説明

人工魚礁

【課題】飽和した機能性多孔質体を交換することのできる人工魚礁を提供する。
【解決手段】人工魚礁本体1に挿入孔23が形成されており、交換部材30は、挿入孔23に挿入可能な軸部31と、軸部31の一端に機能性多孔質体で形成された突起部32とで構成されている。機能性多孔質体が飽和した場合に、交換部材30のみを交換することができる。交換作業が容易であり、人工魚礁本体1に着生した餌料生物や藻が失われることもなく、集まってきた小魚等に影響を及ぼすことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工魚礁に関する。さらに詳しくは、海底に設置して、藻場を形成し、小魚等を集めて保護育成する人工魚礁に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートブロック等で形成された人工魚礁を海底に設置して、藻場を形成し、小魚等を集めて保護育成する技術が知られている(例えば特許文献1,2)。また、魚の餌となる餌料生物の着生や植物育成を促進するために、人工魚礁をポーラスコンクリート等の多孔質体で形成することも知られている。
【0003】
本願発明者は、ヒドロキシアパタイトや水酸化マグネシウム等の水質改善機能を有する機能性材料を含有する機能性多孔質体を発明している。ヒドロキシアパタイトは重金属を吸着するので、底泥に蓄積された重金属を吸着し、底質を改善することができる。また、水酸化マグネシウムはプラスに帯電するので、マイナスに帯電する植物プランクトンを吸着し、アオコを減少させ、水質を改善することができる。したがって、機能性多孔質体を用いて人工魚礁を形成すれば、小魚等を保護育成できるだけでなく、水質を改善することができる。
【0004】
しかるに、機能性多孔質体は重金属やアオコを吸着するといずれ飽和し、それらを吸着する効果を発揮できなくなる。この場合、機能性多孔質体を交換すればよいが、人工魚礁をすべて取り換えることは作業が大変であるばかりでなく、せっかく着生した餌料生物や藻が失われ、集まってきた小魚等にも影響を及ぼすこととなる。そのため、飽和した機能性多孔質体のみを交換することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−151512号公報
【特許文献2】特開2001−45906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、飽和した機能性多孔質体を交換することのできる人工魚礁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の人工魚礁は、人工魚礁本体に機能性多孔質体で形成された交換部材が着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
第2発明の人工魚礁は、第1発明において、前記人工魚礁本体に挿入孔が形成されており、前記交換部材は、前記挿入孔に挿入可能な軸部と、該軸部の一端に機能性多孔質体で形成された突起部とで構成されていることを特徴とする。
第3発明の人工魚礁は、第1または第2発明において、前記人工魚礁本体の全部または一部が多孔質体で形成されていることを特徴とする。
第4発明の人工魚礁は、第1,第2または第3発明において、前記人工魚礁本体は、平面視六角形の基礎部と、該基礎部の上に載せられた六角錐の屋根部とで構成されていることを特徴とする。
第5発明の人工魚礁は、第4発明において、前記基礎部の側面、および前記屋根部に海流が通る孔が形成されていることを特徴とする。
第6発明の交換部材は、第1,第2,第3,第4または第5発明の人工魚礁に形成された挿入孔に挿入可能な軸部と、該軸部の一端に機能性多孔質体で形成された突起部とで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、機能性多孔質体で形成された交換部材が着脱可能であるから、機能性多孔質体が飽和した場合に、交換部材のみを交換することができる。そのため、交換作業が容易であり、人工魚礁本体に着生した餌料生物や藻が失われることもなく、集まってきた小魚等に影響を及ぼすことがない。
第2発明によれば、交換部材の軸部を人工魚礁本体の挿入孔に挿入、抜去することで、交換部材を容易に交換することができる。
第3発明によれば、人工魚礁本体が多孔質体で形成されているから、魚の餌となる餌料生物の着生や植物育成を促進することができる。
第4発明によれば、基礎部が平面視六角形であるので、人工魚礁を連設して、設置場所に応じて広くすることができる。また、基礎部と屋根部の形状が平面視六角形で同一であるので海流をスムーズに流すことができる。
