説明

介護食調理用補助剤、これを用いた介護食、及び介護食調理用器具

【課題】軟らかさ、味、香り、見た目を向上させ、視覚から受けるおいしさの満足度を向上させ、所望の柔軟性に調整した介護食を、煩雑な操作を不要とし、分解酵素についての高度の知識を必要とせず、安全、且つ衛生的に、しかも多品種、少量でもコスト高にならずに簡単に調理することができ、家庭や小規模な病院、介護施設等における介護食の調理に好適な介護食調理用補助剤や、介護食調理用器具を提供する。
【解決手段】圧力処理により食品素材の内部に導入され、食品素材の形状を保持して軟化した介護食を調理するための介護食調理用補助剤であって、分解酵素、調味料及び易水溶化物を含み、粉末状、顆粒状、凍結乾燥状、錠剤、カプセル状、液状、又は氷状の形態を有し、易水溶性である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品素材の形状を保持したまま柔軟にした介護食を容易に調理することができる介護食調理用補助剤や、これを用いて調理した介護食、介護食調理用器具に関し、より詳しくは、取扱いが困難な分解酵素を含有していても容易に介護食を調理することができる介護食調理用補助剤や、これを用いて調理した介護食、介護食調理用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
嚥下や咀嚼が困難な高齢者向けの介護食として、食品素材の硬さに直接影響を与えている結合組織タンパク質や、植物繊維を食物用分解酵素の酵素反応を利用して分解し、食品素材を柔軟にしたものが知られている。低分子物質の調味料とは異なり高分子物質の酵素は、食品素材に表面に接触させるだけではその内部に浸透しにくく、塊状の食品素材を柔軟にするのは困難であり、表面のみが過剰に酵素分解し形状が崩壊する等の不都合を解消するため、本発明の発明者らは、食品素材を分解酵素と共に加圧又は減圧し食品素材の内部に均一に分解酵素を導入して酵素反応を行い、その形状を保持して柔軟にする方法(特許文献1)を開発した。更に、植物性食品素材と比較して細胞間隙が狭く、その内部へ酵素を均一に導入することが困難である動物性食品素材に対しても、形状保持と軟化の両立を図った柔軟な熟成食品の製造方法(特願2007−264554号)を開発している。また、食品素材への酵素導入のための圧力処理を厨房施設等で直接行うことができ、軟化した食品素材の製造工程・搬送・流通過程での型崩れを抑制するため、食品素材への酵素導入、酵素反応、加熱工程を同一の包装容器の中で実施できる調理食品の製造方法(特許文献2)も開発している。これらの方法における分解酵素の水溶液の調製、酵素反応制御、酵素失活等の工程は、食品製造工場等において、単一の品目の大量生産工程に適用する場合、効率的で低コストで行うことができる。
【0003】
しかしながら、分解酵素を用いて柔軟な食品を調理するには、分解酵素の使用量の正確な計量、水溶化、圧力処理による食品素材内部への導入や、酵素反応の温度、時間の制御を行う必要があり、分解酵素や微生物の知識、酵素反応の理論の理解が必要である。更に、飛散し易いアレルゲン物質である分解酵素を取り扱うには、専用の部屋とゴーグル、マスクの着用が必須である。また、分解酵素を水に溶解するにはダマ状になりやすく、注意深く攪拌しなければならない。このため、小規模な病院や介護施設の厨房等で、数人から数十人程度の介護食を調理する場合や、家庭で一人分の多品種の介護食を調理する場合、分解酵素の取り扱い、酵素反応の温度、時間の制御を、安全に、衛生的に処理するのは、非常に煩雑な操作である上、コスト高になってしまう。
【0004】
軟らかさ、味、香り、見た目を向上させ、視覚から受けるおいしさの満足度を向上させ、所望の柔軟性に調整した介護食を、煩雑な操作を不要とし、分解酵素についての高度の知識を必要とせず、安全、且つ衛生的に、しかも多品種、少量でもコスト高にならずに簡単に調理することができる介護食調理用補助剤や、これを食品素材内部に導入する圧力処理を容易に行うことができる簡易な介護食調理用器具が要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−284522
