説明

人工関節の摩耗試験装置及び摩耗試験方法

【課題】NC旋盤やマシニングセンタを用いて人体の各部位に特有な動作条件で人工関節の摩耗試験を行うことができる装置を得ること、及び当該装置を用いて人工関節の摩耗試験を行う方法を提案する。
【解決手段】工作機械のワーク軸に装着されるワーク軸側ホルダと工具軸に装着される工具軸側ホルダとを備える。ワーク軸側ホルダは、試料又は試験皿を固定するテーブルとを備え、取付部をワーク軸に固定したときにテーブルをワーク軸の軸線に沿う方向又は当該軸線と直交する方向に沿って案内するガイドと、テーブルに固定した試料の球体の中心をワーク軸の軸線上に保持可能とするための、高さ調整具及び前記方向とワーク軸の軸線との両者に直交する方向の位置を調整する位置調整具と、テーブルに作用する前記直線方向の力を検出するセンサとを備えている。工具軸側ホルダは、工具軸に装着するシャフトと試料又は試験皿を固定する受台とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人工関節の耐摩耗性試験に用いる摩耗試験装置及び当該装置を用いた人工関節の摩耗試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工関節は、手術によって人体に装着される。装着した人工関節が摩耗して使用に耐えなくなると交換しなければならず、交換には再度の手術が必要である。再度の手術を行うことなく、できるだけ長く人工関節を使用できるようにするためには、人工関節に高い耐摩耗性能が要求される。人工関節材料等の生体材料の摩耗試験装置としては、特許文献1記載の装置が提案されている。また、人工関節専用の摩耗試験装置も提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−51838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工関節の耐摩耗性を向上させるためには、その材料の耐摩耗性を向上させることが大切である。しかし、人工関節は、それが装着される人体の部位(例えば股関節や膝関節)及び人体の運動態様によって当該人工関節の滑動範囲や、当該人工関節に作用する力の方向が異なる。従って、人体に装着された人工関節は、その部位や動作習慣などによって異なる態様の部分的摩耗が生ずると考えられる。
【0005】
摩耗がどのように生ずるかが判れば、人工骨表面の耐摩耗性を部分的に高くする表面処理を施すとか、摩耗部分への関節液の流動を促進する形状を採用するとか、摩耗代を含んだ形状とするとか、材質の改良をすることで人工関節の耐久性を更に向上させることができる。すなわち、人工関節の摩耗をより詳しく試験するためには、関節の部位に特有な動きや力のかかり方を模擬できる試験装置が必要である。このような試験装置として、人工関節専用の摩耗試験装置が提供されている。しかしこの専用の摩耗試験装置は、極めて高価である。
【0006】
この発明は、比較的広く普及している機械を用いて人体の各部位に特有な動作条件で人工関節の耐摩耗試験を行うことができる装置を得ること、及び当該装置を用いて人工関節の耐摩耗試験を行う方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の人工関節の摩耗試験装置は、工作機械のワーク軸Aに装着されるワーク軸側ホルダ1と工作機械の工具軸Bに装着される工具軸側ホルダ3とを備えている。ワーク軸Aは、加工されるワークを装着する主軸やテーブルなどの部材であって、NC装置によりその軸まわりの回転角や回転速度を制御されている部材である。工具軸Bは、加工する工具を装着する工具主軸や刃物台などの部材であって、NC装置によりその位置や必要な方向を制御されている部材であり、回転工具軸は、更に、NC装置によりその軸まわりの回転角や回転速度を制御されている部材である。ワーク軸側ホルダ1は、ワーク軸Aに固定される取付部11と、試料6を固定するテーブル15とを備えている。
【0008】