第5発明によれば、基礎部および屋根部に孔が形成されているので、海流が人工魚礁本体の中を下から上へと流れ、海水の入れ替えができる。このように、流動制御機能を有することにより餌料生物の着生が促進される。また、揚圧力に対する安定性を向上することができる。
第6発明によれば、交換部材の軸部を人工魚礁の挿入孔に挿入、抜去することで、交換部材を容易に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工魚礁の側面図である。
【図2】同人工魚礁の平面図である。
【図3】交換部材の側面図である。
【図4】図1におけるIV-IV線矢視断面図である。
【図5】図2におけるV-V線矢視断面図である。
【図6】人工魚礁を連設した場合の平面図である。
【図7】水理実験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1および図2において、10は基礎部、20は屋根部であり、基礎部10と屋根部20とで人工魚礁本体1が構成されている。
基礎部10は平面視六角形の筒状部材であり、鉄筋コンクリートで作られている。そのため、ひび割れ等破損しないような強度を有する。また、各側面の下縁には半円形の孔11が形成されており、海底とは角に当たる6つの脚12で接するようになっている。この6つの脚12が海底に食い込むため、人工魚礁本体1は、急勾配の海底に設置されても、海流にさらされても、滑動、転倒しないような安定性を有する。
【0011】
屋根部20は中空の六角錐をしており、基礎部10の上に載せられ一体化している。基礎部10との一体化は、鉄筋とモルタルを用いて行っている。なお、ボルト接合などで一体化してもよく、一体化せず、単に基礎部10の上に屋根部20を載せるだけでも良い。 屋根部20の底面と基礎部10の上面とは、ほぼ同寸法の六角形をしている。したがって、無駄に角張る所がなく、海流をスムーズに流すことができる。また、屋根部20は、ポーラスコンクリート等の多孔質体で形成されており、魚の餌となる餌料生物の着生や植物育成を促進することができる。
【0012】
屋根部20には、人工魚礁本体1の内外を通じ、海流が通る孔21が複数ヶ所形成されており、六角錐の頂点にも開口部22が形成されている。さらに、孔21、開口部22とは別に挿入孔23が複数ヶ所形成されている。本実施形態では、屋根部20の一面ごとに異なる数の孔21もしくは挿入孔23が形成されているが、全ての面に同数の孔21もしくは挿入孔23を形成してもよい。
【0013】
挿入孔23には、図3に示す交換部材30が着脱できるようになっている。交換部材30は、挿入孔23に挿入可能な軸部31と、軸部31の一端に形成された突起部32とで構成されており、全体としてキノコ状となっている。軸部31は挿入孔23へ挿入するために強度を持たせたコンクリートで形成され、挿入孔23へ挿入しやすいようにテーパーがつけられている。
【0014】
突起部32は、水質改善機能を有する機能性材料を含有する機能性多孔質体で形成されている。機能性多孔質体は、粗骨材である鉄鋼スラグがバインダーで結合され、鉄鋼スラグの間に多数の気孔が形成され、ポーラスコンクリートの様に形成されたものである。バインダーにはセメントと水の他に、ヒドロキシアパタイトや水酸化マグネシウム等の水質改善機能を有する機能性材料が含有されている。もちろん、ヒドロキシアパタイトや水酸化マグネシウム以外の水質改善機能を有する機能性材料を含有する機能性多孔質体で形成してもよい。また、バインダーに使用するセメントには魚類の焼成骨粉が混入されていてもよい。
【0015】
ヒドロキシアパタイトは重金属を吸着するので、底泥に蓄積された重金属を吸着し、底質を改善することができる。また、水酸化マグネシウムはプラスに帯電するので、マイナスに帯電する植物プランクトンを吸着し、アオコを減少させ、水質を改善することができる。そのため、突起部32は、魚の餌となる餌料生物の着生を促進することができるとともに、水質を改善することができる。
【0016】
また、鉄鋼スラグ、ヒドロキシアパタイト、水酸化マグネシウムはいずれも産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。また、バインダーに使用するセメントに魚類の焼成骨粉を混入した場合には、適正な処理と再利用が求められている魚類の骨を利用できるのであるから、廃棄物の再資源化を促進し、新たな有価物として活用することができる。
【0017】