【特許文献2】特開2008−11794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、軟らかさ、味、香り、見た目を向上させ、視覚から受けるおいしさの満足度を向上させ、所望の柔軟性に調整した介護食を、煩雑な操作を不要とし、分解酵素についての高度の知識を必要とせず、安全、且つ衛生的に、しかも多品種、少量でもコスト高にならずに簡単に調理することができ、家庭や小規模な病院、介護施設等における介護食の調理に好適な介護食調理用補助剤を提供することにある。また、家庭や小規模な病院、介護施設等において、介護食調理用補助剤を食品素材内部に導入する圧力処理を含む介護食の調理を容易に行うことができる簡易な介護食調理用器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、家庭や、小規模の病院、介護施設等で、分解酵素、微生物等について特別な知識を有しない調理人によっても、分解酵素を食品素材に導入した介護食を容易に調理できる方法について検討した。その結果、分解酵素と、調味料と共に、塩、有機酸又はその塩、デキストリン、砂糖等の易水溶化物とを混合し、これを粉末状、顆粒状、錠剤、カプセル状、液状、又は氷状の形態を有する介護食調理用補助剤に形成することにより、分解酵素に直接接触しないことからゴーグルの着用や特別室を不要とし、取扱いが非常に簡単になり、分解酵素を飛散させることもなく水に容易に溶解させることができ、分解酵素に対する高度の知識を必要とせずに介護食の調理が可能となることを見出した。この介護食調理用補助剤を用いて、食品素材の圧力処理を行うことにより、食品素材内部へ均一に分解酵素を導入することができ、家庭や、小規模の病院、介護施設等で、少量、多品種の介護食を簡単に調理することができることの知見を得た。
【0008】
また、この介護食調理用補助剤を食品素材内部に導入する圧力処理を簡単に行うことができる介護食調理用器具を用いることにより、一連の調理を簡単に行い、軟らかさ、味、香り、見た目を向上させ、視覚から受けるおいしさの満足度を向上させた、少量、多品種の介護食を容易に調理することができることの知見を得た。かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、圧力処理により食品素材の内部に導入され、食品素材の形状を保持して軟化した介護食を調理するための介護食調理用補助剤であって、分解酵素、調味料及び易水溶化物を含み、粉末状、顆粒状、凍結乾燥状、錠剤、カプセル状、液状、又は氷状の形態を有し、易水溶性であることを特徴とする介護食調理用補助剤に関する。
【0010】
また、本発明は、上記介護食調理用補助剤を使用して食品素材を調理したことを特徴とする介護食に関する。
【0011】
また、本発明は、上記介護食を調理する介護食調理用器具であって、食品素材及び介護食調理用補助剤を収納する容器、該容器内を減圧又は加圧する圧力調整手段を備えたことを特徴とする介護食調理用器具に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の介護食調理用補助剤は、軟らかさ、味、香り、見た目を向上させ、視覚から受けるおいしさの満足度を向上させ、所望の柔軟性に調整した介護食を、煩雑な操作を不要とし、分解酵素についての高度の知識を必要とせず、安全、且つ衛生的に、しかも多品種、少量でもコスト高にならずに簡単に調理することができ、家庭や小規模な病院、介護施設等における介護食の調理に好適である。また、本発明の介護食調理用器具は、家庭や小規模な病院、介護施設等において、介護食調理用補助剤を食品素材内部に導入する圧力処理を含む介護食の調理を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の介護食調理用器具の一例を示す構成図である。
【図2】図1に示す介護食調理用器具の一部を示す側面図である。
【図3】本発明の介護食を調理する工程を示す図である。
【図4】本発明の介護食調理用器具の他の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の介護食調理用補助剤は、圧力処理により食品素材の内部に導入し、食品素材の形状を保持して軟化した介護食を調理するための介護食調理用補助剤であって、分解酵素、調味料及び易水溶化物を含み、粉末状、顆粒状、錠剤、カプセル状、液状、又は氷状の形態を有し、易水溶性であることを特徴とする。
【0015】
