説明

仕上げ剤、および仕上げ剤から形成されたオーバーコートを備える部材

【課題】クロムフリーに対応しうる仕上げ剤を提供する。
【解決手段】陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質、アルミニウムイオンと配位化合物を形成しうるカルボン酸系キレート剤、ならびにP,Mo,W,Ce,Mn,Si,Ti,Zr,およびVからなる群から選ばれた第一の元素を有する化学物質である皮膜形成物質を含み、母材上に設けられた、化成皮膜、シロキサン結合を有する材料を堆積材料に含む層、金属の酸化物を堆積材料に含む層、および金属の窒化物を堆積材料に含む層からなる群から選ばれる酸化防止層上に無機系オーバーコートを形成するためのものである仕上げ剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕上げ剤、および仕上げ剤から形成されたオーバーコートを備える部材に関する。本発明は、詳しくは、酸化防止層、具体例を挙げれば6価クロムフリー化成皮膜上に形成されるオーバーコートのための、クロムイオンを使用しない仕上げ剤、そのオーバーコートが形成された部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RoHS(Restriction of the Use of CertainHazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment、電気・電子機器有害物質使用規制)指令や、ELV(End of Life Vehicles 使用済み自動車)指令など環境に配慮した指令により、有害物質(鉛、水銀、カドミウム、6価クロムなど)の使用を規制することが求められてきている。
【0003】
一方、亜鉛めっき部材などの金属表面を有する部材の金属表面は酸化されやすいため、その表面には酸化防止層が形成される場合が多い。この酸化防止層の一つに化成皮膜が挙げられ、化成皮膜の中でもクロメート皮膜が優れた酸化防止機能を有する。
【0004】
しかしながら、従来の6価クロムイオンを含む化成処理液により得られるクロメート皮膜は、皮膜中に可溶性の6価クロムが含まれるため、上記の指令による規制の対象となる。このため、6価クロムイオンを含むクロム酸塩を用いる化成処理液ではなく、3価クロムイオンを含む化成処理液によって化成皮膜を形成するようになってきている。
【0005】
このように3価クロムイオンを含む化成処理液によるクロメート皮膜は一般化しつつあるが、このような化成処理液によって得られた化成皮膜の上に、さらなる耐食性の付与、光沢の付与、色調の均一化、衝突などに起因する傷つき防止などを目的として、有機系および/または無機系のコーティング層を形成する場合がある。本発明において、化成皮膜に代表される酸化防止層上に形成される仕上げ用のコーティング層をオーバーコートといい、このオーバーコートを形成するための液状組成物を仕上げ剤という。また、酸化防止層とオーバーコートとからなる積層体を表面処理層という。
【0006】
たとえば、特許文献1には、3価クロム源、燐酸イオン源、亜鉛イオン源、および3価クロムと錯体を形成することができるキレート剤を含有する3価クロメート皮膜用仕上げ剤組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、リンの酸素酸イオンとクロム(III)イオンとを含有する6価クロムを含まない化成皮膜の仕上げ剤が開示されている。その好適態様では、リンの酸素酸イオンが正リン酸、縮合リン酸、亜リン酸、次亜リン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される一種または二種以上から供給されるものであって、さらに、金属イオン、金属酸化物イオン、カルボン酸およびその塩、ならびにケイ素化合物よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含有する。
【0008】
さらに、特許文献3には、ポリオレフィンを含有する化成皮膜の仕上げ剤が開示されている。その好適態様によれば、このポリオレフィンは酸性側で凝集する性質を有する微粒状(平均粒径:0.001〜20μm)のポリエチレンおよび/またはポリプロピレンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−23372号公報
【特許文献2】特開2005−320573号公報
【特許文献3】特開2005−320405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最近では、環境保護の観点から6価クロムイオンを使用しないだけではなく、3価クロムイオンをも使用しないクロムフリーの表面処理が求められるようになってきている。このため、可能な限り3価クロムイオンの使用量を低減させることが重要な課題となってきている。
【0011】
その一方で、欧州における車体の20年保証防錆の動きにみられるように、耐食性の要求は年々厳しくなっている。他の部材との衝突によって表面処理層が傷つくと、その部分の耐食性が相対的に低下し、このような厳しい耐食性の要求に対応できなくなる可能性が高まる。このため、表面処理層の最外層をなすオーバーコートにはさらに高い耐傷付き性(皮膜強度)が求められてきている。
【0012】
しかしながら、これまで開示されたオーバーコートは上記のような要求に対応できているとはいえない。特許文献1および2に開示されるオーバーコートは、3価クロムイオンを含んでおり、クロムフリーには全く対応できていない。また、特許文献3に開示されるオーバーコートは有機物のみからなるため、その実施例に示されるような軽く揺動する程度の衝撃にしか耐えることができない。また、オーバーコートは無色透明であるため、酸化防止層が上記のように化成皮膜からなる場合には、化成皮膜の色調がそのまま維持されることとなり、色調の均一性にも問題がある。
【0013】
そこで、本発明では、クロムフリーに対応しつつ、化成皮膜などの酸化防止層上に形成されるオーバーコートとして求められる基本特性を高次で達成しうる仕上げ剤、およびその仕上げ剤により形成されたオーバーコートを備える部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題に対して本発明者が検討した結果、アルミニウムを含有し特定の形態で液状組成物中に存在する化学物質、亜鉛を含有し特定の形態で液状組成物中に存在する化学物質、特定の元素を含む化学物質およびアルミニウムイオンと錯体を形成しうるキレート剤を含み、クロムイオンを含有しない液状組成物からなる仕上げ剤が、優れた特性を有するオーバーコートを形成しうるとの新たな知見を得た。この知見に基づき、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は一態様として、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質、アルミニウムイオンと配位化合物を形成しうるキレート剤、ならびにP,Mo,W,Ce,Mn,Si,Ti,Zr,およびVからなる群から選ばれた第一の元素を有する化学物質である皮膜形成物質を含み、母材上に設けられた、化成皮膜、シロキサン結合を有する材料を堆積材料に含む層、金属の酸化物を堆積材料に含む層、および金属の窒化物を堆積材料に含む層からなる群から選ばれる酸化防止層上に無機系オーバーコートを形成するためのものであることを特徴とする、仕上げ剤を提供する。
【0016】
