説明

人工頭髪繊維束及びそれからなる頭飾製品

アクリロニトリル、塩化ビニル単量体および塩化ビニリデン単量体及びこれらと共重合可能なビニル系単量体を含有してなるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維(A)と、アクリロニトリル、塩化ビニル単量体及びこれらと共重合可能なビニル系単量体を含有してなるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維(B)に対して、単繊維の繊度が30〜90デシテックスの塩化ビニル系合成繊維を混合してなる人工頭髪繊維束とし、スタイラビリティや官能特性に優れた特性を有し、かつら、ヘアピース等に最適な頭髪製品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、ヘアアクセサリー等の人工頭髪製品に用いる繊維束及びそれらからなる頭髪製品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に人工毛髪用繊維としてアクリル系繊維、塩化ビニル系繊維、あるいはポリエステル繊維など多数の繊維が市販されている。しかしながら、これらの繊維には、耐熱性、カーリング性、触感等の人工毛髪用繊維として必要な特性の全てを同時に備えるものがないため、頭飾製品を製造する時、単独の繊維では種々の特性を満足させる製品を作ることが出来ず、各繊維の特性に応じた製品が作られ使用されているのが実情である。
【0003】
たとえば、アクリル系繊維はボリューム、触感、光沢が人毛に似ており、かつ櫛通りが良いといった長所を持っているが、カールを付与すると毛束が捩じれたり、カールが経時的に緩んできたり、弾力感に乏しいというようにカーリング性に難点があり、ナチュラルウェーブ(軽くウェーブがかかっているか全くウェーブがないもの)に多く使用されている。これに対して塩化ビニル繊維はカール形状がきれいにまとまり、経時的に崩れ難く、またスパイラルカールを付与すると弾力感があるといった主にカーリング性関連特性が優れいるという長所があるものの、ボリュームに乏しく、触感、光沢が合繊ライクであるといった官能特性に劣るという欠点があり、ウェーブ又は先端だけカールのかかったストレートスタイルに多く使用されている。
【0004】
このため、例えば、従来のアクリル系繊維の特徴と塩化ビニル系繊維の特徴を併せ持たせるため、組成面から検討が行われ、(特開平2−53910号公報)では、共重合体中の組成をアクリロニトリル15〜30重量%、塩化ビニル85〜70重量%の組成で、かつ断面形状がH形〜亜鈴型であり、且つ単繊維の繊度を44〜78デシテックスにすることにより美容評価に優れた毛髪用繊維が提案されているが、上記の組成では、耐熱性の低い共重合体が生成しやすく問題が有り、また、断面形状がH形〜亜鈴型であるため円形充足度係数がすべて1.8以下となり、カールが強く剛直であるため触感の柔かさに欠ける問題があった。また、アクリル系繊維と塩化ビニル系繊維を混合させることによる改善が提案されている(特開2002−227020号公報)では、単繊維の繊度が30〜85デシテックスであるアクリル系繊維を20〜80重量部と、単繊維の繊度が30〜85デシテックスの塩化ビニル系繊維を20〜80重量部とを混合し、両繊維の特性が損なわれることなく、広範囲にスタイルをカバーできる人工毛髪用繊維が提案されている。しかし、上記の組成では、2種類の繊維を混合しただけの単純な構成であるため、その品質上に種々の欠点を有する。例えば、ボリューム、ストレート性といったスタイラビリティや光沢、櫛通りや触感の官能特性品質が低下し、中途半端な製品に甘んじなければならないというのが現状である。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、前記問題を解決し繊維表面に節状の凹凸を有し、かつ特定の範囲を有する曲げ剛性、捩れ剛性を有するアクリル系繊維を主体として使用することにより、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、ヘアアクセサリー等に用いられる人工毛髪用繊維束に関し、さらにスタイラビリティや官能特性に優れた頭髪製品を提供することにある。
【0006】
すなわち本発明は、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体および塩化ビニリデン単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維(A)と、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維(B)との合計20〜80重量部に対して、単繊維の繊度が30〜90デシテックスの塩化ビニル系合成繊維を20〜80重量部とを混合してなる人工頭髪繊維束に関する。