本発明の介護食調理用補助剤を適用する食品素材としては、植物性、動物性のいずれのものであってもよい。具体的には、植物性の食品素材としては、大根、人参、牛蒡、筍、生姜、キャベツ、白菜、セロリ、アスパラガス、葱、玉葱、ほうれん草、小松菜、茗荷、ブロッコリー、胡瓜、茄子、隠元等の野菜、ジャガイモ、薩摩芋、里芋等の芋類、大豆、小豆、蚕豆、エンドウ豆等の豆類、米、小麦等の穀類、みかん、林檎、桃、サクランボ、梨、パイナップル、バナナ、梅等の果実類、椎茸、シメジ、エノキ、ナメコ、松茸等のきのこ類、若布、昆布、海苔、ひじき等の海藻を挙げることができる。また、動物性の食品素材としては、牛肉、豚肉、鶏肉等の肉類、鯵、鮎、鰯、鰹、鮭、鯖、鮪、烏賊、蛸、鮑、浅蜊、牡蠣、帆立、蛤等の魚貝類を例示することができる。これらの食品素材は、生の状態でも、また、煮る、焼く、蒸す、揚げる等加熱・調理したものであってもよい。また、蒲鉾等の練製品、漬物、惣菜、麺類、各種菓子等の加工食品であってもよい。
【0016】
これらの食品素材は、凍結処理をしたものが好ましい。凍結により食品素材中の水分が氷結晶し膨張し食品素材の組織の緩みを生じさせ、緩みを生じた食品素材内部の気体と介護食調理用補助剤の置換を容易にし、食品素材の中心部への分解酵素等の導入を促進させることができる。凍結を行った食品素材は、分解酵素の導入時には、完全に解凍して用いることが好ましい。食品素材の凍結方法は、冷凍時に氷結晶生成温度帯を短期間に通過させ、解凍時のドリップ溶出を抑制するため、急速冷凍することが好ましく、冷凍機能を持つ機器により行うことができる。解凍方法は、室内、流水中、冷蔵庫中に置いたり、電子レンジによる加熱によることもできる。
【0017】
食品素材の形状は、いずれの形状であってもよいが、食品素材中の繊維の長軸方向とは異なる方向に切断し、切断面に繊維の断面が現れることが、介護食調理用補助剤が繊維間隙に導入されるのを促進できることから、好ましい。食品素材の大きさは適宜選択することができ、塊でもよいが、食品素材が何であるか一見して判別できるような一口大であることが好ましい。食品素材の切断は、凍結する場合は、凍結前後を問わず、半解凍時、解凍後等のいずれの時期に行ってもよい。
【0018】
本発明の介護食調理用補助剤に用いる分解酵素としては、野菜、穀類、芋類、豆類等の植物性食品素材に対しては、多糖類分解酵素活性を有するものが好ましく、肉類、魚介類等の動物性食品素材に対しては、タンパク質、脂肪の分解酵素活性を有するものが好ましい。具体的にはプロテアーゼ、ペプチダーゼ等タンパク質をアミノ酸及びペプタイドに分解する酵素、アミラーゼ、グルカナーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ、ヘミセルラーゼ、β−グルコシダーゼ、マンナーゼ、キシラナーゼ、アルギン酸リアーゼ、キトサナーゼ、イヌリナーゼ、キチナーゼ等でんぷん、セルロース、イヌリン、グルコマンナン、キシラン、アルギン酸、フコイダン等の多糖類をオリゴ糖に分解する酵素、リパーゼ等脂肪を分解する酵素等を挙げることができる。これらは1種又は相互に阻害しないものを2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらのうち、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼは汎用酵素であり、これらのいずれか1種又は2種以上の組合せが好ましい。また、介護食調理用補助剤を動物性食品素材用、植物性食品素材用等対象とする食品素材を特定する場合、特定した食品素材に応じて、分解酵素を選択すればよい。これら分解酵素の起源は問わず、植物由来、動物由来、微生物由来のものを使用することができる。
【0019】
分解酵素の含有量は、摂取者の状態や、食品素材の種類等分解する基質、酵素反応の温度や時間等、対象とする使用状況に応じて適宜選択することができる。介護食調理用補助剤中の分解酵素の含有量は、具体的には、1質量%〜30質量%とすることができる。
【0020】
本発明の介護食調理用補助剤に用いる調味料としては、食品を調理する際に使用するものであれば、いずれのものも使用することができ、その形態として、粉末状、顆粒状、液状等いずれであってもよいが、水に容易に溶解可能な易水溶性であるものが好ましい。具体的には、粉末醤油、アミノ酸調味料、野菜粉末、チキンエキス粉末、酵母エキス粉末、蛋白加水分解物等を挙げることができる。介護食調理用補助剤中の調味料の含有量としては、適宜選択することができ、例えば、10質量%〜70質量%を挙げることができる。
【0021】
介護食調理用補助剤中の分解酵素、調味料及び以下に述べる易水溶化物の含有量は、これらと必要に応じて用いられる添加物の合計の含有量を100質量%に調整される。
