説明

人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。

【課題】 人工膝関節置換手術時に大腿骨側部材として正規の(ジェニュイン)インプラントを装着する前にジェニュインカットラインよりも浅いプレカットラインでカットし、てプレカットトライアルを装着し、伸展位と屈曲位及び屈曲中の回動を観察して設定したジェニュインカット及びインプラントが適正かどうかを判断する。
【解決手段】 大腿骨の遠位端部を端部切除面、後部切除面と前部切除面、後部面取り切除面と前部面取り切除面をジェニュイン(正規の)カットしてこの切除面に装着される大腿骨側のジェニュインインプラントに模してジェニュインカットラインよりも浅くカットされるプレカットラインにプレカットトライアルを装着し、大腿骨の伸展位と屈曲位及び屈曲状態を観察してジニュインインプラントの適否を判断する根拠とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節置換手術時に使用される手術器具に関し、中でも、患者に適用する予定の正規の人工膝関節の適否を判断する根拠となるプレカットトライアルを含む手術器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膝関節が変形性膝関節症、関節リウマチ、骨腫瘍を罹患したり、外傷等を負った場合には、大腿骨と脛骨の端部の関節部の損傷を受けた部分を切除し、この部分に人工膝関節を置換することが行われている。この人工膝関節は、従来からあるように、内外二つの顆部に該当する大腿骨側部材と、この二つの大腿骨側部材をそれぞれ回動可能に収受する関節面に該当する脛骨側部材との組み合わせからなるが、これら大腿骨側部材と脛骨側部材とで構成される人工膝関節は、生体膝関節と同等な動きをするのが望ましい。
【0003】
ところで、大腿骨と脛骨とは多数の靱帯で繋がっており、伸展、屈曲はこれら靱帯の緊張、弛緩によって引き起こされる。殊に、緊張に際しては、伸展位の場合と屈曲位の場合において同じ緊張力が生ずるのが好ましい上に、屈曲位にする場合に疼痛を伴わないでスムーズに動くことが要求される。特に、日本人は正座をすることが多いから、90°を超える屈曲も可能になる必要がある。このため、下記特許文献1には、伸展位と屈曲位とで同じ緊張力になることを確認して骨切除範囲を設定する骨切除治具が提案されている。
【0004】
ところが、この先行技術の発明は、伸展位と屈曲位とで靱帯の緊張力を確認(測定)するため、操作が面倒で長い手術時間を要するものになっている。また、構造が複雑で多くの可動部分や調整部分を有しており、煩雑で熟練を要する多くの操作を必要とする。さらに、重量も重く、価格も高いものになっている。
【0005】
このため、本出願人は下記特許文献2を提供している。これは、大腿骨の遠位端の切除の際に用いられるものであり、基本的には三個の部品からなる極めて構造が簡易なものであり、かつ、操作も簡単な骨切除具となっており、予め設定したラインに正確に切除できることを特徴としている。しかし、設定したラインに沿って正確に切除したとしても、実際の人工膝関節を装着した場合に不具合が生ずることがある。また、伸展位から屈曲位にかけての屈曲時の挙動については正確に把握し難い点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−075517号公報
【特許文献2】特願2010−203873号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記特許文献2の大腿骨側の骨切除治具を更に進歩させたもので、正規の大腿骨側人工膝関節(ジェニュインインプラント)を装着する前にこれに模したプレカットトライアルを装着し、伸展位と屈曲位及び伸展位から屈曲位に至るまでの脛骨側切除面との隙間や大腿骨側部材と脛骨側部材の挙動を測定、観察し、設定したジェニュインインプラントが適正かどうかを判断できるようにしたものである。また、正常な骨はできるだけ温存するようにするとともに、手術時間を短縮して患者の負担を軽減するものである。さらに、比較的簡単な構造で操作も容易な手術器具としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、人工膝関節置換手術時に大腿骨の遠位端部を骨軸と直角方向の端部切除面、骨軸と平行方向の後部切除面と前部切除面、端部切除面と後部切除面との後部面取り切除面及び端部切除面と前部切除面との前部面取り切除面をジェニュイン(正規の)カットしてこの切除面に沿って装着される大腿骨側のジェニュインインプラントに模してジェニュインカットラインよりも浅くカットされるプレカットラインに装着されるプレカットトライアルが含まれる人工膝関節置換手術時に使用される手術器具であり、このプレカットトライアルが、上記ジェニュインカットラインの一部とプレカットラインの一部又はすべてのプレカットラインに装着されるものであり、装着した状態における大腿骨の伸展位と屈曲位の状態及び屈曲状態を観察してジニュインインプラントの適否を判断する根拠となるものであることを特徴とする人工膝関節置換手術時に使用される手術器具を提供したものである。
