人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムと手術支援用治具
【課題】患者の個人差を適正に反映して、髄内アライメントロッドを用いる遠位骨切り面の位置及び角度を正確に決定する。
【解決手段】膝関節を含む下肢の2次元断層画像を入力し、入力した画像から大腿骨及び少なくとも膝関節を含む脛骨の3次元画像を表示する画像表示ステップS101,S102と、大腿骨の膝関節の3次元画像から置換する人工関節を決定する大腿骨側人工関節決定ステップS103〜S105と、脛骨の膝関節の3次元画像から置換する人工関節を決定する脛骨側人工関節決定ステップS106〜S108と、大腿骨側人工関節決定ステップS103〜S105で決定した人工関節と膝関節の参照点とに基づき、大腿骨内に挿入する髄内アライメントロッドを用いた人工膝関節置換術で使用する各種パラメータを決定するパラメータ決定ステップS113,S114とをコンピュータに実行させる。
【解決手段】膝関節を含む下肢の2次元断層画像を入力し、入力した画像から大腿骨及び少なくとも膝関節を含む脛骨の3次元画像を表示する画像表示ステップS101,S102と、大腿骨の膝関節の3次元画像から置換する人工関節を決定する大腿骨側人工関節決定ステップS103〜S105と、脛骨の膝関節の3次元画像から置換する人工関節を決定する脛骨側人工関節決定ステップS106〜S108と、大腿骨側人工関節決定ステップS103〜S105で決定した人工関節と膝関節の参照点とに基づき、大腿骨内に挿入する髄内アライメントロッドを用いた人工膝関節置換術で使用する各種パラメータを決定するパラメータ決定ステップS113,S114とをコンピュータに実行させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用断層画像を用いて人体の膝に対する人工膝関節の置換手術を計画し、手術をするための人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムと手術支援用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、X線CT装置やMRI装置等の医療用断層画像診断装置が普及してきており、それらを用いて身体各部の観察及び診断を行なうことが可能となってきた。一方、日本のみならず世界的な高齢化に伴い、変形性膝関節症は増加の一途をたどっており、患部である膝関節を人工的な金属やセラミックスでできた人工関節に置き換える手術が今日広く普及している。この人工膝関節の置換術で重要なのは、患者に最適の形状とサイズを持つ人工関節を最適の角度及び位置に設置することである。
【0003】
しかしながら、そのための手術計画は、2次元の正面及び側面からの単純X線画像上に人工関節の2次元形状を透明なフィルム上に線描画したテンプレートを重ね合わせたり、単純X線画像フィルム上で定規を用いて計測することで、人工関節のサイズや設置位置及び設置方向、骨切り量・骨切り位置を求めているのが現状である。
【0004】
しかるに、2次元の単純X線画像を基に、テンプレートや定規等を用いた手動による計測では、サイズや設置位置の計測精度が不十分であることや、設置位置や骨切り量を3次元的に、且つ、定量的に把握することが困難であるため、相当の経験と技術の蓄積が必要とされる。
【0005】
したがって、すべての整形外科医が的確で高精度の手術計画や手術を迅速に行なうことは困難であった。特に人工関節の設置位置と方向に関する精度は、人工関節の耐久性に大きく影響し、しかも、手術後に患者が日常的に違和感のない健康な生活を10年、20年の長期に渡って続けることができるようにするためにも、最も重要な要素である。
【0006】
しかしながら、上記2次元テンプレートを用いた方法では、そのような処理を行なうことは難しかった。
【0007】
一方で、人工膝関節置換術における理想的な脛骨の骨切り面を手術者が容易に知ることができるように支援するべく、以下に示すようなパーソナルコンピュータを用いた3次元シミュレーションを行なう技術が考えられている。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開2004−008707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、手術中において大腿骨側の(人工関節)コンポーネントの設置角度を決定する際には、骨内に挿入する髄内アライメントロッド(以下文中では「髄内ロッド」と称する)を使用する方法が一般的であり、これを挿入することでロッドの軸方向と大腿骨の機能軸方向との差異から、同コンポーネントの内・外反角度、屈曲・伸展角度を規定する遠位骨切り面の角度が決定されている。
【0009】
この際、内外反角度の決定に際しては、器具によって髄内ロッドとのなす角度をコンポーネントの目標設置角度に合わせてある程度調節できるが、屈曲・伸展角度は調節不可能で髄内ロッドの刺入角度に完全に依存する。これはつまり、大腿骨コンポーネントの設置角度が髄内ロッドの刺入角度に依存するということを意味する。
【0010】
しかしながら、この髄内ロッドを用いた方法では、骨形状に個人差があることから、髄内ロッドの挿入角度は各症例でそれぞれ異なり、必ずしも予定通りの角度で遠位骨切り面が作成されるわけではないという不具合が存在する。
【0011】
さらに、臨床上きわめて重要な大腿骨コンポーネントの回旋方向の設置角度はこの遠位骨切り面内で決定するため、この遠位骨切り面自体が不正確であると必然的に回旋角度も不正確となる。
【0012】
この点で、脛骨側での技術が記載された上記特許文献1には、大腿骨側で髄内ロッドを用いるが故の上記不具合についてなんら記載されていない。
【0013】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、患者の個人差を適正に反映して、髄内アライメントロッドを用いて遠位骨切り面の位置及び角度を正確に決定することができ、術中に上記髄内アライメントロッドに装着する専用の治具を用いて大腿骨膝関節の参照点から決定した内容を再現することで正確な執刀が実施できる人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムと手術支援用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、膝関節を含む下肢の2次元断層画像を入力する画像入力ステップと、上記画像入力ステップで入力した画像から大腿骨及び脛骨の3次元画像を再構築する画像再構築ステップと、上記画像再構築ステップで得た大腿骨の膝関節の3次元画像から、置換する人工関節を決定する大腿骨側人工関節決定ステップと、上記画像再構築ステップで得た脛骨の膝関節の3次元画像から、置換する人工関節を決定する脛骨側人工関節決定ステップと、上記大腿骨側人工関節決定ステップで決定した人工関節と、膝関節の参照点とに基づき、大腿骨内に挿入する髄内アライメントロッドを用いた人工膝関節置換術で使用する各種パラメータを決定するパラメータ決定ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の発明において、上記パラメータ決定ステップは、上記大腿骨の3次元画像と上記髄内アライメントロッドの3次元画像との相互配置により各種パラメータを決定することを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明は、上記請求項1記載の発明において、上記パラメータ決定ステップで決定する各種パラメータは、上記髄内アライメントロッドの刺入位置と刺入方向及び刺入深さ、刺入した上記髄内アライメントロッドを基準とした関節部の骨切り面の位置及び回旋角度を含むことを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の発明は、大腿骨の膝関節の参照点に当接する当接部と、大腿骨の髄内に挿入する髄内アライメントロッドを装着する装着部と、上記当接部と上記装着部とを接続し、上記装着部の取付け位置及び取付け角度を調整可能なアーム部とを具備したことを特徴とする。
【0018】
請求項5記載の発明は、大腿骨の膝関節の参照点に当接する当接部と、大腿骨の髄内に挿入する髄内アライメントロッドを装着する装着部と、上記当接部と上記装着部とを接続し、上記髄内アライメントロッドに装着される外部治具の取付け角度を調整可能な接続部とを具備したことを特徴とする。
【0019】
請求項6記載の発明は、上記請求項4または5記載の発明において、上記大腿骨の参照点は、後顆接線であることを特徴とする。
【0020】
