(b)及び図9(c)は、それぞれ、図8(a)、図8(b)及び図8(c)から人工膝関節7を取り除いた状態を示しており、脛骨5に対する大腿骨3の前後位置が異なるため、側副靱帯21の張力が異なる。その結果、大腿骨3と脛骨5が引き寄せられる力が異なるため、屈曲ギャップを調節することができる。
【0079】
人工膝関節7におけるギャップバランスは、人工膝関節7を設置する前の正常な膝におけるギャップバランスとしての基準ギャップバランスに近いことが、患者に自然な感覚を与えることができる点で、好ましい。しかしながら、全ての患者に対して一律に脛骨インサート500を適用すると、患者によっては、ギャップバランスが基準ギャップバランスと大きく異なり、膝を屈曲運動する際に違和感を覚えてしまう。
【0080】
そこで、人工膝関節インプラント1において、複数の脛骨インサート400,500,600を設けていることにより、ギャップバランスを調整することができる。より具体的には、図7(a)、図7(b)及び図7(c)に示すように、脛骨インサート400を用いた場合、脛骨インサート500を用いた場合、及び脛骨インサート600を用いた場合の何れにおいても、伸展ギャップG41,G51、G61は、同じ値である。
【0081】
一方、図8(a)、図8(b)及び図8(c)と、図9(a)、図9(b)及び図9(c)とを参照して、前述したように、大腿骨コンポーネント200が各脛骨インサート400,500,600のポスト402,502,602と接触しているときにおいては、同じ屈曲角度であっても、屈曲ギャップG42,G52,G62は、異なっている。
【0082】
以上のように、脛骨インサート400,500,600によって、屈曲ギャップが異なっている。このため、術者は、手術中に、患者にとって最もギャップバランスのよい脛骨インサートを、脛骨インサート400,500,600の中から選択することができる。
【0083】
[脛骨インサートの変更による、側副靭帯の位置の調整]
図7(a)、図7(b)及び図7(c)に示すように、脛骨インサート400,500,600を用いた場合、伸展状態において、脛骨5の近位部6に対する大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置は、異なっている。具体的には、脛骨インサート400を用いた場合、脛骨インサート500を用いた場合と比べて、遠位部4は、距離α3だけ前寄りに位置する。また、脛骨インサート500を用いた場合、脛骨インサート600を用いた場合と比べて、遠位部4は、距離α4だけ前寄りに位置する。このため、脛骨インサート400,500,600の違いにより、大腿骨3と脛骨5とを繋ぐ側副靭帯21の上端および下端の、前後方向の相対位置は異なっている。これにより、術者は、患者にとって最適な位置に側副靭帯21が配置されるように、脛骨インサート400,500,600を選択することができる。尚、一般的に、ポスト402,502,602の位置が、対応するプレート501の前端に近いほど、側副靭帯21の前後方向の位置を、人工膝関節7の設置前の本来の位置に近づけることが可能である。これにより、患者にとって、より自然な屈曲運動を実現することができる。
【0084】
以上より、側副靭帯21の前後方向の位置を最適化することと、屈曲角度の最大値をより大きくすることとを両立することのできる、最適な脛骨インサートを、脛骨インサート400,500,600から選択することとなる。
【0085】
[大腿骨コンポーネントを変更することによる、ギャップバランスの調整]
図10(a)、図10(b)及び図10(c)は、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度がゼロである状態を示している。図10(a)、図10(b)及び図10(c)は、それぞれ、人工膝関節7の大腿骨コンポーネントが異なる場合を示している。より詳細には、図10(a)は、人工膝関節7が大腿骨コンポーネント100を備えている場合を示しており、図10(b)は、人工膝関節7が大腿骨コンポーネント200を備えている場合を示しており、図10(c)は、人工膝関節7が大腿骨コンポーネント300を備えている場合を示している。
【0086】
また、図11(a)、図11(b)及び図11(c)は、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度が90度である状態を示している。図11(a)、図11(b)及び図11(c)は、それぞれ、図10(a)、図10(b)及び図10(c)に対応する図である。
【0087】
また、図12は、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度が最大である許容屈曲角度に近い状態を示している。図12(a)、図12(b)及び図12(c)は、それぞれ、図10(a)、図10(b)及び図10(c)に対応する図である。尚、図10〜図12においては、同じ脛骨インサート500が示されている。
【0088】
人工膝関節インプラント1において、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300が設けられていることにより、ギャップバランスを調整することができる。より具体的には、図10(a)、図10(b)及び図10(c)に示すように、大腿骨コンポーネント100を用いた場合、大腿骨コンポーネント200を用いた場合、及び大腿骨コンポーネント300を用いた場合の何れにおいても、伸展ギャップG11,G21,G31は、同じ値である。
【0089】
一方、図11(a)、図11(b)及び図11(c)に示すように、大腿骨コンポーネント100を用いた場合の屈曲ギャップG12と、大腿骨コンポーネント200を用いた場合の屈曲ギャップG22と、大腿骨コンポーネント300を用いた場合の屈曲ギャップG32とは、同じ屈曲角度にある状態で、異なっている。これは、カム部203がポスト502に接触しているときにおいて、脛骨インサート500と接触している後顆111の厚みと、脛骨インサート500と接触している後顆211の厚みと、脛骨インサート500と接触している後顆311の厚みとが異なっていることによるものである。
【0090】
以上のように、脛骨インサート400,500,600に関して、同じ屈曲角度においても、屈曲ギャップG12、G22,G32が互いに異なっている。このため、術者は、手術中に、患者にとって最もギャップバランスのよい大腿骨コンポーネントを、大腿骨コンポーネント100,200,300の中から選択することができる。
【0091】
[大腿骨コンポーネントの変更による、側副靭帯の位置の調整]
図12(a)、図12(b)及び図12(c)に示すように、人工膝関節7が許容屈曲角で屈曲している状態において、脛骨5の近位部6に対する大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置は、大腿骨コンポーネント100,200,300の違いに起因して異なっている。具体的には、大腿骨コンポーネント100を用いた場合の大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置は、大腿骨コンポーネント200を用いた場合の大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置と比べて距離α5だけ前方に位置している。また、大腿骨コンポーネント200を用いた場合の大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置は、大腿骨コンポーネント300を用いた場合の大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置と比べて距離α6だけ前方に位置している。このため、大腿骨3と脛骨5とを繋ぐ側副靭帯21(図7参照)の、前後方向の位置が、大腿骨コンポーネント100,200,300によって、異なっている。これにより、人工膝関節7が許容屈曲角で屈曲しているときにおいて、患者にとって最適な位置に側副靭帯21が配置されるように、術者は、大腿骨コンポーネント100,200,300を選択することができる。
【0092】
以上より、側副靭帯21の前後方向の位置を最適化することと、許容屈曲角度をより大きくすることとを両立することのできる、最適な大腿骨コンポーネントを、大腿骨コンポーネント100,200,300から選択することとなる。
【0093】
したがって、術者は、大腿骨コンポーネント100,200,300の中から、患者にとって最適なものを選び、且つ、脛骨インサート400,500,600(図7参照)の中から、患者にとって最適なものを選ぶこととなる。
【0094】
以上説明したように、人工膝関節インプラント1によると、脛骨インサート400,500,600は、それぞれ、脛骨関節面506に対するポスト402,502,602の前後位置が異なっている。これにより、ポストの前後位置が患者にとって最適な位置となるように、複数の脛骨インサート400,500,600のなかから、最適なものを選んで脛骨に取り付けることができる。これにより、ポストの前後位置を患者にとって最適化することができる。ポストの前後位置を調整することにより、患者の側副靭帯21の張力を調整することができる。その結果、患者が膝を延ばしている状態での大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との間のギャップとしての伸展ギャップと、患者が膝を曲げている状態での大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との間のギャップとしての屈曲ギャップと、のバランスとしてのギャップバランスを、より均衡がとれた状態にすることができる。これにより、安定した深屈曲動作を実現することができる。更に、患者の膝を自然に屈曲動作できるように側副靭帯21を前寄りに配置するという条件を満たしつつ、ポストを可及的に後方に配置することができる。これにより、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかのカム部203と、ポスト402,502,602の何れかとの摺動の際に、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れか又は大腿骨3が、脛骨インサート400,500,600の何れかにインピンジするまでの屈曲角度を、より大きくすることができる。その結果、脛骨5に対して大腿骨3をより大きい屈曲角度で屈曲できるという、深屈曲性を向上することができる。
【0095】
しかも、前述した(i)の方法と異なり、ギャップバランスを調整するために、患者の側副靭帯等、人工膝関節周辺の軟部組織を大腿骨及び脛骨から適宜引き剥がす(リリースする)作業を行わなくてもよい。このため、術者は、軟部組織の周辺の血管及び神経を傷つけないように気を使う必要のある、上記のリリース作業を行う必要が無い。よって、人工膝関節インプラント1の設置作業かかる術者および患者の負担を少なくできる。
【0096】
また、前述した方法(ii)と異なり、ギャップバランスの調整のために、大腿骨3に対する大腿骨コンポーネント100,200,300の設置位置を都度変更する必要が無い。このため、大腿骨3の骨切り面10の配置箇所の自由度を高くでき、大腿骨3にノッチが形成されるような形状の骨切り面を形成する必要が無い。よって、ノッチに起因する応力集中が大腿骨3に生じることがなく、大腿骨3の強度低下を招くことを抑制できるので、患者への負担を小さくできる。更に、ギャップバランスの調整のために大腿骨コンポーネント100,200,300の位置を変更する必要が無い。このため、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかを、膝蓋骨に対して、適切な位置に配置することができる。その結果、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかと膝蓋骨との間の摺動状態を良好にすることができ、パテラトラッキング不良を抑制できる。よって、患者は、膝の自然な屈曲運動を行うことができる。
