人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具
【課題】 人工膝関節置換手術時に大腿骨と脛骨の骨切りをするに際し、伸展位と屈曲位とにおける靱帯の緊張力を実際に測定しなくても同じにできる骨切除治具を提供する。
【解決手段】 人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具を、グリップの他端側に縦孔を有するホローボックスが形成され、ホローボックスから大腿骨と脛骨との間の切除部分に挿入される基準スペーサ部が延設されたスペーサブロックと、屈曲位のときに縦孔に挿入され、基準スペーサ部上を他端側に延びて大腿骨の遠位端の端部の切除面に当接し、前方から差し込まれて大腿骨の遠位端の端部の切除面に刺入されるリファレンスピンをガイドするガイド孔が形成されたリファレンスピンガイドと、スペーサブロックをリファレンスピンを残して大腿骨と脛骨の間から抜去した後にリファレンスピンのガイド孔をガイドとして挿入され、大腿骨の端部の遠位端の切除面に接触して大腿骨の遠位端の後部の切除面を指標する指標部が設けられたエイムとで構成する。
【解決手段】 人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具を、グリップの他端側に縦孔を有するホローボックスが形成され、ホローボックスから大腿骨と脛骨との間の切除部分に挿入される基準スペーサ部が延設されたスペーサブロックと、屈曲位のときに縦孔に挿入され、基準スペーサ部上を他端側に延びて大腿骨の遠位端の端部の切除面に当接し、前方から差し込まれて大腿骨の遠位端の端部の切除面に刺入されるリファレンスピンをガイドするガイド孔が形成されたリファレンスピンガイドと、スペーサブロックをリファレンスピンを残して大腿骨と脛骨の間から抜去した後にリファレンスピンのガイド孔をガイドとして挿入され、大腿骨の端部の遠位端の切除面に接触して大腿骨の遠位端の後部の切除面を指標する指標部が設けられたエイムとで構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膝関節が変形性膝関節症、関節リウマチ、骨腫瘍を罹患したり、外傷等を負った場合には、大腿骨と脛骨の端部の関節部の損傷を受けた部分を切除し、この部分に人工膝関節を置換することが行われている。この人工膝関節は、従来からあるように、内外二つの顆部を有する大腿骨部材と、この二つの顆部をそれぞれ回動可能に収受する関節プレートを有する脛骨部材との組み合わせからなるが、これらの顆部と関節プレートとで構成される人工膝関節は、生体膝関節と同等な動きをするのが望ましい。
【0003】
ところで、大腿骨と脛骨とは多数の靱帯で繋がっており、伸展、屈曲はこれら靱帯の緊張、弛緩によって引き起こされる。殊に、緊張に際しては、伸展位の場合と屈曲位の場合において同じ緊張力が生ずるのが好ましい上に、屈曲位にする場合に疼痛を伴わないでスムーズに動くことが要求される。また、日本人は正座をすることが多いから、深屈曲も可能になる必要がある。このため、下記特許文献1には、伸展位と屈曲位とで同じ緊張力になることを確認して骨切除範囲を設定する骨切除治具が提案されている。
【0004】
ところが、この先行技術の発明は、伸展位と屈曲位とで靱帯の緊張力を確認(測定)するため、操作が面倒で手術時間がかかるものになっている。また、構造が複雑で多くの可動部分や調整部分を有しており、煩雑で熟練を要する多くの操作を必要とする。さらに、重量も重く、価格も高いものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−75517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、伸展位と屈曲位での靱帯の緊張力は両位での骨切除範囲(間隔)を同じにすれば、同じ緊張力を派生できるとする原則に基づいた骨切除具を提案するものであり、極めて簡単な構造で安価なものにしたものである。