「アルミニウム含有物質」とは、アルミニウムを含有する化学物質であって、本発明に係る仕上げ剤中で陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態で存在するものをいう。「亜鉛含有物質」とは、亜鉛を含有する化学物質であって、本発明に係る仕上げ剤中で陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態で存在するものをいう。「アルミニウム含有物質」はアルミニウムイオンとして、「亜鉛含有物質」は亜鉛イオンとして存在しうることから、上記の本発明に係る仕上げ剤は中性または酸性の液状組成物である。
【0017】
「皮膜形成物質」とは、上記の第一の元素を有する化学物質を意味する。皮膜形成物質は、上記のアルミニウム含有物質や亜鉛含有物質と同様に皮膜を形成することに直接的または間接的に関与していると推測される。本発明において定義される「皮膜形成物質」の具体例として、オルトリン酸、オルトリン酸イオン、オルトリン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸、モリブデン酸イオン、モリブデン酸のアルカリ金属塩、およびチタンイオンが挙げられる。以下、この「皮膜形成物質」を、後述する特定の皮膜形成物質と区別するために、「第一の皮膜形成物質」とも称する。
【0018】
なお、第一の皮膜形成物質がアルミニウムまたは亜鉛を含有する場合もある(例えばリン酸アルミニウム)。このような場合には、第一の皮膜形成物質はアルミニウム含有物質または亜鉛含有物質でもあることになる。このため、本発明に係る仕上げ剤は、具体的な一例として、そのような第一の皮膜形成物質および上記のキレート剤のみからなる仕上げ剤を含む。
【0019】
上記の皮膜形成物質(第一の皮膜形成物質)の濃度は0.1〜200g/Lであることが好ましい。
上記の皮膜形成物質(第一の皮膜形成物質)が、Ce,Mn,Ti,およびZrからなる群から選ばれた第二の元素を含み、本発明に係る仕上げ剤中で陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一つの形態であることが好ましい。
【0020】
以下、第一の皮膜形成物質のうち、上記の第二の元素を含有し本発明に係る仕上げ剤中に上記の形態で存在する物質を、他の皮膜形成物質と区別するために「第二の皮膜形成物質」とも称する。この第二の皮膜形成物質の具体例として、セリウムイオン、マンガンイオン、チタン(IV)イオン、およびジルコニウムイオンが挙げられる。
【0021】
上記の皮膜形成物質(第一の皮膜形成物質)が、Mo,W,SiおよびVからなる群から選ばれた第三の元素を含み、前記第三の元素の酸素酸ならびにその陰イオンおよび塩の少なくとも一種の形態であることが好ましい。
【0022】
以下、第一の皮膜形成物質のうち、上記の第三の元素を含有し本発明に係る仕上げ剤中に上記の形態で存在する物質を、他の皮膜形成物質と区別するために「第三の皮膜形成物質」とも称する。この「第三の皮膜形成物質」の具体例として、モリブデン酸、タングステン酸、ケイ酸、およびバナジン酸、およびメタバナジン酸、ならびにこれらのイオンおよびアルカリ金属塩が挙げられる。
【0023】
上記の皮膜形成物質が、リンを含有し、リンの酸素酸ならびにその陰イオンおよび塩の少なくとも一種の形態であることが好ましい。
以下、第一の皮膜形成物質のうち、リンを含有し本発明に係る仕上げ剤中に上記の形態で存在する物質を、他の皮膜形成物質と区別するために「第四の皮膜形成物質」とも称する。「第四の皮膜形成物質」の具体例として、オルトリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ホスホン酸、およびホスフィン酸、ならびにこれらのイオンおよびアルカリ金属塩が挙げられる。
【0024】
第四の皮膜形成物質を含有する仕上げ剤は、アルミニウム含有物質のアルミニウム換算濃度が0.3〜30g/L、亜鉛含有物質の亜鉛換算濃度が0.5〜65g/L、かつ第四の皮膜形成物質の濃度がリン濃度換算で0.1〜60g/Lであることが好ましい。
【0025】
また、第四の皮膜形成物質を含有する仕上げ剤は、Mo、W、Ce、Co、Ni、Mg、Ca、Mn、Li、Si、Zr、TiおよびVからなる群から選ばれた元素を含有する化学物質をさらに有することが好ましい。
【0026】
本発明に係る仕上げ剤が含有する上記のカルボン酸系キレート剤が、ジカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸ならびにこれらの塩類および誘導体からなる群から選ばれる一種または二種以上であること、および/またはクエン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、酒石酸、グリコール酸およびリンゴ酸からなる群から選ばれる一種または二種以上であることが好ましく、カルボン酸系キレート剤がクエン酸を含むことも好ましい。
本発明に係る仕上げ剤は、有機バインダーをさらに有することが好ましい。
上記の酸化防止層がクロムフリー化成皮膜であることが好ましい。
【0027】
上記の酸化防止層が3価クロムイオンを含む化合物を含む6価クロムフリー化成皮膜であることが好ましい。
上記のオーバーコートが形成される酸化防止層がアルミニウム、ケイ素、およびチタンを含むクロムフリー化成皮膜であることが好ましい。
【0028】
本発明は、別の一態様として、上記の本発明に係る仕上げ剤を調製するための液状組成物を提供する。
この液状組成物の具体的な一態様は、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質をアルミニウム濃度換算で2〜200g/Lと、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質を亜鉛濃度換算で5〜500g/Lとを含有し、さらに、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なキレート剤を0.1〜40mol/L、ならびにCe,Mn,Ti,およびZrからなる群から選ばれた元素(すなわち第二の元素)を含む化学物質である皮膜形成物質(すなわち第二の皮膜形成物質)をこの選ばれた元素(すなわち第二の元素)の濃度換算で0.1〜10mol/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する液状組成物である。
【0029】
この液状組成物の別の具体的な一態様は、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質をアルミニウム濃度換算で2〜200g/Lと、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質を亜鉛濃度換算で5〜500g/Lとを含有し、さらに、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なキレート剤を0.1〜40mol/L、ならびにMo,W,SiおよびVからなる群から選ばれた元素(すなわち第三の元素)を含む化学物質である皮膜形成物質(すなわち第三の皮膜形成物質)をこの選ばれた元素(すなわち第三の元素)の濃度換算で0.1〜10mol/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する液状組成物である。
【0030】
この液状組成物のまた別の具体的な一態様は、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質をアルミニウム濃度換算で2〜200g/Lと、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質を亜鉛濃度換算で5〜500g/Lとを含有し、さらに、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なキレート剤を0.1〜40mol/L、ならびにリンを含有する化学物質である皮膜形成物質(すなわち第四の皮膜形成物質)をリン濃度換算で5〜450g/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する液状組成物である。