【0007】
アクリル系合成繊維(A)としては、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体と塩化ビニリデン単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなることがより好ましい。
【0008】
アクリル系合成繊維(A)が、繊維表面に凹凸を有し、凹凸差が5.0〜15.0μm、凹凸間隔が0.05〜0.5mmであり、かつ繊維の曲げ剛性値が7.0〜10.0×10-7N・m2/mであり、捩れ剛性値が5.0〜10.0×10-9N・m2であるアクリル系合成繊維が好ましい。
【0009】
アクリル系合成繊維(B)が、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなることが好ましい。
【0010】
一方、本発明の頭飾製品は上記した人工頭髪繊維束を用いてなる頭飾商品であり、頭飾製品としては、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、ヘアアクセサリー等であるのが好ましい。
【0011】
本発明の人工毛髪用繊維束は、繊維表面に凹凸を有し、凹凸差が5.0〜15.0μm、凹凸間隔が0.05〜0.5mmであり、かつ曲げ剛性値が7.0〜10.0×10-7N・m2/mであり、捩れ剛性値が5.0〜10.0×10-9N・m2であるアクリル系繊維を主体として使用することにより、スタイラビリティや官能特性に優れた特性を有し、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)やヘアーアクセサリー等に最適な頭髪製品を得ることができる。
【0012】
次いで、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体および塩化ビニリデン単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維(A)と、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維(B)との合計20〜80重量部に対して、単繊維の繊度が30〜90デシテックスの塩化ビニル系合成繊維を20〜80重量部とを混合してなる人工頭髪繊維束に関する。
【0014】
本発明でいうアクリル系合成繊維(A)としては、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体と塩化ビニリデン単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体、より好ましくはアクリロニトリル40〜60重量%、塩化ビニル単量体2〜10重量%、塩化ビニリデン単量体30〜60重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0.7〜8重量%でありかつ前記成分の重量%合計が100重量部からなる共重合体を用いてなるものである。前記共重合体におけるアクリロニトリル割合が30重量%未満の場合や塩化ビニル単量体と塩化ビニリデン単量体の割合が70重量%を超える場合には耐熱性が充分ではない。アクリロニトリル割合が65重量%を超える場合や塩化ビニル単量体と塩化ビニリデン単量体の割合が35重量%未満の場合には難燃性が充分ではなくなる傾向がある。ここで、共重合可能なビニル系単量体とは、染色性、加工性などの品質改善目的として使用され成分である。このようなビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、それらの塩類やエステル、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、それらの塩類、アクリルアミド、酢酸ビニルなどが挙げられるが、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せてもよい。
【0015】