【0009】
このプレカットトライアルの装着の態様として、請求項2に記載した、プレカットトライアルが、ジェニュインカットラインの端部切除面に装着されるとともに、後部面取り切除面、後部切除面、前部面取り切除面及び前部切除面の一つ又は二つ以上にも装着され、このうち少なくとも一つはプレカットラインである手術器具、請求項3に記載した、プレカットトライアルが、プレカットラインの端部切除面に装着されるとともに、ジェニュインカットライン又はプレカットラインの後部面取り切除面、後部切除面、前部面取り切除面及び前部切除面の一つ又は二つ以上にも装着される手術器具を提供する。
【0010】
また、本発明は、プレカットトライアルを含む手術器具として、請求項4に記載した、ジェニュインカットライン又はプレカットラインの端部切除面に大腿骨の顆の前部と後部に係止してあてがわれる大腿骨サイザーの挿入孔から当該端部切除面に刺入されるプレカットガイドガイドピンをガイドとして当該端部切除面に固定され、挿入孔から切除工具を挿入して少なくとも後部面取り切除面、後部切除面をジェニュインカット又はプレカットするプレカットガイドが上記端部切除面に装着される手術器具、請求項5に記載した、プレカットガイドが前部面取り切除面、前部切除面をジェニュインカット又はプレカットする切除工具が挿入できる挿入孔を有する手術器具を提供する。
【0011】
さらに、請求項6に記載した、プレカットトライアルを装着して伸展位と屈曲位における状態及び屈曲状態を観察した後、ジェニュインカットライン又はプレカットラインの端部切除面と脛骨側の端部切除面との間にスペーサブロックを挿入し、スペーサブロックに取り付けられてジェニュインカットライン又はプレカットラインの端部切除面にあてがわれるジェニュインカットガイドガイドピンガイドの挿入孔から当該端部切除面に刺入されるジェニュインカットガイドガイドピンをガイドとして当該端部切除面に固定され、挿入孔から切除工具を挿入してジェニュインカットするジェニュインカットガイドが当該端部切除面に装着される手術器具を提供する。
【0012】
加えて、請求項7に記載した、ジニュインカットガイドガイドピンガイドの挿入孔がドリル等の孔あけ工具が挿入できるものであり、ジニュインカットガイドが孔あけ工具で形成された工具孔に挿入でき、かつ、ジニュインカットガイドガイドピンが挿入できる孔が内成されたスリーブを有し、このスリーブによってジェニュインカット又はプレカットされた端部切断面に固定される手術器具、請求項8に記載した,大腿骨サイザーの挿入孔がドリル等の孔あけ工具が挿入できるものであり、この孔あけ工具で形成された工具孔にプレカットガイドピンが挿入される手術器具を提供する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によると、プレカットトライアルによって伸展位と屈曲位及び屈曲中の脛骨との端部切除面との隙間を測定するとともに、伸展位と屈曲位の状態及び伸展位から屈曲位に至るまでの挙動を観察することで、予め設定したジェニュインインプラント及びそのカットラインが適正かどうかを判断できる。したがって、その後に装着するジェニュインインプラントを患者にもっとも適応した状態で装着できる。この点で、プレカットラインをできるだけジェニュインカットラインに近いものにし、プレカットトライアルもジェニュインインプラントに近いものにすることになる。プレカットトライアルの装着形態としては、請求項2及び3に記載されたように、ジェニュインカットライン又はプレカットラインの端部切除面にあてがわれるが、この他の後部面取り切除面、後部切除面、前部面取り切除面、前部切除面のいずれか又はすべてにあてがわれるが、このうち、少なくとも一つはプレカット切除面にあてがわれる。
【0014】
請求項4の手術器具によると、プレカットトライアルを装着する各切除面の切除が容易、正確にできる。請求項5の手術器具によると、上記に加えてプレカットトライアルを顆の前部側にも装着できてジェニュインインプラントにより近いものにできる。請求項6の手術器具によると、ジェニュインカットする各切除面のカットが容易、正確にできる。請求項7の手術器具によると、スペーサブロックやジェニュインカットガイドガイドピンが不要になり、手術時間を短くできる。請求項8の手術器具によると、プレカットガイドガイドピンの刺入が容易になり、刺入個所に亀裂等が入らない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】大腿骨と脛骨の関係を示す側面図である。