請求項7記載の発明は、上記請求項4または5記載の発明において、上記大腿骨の参照点は、髄内アライメントロッドの軸に対して略垂直な平面で膝蓋大腿関節の近位端より近位部の骨断面像の皮質が2峰性となっている部分の2頂点の接線であり、上記アーム部または接続部は、髄内アライメントロッドの軸方向位置と当該接線とのオフセット値に対応して調整可能となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、術前の計画で患者の個人差に対応した、髄内アライメントロッドの刺入及び刺入した髄内アライメントロッドを用いての遠位骨切り面の位置及び角度を正確に決定することができ、術中に上記髄内アライメントロッドに装着する専用の治具を用いて大腿骨膝関節の参照点から決定した内容を再現することで正確な執刀が実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータ(以下「PC」)10のハードウェア構成を示す。各種処理制御を司るCPU11とフロントサイドバスFSBを介してノースブリッジ12が接続される。
【0024】
このノースブリッジ12は、さらにメモリバスMBを介してメインメモリ13と、またグラフィクスインタフェースAGPを介してグラフィックコントローラ14及びグラフィックメモリ15と接続される他、サウスブリッジ16とも接続され、主としてこれらの間での入出力制御を実行する。
【0025】
サウスブリッジ16は、PCIバス17、キーボード/マウス18、ビデオエンコーダ19、ハードディスク装置(HDD)20、ネットワークインタフェース(I/F)21、及びマルチディスクドライブ22と接続され、主としてこれら周辺回路とノースブリッジ12との間の入出力制御を行なう。
【0026】
上記ハードディスク装置20内に、OS(オペレーティングシステム)と各種のアプリケーションプログラム、各種のデータファイル等に加えて、人工膝関節手術の術前計画用プログラムとそれに付随する髄内ロッドや各種治具の形状データ等が予めインストールされているものとする。
【0027】
なお、上記ビデオエンコーダ19は、与えられたデジタル値の画像信号からアナログ値の画像信号であるRGBビデオ信号を生成して出力し、ここでは図示しないカラーTFT(薄膜トランジスタ)液晶表示パネルで構成されるディスプレイ部を表示駆動する。
【0028】
また、上記マルチディスクドライブ22は、例えばCD(Compact Disc)規格、DVD(Digital Versatile Disc)規格に則った光ディスク媒体の再生と記録が可能であり、患者のX線写真、X線CTの断層写真等を記録した光ディスク媒体を再生して読出することで、患者の下肢の3次元形状データを入力してハードディスク装置20に記録することができるものとする。
【0029】
なお、これらPC10を構成する個々の要素は、きわめて一般的な周知の技術であるのでその説明は省略するものとする。
【0030】
次に上記実施の形態の動作について説明する。
図2は、このPC10のユーザである医師が、ハードディスク装置13に記憶されている術前計画用プログラムを起動して、主としてCPU11が実行する本発明の処理内容を示すものである。
【0031】
この術前計画用プログラムを実行するにあたっては、X線CT装置あるいはMRI装置で撮像した2次元断層画像データスライスから作成した患者下肢の3次元骨形状データが読込まれ、ハードディスク装置20に格納されているものとする。
【0032】
なお、このプログラム上では、人体下肢の一連の2次元断層画像を基に作成した3次元の下肢の骨形状データに対して、骨頭中心、膝関節の後顆球中心、脛骨顆間隆起、脛骨遠位関節面の内外側縁点などの主要なランドマークを3次元的な参照点として設定し、それらの参照点を用いて大腿骨および脛骨の座標系を設定する。大腿骨及び脛骨の3次元的な位置関係すなわちアラインメント自体は立位でも臥位でも構わない。
【0033】
座標系としては、特に絶対的な定義は必要ではないが、ここでは説明の便宜上、以下のような座標系を使用する。大腿骨座標系に関しては、内外側の後顆球中心を結ぶ直線の中心を原点とし、その直線の右体側の方向をX軸、原点と骨頭中心を結ぶベクトルとX軸のベクトル積をY軸とする。したがって、Y軸は体正面が正となる。Z軸をX軸とY軸から定義する。
【0034】
脛骨座標系に関しては、頚骨遠位関節面の内外側縁点を結ぶ線の中心と脛骨顆間隆起の中心を結ぶ線をZ軸とする。近位方向、即ち、上方向を正とする。Y軸は脛骨後十字靭帯付着部と脛骨粗面を結ぶ線とし、体正面を正とする。X軸はY軸およびZ軸から決定する。
【0035】
また、人工関節の3次元形状データを別途用意し、ハードディスク装置20に格納しておく。大腿骨および脛骨と同様に、大腿骨人工関節及び脛骨人工関節もそれぞれ独自の座標系を設定しておく。
【0036】
具体的には、大腿骨人工関節では、例えば、近位方向あるいは鉛直方向をZ軸、体正面方向をY軸、体側右方向をX軸とする。但し、この座標軸は絶対にこのような配置である必要はなく、別の定義でも差し支えない。脛骨人工関節に対しても同様の座標系を定義する。
【0037】
しかして、図2の術前計画用プログラムを起動すると、GUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)が表示され、このGUI上で表示されている所望の下肢の立位あるいは臥位における3次元形状データを選択する。
【0038】
これは、一般のPCプログラムで利用されているところの、下肢の3次元形状データを格納したフォルダを指定することで行なう。また、大腿骨の3次元形状データと脛骨の3次元形状データは、加重状態での立位及び抜重状態での臥位における3次元的な位置関係(3次元アラインメント)が予め正しく配置されているものとする。
【0039】
次いで、上記選択した下肢の大腿骨の3次元形状データをハードディスク装置20のフォルダからメインメモリ13に読込み(ステップS101)、その3次元形状データを適当な視点から見た画像をディスプレイ画面上に表示する(ステップS102)。この表示においては、透視投影した3次元画像あるいは、3次元形状データを座標軸に平行な平面における断面で2次元表示することも可能であるものとする。
【0040】
次いで、適切なサイズと形状の大腿骨関節用の人工関節の3次元形状データを選択し(ステップS103)、ハードディスク装置20から当該データを読出してディスプレイ画面に表示する(ステップS104)。
【0041】
次いで、大腿骨用人工関節の3次元形状データをキーボード/マウス18での操作により適宜平行移動ならびに回転移動して、大腿骨の3次元形状データに対して最適な位置に設置する。
【0042】
ここで最適な位置とは、学会及び各人工関節の製造メーカにより提唱されている整形外科学的に最適となる位置であり、大腿骨及び脛骨のそれぞれに対する人工関節の相対的な設置位置である。この位置が手術中に人工関節を設置するための最適の位置であり、この設置位置に基づいて骨切りを行なうことになる。(ステップS105)
より具体的には、大腿骨コンポーネント(人工関節)の遠位関節面、脛骨コンポーネントの近位関節面が冠状断面上で機能軸と垂直となることが一般に推奨されている。しかし、矢状断面上での角度(屈曲伸展角度)に関しては、両コンポーネントとも一定のコンセンサスはなく、患者個人の関節の形状に合わせて医師が適切に判断する必要がある。また、軸方向回旋角度に関しては、大腿骨コンポーネントのX軸を大腿骨通顆軸:Transepicondylar Axis(以下TEA)と平行に設置することが推奨されている。この設置位置は、このプログラムのユーザである医師がプログラム上で対話形式により設定してもよいし、参照点などを用いて自動化できる部分は自動化して配置してもよい。
【0043】
次いで、適切なサイズの脛骨関節用の人工関節の3次元形状データを選択し(ステップS106)、ハードディスク装置20から読出してディスプレイ画面に表示する(ステップS107)。
【0044】
次いで、上記大腿骨側と同様、脛骨用人工関節の3次元形状データをキーボード/マウス18での操作により平行移動ならびに回転移動して、脛骨の3次元形状データに対して最適な位置に配置する(ステップS108)。
【0045】
この設置に関しても、このプログラムのユーザである医師がプログラム上で対話形式により設定してもよいし、参照点などを用いて自動化できる部分は自動化して配置してもよい。
【0046】
このように本実施形態では、容易にそれぞれの人工関節を下肢骨に対して3次元的に理想の位置に設置し、定量的な設置パラメータおよび骨切りのパラメータを取得することが可能となる。
【0047】
次いで、予め格納されている髄内ロッドの3次元形状データをハードディスク装置20から読出し(ステップS109)、ディスプレイ画面に表示する(ステップS110)。
【0048】
髄内ロッドの3次元形状データには、深さを示すマークを予め設置しておく。ロッドに対しても座標系を定義しておく。その長軸方向をZ軸とし、正面をY軸とする。Y軸とZ軸のベクトル積をX軸とする。この座標系も便宜上のものであり、別の定義でも構わない。
【0049】
読出した髄内ロッドの3次元形状データは、遠位と近位、内外側、前後方への平行移動、及び内外旋、内外反、屈曲伸展方向の回転が可能であるものとする。
【0050】