さらに、交換部材30の軸部31を挿入孔23に挿入、抜去することで、交換部材30を容易に交換することができる。そのため、突起部32の機能性多孔質体が重金属やアオコを吸着して飽和した場合に、交換部材30のみを交換することができる。人工魚礁全体を交換する場合に比べて交換作業が容易であり、人工魚礁本体に着生した餌料生物や藻が失われることもなく、集まってきた小魚等に影響を及ぼすことがない。
【0018】
図4および図5に示すように、基礎部10の上面には、基礎部10の6面の側壁に連続する板状部材13が形成されている。板状部材13により、基礎部10の強度が増すとともに、人工魚礁本体1に集まってきた小魚等が住処とすることができる。したがって、人工魚礁本体1は、小魚等にとって餌場となるとともに、生育場としても機能する。
【0019】
また、板状部材13の中央には孔14が形成されている。基礎部10の孔11から人工魚礁本体1の内部に流入した海流は、孔14を通り、孔21、開口部22、および交換部材30が挿入されていない挿入孔23から外に流出することができる。すなわち、海流が人工魚礁本体1の中を下から上へと流れ、海水の入れ替えができる。このように、流動制御機能を有することにより餌料生物の着生が促進される。
【0020】
また、人工魚礁本体1は、その中を海流が下から上へと流れる構造であるから、従来の浅海用人工魚礁では対応が困難であった揚圧力に対する安定性を向上することができる。
【0021】
図6に示すように、基礎部10が平面視六角形であるので、人工魚礁本体1を隙間なく連設して、設置場所に応じて広くすることができる。このとき、基礎部10に形成された孔11は、隣接する人工魚礁の基礎部10の孔11と接続するので、連設した全ての人工魚礁の海水の入れ替えが可能となる。
【0022】
なお、基礎部10を平面視四角形としても連設することはできるが、角部が欠けやすいため好ましくない。本実施形態のように平面視六角形とすれば角部が120°と鈍角となるため欠けにくい。また、平面視円形とすれば欠けにくくなるが、型枠費が高くなるため経済的には好ましくない。
【0023】
(試験)
つぎに、本発明に係る人工魚礁の流動制御機能に関する水理実験について説明する。
試験は、可変式開水路内に本発明に係る人工魚礁の模型(1/15)を設置し、染料投入法によって水流可視化を行った。
流動制御機能の水理実験を行った結果、図7に示すように、模型高さの約13倍の後流域形成範囲が確認された。これより、既存の技術(角型ブロック)に比べて後流域形成範囲が5倍以上広がることが検証された。また、模型の流動制御機能によって顕著な渦の発生が認められ、人工魚礁を形成する多孔質体が、海藻胞子の付着基質として有効であることが推察された。
【符号の説明】
【0024】
1 人工魚礁本体
10 基礎部
11 孔
20 屋根部
21 孔
22 開口部
23 挿入孔
30 交換部材
31 軸部
32 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工魚礁本体に機能性多孔質体で形成された交換部材が着脱可能に取り付けられている
ことを特徴とする人工魚礁。
【請求項2】
前記人工魚礁本体に挿入孔が形成されており、
前記交換部材は、前記挿入孔に挿入可能な軸部と、該軸部の一端に機能性多孔質体で形成された突起部とで構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の人工魚礁。
【請求項3】
前記人工魚礁本体の全部または一部が多孔質体で形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の人工魚礁。
【請求項4】
前記人工魚礁本体は、平面視六角形の基礎部と、該基礎部の上に載せられた六角錐の屋根部とで構成されている
ことを特徴とする請求項1,2または3記載の人工魚礁。
【請求項5】
前記基礎部の側面、および前記屋根部に海流が通る孔が形成されている
ことを特徴とする請求項4記載の人工魚礁。
【請求項6】
請求項1,2,3,4または5記載の人工魚礁に形成された挿入孔に挿入可能な軸部と、該軸部の一端に機能性多孔質体で形成された突起部とで構成されている
ことを特徴とする交換部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−90532(P2012−90532A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238231(P2010−238231)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000230836)日本興業株式会社 (37)
【出願人】(599142165)株式会社クロシオ (2)
【Fターム(参考)】