【0031】
本発明は、また別の一態様として、母材と、この母材上に設けられた、化成皮膜、シロキサン結合を有する材料を堆積材料に含む層、金属の酸化物を堆積材料に含む層、および金属の窒化物を堆積材料に含む層からなる群から選ばれる酸化防止層と、この酸化防止層上に設けられ上記の本発明に係る仕上げ剤から形成された無機系オーバーコートと備えることを特徴とする部材を提供する。
【0032】
酸化防止層が6価クロムフリー化成皮膜からなることが好ましい。
酸化防止層がクロムフリー化成皮膜からなることが好ましい。
本発明は、さらに別の一態様として、母材と、3価クロムイオンを含む6価クロムフリー化成皮膜からなり当該母材上に設けられた酸化防止層と、当該酸化防止層上に設けられ上記の第四の皮膜形成物質を含む本発明に係る仕上げ剤から形成された無機系オーバーコートと備えることを特徴とする部材を提供する。
【0033】
本発明は、さらにまた別の一態様として、6価クロムフリー化成皮膜からなる酸化防止層がその表面に設けられた母材を用意する工程と、上記の本発明に係る仕上げ剤を酸化防止層に接触させて酸化防止層上に無機系オーバーコートを形成する工程とを備えることを特徴とする部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る仕上げ剤からなるオーバーコートを形成することにより、化成皮膜に代表される酸化防止層のみを有する場合のみならず、従来のクロムを含むオーバーコートを有する場合や有機系オーバーコートを有する場合に比べて、耐食性が大幅に向上された部材が提供される。
【0035】
また、この本発明に係るオーバーコートはアルミニウムを含むため、有機系オーバーコートに比べて光沢度が向上している。特に、酸化防止層が黒色化成皮膜である場合には、本発明に係るオーバーコートを備えることで表面処理層の黒味およびツヤ(光沢)が向上し、良好な外観を有する部材が提供される。しかも、有機系オーバーコートのように化成皮膜のみの場合に比べて摩擦係数が大きく低下することもない。このため、ネジ、ボルトのような締結部材用途に特に好適である。
【0036】
さらに、本発明に係る仕上げ剤はクロムを一切使用しない。このため、3価クロム化成皮膜上に形成した場合でも、従来の3価クロムを含むオーバーコートに比べて、表面処理層のクロム使用量を半分以下にすることが容易に実現される。その上、仕上げ剤が3価クロムを使用していないため、酸化防止層としての化成皮膜にクロムが含まれていない、いわゆるクロムフリー化成皮膜を用いる場合には、表面処理層全体からクロムを完全に排除することが実現される。この完全クロムフリーの表面処理層を自動車に使用される全てのネジやボルトに適用すれば、数gのクロム削減となり、環境負荷が著しく低減された自動車を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る仕上げ剤、仕上げ剤を調整するための液状組成物、その仕上げ剤によりオーバーコートが形成された部材およびその部材の製造方法ついて説明する。
1.仕上げ剤
本発明に係る仕上げ剤は、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質、アルミニウムイオンと配位化合物を形成しうるキレート剤、ならびにP,Mo,W,Ce,Mn,Si,Ti,Zr,およびVからなる群から選ばれた第一の元素を有する化学物質である皮膜形成物質(すなわち第一の皮膜形成物質)を含む。
【0038】
6価クロムフリー化成皮膜などの酸化防止層が形成された部材表面にこの仕上げ剤を接触させ、これを乾燥させると、酸化防止層上に皮膜(オーバーコート)が形成される。その皮膜形成機構は必ずしも明確ではないが、乾燥過程において、水を主成分とする溶媒が揮発するのに伴い、仕上げ剤に含まれるアルミニウムおよび亜鉛が金属−酸素−金属の結合による架橋構造を形成し、これによって三次元網目状構造を有する皮膜が形成されるものと推測される。
【0039】
このとき、第一の皮膜形成物質は、上記の結合において金属または金属および酸素の役割をしたり、例えばリン酸亜鉛のように難溶性塩を作って酸化防止層上に堆積したりすることによって、オーバーコートの形成を促進したり、耐食性など物性を向上させたりするものと推測される。
【0040】
また、酸化防止層が上記の説明のように化成皮膜の場合には、本発明に係る仕上げ剤を構成する成分と化成皮膜を構成する材料との間で化学的・物理的な相互作用が発生する場合があり、この場合にはオーバーコートと化成皮膜との間で高い密着性が達成されているものと推測される。
【0041】
このように、本発明に係る仕上げ剤はクロムフリーの金属系仕上げ剤であるため、従来のクロムフリー仕上げ剤、具体的には樹脂系仕上げ剤やシリカ系仕上げ剤が有していた、トルクが低下してしまう、耐食性が十分でない、白粉が発生するなど優れた外観が得られにくい、といった問題点を全て克服することが実現されている。
【0042】
以下、仕上げ剤の構成成分、およびその調製方法等について説明する。
(1)アルミニウム含有物質
本発明に係る仕上げ剤は、アルミニウムを含有する化学物質であって、陽イオンすなわちアルミニウムイオン、ならびにその塩(例えばリン酸アルミニウム)および配位化合物(例えばアルミニウムのクエン酸錯体)の少なくとも一種の形態をなして本発明に係る仕上げ剤中に存在するアルミニウム含有物質を含有する。
【0043】
アルミニウム含有物質に由来するアルミニウムは皮膜を構成する成分であり、アルミニウムを含有することにより、光沢のある外観、皮膜強度(耐傷付き性)、耐食性、および摩擦係数が好適なオーバーコートを得ることが実現されている。
【0044】
アルミニウム含有物質の濃度は、アルミニウム濃度換算で0.3g/L以上とすることが好ましい。過度に少ない場合には、上記の好適な特性を有するオーバーコートが得られにくくなる。基本傾向として、アルミニウム含有物質の濃度が高いほど皮膜は形成されやすくなり、さらに形成された皮膜の特性(耐食性など)は向上する。このため、アルミニウム含有物質の濃度の上限は特に限定されない。ただし、アルミニウム含有物質の濃度が過度に高い場合には、これを錯体として安定化させるためのキレート剤の濃度も高くなる。このため、仕上げ剤を濃縮液(後述するように、典型的な濃縮倍率は5〜20倍である。)として保管することが困難となる。また、仕上げ剤におけるアルミニウム含有物質の濃度を高めたことによりもたらされる利益(例えば保管スペースや運送コストの減少)よりも、キレート剤の濃度が高まることに起因する仕上げ剤コストの上昇がもたらす不利益の方が優位になる。したがって、アルミニウム含有物質の濃度の上限をアルミニウム濃度換算で30g/Lとすることが好ましい。生産性、皮膜特性および経済性を高次にバランスさせる観点から、アルミニウム含有物質の濃度は、アルミニウム濃度換算で1.5〜14g/Lとすることが特に好ましい。
【0045】
アルミニウム含有物質の具体的な種類は特に限定されない。水を主成分とする極性溶媒に対する溶解度が実用的な範囲であれば、いかなる化学物質を用いてもよい。好適なアルミニウム化合物を例示すれば、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ポリ塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム、およびカリミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)が挙げられる。リン酸アルミニウムなど特定の酸素酸塩の形で供給されると、皮膜形成物質としても機能するため、効率的である。