【0097】
また、前述した方法(iii)と異なり、ギャップバランスの調整のために、大腿骨コンポーネント全体のサイズを変更する必要が無い。このため、ギャップバランスの調整のために大腿骨コンポーネント100,200,300を大きく又は小さくする必要が無い。よって、大腿骨3の骨切り量が大きくならずに済み、余分な骨切り作業が不要であるので、術者および患者への負担を小さくできる。その上、大きな大腿骨コンポーネントによって患者の軟部組織が圧迫されるという不具合を抑制できるので、患者への負担を小さくできる。
【0098】
また、前述した方法(iv)と異なり、ギャップバランスの調整のために、脛骨インサート400,500,600の厚みを変更する必要が無い。このため、脛骨インサート400,500,600の何れかと大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかとが接触する部分としてのジョイントラインの高さ位置は、ギャップバランスの調整の影響を受けない。その結果、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかと膝蓋骨との相対的な高さ位置を、ギャップバランスの調整の有無に拘らず一定にできる。即ち、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかと膝蓋骨との相対摺動の態様を、ギャップバランスの調整の有無に拘らず一定にできる。その結果、前述したパテラトラッキング不良等を抑制できる。
【0099】
また、前述した方法(v)では、ギャップを調節するために、後顆の厚みの異なる大腿骨コンポーネントを選択している。このような方法では、側副靱帯と大腿骨コンポーネントとの相対位置のバランスを調整できない。これに対して、人工膝関節インプラント1では、脛骨インサート400,500,600におけるポスト402,502,602の前後位置を調整することにより、側副靱帯21と大腿骨コンポーネント100,200,300との相対位置を調整することができる。その結果、大腿骨3を脛骨5に対して、生体本来の位置に近い位置で屈曲させることができ、患者は、膝を自然な姿勢で屈曲することができる。
【0100】
従って、人工膝関節インプラント1を適用することにより、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくでき、更には患者が自然な屈曲運動を実現できる。
【0101】
また、人工膝関節インプラント1によると、大腿骨コンポーネント100,200,300は、固定面205の形状が共通で且つ後顆111,211,311の厚みが異なっている。
【0102】
これにより、大腿骨3と脛骨5との間のギャップバランスの均衡化と、膝の自然な屈曲を達成するための側副靭帯21の配置の実現と、を両立できるように、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300のなかから、最適なものを選ぶことができる。例えば、患者において屈曲ギャップが小さい場合には、後顆の厚みがより小さい大腿骨コンポーネント100,200の何れかを用いることにより、ギャップバランスを調整することができる。また、患者において屈曲ギャップが大きい場合には、後顆の厚みがより大きい大腿骨コンポーネント200,300の何れかを用いることにより、ギャップバランスを調整することができる。また、膝の屈曲時の側副靭帯21の位置をより前側に配置するためには、大腿骨コンポーネント100,200,300の中からの、後顆の厚みがより薄いものを用いることが好ましい。更に、ポスト402,502,602の前後位置の異なる脛骨インサート400,500,600と組み合わせることにより、調整可能なギャップバランスの範囲が広がると共に、ギャップバランスの微調整を行うことができる。更に、後顆111,211,311の厚みの異なる大腿骨コンポーネント100,200,300と、ポスト402,502,602の前後位置の異なる脛骨インサート400,500,600と、を組み合わせることにより、側副靭帯21の配置を調整し易くなり、より患者に最適な状態にすることができる。よって、ギャップバランスの均衡化と、側副靭帯21の配置の最適化と、を両立できるように、最適な厚みの後顆を有する大腿骨コンポーネント(大腿骨コンポーネント100,200,300の何れか)を採用することができる。
【0103】
また、人工膝関節インプラント1によると、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300のそれぞれの後顆111,211,311における大腿骨関節面107,207,307の曲率半径が異なっている。このようにして曲率半径を異ならせるという簡易な構成で、各大腿骨コンポーネント100,200,300の後顆11,211,311の厚みを異ならせることができる。
【0104】
また、複数の脛骨インサート400,500,600において、ポスト402,502,602の形状が互いに同じである。このため、人工膝関節7の設置手術時において、脛骨インサート400,500,600の種類を変更したときの、脛骨5に対する大腿骨3の動きを予想し易い。このため、術者は、脛骨コンポーネント400,500,600の中から患者にとって最適なものを容易に選定することができる。その結果、手術時間の短縮を通じて、術者及び患者の負担をより小さくすることができる。
【0105】
また、人工膝関節インプラント1によると、脛骨トレイ2は、脛骨インサート400,500,600と別部材を用いて形成されている。これにより、脛骨トレイ2によって、脛骨インサート400,500,600の何れかを、脛骨5の近位部6に固定することができる。また、脛骨インサート400,500,600のポスト402,502,602の前後位置を変更することにより、脛骨5に対する大腿骨3の安定した深屈曲動作を実現している。これにより、安定した深屈曲動作を実現するために、脛骨トレイ2の形状を変更する必要が無い。このため、脛骨5のうち、脛骨トレイ2を固定する骨切り面10の形状を、安定した深屈曲動作の実現のために変更する必要が無く、術者および患者の負担を小さくすることができる。
【0106】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0107】
(1)前述の実施形態では、脛骨トレイの上面と脛骨コンポーネントの下面とが平坦である形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、図13(a)に示すように、脛骨トレイ2Aに下向きの凹部16を形成し、この凹部16に、脛骨インサート400Aの下面に形成した凸部23を挿入してもよい。脛骨インサート500,600についても、同様である。
(2)前述の実施形態では、脛骨トレイと脛骨コンポーネントとを別部材で形成する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、図13(b)に示すように、脛骨インサート400Bと、下向きの凸部18を有する脛骨トレイ2Bとを単一の材料で一体に形成してもよい。脛骨インサート500と脛骨トレイ2とについても同様であり、且つ、脛骨インサート500と脛骨トレイ2とについても同様である。
(3)また、いわゆるモバイル型の脛骨コンポーネントを、本発明の脛骨コンポーネントとして用いてもよい。
(4)前述の実施形態では、脛骨コンポーネントの数が3つである形態を説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、人工膝関節インプラントに備えられる脛骨コンポーネントの数は、2つ以上であればよい。
(5)前述の実施形態では、大腿骨コンポーネントの数が3つである形態を説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、人工膝関節インプラントに備えられる大腿骨コンポーネントの数は、1つ以上であればよい。人工膝関節インプラントに備えられる大腿骨コンポーネントの数が2つ以上であれば、より最適な大腿骨コンポーネントを選択することができる。
(6)前述の実施形態では、後顆における大腿骨関節面及び上顆における大腿骨関節面が、全体として、複数の曲率半径を有する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、後顆における大腿骨関節面及び上顆における大腿骨関節面が、全体として、単一の曲率半径を有していてもよい。
(7)前述の実施形態では、各脛骨インサートのポストの形状が同一である形態を説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、各脛骨インサートのポストの形状が異なっていてもよい。
【実施例】
【0108】
図1に示す人工膝関節インプラントと同様の人工膝関節インプラントを実施例として用意した。また、比較例として、1つの脛骨インサート及び1つの大腿骨コンポーネントを有する人工膝関節インプラントを用意した。そして、実施例の中から患者にとって最適な脛骨インサート及び大腿骨コンポーネントを選んだものと、比較例のそれぞれについて、患者の脛骨及び大腿骨に装着したときの患者の膝の動きを、コンピュータ上でシミュレート(模擬実験)した。
【0109】
結果を図14に示す。図14は、人工膝関節の屈曲角度と、脛骨の中心軸線に対する大腿骨の遠位部の前後位置との関係を示している。尚、図14において、実線のグラフは、実施例を用いた場合の結果を示しており、破線のグラフは、比較例を用いた場合の結果を示している。また、一点鎖線のグラフは、人工膝関節を取り付ける前の、正常な状態の患者の膝の動きを示している。
【0110】
したがって、一点鎖線で示すグラフに近いほど、自然な動きを達成できていることとなる。図14に示すように、比較例では、屈曲角度が小さいときにおいて、正常な状態の患者の膝の動きからかけ離れた動きしか実現できていないことが明らかである。一方、実施例では、何れの屈曲角度においても、正常な状態の患者の膝の動きと極めて近い動きを実現できていることが明らかである。以上より、実施例は、患者にとって違和感のない膝の動きを実現するのに好適であることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントとして、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 人工膝関節インプラント
2 脛骨トレイ
3 大腿骨
4 遠位部
5 脛骨
6 近位部
7 人工膝関節
10 骨切り面
18 脛骨コンポーネント
100,200,300 大腿骨コンポーネント
111,211,311 後顆
112,212,312 上顆
203 カム部
205 固定面
107,207,307 大腿骨関節面
400,500,600 脛骨インサート
402,502,602 ポスト
506 脛骨関節面
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
脛骨の近位部に固定される脛骨要素と、大腿骨の遠位部に固定される大腿骨要素と、を備える人工膝関節インプラントが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された大腿骨要素は、大腿骨に固定されたときに左右に並ぶ内側顆及び外側顆を含んでいる。内側顆及び外側顆のそれぞれが、膝を延ばした姿勢のときに脛骨要素に向かい合う遠位顆と、遠位顆の後方に配置された後顆と、後顆の上方に配置された上顆と、を含んでいる。これら遠位顆、後顆、及び上顆は、脛骨要素の表面と接触するために、大腿骨要素の外周に延びる滑らかな関節表面を形成している。このうち、上顆における関節表面は、大腿骨要素の前方に向かって戻るように湾曲状に延びている。このような構成を採用することで、特許文献1に記載された大腿骨要素は、脛骨要素に対して、少なくとも160度屈曲できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4290803号明細書(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、PS(Posterior Stabilized)型人工膝関節インプラントを用いる場合、患者の前十字靭帯及び後十字靭帯が切除される。そして、カムを有する大腿骨コンポーネントが、患者の大腿骨の遠位部に固定され、且つ、ポストを有する脛骨インサートが、患者の脛骨の近位部に配置される。