しかも、操作に熟練さを要求されず、手術時間も短くできて患者の負担を軽減するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、伸展位で大腿骨の遠位端の端部と脛骨の近位端の端部を水平に骨切除した後、屈曲位で大腿骨の遠位端の後部を切除する際に用いられる人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具であり、この治具が、グリップの他端側に縦孔を有するホローボックスが形成され、ホローボックスから大腿骨と脛骨との間の切除部分に挿入される基準スペーサ部が延設されたスペーサブロックと、屈曲位のときに縦孔に挿入され、基準スペーサ部上を他端側に延びて大腿骨の遠位端の端部の切除面に接触し、前方から差し込まれて大腿骨の遠位端の端部の切除面に刺入されるリファレンスピンをガイドするガイド孔が形成されたリファレンスピンガイドと、スペーサブロックをリファレンスピンを残して大腿骨と脛骨の間から抜去した後にリファレンスピンのガイド孔をガイドとして挿入され、大腿骨の端部の遠位端の切除面に当接して大腿骨の遠位端の後部の切除面を指標する指標部が設けられたエイムとからなることを特徴とする人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具を提供したものである。
【0008】
また、本発明は、以上の骨切除治具において、請求項2に記載した、グリップの軸芯が基準スペーサ部の中心を通っているとともに、グリップのホローボックス辺りが膝蓋腱を邪魔にならない位置に交わせるよう軸芯に対してずれている手段、請求項3に記載した、大腿骨の遠位端の端部の切除面と後部の切除面が直角若しくは鈍角又は鋭角に設定される手段、請求項4に記載した、ガイド孔が水平に左右二個設けられている手段、請求項5に記載した、指標部がエイムに種々のレベル・角度で形成される透孔である手段、請求項6に記載した基準スペーサ部上に伸展位における大腿骨と脛骨の遠位端を切除した間隔を測定するために一又は複数の付加スペーサが重ねられる手段を提供する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明の骨切除治具によると、主たる構成要素は、大腿骨と脛骨の切除部分に挿入されるスペーサブロックと、屈曲位を正確に設定するリファレンスピンガイドと、大腿骨の遠位端の後部の切除範囲を設定するエイムとからなる極めて少ないもので足り、かつ、それぞれの構成要素の構造も簡単なものになる。したがって、部品点数も少なく、軽量、安価であり、また、操作も簡単で熟練を要しないものになる。
【0010】
請求項2の手段によると、スペーサブロックの挿入時にホローボックスが視界を妨げない。請求項3の手段によると、人工膝関節の遠位端の端部と後部の角度を大腿骨側部材の形状に合わせたものにでき、大腿骨側部材を正確、確実に装填できる。請求項4の手段によると、リファレンスピンガイドを水平である正規の姿勢に正確にセットできる。請求項5の手段によると、大腿骨の遠位端の後部を種々のレベルや角度の切除面に設定できる。請求項6の手段によれば、大腿骨の遠位端と脛骨の近位端を所定量切除した後、スペーサブロックの基準スペーサ部を挿入したままで大腿骨を90°屈曲できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スペーサブロックの斜視図である。
【図2】スペーサブロックの平面図である。
【図3】スペーサブロック、リファレンスピンガイド及びリファレンスピンとの関係を示す斜視図である。
【図4】伸展位における骨切除の状態を示す説明図である。
【図5】伸展位における骨切除の状態を示す説明図である。
【図6】伸展位における骨切除の状態を示す説明図である。
【図7】伸展位における骨切除の状態を示す説明図である。
【図8】スペーサブロックと付加スペーサとの関係を示す斜視図である。
【図9】スペーサブロックを伸展位において大腿骨と脛骨の骨切除部分に挿入した状態を示す側面図である。
【図10】スペーサブロックを屈曲位において大腿骨と脛骨の骨切除部分に挿入した状態を示す側面図である。
【図11】スペーサブロックにリファレンスピンガイドを取り付け、リファレンスピンガイドにリファレンスピンを挿入する状態を示す側面図である。
【図12】スペーサブロックからリファレンスピンガイドを除去した状態を示す側面図である。
【図13】リファレンスピンをガイドとして照準器を取り付けた状態を示す側面図である。
【図14】照準器の正面図である。
【図15】屈曲位において大腿骨の後面を切除した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明に係る人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具(以下、治具という)の主体をなすスペーサブロック1の斜視図、図2は平面図、図3はスペーサブロック1、リファレンスピンガイド2及びリファレンスピン3の斜視図であるが、以下に前後、上下及び左右という方向を指称することがあるが、これは立ち姿の膝を正面及び外側面から見た状態を基準としたもので、前部とは膝の前面(膝蓋骨側)であり、上部とは大腿骨側であり、左右とは左膝であれば左部は外側のことである。
【0013】