【0046】
(2)亜鉛含有物質
本発明に係る仕上げ剤は、亜鉛を含有する化学物質であって、陽イオンすなわち亜鉛イオン、ならびにその塩(例えば塩化亜鉛)および配位化合物(例えば亜鉛のクエン酸錯体)の少なくとも一種の形態をなして本発明に係る仕上げ剤中に存在する亜鉛含有物質を含有する。
【0047】
亜鉛含有物質の濃度は、亜鉛濃度換算で0.5g/L以上とすることが好ましい。過度に少ない場合には、亜鉛による皮膜の強化が不十分となり、上記の好適な特性を有するオーバーコートが得られにくくなる。アルミニウム含有物質と同様の理由により亜鉛含有物質の濃度の上限は特に限定されない。ただし、亜鉛含有物質の濃度が過度に高い場合には、オーバーコート中のアルミニウム含有量が相対的に低くなり、外観の劣化など不具合が発生する可能性が高まる。したがって、亜鉛含有物質の濃度の上限を亜鉛濃度換算で65g/Lとすることが好ましい。生産性、皮膜特性および皮膜の均一性を高次にバランスさせる観点から、亜鉛含有物質の濃度は亜鉛濃度換算で3〜20g/Lとすることが特に好ましい。
【0048】
亜鉛含有物質の具体的な種類も特に限定されない。水を主成分とする極性溶媒に対する溶解度が実用的な範囲であれば、いかなる化学物質を用いてもよい。好適な亜鉛化合物を例示すれば、塩化亜鉛、酸化亜鉛が挙げられる。
【0049】
(3)キレート剤
本発明に係る仕上げ剤は、上記のアルミニウム含有物質に由来するアルミニウムイオンに配位してアルミニウムの錯体を形成することでアルミニウムイオンの仕上げ剤中の安定性を高めるキレート剤を含有する。
【0050】
上記のキレート剤としては、例えば、アミノポリカルボン酸系キレート剤、芳香族または脂肪族カルボン酸系キレート剤、アミノ酸系キレート剤、エーテルカルボン酸系キレート剤、ホスホン酸系キレート剤、リン酸キレート剤、ヒドロキシカルボン酸系キレート剤、高分子電解質(オリゴマー電解質を含む)系キレート剤、ポリアルコール、ジメチルグリオキシム、アスコルビン酸、チオグリコール酸、フィチン酸、グリオキシル酸、グリオキサール酸等が挙げられる。これらのキレート剤は、それぞれフリーの酸型であっても、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の塩の形であってもよい。さらに、それらは、加水分解可能なそれらのエステル誘導体の形であってもよい。
【0051】
アミノポリカルボン酸系キレート剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、エチレンジアミンジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(DHEDDA)、ニトリロ酸酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、β−アラニンジ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、グルタミン酸ジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、イミノジコハク酸、セリンジ酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、ジヒドロキシエチルグリシン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸、ならびにこれらの塩類およびエステル類など誘導体が挙げられる。
【0052】
芳香族または脂肪族カルボン酸系キレート剤としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、イタコン酸、アコニット酸、ピルビン酸、グルコン酸、ピロメリット酸、ベンゾポリカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸(アントラニル酸を含む)、フタル酸、フマル酸、トリメリット酸、没食子酸、およびヘキサヒドロフタル酸、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0053】
アミノ酸系キレート剤としては、例えば、グリシン、セリン、アラニン、リジン、シスチン、システイン、エチオニン、チロシン、およびメチオニン、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0054】
エーテルカルボン酸塩としては、カルボキシメチルタルトロネート、カルボキシメチルオキシサクシネート、オキシジサクシネート、酒石酸モノサクシネート、および酒石酸ジサクシネート、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0055】
ホスホン酸系キレート剤としては、例えば、イミノジメチルホスホン酸、アルキルジホスホン酸、ならびに1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0056】
リン酸系キレート剤としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、トリリン酸およびポリリン酸、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。これらのキレート剤は皮膜形成物質にも属し、塩類の種類によってはアルミニウム含有物質または亜鉛含有物質にも属しうる。このため、本発明に係る仕上げ剤において、アルミニウム含有物質、皮膜形成物質、およびキレート剤が実質的に一種類の化学物質で構成される場合もありうる。
【0057】
ヒドロキシカルボン酸系キレート剤としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、ヘプトン酸、酒石酸、および乳酸、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0058】
高分子電解質(オリゴマー電解質を含む)系キレート剤としては、例えば、アクリル酸重合体、無水マレイン酸重合体、α−ヒドロキシアクリル酸重合体、イタコン酸重合体、これらの重合体の構成モノマー2種以上からなる共重合体およびエポキシコハク酸重合体が挙げられる。
【0059】
ポリアルコールとしては、エチレングリコール、ピロカテコール、ピロガロール、ビスフェノール、およびタンニン酸、ならびにこれらの誘導体が挙げられる。
これらは1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましいキレート剤はカルボン酸系のキレート剤であり、ジカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸ならびにこれらの塩類および誘導体がさらに好ましい。好ましいカルボン酸の具体例として、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、酒石酸、グリコール酸およびリンゴ酸が挙げられる。
カルボン酸系のキレート剤は、アルミニウムイオンに配位子して仕上げ剤の安定性を高めることと良好な膜質の皮膜を形成することとを両立しやすい。特にクエン酸が好ましい。
【0060】
キレート剤のモル濃度(複数使用する場合にはその合計濃度)とアルミニウム含有物質のモル濃度との関係は特に限定されない。アルミニウムイオンの安定性を高める観点で適宜設定すればよい。
【0061】
(4)皮膜形成物質
本発明に係る仕上げ剤は、P,Mo,W,Ce,Mn,Si,Ti,Zr,およびVからなる群から選ばれた第一の元素を有する化学物質である皮膜形成物質、すなわち第一の皮膜形成物質を含む。
【0062】