この出願の請求項1に係る人工関節の摩耗試験装置のワーク軸側ホルダは、取付部11をワーク軸Aに固定したときにテーブル15をワーク軸Aの軸線すなわち回転中心軸と直交する直線方向に沿って案内するガイド13と、テーブル15に固定した試料6の球体61の中心をワーク軸Aの軸線上に保持可能とするための、テーブル15の前記直線方向の位置を調整する高さ調整具17及び前記直線方向と前記ワーク軸Aの軸線との両者に直交する方向の位置を調整する位置調整具22と、テーブル15に作用する前記直線方向の力を検出するセンサ16とを備えている。また、請求項1に係る摩耗試験装置の工具軸側ホルダ3は、工具軸Bに装着するシャフト31と試験皿8を固定する受台32とを備えている。摩耗試験においては、通常、試料6及び試験皿8が共に人工関節材料で製作され、両者の摩耗を試験する。
【0009】
この出願の請求項2の発明に係る人工関節の摩耗試験装置のワーク軸側ホルダ1は、ワーク軸Aに固定される取付部11と、試験皿8を固定するテーブル15と、取付部11をワーク軸Aに固定したときにテーブル15をワーク軸Aの軸線方向(旋盤におけるZ軸方向)に沿って案内するガイド13と、テーブル15に作用する前記ワーク軸の軸線方向の力を検出するセンサ16とを備えており、工具軸側ホルダ3は、工具軸Bに装着するシャフト31と試料6を固定する受台32とを備えている。
【0010】
人工関節の摩耗試験は、試料6と試験皿8を人工関節液に浸積した状態で行われるので、この発明の摩耗試験装置は、一般的には、人工関節液を収容する液容器4が必要である。液容器4は、ワーク軸側ホルダ1に装着して設けるのが好ましく、工具軸に装着するシャフトの先端に受台32を備えた工具軸側ホルダにおいては、受台32のシャフト側の面33が部分球面とされ、液容器4の密閉蓋43が円形開口45及びこの円形開口と前記部分球面との隙間を液封する液封パッキン46を備え、試料の球体61と試験皿8とが密閉された液容器内で相対揺動可能な構造とされる。
【0011】
この出願の請求項4の発明に係る人工関節の摩耗試験は、請求項1記載の摩耗試験装置を回転角制御可能な回転ワーク軸及び回転工具軸を備えたNC工作機械に装着して行われる。すなわち、ワーク軸側ホルダ1を当該工作機械のワーク軸Aに装着し、工具軸側ホルダ3を工具軸Bに装着する。ワーク軸側ホルダ1には、人工関節の球側試料6を固定し、工具軸側ホルダBに試験皿8を固定する。そして、当該工作機械のNC装置に、ワーク軸Aを指定した第1の角度範囲で往復揺動する動作と工具軸Bを指定した第2の角度範囲で往復揺動する動作と工具軸Bを旋盤におけるX軸方向に往復移動させる動作とを同一周期で繰り返す加工プログラムを登録して、当該加工プログラムに従って工作機械を動作させることによって、人工関節の摩耗試験を行う。
【0012】
この出願の請求項5の発明に係る人工関節の摩耗試験は、請求項2記載の摩耗試験装置を回転角制御可能な回転ワーク軸と、旋盤におけるB軸に相当する軸まわりの揺動角を制御可能な、回転する又は回転しない工具軸Bとを備えたNC工作機械に装着して行われる。すなわち、ワーク軸側ホルダ1を当該工作機械のワーク軸Aに装着し、工具軸Bに工具軸側ホルダ3を装着する。ワーク軸側ホルダ1には、人工関節の試験皿8を固定し、工具軸側ホルダ3に球側試料6を固定する。そして、当該工作機械のNC装置に、ワーク軸Aを指定した第1の角度範囲で往復揺動する動作と、工具軸Bを指定した第2の角度範囲で旋盤におけるB軸に相当する軸回りに往復揺動する動作と、この往復揺動に同期して試験皿8と試料の球体61の中心が同一位置に保持されるように工具軸Bを旋盤におけるZ軸方向及びX軸方向に相当する両方向に移動させる動作と、当該工具軸Bを旋盤におけるZ軸方向に相当する方向に往復移動させる動作とを同一周期で繰り返す加工プログラムを登録して、当該加工プログラムにより工作機械を動作させることによって、人工関節の摩耗試験を行う。
【0013】
なお、工作機械としては、例えば旋盤やマシニングセンタを使用できる。回転ワーク軸は、旋盤では主軸、マシニングセンタではワークテーブルであり、ワーク軸の軸心は、これらの回転中心軸である。
