説明

介護用上着

【課題】袖の部分の開閉を容易に行うことができる介護用上着を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る左右の袖を有する介護用上着1は、左右袖の前面に首周り端から袖先端まで通じる切れ目が入っており、この切れ目の開閉を行うために、下止36,46が袖先端側となるように前記切れ目に沿って設置された止製品のスライドファスナー30,40であって、全長が前記切れ目よりも長く、余剰部分が袖先端側に飛び出してフリーになっているスライドファスナー30,40を備えている。また、介護用上着1の前面には、首周り端から上着下端まで通じる切れ目が入っており、この切れ目には、開製品の前面スライドファスナー20が設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に着用する上着に関し、特に、被介護者が身につけるのに適した介護用上着に関する。
【背景技術】
【0002】
被介護者の体を洗ったり、介護者に点滴や注射を行ったりするためには被介護者の衣服を脱がせる必要があるが、通常の衣服を着ていると、脱がせるのに非常に手間がかかり、介護を行う人には重労働になってしまうと共に、被介護者にも不快感を与えてしまう。
【0003】
このため、従来から、前面を開きやすく構成した介護用の衣服が提供されており、下記特許文献1乃至4に開示されている。引用文献1及び4に開示された介護用衣服によれば、ズボンの前側を大きく開放したり、上着の前側を大きく開放したりすることで、被介護者の体に容易にアクセスすることができる。
【0004】
しかし、引用文献3に開示された介護用衣服は、上着の袖の部分は通常の上着と同じ構造であるため、被介護者の上着を脱がせたり、腕を完全に露わにしたりするためには、被介護者の両腕を上着の袖から抜く必要があり、被介護者が寝たきりのケース等では非常に手間がかかる。
【0005】
一方、引用文献2及び4には、腕の部分も含めて前側を全て開放可能な介護用衣類が開示されており、このような構造の介護用衣類であれば、袖の部分を開放することで、容易に上着を脱がせることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−117102号公報
【特許文献2】特開2005−226177号公報
【特許文献3】実用新案登録第3078680号公報
【特許文献4】実開平6−22317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、引用文献2及び4に開示された介護用衣類では、袖の部分も含めて完全に開いてから再度閉じる場合に、一つ一つ合わせるボタン同士を掴んで留める必要があり、脱がすのは楽でも着せるのに手間がかかってしまう。
【0008】
被介護者は、服を着せたり点滴をしたりする際に嫌がって動くことが多く、留めるボタン同士を合わせる作業は困難である。特に、風呂上がり等、被介護者が汗をかいている場合には、肌と衣類とがくっついて衣類がずれやすく、上着の袖の部分を開放した後に閉じようとしても、留める場所をつなぎ合わせるのは非常に困難となる。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、袖の部分の開閉を容易に行うことができる介護用上着を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る介護用上着は、左右の袖を有する介護用上着において、前記左右の袖の少なくとも一方の前面には、首周り端から袖先端まで通じる切れ目が入っており、前記切れ目の開閉を行うために、下止が袖先端側となるように前記切れ目に沿って設置された止製品のスライドファスナーであって、全長が前記切れ目よりも長く、余剰部分が袖先端側に飛び出してフリーになっているスライドファスナーを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る介護用上着によれば、袖の部分を容易に開閉することができ、介護を行う者の負担を軽減すると共に、被介護者の苦痛も和らげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る介護用肌着の左右袖スライドファスナーの余剰部分を広げた状態を示す正面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る介護用肌着の左右袖スライドファスナーの余剰部分を畳んで袖に留めた状態を示す正面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る介護用肌着の全てのスライドファスナーを全開し、肌着を広げた状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る介護用上着について説明する。本実施形態では、上着として直接肌に密着して着る半袖肌着を例に挙げて説明する。図1は、本実施形態に係る介護用肌着の左右袖スライドファスナーの余剰部分を広げた状態を示す正面図である。