【0005】
このようなPS型人工膝関節インプラントが装着された患者において、術後のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上のために、より自然な屈曲状態の実現と、脛骨に対する大腿骨の最大屈曲角度をより深くできるようにすることは、重要な項目である。すなわち、脛骨に対して大腿骨が大きい屈曲角度で安定して屈曲できるという、安定した深屈曲動作の実現が求められている。ここで、本願発明者は、安定した深屈曲動作を妨げる要因として、大腿骨と脛骨との間のギャップ(垂直距離)のバランスが整っていないことに着目した。
【0006】
上記のギャップバランスとは、膝を真っ直ぐ延ばした状態におけるギャップとしての伸展ギャップと、膝を曲げた状態におけるギャップとしての屈曲ギャップとの間の均衡をいう。ギャップバランスを整えることにより安定した深屈曲動作ができる。このギャップバランスを整えるための方法として、下記(i)〜(v)の方法を考えることができる。
【0007】
まず、方法(i)として、患者の側副靭帯等、人工膝関節周辺の軟部組織を、大腿骨及び脛骨から適宜引き剥がす(リリースする)ことが考えられる。しかしながら、この場合、術者は、軟部組織の周辺の血管及び神経を傷つけないように注意をする必要があり、人工膝関節インプラントの設置作業に手間がかかる。
【0008】
また、方法(ii)として、大腿骨コンポーネントの設置位置を変更することが考えられる。具体的には、大腿骨の遠位部に対する、大腿骨コンポーネントの設置位置を、大腿骨の前方寄り又は後方寄り等に配置することが考えられる。しかしながら、この場合、大腿骨コンポーネントを大腿骨に固定するために大腿骨に形成される骨切り面の形状及び位置によっては、大腿骨の遠位部に、ノッチが形成される。ノッチが形成されると、大腿骨に大きな力が作用した際に、ノッチに負荷が集中し、骨折を生じるおそれがある。また、ギャップバランスが整うように大腿骨コンポーネントを配置した場合でも、膝蓋骨に対する大腿骨コンポーネント位置が不適切となるおそれがある。その結果、大腿骨コンポーネントと膝蓋骨との間の摺動を滑らかに行うことができないという、パテラトラッキング不良が生じるおそれがある。
【0009】
また、方法(iii)として、大腿骨コンポーネントのサイズを変更することが考えられる。より具体的には、大腿骨コンポーネントの大きさを、当初予定されていた大きさよりも大きく、又は小さくすることが考えられる。しかしながら、大腿骨コンポーネントを大きいサイズに変更した場合、骨切り量は少なくて済むが、大きな大腿骨コンポーネントによって軟部組織を圧迫され、膝を曲げ難くなるおそれがある。一方、大腿骨コンポーネントを小さいサイズに変更した場合、大腿骨の骨切り量が増える。したがって、大腿骨コンポーネントのサイズを変更することは、患者にとって負担が大きくなる。
【0010】
また、方法(iv)として、脛骨インサートの厚みを変更することが考えられる。しかしながら、この場合、脛骨インサートと大腿骨コンポーネントとが接触する部分としてのジョイントラインの高さ位置も変わってしまう。その結果、前述したパテラトラッキング不良等が生じるおそれがある。
【0011】
また、方法(v)として、特許文献1に開示されている、後顆の厚みの異なる大腿骨コンポーネントを選択することが考えられる。しかしながら、この場合、後顆の厚みによっては、大腿骨を脛骨に対して、生体本来の位置で屈曲(ロールバック)できず、その結果、患者が膝を屈曲する際に違和感を覚えてしまう。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、人工膝関節インプラントにおいて、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくすることができ、更には患者が自然な屈曲運動を行うことができるようにすることを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工膝関節インプラントは、患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントであって、前記患者の大腿骨の遠位部に取り付けられる大腿骨コンポーネントと、前記患者の脛骨の近位部に取り付けられる脛骨インサートと、を備える。前記大腿骨コンポーネントは、前記遠位部に形成された骨切り面に固定される固定面と、前記大腿骨コンポーネントの外側を向いて湾曲した2つの大腿骨関節面と、前記2つの大腿骨関節面の後部間に配置されたカム部と、前記固定面の後方に配置され前記2つの大腿骨関節面の一部を形成する後顆と、当該後顆の上方に配置され前記2つの大腿骨関節面の一部を形成する上顆と、を有し、前記脛骨インサートは、前記2つの大腿骨関節面と摺動可能な2つの脛骨関節面と、当該2つの脛骨関節面の間から前記2つの大腿骨関節面の間の空間に突出し前記カム部と接触可能なポストと、を含み、前記脛骨インサートは、前記脛骨関節面に対する前記ポストの前後位置の異なる複数の脛骨インサートを含むことを特徴とする。
【0014】
この発明によると、ポストの前後位置が患者にとって最適な位置となるように、複数の脛骨インサートのなかから、最適なものを選んで脛骨に取り付けることができる。これにより、ポストの前後位置を患者にとって最適化することができる。ポストの前後位置を調整することにより、患者の側副靱帯の張力を調整することができる。その結果、患者が膝を延ばしている状態での大腿骨と脛骨との間のギャップとしての伸展ギャップと、患者が膝を曲げている状態での大腿骨と脛骨との間のギャップとしての屈曲ギャップと、のバランスとしてのギャップバランスを、より均衡がとれた状態にすることができる。これにより、安定した深屈曲動作を実現することができる。更に、患者が膝を自然に屈曲動作できるように、側副靭帯を前寄りに配置するという条件を満たしつつ、ポストを可及的に後方に配置することができる。これにより、大腿骨コンポーネントのカムとポストとの摺動の際に、大腿骨又は大腿骨コンポーネントが脛骨インサートにインピンジ(衝突)するまでの屈曲角度を、より大きくすることができる。その結果、脛骨に対して大腿骨をより大きい屈曲角度で屈曲できるという、深屈曲性を向上することができる。
【0015】
しかも、前述した(i)の方法と異なり、ギャップバランスを調整するために、患者の側副靭帯等、人工膝関節周辺の軟部組織を大腿骨及び脛骨から適宜引き剥がす(リリースする)作業を行わなくてもよい。このため、術者は、軟部組織の周辺の血管及び神経を傷つけないように気を使う必要のある、上記のリリース作業を行う必要が無い。よって、人工膝関節インプラントの設置作業かかる術者および患者の負担を少なくできる。
【0016】
また、前述した方法(ii)と異なり、ギャップバランスの調整のために、大腿骨コンポーネントの設置位置を都度変更する必要が無い。このため、大腿骨の固定面の配置箇所の自由度を高くでき、大腿骨にノッチが形成されるような形状の固定面を形成する必要が無い。よって、ノッチに起因する応力集中が大腿骨に生じることがなく、大腿骨の強度低下を招くことを抑制できるので、患者への負担を小さくできる。更に、ギャップバランスの調整のために大腿骨コンポーネントの位置を変更する必要が無い。このため、大腿骨コンポーネントを、膝蓋骨に対して、適切な位置に配置することができる。その結果、大腿骨コンポーネントと膝蓋骨との間の摺動状態を良好にすることができ、パテラトラッキング不良を抑制できる。よって、患者は、膝の自然な屈曲運動を行うことができる。
【0017】
また、前述した方法(iii)と異なり、ギャップバランスの調整のために、大腿骨コンポーネント全体のサイズを変更する必要が無い。このため、ギャップバランスの調整のために大腿骨コンポーネントを大きく又は小さくする必要が無い。よって、大腿骨の骨切り量が大きくならずに済み、余分な骨切り作業が不要であるので、術者および患者への負担を小さくできる。その上、大きな大腿骨コンポーネントによって患者の軟部組織が圧迫されるという不具合を抑制できるので、患者への負担を小さくできる。
【0018】
また、前述した方法(iv)と異なり、ギャップバランスの調整のために、脛骨インサートの厚みを変更する必要が無い。このため、脛骨インサートと大腿骨コンポーネントとが接触する部分としてのジョイントラインの高さ位置は、ギャップバランスの調整作業の影響を受けない。その結果、大腿骨コンポーネントと膝蓋骨との相対的な高さ位置を、ギャップバランスの調整の有無に拘らず一定にできる。即ち、大腿骨コンポーネントと膝蓋骨との相対摺動の態様を、ギャップバランスの調整の有無に拘らず一定にできる。その結果、前述したパテラトラッキング不良等を抑制できる。
【0019】
また、前述した方法(v)では、ギャップを調節するために、後顆の厚みの異なる大腿骨コンポーネントを選択している。このような方法では、側副靱帯と大腿骨コンポーネントとの相対位置のバランスを調整できない。これに対して、第1発明では、脛骨インサートにおけるポストの前後位置を調整することにより、側副靱帯と大腿骨コンポーネントとの相対位置を調整することができる。その結果、大腿骨を脛骨に対して、生体本来の位置に近い位置で屈曲させることができ、患者は、膝を自然な姿勢で屈曲することができる。
【0020】
従って、本発明によると、人工膝関節インプラントにおいて、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくでき、更には患者が自然な屈曲運動を実現できる。
【0021】
第2発明に係る人工膝関節インプラントは、第1発明の人工膝関節インプラントにおいて、前記大腿骨コンポーネントは、前記固定面の形状が共通で且つ前記後顆の厚みの異なる複数の大腿骨コンポーネントを含むことを特徴とする。
【0022】
この発明によると、大腿骨と脛骨との間のギャップバランスの均衡化と、膝の自然な屈曲を達成するための側副靭帯の配置の実現と、を両立できるように、複数の大腿骨コンポーネントのなかから、最適な大腿骨コンポーネントを選ぶことができる。例えば、患者において屈曲ギャップが小さい場合には、後顆の厚みがより小さい大腿骨コンポーネントを用いることにより、ギャップバランスを調整することができる。また、患者において屈曲ギャップが大きい場合には、後顆の厚みがより大きい大腿骨コンポーネントを用いることにより、ギャップバランスを調整することができる。また、膝の屈曲時の側副靭帯の位置をより前側に配置するためには、大腿骨コンポーネントの中からの、後顆の厚みがより薄いものを用いることが好ましい。更に、ポストの前後位置の異なる脛骨インサートと組み合わせることにより、調整可能なギャップバランスの範囲が広がると共に、ギャップバランスの微調整を行うことができる。更に、後顆の厚みの異なる大腿骨コンポーネントと、ポストの前後位置の異なる脛骨インサートと、を組み合わせることにより、側副靭帯の配置を調整し易くなり、より患者に最適な状態にすることができる。よって、ギャップバランスの均衡化と、側副靭帯の配置の最適化と、を両立できるように、最適な厚みの後顆を有する大腿骨コンポーネントを採用することができる。
【0023】
第3発明に係る人工膝関節インプラントは、第2発明の人工膝関節インプラントにおいて、前記複数の大腿骨コンポーネントのそれぞれの前記後顆における前記大腿骨関節面の曲率半径が異なっていることを特徴とする。
【0024】
この発明によると、後顆における大腿骨関節面の曲率半径を、大腿骨コンポーネントごとに異ならせるという簡易な構成で、各大腿骨コンポーネントの後顆の厚みを異ならせることができる。
【0025】
第4発明に係る人工膝関節インプラントは、第1発明乃至第3発明の何れかの人工膝関節インプラントにおいて、前記複数のポストは、それぞれ、同一の形状に形成されていることを特徴とする。
【0026】
