説明

介護着

【課題】介護する介護士等が扱い易く、しかも被介護者あるいは患者にとって着心地のよい介護着を提供する。
【解決手段】前身頃11と後身頃12とから構成し、前身頃11と後身頃12とが両側の袖の下側から胴の左右両側部を通って足の先まで分かれ、分かれた部分に沿って連続する第1のファスナ31、32が取付けられ、前身頃11の首の中央部から腹部にかけて切込まれ、切込まれた部分35に沿って第2のファスナ36が取付けられ、また前身頃11と後身頃12とが足の内側の左側の足の先から右側の足の先まで分かれ、分かれた部分に沿って第3のファスナ38が取付けられ、しかも第1のファスナ31、32および第2のファスナ36は、上方に引くと開き、下方に押すと閉じるようになされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は介護着に係り、とくに被介護者、患者のみならず、介護をする人にも便利で使い易い介護着に関する。
【背景技術】
【0002】
被介護者や患者等が着用する介護着として、通常のパジャマを用いた場合には、必ずしも被介護者や患者、あるいは介護をする介護士にとって便利なものではない。そこで介護着として、ファスナを襟元から胸まで取付けた介護着等が提案されている。
【0003】
しかし従来のこのようなファスナ付きの介護着は、介護士が被介護者の着替えを行なう際に、その着脱が難しく、またその他の従来の介護着の場合には、サイズが小さいことが多い。さらにオムツをすると股上の部分が窮屈になる問題がある。その他、色や柄が地味で、生地が厚手のものが多く、吸着性に乏しい問題がある。またファスナの部分が壊れ易いことや、袖の長さが短くて七部袖しかないものが多い。また介護着に各種のチューブやケーブルが通る穴がないために、袖口や首の部分を通してチューブやケーブルを引出さなければならず、点滴針、バルーンカテーテル、IVHカテーテル、HRモニタ等を使用する際に不便である。
【0004】
実用新案登録第3071621号公報には、上着の胴廻に対してズボンの胴廻を凡そ一割程度大きくなるようにして別々に作成したものを、胴廻り箇所でズボン側へ適宜ギャザーを形成しながら腹部の横方向へ凡そ30〜40cm程度の開放部を形成するようにしてつなぎ合せ、上記開放部は適当数の端止めスナップで開閉が行われるようなし、一方該腹部のズボン側は股上中央から左右方向へ10〜15cm程度離れた箇所から左右脚足方向へ前身頃生地を2分するファスナを取付け、他方上着は胸元から腹部中心に向かって前身頃生地を2分するオープンファスナを取付け、とくに寝たきりの人や胃瘻患者のような身体の動きが困難な人に対し、便利な介護着が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3071621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記実用新案登録第3071621号公報に開示されている介護着は、従来の介護着の問題点を総て解決するものではなく、必ずしも被介護者や患者、介護士にとって使い勝手に優れた介護着とは言えない。これはこの介護着が主に股間の部分の開放性に優れており、オムツの交換の操作性に優れているものの、介護着それ自体の全体としての着脱の困難性は解決されない。またここで用いられているファスナは、従来と同様のファスナであって、下方から上方に向かって引くと閉じるようになっている。このようなファスナは、逆に上方から下方へ引くと開かれることになり、ロック機構を設けていないファスナの場合には、被介護者や患者が自分でファスナを開いてしまうことになる。
【0007】
また従来の介護着は、各種のチューブやケーブル等を挿通する穴がないために、これらのチューブやケーブルを介護着の内側から引出す際には、袖口等から引出さなければならず、不便であった。また点滴の際には一方の袖をまくり上げて行わなければならず、被介護者や患者が点滴針を自己抜去する問題があった。
【0008】
本願発明は、上述のような従来の介護着の問題となる各種の欠点を解消するようにした介護着を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の主要な発明は、前身頃と後身頃とが両側の袖の下側から胴の左右両側部を経て足の先まで分かれ、該分かれた部分に沿って連続する第1のファスナが取付けられ、前身頃の首の中央部から腹部にかけて切込まれ、該切込まれた部分に沿って第2のファスナが取付けられ、前記前身頃と前記後身頃とが足の内側の左側の足の先から右側の足の先まで分かれ、該分かれた部分に沿って連続する第3のファスナが取付けられ、前記第1のファスナと前記第2のファスナはスライダを上方に引くと開き、下方に押すと閉じる介護着に関するものである。
【0010】
ここで、前記前身頃と前記後身頃とが左右両側の袖の上側で肩に沿って首の部分から袖の先端まで分かれ、該分かれた左右の部分にそれぞれ第4のファスナが取付けられた構成によると、前身頃と後身頃とが上端部においても完全に分離される。