スペーサブロック1は、切除した大腿骨4の遠位端と脛骨5の近位端の切除部分に挿入するものであってリファレンスピンガイド2を支持するものであり、前方からグリップ6と垂直な縦孔7aを有するホローボックス7及び基準スペーサ部8とからなる。このうち、グリップ6は施術者が持つ把手であり、中心に下肢とのアライメントを図る複数の垂直孔6aが設けられている。ホローボックス7の縦孔7aはリファレンスピンガイド2を挿入するためのものであって、リファレンスピンガイド2が回転しないように角孔に形成されている。リファレンスピンガイド2は、縦孔7aにその脚2aが挿入されて支持されるものであり、大腿骨4の遠位端の端部を脛骨5の近位端の端部に対して90°屈曲させるとともに、リファレンスピン3を挿入するためのガイドとなるものであり、そのためのガイド孔9が形成されているものである。
【0014】
これにおいて、グリップ6の軸芯6は基準スペーサ部8の中心を通っているが、ホローボックス7は、これに装着される後述するエイムの照準性を高めるために膝関節の直前にセットされていることから、グリップ6のホローボックス7辺りは膝蓋腱を目視や操作の邪魔にならない位置に保持するために軸芯からずらせている(膝蓋腱は偏心外側に保持する)。これに伴い、リファレンスピンガイド2は脚2aに対して軸芯側に偏心しており、脚2aを縦孔7aに挿入すると、リファレンスピンガイド2は基準スペーサ部8に正対するようになっている。
【0015】
この他、基準スペーサ部8の先端(膝からいえば後部)に切欠部8aを形成している。膝関節を人工膝関節に置換する場合、後十字靱帯(PCL)は正常な状態で残っている場合が多く、この場合は、PCLを温存している。そこで、切欠部8aを設けて、仮にPCLが温存されていても、これと干渉しないようにしているのである。一方、リファレンスピン3はリファレンスピンガイド2のガイド孔9に挿入されて大腿骨4の遠位端4aの端部の切除面に刺入されるピンのことである。なお、ホローボックス7にリフアレンスピンガイド2の脚2aをクランプする固定ネジ10を取り付けているが、これらホローボックス7及び固定ネジ10は脛骨5から外れたその前方に設置するのはいうまでもない。
【0016】
次に、以上の各要素を用いて膝関節に人工膝関節を置換する手術について、図4〜図7に従って説明する。膝関節は伸展位のときに略180°になっており(図4)、まず、大腿骨4の遠位端4aの端部をAだけ切除する(図5)。このAは損傷の程度、年齢、体格等を考慮して施術者が決定する。次に、脛骨5の近位端5aの端部をBだけ切除するのであるが(図6)、このBは損傷の程度にもよるが、Aとの関係で装填しようとする人工膝関節の形状・サイズにも基づくものである。以上により、大腿骨4の遠位端4aの端部と脛骨5の近位端5aの端部はA+B=Cの範囲に亘って切除されたことになる(図7)。この場合、大腿骨4側と脛骨5側の切除面FH とTH は水平で平行にするのが通常であるから、切除時に適当な治具(図示省略)を用いることがある。
【0017】
次いで、この状態で大腿骨4の遠位端4aの端部と脛骨5の近位端5aの端部との切除間隔Cが術前に想定した値になっているかどうか(予定した形状・サイズの人工膝関節を装填できるかどうか或いはどの形状・サイズの人工膝関節を適用するかどうか)を確認する。それには、多くの場合、スペーサブロック1の基準スペーサ部8に一又は複数の付加スペーサ11を重ね(図8)、その厚みをもって大腿骨4側と脛骨5側の切除間隔Cを測定し、予定している人工膝関節の適用の是否を判断する(図9)。ところで、付加スペーサを重ねるのは、後述する理由によって基準スペーサ部8だけでは厚みが足りないからである。
【0018】
これが確認できたなら、付加スペーサ11を取り除き、大腿骨4を屈曲位にする(図10)。付加スペーサ11を取り除くのは、大腿骨4の遠位端4aの後部は太くなっており、これを取り付けたままでは大腿骨4を屈曲位にできないからである。しかし、基準スペーサ部8は大腿骨4側と脛骨5側の切除間隔Cに余裕をもって挿入できる厚みにしてあるから、これを取り除くと、大腿骨4を屈曲位にできる。次に、リファレンスピンガイド2をスペーサブロック1の縦孔7aに上方から挿入し、その後面2bを大腿骨4の遠位端の端部の切除面FH に接触させる(図11)。これは大腿骨4を脛骨5に対して90°に屈曲させるためである。なお、深屈曲が可能なように屈曲角度を90°以上にすることもある。したがって、リファレンスピンガイド2の脚2aと後面2bとの角度はこの角度に合わせて設定してある。
【0019】