皮膜形成物質は、アルミニウムイオンおよび亜鉛イオンとともに架橋構造を形成したり、第一の元素を含む難溶性の塩を構成して皮膜を構成したりしているものと推測される。このため、本発明に係る仕上げ剤は、アルミニウム含有物質および亜鉛含有物質のみならず、皮膜形成物質を含有することにより、優れた耐食性を得る皮膜を形成することが実現されている。
【0063】
皮膜形成物質の濃度は、0.1〜200g/Lとすることが好ましい。皮膜形成物質の濃度が過度に少ない場合には、皮膜形成物質による皮膜の強化が不十分となり、上記の好適な特性を有するオーバーコートが得られにくくなる。アルミニウム含有物質および亜鉛含有物質と同様の理由により、皮膜形成物質の上限は特に限定されない。ただし、皮膜形成物質の濃度が過度に高い場合には、オーバーコート中のアルミニウム含有量が相対的に低くなり、外観の劣化など不具合が発生する可能性が高まる。したがって、皮膜形成物質の濃度の上限を200g/Lとすることが好ましい。生産性、皮膜特性および皮膜の均一性を高次にバランスする観点から、皮膜形成物質の濃度は、0.5〜50g/Lとすることが特に好ましい。
【0064】
皮膜形成物質がアルミニウムまたは亜鉛を含有している場合には、その物質はアルミニウム含有物質または亜鉛含有物質としても機能する。このように一種類の化学物質が本発明に係る仕上げ剤における複数の必須成分に該当する場合には、本発明に係る仕上げ剤の必須成分数はその物質の特性に応じて少なくなることになる。
【0065】
第一の元素がオーバーコートにおいて果たしていると想定される機能に基づいて皮膜形成物質、すなわち第一の皮膜形成物質の好ましい態様を以下に列記する。
i)第二の皮膜形成物質
第一の皮膜形成物質が、Ce,Mn,Ti,およびZrからなる群から選ばれた第二の元素を含む化学物質であって、本発明に係る仕上げ剤中で陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一つの形態である場合、すなわち、第二の皮膜形成物質である場合には、第二の元素は、アルミニウムや亜鉛とともに金属−酸素−金属の結合の金属部分を構成してオーバーコートの構成要素となり、オーバーコートを高強度の皮膜とすることに寄与していると推測される。また、第二の皮膜形成物質は、架橋構造を形成することを促進する機能も果たしていると推測される。
【0066】
この第二の皮膜形成物質の具体的な種類は、水を主成分とする極性溶媒に対する溶解度が実用的な範囲であれば、特に限定されない。第二の皮膜形成物質を具体的に例示すれば、上記の第二の元素の硝酸塩、塩化物、硫酸塩などの無機酸の金属塩が挙げられる。
【0067】
ii)第三の皮膜形成物質
第一の皮膜形成物質が、Mo,W,SiおよびVからなる群から選ばれた第三の元素を含む化学物質であって、本発明に係る仕上げ剤中で第三の元素の酸素酸ならびにその陰イオンおよび塩の少なくとも一種の形態である場合、すなわち、第三の皮膜形成物質である場合には、第三の皮膜形成物質に基づく酸素酸イオンは、アルミニウムイオンおよび亜鉛イオンと不溶性の酸素酸塩(例えば、モリブデン酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、バナジン酸亜鉛など)を形成すると推測される。この不溶性塩はオーバーコートに含有されて、オーバーコートを高強度の皮膜とすることに寄与していると推測される。また、第二の皮膜形成物質と同様に、第三の皮膜形成物質も架橋構造を形成することを促進する機能も果たしていると推測される。
【0068】
この第三の皮膜形成物質の具体的な種類は、水を主成分とする極性溶媒に対する溶解度が実用的な範囲である、または実用的な範囲での分散性が得られるのであれば、特に限定されない。第三の皮膜形成物質の具体例として、第三の元素を有する酸素酸のリチウムやナトリウムなどのアルカリ金属塩、コロイダルシリカのような酸化物が挙げられる。
【0069】
iii)第四の皮膜形成物質
第一の皮膜形成物質が、リンを含有する化学物質であって、本発明に係る仕上げ剤中でリンの酸素酸ならびにその陰イオンおよび塩の少なくとも一種の形態である場合、すなわち第四の皮膜形成物質である場合には、第三の皮膜形成物質と同様に、アルミニウムイオンおよび亜鉛イオンと不溶性塩を形成すると推測される。この不溶性塩もオーバーコートに含有されて、オーバーコートを高強度の皮膜とすることに寄与していると推測される。
【0070】
第四の皮膜形成物質の具体的な種類は、水を主成分とする極性溶媒に対する溶解度が実用的な範囲であれば、特に限定されない。具体例としてはオルトリン酸、亜リン酸、トリポリリン酸、縮合リン酸、およびこれらの金属塩が挙げられる。仕上げ剤の安定性の観点からは、オルトリン酸が好ましい。
【0071】
第四の皮膜形成物質の濃度は、リン濃度換算で0.1g/L以上とすることが好ましい。第四の皮膜形成物質の濃度が過度に少ない場合には、第四の皮膜形成物質を含有する効果が得られにくくなる。第四の皮膜形成物質も、基本的傾向として、濃度が高いほど皮膜特性は向上するため、その上限は特に限定されない。ただし、第四の皮膜形成物質の濃度が過度に高い場合には、第四の化学物質の形態によっては、仕上げ剤またはその濃縮液の粘度が高くなり、作業性の低下やオーバーコートが均一に形成されにくくなるなどの不具合が発生する可能性が高まる。したがって、第四の皮膜形成物質の濃度の上限をリン濃度換算で60g/Lとすることが好ましい。生産性、皮膜特性および皮膜の均一性を高次にバランスさせる観点から、第四の皮膜形成物質のリン換算濃度は0.5〜35g/Lとすることが特に好ましい。
【0072】
なお、アルミニウム含有物質の濃度および第四の皮膜形成物質の濃度の比は、特に限定されない。ただし、生産性、皮膜特性および皮膜の均一性を高次にバランスさせる観点から、第四の皮膜形成物質のリン濃度換算でのモル濃度が、アルミニウム含有物質のアルミニウム濃度換算でのモル濃度の0.1〜30倍とすることが好ましい。また、生産性、皮膜特性および皮膜の均一性を高次にバランスさせる観点から、第四の皮膜形成物質のリン濃度換算でのモル濃度は、アルミニウム含有物質のアルミニウム濃度換算でのモル濃度および亜鉛含有物質の亜鉛濃度換算でのモル濃度の合計の0.1〜15倍とすることが好ましい。
【0073】
第四の皮膜形成物質を用いる場合には、Mo、W、Ce、Co、Ni、Mg、Ca、Mn、Li、Si、Zr、TiおよびVからなる群から選ばれた元素を含有する化学物質をさらに含有することが好ましい。以下、この化学物質を他の化学物質と区別するために、皮膜形成添加物という。皮膜形成添加物を含有させると、その特性に応じて、皮膜強度、耐食性、外観等の向上が実現される。
【0074】
そのような皮膜形成添加物の例としては、塩化ニッケル、硝酸コバルト、塩化チタン、および硫酸チタニールなどの無機酸の金属塩;モリブデン酸、タングステン酸、シュウ酸チタン酸、珪酸、およびバナジン酸のアルカリ金属塩、およびアンモニウム塩などの金属酸素酸塩;有機チタン化合物などの加水分解性有機金属化合物;テトラメトキシシラン、およびテトラエトキシシランなどの有機シリコン化合物;Y−Si(OR)(ここで、Yは、アミノ基、エポキシ基、およびビニル基などを含む官能基であり、Rはアルキル基である。)などの有機官能シラン化合物;ならびにシリカ(特にコロイダルシリカ)、ジルコンなどの酸化物が挙げられる。皮膜形成添加物の中でも、バナジン酸ナトリウムを含有させると安定した耐食性が得られるため好ましい。
【0075】
皮膜形成添加物の濃度は、その皮膜形成添加物の特性およびオーバーコートに求められる特性に基づいて適宜決定される。上記のバナジン酸ナトリウムを例にすると、0.1〜30g/l程度である。
【0076】
なお、皮膜形成添加物は、上記の皮膜形成物質として定義される化学物質に属するものもある。本発明に係る仕上げ剤が第四の皮膜形成物質を含む場合には、そのような化学物質を皮膜形成添加物として定義することとする。