この表示画面上で、髄内アライメントロッドの3次元形状データをキーボード/マウス18での操作により適宜回転および平行移動して、大腿骨の3次元形状データの髄内に適切に配置する(ステップS111)。
【0051】
すなわち、大腿骨の形状データに対して、髄内ロッドをその髄内の適切な位置に設置する。これはつまり、髄内ロッドの刺入位置、方向及び深さを3次元的に最適な角度・位置に配置する。ここで言う最適の角度・位置とは、上記選択した人工関節の屈曲伸展設置角度に合わせた条件下で、髄内挿入深度が可及的に大きくなるべく挿入点、内外反角度、挿入深度を調節した角度と位置である。
【0052】
実際には髄内ロッドのZ軸がそのXZ平面に平行な平面内に存在するような位置とする。これにより、回旋角度が正確に設定されれば、屈曲伸展方向の角度は人工関節と髄内ロッドとで一致することになる。
【0053】
図3は、このときディスプレイ画面で表示される大腿骨と人工関節、及び髄内ロッドの3次元形状データを例示するものである。同図中、大腿骨FMの膝関節部に人工関節CPの最適位置が選択されて配置され、大腿骨FMに髄内ロッドIMが挿入された状態が示されている。
【0054】
その後、髄内ロッドIMの3次元形状データをキーボード/マウス18での操作により上記大腿骨FM及び人工関節CPに対して移動させた上で(ステップS111)、最適な位置への配置を終えたか否かを、例えばGUI表示中の「決定」ボタンの指示の有無により判断する(ステップS112)。
【0055】
そうでなければ上記ステップS111の処理に戻って、操作による髄内ロッドIMの位置移動を再度繰返すことにより、髄内ロッドIMが大腿骨FMの髄内で最適な配置となるのを待機する。
【0056】
上述したが、髄内ロッドIMの最適配置は、予定される人工関節CPの設置角度に合わせた角度と位置、すなわち髄内ロッドIMの軸方向に一致したZ軸が、大腿骨用人工関節CP座標系のXZ面内と平行とするもので、ユーザである医師がこのプログラムで上記ステップS111,S112の処理を繰返すことで最適な配置とすることができる。
【0057】
図4及び図5は、上記適切配置を得る過程で、表示状態を切替え、3次元形状データを元に大腿骨FMと人工関節CPに対する髄内ロッドIMの位置を2次元平面に沿って表示させた画像を例示するものである。
【0058】
図4では、画面中で髄内ロッドIMの中心軸(Z軸)を通る側面から見た断面及び正面から見た断面を元の3次元形状と併せて表示している。
【0059】
また、図5は大腿骨FM全体に対する人工関節CPと髄内ロッドIMの位置関係を、上記図3及び図4でも示したGUI環境の表示画面中から抽出して例示するもので、大腿骨FMの屈曲した髄内で髄内ロッドIMが最も奥(立位の人体では上)まで挿入されている状態を示す。
【0060】
こうして髄内ロッドIMの最適な配置状態が得られ、ユーザにより最適であるとの指示がなされると、上記ステップS111でこれを判断し、髄内ロッドIMの軸であるZ軸と人工関節CPのZ軸とのなす角度(内外反角)をコロナル面において算出する(ステップS113)。
【0061】
図6はこの内外反角を例示するものであり、大腿骨座標系における機能軸FAと遠位骨軸FPのなす角度に相当するもので、通常は約7°(図では「7.68°」)であるが、個人差によっては、さらに大きく異なる場合もある。
【0062】
次いで回旋角度を決定する。髄内ロッドIMの軸に垂直な平面に術中参照する大腿骨後顆接線と人工関節CPのX軸を投影し、これらのなす角(以下、これを「後顆接線−人工関節角度」とする)を算出する(ステップS114)。
【0063】
これにより本プログラムのユーザである医師は、人工関節CPのX軸を術中に後顆接線の軸と平行とした状態から、髄内ロッドIM周りにどちら側に何度回旋したらよいかを把握することができる。
【0064】
また、もう一つの回旋角度決定法の術前準備として、髄内ロッドIMの軸に垂直な平面(これを平面「R」とする)で膝蓋大腿関節の近位端より数ミリ近位部の骨断面像を表示し、前方の皮質が2峰性となっている部分の2頂点の接線を2頂点のデジタイズから求めて、その接線と人工関節のX軸とのなす角(以下、これを「前方接線−人工関節角度」とする)を求めると共に、平面Rのロッド座標中心からのオフセット距離を算出しておく(ステップS115)。
【0065】
図7(A)は上記平面Rを示し、図7(B)がこの平面Rにおける前方接線TLである。この前方接線TLのある位置は、手術時に直接視認しうる側にあり、且つ軟骨の有無等による影響を受けないため、きわめて容易に認識し得る参照点の1つとして利用できる。
【0066】
また、図8は上記前方接線TLとロッド座標中心からのオフセット距離(図では「17.24[mm]」)を示す。
【0067】
以上のように手術前の人工関節設置手術の計画を行ない、必要な各種パラメータを算出して保存しておくことにより(ステップS116)、手術器具を用いた実際の手術時にこれらの各種パラメータを用いて、最適の骨切りを行なうことが可能となる。
【0068】
図9は、保存しておいた各種パラメータの一部を読出してディスプレイ画面上に表示させた場合を例示するものである。すなわち、上記術前計画用プログラムで算出しておくべきパラメータ値は、
(1)髄内ロッド刺入点情報:ターゲットデバイスを設置する、大腿骨遠位部前方部分の大腿膝蓋関節より近位に約30[mm]ほどの平らな部分(平面近似する)から髄内ロッドの刺入点までのΔY値、即ち大腿骨座標系のYZ平面に投影した時の距離
(2)ロッドの刺入深さ、即ち、刺入点からロッド先端までの長さ
(3) ロッドのX軸の、大腿骨のPCA(Posterior Condyler Axis)を基準とした回旋角、及び前方接線−人工関節角
(4) ロッドのZ軸とコンポーネントのZ軸(3次元機能軸)とのなす角度(コロナル面)
(5) ロッドのZ軸とコンポーネントのZ軸(3次元機能軸)とのなす角度(サジタル面)
を含む。
【0069】
手術器具を用いた実際の手術時には、髄内ロッドの刺入点を決めるために、大腿骨膝蓋面上端から近位寄りの平らな部分に第1の治具としてターゲットデバイスと称する治具を用いる。
【0070】
図10は、このとき用いられるターゲットデバイス30の形状を例示するもので、図10(A)が斜視図、図10(B)が側面図である。このターゲットデバイス30は、当接部31、アーム部32、及び装着部33からなる。
【0071】
当接部31は、上記前方接線に当接するための部位であり、この当接部31に対してアーム部32が固定的に接続される。そして、アーム部32の先端に、アーム部32の軸方向と直交し、上記前方接線と平行となる図中の矢印I方向に沿って平行移動可能な装着部33が取付けられる。
【0072】
この装着部33は、同図(B)に示すように上記装着部33の軸方向及び上記矢印Iと共に直交する矢印II方向に沿って平行移動可能なロッド取付け部34を有するもので、上記当接部31の底面、すなわち当接する前方接線位置からのオフセット量(距離)が例えばミリ単位でスケール刻印されている。このロッド取付け部34は、ネジ35の調整により上記した前方接線からのオフセット量が調整できると共に、矢印IIIで示す如くその取付け角度も調整可能となる。
【0073】
しかして、このロッド取付け部34に髄内ロッドまたは髄内ロッドと同形状の刺入位置マーカを装着し、上記(1)で算出しておいた近似した平面から顆間部の髄内ロッド刺入点までの距離を測定し、マーキングすることで刺入点を決定することができる。
【0074】
マーキングされた刺入点位置を図示しないドリル用ビットを用いて穿孔することで、刺入口を形成し、上記髄内ロッドIMを該刺入口から予め上記計算した深さだけ大腿骨FMの髄内に刺入する。
【0075】
このとき、髄内ロッドIMが不用意に移動してしまうことがないように、図11(A)に示すようなロッドキーパ40を用いてもよい。
図11(A)に示すロッドキーパ40は、外径の異なる2段円筒状で中心軸部が髄内ロッドIMを挿通する中空となっており、大径側円筒部41の下底面側から下方にスパイク41aが突出形成されて、図11(B)に示すように髄内ロッドIMを貫装した状態で大腿骨FM(ここでは3次元モデルで表現)の上記刺入口に打ち込む構成となる。
【0076】
併せて、小径側円筒部42には軸位置を中心として径方向に複数、例えば3本のネジ穴43が均等な中心角を形成するように貫通形成されており、同図(B)に示すように各ネジ穴43に図示しないビスを螺合することで、大腿骨FMの刺入口より刺入された髄内ロッドIMをがたつき等を発生させずに保持することができる。
【0077】
その後、図示しない既存の骨切り用治具を髄内ロッドIMに取付ける。このとき、この骨切り用治具は、髄内ロッドIMに対して予め算出しておいた、上記(4)で説明した外反角に予め調節してあり、この治具の遠位切除パドルと称される平面部分の横軸が髄内ロッドIMのX軸、及び人工関節CPのX軸と共に一致しており、この平面が予定遠位骨切り面と一致した時に予定通りの遠位骨切りが行われるものである。
【0078】
図12は、上記骨切り用治具に対して遠位から装着する回旋角度決定用治具50の構成を上記ロッドキーパ40その他の治具と共に示すもので、図12(A)が斜視図、図12(B)が側面図である。