【0022】
本発明の介護食調理用補助剤に用いる易水溶化物としては、分解酵素の水への溶解を促進できるものであり、具体的には、食塩、有機酸又はその塩、デキストリン、砂糖等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、特に食塩が水に容易に溶解することから好ましい。食塩の含有量としては、1質量%〜20質量%を挙げることができる。
【0023】
上記有機酸としては、食用可能な有機酸であれば、いずれであってもよく、分解酵素の水への溶解を容易にすると共に、pH調整作用により酵素反応を促進させることができる。かかる有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、アルコルビン酸、アジピン酸、グルコン酸、乳酸、ピロリン酸、リン酸等を挙げることができる。その塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩等を挙げることができる。これらは天然物から採取されるものに限らず、合成品であってもよい。有機酸又はその塩の含有量としては、0.05質量%〜20質量%を挙げることができる。
【0024】
上記砂糖は、適宜使用することができ、その含有量としては、10質量%〜40質量%を挙げることができる。
【0025】
上記デキストリンはα−グルコースがグリコシド結合によって重合した食物繊維の一種であり、デンプンの加水分解により得られる。デキストリンの含有量としては、10質量%〜40質量%を挙げることができる。
【0026】
上記介護食調理用補助剤は、上記物質の機能を損なわない範囲において、その他、賦形剤、造影剤、ビタミン、ミネラル等を含有していてもよい。
【0027】
上記介護食調理用補助剤は、粉末状、顆粒状、凍結乾燥状、錠剤、カプセル状、液状、又は氷状の形態を有する。このような形態であれば、調理人がアレルゲンである分解酵素に直接接触せず、分解酵素が飛散することもないので、分解酵素の知識を有する者でなくても、安全に、衛生的に調理を行うことができる。これらのうち、特に、粉末状、顆粒状、凍結乾燥状、錠剤、カプセル状であることが、搬送、取扱いが容易であり好ましい。粉末状、顆粒状、凍結乾燥状、液状、氷状の形態の場合、適宜、個別包装して用いることもできる。
【0028】
このような介護食調理用補助剤は、易水溶性であり、水に容易に溶解され、ダマにならず分解酵素を含む水溶液を容易に調製することができ、取扱いが極めて容易であり、家庭や病院、介護施設等における分解酵素の利用を可能とする。介護食調理用補助剤は、例えば、水100gに対して、分解酵素が0.1〜2.0gとなるように溶解することが好ましい。
【0029】
このような介護食調理用補助剤は、介護食調理用補助剤と食品素材との接触に先立って食品素材のpHを調製し微生物の増殖を抑制するための下処理剤をセットとして用いることが好ましい。下処理剤は、有機酸やその塩を含むことが好ましく、下処理剤として、具体的には、易水溶化物に用いる有機酸又はその塩と同様のものを例示することができる。適用する食品素材の単位量に対応した量を個別包装したものが、取扱いが容易となり好ましい。下処理剤は食品素材をpH4以下に調整できるように、例えば、食品素材100gに0.5g〜10gを用いることが好ましい。
【0030】
下処理剤を用いた処理方法としては、食品素材を凍結する前に、下処理剤を水に溶解した下処理剤液を塗布、含浸する方法や、沸騰した下処理剤液で食品素材を茹でる所謂ブランチング等を挙げることができる。
【0031】
本発明の介護食は、上記介護食調理用補助剤を使用して食品素材を調理したことを特徴とする。
【0032】
上記介護食調理用補助剤を使用して介護食を調理する方法を以下に説明する。
【0033】
上記介護食は、上記介護食調理用補助剤を圧力処理により食品素材内部に導入した後、食品素材内部において分解酵素の酵素反応を行わせ、食品素材に含まれる酵素基質を分解して食品素材を形状を保持して低弾性化させ所望の柔らかさに軟化させた後、分解酵素の失活のための加熱を行うことにより、調理することができる。
【0034】