本発明のアクリル系合成繊維(A)は、繊維表面に凹凸を有する。該凹凸は通常節状(繊維の長さ方向に部分的に現れる繊維径の太い部分と細い部分のこと)のものを言う。 凹凸差(隣接する太い部分と細い部分の最大幅の差の二分の一)が5.0〜15.0μmがよく、好ましくは6.0〜12.0μmであるのがよい。また、凹凸間隔(隣接する凸部頂点間の距離)が0.05〜0.5mmがよく、好ましくは0.06〜0.4mmである。前記凹凸差が5.0μm未満であると、目的のスタイラビリティが得られず、15.0μmを超えると繊維表面のガサツキが大きくなり、かつらの加工工程での糸切れ等のトラブルが発生しやすい。また、前記凹凸間隔が0.05mm未満であると、繊維表面のガサツキが大きくなることがあり、かつら加工工程での糸切れ等のトラブルが発生することがある。0.5mmを超えると、目的のスタイラビリティが得難くなる。
【0016】
更に、曲げ剛性値が7.0〜10.0×10-7N・m2/mがよく、好ましくは7.0〜9.0×10-7N・m2/mであり、さらに好ましくは7.5〜8.5×10-7N・m2/mであるのがよい。曲げ剛性が7.0×10-7N・m2/m未満では繊維の曲げ剛性が弱くなりスタイラビリティ性に欠けることがあり、10.0×10-7N・m2/mを超えると繊維の触感が硬くなる傾向がある。
【0017】
また、捩れ剛性値が5.0〜10.0×10-9N・m2がよく、好ましくは5.0〜9.6×10-9N・m2であり、さらに好ましくは5.0〜9.3×10-9N・m2であるのがよい。捩じれ剛性が5.0×10-9N・m2未満では繊維の捩れ剛性が弱くなりスタイラビリティ性に欠け、10.0×10-9N・m2を超えると繊維の触感が硬くなる傾向がある。
【0018】
本発明でいう繊維の曲げ剛性及び捩れ剛性は、後述するように曲げ剛性測定機(KES−FB2−S、カトーテック社製)を使用してアクリル系合成繊維を曲げたときの各曲率での反発力により曲げモーメントを測定するものである。また、捩れ剛性は捩れ剛性測定機(KES−YN1、カトーテック社製)を使用してアクリル系合成繊維を回転させたときの反発力により捩れモーメントを測定するものである。
【0019】
前記アクリル系合成繊維(B)としては、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体、より好ましくはアクリロニトリル40〜60重量%、塩化ビニル単量体40〜60重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0.7〜8重量%でありかつ前記成分の重量%合計が100重量部からなる共重合体を用いてなるものである。前記共重合体におけるアクリロニトリル割合が30重量%未満の場合や塩化ビニル単量体の割合が70重量%を超える場合には耐熱性が充分でない。アクリロニトリル割合が65重量%を超える場合や塩化ビニル単量体の割合が35重量%未満の場合には難燃性が充分ではなくなる傾向がある。ここで、共重合可能なビニル系単量体とは、染色性、加工性などの品質改善目的として使用され成分である。このようなビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、それらの塩類やエステル、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、それらの塩類、アクリルアミド、酢酸ビニルなどが挙げられるが、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せてもよい。
【0020】
前記アクリル系共重合体を得る方法としては、通常のビニル重合法、たとえば懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法などのいずれの方法により行ってもよく、特に制限はない。
【0021】
前記したアクリル系共重合体は、アセトンあるいはアクリル系共重合体の良溶媒であるジメチルアセトアミド(以下、DMACと記す)、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記す)、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記す)などの溶剤に溶解して紡糸原液とし、アセトン、DMAC、DMF、DMSOなどの水溶液からなる凝固浴に紡出し、その後、公知の方法で処理することにより目的とするアクリル系合成繊維を得ることができる。
【0022】
本発明のアクリル系合成繊維(A)、(B)の単繊維の繊度は20〜70デシテックスが好ましく、より好ましくは25〜60デシテックスである。繊度が20デシテックスより小さい場合は、触感が柔らか過ぎる欠点が出る上に、スタイルを構成するカールやウェーブの保持力が弱くなり実用的ではない。繊度が70デシテックスを超える場合は、触感が非常に硬くなり、人工頭髪としてのスタイラビリテイが損なわれる傾向がある。
【0023】
さらにアクリル系合成繊維(B)の繊度を25〜40デシテックスと40〜60デシテックスに適宜組合せて使用するのが好ましい。