この回旋角度決定用治具50は、髄内ロッドIMを貫装する装着部51の下端側に、一対のパドル52が接続部53と一体にして設けられる。これらパドル52は、大腿骨FMの内外側両後顆に当接するもので、図12(B)に示すように、装着部51に対して一対のパドル52が図中に矢印IVで示す如くロッド軸部との距離を調整可能となるように接続部53が装着部51にスライド可能に取付けられる。
【0079】
また、上記装着部51に対して回動自在に設けられ、同じく髄内ロッドIMを貫装した回動部54が設けられる。この回動部54は、装着部51側の正面側に位置して指針54aが径方向に取付けられており、対する装着部51側にスケール51aが形成される。
【0080】
しかるに、この回旋角度決定用治具50を骨切り用治具の遠位から装着し、骨切り用治具とこの回旋角度決定用治具50がなす角と上記術前計画用プログラムで計算しておいた「後顆接線−人工関節角」が等しくなるように装着部51に対する回動部53の角度で調整して、髄内ロッドIMと骨切り用治具を回旋する。
【0081】
この回旋により人工関節CPの回旋角が実現できたことになる。この時点で骨切り用治具の横軸(人工関節CPのX軸に一致)上の2点で同治具の平面に垂直に大腿骨顆部にドリリングを行なって小骨孔を作成しておき、後は既存の器具を用いて遠位の骨切りを行なう。遠位骨切り面には先に作成した二つの骨孔が残っており、それを参照して回旋角度を決定し、後方の骨切りを行なう。
【0082】
但し、大腿骨の後顆には軟骨が残存している場合があり、その厚さの不均等さから回旋角度決定に後顆接線を用いた場合には正確な制御が困難となる場合がある。
【0083】
そこで、もう一つの回旋角度決定の方法として、上述の「前方接線−人工関節角」を利用する。上記骨切り用治具のさらに遠位から、前方接線がロッド軸周りに何度回旋しているかを測定する特製の回旋角度決定用治具を用いる。
【0084】
図13は、上記骨切り用治具に対して遠位から装着する回旋角度決定用治具60の構成を上記ロッドキーパ40その他の治具と共に示すもので、図13(A)が斜視図、図13(B)が側面図である。
この回旋角度決定用治具60は、髄内ロッドIMを貫装する装着部61の上端側に、接続部62、アーム部63を介して当接部64が設けられる。この当接部64は、上記図11のターゲットデバイス30の当接部31と同様に、上記前方接線に当接するための部位である。
【0085】
この当接部61を一端部に形成したアーム部63は、図13(B)中に矢印Vで示すように接続部62に対してアーム長(装着部61と当接部64との間隔)が任意に可変長性可能となる。併せて、接続部62は装着部51に対して図中に矢印VIで示す如くロッド軸部との距離(高さ)を調整可能となるようにスライド可能に取付けられる。
【0086】
また、上記装着部61に対して回動自在に設けられ、同じく髄内ロッドIMを貫装した回動部65が設けられる。この回動部65は、装着部61側の正面側に位置して指針65aが径方向に取付けられており、対する装着部61側にスケール61aが形成される。
【0087】
このような構成の回旋角度決定用治具を用いることで、軟骨等の影響を受けず、且つ手術時に露出している前方接線がロッド軸周りに何度回旋しているかを測定し、その角度と骨切り用治具の前方接線とのなす角を術前計画用プログラムで得られた「前方接線−人工関節角」と等しくすることで、骨切り用治具の正しい回旋角度が得られる。
【0088】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件により適宜の組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態に係る術前計画用プログラムの処理内容を示すフローチャート。
【図3】同実施形態に係るディスプレイ画面で表示される大腿骨と人工関節、及び髄内ロッドの3次元形状データを例示する。
【図4】同実施形態に係るディスプレイ画面で表示される大腿骨と人工関節、及び髄内ロッドの3次元形状データを例示する図。
【図5】同実施形態に係る大腿骨と人工関節に対する髄内ロッドの位置を表示させた画像を例示する図。
【図6】同実施形態に係る大腿骨の機能軸と遠位骨軸のなす角度を例示する図。
【図7】同実施形態に係る髄内ロッドの軸に垂直な平面に沿った膝蓋大腿関節の骨断面像を例示する図。
【図8】同実施形態に係る上記前方接線とロッド座標中心とのオフセット距離を例示する図。
【図9】同実施形態に係る保存しておいた各種パラメータの一部を読出してディスプレイ画面上に表示させた場合を例示する図。
【図10】同実施形態に係る手術用治具(ターゲットデバイス)の構成を示し、図10(A)が斜視図、図10(B)が側面図。
【図11】同実施形態に係るロッドキーパの構成を示す斜視図(図11(A))と使用状態とを示す図(図11(B))。
【図12】同実施形態に係る回旋角度決定用治具の構成を示し、図12(A)が斜視図、図12(B)が側面図。
【図13】同実施形態に係る他の回旋角度決定用治具の構成を示し、図13(A)が斜視図、図13(B)が側面図。
【符号の説明】
【0090】
10…パーソナルコンピュータ(PC)、11…CPU、12…ノースブリッジ、13…メインメモリ、14…グラフィックコントローラ、15…グラフィックメモリ、16…サウスブリッジ、17…PCIバス、18…キーボード/マウス、19…ビデオエンコーダ、20…ハードディスク装置(HDD)、21…ネットワークインタフェース(I/F)、22…マルチディスクドライブ、30…ターゲットデバイス、31…当接部、32…アーム部、33…装着部、34…ロッド取付け部、35…ネジ、40…ロッドキーパ、41…大径側円筒部、41a…スパイク、42…小径側円筒部、43…ネジ穴、50…回旋角度決定用治具、51…装着部、51a…スケール、52…パドル、53…接続部、54…回動部、54a…指針、60…回旋角度決定用治具、61…装着部、61a…スケール、62…接続部、63…アーム部、64…当接部、65…回動部、65a…指針、AGP…グラフィクスインタフェース、CP…人工関節、FA…機能軸、FM…大腿骨、FP…遠位骨軸、FSB…フロントサイドバス、IM…髄内ロッド、MB…メモリバス、TL…前方接線。
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用断層画像を用いて人体の膝に対する人工膝関節の置換手術を計画し、手術をするための人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムと手術支援用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、X線CT装置やMRI装置等の医療用断層画像診断装置が普及してきており、それらを用いて身体各部の観察及び診断を行なうことが可能となってきた。一方、日本のみならず世界的な高齢化に伴い、変形性膝関節症は増加の一途をたどっており、患部である膝関節を人工的な金属やセラミックスでできた人工関節に置き換える手術が今日広く普及している。この人工膝関節の置換術で重要なのは、患者に最適の形状とサイズを持つ人工関節を最適の角度及び位置に設置することである。
【0003】
しかしながら、そのための手術計画は、2次元の正面及び側面からの単純X線画像上に人工関節の2次元形状を透明なフィルム上に線描画したテンプレートを重ね合わせたり、単純X線画像フィルム上で定規を用いて計測することで、人工関節のサイズや設置位置及び設置方向、骨切り量・骨切り位置を求めているのが現状である。
【0004】
しかるに、2次元の単純X線画像を基に、テンプレートや定規等を用いた手動による計測では、サイズや設置位置の計測精度が不十分であることや、設置位置や骨切り量を3次元的に、且つ、定量的に把握することが困難であるため、相当の経験と技術の蓄積が必要とされる。
【0005】
したがって、すべての整形外科医が的確で高精度の手術計画や手術を迅速に行なうことは困難であった。特に人工関節の設置位置と方向に関する精度は、人工関節の耐久性に大きく影響し、しかも、手術後に患者が日常的に違和感のない健康な生活を10年、20年の長期に渡って続けることができるようにするためにも、最も重要な要素である。
【0006】
しかしながら、上記2次元テンプレートを用いた方法では、そのような処理を行なうことは難しかった。
【0007】
一方で、人工膝関節置換術における理想的な脛骨の骨切り面を手術者が容易に知ることができるように支援するべく、以下に示すようなパーソナルコンピュータを用いた3次元シミュレーションを行なう技術が考えられている。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開2004−008707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、手術中において大腿骨側の(人工関節)コンポーネントの設置角度を決定する際には、骨内に挿入する髄内アライメントロッド(以下文中では「髄内ロッド」と称する)を使用する方法が一般的であり、これを挿入することでロッドの軸方向と大腿骨の機能軸方向との差異から、同コンポーネントの内・外反角度、屈曲・伸展角度を規定する遠位骨切り面の角度が決定されている。