【図2】大腿骨と脛骨の関係を示す側面図である。
【図3】大腿骨と脛骨の関係を示す側面図である。
【図4】大腿骨と脛骨の関係を示す側面図である。
【図5】スペーサブロックの斜視図である。
【図6】スペーサブロックの側面図である。
【図7】スペーサブロックを切除面間に挿入した側面図である。
【図8】大腿骨サイザーの側面図である。
【図9】大腿骨サイザーを除去した側面図である。
【図10】プレカットガイドの側面図である。
【図11】プレカットガイドを除去後スペーサブロックを挿入した側面図である。
【図12】プレカットトライアルを装着した側面図である。
【図13】プレカットトライアルを装着して伸展位にした側面図である。
【図14】プレカットトライアルを装着して回動するときの側面図である。
【図15】プレカットトライアルを装着して屈曲位にした側面図である。
【図16】プレカット後にスペーサブロックを挿入した側面図である。
【図17】ジェニュインカットガイドピンガイドの斜視図である。
【図18】ジェニュインカットガイドピンガイドを装着した側面図である。
【図19】ジェニュインカットガイドピンガイドを除去した側面図である。
【図20】ジェニュインカットガイドを装着した側面図である。
【図21】ジェニュインカットガイドを除去した側面図である。
【図22】プレカットトライアルの別の例の説明図である。
【図23】プレカットトライアルの別の例の説明図である。
【図24】プレカットトライアルの別の例の説明図である。
【図25】プレカットトライアルの別の例の説明図である。
【図26】プレカットトライアルの別の例の説明図である。
【図27】ジェニュインカットガイドの他の例を装着した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を手術手技の順序に従って図面を参照して説明する。図1は大腿骨1と脛骨2を伸展位にしたときの側面図であるが、大腿骨の遠位端は顆3という前後左右に張り出した瘤のような形態になっており、脛骨2の近位端は顆3を転動可能に受ける関節面4を有している。なお、顆3及び関節面4は左右に二つずつある。図2は人工膝関節に置換する場合、損傷している顆3の遠位端端部をAの切除範囲(斜線の部分) で切除する場合の側面図であるが、切除範囲Aの下端は伸展位では水平な(骨軸に直角方向)大腿骨遠位端端部切除面(以下、端部切除面)5としている。
【0017】
脛骨2の近位端も同様であり、図3に示すように関節面4の近位端端部をBの切除範囲(斜線の部分)で切除する。この場合、切除範囲Bの上端は水平な脛骨近位端端部切除面(以下、端部切除面)6としている。したがって、両端部切除面5、6は伸展位で水平で平行になっている。図4はA+B=Cの切除範囲を示したものである。なお、これら切除範囲A、Bは医師が膝関節の損傷の程度や年齢、骨格、骨質等を判断して装着しようとするジェニュインインプラントに応じて決定する。
【0018】
図5〜図7はスペーサブロック7と称されるもので、伸展位において切除範囲Cを確認するために切除した両端部切除面5、6の間に挿入するものである。スペーサブロック7は手前側からグリップ8と垂直な縦孔9aを有するホローボックス9及び基準スペーサ部10とからなる。なお、関節面の中央には凸部があるから、これをかわすために規準スペーサ部10の中央前面には切欠10aを設けている(後述する調整スペーサも同じ)。このうち、グリップ8は施術者が持つ把手であり、中心に下肢とのアライメントを図る複数の垂直孔8aが形成されている。ホローボックス9の縦孔9aは後述するジェニュインカットガイドガイドピンガイド(以下、ジェニュインカットピンガイド)11を挿入するためのものであって、ジェニュインカットピンガイド11が回転しないように角孔に形成されている。
【0019】
これにおいて、グリップ8の軸芯は基準スペーサ部10の中心を通っているが、ホローボックス9は、これに装着されるジェニュインカットピンガイド11の照準性を高めるために膝関節の直前にセットされていることから、グリップ8のホローボックス9辺りは膝蓋腱を目視や操作の邪魔にならない位置に保持するために軸芯からずらせている(膝蓋腱は偏心外側に保持する)。これに伴い、ジェニュインカットピンガイド11はその脚11aに対して軸芯側に偏心しており、脚11aを縦孔9aに挿入すると、ジェニュインカットピンガイド11は基準スペーサ部10に正対するようになっている。