上記介護食調理用補助剤を食品素材内部へ導入するには、介護食調理用補助剤を食品素材に接触させる。介護食調理用補助剤を食品素材に接触する方法としては、介護食調理用補助剤を食品素材に直接振り掛ける方法でもよいが、易水溶性の介護食調理用補助剤を水に溶解して介護食調理用補助剤液を調製し、これを食品素材表面に振り掛けて付着若しくは噴霧、塗布、浸漬する方法が、食品素材表面に均一に塗布することができ好ましい。介護食調理用補助剤の使用量としては、水に溶解して使用する場合、例えば、水100gに対して、分解酵素が0.1〜2.0gとなるような割合で用いることが好ましい。
【0035】
また、食品素材に介護食調理用補助剤を接触させる際、介護食調理用補助剤と共に、更なる調味料、有機酸又はその塩等のpH調整剤、増粘多糖類等の増粘剤、粘性物質を生成する微生物、油脂、その他、栄養素等を接触させることもできる。これらのものは、食品素材に直接振りかけてもよいが、介護食調理用補助剤水に添加して用いることもできる。
【0036】
このような介護食調理用補助剤との接触前に、食品素材に対して上記下処理剤を用いて、pH4以下に処理しておくことが、酵素反応を効率よく進行させることができ好ましい。
【0037】
介護食調理用補助剤を接触させた食品素材の圧力処理は、介護食調理用補助剤を食品素材内部に均一に導入するための処理であり、介護食調理用補助剤を接触させた食品素材に対して行ってもよいが、食品素材を介護食調理用補助剤液に浸漬した状態で行うことができる。圧力処理は、減圧又は加圧により行うことができ、減圧又は加圧のみの処理でもよいが、減圧及び加圧を組み合わせ、必要に応じて複数回反復して行うこともできる。減圧としては5mmHg〜60mmHg程度であることが好ましく、より好ましくは10mmHg〜40mmHgである。加圧としては10気圧〜4000気圧とすることが好ましく、より好ましくは300気圧〜1000気圧程度である。圧力処理は、10秒〜30分間で行うことが好ましい。圧力処理は食品素材の組織の破壊を抑制して、その内部に均一に介護食調理用補助剤を導入することができるように、圧力、時間を調整して行うことが好ましい。圧力処理は常温で行うこともできるが、品質を損なわないように0℃〜50℃で行うことが好ましい。減圧処理を行う場合は、減圧チャンバーや真空包装機等を用いることができる。
【0038】
圧力処理後、食品素材内部に導入された分解酵素の酵素反応を行う。圧力処理後の食品素材内部に導入された分解酵素により食品素材に含まれる酵素基質を分解させ、食品素材の結合組織蛋白質や繊維質を分解させることにより、食品素材の形状を保持した状態で食品素材の破断応力や圧縮応力を低下させ、且つ背圧応力も低下させ、弾力性を低下させて軟らかさを向上させる。食品素材の熟成は、分解酵素の至適温度で行い、酵素反応を短時間で行わせることができるが、至適温度未満の低温での長時間の熟成により、過分解による食品素材の形状崩壊や苦味成分の生成を抑制して行うこともできる。酵素反応を行わせる温度としては、使用する酵素や食品素材によって異なるが、食品素材の品質を損なわず食品素材の熱変性が進行しない温度であることが好ましく、例えば、0℃以上55℃以下を挙げることができる。酵素反応時間は食品素材が所望の柔軟性となるように、含有する分解酵素の種類や量、食品素材の種類等によって調整することが好ましく、例えば、50℃で5分〜60分、3℃で10時間〜48時間等とすることができる。
【0039】
分解酵素による過度の反応を抑制するため、所望の柔軟性が得られる酵素反応時間の経過後、分解酵素の失活を行うことが好ましい。分解酵素の失活は、加熱によることが好ましく、例えば、60℃〜100℃で少なくとも5分〜10分加熱する方法等によることができ、かかる加熱は分解酵素の失活と食品素材の殺菌、加熱調理とを同時に兼ねることもできる。加圧加熱殺菌を併用する場合は、118℃以上で20分〜40分加熱することが好ましい。酵素反応直後に加熱調理を行わない場合には、−7℃以下の冷凍保存により分解酵素反応を休止させ、その後、加熱調理により分解酵素の失活を行うこともできる。
【0040】
また、酵素反応は上記圧力処理の直後に行わず、圧力処理後一定時間経過後に行うこともでき、その場合は、圧力処理を行った食品素材を、−7℃以下で冷凍保存し、酵素反応を行う時点で解凍し、温度調整をして所望の温度で行うこともできる。
【0041】
このようにして得られる介護食は、破断応力値として、1×103N/m2以上、1×105N/m2以下であることが、食品素材の形状を保持することが容易であることから好ましい。介護食の硬さの具体的な目安として、食品素材の硬さに対し、1/3の硬さを挙げることができる。ここで、食品素材又は介護食の硬さは、健康増進法で定める「そしゃく困難者用食品」に準じた測定方法により測定した測定値を採用することができる。