【0009】
この際、内外反角度の決定に際しては、器具によって髄内ロッドとのなす角度をコンポーネントの目標設置角度に合わせてある程度調節できるが、屈曲・伸展角度は調節不可能で髄内ロッドの刺入角度に完全に依存する。これはつまり、大腿骨コンポーネントの設置角度が髄内ロッドの刺入角度に依存するということを意味する。
【0010】
しかしながら、この髄内ロッドを用いた方法では、骨形状に個人差があることから、髄内ロッドの挿入角度は各症例でそれぞれ異なり、必ずしも予定通りの角度で遠位骨切り面が作成されるわけではないという不具合が存在する。
【0011】
さらに、臨床上きわめて重要な大腿骨コンポーネントの回旋方向の設置角度はこの遠位骨切り面内で決定するため、この遠位骨切り面自体が不正確であると必然的に回旋角度も不正確となる。
【0012】
この点で、脛骨側での技術が記載された上記特許文献1には、大腿骨側で髄内ロッドを用いるが故の上記不具合についてなんら記載されていない。
【0013】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、患者の個人差を適正に反映して、髄内アライメントロッドを用いて遠位骨切り面の位置及び角度を正確に決定することができ、術中に上記髄内アライメントロッドに装着する専用の治具を用いて大腿骨膝関節の参照点から決定した内容を再現することで正確な執刀が実施できる人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムと手術支援用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、膝関節を含む下肢の2次元断層画像を入力する画像入力ステップと、上記画像入力ステップで入力した画像から大腿骨及び脛骨の3次元画像を再構築する画像再構築ステップと、上記画像再構築ステップで得た大腿骨の膝関節の3次元画像から、置換する人工関節を決定する大腿骨側人工関節決定ステップと、上記画像再構築ステップで得た脛骨の膝関節の3次元画像から、置換する人工関節を決定する脛骨側人工関節決定ステップと、上記大腿骨側人工関節決定ステップで決定した人工関節と、膝関節の参照点とに基づき、大腿骨内に挿入する髄内アライメントロッドを用いた人工膝関節置換術で使用する各種パラメータを決定するパラメータ決定ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の発明において、上記パラメータ決定ステップは、上記大腿骨の3次元画像と上記髄内アライメントロッドの3次元画像との相互配置により各種パラメータを決定することを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明は、上記請求項1記載の発明において、上記パラメータ決定ステップで決定する各種パラメータは、上記髄内アライメントロッドの刺入位置と刺入方向及び刺入深さ、刺入した上記髄内アライメントロッドを基準とした関節部の骨切り面の位置及び回旋角度を含むことを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の発明は、大腿骨の膝関節の参照点に当接する当接部と、大腿骨の髄内に挿入する髄内アライメントロッドを装着する装着部と、上記当接部と上記装着部とを接続し、上記装着部の取付け位置及び取付け角度を調整可能なアーム部とを具備したことを特徴とする。
【0018】
請求項5記載の発明は、大腿骨の膝関節の参照点に当接する当接部と、大腿骨の髄内に挿入する髄内アライメントロッドを装着する装着部と、上記当接部と上記装着部とを接続し、上記髄内アライメントロッドに装着される外部治具の取付け角度を調整可能な接続部とを具備したことを特徴とする。
【0019】
請求項6記載の発明は、上記請求項4または5記載の発明において、上記大腿骨の参照点は、後顆接線であることを特徴とする。
【0020】
請求項7記載の発明は、上記請求項4または5記載の発明において、上記大腿骨の参照点は、髄内アライメントロッドの軸に対して略垂直な平面で膝蓋大腿関節の近位端より近位部の骨断面像の皮質が2峰性となっている部分の2頂点の接線であり、上記アーム部または接続部は、髄内アライメントロッドの軸方向位置と当該接線とのオフセット値に対応して調整可能となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、術前の計画で患者の個人差に対応した、髄内アライメントロッドの刺入及び刺入した髄内アライメントロッドを用いての遠位骨切り面の位置及び角度を正確に決定することができ、術中に上記髄内アライメントロッドに装着する専用の治具を用いて大腿骨膝関節の参照点から決定した内容を再現することで正確な執刀が実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータ(以下「PC」)10のハードウェア構成を示す。各種処理制御を司るCPU11とフロントサイドバスFSBを介してノースブリッジ12が接続される。
【0024】
このノースブリッジ12は、さらにメモリバスMBを介してメインメモリ13と、またグラフィクスインタフェースAGPを介してグラフィックコントローラ14及びグラフィックメモリ15と接続される他、サウスブリッジ16とも接続され、主としてこれらの間での入出力制御を実行する。
【0025】
サウスブリッジ16は、PCIバス17、キーボード/マウス18、ビデオエンコーダ19、ハードディスク装置(HDD)20、ネットワークインタフェース(I/F)21、及びマルチディスクドライブ22と接続され、主としてこれら周辺回路とノースブリッジ12との間の入出力制御を行なう。
【0026】
上記ハードディスク装置20内に、OS(オペレーティングシステム)と各種のアプリケーションプログラム、各種のデータファイル等に加えて、人工膝関節手術の術前計画用プログラムとそれに付随する髄内ロッドや各種治具の形状データ等が予めインストールされているものとする。
【0027】
なお、上記ビデオエンコーダ19は、与えられたデジタル値の画像信号からアナログ値の画像信号であるRGBビデオ信号を生成して出力し、ここでは図示しないカラーTFT(薄膜トランジスタ)液晶表示パネルで構成されるディスプレイ部を表示駆動する。
【0028】
また、上記マルチディスクドライブ22は、例えばCD(Compact Disc)規格、DVD(Digital Versatile Disc)規格に則った光ディスク媒体の再生と記録が可能であり、患者のX線写真、X線CTの断層写真等を記録した光ディスク媒体を再生して読出することで、患者の下肢の3次元形状データを入力してハードディスク装置20に記録することができるものとする。
【0029】
なお、これらPC10を構成する個々の要素は、きわめて一般的な周知の技術であるのでその説明は省略するものとする。
【0030】
次に上記実施の形態の動作について説明する。
図2は、このPC10のユーザである医師が、ハードディスク装置13に記憶されている術前計画用プログラムを起動して、主としてCPU11が実行する本発明の処理内容を示すものである。
【0031】
この術前計画用プログラムを実行するにあたっては、X線CT装置あるいはMRI装置で撮像した2次元断層画像データスライスから作成した患者下肢の3次元骨形状データが読込まれ、ハードディスク装置20に格納されているものとする。
【0032】
なお、このプログラム上では、人体下肢の一連の2次元断層画像を基に作成した3次元の下肢の骨形状データに対して、骨頭中心、膝関節の後顆球中心、脛骨顆間隆起、脛骨遠位関節面の内外側縁点などの主要なランドマークを3次元的な参照点として設定し、それらの参照点を用いて大腿骨および脛骨の座標系を設定する。大腿骨及び脛骨の3次元的な位置関係すなわちアラインメント自体は立位でも臥位でも構わない。
【0033】
座標系としては、特に絶対的な定義は必要ではないが、ここでは説明の便宜上、以下のような座標系を使用する。大腿骨座標系に関しては、内外側の後顆球中心を結ぶ直線の中心を原点とし、その直線の右体側の方向をX軸、原点と骨頭中心を結ぶベクトルとX軸のベクトル積をY軸とする。したがって、Y軸は体正面が正となる。Z軸をX軸とY軸から定義する。
【0034】
脛骨座標系に関しては、頚骨遠位関節面の内外側縁点を結ぶ線の中心と脛骨顆間隆起の中心を結ぶ線をZ軸とする。近位方向、即ち、上方向を正とする。Y軸は脛骨後十字靭帯付着部と脛骨粗面を結ぶ線とし、体正面を正とする。X軸はY軸およびZ軸から決定する。
【0035】
また、人工関節の3次元形状データを別途用意し、ハードディスク装置20に格納しておく。大腿骨および脛骨と同様に、大腿骨人工関節及び脛骨人工関節もそれぞれ独自の座標系を設定しておく。
【0036】