【0020】
図8に示すものは90°の屈曲位において大腿骨1の顆3の前部と後部とで挟止する後述するプレカットガイドガイドピン12を刺入するためのガイド及び照準ともなる大腿骨サイザー13と称されるものである。大腿骨サイザー13の垂直部は大腿骨1の端部切除面5にあてがわれており、この面にプレカットガイドガイドピン12を端部切除面5に挿入するための左右平行な二つの挿入孔14が形成されている。図9は大腿骨サイザー13を除去した後を示すものであるが、左右二つのプレカットガイドガイドピン12が刺入されたままの状態となっている。なお、プレカットガイドガイドピン12は先を尖らせて端部切除面5に直接打ち込んでもよいが、亀裂が生ずる虞もあることから、挿入孔14にドリル等の孔あけ工具(図示省略)を挿入して予め孔あけし、この工具孔にプレカットガイドガイドピン12を挿入するのが好ましい。
【0021】
図10に示すものはこのプレカットガイドガイドピン12をガイドとして端部切除面5にあてがわれるプレカットガイド15と称されるもので、これは、顆3の垂直(90°の屈曲位のとき)な端部切除面5に固定され、後部と、後部と端部切除面5との角の面取りを行うための器具である。プレカットガイド15には後部と面取り部を切除するための工具が挿入されるものであり、屈曲位のときにほぼ水平と下方斜め方向のプレカットライン(実際には面)に相当する挿入孔16、17(正確には幅がある溝)が形成されており、ここから切除用の工具を挿入して後部切除面26と後部面取り切除面27を形成する。本例では、このときのカット部分(斜線の部分)は正規のカット面(ジェニュインカットライン)よりも余裕を残して(少なく)行うもので、これをプレカットと称する。
【0022】
このプレカットを行う理由は、ジェニュインインプラントを装着する前に一度後述するプレカットトライアル(以下、トライアル)19を装着し、伸展位や屈曲位及び屈曲中のときのトライアル19と脛骨側の端部切除面6との間隔を測定するものである。また、伸展位や屈曲位のときのトライアル19と根部切除面6の接触位置や大腿骨と脛骨との姿勢及び屈曲中に端部切除面6に対してトライアル19の接触位置や重心の移動及び姿勢がどのようになっているかを観察するためである。こうすることで、予め設定したジェニュインインプラント及びそれを装着するためのジェニュインカットラインが適正かどうかが予測できるからである。そして、正しければそれに準じて切除するとともに、設定したジェニュインインプラントを装着し、正しくなければ、ジェニュインカットライン及びジェニュインインプラントを調整、修正することになる。
【0023】
プレカットが済むと、プレカットガイドガイドピン12を抜き(12aはその跡の孔)、図11に示すように屈曲位にして上述したスペーサブロック7の規準スペーサ部10をプレカットの範囲C´に挿入する。これは、プレカットした範囲C´が屈曲位のときにも正しいかどうかを確認するためであり、その測定のために厚みの判明している調整スペーサ18をこれも厚みがわかっている規準スペーサ部10に載せる(調整スペーサ18は複数のこともある)。
【0024】
次に、図12に示すように端部切除面5から切除範囲C´にかけてトライアル19を装着し、伸展位と屈曲位における状態及び屈曲中の挙動を観察する。このトライアル19は顆3のジェニュインカットの端部切除面5に小さなピン19aで止め付けるものであり、ジェニュインインプラントに模したものである。ただ、プレッカットした個所に装着することから、後部切除面26や後部面取り切除面27に装着さる部分はジェニュインインプラントよりも薄くなっている。ただ、プレカットされる後部切除面26や後部面取り切除面27はジェニュインカットされるこれらの切除面26、27と一般的には平行になっている。
【0025】
トライアル19を装着するときは調整スペーサ18を除去するが、まず、大腿骨1を伸展位にし、屈曲位になるまで回動させてその間の隙間(ギャップ)を測定する。なお、この屈曲の状態をX線透視等でその状態を観察することもある。図13〜図15はこれを示すものであるが、屈曲位にかけてのギャップは伸展位のギャップCよりは少ないが、屈曲位に至るまではほぼ同じギャップBになっている。さらに、トライアル19を除去して再度スペーサブロック7及び調整スペーサ18を使用して後方切除面26や後部面取り切除面27のライン(レベル)を再チェックする。これはトライアル19を装着したがためにプレカットラインに変化が生じているがどうかを確認するためである。図16は屈曲位におけるこの確認を示すものである。
【0026】