【発明の効果】
【0014】
この発明の人工関節の摩耗試験方法は、既存のNC工作機械をそのまま、又は主軸モータや工具モータを加工プログラムで指定された角度範囲で揺動動作可能なモータに交換した既存の工作機械を用い、その回転ワーク軸及び回転工具軸にこの発明の摩耗試験装置を装着して、当該工作機械のNC装置の加工プログラムにより、試験する人工関節が装着される人体の部位に応じた揺動動作及び力を作用して、摩耗試験を行うものである。
【0015】
この発明の摩耗試験方法によれば、人工関節が装着される人体の部位に特有の繰り返し動作を模擬して摩耗試験を行うことができ、材料自体の摩耗特性は勿論、それぞれの関節の部位に固有の摩耗がどのように生ずるかを詳細に調べることができる。
【0016】
従って、広く普及している既存のNC工作機械をそのまま、又は既存のNC工作機械に若干の改造を加えて、当該NC工作機械にこの発明の摩耗試験装置を装着し、所望の加工プログラムを準備することにより、安価な費用で人工関節の詳細な耐摩耗性の試験を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の摩耗試験装置の第1実施例を示す斜視図
【図2】試料を装着したワーク軸側ホルダのZ軸直角方向の断面図
【図3】ワーク軸側ホルダの側面図
【図4】ワーク軸側ホルダの底面図
【図5】旋盤に装着した摩耗試験装置を主軸原点位相で示す模式図
【図6】この発明の摩耗試験装置の第2実施例を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、工作機械として旋盤を用いた例を示す図面に基づいて説明する。図1ないし図4は、この発明の人工関節の摩耗試験装置を示した図である。図において、1はワーク軸側ホルダ、3は工具軸側ホルダである。ワーク軸側ホルダ1は、旋盤の主軸Aに固定される取付部11を備えたホルダベース12と、このホルダベースにリニアガイド13を介して支持されたテーブル15と、ホルダベース12とテーブル15との間に介装されたロードセル16及び高さ調整ねじ17と、テーブル15に取り付けられた位置調整ねじ22、23とを備えている。摩耗試験に供する試料6は、液容器4を備えた試料ホルダ5を介してテーブル15上に固定される。工具軸側ホルダ3は、旋盤の回転工具軸Bに嵌挿するシャフト31を一体に備えた受台32を備えている。
【0019】
ワーク軸側ホルダのホルダベース12は、側面視でL形をしている。18は補強板である。ホルダベース12の壁板19の上端に、ホルダベース12を旋盤の主軸Aに取り付けるための取付部11が設けられている。取付部11には、主軸の軸心と取付部11の軸心とを一致させるための嵌合部(図示されていない。)及び固定ボルト用のボルト孔20が設けられている。ホルダベース12の床板21には、高さ調整ねじ17を介して、取付部11の中心線(旋盤の主軸に取り付けたときの主軸軸線と一致する線)と直交する方向の荷重を計測するロードセル16が装着されている。
【0020】
また、ホルダベースの床板21には、ロードセル16を中心として、ロードセル16の荷重計測方向と平行に、3個のリニアガイド13が装着されている。摩耗試験をする試料6を固定するためのテーブル15は、3個のリニアガイド13のスライドロッド14に固定されて、ロードセル16の荷重計測方向と平行に移動可能である。高さ調整ねじ17は、テーブル15と取付部11の中心線との間隔を調整する調整具である。
【0021】
摩耗試験用の試料6は、杆体62の先端に骨頭となる球体61を一体に成形したもので、試料ホルダ5を介してテーブル15に固定される。試料ホルダ5は、テーブル15上に定着される台座51と、その上面に取り付けられた試料チャック(コレット型のチャック)52とを備えている。試料6は、その杆体62をテーブル15の面と直交する方向にして、試料チャック52で保持される。台座51は正方形で、その四隅部分にボルト挿通孔を備えている。テーブル15の上面には、台座51の四辺を四方から(旋盤のX軸方向とZ軸方向両側から)押圧する位置調整ねじ22、23が設けられている。テーブル15上に載置された試料ホルダ5は、位置調整ねじ22及び23でX軸方向及びY軸方向に位置調整した後、固定ねじ54でテーブル15に固定される。55は、試料を取外す楔、56は試料取外し時に楔を押動するねじである。