この発明によると、複数の脛骨インサートにおいて、ポストの形状が互いに同じである。このため、人工膝関節の設置手術時において、脛骨インサートの種類を変更したときの、脛骨に対する大腿骨の動きを予想し易い。このため、術者は、患者にとって最適な脛骨インサートを容易に選定することができる。その結果、手術時間の短縮を通じて、術者及び患者の負担をより小さくすることができる。
【0027】
第5発明に係る人工膝関節インプラントは、第1発明乃至第4発明の何れかの人工膝関節インプラントにおいて、前記脛骨の近位部に固定されるために設けられ、前記脛骨インサートを支持し脛骨インサートと協働して脛骨コンポーネントを構成する脛骨トレイを更に備え、前記脛骨トレイは、前記脛骨インサートと単一に成形されているか、又は、前記脛骨インサートと別部材を用いて形成され前記脛骨インサートに固定されていることを特徴とする。
【0028】
この発明によると、脛骨トレイによって、脛骨インサートを、脛骨の近位部に固定することができる。また、脛骨インサートのポストの前後位置を変更することにより、脛骨に対する大腿骨の安定した深屈曲動作を実現している。よって、安定した深屈曲動作を実現するために、脛骨トレイの形状を変更する必要が無い。このため、脛骨のうち、脛骨トレイを固定する近位部の形状を、安定した深屈曲動作の実現のために変更する必要が無く、術者および患者の負担を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、人工膝関節インプラントにおいて、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくでき、更には患者が自然な屈曲運動を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態に係る人工膝関節インプラントの側面図である。
【図2】大腿骨コンポーネント及び脛骨インサートのそれぞれの斜視図である。
【図3】大腿骨コンポーネントが患者の大腿骨に固定され、脛骨コンポーネントが患者の脛骨に固定された状態を、患者の側方から見た状態を示す断面図である。
【図4】大腿骨コンポーネントを後方から見た図である。
【図5】(a),(b),(c)は、それぞれ、複数の大腿骨コンポーネントの側面図である。
【図6】(a),(b),(c)は、それぞれ、脛骨インサートの側面図である。
【図7】(a),(b),(c)は、それぞれ、人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度がゼロである状態を示している。
【図8】(a),(b),(c)は、それぞれ、人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度が90度である状態を示している。
【図9】(a),(b),(c)は、それぞれ、図8(a)、図8(b)及び図8(c)から人工膝関節を取り除いた状態を示す図である。
【図10】(a),(b),(c)は、それぞれ、人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度がゼロである状態を示している。
【図11】(a),(b),(c)は、それぞれ、人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度が90度である状態を示している。
【図12】人工膝関節の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節の屈曲角度が最大である許容屈曲角度に近い状態を示している。
【図13】(a)及び(b)は、それぞれ、脛骨コンポーネント及び脛骨トレイの変形例を示す斜視図である。
【図14】実施例及び比較例のそれぞれについての実験結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントとして広く適用することができる。
【0032】
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工膝関節インプラント1の側面図である。人工膝関節インプラント1は、患者の膝関節を人工膝関節へ置換する手術において用いられ、例えば、変形性膝関節症や慢性関節リウマチ等により膝関節が高度に変形した患者に対して、膝を正常な機能に回復させるために用いられる。
【0033】
人工膝関節インプラント1は、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300と、複数の脛骨インサート400,500,600と、を備えている。患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する、PS型人工膝関節置換術の施術時には、人工膝関節インプラント1における複数の大腿骨コンポーネント100,200,300中から、1つの大腿骨コンポーネントが、術者によって選択される。また、施術時には、複数の脛骨インサート400,500,600の中から、1つの脛骨インサートが、術者によって選択される。これにより、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300及び脛骨インサート400,500,600の中から、患者にとって最適な大腿骨コンポーネント及び脛骨コンポーネントが、施術中に選択される。
【0034】
なお、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300は、後顆111,211,311の厚みが互いに異なっている点以外は、概ね、互いに同様の構成を有している。また、複数の脛骨インサート400,500,600は、ポスト402,502,602の前後位置が互いに異なっている点以外は、概ね互いに同様の構成を有している。以下、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300のうち、主に1つの大腿骨コンポーネント200の構成を説明する。また、複数の脛骨インサート400,500,600のうち、主に1つの脛骨インサート500の構成を説明する。
【0035】
図2は、大腿骨コンポーネント200及び脛骨インサート500のそれぞれの斜視図である。図3は、大腿骨コンポーネント200が患者の大腿骨3の遠位部4に取り付けられ、脛骨インサート500が患者の脛骨5の近位部6に取り付けられた状態を、患者の側方から見た状態を示す断面図である。図2及び図3に示すように、大腿骨コンポーネント200は、大腿骨3の遠位部4に固定されている。また、脛骨インサート500は、脛骨5の近位部6に、脛骨トレイ2を介して固定されている。大腿骨コンポーネント200及び脛骨インサート500は、患者の膝の屈伸運動に伴って、相対摺動する。大腿骨コンポーネント200と、脛骨インサート500と、脛骨トレイ2によって、人工膝関節7が形成されている。
【0036】
尚、以下では、「内側」、又は「外側」というときは、大腿骨コンポーネント200及び脛骨インサート500が設置されている患者の膝の内側又は外側をいうものとする。即ち、大腿骨コンポーネント200及び脛骨インサート500が患者の左足に配置されている場合には、内側は、患者にとっての右側をいい、外側は、患者にとっての左側をいう。また、「前」又は「後」をいうときは、患者にとっての前又は後をいうものとする。
【0037】
大腿骨コンポーネント200は、例えば、生体親和性を有する金属材料を用いて形成されている。大腿骨コンポーネント200は、側面視においてU字状に形成されている。大腿骨コンポーネント200は、内側顆201と、外側顆202と、カム部203と、開口部204と、を備えて構成されている。内側顆201及び外側顆202は、それぞれ、左右に並んで配置されている。内側顆201の前部と外側顆202の前部とは、互いに接続されている。大腿骨コンポーネント200の前部は、前方から見たときに、上側に向けて凸となる形状に形成されている。
【0038】
内側顆201及び外側顆202のそれぞれのうち、大腿骨3の近位部6側を向く内側面には、固定面205,205が形成されている。固定面205,205は、大腿骨コンポーネント200を大腿骨3の近位部6に固定するために設けられている。また、固定面205,205は、それぞれ、側方から見たときにU字状に形成されている。固定面205,205は、それぞれ、遠位部4に形成された骨切り面10に固定される。
【0039】
骨切り面10は、大腿骨コンポーネント200を遠位部4に固定する前に、術者によって人工的に形成された面である。骨切り面10は、例えば、術者がカッタ等の器具を用いて遠位部4の一部を切除することで、形成されている。骨切り面10は、例えば、前側を向く第1面11と、前斜め下側を向く第2面12と、下側を向く第3面13と、後斜め下を向く第4面14と、後側を向く第5面15と、を有している。固定面205,205は、それぞれ、これら第1〜第5面11〜15に沿う形状に形成されており、これら第1〜第5面11〜15のそれぞれに、骨セメント、又は生体活性材料コーティング等を用いて固定されている。
【0040】
また、骨切り面10の第1面11から第5面15にかけて、後述するポスト502を配置するための凹部16が形成されている。凹部16は、第2面12〜第5面15に亘って形成されて、前後方向に延びている。凹部16は、遠位部4を前後方向に貫通するように延びている。これにより、凹部16は、膝の屈曲運動の際に、ポスト502が大腿骨3に接触することを抑制している。
【0041】
内側顆201及び外側顆202のそれぞれにおいて、大腿骨3の遠位部4の外側を向く外側面には、2つの大腿骨関節面207,207が形成されている。大腿骨関節面207,207は、患者の膝の屈伸運動に伴って脛骨インサート500と摺動する湾曲面として設けられている。大腿骨関節面207,207は、それぞれ、凸湾曲形状に形成され、遠位部4の遠位端としての第3面13と対向するとともに、遠位部4の後部としての第5面15と対向しており、側方から見て、遠位部4の一部を取り囲んでいる。大腿骨関節面207の前端208は、膝が真っ直ぐの状態のときに、ポスト502の前方に配置されている。
【0042】
大腿骨関節面207,207は、内側顆201及び外側顆202にそれぞれ備えられる遠位顆210,210、後顆211,211及び上顆212,212によって形成されている。
【0043】
図4は、大腿骨コンポーネント200を後方から見た図である。図3及び図4に示すように、遠位顆210,210は、それぞれ、大腿骨3の遠位部4の遠位面としての第3面13と対向するように配置されている。後顆211,211は、それぞれ、遠位顆210,210から後斜め上方へ向けて延びる部分として設けられている。後顆211,211は、それぞれ、固定面205,205の後方に配置されており、主に、第4面14及び第5面15と対向するように配置されている。後顆211,211の上端は、それぞれ、側面視において、カム部203の後方に位置している。上顆212,212は、それぞれ、後顆211,211の上端から上方へ向けて延びる部分として設けられている。上顆212,212は、第5面15に対向するように配置されている。
【0044】
上記の構成により、大腿骨関節面207,207は、それぞれ、遠位顆210,210の外側面としての第1関節面207a,207aと、後顆211,211の外側面としての第2関節面207b,207bと、上顆212,212の外側面としての第3関節面207c,207cと、を有している。
【0045】
内側顆201と外側顆202との間に、カム部203が配置されている。カム部203は、大腿骨関節面207,207の後部間に配置されている。カム部203は、膝の屈曲角度が所定角度以上のときに、脛骨インサート500と接触することにより、膝の屈曲運動を案内する。カム部203は、内側顆201の後顆211及び上顆212と、外側顆202の後顆211及び上顆212との間に配置された、小片状の部分である。
【0046】