次に、屈曲位にしたままで上記したジェニュインカットピンガイド11を使用する。図17はジェニュインカットピンガイド11の斜視図であるが、上記したスペーサブロック7のホローボックス9に形成された縦孔9aにその脚11aが挿入されて支持されるものである。ジェニュインカットピンガイド11は大腿骨1の端部切除面5に当接する部分を有し、ここにジェニュインカットピンガイド11をガイドするためのジェニュインカットガイドガイドピン(以下ジェニュインカットピン)30を端部切除面5に刺入するための挿入孔20が形成されている。そして、図18に示すように挿入孔20からジェニュインカットピン30を端部切除面5に刺入する。
【0027】
この場合、ジェニュインカットピン30は上記したプレカットガイドガイドピン12と同じものでもよいが、刺入する個所は別の方が好ましい。プレカットガイドガイドピン孔12aはプレカットガイドガイドピン12の使用で緩んでいることがあり、後述するジェニュインカットガイド21の固定が十分でない虞があるからである。また、ジェニュインカットピン30はプレカットガイドガイドピン孔12aと一部干渉するのも芯がずれる虞があってよくない。
【0028】
すなわち、プレカットは主として後部側を行うものであるから、プレカットガイド15をガイドするプレカットガイドピン12も後部側に刺入しているが、ジェニュインカットは前部側をも行うことから、荷重が広範囲でかかるため、ジェニュインカットピン30はプレカットガイドガイドピン孔12aよりも顆3の中央寄りにする。また、ジェニュインカットピン30の刺入も直接刺入するよりもプレカットガイドガイドピン12と同様に予め工具で孔30aをあけておき、この工具孔に挿入するのが適するが、この点については後述する。
【0029】
次いで、スペーサブロック7を後退させてジェニュインカットピンガイド11を外す。すると、図19に示すようにジェニュインカットピン30が残ったままになっているので、これをガイドとしてジェニュインカットガイド21を装着する。図20はこれを示すものであるが、ジェニュインカットガイド21はジェニュインカットピン30をガイドして装着されるものであり、端部切除面5にあてがわれる部分を有している。このジェニュインカットガイド21はジェニュインカットラインを決定するための器具であり、後部切除面26と後部面取り切除面27を形成するための工具を挿入できるほぼ水平と下方斜め方向の挿入孔(横方向に幅のある溝になっている。以下、同様)22、23が設けられているとともに、前部と、前部と端部切除面5の角を面取りして前部切除面28と前部面取り切除面29を形成するためでもあり、上述したものと同様な挿入孔24、25が設けられているものである。
【0030】
そして、これらの挿入孔22〜25から工具を挿入し、それぞれジェニュインカットラインでカットする。この状態を示すのが図21であるが、ジェニュインカットすると、このように側面視で、端部切除面5、後部切除面26、後部面取り切除面27、前部切除面28及び前部面取り切除面29の五角形になっている(もっと多い多角形にすることもある)。そこで、ジェニュインカットガイド21を外すとともに、ジェニュインカットピン30を抜き、ここに設定した或いは調整したジェニュインインプラント(図示省略)を装着する。
【0031】
なお、関節面4側にも同様に脛骨側のジェニュインインプラント(図示省略)を装着するが、これは、周知のように脛骨2の患部切除面6に装着する脛骨関節部材の上に超高分子量ポリエチレンの関節面を取り付けたものである。このように、本発明は、大腿骨側、しかも、顆3の屈曲時に機能する後部側において伸展位と屈曲位及び屈曲時の挙動を含むギャップやクリアランスを観察してトライアル19による状態を観察した後にジェニュインカットラインやジェニュインインプラントを決定、調整する点を主たる特徴としたものであり、これによってジェニュインインプラントを最適に装着できる。
【0032】
以上は、本発明の基本的な形態であるが、本発明は、その本質を逸脱しない範囲で種々改変された形態をとる。改変の趣旨は、トライアル19をよりジェニュインインプラントに近い形状にすること、患者各々の骨の損傷の程度等を考慮して施術者によって皮切り、切開領域の大きさが異なることから、近時行われている低侵襲手術にも対応ができるようにするためである。図22に示すものは、後部の損傷度が低い場合であり、端部切除面5と後部面取り切除面27はジェニュインカットし、後部切除面26は浅くプレカットした後部切除面26´とし(以下ではプレカットラインラインをジェニュインカットラインと区別するためにジェニュインカットラインに付した数字に´を付ける)、トライアル19をこれらの面にかけて装着したものである。
【0033】