【0011】
また、前記第1のファスナ、前記第2のファスナ、前記第3のファスナ、および前記第4のファスナのスライダにリング状の取手が取付けられている構成によると、リング状の取手によってスライダを移動させて開閉を行ない得るようになる。
【0012】
また、袖と足の長さが手首および足首まで延びており、手首と足首の部分にそれぞれボタンを取付けた構成によると、着用する被介護者や患者の冷えを防止し、ボタンの着脱によって手首および足首の部分を開閉できる。
【0013】
また、体の大きさに対する介護着の寸法を、大、中、小のサイズ分けをしたときの標準サイズよりもそれぞれ1サイズ大きくし、しかも股上にゆとりをもたせた構成によると、ゆったりとした介護着になる。
【0014】
また、前記第2のファスナが取付けられた切込みの側方にアクセスホールを設けるとともに、該アクセスホールの下側にポケットを設けた構成によると、アクセスホールによってチューブやケーブルを引出すことが可能になる。またアクセスホールの下側のポケットに各種の測定器を収納できる。
【0015】
また、内側にコットン製の裏地を縫付けた構成によると、被介護者や患者の汗等を吸収して、被介護者や患者を汗疹やかぶれから防止できる。
【0016】
また、裏地がメッシュである構成によると、とくに夏期あるいは暑い雰囲気での快適な使用が可能な介護着を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によると、被介護者や患者の身体の自由度を奪うことなく、しかも介護者が介護着を容易に着せたり脱がしたりすることができる。またファスナを従来のものとは逆の方向に操作しないと開閉できないようにしているために、ファスナに施錠を必要とすることがなく、ロック機構を備えないファスナとすることが可能になる。また両側が完全に開かれるようになっているために、床ずれ等の処理が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願発明の一実施の形態に係る介護着を開いたときの平面図である。
【図2】同介護着の使用状態を説明する平面図である。
【図3】首の中央から腹部にかけての切込みの部分を開いた状態の図1と同様の平面図である。
【図4】変形例の介護着の開いた状態の平面図である。
【図5】冬用(A)、春秋用(B)および夏用(C)の介護着の素材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本願発明を図示の実施の形態によって説明する。
【0020】
図1は本実施の形態に係る介護着の開いた状態の平面図を示しており、この介護着は、前身頃11と後身頃12とを備え、これらが上端の肩の部分において互いに連結した構造になっている。そして前身頃11と後身頃12とにはそれぞれ左右に延びる袖15、16が連設されている。また前身頃11と後身頃12の中間部が胴17になっている。そして下端側には左右側方に延びるように左側の足の部分19と右側の足の部分20とがそれぞれ連設されている。
【0021】
上記袖15、16の先端側の部分が帯状に縫込まれた袖口23になっており、この袖口23の両端はボタン24によって互いに連結されている。足の部分19、20の先端側の部分についても、ベルト状に縫込まれた足口27が取付けられている。足口27の両端にはボタン28が取付けられており、これによって足口27の両端を結合している。
【0022】
前身頃11と後身頃12との分割位置であって袖15、16の下側の部分から胴17の両側の部分を経由して足の部分19、20の側部に沿って第1のファスナ31、32がそれぞれ取付けられている。また前身頃11の首の中央部から下方に腹部に至る部分には切込み35が形成され、この切込み35には第2のファスナ36が取付けられている。また足19、20の内側の部分においては、左側の足の部分19の先端部から右側の足の部分20の先端部まで連続するように第3のファスナ38が取付けられている。これら第1のファスナ31、32、第2のファスナ36、および第3のファスナ38は、何れも開閉のためスライダ41を長さ方向に沿って摺動自在に取付けている。そしてスライダ41には、リング状の取手42が取付けられており、この部分をつまんで開閉を行なうようにしている。ここでとくに第1のファスナ31、32および第2のファスナ36について、リング状の取手42によってスライダ41を下端から上方に移動させることによって開かれるとともに(図3参照)、上端から下端に向かってスライダ41を下方に移動させると閉じるようにしている。すなわち通常の衣類に取付けられているファスナとは、開閉の際におけるスライダ41の移動方向が逆になっている。
【0023】