以上が設定できたなら、リファレンスピン3は残したままでリファレンスピンガイド2を上方に引き抜くとともに、スペーサブロック1を前方に引き抜く(図12)。そして、リファレンスピン3に対してエイム(照準器)12を前方から挿入する(図13)。エイム12は正面視角形をしたもので(図14)、リファレンスピン3が挿入できるガイド孔13が形成され、その後面2bは平坦になっており、この面を大腿骨4の遠位端4aの端部の切除面FH に当接する。エイム12には大腿骨4の遠位端4aの次の切除部位である後部の切除面FR を指標する指標部14が形成されている。
【0020】
この場合の指標部14はカッター、ケガキ針、ゲージ及びドリル等が入る小さな透孔や横長透孔(スリット)である。そこで、このスリット14にカッター等を挿入し、大腿骨4の遠位端4aの後部に予め設定した切除面FR となるラインに印を付ける。そして、この印を基準にして後部を切断すれば、後部は切除面FR で切断される。この場合、大腿骨4の遠位端4aの端部の切除面FH と後部の切除面FR とは原則的には直角になるが、人工膝関節の形状・サイズによっては鈍角又は鋭角になることがある。
【0021】
エイム12には大腿骨4の遠位端4aの更に次の切除部位である前部を切断する指標となるスリット15も形成されている。すなわち、エイム12の上部に上記した透孔や横長透孔が形成してあり、ここからカッター等を挿入して遠位端4の前部の切除面FF となるラインに印を付ける。そして、この印に沿って切除面FF で切除する。なお、この切除面FF は端部の切除面FH に対して上方がやや高くなるよう(鈍角)に傾斜させている場合が多い。人工膝関節の大腿骨部材への装填性を高めるためである。
【0022】
さらに、エイム12には、各切除面FH 、FF 、FR のコーナーを面取りするために上方及び下方に斜めに形成された孔等からなるスリット16も形成されており、これを目印にコーナーを切断すれば、図15に示される多角形の姿に骨切りされる。この面取りは、大腿骨部材に対する装填性を高めるためである。最後に大腿骨部材と脛骨部材を装填して手術は終わるが、このときの大腿骨部材と脛骨部材は、損傷の程度、年齢、体格等を考慮して様々の形状・サイズが選択されるのは上記したとおりである。なお、以上は右膝の人工関節置換であるが、左膝の場合はスペーサブロック1を反転させて使用すればよい。
【符号の説明】
【0023】
1 スペーサブロック
2 リファレンスピンガイド
2a 〃 の脚
2b 〃 の後面
3 リファレンスピン
4 大腿骨
4a 〃 の遠位端
5 脛骨
5a 〃の近位端
6 グリップ
6a 〃 の孔
7 ホローボックス
7a 〃 の縦孔
8 基準スペーサ部
8a 〃 の切欠部
9 ガイド孔
10 接続軸
11 付加スペーサ
12 エイム
13 挿入孔
14 指標部(スリット)
15 〃
16 〃
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膝関節が変形性膝関節症、関節リウマチ、骨腫瘍を罹患したり、外傷等を負った場合には、大腿骨と脛骨の端部の関節部の損傷を受けた部分を切除し、この部分に人工膝関節を置換することが行われている。この人工膝関節は、従来からあるように、内外二つの顆部を有する大腿骨部材と、この二つの顆部をそれぞれ回動可能に収受する関節プレートを有する脛骨部材との組み合わせからなるが、これらの顆部と関節プレートとで構成される人工膝関節は、生体膝関節と同等な動きをするのが望ましい。
【0003】
ところで、大腿骨と脛骨とは多数の靱帯で繋がっており、伸展、屈曲はこれら靱帯の緊張、弛緩によって引き起こされる。殊に、緊張に際しては、伸展位の場合と屈曲位の場合において同じ緊張力が生ずるのが好ましい上に、屈曲位にする場合に疼痛を伴わないでスムーズに動くことが要求される。また、日本人は正座をすることが多いから、深屈曲も可能になる必要がある。このため、下記特許文献1には、伸展位と屈曲位とで同じ緊張力になることを確認して骨切除範囲を設定する骨切除治具が提案されている。
【0004】
ところが、この先行技術の発明は、伸展位と屈曲位とで靱帯の緊張力を確認(測定)するため、操作が面倒で手術時間がかかるものになっている。また、構造が複雑で多くの可動部分や調整部分を有しており、煩雑で熟練を要する多くの操作を必要とする。さらに、重量も重く、価格も高いものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−75517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、伸展位と屈曲位での靱帯の緊張力は両位での骨切除範囲(間隔)を同じにすれば、同じ緊張力を派生できるとする原則に基づいた骨切除具を提案するものであり、極めて簡単な構造で安価なものにしたものである。