図23に示すものも同様であるが、本例のトライアル19は、後部面取り切除面27と後部切除面26を浅くカットしてそれぞれプレカットラインである後部面取り切除面27´と後部切除面26´とし、これらの面にトライアル19を装着したものである。図24に示すものは、端部切除面5、後部面取り切除面27及び後部切除面26を浅くカットしてそれぞれプレカットラインの端部切除面5´、後部面取り切除面27´、後部切除面26´とし、これらの面にかけてトライアル19を装着したものである。
【0034】
図25に示すものは、顆3の損傷度が低いことと相まってトライアル19を前部側にも及ぼしたもので、前部面取り切除面29を浅くカットしてプレカットラインとした前部面取り切除面29´とし、この面にもトライアル19を及ぼしたものである。図26に示すものは、前例を更に拡張したもので、前部切除面28を浅くカットしてプレカットライン28´として、この面にもトライアル19を及ぼしたものである。本例のトライアル19は全体に薄いが、ジェニュインインプラントのほぼ同じ形状をしており、よりジェニュインインプラントに近いものになっている。
【0035】
この他、図示は省略するが、トライアル19の形状及びそれを装着するプレカットラインとなる端部切除面5´、後部面取り切除面27´、後部切除面26´、前部面取り切除面29´、前部切除面28´には種々の組み合わせがある。不可欠な要件は、端部切除面5をジェニュインカットラインとすれば、他の面は少なくも一つはプレカットラインであるということと、端部切除面5をプレカットラインとすれば、他の面はジェニュインカットラインかプレカットラインであるということである。
【0036】
なお、上記したジェニュインカットピン30を予め形成した孔30aに挿入する方法についてであるが、ジェニュインカットピンガイド11の挿入孔20を利用する方法が考えられる。すなわち、挿入孔20からドリル等の孔あけ工具を挿入して端部切断面5に孔をあけ、この孔にジェニュインカットガイド21にジニュインカットピン30が挿通できる孔を内成したスリーブ31を突設してこのスリーブ31を工具孔に挿入する方法である。この場合、スリーブ31が入る孔31aの深さはスリーブ31が入るだけにし、後はジェニュインカットピン30を直接打ち込む方法とジェニュインカットピン30も挿入できる孔30aも予め形成しておく方法とがある。
【0037】
骨に与えるダメージが少ない点では後者の方が優れているが、孔あけを二回しなければならない欠点がある。そこで、各孔31a、30aに適合した径の二段ドリル等を使用すれば、一回の孔あけで済むことになる。これによると、プレカットガイドガイドピン12とジェニュインカットピン30の径や長さを違えることができるから、例えば、ジェニュインカットピン30をプレカットガイドガイドピン12の径よりも大きくすることで、荷重がより広い範囲でかかるジェニュインカットガイド21の固定をより安定させる効果もある。
【0038】
さらに、以上の手技では、トライアル19を装着して伸展位から屈曲位までのギャップの測定や回動の状況を観察した後、トライアル19を外して再度ギャップを測定したが、場合によっては、この操作は省略してもよい。骨の損傷度があまり激しくない場合は、この二つの測定ではほとんど差は出てこないから、これを省略をすることで、手術時間を短くできる利点がある。
【符号の説明】
【0039】
1 大腿骨
2 脛骨
3 顆
4 関節面
5 ジェニュインカットラインの端部切除面
5´ プレカットラインの端部切除面
6 関節面の端部切除面
7 スペーサブロック
8 グリップ
8a 〃の垂直孔
9 ホローボックス
9a 〃 の縦孔
10 規準スペーサ部
10a 〃 の切欠
11 ジェニュインカットガイドガイドピンガイド
11a 〃 の脚
12 プレカットガイドガイドピン
12a 〃 の孔
13 大腿骨サイザー
14 挿入孔
15 プレカットガイド
16 挿入孔
17 挿入孔
18 調整スペーサ
19 プレッカットトライアル
19a 〃 のピン
20 挿入孔
21 ジェニュインカットガイド
22 挿入孔
23 挿入孔
24 挿入孔
25 挿入孔
26 ジェニュインカットラインの後部切除面
26´ プレカットラインの後部切除面
27 ジェニュインカットラインの後部面取り切除面
27´ プレカットラインの後部面取り切除面
28 ジェニュインカットラインの前部切除面
28´ プレカットラインの前部切除面
29 ジェニュインカットラインの前部面取り切除面
29´ プレカットラインの前部面取り切除面
30 ジェニュインカットガイドガイドピン
30a 〃 の孔
31 スリーブ