【0077】
(5)有機バインダー
本発明に係る仕上げ剤は、上記の成分に加えて、有機バインダーを含んでいてもよい。ここで、「有機バインダー」とは、有機物からなるバインダーのみならず、有機成分に加え無機成分をも含むバインダーも含む。仕上げ剤に有機バインダーが成分として含まれることで、仕上げ剤からなるオーバーコートの耐食性の向上などが実現される。
【0078】
有機物からなるバインダーとしては、水溶性樹脂、水系ディスパージョン、および非水溶性樹脂のいずれを用いてもよい。水溶性樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドンなど水溶性ポリマーであってもよいし、モノマーまたはオリゴマーの状態で水溶性であって、仕上げ剤に含まれる溶媒を除去するために加えられる熱や外部から供給される光などによってこれらが重合してポリマーとなるものであってもよい。水系ディスパージョンは、ほぼ静置状態であっても水に分散した状態を所定の期間維持することが可能な樹脂またはその前駆体であって、アクリル系、ウレタン系、エチレン系、エポキシ系の樹脂またはその前駆体が例示される。非水溶性樹脂は、攪拌によって沈降を抑制することで仕上げ剤中での均一分散が維持される樹脂であって、アクリル系、ウレタン系、エチレン系、ブチラール系の樹脂が例示される。このほか、メチルセルロースやヒロドキシエチルセルロースなどの増粘剤を有機バインダーとして添加してもよい。
【0079】
有機成分に加え無機成分をも含むバインダーとしては、トリエトシキシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのようなシランカップリング剤などの有機ケイ素化合物、チタンエチルアセトアセテートのような有機チタン化合物が例示される。
【0080】
有機バインダーの濃度は、0.1〜20g/Lとすることが好ましい。
(6)窒素化合物
本発明に係る仕上げ剤は、窒素化合物を含んでもよい。窒素化合物は、液溜まり外観を向上させるため、含有させることが好ましい。
【0081】
窒素化合物としては、尿素、アミン類などの有機窒素化合物が例示される。好ましい窒素化合物として、尿素、アンモニウム塩、硝酸塩が挙げられ、これらの特に好ましい濃度は0.5〜50g/Lである。
【0082】
(7)その他の添加物
本発明に係る仕上げ剤は、必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。また、潤滑用途の場合には、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ素樹脂などの微粒子を分散させて潤滑性を向上させてもよい。逆に、ネジ、ボルトなどの表面処理層のように所定のトルクが必要な場合には、グリセリンなどを分散させてもよい。グリセリンは、潤滑性の制御目的のほか、外観の向上、具体的には表面の光沢改善の目的、すなわち光沢剤として使用してもよい。この目的の濃度は典型的には2〜50g/Lである。
【0083】
添加可能な界面活性剤は限定されない。界面活性剤の具体例として、陰イオン型界面活性剤、陽イオン型界面活性剤、非イオン型界面活性剤、両性界面活性剤、半極性界面活性剤等が挙げられる。
【0084】
陰イオン型界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルキルまたはアルケニル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルまたはアルケニル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテルカルボン酸塩、αスルホ脂肪酸誘導体、αオレフィンスルホン酸塩、αスルホ脂肪酸アルキルエステル塩、スルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、天然脂肪酸石鹸、アルキルエトキシサルフェート、アミドエーテルカルボン酸、アミノ酸系アニオン活性剤等が例示される。
【0085】
陽イオン型界面活性剤としては、具体的には、ジ長鎖アルキルジメチル4級アンモニウム塩、長鎖アルキルジメチル4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩酸塩、第4級アンモニウム塩等が例示される。
【0086】
非イオン型界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ソルビタンエステル、ソルビトールエステル、蔗糖脂肪酸エステル、メチルグルコシドエステル、メチルマンノシドエステル、エチルグルコシドエステル、N−メチルグルカミド、環状N−メチルグルカミド、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアシルエステル、脂肪酸グリコシドエステル、脂肪酸メチルグリコシドエステル、アルキルメチルグルカミド等が例示される。
【0087】
両性界面活性剤としては、具体的には、カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩、アルキルスルホベタイン、ヒドロキシアルキルスルホベタイン、アルキルイミダゾリニウムベタイン、アルキルベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン等が例示される。
【0088】
半極性界面活性剤としては、具体的には、アルキルアミンオキシド、アルキルアミドアミンオキシド、アルキルヒドロキシアミンオキシド等が例示される。
上記界面活性剤の中で、好ましくは、陰イオン型界面活性剤、非イオン型界面活性剤、および両性界面活性剤が挙げられる。更に、好ましい界面活性剤の具体例として、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ヤシ脂肪酸アルカノールアミド、および脂肪酸アミドプロピルベタインが例示される。
【0089】
本発明において、上記界面活性剤は一種単独で使用してもよく、また二種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。また、添加濃度は仕上げ剤の他の成分やオーバーコートに求められる品質にも影響されるが、一般的には0.1〜50g/Lとすることが好ましく、特に好ましいのは1〜10g/Lである。0.1g/L未満の場合には界面活性剤添加の効果が現れにくい。また、50g/Lを超えて添加してもその効果は飽和し、むしろ発泡など仕上げ剤の安定性に対して阻害要因となってしまう場合がある。
【0090】
(8)pH
本発明に係る仕上げ剤はアルミニウムイオンや亜鉛イオンを含有することから、中性から酸性の水系液状組成物である。したがって、仕上げ剤のpHはおおむね7以下となる。具体的なpHは、キレート剤の種類や他に添加される成分、例えば有機バインダーの種類に依存して、適宜設定される。なお、pHの調整は任意の酸・アルカリを用いて行えばよい。これらの具体例として、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアが挙げられる。
【0091】
(9)媒体
本発明に係る仕上げ剤の媒体となる液体は、水を主成分とした極性液体である。水以外の成分としては、アルコールやケトンなど極性有機液状物質が挙げられる。これらの極性有機液状物質の濃度は、仕上げ剤の安定性の観点から、水に対して約10%以下にすることが好ましい。
【0092】
2.母材、酸化防止層
(1)母材