しかも、操作に熟練さを要求されず、手術時間も短くできて患者の負担を軽減するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、伸展位で大腿骨の遠位端の端部と脛骨の近位端の端部を水平に骨切除した後、屈曲位で大腿骨の遠位端の後部を切除する際に用いられる人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具であり、この治具が、グリップの他端側に縦孔を有するホローボックスが形成され、ホローボックスから大腿骨と脛骨との間の切除部分に挿入される基準スペーサ部が延設されたスペーサブロックと、屈曲位のときに縦孔に挿入され、基準スペーサ部上を他端側に延びて大腿骨の遠位端の端部の切除面に接触し、前方から差し込まれて大腿骨の遠位端の端部の切除面に刺入されるリファレンスピンをガイドするガイド孔が形成されたリファレンスピンガイドと、スペーサブロックをリファレンスピンを残して大腿骨と脛骨の間から抜去した後にリファレンスピンのガイド孔をガイドとして挿入され、大腿骨の端部の遠位端の切除面に当接して大腿骨の遠位端の後部の切除面を指標する指標部が設けられたエイムとからなることを特徴とする人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具を提供したものである。
【0008】
また、本発明は、以上の骨切除治具において、請求項2に記載した、グリップの軸芯が基準スペーサ部の中心を通っているとともに、グリップのホローボックス辺りが膝蓋腱を邪魔にならない位置に交わせるよう軸芯に対してずれている手段、請求項3に記載した、大腿骨の遠位端の端部の切除面と後部の切除面が直角若しくは鈍角又は鋭角に設定される手段、請求項4に記載した、ガイド孔が水平に左右二個設けられている手段、請求項5に記載した、指標部がエイムに種々のレベル・角度で形成される透孔である手段、請求項6に記載した基準スペーサ部上に伸展位における大腿骨と脛骨の遠位端を切除した間隔を測定するために一又は複数の付加スペーサが重ねられる手段を提供する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明の骨切除治具によると、主たる構成要素は、大腿骨と脛骨の切除部分に挿入されるスペーサブロックと、屈曲位を正確に設定するリファレンスピンガイドと、大腿骨の遠位端の後部の切除範囲を設定するエイムとからなる極めて少ないもので足り、かつ、それぞれの構成要素の構造も簡単なものになる。したがって、部品点数も少なく、軽量、安価であり、また、操作も簡単で熟練を要しないものになる。
【0010】
請求項2の手段によると、スペーサブロックの挿入時にホローボックスが視界を妨げない。請求項3の手段によると、人工膝関節の遠位端の端部と後部の角度を大腿骨側部材の形状に合わせたものにでき、大腿骨側部材を正確、確実に装填できる。請求項4の手段によると、リファレンスピンガイドを水平である正規の姿勢に正確にセットできる。請求項5の手段によると、大腿骨の遠位端の後部を種々のレベルや角度の切除面に設定できる。請求項6の手段によれば、大腿骨の遠位端と脛骨の近位端を所定量切除した後、スペーサブロックの基準スペーサ部を挿入したままで大腿骨を90°屈曲できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スペーサブロックの斜視図である。
【図2】スペーサブロックの平面図である。
【図3】スペーサブロック、リファレンスピンガイド及びリファレンスピンとの関係を示す斜視図である。
【図4】伸展位における骨切除の状態を示す説明図である。
【図5】伸展位における骨切除の状態を示す説明図である。
【図6】伸展位における骨切除の状態を示す説明図である。
【図7】伸展位における骨切除の状態を示す説明図である。
【図8】スペーサブロックと付加スペーサとの関係を示す斜視図である。
【図9】スペーサブロックを伸展位において大腿骨と脛骨の骨切除部分に挿入した状態を示す側面図である。
【図10】スペーサブロックを屈曲位において大腿骨と脛骨の骨切除部分に挿入した状態を示す側面図である。
【図11】スペーサブロックにリファレンスピンガイドを取り付け、リファレンスピンガイドにリファレンスピンを挿入する状態を示す側面図である。
【図12】スペーサブロックからリファレンスピンガイドを除去した状態を示す側面図である。
【図13】リファレンスピンをガイドとして照準器を取り付けた状態を示す側面図である。
【図14】照準器の正面図である。