【0042】
本発明の介護食調理用器具は、食品素材及び介護食調理用補助剤を収納する容器、容器内を減圧又は加圧する圧力調整手段を備えたことを特徴とする。更に、このような介護食調理用器具は、容器内の温度を調整する温度調整手段を備え、凍結した食品素材を解凍する解凍処理、食品素材の内部に介護食調理用補助剤を導入する圧力処理、食品素材に対する分解酵素の酵素反応を進行させる酵素処理、分解酵素が失活する温度以上に加熱する失活加熱処理を順次行えるものであることが好ましい。
【0043】
本発明の介護食調理用器具の一例として、図1に示す介護食調理用器具を挙げることができる。図1に示す介護食調理用器具は、基板Bに着脱自在に設置され、食品素材及び介護食調理用補助剤を水に溶解した介護食調理用補助液を収納し、蓋2によって密閉され、減圧処理に対して耐圧構造を有する容器1と、圧力調整手段である真空ポンプ8とが設けられる。容器1の蓋は図2の側面図に示すように、周縁部にパッキン6を備え、空気弁5を有し、容器内の圧力を調整可能となっている。蓋2には、コネクタ4を介して着脱自在に接続されるチューブ7、チューブ7にコネクタ4aを介して接続されるパイプ9を介して真空ポンプ8が連結されて設けられ、真空ポンプにより容器1内の空気を吸引し容器内が所望の圧力に減圧されるようになっている。スイッチ3の操作により、真空ポンプ8の駆動、停止を切り替えるようになっている。ここで、容器1は耐圧構造を有すればよく、蓋2によって気密に密閉されなくても容器内に所望の減圧が形成されるものであればよく、固定した形状を有しないプラスチックの軟包材からなる袋状で蓋2を有しないものであってもよい。
【0044】
このような介護食調理用器具を用いて、介護食を調理する方法を以下に説明する。図3の調理の工程図に示すように、凍結した食品素材を介護食調理用補助剤液と共に容器1に収納し、容器1内を3〜55℃に温度調整し食品素材を解凍する。食品素材の解凍が終了した後、容器1内を0〜10℃に温度調整すると共に、真空ポンプを駆動して35mmHgに減圧し、食品素材の内部に介護食調理用補助剤を導入する。その後、真空ポンプを停止し、容器1内を大気圧に戻し、0〜55℃に保持することにより、酵素反応を行わせ酵素基質の分解を行う。その後、容器1内を65〜100℃に温度調整して酵素の失活、調味料による調味を行う。温度調整は、冷蔵庫、冷凍庫、流水、温水、電子レンジ、ヒーター等により行うことができる。
【0045】
また、本発明の介護食調理用器具の他の例として、図4に示すものを挙げることができる。図4(a)上面図、(b)断面図に示す介護食調理用器具は、主として、食品素材(図示せず)を収納する食品かご11b及び介護食調理用補助剤を水に溶解した介護食調理用補助液11cを収納し、蓋12によって密閉され、側壁に断熱材11aを有し、圧力処理に対して耐圧構造を有する容器11と、圧力調整手段である真空ポンプ18とが、逆支弁15を有するパイプ19によって連結されて設けられ、真空ポンプにより容器内が減圧されるようになっている。更に、容器11の底面には食品かご内の食品素材の温度調整を行う温度調整手段であるヒーター等の温度調整器20が備えられ、スイッチ13の操作により、真空ポンプ18や温度調整器20の駆動、停止を切り替えるようになっている。
【0046】
このような介護調理用器具には、真空ポンプ及びヒーターの駆動回路、駆動回路を制御するCPUを設け、図3の工程図に示す、凍結した食品素材の解凍、解凍した食品素材の減圧処理、食品素材内での酵素反応による酵素処理、酵素の失活加熱処理を順次行うプログラムを入力することにより、プログラムに従って真空ポンプ及び温度調整器を作動させ、介護食を調理できるようにしてもよい。尚、図4に示す介護食調理用器具を用いる場合でも、食品素材の温度調整には、冷蔵庫、冷凍庫を用いることもできる。
【実施例】
【0047】
次に本発明について実施例より詳細に説明するが,本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ヘミセルラーゼ0.6g、調味料として、粉末醤油、チキンエキス粉末、野菜粉末、酵母エキス粉末、蛋白加水分解物及びアミノ酸を2.4g、易水溶化物として、砂糖、デキストリン及び食塩を7g混合し、粉末状の介護食調理用補助剤10gを調製した。クエン酸1.5g含有する下処理剤10gを調製した。
【0048】