具体的には、大腿骨人工関節では、例えば、近位方向あるいは鉛直方向をZ軸、体正面方向をY軸、体側右方向をX軸とする。但し、この座標軸は絶対にこのような配置である必要はなく、別の定義でも差し支えない。脛骨人工関節に対しても同様の座標系を定義する。
【0037】
しかして、図2の術前計画用プログラムを起動すると、GUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)が表示され、このGUI上で表示されている所望の下肢の立位あるいは臥位における3次元形状データを選択する。
【0038】
これは、一般のPCプログラムで利用されているところの、下肢の3次元形状データを格納したフォルダを指定することで行なう。また、大腿骨の3次元形状データと脛骨の3次元形状データは、加重状態での立位及び抜重状態での臥位における3次元的な位置関係(3次元アラインメント)が予め正しく配置されているものとする。
【0039】
次いで、上記選択した下肢の大腿骨の3次元形状データをハードディスク装置20のフォルダからメインメモリ13に読込み(ステップS101)、その3次元形状データを適当な視点から見た画像をディスプレイ画面上に表示する(ステップS102)。この表示においては、透視投影した3次元画像あるいは、3次元形状データを座標軸に平行な平面における断面で2次元表示することも可能であるものとする。
【0040】
次いで、適切なサイズと形状の大腿骨関節用の人工関節の3次元形状データを選択し(ステップS103)、ハードディスク装置20から当該データを読出してディスプレイ画面に表示する(ステップS104)。
【0041】
次いで、大腿骨用人工関節の3次元形状データをキーボード/マウス18での操作により適宜平行移動ならびに回転移動して、大腿骨の3次元形状データに対して最適な位置に設置する。
【0042】
ここで最適な位置とは、学会及び各人工関節の製造メーカにより提唱されている整形外科学的に最適となる位置であり、大腿骨及び脛骨のそれぞれに対する人工関節の相対的な設置位置である。この位置が手術中に人工関節を設置するための最適の位置であり、この設置位置に基づいて骨切りを行なうことになる。(ステップS105)
より具体的には、大腿骨コンポーネント(人工関節)の遠位関節面、脛骨コンポーネントの近位関節面が冠状断面上で機能軸と垂直となることが一般に推奨されている。しかし、矢状断面上での角度(屈曲伸展角度)に関しては、両コンポーネントとも一定のコンセンサスはなく、患者個人の関節の形状に合わせて医師が適切に判断する必要がある。また、軸方向回旋角度に関しては、大腿骨コンポーネントのX軸を大腿骨通顆軸:Transepicondylar Axis(以下TEA)と平行に設置することが推奨されている。この設置位置は、このプログラムのユーザである医師がプログラム上で対話形式により設定してもよいし、参照点などを用いて自動化できる部分は自動化して配置してもよい。
【0043】
次いで、適切なサイズの脛骨関節用の人工関節の3次元形状データを選択し(ステップS106)、ハードディスク装置20から読出してディスプレイ画面に表示する(ステップS107)。
【0044】
次いで、上記大腿骨側と同様、脛骨用人工関節の3次元形状データをキーボード/マウス18での操作により平行移動ならびに回転移動して、脛骨の3次元形状データに対して最適な位置に配置する(ステップS108)。
【0045】
この設置に関しても、このプログラムのユーザである医師がプログラム上で対話形式により設定してもよいし、参照点などを用いて自動化できる部分は自動化して配置してもよい。
【0046】
このように本実施形態では、容易にそれぞれの人工関節を下肢骨に対して3次元的に理想の位置に設置し、定量的な設置パラメータおよび骨切りのパラメータを取得することが可能となる。
【0047】
次いで、予め格納されている髄内ロッドの3次元形状データをハードディスク装置20から読出し(ステップS109)、ディスプレイ画面に表示する(ステップS110)。
【0048】
髄内ロッドの3次元形状データには、深さを示すマークを予め設置しておく。ロッドに対しても座標系を定義しておく。その長軸方向をZ軸とし、正面をY軸とする。Y軸とZ軸のベクトル積をX軸とする。この座標系も便宜上のものであり、別の定義でも構わない。
【0049】
読出した髄内ロッドの3次元形状データは、遠位と近位、内外側、前後方への平行移動、及び内外旋、内外反、屈曲伸展方向の回転が可能であるものとする。
【0050】
この表示画面上で、髄内アライメントロッドの3次元形状データをキーボード/マウス18での操作により適宜回転および平行移動して、大腿骨の3次元形状データの髄内に適切に配置する(ステップS111)。
【0051】
すなわち、大腿骨の形状データに対して、髄内ロッドをその髄内の適切な位置に設置する。これはつまり、髄内ロッドの刺入位置、方向及び深さを3次元的に最適な角度・位置に配置する。ここで言う最適の角度・位置とは、上記選択した人工関節の屈曲伸展設置角度に合わせた条件下で、髄内挿入深度が可及的に大きくなるべく挿入点、内外反角度、挿入深度を調節した角度と位置である。
【0052】
実際には髄内ロッドのZ軸がそのXZ平面に平行な平面内に存在するような位置とする。これにより、回旋角度が正確に設定されれば、屈曲伸展方向の角度は人工関節と髄内ロッドとで一致することになる。
【0053】
図3は、このときディスプレイ画面で表示される大腿骨と人工関節、及び髄内ロッドの3次元形状データを例示するものである。同図中、大腿骨FMの膝関節部に人工関節CPの最適位置が選択されて配置され、大腿骨FMに髄内ロッドIMが挿入された状態が示されている。
【0054】
その後、髄内ロッドIMの3次元形状データをキーボード/マウス18での操作により上記大腿骨FM及び人工関節CPに対して移動させた上で(ステップS111)、最適な位置への配置を終えたか否かを、例えばGUI表示中の「決定」ボタンの指示の有無により判断する(ステップS112)。
【0055】
そうでなければ上記ステップS111の処理に戻って、操作による髄内ロッドIMの位置移動を再度繰返すことにより、髄内ロッドIMが大腿骨FMの髄内で最適な配置となるのを待機する。
【0056】
上述したが、髄内ロッドIMの最適配置は、予定される人工関節CPの設置角度に合わせた角度と位置、すなわち髄内ロッドIMの軸方向に一致したZ軸が、大腿骨用人工関節CP座標系のXZ面内と平行とするもので、ユーザである医師がこのプログラムで上記ステップS111,S112の処理を繰返すことで最適な配置とすることができる。
【0057】
図4及び図5は、上記適切配置を得る過程で、表示状態を切替え、3次元形状データを元に大腿骨FMと人工関節CPに対する髄内ロッドIMの位置を2次元平面に沿って表示させた画像を例示するものである。
【0058】
図4では、画面中で髄内ロッドIMの中心軸(Z軸)を通る側面から見た断面及び正面から見た断面を元の3次元形状と併せて表示している。
【0059】
また、図5は大腿骨FM全体に対する人工関節CPと髄内ロッドIMの位置関係を、上記図3及び図4でも示したGUI環境の表示画面中から抽出して例示するもので、大腿骨FMの屈曲した髄内で髄内ロッドIMが最も奥(立位の人体では上)まで挿入されている状態を示す。
【0060】
こうして髄内ロッドIMの最適な配置状態が得られ、ユーザにより最適であるとの指示がなされると、上記ステップS111でこれを判断し、髄内ロッドIMの軸であるZ軸と人工関節CPのZ軸とのなす角度(内外反角)をコロナル面において算出する(ステップS113)。
【0061】
図6はこの内外反角を例示するものであり、大腿骨座標系における機能軸FAと遠位骨軸FPのなす角度に相当するもので、通常は約7°(図では「7.68°」)であるが、個人差によっては、さらに大きく異なる場合もある。
【0062】
次いで回旋角度を決定する。髄内ロッドIMの軸に垂直な平面に術中参照する大腿骨後顆接線と人工関節CPのX軸を投影し、これらのなす角(以下、これを「後顆接線−人工関節角度」とする)を算出する(ステップS114)。
【0063】
これにより本プログラムのユーザである医師は、人工関節CPのX軸を術中に後顆接線の軸と平行とした状態から、髄内ロッドIM周りにどちら側に何度回旋したらよいかを把握することができる。
【0064】
また、もう一つの回旋角度決定法の術前準備として、髄内ロッドIMの軸に垂直な平面(これを平面「R」とする)で膝蓋大腿関節の近位端より数ミリ近位部の骨断面像を表示し、前方の皮質が2峰性となっている部分の2頂点の接線を2頂点のデジタイズから求めて、その接線と人工関節のX軸とのなす角(以下、これを「前方接線−人工関節角度」とする)を求めると共に、平面Rのロッド座標中心からのオフセット距離を算出しておく(ステップS115)。
【0065】
図7(A)は上記平面Rを示し、図7(B)がこの平面Rにおける前方接線TLである。この前方接線TLのある位置は、手術時に直接視認しうる側にあり、且つ軟骨の有無等による影響を受けないため、きわめて容易に認識し得る参照点の1つとして利用できる。