【0014】
また、図2は、本実施形態に係る介護用肌着の左右袖スライドファスナーの余剰部分を畳んで袖に留めた状態を示す正面図である。図3は、本実施形態に係る介護用肌着の全てのスライドファスナーを全開し、肌着を広げた状態を示す正面図である。
【0015】
図1〜図3に示すように、介護用肌着1は、肌着本体10、開製品(オープンファスナー)の前面スライドファスナー20、止製品の左袖スライドファスナー30、止製品の右袖スライドファスナー40を備えている。
【0016】
肌着本体10は、通常の半袖丸首シャツの肌着と同様の形状をしているが、前面中央には首周り端から下端まで直線状に切れ目が入っており、この切れ目を境に肌着本体10の前面を左右に開いて内部を完全に開放することができる。
【0017】
また、肌着本体10の左袖前面の首周り端から左袖先端にかけても略水平な直線状切れ目が入っており、さらに、右袖前面の首周り端から右袖先端にかけても略水平な直線状切れ目が入っている。よって、肌着本体10の両袖は、これらの切れ目により、それぞれ上下に開いて袖内部を完全に開放することができる。
【0018】
また、肌着本体10の左右袖前面の切れ目の上下部分であって、真ん中より若干首周り側の部分には、計四つの面ファスナー12がそれぞれ設置されている。
【0019】
前面スライドファスナー20は、左右対になった一組のテープ(基材)22、両テープ22に多数並べて取り付けられた同じく左右対の一組のエレメント(務歯)21、この一組のエレメントを噛み合わせたり離したりするためにテープ22に沿って移動するスライダ24を備えている。
【0020】
また、前面スライドファスナー20は、各テープ22が切れ目の各縁に縫い付けられることで、肌着本体10の前面中央の切れ目の部分に沿って設置される。前面スライドファスナー20の上端に設けられた上止は左右のテープ22に別々に取り付けられており、左右のエレメント21が離れているときには左右のテープ22も分かれることができる。
【0021】
一方、開製品である前面スライドファスナー20の下端には、箱、箱棒及び蝶棒からなる開具が設けられており、スライダ24を下端に移動させて蝶棒が箱から抜けると、下端においても左右のテープ22が完全に分かれることができる。
【0022】
左袖スライドファスナー30は、左右対になった一組のテープ32、両テープに多数並べて取り付けられた同じく左右対の一組のエレメント31、スライダ34、下止36、面ファスナー37を備えている。
【0023】
また、止製品である左袖スライドファスナー30は、上止が首周り側、下止36が袖先端側に位置するように、肌着本体10の左袖前面の切れ目に沿って設置されている。ここで、左袖スライドファスナー30の全長は、肌着本体10の左袖前面の切れ目の長さよりも20cm程度長くなっており、左袖スライドファスナー30の下端側は、この余剰部分の長さだけ、肌着本体10の左袖先端よりも飛び出してフリーの状態になっている。
【0024】
左袖スライドファスナー30の上端(首周り端)に設けられた上止は、前面スライドファスナー20の上止と同様の構成であり、左右のエレメント31が離れるときには、左右のテープ32も分かれることができる。一方、左袖スライドファスナー30の下端(袖先端側)に設けられた下止36は、常に左右のテープ32を繋ぎ止めている。よって、スライダ34が下止36までスライドすると、下止36によってスライダ34が止まり、これ以上ファスナー30が開かなくなる。
【0025】
したがって、左袖スライドファスナー30のスライダ34を上止側に寄せてファスナー30を閉めた状態では、肌着本体10の左袖前面の切れ目は完全に閉じた状態となり、スライダ34を下止側に寄せてファスナー30を開いた状態では、切れ目が完全に開いた状態となる。但し、図3に示すように、左袖スライドファスナー30を開いた状態でも左右のテープ32の袖先端側は下止36によりつながった状態となっている。
【0026】