本発明に係る仕上げ剤によるオーバーコートが形成される母材は、その材質および形状のいずれについても限定されない。材質に関しては、後述する酸化防止層が形成されるのであればいかなる材質であってもかまわない。酸化防止層が化成皮膜の場合には、その形成過程が母材表面の金属の溶解および化成処理液に含まれる金属の析出を含むことが多いため、母材の表面は金属を含むことが好ましい。また、形状に関しては、たとえば鋼板のように平坦なものであってもよいし、二次加工されたもの(ここで、二次加工とは、塑性加工や機械加工など、JIS B 0122において規定される加工方法全てを意味する。)であってもよい。二次加工品を具体的に例示すれば、ネジ、ボルトなどの締結部品、プレス加工品、鍛造品が挙げられる。その大きさも任意であり、建設資材のように大きなものでもよく、時計に使用されるような小さなものでもよい。そのような二次加工品が適用される製品も特に限定されず、自動車、船舶などの輸送機器、家電品、建築用品、および電気・電子機器が例示される。
【0093】
(2)酸化防止層
本発明に係るオーバーコートが形成される酸化防止層は、上記の母材を構成する材料を酸化または水酸化させる化学物質(たとえば酸素、水、水素イオン、水酸化物イオンなど)が母材に到達することを抑制するのであれば、いかなる材質、構成であってもよい。以下に詳細に説明する化成皮膜であってもよいし、湿式または乾式により酸化物または水酸化物の形成を抑制しうる材料を堆積させてもよい。
【0094】
堆積させる材料の具体例として、後述する化成皮膜以外では、シロキサン結合(Si−O結合)を有するもの、具体的にはシリカ、有機ケイ素化合物など、Ti、W、Alなど金属の酸化物および/または窒化物などが挙げられる。
【0095】
酸化防止層を構成する材料の少なくとも一部、および/または酸化防止層を構成する材料と強固な化学結合を作ることができる材料を本発明に係るオーバーコートが有している場合には、酸化防止層とオーバーコートとの界面での密着力が高まることが期待される。このため、耐食性の観点などから好ましい。
【0096】
(3)化成皮膜
上記の酸化防止層の典型例の一つとして、化成皮膜について説明する。この化成皮膜の組成は特に限定されないが、近年の環境保護の流れを考慮すると、6価クロムフリーであることが実質的に必要である。ここで、3価クロムイオンを含む化成処理液から形成されたものであってもよいし、3価クロムイオンを含まない化成処理液から形成されたものであってもよい。今後の環境保護の動向を考慮すれば3価クロムイオンを含まない、いわゆるクロムフリー化成皮膜であることが好ましい。本発明に係る仕上げ剤は3価クロムイオンを含まないため、このようなクロムフリー化成皮膜に対して適用すれば、表面処理層全体をクロムフリーとすることが可能である。
【0097】
3価クロムイオンを含む化成処理液の例として次のユケン工業株式会社製化成処理液が挙げられる。
メタスYFB(黒色化成処理剤、Znめっき用)
メタスYFK(黒色化成処理剤、Zn―Feめっき用)
メタスYFA(白銀化成処理剤、Znめっき用)
メタスCKN(黒色化成処理剤、Zn−高Niめっき用)
メタスCYN(白銀化成処理剤、Zn−高Niめっき用)
3価クロムイオンをも含まないクロムフリー化成処理液の一例として、アルミニウムイオン、ケイ酸塩およびシリカから選ばれたケイ素化合物、チタン化合物、硝酸イオン、ならびにクエン酸を含有する酸性溶液が挙げられる。係る酸性溶液から得られる化成皮膜は、アルミニウム、ケイ素、およびチタンを含み、本発明に係る仕上げ剤もアルミニウムを含むため、本発明に係るオーバーコートとの組み合わせにより特に優れた耐食性を有するクロムフリー表面処理層が得られる。
【0098】
なお、本発明に係る仕上げ剤は、化成皮膜を構成する成分と化学的および/または物理的な相互作用を行う場合がある。この場合には、この相互作用によって、得られたオーバーコートが特に優れた耐食性を示すことがある。具体的には、第四の化学物質を含む本発明に係る仕上げ剤を3価クロムイオンを含む化成皮膜上に適用した場合に、特に優れた耐食性を有するオーバーコートが得られる。
【0099】
3.仕上げ剤の調製方法、オーバーコートの製造方法
(1)仕上げ剤の調製方法
本発明に係る仕上げ剤の調製方法は、液状の媒体を攪拌しつつ上記の成分を直接、または後述する濃縮液を適量添加して、溶解・混合させればよく、各成分の配合順序に特に制約はない。
【0100】
(2)オーバーコートの製造方法
本発明に係るオーバーコートは、母材上に設けられた酸化防止層、具体例を挙げれば化成皮膜に本発明に係る仕上げ剤を所定時間接触させ、その後、仕上げ剤と接触したことによってその表面に仕上げ剤が付着した酸化防止層を乾燥させることにより製造される。
【0101】
酸化防止層に仕上げ剤を接触させる塗布工程は、例えば、ロール塗布、スプレー、刷毛塗り、スピンコート、浸漬(ディッピング)等の常法により行うことができ、その部材の形態に応じて適当な塗布方法を選択すればよい。塗布は、乾燥後に形成されるオーバーコートの厚みが数nm〜1μm程度の範囲となるように行うことが好ましい。
【0102】
塗布工程における仕上げ剤の液温は特に制限されない。常温(25℃程度)で行えばよく、反応を促進する観点で60℃程度まで加温してもよい。好ましい温度は10〜40℃である。また、仕上げ剤と酸化防止層との接触時間(具体的にはたとえば浸漬時間)は3〜60秒程度とすればよい。時間が短すぎる場合にはオーバーコートの形成が不十分になる可能性があり、時間が長すぎる場合にはオーバーコートの形成が飽和して生産性が低下してしまう。特に好適な時間は液温との兼ね合いで決定されるべきものであり、一例として液温が25℃の場合には5〜10秒程度である。
【0103】
続いて行われる乾燥工程は、溶媒を揮発させることができれば、乾燥方法、温度および時間は特に制限されない。母材ごと恒温槽内で乾燥させてもよいし、母材ごと遠心分離機に投入してもよいし、その表面に仕上げ剤が付着した酸化防止層に温風を吹き付けて乾燥させてもよい。恒温槽を用いた乾燥の場合の一例を挙げれば80℃で10分である。
【0104】
4.濃縮液
上記の仕上げ剤の成分の一つ以上を2〜200倍程度、典型的には5〜20倍に濃縮した組成を有する液状組成物を仕上げ剤用濃縮液として用意すれば、各成分の濃度を個別に調整する手間が省ける上に、保管が容易である。この液状組成物を調製する場合には、その組成物に含有される成分、具体的にはアルミニウム含有物質、亜鉛含有物質、キレート剤、および皮膜形成物質、さらに必要に応じて、上記の皮膜形成添加物、窒素化合物、界面活性剤などの添加成分からなる群から選ばれる一種または二種以上の溶解度を考慮してその濃度に上限が設定される。
【0105】
各成分の濃度範囲について具体的に示せば次のようになる。
上記のアルミニウム含有化合物を2〜200g/L、上記の亜鉛含有化合物を5〜500g/L、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なキレート剤を0.1〜40mol/L、および上記の第二の皮膜形成物質を第二の元素濃度換算で0.1〜10mol/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する液状組成物は、本発明に係る仕上げ剤のうち、第二の皮膜形成物質を含有するものを調製するための濃縮液となる。これらを適宜組み合わせ、必要に応じてその他の添加成分も配合して、適切な倍率で希釈することにより、本発明に係る仕上げ剤が調製される。
【0106】
上記のアルミニウム含有化合物を2〜200g/L、上記の亜鉛含有化合物を5〜500g/L、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なキレート剤を0.1〜40mol/L、および第三の皮膜形成物質を第三の元素濃度換算で0.1〜10mol/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する液状組成物は、本発明に係る仕上げ剤のうち、第三の皮膜形成物質を含有するものを調製するための液状組成物となる。これらを適宜組み合わせ、必要に応じてその他の添加成分も配合して、適切な倍率で希釈することにより、本発明に係る仕上げ剤が調製される。