アクリル系合成繊維(A)、(B)の断面形状としては六輝型、馬蹄型、H型、亜鈴型、円形等が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0024】
前記塩化ビニル系合成繊維としては、従来公知の塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂または従来公知の各種のコポリマー樹脂から溶融紡糸または乾式紡糸で得られる繊維であり、特に限定されるものではない。該コポリマー樹脂としては、従来公知のコポリマー樹脂を使用でき、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニルーエチレンコポリマー樹脂など塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂などが代表的に例示される。
【0025】
本発明の塩化ビニル系合成繊維の単繊維繊度は30〜90デシテックスが好ましく、より好ましくは50〜80デシテックスである。塩化ビニル系合成繊維の断面形状はとしては円形、星型、亜鈴型、眼鏡型等が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0026】
アクリル系合成繊維繊維(A)、(B)と塩化ビニル系合成繊維の混合割合は、各種スタイルの要求品質により適宜選択されるものであるが、アクリル系合成繊維(A)と(B)の合計が20〜80重量部であり、更に、(A)10〜50重量部、(B)10〜70重量部と塩化ビニル系合成繊維20〜80重量部が好ましい。より好ましくはアクリル系合成繊維(A)と(B)の合計が30〜75重量部であり、その範囲は(A)15〜40重量部、(B)15〜60重量部と塩化ビニル系合成繊維25〜70重量部である。
さらに(B)混合割合の中において、1種類以上の繊度の混合割合を適宜組合せて使用するのが好ましい。より好ましくはアクリル系合成繊維(B)の繊度25〜40デシテックスが20重量部未満である。
【0027】
塩化ビニル系合成繊維が20重量部未満ではカール形状が弱くなりスタイラビリテイが悪くなる傾向にあり、80重量部を超えるとボリュームが低下し、かつ官能特性が悪くなる傾向がある。
【0028】
アクリル系合成繊維繊維(A)、(B)と塩化ビニル系合成繊維の混合方法については、均一に混合できる方法であれば特に制限はなく、ハックリングなどの公知の方法により混合すればよい。
【0029】
一方、本発明の頭飾製品は上記した人工頭髪繊維束を用いてなる頭飾商品であり、頭飾製品としては、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、ヘアアクセサリー等であるのが好ましい。
【0030】
本発明の人工頭髪繊維束を用いてこれら頭髪製品を製造する方法は、公知の製法でよい。例えば、かつらを作製する場合は、繊維束をハックリングにて十分に混合し、かつら用ミシンで縫製してミノ毛を作り、これをパイプに巻いて熱セット処理にてカールを付与し、カールの付いたミノ毛をヘアキャップに縫付けスタイルを整えることにより製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例中の測定法、評価方法について詳述する。
【0033】
なお、実施例中の「部」及び「%」は特記しない限りそれぞれ重量部及び重量%を意味する。
【0034】
(表面凹凸測定)
凹凸差および凹凸間隔は繊維を倍率100倍の光学顕微鏡で繊維の側面を撮影し、繊維の太い部分と細い部分の繊維幅(最大幅)を計測し、次式により算出した。
【0035】
凹凸差
測定はN=30点行い、その平均値を求めた。
凸部と凹部の差(H)=(H1−H2)×1/2
(H1:太い部分の繊維幅、H2:細い部分の繊維幅)
凹凸間隔
隣接する凸部頂点間の距離を、N=30点計測しその平均値を求めた。
【0036】
(曲げ剛性測定法)
曲げ剛性は曲げ剛性測定機(KES−FB−S、カトーテック社製)を用い、長さ1cmのアクリル系繊維を1mm間隔に49本並べた試料を作成し、曲げ曲率±2.5cmの条件で測定し、3回測定の平均値を曲げ剛性値(単位:N・m2/m)として算出した。
【0037】
(捩れ剛性測定法)
捩れ剛性は捩れ剛性測定機(KES−YN1、カトーテック社製)を用い、長さ2cmの試料を捻り回転数±3回転、捻りスピード12°/秒の条件で捩れ剛性を測定し、10回測定の平均値の捩れ剛性値(単位:N・m2)として算出した。
【0038】
(スタイラビリティの評価法)