図2及び図3に示すように、カム部203の前部は、固定面205,205に対して前方に突出している。カム部203の前側面は、平坦な面に形成されている。また、カム部203の後側面は、上顆212,212の外側面(第3関節面207c、207c)に対して、前方に配置されている。これにより、カム部203の後部には、前方へ向けて窪む窪み部203aが形成されている。カム部203の前方に、開口部204が形成されている。
【0047】
開口部204は、脛骨インサート500のポスト502が挿通される部分である。開口部204は、内側顆201と外側顆202との間に配置されており、大腿骨コンポーネント200を貫通する孔部として設けられている。開口部204は、内側顆201及び外側顆202のそれぞれの後顆211,211から前方に向けて延びている。
【0048】
上記の構成を有する大腿骨コンポーネント200は、脛骨コンポーネント18によって、摺動可能に支持される。脛骨コンポーネント18は、人工膝関節インプラント1の一要素としての脛骨トレイ2と、脛骨インサート500とを備えて構成されている。脛骨トレイ2は、脛骨インサート500を支持するトレイ本体19と、トレイ本体19の裏面から突出するスタッド部20と、を備えて構成されている。スタッド部20は、脛骨5の近位部6に形成された髄腔部5aに嵌合されており、骨セメント、又は生体活性材料コーティング等を用いて脛骨5の近位部6に固定されている。髄腔部5aは、術者によって形成される孔部である。トレイ本体19は平板状に形成されており、近位部6の端面上に配置されている。トレイ本体19は、大腿骨コンポーネント200側を向く表面を有している。このトレイ本体19の表面に、脛骨インサート500が固定されている。
【0049】
脛骨インサート500は、合成樹脂等を用いて形成されており、平板状のプレート501と、プレート501から開口部204へ突出するポスト502と、を備えて構成されている。プレート501は、左右に細長い円板状に形成されている。プレート501には、内側窩503及び外側窩504が形成されている。
【0050】
内側窩503及び外側窩504は、それぞれ、大腿骨コンポーネント200の内側顆201及び外側顆202と摺動可能に接触する窪みとして設けられている。内側窩503と外側窩504との間にはポスト502が配置されている。平面視において、ポスト502は、内側窩503と外側窩504とに挟まれている。内側窩503及び外側窩504のそれぞれにおいて、前端部の厚みは、後端部の厚みよりも大きい。内側窩503及び外側窩504は、それぞれ、大腿骨コンポーネント200の内側顆201及び外側顆202を受けるための窪みを有している。
【0051】
内側窩503のうち、大腿骨コンポーネント200の内側顆201と対向する面には、脛骨関節面506が形成されている。同様に、外側窩504のうち、大腿骨コンポーネント200の外側顆202と対向する面には、脛骨関節面506が形成されている。これら2つの脛骨関節面506,506は、それぞれ、脛骨5の近位部6側へ向けて凹湾曲した形状に形成されている。内側窩503の脛骨関節面506は、内側顆201の大腿骨関節面207と摺動可能に接触している。また、外側窩504の脛骨関節面506は、外側顆202の大腿骨関節面207と摺動可能に接触している。
【0052】
ポスト502は、カム部203との摺動によって、人工膝関節7の屈曲を促進するために設けられている。ポスト502は、プレート501を平面視したときにプレート501の略中央に配置されている。即ち、ポスト502は、左右方向におけるプレート501の中央に配置され、且つ、前後方向におけるプレート501の中央に配置されている。
【0053】
ポスト502は、柱状に形成されており、プレート501からの高さが高くなるに従い、前後方向の厚みが小さくなっている。また、ポスト502を前方から見たときに、ポスト502は、根元部から中間部にかけて、左右方向の厚みが一定の形状とされている。また、ポスト502の先端部は、先細りとなるように左右方向の厚みが次第に小さくされている。
【0054】
ポスト502の後面には、ポスト502と摺動接触するための摺動面507が形成されている。摺動面507は、前側に向けて窪む面として設けられており、人工膝関節7の屈曲角度が所定値以上のときに、カム部203に対して摺動する。
【0055】
ポスト502の後方において、プレート501には、切欠部508が形成されている。切欠部508は、ポスト502と接触しているときのカム部203がプレート501に接触することを抑制するために設けられている。切欠部508は、プレート501の後端部のうち、左右方向の中央に形成されている。
【0056】
図5(a),図5(b)及び図5(c)は、それぞれ、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300の側面図である。図5(b)に示すように、大腿骨コンポーネント200の大腿骨関節面207は、複数の曲率半径を有している。具体的には、大腿骨関節面207は、曲率半径R20,R21,R22及びR23を有している。
【0057】
大腿骨関節面207のうち、遠位顆210における前側部分の一部は、曲率半径R20を有している。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R20を有する部分の後端207dは、大腿骨3の第4面14の下方に位置している。大腿骨関節面207のうち、この後端207dから後方へ向けて延びる部分の曲率半径R21が、曲率半径R20よりも小さい値となっている。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R21を有する部分は、大腿骨コンポーネント200の後端まで延びている。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R21を有する部分の後端207eは、カム部203の後方に位置している。大腿骨関節面207のうち、この後端207eから固定面205側へ向けて延びる部分の曲率半径R22が、曲率半径R21よりも小さい値となっている。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R22を有する部分の前端207fは、側面視において、カム部203の上部寄りに配置されている。大腿骨関節面207のうち、この前端207fから固定面205まで延びる部分の曲率半径R23が、曲率半径R22よりも小さい値となっている。即ち、R20>R21>R22>R23となっている。
【0058】
上記の構成により、遠位顆210における大腿骨関節面207(第1関節207a)は、2種類の曲率半径R20,R21を有している。また、後顆211における大腿骨関節面207(第2関節207b)は、2種類の曲率半径R21,22を有している。更に、上顆212における大腿骨関節面207(第1関節207c)は、2種類の曲率半径R22,R23を有している。
【0059】
次に、図5(a)、図5(b)及び図5(c)を参照して、大腿骨コンポーネント100及び大腿骨コンポーネント300について説明する。前述したように、大腿骨コンポーネント100,200,300の違いは、主に、側面視における後顆111,211,311の厚みの違いにある。尚、大腿骨コンポーネント100,300のうち、大腿骨コンポーネント200と同様の構成については、図に、大腿骨コンポーネント200と同一の符号を付して、説明を省略する。また、大腿骨コンポーネント100,300のうち、大腿骨コンポーネント200の要素に対応する要素については、大腿骨コンポーネント200の要素に対応する符号を付して説明する。例えば、大腿骨コンポーネント100,300の大腿骨関節面については、大腿骨コンポーネント200の大腿骨関節面207に対応する符号として、大腿骨関節面107,307という符号を付して説明する。
【0060】
図5(a)に示すように、大腿骨コンポーネント100は、遠位顆110と、後顆111と、上顆112と、を有している。また、大腿骨コンポーネント100の大腿骨関節面107は、複数の曲率半径を有している。具体的には、大腿骨関節面107は、曲率半径R10,R11,R12及びR13を有している。
【0061】
大腿骨関節面107のうち、遠位顆110における前側部分の一部が、曲率半径R10を有している。大腿骨関節面107のうち、曲率半径R10を有する部分の後端107dは、大腿骨3の第3面13の下方に位置する。大腿骨関節面107のうち、この後端107dから後方へ向けて延びる部分の曲率半径R11が、曲率半径R10よりも小さい値となっている。大腿骨関節面107のうち、曲率半径R11を有する部分は、大腿骨コンポーネント100の後端を含み、且つこの後端よりも上方に延びている。曲率半径R11を有する部分の上端107eは、カム部203の上部の後方に位置している。大腿骨関節面107のうち、この上端107eから固定面205側へ向けて延びる部分の曲率半径R12が、曲率半径R11よりも小さい値となっている。大腿骨関節面207のうち、曲率半径R12を有する部分の前端107fは、側面視において、カム部203と重なっている。大腿骨関節面107のうち、この前端107fから固定面205まで延びる部分の曲率半径R13が、曲率半径R12よりも小さい値となっている。即ち、R10>R11>R12>R13となっている。
【0062】
上記の構成により、遠位顆110における大腿骨関節面107(第1関節面107a)は、2種類の曲率半径R10,R11を有している。また、後顆111における大腿骨関節面107(第2関節面107b)は、1種類の曲率半径R11を有している。更に、上顆112における大腿骨関節面107(第3関節面107c)は、2種類の曲率半径R12,R13を有している。
【0063】
図5(c)に示すように、大腿骨コンポーネント300は、遠位顆310と、後顆311と、上顆312と、を有している。また、大腿骨コンポーネント300の大腿骨関節面307は、複数の曲率半径を有している。具体的には、大腿骨関節面307は、曲率半径R30,R31,R32及びR33を有している。
【0064】
大腿骨関節面307のうち、遠位顆310における前側部分の一部が、曲率半径R30を有している。大腿骨関節面307のうち、曲率半径R30を有する部分の後端307dは、固定面205の後方側に位置する。大腿骨関節面307のうち、この後端307dから後方へ向けて延びる部分の曲率半径R31が、曲率半径R30よりも小さい値となっている。大腿骨関節面307のうち、曲率半径R31を有する部分は、後斜め下に向けて凸となる状となっている。大腿骨関節面307のうち、曲率半径R31を有する部分の後端307eは、前後方向において、固定面205と、大腿骨コンポーネント300の後端との間に位置している。大腿骨関節面307のうち、この後端307eから上方へ延びる部分の曲率半径R32が、曲率半径R31よりも小さい値となっている。大腿骨関節面307のうち、曲率半径R32を有する部分は、大腿骨コンポーネント300の後端を含み、且つこの後端よりも上方に延びている。曲率半径R32を有する部分の上端307fは、側面視において、カム部203と重なる位置に配置されている。大腿骨関節面307は、この上端307fから固定面205まで延びる部分の曲率半径R33が、曲率半径R32よりも小さい値となっている。即ち、R30>R31>R32>R33となっている。
【0065】
上記の構成により、遠位顆310における大腿骨関節面307(第1関節面307a)は、少なくとも1種類の曲率半径R31を有している。また、後顆311における大腿骨関節面307(第2関節面307b)は、2種類の曲率半径R31,R32を有している。更に、上顆312における大腿骨関節面307(第3関節面307c)は、2種類の曲率半径R32,R33を有している。上記の構成を有する大腿骨コンポーネント100,200,300においては、それぞれの固定面205,205,205の形状は、同一とされている。また、曲率半径R10=R20=R30とされており、第3面13の下方において、遠位顆110,210,310のそれぞれの肉厚は、概ね同じとされている。
【0066】