31a 〃 の孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工膝関節置換手術時のときに大腿骨の遠位端部を骨軸と直角方向の端部切除面、骨軸と平行方向の後部切除面と前部切除面、端部切除面と後部切除面との後部面取り切除面及び端部切除面と前部切除面との前部面取り切除面をジェニュイン(正規の)カットしてこの切除面に沿って装着される大腿骨側のジェニュインインプラントに模してジェニュインカットラインよりも浅くカットされるプレカットラインに装着されるプレカットトライアルが含まれる人工膝関節置換手術時に使用される手術器具であり、このプレカットトライアルが、上記ジェニュインカットラインの一部とプレカットラインの一部又はすべてのプレカットラインに装着されるものであり、装着した状態における大腿骨の伸展位と屈曲位の状態及び屈曲状態を観察してジニュインインプラントの適否を判断する根拠となるものであることを特徴とする人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。
【請求項2】
プレカットトライアルが、ジェニュインカットラインの端部切除面に装着されるとともに、後部面取り切除面、後部切除面、前部面取り切除面及び前部切除面の一つ又は二つ以上にも装着され、このうち少なくとも一つはプレカットラインである請求項1の人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。
【請求項3】
プレカットトライアルが、プレカットラインの端部切除面に装着されるとともに、ジェニュインカットライン又はプレカットラインの後部面取り切除面、後部切除面、前部面取り切除面及び前部切除面の一つ又は二つ以上にも装着される請求項1の人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。
【請求項4】
ジェニュインカットライン又はプレカットラインの端部切除面に大腿骨の顆の前部と後部に係止してあてがわれる大腿骨サイザーの挿入孔から当該端部切除面に刺入されるプレカットガイドガイドピンをガイドとして当該端部切除面に固定され、挿入孔から切除工具を挿入して少なくとも後部面取り切除面、後部切除面をジェニュインカット又はプレカットするプレカットガイドが上記端部切除面に装着される請求項1〜3いずれかの人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。
【請求項5】
プレカットガイドが前部面取り切除面、前部切除面をジェニュインカット又はプレカットする切除工具が挿入できる挿入孔を有する請求項4の人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。
【請求項6】
プレカットトライアルを装着して伸展位と屈曲位における状態及び屈曲状態を観察した後、ジェニュインカットライン又はプレカットラインの端部切除面と脛骨側の端部切除面との間にスペーサブロックを挿入し、スペーサブロックに取り付けられてジェニュインカットライン又はプレカットラインの端部切除面にあてがわれるジェニュインカットガイドガイドピンガイドの挿入孔から当該端部切除面に刺入されるジェニュインカットガイドガイドピンをガイドとして当該端部切除面に固定され、挿入孔から切除工具を挿入してジェニュインカットするジェニュインカットガイドが当該端部切除面に装着される請求項4又は5の人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。
【請求項7】
ジニュインカットガイドガイドピンガイドの挿入孔がドリル等の孔あけ工具が挿入できるものであり、ジニュインカットガイドが孔あけ工具で形成された工具孔に挿入でき、かつ、ジニュインカットガイドガイドピンが挿入できる孔が内成されたスリーブを有し、このスリーブによってジェニュインカット又はプレカットされた端部切断面に固定されるものである請求項6の人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。
【請求項8】
大腿骨サイザーの挿入孔がドリル等の孔あけ工具が挿入できるものであり、この孔あけ工具で形成された工具孔にプレカットガイドピンが挿入されるものである請求項4〜7いずれかの人工膝関節置換手術時に使用される手術器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−170756(P2012−170756A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37905(P2011−37905)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(510245902)
【出願人】(508282465)ナカシマメディカル株式会社 (22)
【Fターム(参考)】