スタイラビリティの評価法は、繊維束をかつら用ミシンで縫製して試長25cmのミノ毛を作り、これを直径35mmのパイプに巻いて、対流型乾燥機で110℃×1時間の熱セットを行い、カール形状を付与した。 このカール付与したミノ毛をネットに1cm間隔で10段に縫製したものを、かつら等の美容評価に従事する一般的技術者5名により、縫製直後、1日後、7日後のカール保持性、カール順応性、ボリューム、ストレート性(面揃い)についてそれぞれ5段階評価を行った。すべての項目で4点以上あれば合格とした。
評価基準
5:非常に良い、4:良い 、3:普通 、2:悪い 、1:かなり悪い
(官能特性評価法)
官能特性の評価法は、繊維束をかつら用ミシンで縫製して試長25cmのミノ毛を作り、これを直径10〜40mmのパイプに巻いて、対流型乾燥機で110℃×1時間の熱セットを行い、カール形状を付与した。このカール付与したミノ毛をヘアキャップに縫付けて、ストレートスタイルとカールスタイルの2種類のヘアスタイルでショートカットとロングを作成し、かつら等の美容評価に従事する一般的技術者5名により、光沢、櫛通り、触感についてそれぞれ5段階評価を行った。すべての項目で4点以上あれば合格とした。
評価基準
5:非常に良い、4:良い 、3:普通 、2:悪い 、1:かなり悪い
(製造例1) [アクリル系合成繊維(A)の作成]
アクリロニトリル52%、塩化ビニル4%、塩化ビニリデン42.6%、スチレンスルホン酸ソーダ1.4%から成るアクリル系共重合体樹脂をアセトンに溶解し、26%の紡糸原液を作成した。紡糸原液の粘度は50ポイズであった。この原液を*型異形断面ノズルを用い、ノズルドラフトが0.8となる条件で、35%で20℃のアセトン水溶液中に紡出し、得られた繊維を水洗浴50℃で脱溶剤及び1.9倍延伸し、次いで乾燥温度125℃及び湿球温度75℃で乾燥処理後、135℃で2倍の乾熱延伸を行い、更に160℃の乾熱で弛緩熱処理を行った。こうして得られたアクリル系繊維の単糸繊度は51デシテックスであった。又、断面形状は略円形であり、かつ表面に節状の凹凸を有し、凹凸差は7.0μm、凹凸間隔は0.25mmであった。また、曲げ剛性値は7.5×10-7N・m2/m、捩れ剛性値は5.0×10-9N・m2であった。
【0039】
(製造例2) [アクリル系合成繊維(B)の作成]
アクリルニトリル50%、アクリルニトリル50%、塩化ビニル49%、スチレンスルホン酸ソーダ1%から成るアクリル系共重合体樹脂をアセトンに溶解し、29%の紡糸原液を作成した。この原液を亜鈴型異形断面ノズルを用い、ノズルドラフトが1.6となる条件で、20%で20℃のアセトン水溶液中に紡出し、得られた繊維を水洗浴50℃で脱溶剤及び1.5倍延伸し、次いで130℃で乾熱乾燥後、125℃で2.5倍の乾熱延伸を行い、更に150℃の乾熱で弛緩熱処理を行った。こうして得られたアクリル系繊維の単糸繊度は 47 デシテックスであった。又、断面形状は略H型であった。
【0040】
(製造例3) [アクリル系合成繊維(B)の作成]
アクリルニトリル50%、塩化ビニル49%、スチレンスルホン酸ソーダ1%から成るアクリル系共重合体樹脂をアセトンに溶解し、29%の紡糸原液を作成した。この原液を0.2mmφノズルを用い、ノズルドラフトが1.0となる条件で、20%で20℃のアセトン水溶液中に紡出し、得られた繊維を水洗浴50℃で脱溶剤及び1.5倍延伸し、次いで130℃で乾熱乾燥後、125℃で2.5倍の乾熱延伸を行い、更に150℃の乾熱で弛緩熱処理を行った。こうして得られたアクリル系繊維の単糸繊度は 27 デシテックスであった。又、断面形状は略馬蹄型であった。
【0041】
(製造例4) [塩化ビニル系合成繊維の作成]
塩化ビニル樹脂(重合度1000)100部、エポキシ化大豆油3部、錫系安定剤1.5部、鹸化度10以上の滑剤3部、鹸化度10以下の滑剤0.8部をリボンブレンダーを用いて110℃で40分攪拌混合した後、押出機を用いてシリンダー温度140℃、ダイス温度145℃でペレット化した。この樹脂ペレットを、L/D=20の30mmφ押出し機に相当孔径0.5mmφのメガネ型ノズルを取付け、シリンダー温度150〜180℃、ノズル温度180±15℃の範囲で押出し、ノズル直下に設けた加熱紡糸筒内(200〜300℃雰囲気)で約0.5〜1.5秒熱処理し、第一の引取りロールによって紡糸した。
次に、第二の延伸ロールとの間で110℃の熱風循環箱を通して2.5倍に延伸した。更に115℃に温度調整した箱の中に設置した2対の円錐型ロールを引回し、連続的に25%の弛緩熱処理を施し、得られた繊維の単糸繊度は62デシテックスであった。
【0042】