【0066】
また、図8は上記前方接線TLとロッド座標中心からのオフセット距離(図では「17.24[mm]」)を示す。
【0067】
以上のように手術前の人工関節設置手術の計画を行ない、必要な各種パラメータを算出して保存しておくことにより(ステップS116)、手術器具を用いた実際の手術時にこれらの各種パラメータを用いて、最適の骨切りを行なうことが可能となる。
【0068】
図9は、保存しておいた各種パラメータの一部を読出してディスプレイ画面上に表示させた場合を例示するものである。すなわち、上記術前計画用プログラムで算出しておくべきパラメータ値は、
(1)髄内ロッド刺入点情報:ターゲットデバイスを設置する、大腿骨遠位部前方部分の大腿膝蓋関節より近位に約30[mm]ほどの平らな部分(平面近似する)から髄内ロッドの刺入点までのΔY値、即ち大腿骨座標系のYZ平面に投影した時の距離
(2)ロッドの刺入深さ、即ち、刺入点からロッド先端までの長さ
(3) ロッドのX軸の、大腿骨のPCA(Posterior Condyler Axis)を基準とした回旋角、及び前方接線−人工関節角
(4) ロッドのZ軸とコンポーネントのZ軸(3次元機能軸)とのなす角度(コロナル面)
(5) ロッドのZ軸とコンポーネントのZ軸(3次元機能軸)とのなす角度(サジタル面)
を含む。
【0069】
手術器具を用いた実際の手術時には、髄内ロッドの刺入点を決めるために、大腿骨膝蓋面上端から近位寄りの平らな部分に第1の治具としてターゲットデバイスと称する治具を用いる。
【0070】
図10は、このとき用いられるターゲットデバイス30の形状を例示するもので、図10(A)が斜視図、図10(B)が側面図である。このターゲットデバイス30は、当接部31、アーム部32、及び装着部33からなる。
【0071】
当接部31は、上記前方接線に当接するための部位であり、この当接部31に対してアーム部32が固定的に接続される。そして、アーム部32の先端に、アーム部32の軸方向と直交し、上記前方接線と平行となる図中の矢印I方向に沿って平行移動可能な装着部33が取付けられる。
【0072】
この装着部33は、同図(B)に示すように上記装着部33の軸方向及び上記矢印Iと共に直交する矢印II方向に沿って平行移動可能なロッド取付け部34を有するもので、上記当接部31の底面、すなわち当接する前方接線位置からのオフセット量(距離)が例えばミリ単位でスケール刻印されている。このロッド取付け部34は、ネジ35の調整により上記した前方接線からのオフセット量が調整できると共に、矢印IIIで示す如くその取付け角度も調整可能となる。
【0073】
しかして、このロッド取付け部34に髄内ロッドまたは髄内ロッドと同形状の刺入位置マーカを装着し、上記(1)で算出しておいた近似した平面から顆間部の髄内ロッド刺入点までの距離を測定し、マーキングすることで刺入点を決定することができる。
【0074】
マーキングされた刺入点位置を図示しないドリル用ビットを用いて穿孔することで、刺入口を形成し、上記髄内ロッドIMを該刺入口から予め上記計算した深さだけ大腿骨FMの髄内に刺入する。
【0075】
このとき、髄内ロッドIMが不用意に移動してしまうことがないように、図11(A)に示すようなロッドキーパ40を用いてもよい。
図11(A)に示すロッドキーパ40は、外径の異なる2段円筒状で中心軸部が髄内ロッドIMを挿通する中空となっており、大径側円筒部41の下底面側から下方にスパイク41aが突出形成されて、図11(B)に示すように髄内ロッドIMを貫装した状態で大腿骨FM(ここでは3次元モデルで表現)の上記刺入口に打ち込む構成となる。
【0076】
併せて、小径側円筒部42には軸位置を中心として径方向に複数、例えば3本のネジ穴43が均等な中心角を形成するように貫通形成されており、同図(B)に示すように各ネジ穴43に図示しないビスを螺合することで、大腿骨FMの刺入口より刺入された髄内ロッドIMをがたつき等を発生させずに保持することができる。
【0077】
その後、図示しない既存の骨切り用治具を髄内ロッドIMに取付ける。このとき、この骨切り用治具は、髄内ロッドIMに対して予め算出しておいた、上記(4)で説明した外反角に予め調節してあり、この治具の遠位切除パドルと称される平面部分の横軸が髄内ロッドIMのX軸、及び人工関節CPのX軸と共に一致しており、この平面が予定遠位骨切り面と一致した時に予定通りの遠位骨切りが行われるものである。
【0078】
図12は、上記骨切り用治具に対して遠位から装着する回旋角度決定用治具50の構成を上記ロッドキーパ40その他の治具と共に示すもので、図12(A)が斜視図、図12(B)が側面図である。
この回旋角度決定用治具50は、髄内ロッドIMを貫装する装着部51の下端側に、一対のパドル52が接続部53と一体にして設けられる。これらパドル52は、大腿骨FMの内外側両後顆に当接するもので、図12(B)に示すように、装着部51に対して一対のパドル52が図中に矢印IVで示す如くロッド軸部との距離を調整可能となるように接続部53が装着部51にスライド可能に取付けられる。
【0079】
また、上記装着部51に対して回動自在に設けられ、同じく髄内ロッドIMを貫装した回動部54が設けられる。この回動部54は、装着部51側の正面側に位置して指針54aが径方向に取付けられており、対する装着部51側にスケール51aが形成される。
【0080】
しかるに、この回旋角度決定用治具50を骨切り用治具の遠位から装着し、骨切り用治具とこの回旋角度決定用治具50がなす角と上記術前計画用プログラムで計算しておいた「後顆接線−人工関節角」が等しくなるように装着部51に対する回動部53の角度で調整して、髄内ロッドIMと骨切り用治具を回旋する。
【0081】
この回旋により人工関節CPの回旋角が実現できたことになる。この時点で骨切り用治具の横軸(人工関節CPのX軸に一致)上の2点で同治具の平面に垂直に大腿骨顆部にドリリングを行なって小骨孔を作成しておき、後は既存の器具を用いて遠位の骨切りを行なう。遠位骨切り面には先に作成した二つの骨孔が残っており、それを参照して回旋角度を決定し、後方の骨切りを行なう。
【0082】
但し、大腿骨の後顆には軟骨が残存している場合があり、その厚さの不均等さから回旋角度決定に後顆接線を用いた場合には正確な制御が困難となる場合がある。
【0083】
そこで、もう一つの回旋角度決定の方法として、上述の「前方接線−人工関節角」を利用する。上記骨切り用治具のさらに遠位から、前方接線がロッド軸周りに何度回旋しているかを測定する特製の回旋角度決定用治具を用いる。
【0084】
図13は、上記骨切り用治具に対して遠位から装着する回旋角度決定用治具60の構成を上記ロッドキーパ40その他の治具と共に示すもので、図13(A)が斜視図、図13(B)が側面図である。
この回旋角度決定用治具60は、髄内ロッドIMを貫装する装着部61の上端側に、接続部62、アーム部63を介して当接部64が設けられる。この当接部64は、上記図11のターゲットデバイス30の当接部31と同様に、上記前方接線に当接するための部位である。
【0085】
この当接部61を一端部に形成したアーム部63は、図13(B)中に矢印Vで示すように接続部62に対してアーム長(装着部61と当接部64との間隔)が任意に可変長性可能となる。併せて、接続部62は装着部51に対して図中に矢印VIで示す如くロッド軸部との距離(高さ)を調整可能となるようにスライド可能に取付けられる。
【0086】
また、上記装着部61に対して回動自在に設けられ、同じく髄内ロッドIMを貫装した回動部65が設けられる。この回動部65は、装着部61側の正面側に位置して指針65aが径方向に取付けられており、対する装着部61側にスケール61aが形成される。
【0087】
このような構成の回旋角度決定用治具を用いることで、軟骨等の影響を受けず、且つ手術時に露出している前方接線がロッド軸周りに何度回旋しているかを測定し、その角度と骨切り用治具の前方接線とのなす角を術前計画用プログラムで得られた「前方接線−人工関節角」と等しくすることで、骨切り用治具の正しい回旋角度が得られる。
【0088】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件により適宜の組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工膝関節置換手術の術前計画用プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態に係る術前計画用プログラムの処理内容を示すフローチャート。
【図3】同実施形態に係るディスプレイ画面で表示される大腿骨と人工関節、及び髄内ロッドの3次元形状データを例示する。
【図4】同実施形態に係るディスプレイ画面で表示される大腿骨と人工関節、及び髄内ロッドの3次元形状データを例示する図。
【図5】同実施形態に係る大腿骨と人工関節に対する髄内ロッドの位置を表示させた画像を例示する図。
【図6】同実施形態に係る大腿骨の機能軸と遠位骨軸のなす角度を例示する図。