【図15】屈曲位において大腿骨の後面を切除した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明に係る人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具(以下、治具という)の主体をなすスペーサブロック1の斜視図、図2は平面図、図3はスペーサブロック1、リファレンスピンガイド2及びリファレンスピン3の斜視図であるが、以下に前後、上下及び左右という方向を指称することがあるが、これは立ち姿の膝を正面及び外側面から見た状態を基準としたもので、前部とは膝の前面(膝蓋骨側)であり、上部とは大腿骨側であり、左右とは左膝であれば左部は外側のことである。
【0013】
スペーサブロック1は、切除した大腿骨4の遠位端と脛骨5の近位端の切除部分に挿入するものであってリファレンスピンガイド2を支持するものであり、前方からグリップ6と垂直な縦孔7aを有するホローボックス7及び基準スペーサ部8とからなる。このうち、グリップ6は施術者が持つ把手であり、中心に下肢とのアライメントを図る複数の垂直孔6aが設けられている。ホローボックス7の縦孔7aはリファレンスピンガイド2を挿入するためのものであって、リファレンスピンガイド2が回転しないように角孔に形成されている。リファレンスピンガイド2は、縦孔7aにその脚2aが挿入されて支持されるものであり、大腿骨4の遠位端の端部を脛骨5の近位端の端部に対して90°屈曲させるとともに、リファレンスピン3を挿入するためのガイドとなるものであり、そのためのガイド孔9が形成されているものである。
【0014】
これにおいて、グリップ6の軸芯6は基準スペーサ部8の中心を通っているが、ホローボックス7は、これに装着される後述するエイムの照準性を高めるために膝関節の直前にセットされていることから、グリップ6のホローボックス7辺りは膝蓋腱を目視や操作の邪魔にならない位置に保持するために軸芯からずらせている(膝蓋腱は偏心外側に保持する)。これに伴い、リファレンスピンガイド2は脚2aに対して軸芯側に偏心しており、脚2aを縦孔7aに挿入すると、リファレンスピンガイド2は基準スペーサ部8に正対するようになっている。
【0015】
この他、基準スペーサ部8の先端(膝からいえば後部)に切欠部8aを形成している。膝関節を人工膝関節に置換する場合、後十字靱帯(PCL)は正常な状態で残っている場合が多く、この場合は、PCLを温存している。そこで、切欠部8aを設けて、仮にPCLが温存されていても、これと干渉しないようにしているのである。一方、リファレンスピン3はリファレンスピンガイド2のガイド孔9に挿入されて大腿骨4の遠位端4aの端部の切除面に刺入されるピンのことである。なお、ホローボックス7にリフアレンスピンガイド2の脚2aをクランプする固定ネジ10を取り付けているが、これらホローボックス7及び固定ネジ10は脛骨5から外れたその前方に設置するのはいうまでもない。
【0016】
次に、以上の各要素を用いて膝関節に人工膝関節を置換する手術について、図4〜図7に従って説明する。膝関節は伸展位のときに略180°になっており(図4)、まず、大腿骨4の遠位端4aの端部をAだけ切除する(図5)。このAは損傷の程度、年齢、体格等を考慮して施術者が決定する。次に、脛骨5の近位端5aの端部をBだけ切除するのであるが(図6)、このBは損傷の程度にもよるが、Aとの関係で装填しようとする人工膝関節の形状・サイズにも基づくものである。以上により、大腿骨4の遠位端4aの端部と脛骨5の近位端5aの端部はA+B=Cの範囲に亘って切除されたことになる(図7)。この場合、大腿骨4側と脛骨5側の切除面FH とTH は水平で平行にするのが通常であるから、切除時に適当な治具(図示省略)を用いることがある。
【0017】
次いで、この状態で大腿骨4の遠位端4aの端部と脛骨5の近位端5aの端部との切除間隔Cが術前に想定した値になっているかどうか(予定した形状・サイズの人工膝関節を装填できるかどうか或いはどの形状・サイズの人工膝関節を適用するかどうか)を確認する。それには、多くの場合、スペーサブロック1の基準スペーサ部8に一又は複数の付加スペーサ11を重ね(図8)、その厚みをもって大腿骨4側と脛骨5側の切除間隔Cを測定し、予定している人工膝関節の適用の是否を判断する(図9)。ところで、付加スペーサを重ねるのは、後述する理由によって基準スペーサ部8だけでは厚みが足りないからである。
【0018】