一口大に切断したタケノコ、ゴボウ、レンコン、ダイコンを下処理剤10gを溶解した沸騰水500ml中で3分間茹でた。水で冷却後、−20℃で凍結した。介護食調理用補助剤10gを水60mlに溶解し、凍結したタケノコ、ゴボウ、レンコン、ダイコンを入れ、真空包装機(東静電気製V-452G-I型)で包装し、50℃の湯中で1時間加温した。その後、90℃で5分間加熱し酵素失活を行い、介護食を得た。得られた食材について硬さ(破断強度)を測定した。
【0049】
破断強度は、テンシプレッサー(MODEL TTP-50 BXIIタケトモ電機製)で測定した。いずれの食材も処理の前の食材の硬さの1/3以下であった。
【0050】
[実施例2]
ペクチナーゼ1g、調味料として、粉末醤油、蛋白加水分解物及びアミノ酸を2g、易水溶化物として、デキストリンとクエン酸をそれぞれ1gずつ混合し、顆粒状の介護食調理用補助剤5gを調製した。
【0051】
一口大に切断したブロッコリー100gを沸騰水500ml中で5分間茹でた。水で冷却後、−15℃で凍結した。介護食調理用補助剤5gを水60mlに溶解し、凍結したブロッコリーを軟包材に入れ密封し、常温で解凍した。図1に示す介護食調理用器具の容器に包装したブロッコリーを収納し、外部真空ポンプで60mmHg程度まで吸引し、容器毎3℃の冷蔵庫に24時間入れた。その後、容器から軟包材を取り出し、90℃で10分間加熱し酵素失活を行い、介護食を得た。得られた食材について実施例1と同様に破断強度を測定した結果、5×104N/cm2以下であった。
【0052】
[実施例3]
プロテアーゼ1.0g、調味料として、粉末醤油、チキンエキス粉末、野菜粉末、酵母エキス粉末、蛋白加水分解物及びアミノ酸を3g、易水溶化物として、砂糖、デキストリンをそれぞれ3gずつ混合し、カプセル状の介護食調理用補助剤10gを調製した。
【0053】
−30℃の冷凍庫で凍結した鶏肉100gと、介護食製造補助剤10gを水100gに溶解した液とを、図4に示す介護食調理用器具にセットし、解凍10分、減圧5分、50℃加熱40分、酵素失活加熱90℃、5分を連続的に行い、介護食を得た。鶏肉は形状崩壊、変色はほとんど認められず、処理前の形状、見た目を維持したままであった。
【0054】
この鶏肉について、テンシプレッサー((有)タケトモ電機製)を用いて、単回突き刺し試験法により物性を測定した。具体的には厚生労働省が定める高齢者用食品の測定方法に準じて行い、直径3mmプランジャー、圧縮率70%、貫入速度10mm/secで測定した。その結果、介護食として十分な軟らかさを有していた。
【0055】
[実施例4]
分解酵素ヘミセルラーゼを0.3g、調味料として粉末醤油、チキンエキス粉末、野菜粉末、酵母エキス粉末、蛋白加水分解物及びアミノ酸を1.2g、易水溶化物として、砂糖、デキストリン及び食塩を3.5g混合し、粉末状の介護食調理用補助剤5gを調製し、クエン酸を5.8g含有する下処理剤30gを調製した。
【0056】
煮しめ用にカットしたタケノコ290g、ゴボウ200g、ニンジン400g、サトイモ300g、レンコン100g合計1,290gを、下処理剤30gを溶解した沸騰水3800ml中で10分間茹でた後、水で冷却し−20℃で凍結した。凍結後、上記5種類の野菜がバランスよく混在するように注意して80gに小分けし、介護食調理用補助剤5gを水30mlに溶解した液とともに真空専用袋に入れ一旦シール密封した後、加熱調理機(東静電気(株)製TT-350)にて50℃で10分間湯煎解凍した。その後、再度袋を開封し、真空包装機(東静電気(株)製V-380G型)で包装し、水で冷却した後、5℃の冷蔵庫で保存した。24時間経過後、調理再加熱を兼ねて90℃で10分間加熱し酵素失活を行い、介護食を得た。
【0057】
皿に盛り付けて、味、硬さの実食評価を行なった。味については、通常調理と同程度の評価が得られた。また食材それぞれの原型を保持しつつ歯茎で簡単につぶせる柔らかさであった。
【0058】
[実施例5]
凍結後の野菜の小分け量を80gを160gに替え、介護食調理用補助剤5gを溶解する水の量30mlを60mlに替え、真空包装機により包装後の冷蔵庫での保存を24時間から48時間に変更した他は、実施例4と同様にして介護食を得て、実食評価を行った。得られた介護食はやや薄味ではあるが硬さは実施例4とほぼ同等であった。
【0059】
[実施例6]
凍結後の野菜の小分け量を80gを器に盛りつけ、介護食調理用補助剤5gを溶解する水30mlを60mlに替え、これを器に加え器毎、真空包装機により包装後の冷蔵庫での保存を24時間から48時間に変更した他は、実施例4と同様にして介護食を得て、実食評価を行った。得られた介護食はやや薄味ではあるが硬さは実施例4とほぼ同等であった。