右袖スライドファスナー40は、左袖スライドファスナー30と同様の構成であり、一組のテープ42、一組のエレメント41、スライダ44、下止46、面ファスナー47を備えている。
【0027】
本実施形態では、左袖スライドファスナー30と右袖スライドファスナー40を閉じた状態で、左袖スライドファスナー30の面ファスナー37を肌着本体10の左袖部の面ファスナー12に、右袖スライドファスナー40の面ファスナー47を肌着本体10の右袖部の面ファスナー12に貼り付けることで、図2に示すように、スライドファスナー30,40の余剰部分を肌着本体10に対して固定して、邪魔にならないようにすることができる。
【0028】
以上、本実施形態に係る介護用肌着1の構成について詳細に説明したが、続いて、介護用肌着1を着た状態から袖の部分を開いて、再度閉じる際の作用について説明する。まず、被介護者が介護用肌着1を着た状態では、図2に示すように、全てのスライドファスナー20,30,40が閉じられ、面ファスナー12,37,47により左右袖スライドファスナー30,40が留められた状態となっている。
【0029】
この状態から、被介護者の左腕全体を露出させる際には、まず、左袖側の面ファスナー37と面ファスナー12とを外して、図1に示すように、左袖スライドファスナー30を広げた状態とする。
【0030】
続いて、ファスナー30が閉じているため上止の位置にあるスライダ34を下止36に向けてスライドさせる。スライダ34が左袖前面切れ目の左袖先端部14a,14bまで到達すると、左袖前面切れ目は開いた状態となるが、左袖から飛び出した余剰部分のファスナー30は閉じているため、上側左袖先端部14aと下側左袖先端部14bとは接近したまま離れることができない。
【0031】
スライダ34をさらにスライドさせ、スライダ34が下止36に到達すると、図3に示すように、左袖スライドファスナー30は完全に開いた状態となり、左袖スライドファスナー30の余剰部分の長さの二倍まで、上側左袖先端部14aと下側左袖先端部14bとが離れることができ、左袖前面の切れ目も完全に開いた状態となる。
【0032】
図3に肌着本体10の左右の袖を完全に開いた状態を示している。このように左袖を開放すれば、介護を行う者等が被介護者の左腕に容易にアクセスすることができる。もちろん、右袖についても、左袖と同様な手順で完全に開くことが可能である。
【0033】
次に、この開いた左袖を閉じる場合には、下止36の位置にあるスライダ34を掴んで上止に向けてスライドさせる。そうすると、下止36側からファスナー30が閉まるに従って、ファスナー30に引っ張られて上側左袖先端部14aと下側左袖先端部14bとが徐々に近づく。
【0034】
スライダ34が左袖先端部14に達すると、上側左袖先端部14aと下側左袖先端部14bとが接近し、左袖先端部14においてもファスナー30が閉じられる。このように、本実施形態によれば、開いた袖を閉じる際に、離れている袖先端部14a,14bを手探りで探して合わせる必要がなく、下止36側からスライダ34をスライドさせてファスナー30を閉じていくだけで、勝手に端部14a,14bが近づいていくため、開いた袖を容易に閉じることができる。
【0035】
スライダ34を左袖先端部14からさらに首周り部に向けてスライドさせ、スライダ34が上止に到達すると、左袖スライドファスナー30が完全に閉じ、左袖前面の切れ目も完全に閉じた状態となる。さらに、面ファスナー12,37を閉じれば、作業は終了する。
【0036】
また、例えば寝たきりの被介護者に介護用肌着1を着せる際には、前面スライドファスナー20、左右袖スライドファスナー30,40の全てを開き、前面中央の切れ目及び左右袖前面の切れ目を完全に開いた状態で肌着本体10を大きく広げる。この広げた肌着本体10の上に、被介護者に仰向けになってもらい、まず、被介護者の腕を開いた袖スライドファスナー30,40と袖先端縁との間の大きく開いた袖口50に通す。
【0037】
そして、スライドファスナー20,30,40を順次閉めていけば、介護用肌着1を着せることができる。このとき、開製品である前面スライドファスナー20を閉めるにあたっては、その下端の開具を合わせる必要があるため、手探りで左右の下端部を探して付き合わせる必要があり、多少手間がかかる。
【0038】