これが確認できたなら、付加スペーサ11を取り除き、大腿骨4を屈曲位にする(図10)。付加スペーサ11を取り除くのは、大腿骨4の遠位端4aの後部は太くなっており、これを取り付けたままでは大腿骨4を屈曲位にできないからである。しかし、基準スペーサ部8は大腿骨4側と脛骨5側の切除間隔Cに余裕をもって挿入できる厚みにしてあるから、これを取り除くと、大腿骨4を屈曲位にできる。次に、リファレンスピンガイド2をスペーサブロック1の縦孔7aに上方から挿入し、その後面2bを大腿骨4の遠位端の端部の切除面FH に接触させる(図11)。これは大腿骨4を脛骨5に対して90°に屈曲させるためである。なお、深屈曲が可能なように屈曲角度を90°以上にすることもある。したがって、リファレンスピンガイド2の脚2aと後面2bとの角度はこの角度に合わせて設定してある。
【0019】
以上が設定できたなら、リファレンスピン3は残したままでリファレンスピンガイド2を上方に引き抜くとともに、スペーサブロック1を前方に引き抜く(図12)。そして、リファレンスピン3に対してエイム(照準器)12を前方から挿入する(図13)。エイム12は正面視角形をしたもので(図14)、リファレンスピン3が挿入できるガイド孔13が形成され、その後面2bは平坦になっており、この面を大腿骨4の遠位端4aの端部の切除面FH に当接する。エイム12には大腿骨4の遠位端4aの次の切除部位である後部の切除面FR を指標する指標部14が形成されている。
【0020】
この場合の指標部14はカッター、ケガキ針、ゲージ及びドリル等が入る小さな透孔や横長透孔(スリット)である。そこで、このスリット14にカッター等を挿入し、大腿骨4の遠位端4aの後部に予め設定した切除面FR となるラインに印を付ける。そして、この印を基準にして後部を切断すれば、後部は切除面FR で切断される。この場合、大腿骨4の遠位端4aの端部の切除面FH と後部の切除面FR とは原則的には直角になるが、人工膝関節の形状・サイズによっては鈍角又は鋭角になることがある。
【0021】
エイム12には大腿骨4の遠位端4aの更に次の切除部位である前部を切断する指標となるスリット15も形成されている。すなわち、エイム12の上部に上記した透孔や横長透孔が形成してあり、ここからカッター等を挿入して遠位端4の前部の切除面FF となるラインに印を付ける。そして、この印に沿って切除面FF で切除する。なお、この切除面FF は端部の切除面FH に対して上方がやや高くなるよう(鈍角)に傾斜させている場合が多い。人工膝関節の大腿骨部材への装填性を高めるためである。
【0022】
さらに、エイム12には、各切除面FH 、FF 、FR のコーナーを面取りするために上方及び下方に斜めに形成された孔等からなるスリット16も形成されており、これを目印にコーナーを切断すれば、図15に示される多角形の姿に骨切りされる。この面取りは、大腿骨部材に対する装填性を高めるためである。最後に大腿骨部材と脛骨部材を装填して手術は終わるが、このときの大腿骨部材と脛骨部材は、損傷の程度、年齢、体格等を考慮して様々の形状・サイズが選択されるのは上記したとおりである。なお、以上は右膝の人工関節置換であるが、左膝の場合はスペーサブロック1を反転させて使用すればよい。
【符号の説明】
【0023】
1 スペーサブロック
2 リファレンスピンガイド
2a 〃 の脚
2b 〃 の後面
3 リファレンスピン
4 大腿骨
4a 〃 の遠位端
5 脛骨
5a 〃の近位端
6 グリップ
6a 〃 の孔
7 ホローボックス
7a 〃 の縦孔
8 基準スペーサ部
8a 〃 の切欠部
9 ガイド孔
10 接続軸
11 付加スペーサ
12 エイム
13 挿入孔
14 指標部(スリット)
15 〃
16 〃
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸展位で大腿骨の遠位端の端部と脛骨の近位端の端部を水平に骨切除した後、屈曲位で大腿骨の遠位端の後部を切除する際に用いられる人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具であり、この治具が、グリップの他端側に縦孔を有するホローボックスが形成され、ホローボックスから大腿骨と脛骨との間の切除部分に挿入される基準スペーサ部が延設されたスペーサブロックと、屈曲位のときに縦孔に挿入され、基準スペーサ部上を他端側に延びて大腿骨の遠位端の端部の切除面に当接し、前方から差し込まれて大腿骨の遠位端の端部の切除面に刺入されるリファレンスピンをガイドするガイド孔が形成されたリファレンスピンガイドと、スペーサブロックをリファレンスピンを残して大腿骨と脛骨の間から抜去した後にリファレンスピンのガイド孔をガイドとして挿入され、大腿骨の端部の遠位端の切除面に接触して大腿骨の遠位端の後部の切除面を指標する指標部が設けられたエイムとからなることを特徴とする人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項2】