【0060】
[実施例7]
介護食調理用補助剤を溶解した水を冷凍して用いた他は、実施例4と同様にして介護食を得て、実食評価を行った。得られた介護職は実施例4とほぼ同等であった。
【0061】
[実施例8]
プロテアーゼ0.6g、調味料として、粉末醤油、チキンエキス粉末、野菜粉末、酵母エキス粉末、蛋白加水分解物及びアミノ酸を1.5g、易水溶化物として、デキストリン、食塩を2.9gを混合し、粉末状の介護食調理用補助剤5gを調製した。
【0062】
一口大に切断した鶏肉を−30℃で凍結した。介護食製造補助剤5gを水30mlに溶解し、凍結した鶏肉を入れ、真空包装機(東静電気製V-452G-I型)で包装し、30℃で600気圧の圧力容器内で30分加圧した。その後、90℃、5分間加熱し酵素失活を行い、介護食を得た。
【0063】
この鶏肉について、破断強度をテンシプレッサー((有)タケトモ電機製)を用いて測定した。下処理の後の食材の硬さの1/3以下であった。
【符号の説明】
【0064】
1、11 容器
8、18 真空ポンプ(圧力調整手段)
20 温度調整器(温度調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力処理により食品素材の内部に導入され、食品素材の形状を保持して軟化した介護食を調理するための介護食調理用補助剤であって、分解酵素、調味料及び易水溶化物を含み、粉末状、顆粒状、凍結乾燥状、錠剤、カプセル状、液状、又は氷状の形態を有し、易水溶性であることを特徴とする介護食調理用補助剤。
【請求項2】
易水溶化物が、食塩、有機酸又はその塩、デキストリン及び砂糖から選ばれるいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の介護食調理用補助剤。
【請求項3】
有機酸が酢酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、乳酸、ピロリン酸及びリン酸から選ばれるいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2記載の介護食調理用補助剤。
【請求項4】
食品素材のpHを調整する有機酸を含有する下処理剤を別途用いることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の介護食調理用補助剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の介護食調理用補助剤を使用して食品素材を調理したことを特徴とする介護食。
【請求項6】
食品素材の内部に導入した分解酵素による酵素反応を行った後、加熱により分解酵素を失活させたことを特徴とする請求項5記載の介護食。
【請求項7】
請求項5又は6記載の介護食を調理する介護食調理用器具であって、食品素材及び介護食調理用補助剤を収納する容器、該容器内を減圧又は加圧する圧力調整手段を備えたことを特徴とする介護食調理用器具。
【請求項8】
容器内の温度を調整する温度調整手段を備え、凍結した食品素材を解凍する解凍処理、食品素材の内部に介護食調理用補助剤を導入する圧力処理、食品素材に対する分解酵素の酵素反応を進行させる酵素処理、分解酵素が失活する温度以上に加熱する失活加熱処理を順次行うことを特徴とする請求項7記載の介護食調理用器具。
【請求項9】
介護食の硬さを食品素材の硬さの1/3以下の硬さとするように、解凍処理、圧力処理、酵素処理、失活過熱処理における温度、時間、圧力を設定可能であることを特徴とする請求項7又は8記載の介護食調理用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−239935(P2010−239935A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95078(P2009−95078)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(501000949)有限会社クリスターコーポレーション (2)
【出願人】(509102672)有限会社アサヒフィルタサービス (1)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】