【0022】
工具軸側ホルダ3は、延長軸7を介して旋盤の回転工具軸Bに装着される。延長軸7は、基端側に旋盤の回転工具軸Bの軸端に挿入されるシャンクを備え、先端側に工具軸側ホルダのシャフト31を固定するコレットチャックを備えている。工具軸側ホルダ3は、シャフト31側となる背面33を部分球面とし、反シャフト側をシャフト31の軸線(従って旋盤の回転工具軸の軸線)と直交する受面34とした受台32を備えている。摩耗試験に供する試験皿8は、その台座81をねじ35で受面34に固定して装着される。受台の背面33は、試験皿8と試料の球体61とが面接触する摩耗試験状態で、球体61の中心を中心とする部分球面となっている。
【0023】
図の試験皿8の皿(球体61と面接触する凹部)は、実施例で使用したNC旋盤のベッド面(Z−X平面)が水平面に対して60度傾斜していること、及び大腿骨の骨頭を受ける骨盤の凹部の形状を考慮して、台座81の取付平面に対して傾斜した面に形成されている。
【0024】
関節は、関節液内で運動する。従って、人工関節の摩耗試験は、関節液と同等な性質を持った液体(人口関節液)に浸漬した状態で行う必要がある。この液体を封入する液容器は、図3〜4に示されている。
【0025】
液容器4は、その容器本体41の底面を試料ホルダ5に固定して取り付けられており、試料ホルダ5の円柱部との間に介装したOリング42により液封されている。容器本体41の上面には、密閉蓋43が装着されており、この密閉蓋43は、傾斜した面44を備え、その上面に工具軸側ホルダの受台32を挿通するための当該受台より小径の円形開口45が設けられている。円形開口45の周縁部には、液封パッキン46が取り付けられている。容器本体41には、上方と下方とに、液容器4内に人工関節液を循環させるパイプを接続するためのニップル47、48が取り付けられている。
【0026】
工具軸側ホルダ3は、そのシャフト31を密閉蓋の円形開口45に挿通した後、旋盤の回転工具軸に装着された延長軸7の軸端に嵌着される。そのあと、回転工具軸が装着された刃物台のZ方向及びX方向移動により、試験皿8を試料の球体61に接触させた状態で、密閉蓋43が容器本体41に固定される。この状態で、密閉蓋の円形開口45と工具軸側ホルダの受台の背面33との隙間が液封パッキン46によって密封される。受台の背面33が球体61の中心を中心とする部分球面となることから、試料の球体61と試験皿8とは、球体61の中心を中心として液容器4内で相対揺動運動をすることができ、かつ液容器4の密閉状態も保持される。
【0027】
次に上記構造の摩擦試験装置を用いた人工関節の試験方法について説明する。試験に用いた旋盤は、主軸A及び回転工具軸BをNC(数値制御)により加工プログラムで設定された角度範囲で揺動させることが可能な旋盤である。主軸を指定角度範囲で揺動させることができる旋盤は一般的であるが、回転工具軸を指定角度範囲で揺動させることができる旋盤は一般的とは言えないので、場合によっては工具軸モータをそのような機能を備えたモータに交換する必要がある。
【0028】
試験に供する人工骨の試料6は、試料ホルダ5を介してワーク軸側ホルダ1に固定し、試験皿8は、工具軸側ホルダ3に固定する。ワーク軸側ホルダ1は、その取付部11を旋盤の主軸軸端に固定し、X軸方向の位置調整ねじ22と高さ調整ねじ17により、試料の球体61の中心を旋盤の主軸軸線と一致させる。工具軸側ホルダ3は、延長軸7を介して旋盤の回転工具軸に装着し、回転工具軸が取り付けられている刃物台のZ軸方向の位置を調整して、回転工具軸の中心を試料の球体61の中心に一致させる。
【0029】