グリップの軸芯が基準スペーサ部の中心を通っているとともに、グリップのホローボックス辺りが膝蓋腱を邪魔にならない位置に交わせるよう軸芯に対してずれている請求項1の人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項3】
大腿骨の遠位端の端部の切除面と後部の切除面が直角若しくは鈍角又は鋭角に設定される請求項1又は2の人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項4】
ガイド孔が水平に左右二個設けられている請求項1〜3いずれかの人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項5】
指標部がエイムに種々のレベル・角度で形成される透孔である請求項1〜4いずれかの人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項6】
基準スペーサ部上に伸展位における大腿骨と脛骨の遠位端を切除した間隔を測定するために一又は複数の付加スペーサが重ねられる請求項1〜5いずれかの人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項1】
伸展位で大腿骨の遠位端の端部と脛骨の近位端の端部を水平に骨切除した後、屈曲位で大腿骨の遠位端の後部を切除する際に用いられる人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具であり、この治具が、グリップの他端側に縦孔を有するホローボックスが形成され、ホローボックスから大腿骨と脛骨との間の切除部分に挿入される基準スペーサ部が延設されたスペーサブロックと、屈曲位のときに縦孔に挿入され、基準スペーサ部上を他端側に延びて大腿骨の遠位端の端部の切除面に当接し、前方から差し込まれて大腿骨の遠位端の端部の切除面に刺入されるリファレンスピンをガイドするガイド孔が形成されたリファレンスピンガイドと、スペーサブロックをリファレンスピンを残して大腿骨と脛骨の間から抜去した後にリファレンスピンのガイド孔をガイドとして挿入され、大腿骨の端部の遠位端の切除面に接触して大腿骨の遠位端の後部の切除面を指標する指標部が設けられたエイムとからなることを特徴とする人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項2】
グリップの軸芯が基準スペーサ部の中心を通っているとともに、グリップのホローボックス辺りが膝蓋腱を邪魔にならない位置に交わせるよう軸芯に対してずれている請求項1の人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項3】
大腿骨の遠位端の端部の切除面と後部の切除面が直角若しくは鈍角又は鋭角に設定される請求項1又は2の人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項4】
ガイド孔が水平に左右二個設けられている請求項1〜3いずれかの人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項5】
指標部がエイムに種々のレベル・角度で形成される透孔である請求項1〜4いずれかの人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【請求項6】
基準スペーサ部上に伸展位における大腿骨と脛骨の遠位端を切除した間隔を測定するために一又は複数の付加スペーサが重ねられる請求項1〜5いずれかの人工膝関節置換手術時に使用される骨切除治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−55597(P2012−55597A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203873(P2010−203873)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(510245902)
【出願人】(508282465)ナカシマメディカル株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(510245902)
【出願人】(508282465)ナカシマメディカル株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
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