一方、袖スライドファスナー30,40を閉めるにあたっては、上述したようにそれぞれのスライダ34,44をスライドさせて閉じるだけで、上下の袖先端部が勝手に近づいて合わされるので、手間がかからない。なお、左右の袖スライドファスナー30,40の色を異ならせておけば、区別が付き易く、作業手間をより軽減させることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本実施形態によれば、袖を開くための袖前面の切れ目に止製品のスライドファスナー30,40を設置すると共に、スライドファスナー30,40の全長を袖前面の切れ目よりも長くしているので、袖の開閉や、上着を着せる際の作業負担を格段に軽減させることができる。
【0040】
特に、下着等の表裏の分かり難い上着の場合には、開いた袖端部を正確に合わせる作業は非常に困難であり、本実施形態により格段に作業負担を軽減させることができる。
【0041】
なお、スライドファスナー30,40の余剰部分の長さは、上着着脱の際の腕を抜いたり通したりする作業を考慮すれば、10cm以上あることが望ましい。図3に示すように、開いた袖口50は、閉じた状態よりも余剰部分長さの倍だけ広がり、袖口50が大きければ作業が楽になるからである。通常の袖口よりも20cm以上広がれば、腕を通したり抜いたりする作業が格段に容易になる。
【0042】
また、上記介護用肌着は、市販の肌着を改造することで容易に製造することができる。例えば、市販の肌着の前面中央に切れ目を入れて開製品のファスナーを取り付けると共に、両袖の前面に首周り部から袖先端までの切れ目を入れ、この切れ目よりも長い止製品のスライドファスナーを、上止が首周り部に位置するように切れ目部分に取り付ければ良い。
【0043】
この場合、止製品のスライドファスナーとしては、市販されているスライドファスナーを適宜所望の長さに切断して用いることができる。この場合、袖先端側の下止は、切断したスライドファスナーの端部の両テープを縫い付けて両側エレメントが離れないようにすることで作成することもできる。すなわち、止製品の下止は、噛み合った両側エレメントが離れないように固定できる物であれば良い。
【0044】
なお、本発明の実施の形態は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、介護用上着として半袖の肌着を例に挙げて説明したが、長袖上着であっても良いし、肌着以外の肌の上に直接着用しない上着であっても良いのは言うまでもない。
【0045】
また、上記実施形態では、両袖に切れ目を入れているが、片方の腕だけを開放する頻度が高い場合等には、一方の袖にのみ切れ目を入れて、切れ目よりも長いスライドファスナー(止製品)を設置するようにしても良い。両袖に切れ目を入れた場合でも、片方には開製品のスライドファスナーを設置するようにしても良い。このような場合でも止製品のスライドファスナーを設けた袖側においては、上述した作用効果を奏することができる。
【0046】
また、上記実施形態では、両袖の切れ目を袖の前面に形成したが、袖の上面や下面、背面に形成するようにしても良い。また、上記実施形態では、肌着前面を開くために、前面中央に縦に切れ目を入れてスライドファスナー(開製品)を設けているが、同じ切れ目を面ファスナー、ボタン、紐等で留めるようにしても良い。また、切れ目を入れる場所も適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 介護用肌着
10 肌着本体
20 前面スライドファスナー(開製品)
30,40 袖スライドファスナー(止製品)
21,31,41 エレメント
22,32,42 テープ
24,34,44 スライダ
36,46 下止

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の袖を有する介護用上着において、
前記左右の袖の少なくとも一方の前面には、首周り端から袖先端まで通じる切れ目が入っており、
前記切れ目の開閉を行うために、下止が袖先端側となるように前記切れ目に沿って設置された止製品のスライドファスナーであって、全長が前記切れ目よりも長く、余剰部分が袖先端側に飛び出してフリーになっているスライドファスナーを備えることを特徴とする介護用上着。
【請求項2】
前記スライドファスナーの余剰部分の長さが10cm以上であることを特徴とする請求項1記載の介護用肌着。
【請求項3】
前記介護用上着の前面には、首周り端から上着下端まで通じる切れ目がさらに入っており、前側も開閉可能になっていることを特徴とする請求項1又は2記載の介護用肌着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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