次に刃物台をX軸方向に移動して試料6と試験皿8とを所定の位置関係に設定する。このとき、試料6の球体61と試験皿8とは、その間に関節液の液膜が形成される隙間を残した状態で面接触する。この状態で液容器の密閉蓋43を容器本体41に固定する。そして、ニップル47、48を通して図示しない関節液循環装置により液容器4内に人工関節液を循環する。
【0030】
この状態で旋盤の主軸と回転工具軸とをそれぞれ旋盤を制御するNC装置のプログラムで指定した角度範囲で同期揺動し、この揺動と同期させて刃物台のX軸送りモータに関節の皿と球面との間に作用する周期的な負荷変化に対応する微少送り指令を与えて摩耗試験を行う。
【0031】
人工股関節の場合の一例を述べると、主軸を試料の杆体62が鉛直方向となる原点位相の両側に25度と18度で振り分けた角度範囲で往復揺動させ、この往復揺動に同期して回転工具軸をZ軸に対して10度と2度に振り分けた角度範囲で往復揺動させ、かつこの往復揺動に同期して、ロードセル16で検出される荷重が歩行時に股関節に作用する荷重の変動パターンを模した変動パターンで変化するように回転工具軸を装着した刃物台のX軸位置を微少移動させる。この角度範囲及び荷重変化は、歩行時の股関節動作角度の範囲及び荷重変化を模したものである。なお、試料6と試験皿8は、共に人工骨として使用する材料で製作される。
【0032】
上記の第1実施例は、主軸側に骨頭となる球体を備えた試料6を取り付け、回転工具軸に試験皿8を取り付けたものであるが、逆にすることもできる。この場合は、図6に例示したように、取付部11で旋盤の主軸に取り付けたワーク軸側ホルダ1のテーブル15に試験皿8を固定し、工具軸に取り付けた工具軸側ホルダ3に試料6を固定する。工具軸側ホルダ3は、第1実施例の延長軸7と同様な構造、すなわち、基端に回転工具軸に嵌着されるシャンクを備え、先端に試料の杆体62を把持するコレットチャックを備えた構造である。ワーク軸側ホルダのテーブル15は、主軸軸線方向のリニアガイド13に案内され、かつロードセル16を介してホルダベース12に固定されている。第1実施例の高さ調整ねじ17に相当する部材は、設けられていない。
【0033】
この第2実施例の摩耗試験装置は、回転工具軸が旋盤のX軸、Y軸に加えてB軸まわりに揺動可能な旋盤に装着して使用する。試験は、回転工具軸を停止した状態で行うので、回転工具軸の軸回りの揺動は不要である。前述した人口股関節の例であれば、この第2実施例のものでは、回転工具軸をB軸回りに43度の角度範囲で往復揺動させ、この往復揺動に同期して回転工具軸を装着した刃物台のZ及びX軸移動により試料6の球体61と試験皿8の皿の中心相互が一致す位置関係を保持し、更に回転工具軸の上記往復揺動に同期して、主軸を12度の角度範囲で往復揺動させ、かつこの往復揺動に同期して、ロードセル16で検出される荷重が歩行時に股関節に作用する荷重の変動パターンを模した変動パターンで変化するように回転工具軸を装着した刃物台のX軸位置を微少移動させる。
【0034】
以上説明したように、この発明の試験方法によれば、人体の動作及びその動作中に作用する負荷の変化を最も頻繁に行われる日常動作に準じた状態で変化させて摩耗試験を行うことができ、実際に人体に装着したときの人工関節の摩耗を高い精度で試験することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 ワーク軸側ホルダ
3 工具軸側ホルダ
4 液容器
6 試料
8 試験皿
11 取付部
13 ガイド
15 テーブル
16 センサ
17 高さ調整具
22 位置調整具
31 シャフト
32 受台
43 密閉蓋
45 円形開口
46 液封パッキン
61 球体
A ワーク軸
B 工具軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の回転ワーク軸に装着されるワーク軸側ホルダ(1)と工作機械の回転工具軸に装着される工具軸側ホルダ(3)とを備え、