またこの介護着は、図1および図2に示すように、前身頃11の胸部に縦長のアクセスホール45が形成されている。そしてこのようなアクセスホール45の下側には前身頃11の外表面にポケット46が取付けられている。ここで左側のアクセスホール45は、例えば図2に示すように、点滴針50が先端に接続されたチューブ51を引出すのに用いられる。また右側のアクセスホール45は、例えば被介護者の胸の部分に装着される心拍センサ52から引出されたセンサケーブル53を挿通させるのに用いられる。なおセンサケーブル53の外側の端部に接続される心拍計54は、左側のポケット46に収納されるようになっている。
【0024】
図4は変形例の介護着を示している。この介護着は、前身頃11と後身頃12とが完全に分離された構造になっており、袖15、16の上端であって肩から手首に沿う部分についても前身頃11と後身頃12とが分割されている。そして前身頃11と後身頃12の上端側の部分にはそれぞれ第4のファスナ57、58が取付けられている。なおこれらのファスナ57、58のスライダ41にも、上記実施の形態と同様のリング状の取手42が取付けられている。また第4のファスナ57、58は、リング状の取手42によってスライダ41を袖口23から首の方に移動させることによって開かれるようになるとともに、首の部分から袖口23の部分に移動させると閉じられるようになっている。
【0025】
図5は上述のような介護着を構成する前身頃11と後身頃12の生地の組成を示している。冬物の介護着の場合には、図5(A)に示すように、表地61と裏地62との間にさらに中綿64を介装しており、これらを互いにキルティング等の方法によって縫合わせた構造になっている。なお裏地11の表面にはパイル63が形成される。
【0026】
春物あるいは秋物の場合には、図5(B)に示すように、表地61とパイル63を備える裏地62とが直接縫合されて用いられる。また夏物の場合には、図5(C)に示すように、表地61の裏側にメッシュ裏地65が取付けられ、メッシュ裏地65によって通風を確保し、これによって暑さを軽減するようにしている。
【0027】
本願発明の上述の各実施の形態による介護着は、前身頃11と後身頃12の両側の部分、胸の切込み35の部分、および両側の足の部分19、20の下側部分に沿ってそれぞれ第1のファスナ31、32、第2のファスナ36、および第3のファスナ38を設けるようにしている。また図4に示す変形例の構成においては、さらに前身頃11と後身頃12の上端側の部分であって肩から左右の袖15、16の上縁に沿って第4のファスナ57、58を取付けている。従って着脱が容易になり、被介護者や看護士にとって非常に便利で着心地のよい介護着になる。また前身頃11と後身頃12の両側にそれぞれ第1のファスナ31、32を取付けたことによって側方が開放されて着脱がし易くなるとともに、仏骨にできた床ずれ等の処置を容易に行なうことができるようになる。
【0028】
また上記第1のファスナ31、32、第2のファスナ36、および第4のファスナ57、58については、通常の着衣に取付けられているファスナとはその開閉の方向を逆にし、上端位置から下方に押下げることによって閉じるとともに、下端側から上方に引上げることによって開かれるようにしている。このような構成によると、被介護者が自らファスナを移動させて開くことができ難くなるために、それぞれのファスナ31、32、36、および57、58のスライダ41にロック機構を設けることを必要としなくなり、これによってロック機構のないファスナを利用することが可能になる。
【0029】
またこの介護着に用いられているファスナ31、32、36、38、および57、58は何れも頑丈なファスナを利用している。これらのファスナ31、32、36、38、57、58をともに丈夫なファスナとすることによって、頻繁にクリーニングを行なっても壊れ難くなり、長持ちする介護着になる。しかもスライダ41の部分にはリング状の取手42が設けられているために、開閉の操作が容易になる。またスライダ41のリング状の取手42によって、被介護者に対する刺激も減少するようになる。
【0030】
またこの介護着は、その寸法を従来の介護着よりも大きめにしており、これによって被介護者の体の移動や運動を妨げないようにしている。ゆとりの程度は、現在のSサイズをMサイズに、MサイズをLサイズに、LサイズをLLサイズに、3Lサイズを4Lサイズにする等、サイズ分けしたときの標準サイズよりも1ランク大きいサイズに設定し、これによって全体にゆとりをもたせることにより、被介護者が介護着を着たままで体を比較的自由に移動できるようにしている。従ってリハビリ等の運動を妨げることがない。
【0031】
さらにこの介護着は、第3のファスナ38が取付けられている足の部分19、20の下側の付根の部分における股上にゆとりをもたせるようにしており、窮屈防止介護着としている。股上にゆとりをもたせることによって、オムツをしても股間に窮屈感を感じないようになる。
【0032】
またこの介護着は、前身頃11と後身頃12の袖15、16の長さを手首までとしている。これによって冷え防止の介護着になっている。すなわち袖15、16を長袖にすることによって、被介護者を冷気から守るようになる。また袖15、16が手首まで延びる寸法になっていると、点滴針50等を自己抜去できなくなる利点を生ずる。