(実施例1〜4、比較例1〜4)製造例1で作成したアクリル系繊維 、製造例2で作成したアクリル系繊維 、製造例3で作成したアクリル系繊維と製造例4で作成した塩化ビニル繊維を表1に示す比率でハックリング時に混合して繊維束とした。
【0043】
【表1】

【0044】
次に、これら繊維束をかつら用ミシンで縫製して試長25cmのミノ毛を作り、これを直径35mmのパイプに巻いて、対流型乾燥機で110℃×1時間の熱セットを行い、カール形状を付与した。このカール付与したミノ毛をネットに1cm間隔で10段に縫製した。これのスタイラビリイ評価としてカール保持性、カール安定性、ボリューム、ストレート性(面揃い)を評価し、結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
また、これら繊維束をかつら用ミシンで縫製して試長25cmのミノ毛を作り、これを直径10〜40mmのパイプに巻いて、対流型乾燥機で110℃×1時間の熱セットを行い、カール形状を付与した。このカール付与したミノ毛をヘアキャップに縫付けて、ストレートスタイルとカールスタイルの2種類のヘアスタイルでショートカットとロングを作成した。これの官能特性評価として光沢、櫛通り、触感等を評価し、結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表2の結果から、アクリル系合成繊維(A)、(B)と塩化ビニル系合成繊維とを特定の割合で混合することにより、塩化ビニル系合成繊維の欠点であるボリューム不足が改善され、さらに、アクリル系合成繊維の欠点であるカール順応性やカール保持性が改善され、あらゆるスタイルに適応されることがわかる。
【0049】
表3の結果から、アクリル系合成繊維(A)、(B)と塩化ビニル系合成繊維とを特定の割合で混合することにより、広範囲なヘアスタイルの頭髪製品において、塩化ビニル系合成繊維の欠点である触感、合繊ライクな光沢が改善され、さらに、アクリル系合成繊維の欠点であるカールリング性の低下による櫛通りが改善され、優れた官能特性が付与された頭髪製品が得られることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体および塩化ビニリデン単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維(A)と、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維(B)との合計20〜80重量部に対して、単繊維の繊度が30〜90デシテックスの塩化ビニル系合成繊維を20〜80重量部とを混合してなる人工頭髪繊維束。
【請求項2】
アクリル系合成繊維(A)が、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体および塩化ビニリデン単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなる請求項1記載の人工頭髪繊維束。
【請求項3】
アクリル系合成繊維(A)が、繊維表面に凹凸を有し、凹凸差が5.0〜15.0μm、凹凸間隔が0.05〜0.5mmであり、かつ繊維の曲げ剛性値が7.0〜10.0×10-7N・m2/mであり、捩れ剛性値が5.0〜10.0×10-9N・m2であるアクリル系合成繊維からなる請求項1または2記載の人工頭髪繊維束。
【請求項4】
アクリル系合成繊維(A)の単繊維の繊度が20〜70デシテックスであり、かつ繊維束中に10〜50重量部を混合してなる請求項1、2または3記載の人工頭髪繊維束。
【請求項5】
アクリル系合成繊維 (B)が、アクリロニトリル30〜65重量%、塩化ビニル単量体を35〜70重量%及びこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体からなる請求項1記載の人工頭髪繊維束。
【請求項6】
アクリル系合成繊維(B)の単繊維の繊度が20〜70デシテックスであり、かつ繊維束中に10〜70重量部を混合してなる請求項1または5記載の人工頭髪繊維束。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載の人工頭髪繊維束を用いた頭飾製品。


【国際公開番号】WO2005/082184
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510408(P2006−510408)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002620
【国際出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】