前記ワーク軸側ホルダは、前記ワーク軸に固定される取付部(11)と、試料(6)を固定するテーブル(15)と、前記取付部を前記ワーク軸に固定したときに前記テーブルを前記ワーク軸の軸線と直交する直線方向に沿って案内するガイド(13)と、前記テーブルに固定した試料の球体の中心を前記ワーク軸の軸線上に保持可能とするための、テーブルの前記直線方向の位置を調整する高さ調整具(17)及び前記直線方向と前記ワーク軸の軸線との両者に直交する方向の位置を調整する位置調整具(22)と、前記テーブルに作用する前記直線方向の力を検出するセンサ(16)とを備え、
工具軸側ホルダは、前記工具軸に装着するシャフト(31)と試験皿(8)を固定する受台(32)とを備えている、人工関節の摩耗試験装置。
【請求項2】
工作機械の回転ワーク軸に装着されるワーク軸側ホルダ(1)と工作機械の回転工具軸に装着される工具軸側ホルダ(3)とを備え、
前記ワーク軸側ホルダは、前記ワーク軸に固定される取付部(11)と、試験皿(8)を固定するテーブル(15)と、前記取付部を前記ワーク軸に固定したときに前記テーブルを前記ワーク軸の軸線方向に沿って案内するガイド(13)と、前記テーブルに作用する前記ワーク軸の軸線方向の力を検出するセンサ(16)とを備え、
工具軸側ホルダは、前記工具軸に装着するシャフト(31)と試料(6)を固定する受台(32)とを備えている、人工関節の摩耗試験装置。
【請求項3】
前記ワーク軸側ホルダ(1)に装着された液容器(4)を備え、前記工具軸側ホルダの受台(32)のシャフト側の面(33)が部分球面とされ、前記液容器の密閉蓋(43)が円形開口(45)及びこの円形開口と前記部分球面との隙間を液封する液封パッキン(46)を備え、前記試料の球体と試験皿とが密閉された液容器内で相対揺動可能である、請求項1又は2記載の摩耗試験装置。
【請求項4】
回転角制御可能な回転ワーク軸及び回転工具軸を備えたNC工作機械を用い、
当該工作機械の前記ワーク軸に請求項1記載の摩耗試験装置のワーク軸側ホルダを装着し、前記工具軸に当該装置の工具軸側ホルダを装着し、当該ワーク軸側ホルダに人工関節の球側試料を固定し、工具軸側ホルダに人工関節の試験皿を固定し、当該工作機械のNC装置に、前記ワーク軸を指定した第1の角度範囲で往復揺動する動作と前記工具軸を指定した第2の角度範囲で往復揺動する動作と前記工具軸をX軸方向に往復移動させる動作とを同一周期で繰り返す加工プログラムを登録して、当該加工プログラムを動作させることを特徴とする、人工関節の摩耗試験方法。
【請求項5】
回転角制御可能な回転ワーク軸と旋盤におけるB軸に相当する軸まわりの揺動角を制御可能な工具軸とを備えたNC工作機械を用い、
当該工作機械の前記ワーク軸に請求項2記載の摩耗試験装置のワーク軸側ホルダを装着し、前記工具軸に当該装置の工具軸側ホルダを装着し、当該ワーク軸側ホルダに人工関節の試験皿を固定し、工具軸側ホルダに人工関節の球側試料を固定し、当該工作機械のNC装置に、前記ワーク軸を指定した第1の角度範囲で往復揺動する動作と、前記工具軸を指定した第2の角度範囲で旋盤におけるB軸に相当する軸回りに往復揺動する動作と、この往復揺動に同期して前記試験皿と試料の球体の中心が同一位置に保持されるように前記工具軸を旋盤におけるZ軸方向及びX軸方向に相当する両方向に移動させる動作と、前記工具軸を旋盤におけるZ軸方向に相当する方向に往復移動させる動作とを同一周期で繰り返す加工プログラムを登録して、当該加工プログラムを動作させることを特徴とする、人工関節の摩耗試験方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−169852(P2011−169852A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36011(P2010−36011)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000212566)中村留精密工業株式会社 (120)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)