【0033】
さらにこの介護着は、手首および足首にそれぞれボタン24、28を取付けるようにし、これによって被介護者自ら介護着を脱いでしまうことを防止している。また介護着を脱いでしまった後に、被介護者あるいは患者が自ら点滴針50を取ってしまうことも防止でき(図2参照)、とくに点滴を行なう患者に好適な介護着となる。
【0034】
またこの介護着は、図2に示すように、その前身頃11の胸の部分に左右にそれぞれボタン穴形状のアクセスホール45と、その下側のポケット46とを設けるようにしている。これによって、チューブ51やセンサケーブル53等を袖口23や足口27から引出すことなく、アクセスホール45にまとめることが可能になる。またアクセスホール45と対で設けられているポケット46によって、その中に心拍センサ52等の受信機を挿入保持することが可能になる。
【0035】
またこの介護着は、図5に示すように、冬物(A)および春秋物(B)においては、その内側にコットンの素材のパイル63を有する裏地62を縫付けるようにしており、これによって肌に対する刺激を低減するとともに、汗等を吸収し、被介護者や患者が湿疹やかぶれ等になってしまうことを防止するようにしている。また夏用の介護着の場合には、図5(C)に示されるように、メッシュ裏地65を内側に装着し、これによって涼しさを感ずるようにして快適感を向上させるようにしている。
【0036】
以上本願発明を図示の実施の形態によって説明したが、本願発明は上記実施の形態によって限定されることなく、本願発明の技術的思想の範囲内において各種の変更が可能である。例えばこの介護着を構成する素材の構成については、必ずしも図5に示されるものに限定されることなく、要求される性能や状況に応じて各種の素材を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明は、介護施設や病院で介護を受ける被介護者や治療を受ける患者が着用する介護着として利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
11 前身頃
12 後身頃
15 袖(左)
16 袖(右)
17 胴
19 足の部分(左)
20 足の部分(右)
23 袖口
24 ボタン
27 足口
28 ボタン
31、32 第1のファスナ
35 切込み
36 第2のファスナ
38 第3のファスナ
41 スライダ
42 リング状の取手
45 アクセスホール
46 ポケット
50 点滴針
51 チューブ
52 心拍センサ
53 センサケーブル
54 心拍計
57 第4のファスナ(左)
58 第4のファスナ(右)
61 表地
62 裏地
63 パイル
64 中綿
65 メッシュ裏地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃と後身頃とが両側の袖の下側から胴の左右両側部を経て足の先まで分かれ、該分かれた部分に沿って連続する第1のファスナが取付けられ、
前身頃の首の中央部から腹部にかけて切込まれ、該切込まれた部分に沿って第2のファスナが取付けられ、
前記前身頃と前記後身頃とが足の内側の左側の足の先から右側の足の先まで分かれ、該分かれた部分に沿って連続する第3のファスナが取付けられ、
前記第1のファスナと前記第2のファスナはスライダを上方に引くと開き、下方に押すと閉じる介護着。
【請求項2】
前記前身頃と前記後身頃とが左右両側の袖の上側で肩に沿って首の部分から袖の先端まで分かれ、該分かれた左右の部分にそれぞれ第4のファスナが取付けられた請求項1に記載の介護着。
【請求項3】
前記第1のファスナ、前記第2のファスナ、前記第3のファスナ、および前記第4のファスナのスライダにリング状の取手が取付けられている請求項1または請求項2に記載の介護着。
【請求項4】
袖と足の長さが手首および足首まで延びており、手首と足首の部分にそれぞれボタンを取付けた請求項1または請求項2に記載の介護着。
【請求項5】
体の大きさに対する介護着の寸法を、大、中、小のサイズ分けをしたときの標準サイズよりもそれぞれ1サイズ大きくし、しかも股上にゆとりをもたせた請求項1〜4の何れかに記載の介護着。
【請求項6】
前記第2のファスナが取付けられた切込みの側方にアクセスホールを設けるとともに、該アクセスホールの下側にポケットを設けた請求項1〜5の何れかに記載の介護着。
【請求項7】
内側にコットン製の裏地を縫付けた請求項1〜6の何れかに記載の介護着。
【請求項8】
裏地がパイルまたはメッシュである請求項7に記載の介護着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−214932(P2012−214932A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81738(P2011−81738)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(511085013)
【Fターム(参考)】