一方で、曲率半径R11<R21<R31とされている。また、曲率半径R12<R22<R32とされている。更に、曲率半径R13<R23<R33とされている。このように、曲率半径を異ならせる構成により、大腿骨コンポーネント100の後顆111の厚みと比べて、大腿骨コンポーネント200の後顆211の厚みが大きく、更に、大腿骨コンポーネント200の後顆211の厚みと比べて、大腿骨コンポーネント300の後顆311の厚みが大きくされている。
【0067】
図6(a)、図6(b)及び図6(c)は、それぞれ、複数の脛骨インサート400,500,600の側面図である。図6(a)、図6(b)及び図6(c)を参照して、次に、脛骨インサート500及び脛骨インサート600について説明する。前述したように、脛骨インサート400,500,600の違いは、主に、ポスト402,502,602の前後位置の違いにある。尚、脛骨インサート400,600のうち、脛骨インサート500と同様の構成については、図に、脛骨インサート500と同一の符号を付して、説明を省略する。
【0068】
脛骨インサート400,500,600において、それぞれのポスト402,502,602の形状は、同一形状とされている。一方で、これらのポスト402,502,602において、脛骨関節面506に対する前後位置は、それぞれ、異なっている。具体的には、脛骨インサート400において、プレート501の後端からポスト402の後端までの前後方向の距離を距離D4と定義する。また、脛骨インサート500において、プレート501の後端からポスト502の後端までの前後方向の距離をD5と定義する。更に、脛骨インサート600において、プレート501の後端からポスト602の後端までの前後方向の距離をD6とする。この場合、距離D4>D5>D6とされている。したがって、プレート501の後端からの切欠部508の前方への切り込み深さも同様に、脛骨インサート400,500,600毎に異なっている。
【0069】
[人工膝関節の屈曲動作の説明]
図7(a)、図7(b)及び図7(c)は、それぞれ、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度がゼロである状態を示している。図7(a)、図7(b)及び図7(c)は、それぞれ、人工膝関節7の脛骨インサートが異なる場合を示している。より詳細には、図7(a)は、人工膝関節7が脛骨インサート400を備えている場合を示しており、図7(b)は、人工膝関節7が脛骨インサート500を備えている場合を示しており、図7(c)は、人工膝関節7が脛骨インサート600を備えている場合を示している。
【0070】
また、図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、それぞれ、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度が90度である状態を示している。図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、それぞれ、図7(a)、図7(b)及び図7(c)に対応する図である。
【0071】
脛骨インサート400を用いた場合の人工膝関節7の屈曲の動作は、図7(a)及び図8(a)に示されている。また、脛骨インサート500を用いた場合の人工膝関節7の屈曲の動作は、図7(b)及び図8(b)に示されている。更に、脛骨インサート600を用いた場合の人工膝関節7の屈曲の動作は、図7(c)及び図8(c)に示されている。
【0072】
図7(b)に示すように、脛骨インサート500を用いて人工膝関節7を形成した場合において、人工膝関節7が屈曲を開始すると、大腿骨コンポーネント200の大腿骨関節面207は、脛骨関節面506に対して摺動しつつ、前方へ向けて旋回する。このとき、大腿骨3及び大腿骨コンポーネント200は、図7(b)において、時計回り方向に回転する。これにより、大腿骨コンポーネント200のカム部203は、前方へ移動し、カム部203が、ポスト502に近づくように変位する。
【0073】
そして、屈曲角度が所定角度を超えて大きくなると、図8(b)に示すように、大腿骨コンポーネント200のカム部203は、ポスト502の摺動面507に接触する。これにより、人工膝関節7が屈曲しているときに、カム部203は、ポスト502の摺動面507に受けられ、前方への変位を規制されつつ、摺動面507に対して摺動回転する。これにより、大腿骨コンポーネント200は、ポスト502との接触部を支点にして更に回転する。
【0074】
尚、図7(a)及び図8(a)に示すように、人工膝関節7において、脛骨インサート400を用いた場合も、脛骨インサート500を用いた場合と同様の屈曲動作が行われる。また、図7(c)及び図8(c)に示すように、人工膝関節7において、脛骨インサート600を用いた場合も、脛骨インサート500を用いた場合と同様の屈曲動作が行われる。また、大腿骨コンポーネント200に代えて、大腿骨コンポーネント100又は大腿骨コンポーネント300(図5参照)を用いた場合も、上記と同様の屈曲動作が行われる。
【0075】
[脛骨コンポーネントの変更によるギャップバランスの調整]
ここで、図7(b)及び図8(b)を参照して、人工膝関節7の屈曲角度がゼロである状態としての伸展状態において、大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との距離が、所定の伸展ギャップG51となっている。また、人工膝関節7の屈曲角度が90度の状態において、大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との距離が、所定の屈曲ギャップG52となっている。そして、伸展ギャップG51と屈曲ギャップG52との差が、ギャップバランスとして定義される。尚、ギャップとは、脛骨5の中心軸線に沿う、大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との間の直線距離をいう。また、伸展ギャップとは、人工膝関節7が真っ直ぐであることにより屈曲角度がゼロであるときのギャップをいう。更に、屈曲ギャップとは、人工膝関節7が曲がった状態であることにより屈曲角度が90度のときのギャップをいう。
【0076】
また、図7(a)及び図8(a)に示すように、脛骨インサート400を用いた場合の人工膝関節7の伸展ギャップG41及び屈曲ギャップG42が規定されている。そして、伸展ギャップG41と屈曲ギャップG42との差が、ギャップバランスとして定義される。また、図7(c)及び図8(c)に示すように、脛骨インサート600を用いた場合の人工膝関節7の伸展ギャップG61及び屈曲ギャップG62が規定されている。そして、伸展ギャップG61と屈曲ギャップG62との差が、ギャップバランスとして定義される。
【0077】
図9(a)は、図8(a)から人工膝関節7を取り除いた状態を示す図である。なお、図9(a)の大腿骨3の前後位置は、図8(a)でポスト402とカム203が接触した位置となっている。同様に図9(b)は、図8(b)から人工膝関節7を取り除いた状態を示す図であり、図9(c)は、図8(b)から人工膝関節7を取り除いた状態を示す図である。
【0078】
図8(a)、図8(b)及び図8(c)を参照して、脛骨インサート400,500,600では、ポスト402,502,602の前後位置が異なっている。その結果、大腿骨コンポーネント200が脛骨インサート400に対して摺動しているときの大腿骨3の位置は、大腿骨コンポーネント200が脛骨インサート500に対して摺動しているときの大腿骨3の位置と比べて、距離α1だけ前寄りに位置している。また、大腿骨コンポーネント200が脛骨インサート500に対して摺動しているときの大腿骨3の位置は、大腿骨コンポーネント200が脛骨インサート600に対して摺動しているときの大腿骨3の位置と比べて、距離α2だけ前寄りに位置している。そのため、ポスト402,502,602の前後位置を異ならせることにより、側副靭帯21の一端と他端との前後方向の相対位置を異ならせることができ、よって、側副靱帯21の張力を調整できる。前述したように、図9(a)、図9(b)及び図9(c)は、それぞれ、図8(a)、図8(b)及び図8(c)から人工膝関節7を取り除いた状態を示しており、脛骨5に対する大腿骨3の前後位置が異なるため、側副靱帯21の張力が異なる。その結果、大腿骨3と脛骨5が引き寄せられる力が異なるため、屈曲ギャップを調節することができる。
【0079】
人工膝関節7におけるギャップバランスは、人工膝関節7を設置する前の正常な膝におけるギャップバランスとしての基準ギャップバランスに近いことが、患者に自然な感覚を与えることができる点で、好ましい。しかしながら、全ての患者に対して一律に脛骨インサート500を適用すると、患者によっては、ギャップバランスが基準ギャップバランスと大きく異なり、膝を屈曲運動する際に違和感を覚えてしまう。
【0080】
そこで、人工膝関節インプラント1において、複数の脛骨インサート400,500,600を設けていることにより、ギャップバランスを調整することができる。より具体的には、図7(a)、図7(b)及び図7(c)に示すように、脛骨インサート400を用いた場合、脛骨インサート500を用いた場合、及び脛骨インサート600を用いた場合の何れにおいても、伸展ギャップG41,G51、G61は、同じ値である。
【0081】
一方、図8(a)、図8(b)及び図8(c)と、図9(a)、図9(b)及び図9(c)とを参照して、前述したように、大腿骨コンポーネント200が各脛骨インサート400,500,600のポスト402,502,602と接触しているときにおいては、同じ屈曲角度であっても、屈曲ギャップG42,G52,G62は、異なっている。
【0082】
以上のように、脛骨インサート400,500,600によって、屈曲ギャップが異なっている。このため、術者は、手術中に、患者にとって最もギャップバランスのよい脛骨インサートを、脛骨インサート400,500,600の中から選択することができる。
【0083】
[脛骨インサートの変更による、側副靭帯の位置の調整]
図7(a)、図7(b)及び図7(c)に示すように、脛骨インサート400,500,600を用いた場合、伸展状態において、脛骨5の近位部6に対する大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置は、異なっている。具体的には、脛骨インサート400を用いた場合、脛骨インサート500を用いた場合と比べて、遠位部4は、距離α3だけ前寄りに位置する。また、脛骨インサート500を用いた場合、脛骨インサート600を用いた場合と比べて、遠位部4は、距離α4だけ前寄りに位置する。このため、脛骨インサート400,500,600の違いにより、大腿骨3と脛骨5とを繋ぐ側副靭帯21の上端および下端の、前後方向の相対位置は異なっている。これにより、術者は、患者にとって最適な位置に側副靭帯21が配置されるように、脛骨インサート400,500,600を選択することができる。尚、一般的に、ポスト402,502,602の位置が、対応するプレート501の前端に近いほど、側副靭帯21の前後方向の位置を、人工膝関節7の設置前の本来の位置に近づけることが可能である。これにより、患者にとって、より自然な屈曲運動を実現することができる。
【0084】
以上より、側副靭帯21の前後方向の位置を最適化することと、屈曲角度の最大値をより大きくすることとを両立することのできる、最適な脛骨インサートを、脛骨インサート400,500,600から選択することとなる。
【0085】
[大腿骨コンポーネントを変更することによる、ギャップバランスの調整]
図10(a)、図10(b)及び図10(c)は、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度がゼロである状態を示している。図10(a)、図10(b)及び図10(c)は、それぞれ、人工膝関節7の大腿骨コンポーネントが異なる場合を示している。より詳細には、図10(a)は、人工膝関節7が大腿骨コンポーネント100を備えている場合を示しており、図10(b)は、人工膝関節7が大腿骨コンポーネント200を備えている場合を示しており、図10(c)は、人工膝関節7が大腿骨コンポーネント300を備えている場合を示している。
【0086】