【図7】同実施形態に係る髄内ロッドの軸に垂直な平面に沿った膝蓋大腿関節の骨断面像を例示する図。
【図8】同実施形態に係る上記前方接線とロッド座標中心とのオフセット距離を例示する図。
【図9】同実施形態に係る保存しておいた各種パラメータの一部を読出してディスプレイ画面上に表示させた場合を例示する図。
【図10】同実施形態に係る手術用治具(ターゲットデバイス)の構成を示し、図10(A)が斜視図、図10(B)が側面図。
【図11】同実施形態に係るロッドキーパの構成を示す斜視図(図11(A))と使用状態とを示す図(図11(B))。
【図12】同実施形態に係る回旋角度決定用治具の構成を示し、図12(A)が斜視図、図12(B)が側面図。
【図13】同実施形態に係る他の回旋角度決定用治具の構成を示し、図13(A)が斜視図、図13(B)が側面図。
【符号の説明】
【0090】
10…パーソナルコンピュータ(PC)、11…CPU、12…ノースブリッジ、13…メインメモリ、14…グラフィックコントローラ、15…グラフィックメモリ、16…サウスブリッジ、17…PCIバス、18…キーボード/マウス、19…ビデオエンコーダ、20…ハードディスク装置(HDD)、21…ネットワークインタフェース(I/F)、22…マルチディスクドライブ、30…ターゲットデバイス、31…当接部、32…アーム部、33…装着部、34…ロッド取付け部、35…ネジ、40…ロッドキーパ、41…大径側円筒部、41a…スパイク、42…小径側円筒部、43…ネジ穴、50…回旋角度決定用治具、51…装着部、51a…スケール、52…パドル、53…接続部、54…回動部、54a…指針、60…回旋角度決定用治具、61…装着部、61a…スケール、62…接続部、63…アーム部、64…当接部、65…回動部、65a…指針、AGP…グラフィクスインタフェース、CP…人工関節、FA…機能軸、FM…大腿骨、FP…遠位骨軸、FSB…フロントサイドバス、IM…髄内ロッド、MB…メモリバス、TL…前方接線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝関節を含む下肢の2次元断層画像を入力する画像入力ステップと、
上記画像入力ステップで入力した画像から大腿骨及び脛骨の3次元画像を再構築する画像再構築ステップと、
上記画像再構築ステップで得た大腿骨の膝関節の3次元画像から、置換する人工関節を決定する大腿骨側人工関節決定ステップと、
上記画像再構築ステップで得た脛骨の膝関節の3次元画像から、置換する人工関節を決定する脛骨側人工関節決定ステップと、
上記大腿骨側人工関節決定ステップで決定した人工関節と、膝関節の参照点とに基づき、大腿骨内に挿入する髄内アライメントロッドを用いた人工膝関節置換術で使用する各種パラメータを決定するパラメータ決定ステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする人工膝関節置換手術の術前計画用プログラム。
【請求項2】
上記パラメータ決定ステップは、上記大腿骨の3次元画像と上記髄内アライメントロッドの3次元画像との相互配置により各種パラメータを決定することを特徴とする請求項1記載の人工膝関節置換手術の術前計画用プログラム。
【請求項3】
上記パラメータ決定ステップで決定する各種パラメータは、上記髄内アライメントロッドの刺入位置と刺入方向及び刺入深さ、刺入した上記髄内アライメントロッドを基準とした関節部の骨切り面の位置及び回旋角度を含むことを特徴とする請求項1記載の人工膝関節置換手術の術前計画用プログラム。
【請求項4】
大腿骨の膝関節の参照点に当接する当接部と、
大腿骨の髄内に挿入する髄内アライメントロッドを装着する装着部と、
上記当接部と上記装着部とを接続し、上記装着部の取付け位置及び取付け角度を調整可能なアーム部と
を具備したことを特徴とする人工膝関節置換手術用治具。
【請求項5】
大腿骨の膝関節の参照点に当接する当接部と、
大腿骨の髄内に挿入する髄内アライメントロッドを装着する装着部と、
上記当接部と上記装着部とを接続し、上記髄内アライメントロッドに装着される外部治具の取付け角度を調整可能な接続部と
を具備したことを特徴とする人工膝関節置換手術用治具。
【請求項6】
上記大腿骨の参照点は、後顆接線であることを特徴とする請求項4または5記載の人工膝関節置換手術用治具。
【請求項7】
上記大腿骨の参照点は、髄内アライメントロッドの軸に対して略垂直な平面で膝蓋大腿関節の近位端より近位部の骨断面像の皮質が2峰性となっている部分の2頂点の接線であり、
上記アーム部または接続部は、髄内アライメントロッドの軸方向位置と当該接線とのオフセット値に対応して調整可能となる
ことを特徴とする請求項4または5記載の人工膝関節置換手術用治具。
【請求項1】
膝関節を含む下肢の2次元断層画像を入力する画像入力ステップと、
上記画像入力ステップで入力した画像から大腿骨及び脛骨の3次元画像を再構築する画像再構築ステップと、
上記画像再構築ステップで得た大腿骨の膝関節の3次元画像から、置換する人工関節を決定する大腿骨側人工関節決定ステップと、
上記画像再構築ステップで得た脛骨の膝関節の3次元画像から、置換する人工関節を決定する脛骨側人工関節決定ステップと、
上記大腿骨側人工関節決定ステップで決定した人工関節と、膝関節の参照点とに基づき、大腿骨内に挿入する髄内アライメントロッドを用いた人工膝関節置換術で使用する各種パラメータを決定するパラメータ決定ステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする人工膝関節置換手術の術前計画用プログラム。
【請求項2】
上記パラメータ決定ステップは、上記大腿骨の3次元画像と上記髄内アライメントロッドの3次元画像との相互配置により各種パラメータを決定することを特徴とする請求項1記載の人工膝関節置換手術の術前計画用プログラム。
【請求項3】
上記パラメータ決定ステップで決定する各種パラメータは、上記髄内アライメントロッドの刺入位置と刺入方向及び刺入深さ、刺入した上記髄内アライメントロッドを基準とした関節部の骨切り面の位置及び回旋角度を含むことを特徴とする請求項1記載の人工膝関節置換手術の術前計画用プログラム。
【請求項4】
大腿骨の膝関節の参照点に当接する当接部と、
大腿骨の髄内に挿入する髄内アライメントロッドを装着する装着部と、
上記当接部と上記装着部とを接続し、上記装着部の取付け位置及び取付け角度を調整可能なアーム部と
を具備したことを特徴とする人工膝関節置換手術用治具。
【請求項5】
大腿骨の膝関節の参照点に当接する当接部と、
大腿骨の髄内に挿入する髄内アライメントロッドを装着する装着部と、
上記当接部と上記装着部とを接続し、上記髄内アライメントロッドに装着される外部治具の取付け角度を調整可能な接続部と
を具備したことを特徴とする人工膝関節置換手術用治具。
【請求項6】
上記大腿骨の参照点は、後顆接線であることを特徴とする請求項4または5記載の人工膝関節置換手術用治具。
【請求項7】
上記大腿骨の参照点は、髄内アライメントロッドの軸に対して略垂直な平面で膝蓋大腿関節の近位端より近位部の骨断面像の皮質が2峰性となっている部分の2頂点の接線であり、
上記アーム部または接続部は、髄内アライメントロッドの軸方向位置と当該接線とのオフセット値に対応して調整可能となる
ことを特徴とする請求項4または5記載の人工膝関節置換手術用治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−82444(P2009−82444A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256046(P2007−256046)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18、19年度、経済産業省、「戦略的基盤技術高度化支援事業」、課題「人口膝・股関節のロボット手術管理におけるCT及びMRI画像を用いた3次元モデル構成技術並びに高速イメージ・マッチング技術の開発」の成果、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501198855)株式会社 レキシー (6)
【出願人】(507323178)ライト・メディカル・ジャパン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18、19年度、経済産業省、「戦略的基盤技術高度化支援事業」、課題「人口膝・股関節のロボット手術管理におけるCT及びMRI画像を用いた3次元モデル構成技術並びに高速イメージ・マッチング技術の開発」の成果、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501198855)株式会社 レキシー (6)
【出願人】(507323178)ライト・メディカル・ジャパン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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