また、図11(a)、図11(b)及び図11(c)は、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度が90度である状態を示している。図11(a)、図11(b)及び図11(c)は、それぞれ、図10(a)、図10(b)及び図10(c)に対応する図である。
【0087】
また、図12は、人工膝関節7の屈曲動作を説明するための、主要部を側方から見た断面図であって、人工膝関節7の屈曲角度が最大である許容屈曲角度に近い状態を示している。図12(a)、図12(b)及び図12(c)は、それぞれ、図10(a)、図10(b)及び図10(c)に対応する図である。尚、図10〜図12においては、同じ脛骨インサート500が示されている。
【0088】
人工膝関節インプラント1において、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300が設けられていることにより、ギャップバランスを調整することができる。より具体的には、図10(a)、図10(b)及び図10(c)に示すように、大腿骨コンポーネント100を用いた場合、大腿骨コンポーネント200を用いた場合、及び大腿骨コンポーネント300を用いた場合の何れにおいても、伸展ギャップG11,G21,G31は、同じ値である。
【0089】
一方、図11(a)、図11(b)及び図11(c)に示すように、大腿骨コンポーネント100を用いた場合の屈曲ギャップG12と、大腿骨コンポーネント200を用いた場合の屈曲ギャップG22と、大腿骨コンポーネント300を用いた場合の屈曲ギャップG32とは、同じ屈曲角度にある状態で、異なっている。これは、カム部203がポスト502に接触しているときにおいて、脛骨インサート500と接触している後顆111の厚みと、脛骨インサート500と接触している後顆211の厚みと、脛骨インサート500と接触している後顆311の厚みとが異なっていることによるものである。
【0090】
以上のように、脛骨インサート400,500,600に関して、同じ屈曲角度においても、屈曲ギャップG12、G22,G32が互いに異なっている。このため、術者は、手術中に、患者にとって最もギャップバランスのよい大腿骨コンポーネントを、大腿骨コンポーネント100,200,300の中から選択することができる。
【0091】
[大腿骨コンポーネントの変更による、側副靭帯の位置の調整]
図12(a)、図12(b)及び図12(c)に示すように、人工膝関節7が許容屈曲角で屈曲している状態において、脛骨5の近位部6に対する大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置は、大腿骨コンポーネント100,200,300の違いに起因して異なっている。具体的には、大腿骨コンポーネント100を用いた場合の大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置は、大腿骨コンポーネント200を用いた場合の大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置と比べて距離α5だけ前方に位置している。また、大腿骨コンポーネント200を用いた場合の大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置は、大腿骨コンポーネント300を用いた場合の大腿骨3の遠位部4の前後方向の位置と比べて距離α6だけ前方に位置している。このため、大腿骨3と脛骨5とを繋ぐ側副靭帯21(図7参照)の、前後方向の位置が、大腿骨コンポーネント100,200,300によって、異なっている。これにより、人工膝関節7が許容屈曲角で屈曲しているときにおいて、患者にとって最適な位置に側副靭帯21が配置されるように、術者は、大腿骨コンポーネント100,200,300を選択することができる。
【0092】
以上より、側副靭帯21の前後方向の位置を最適化することと、許容屈曲角度をより大きくすることとを両立することのできる、最適な大腿骨コンポーネントを、大腿骨コンポーネント100,200,300から選択することとなる。
【0093】
したがって、術者は、大腿骨コンポーネント100,200,300の中から、患者にとって最適なものを選び、且つ、脛骨インサート400,500,600(図7参照)の中から、患者にとって最適なものを選ぶこととなる。
【0094】
以上説明したように、人工膝関節インプラント1によると、脛骨インサート400,500,600は、それぞれ、脛骨関節面506に対するポスト402,502,602の前後位置が異なっている。これにより、ポストの前後位置が患者にとって最適な位置となるように、複数の脛骨インサート400,500,600のなかから、最適なものを選んで脛骨に取り付けることができる。これにより、ポストの前後位置を患者にとって最適化することができる。ポストの前後位置を調整することにより、患者の側副靭帯21の張力を調整することができる。その結果、患者が膝を延ばしている状態での大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との間のギャップとしての伸展ギャップと、患者が膝を曲げている状態での大腿骨3の遠位部4と脛骨5の近位部6との間のギャップとしての屈曲ギャップと、のバランスとしてのギャップバランスを、より均衡がとれた状態にすることができる。これにより、安定した深屈曲動作を実現することができる。更に、患者の膝を自然に屈曲動作できるように側副靭帯21を前寄りに配置するという条件を満たしつつ、ポストを可及的に後方に配置することができる。これにより、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかのカム部203と、ポスト402,502,602の何れかとの摺動の際に、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れか又は大腿骨3が、脛骨インサート400,500,600の何れかにインピンジするまでの屈曲角度を、より大きくすることができる。その結果、脛骨5に対して大腿骨3をより大きい屈曲角度で屈曲できるという、深屈曲性を向上することができる。
【0095】
しかも、前述した(i)の方法と異なり、ギャップバランスを調整するために、患者の側副靭帯等、人工膝関節周辺の軟部組織を大腿骨及び脛骨から適宜引き剥がす(リリースする)作業を行わなくてもよい。このため、術者は、軟部組織の周辺の血管及び神経を傷つけないように気を使う必要のある、上記のリリース作業を行う必要が無い。よって、人工膝関節インプラント1の設置作業かかる術者および患者の負担を少なくできる。
【0096】
また、前述した方法(ii)と異なり、ギャップバランスの調整のために、大腿骨3に対する大腿骨コンポーネント100,200,300の設置位置を都度変更する必要が無い。このため、大腿骨3の骨切り面10の配置箇所の自由度を高くでき、大腿骨3にノッチが形成されるような形状の骨切り面を形成する必要が無い。よって、ノッチに起因する応力集中が大腿骨3に生じることがなく、大腿骨3の強度低下を招くことを抑制できるので、患者への負担を小さくできる。更に、ギャップバランスの調整のために大腿骨コンポーネント100,200,300の位置を変更する必要が無い。このため、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかを、膝蓋骨に対して、適切な位置に配置することができる。その結果、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかと膝蓋骨との間の摺動状態を良好にすることができ、パテラトラッキング不良を抑制できる。よって、患者は、膝の自然な屈曲運動を行うことができる。
【0097】
また、前述した方法(iii)と異なり、ギャップバランスの調整のために、大腿骨コンポーネント全体のサイズを変更する必要が無い。このため、ギャップバランスの調整のために大腿骨コンポーネント100,200,300を大きく又は小さくする必要が無い。よって、大腿骨3の骨切り量が大きくならずに済み、余分な骨切り作業が不要であるので、術者および患者への負担を小さくできる。その上、大きな大腿骨コンポーネントによって患者の軟部組織が圧迫されるという不具合を抑制できるので、患者への負担を小さくできる。
【0098】
また、前述した方法(iv)と異なり、ギャップバランスの調整のために、脛骨インサート400,500,600の厚みを変更する必要が無い。このため、脛骨インサート400,500,600の何れかと大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかとが接触する部分としてのジョイントラインの高さ位置は、ギャップバランスの調整の影響を受けない。その結果、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかと膝蓋骨との相対的な高さ位置を、ギャップバランスの調整の有無に拘らず一定にできる。即ち、大腿骨コンポーネント100,200,300の何れかと膝蓋骨との相対摺動の態様を、ギャップバランスの調整の有無に拘らず一定にできる。その結果、前述したパテラトラッキング不良等を抑制できる。
【0099】
また、前述した方法(v)では、ギャップを調節するために、後顆の厚みの異なる大腿骨コンポーネントを選択している。このような方法では、側副靱帯と大腿骨コンポーネントとの相対位置のバランスを調整できない。これに対して、人工膝関節インプラント1では、脛骨インサート400,500,600におけるポスト402,502,602の前後位置を調整することにより、側副靱帯21と大腿骨コンポーネント100,200,300との相対位置を調整することができる。その結果、大腿骨3を脛骨5に対して、生体本来の位置に近い位置で屈曲させることができ、患者は、膝を自然な姿勢で屈曲することができる。
【0100】
従って、人工膝関節インプラント1を適用することにより、安定した深屈曲動作を実現するために、ギャップバランスを調整することができ、且つ、術者及び患者の負担を少なくでき、更には患者が自然な屈曲運動を実現できる。
【0101】
また、人工膝関節インプラント1によると、大腿骨コンポーネント100,200,300は、固定面205の形状が共通で且つ後顆111,211,311の厚みが異なっている。
【0102】
これにより、大腿骨3と脛骨5との間のギャップバランスの均衡化と、膝の自然な屈曲を達成するための側副靭帯21の配置の実現と、を両立できるように、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300のなかから、最適なものを選ぶことができる。例えば、患者において屈曲ギャップが小さい場合には、後顆の厚みがより小さい大腿骨コンポーネント100,200の何れかを用いることにより、ギャップバランスを調整することができる。また、患者において屈曲ギャップが大きい場合には、後顆の厚みがより大きい大腿骨コンポーネント200,300の何れかを用いることにより、ギャップバランスを調整することができる。また、膝の屈曲時の側副靭帯21の位置をより前側に配置するためには、大腿骨コンポーネント100,200,300の中からの、後顆の厚みがより薄いものを用いることが好ましい。更に、ポスト402,502,602の前後位置の異なる脛骨インサート400,500,600と組み合わせることにより、調整可能なギャップバランスの範囲が広がると共に、ギャップバランスの微調整を行うことができる。更に、後顆111,211,311の厚みの異なる大腿骨コンポーネント100,200,300と、ポスト402,502,602の前後位置の異なる脛骨インサート400,500,600と、を組み合わせることにより、側副靭帯21の配置を調整し易くなり、より患者に最適な状態にすることができる。よって、ギャップバランスの均衡化と、側副靭帯21の配置の最適化と、を両立できるように、最適な厚みの後顆を有する大腿骨コンポーネント(大腿骨コンポーネント100,200,300の何れか)を採用することができる。
【0103】
また、人工膝関節インプラント1によると、複数の大腿骨コンポーネント100,200,300のそれぞれの後顆111,211,311における大腿骨関節面107,207,307の曲率半径が異なっている。このようにして曲率半径を異ならせるという簡易な構成で、各大腿骨コンポーネント100,200,300の後顆11,211,311の厚みを異ならせることができる。
【0104】
また、複数の脛骨インサート400,500,600において、ポスト402,502,602の形状が互いに同じである。このため、人工膝関節7の設置手術時において、脛骨インサート400,500,600の種類を変更したときの、脛骨5に対する大腿骨3の動きを予想し易い。このため、術者は、脛骨コンポーネント400,500,600の中から患者にとって最適なものを容易に選定することができる。その結果、手術時間の短縮を通じて、術者及び患者の負担をより小さくすることができる。
【0105】
また、人工膝関節インプラント1によると、脛骨トレイ2は、脛骨インサート400,500,600と別部材を用いて形成されている。これにより、脛骨トレイ2によって、脛骨インサート400,500,600の何れかを、脛骨5の近位部6に固定することができる。また、脛骨インサート400,500,600のポスト402,502,602の前後位置を変更することにより、脛骨5に対する大腿骨3の安定した深屈曲動作を実現している。これにより、安定した深屈曲動作を実現するために、脛骨トレイ2の形状を変更する必要が無い。このため、脛骨5のうち、脛骨トレイ2を固定する骨切り面10の形状を、安定した深屈曲動作の実現のために変更する必要が無く、術者および患者の負担を小さくすることができる。
【0106】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0107】
(1)前述の実施形態では、脛骨トレイの上面と脛骨コンポーネントの下面とが平坦である形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、図13(a)に示すように、脛骨トレイ2Aに下向きの凹部16を形成し、この凹部16に、脛骨インサート400Aの下面に形成した凸部23を挿入してもよい。脛骨インサート500,600についても、同様である。
(2)前述の実施形態では、脛骨トレイと脛骨コンポーネントとを別部材で形成する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、図13(b)に示すように、脛骨インサート400Bと、下向きの凸部18を有する脛骨トレイ2Bとを単一の材料で一体に形成してもよい。脛骨インサート500と脛骨トレイ2とについても同様であり、且つ、脛骨インサート500と脛骨トレイ2とについても同様である。
(3)また、いわゆるモバイル型の脛骨コンポーネントを、本発明の脛骨コンポーネントとして用いてもよい。
(4)前述の実施形態では、脛骨コンポーネントの数が3つである形態を説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、人工膝関節インプラントに備えられる脛骨コンポーネントの数は、2つ以上であればよい。
(5)前述の実施形態では、大腿骨コンポーネントの数が3つである形態を説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、人工膝関節インプラントに備えられる大腿骨コンポーネントの数は、1つ以上であればよい。人工膝関節インプラントに備えられる大腿骨コンポーネントの数が2つ以上であれば、より最適な大腿骨コンポーネントを選択することができる。
(6)前述の実施形態では、後顆における大腿骨関節面及び上顆における大腿骨関節面が、全体として、複数の曲率半径を有する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、後顆における大腿骨関節面及び上顆における大腿骨関節面が、全体として、単一の曲率半径を有していてもよい。
(7)前述の実施形態では、各脛骨インサートのポストの形状が同一である形態を説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、各脛骨インサートのポストの形状が異なっていてもよい。
【実施例】
【0108】
図1に示す人工膝関節インプラントと同様の人工膝関節インプラントを実施例として用意した。また、比較例として、1つの脛骨インサート及び1つの大腿骨コンポーネントを有する人工膝関節インプラントを用意した。そして、実施例の中から患者にとって最適な脛骨インサート及び大腿骨コンポーネントを選んだものと、比較例のそれぞれについて、患者の脛骨及び大腿骨に装着したときの患者の膝の動きを、コンピュータ上でシミュレート(模擬実験)した。
【0109】
結果を図14に示す。図14は、人工膝関節の屈曲角度と、脛骨の中心軸線に対する大腿骨の遠位部の前後位置との関係を示している。尚、図14において、実線のグラフは、実施例を用いた場合の結果を示しており、破線のグラフは、比較例を用いた場合の結果を示している。また、一点鎖線のグラフは、人工膝関節を取り付ける前の、正常な状態の患者の膝の動きを示している。
【0110】
したがって、一点鎖線で示すグラフに近いほど、自然な動きを達成できていることとなる。図14に示すように、比較例では、屈曲角度が小さいときにおいて、正常な状態の患者の膝の動きからかけ離れた動きしか実現できていないことが明らかである。一方、実施例では、何れの屈曲角度においても、正常な状態の患者の膝の動きと極めて近い動きを実現できていることが明らかである。以上より、実施例は、患者にとって違和感のない膝の動きを実現するのに好適であることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントとして、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 人工膝関節インプラント
2 脛骨トレイ
3 大腿骨
4 遠位部
5 脛骨
6 近位部
7 人工膝関節
10 骨切り面
18 脛骨コンポーネント
100,200,300 大腿骨コンポーネント
111,211,311 後顆
112,212,312 上顆
203 カム部
205 固定面
107,207,307 大腿骨関節面
400,500,600 脛骨インサート
402,502,602 ポスト
506 脛骨関節面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントであって、
前記患者の大腿骨の遠位部に取り付けられる大腿骨コンポーネントと、前記患者の脛骨の近位部に取り付けられる脛骨インサートと、を備え、
前記大腿骨コンポーネントは、前記遠位部に形成された骨切り面に固定される固定面と、前記大腿骨コンポーネントの外側を向いて湾曲した2つの大腿骨関節面と、前記2つの大腿骨関節面の後部間に配置されたカム部と、前記固定面の後方に配置され前記2つの大腿骨関節面の一部を形成する後顆と、当該後顆の上方に配置され前記2つの大腿骨関節面の一部を形成する上顆と、を有し、
前記脛骨インサートは、前記2つの大腿骨関節面と摺動可能な2つの脛骨関節面と、当該2つの脛骨関節面の間から前記2つの大腿骨関節面の間の空間に突出し前記カム部と接触可能なポストと、を含み、
前記脛骨インサートは、前記脛骨関節面に対する前記ポストの前後位置の異なる複数の脛骨インサートを含むことを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項2】
請求項1に記載の人工膝関節インプラントであって、
前記大腿骨コンポーネントは、前記固定面の形状が共通で且つ前記後顆の厚みの異なる複数の大腿骨コンポーネントを含むことを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項3】
請求項2に記載の人工膝関節インプラントであって、
前記複数の大腿骨コンポーネントのそれぞれの前記後顆における前記大腿骨関節面の曲率半径が異なっていることを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の人工膝関節インプラントであって、
前記複数のポストは、それぞれ、同一の形状に形成されていることを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の人工膝関節インプラントであって、
前記脛骨の近位部に固定されるために設けられ、前記脛骨インサートを支持し脛骨インサートと協働して脛骨コンポーネントを構成する脛骨トレイを更に備え、
前記脛骨トレイは、前記脛骨インサートと単一に成形されているか、又は、前記脛骨インサートと別部材を用いて形成され前記脛骨インサートに固定されていることを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項1】
患者の前十字靭帯及び後十字靭帯を切除し、当該患者の膝関節を人工膝関節に置換する手術において用いられる人工膝関節インプラントであって、
前記患者の大腿骨の遠位部に取り付けられる大腿骨コンポーネントと、前記患者の脛骨の近位部に取り付けられる脛骨インサートと、を備え、
前記大腿骨コンポーネントは、前記遠位部に形成された骨切り面に固定される固定面と、前記大腿骨コンポーネントの外側を向いて湾曲した2つの大腿骨関節面と、前記2つの大腿骨関節面の後部間に配置されたカム部と、前記固定面の後方に配置され前記2つの大腿骨関節面の一部を形成する後顆と、当該後顆の上方に配置され前記2つの大腿骨関節面の一部を形成する上顆と、を有し、
前記脛骨インサートは、前記2つの大腿骨関節面と摺動可能な2つの脛骨関節面と、当該2つの脛骨関節面の間から前記2つの大腿骨関節面の間の空間に突出し前記カム部と接触可能なポストと、を含み、
前記脛骨インサートは、前記脛骨関節面に対する前記ポストの前後位置の異なる複数の脛骨インサートを含むことを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項2】
請求項1に記載の人工膝関節インプラントであって、
前記大腿骨コンポーネントは、前記固定面の形状が共通で且つ前記後顆の厚みの異なる複数の大腿骨コンポーネントを含むことを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項3】
請求項2に記載の人工膝関節インプラントであって、
前記複数の大腿骨コンポーネントのそれぞれの前記後顆における前記大腿骨関節面の曲率半径が異なっていることを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の人工膝関節インプラントであって、
前記複数のポストは、それぞれ、同一の形状に形成されていることを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の人工膝関節インプラントであって、
前記脛骨の近位部に固定されるために設けられ、前記脛骨インサートを支持し脛骨インサートと協働して脛骨コンポーネントを構成する脛骨トレイを更に備え、
前記脛骨トレイは、前記脛骨インサートと単一に成形されているか、又は、前記脛骨インサートと別部材を用いて形成され前記脛骨インサートに固定されていることを特徴とする、人工膝関節インプラント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−70738(P2013−70738A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210410(P2011−210410)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(504418084)京セラメディカル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(504418084)京セラメディカル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
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