【0107】
上記のアルミニウム含有化合物を2〜200g/L、上記の亜鉛含有化合物を5〜500g/L、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なキレート剤を0.1〜40mol/L、および第四の皮膜形成物質をリン濃度換算で5〜450g/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する液状組成物は、本発明に係る仕上げ剤のうち、第四皮膜形成物質を含有するものを調製するための液状組成物となる。
【0108】
これらを適宜組み合わせて、適切な倍率で希釈することにより、本発明に係る仕上げ剤が調製される。これらを適宜組み合わせ、必要に応じてその他の添加成分も配合して、適切な倍率で希釈することにより、本発明に係る仕上げ剤が調製される。
【0109】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0110】
(1)試験片の準備
SPCC鋼板(100mm×50mm×0.8mm、表面積1dm)を公知の方法で洗浄し、亜鉛めっき層または亜鉛−鉄合金めっき層を形成した。それぞれのめっきについては、以下の条件等とした。
【0111】
亜鉛めっき:ジンケート浴(ユケン工業株式会社製 メタスZSTプロセス)
めっき厚 8μm
亜鉛−鉄合金めっき:ジンケート浴(ユケン工業株式会社製 メタスAZプロセス)
鉄共析率 0.4質量%
めっき厚 8μm
(2)化成処理
めっき層が形成された鋼板を67.5%硝酸3ml/Lに常温(25℃)で10秒間浸漬させて表面の活性化を行い、活性化後の鋼板を常温(25℃)で10秒間水洗した。続いて、表1に示されるいずれかの化成処理を行って化成皮膜を形成し、化成皮膜の形成がなされた鋼板を常温(25℃)で10秒間水洗した。
【0112】
【表1】

【0113】
(3)仕上げ処理
引き続いて、上記の化成処理後の水洗が行われた後の未乾燥の鋼板に対して表2および3に示される仕上げ処理を行った。仕上げ処理後の鋼板を80℃で10分乾燥させて、オーバーコートを備える試験片を作製した。なお、一部の鋼板についてはこの仕上げ処理を行わず、自然乾燥させて試験片とした。
【0114】
【表2】

【0115】
ここで、「Al」および「Zn」の行の数値は、それぞれ、アルミニウム含有物質であるポリ塩化アルミニウムのアルミニウム換算濃度、亜鉛含有物質である酸化亜鉛の亜鉛換算濃度を示している。また、「P」の行は、第四の皮膜形成物質であるオルトリン酸のリン換算濃度を示している。
【0116】
「Ti」の行の数値は皮膜形成添加物である塩化チタン(IV)溶液のチタン換算濃度、「V」の行の数値は皮膜形成添加物であるメタバナジン酸ソーダのバナジウム換算濃度、「Si」の行の数値は皮膜形成添加物であるケイ酸リチウムのシリコン換算濃度、「Mg」の行の数値は皮膜形成添加物である硝酸マグネシウムのマグネシウム換算濃度を、それぞれ示している。
【0117】
【表3】

【0118】
ここで、成分「Cr3+」の濃度の欄の数値はリン酸クロムの3価クロムイオン換算濃度を示し、成分「Zn2+」の濃度の欄の数値は酸化亜鉛の亜鉛イオン換算濃度を示し、成分「PO3−」の濃度の欄の数値はリン酸クロムのリン換算濃度を示している。
【0119】
(4)評価方法
上記の製造方法により鋼板上に化成皮膜およびオーバーコートが形成された試験片(一部は化成皮膜のみ)に対して、外観および耐食性の評価を行った。
【0120】
外観については、試験表面を目視で観察し、光沢性および均一性の観点で評価した。それぞれの評価基準は次のとおりである。
光沢性
◎:非常によい
○:よい
△:やや悪い
×:悪い
均一性
◎:非常によい
○:よい
△:やや悪い
×:悪い
耐食性については、JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験を行い、白錆発生までの時間を24時間単位で測定した。
【0121】
評価結果を表4に示す。
【0122】
【表4】

【0123】
(5)トータルクロム量分析
表4における試験番号9および15に係る評価試験前の試験片の一部(オーバーコートが形成された面の表面積:1dm)をそれぞれ希硝酸に浸漬して化成皮膜およびオーバーコートを剥離・溶解し、これらの表面処理層が溶解した溶液のCr濃度を原子吸光分析(株式会社リガク製 novAA 300)により測定した。
【0124】
その結果、試験番号9、すなわちクロムフリーオーバーコートの場合には、Cr濃度は0.082mg/dmであり、試験番号15、すなわちクロム含有オーバーコートの場合には0.67mg/dmであった。この結果は、本発明に係るオーバーコートを含む表面処理層を使用することによって、従来技術に係る3価クロムイオンを含むオーバーコートを備える表面処理層に比べて、Cr濃度が87.8%削減されたことを示している。
【実施例2】
【0125】
実施例1で準備したものと同じ試験片に対して、実施例1と同じ前処理(活性化、水洗)を行い、次に表1のNo.Cの化成処理を行って、化成皮膜の形成がなされた鋼板を常温で10秒間水洗した。
【0126】
引き続いて、上記の化成処理後の水洗が行われた後の未乾燥の鋼板に対して表5に示される仕上げ処理を行い、処理後の鋼板を80℃で10分乾燥させて、オーバーコートを備える試験片を作製した。なお、一部の鋼板についてはこの仕上げ処理を行わず、自然乾燥させて試験片とした。
【0127】
【表5】

【0128】
ここで、「Al」および「Zn」の行の数値は、それぞれ、アルミニウム含有物質である硝酸アルミニウムのアルミニウム換算濃度、亜鉛含有物質である酸化亜鉛の亜鉛換算濃度を示している。また、「P」の行の数値は第四の皮膜形成物質であるオルトリン酸のリン換算濃度、「Ti」の行の数値は第二の皮膜形成物質である硫酸チタン(IV)溶液のチタン換算濃度、「V」の行の数値は第三の皮膜形成物質であるメタバナジン酸ソーダのバナジウム換算濃度、「Si」の行の数値は第三の皮膜形成物質であるケイ酸リチウムのシリコン換算濃度、「Ce」の行の数値は皮膜形成添加物である硝酸セリウムのセリウムイオン換算濃度を、それぞれ示している。
【0129】
得られた試験片に対して、実施例1と同様に白錆発生までの時間、光沢性、および均一性の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0130】
【表6】

【実施例3】
【0131】
実施例1で準備したものと同じ試験片に対して、実施例1と同じ前処理(活性化、水洗)を行い、次に、表7に示されるように、表1のNo.A〜Cのいずれかの化成処理を行って、化成皮膜の形成がなされた鋼板を常温で10秒間水洗した。
【0132】
引き続いて、上記の化成処理後の水洗が行われた後の未乾燥の鋼板に対して表7に示される仕上げ処理を行い、処理後の鋼板を80℃で10分乾燥させて、オーバーコートを備える試験片を作製した。
【0133】
【表7】

【0134】
ここで、「Al」の行の数値は、仕上げ処理No.aaについてはアルミニウム含有物質である硝酸アルミニウムのアルミニウム換算濃度を、仕上げ処理No.ab〜ajについてはアルミニウム含有物質であるカリミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)のアルミニウム換算濃度を示している。「Zn」の行の数値は亜鉛含有物質である酸化亜鉛の亜鉛換算濃度を示している。「P」の行の数値は第四の皮膜形成物質であるオルトリン酸のリン換算濃度、「Zr」の行の数値は第二の皮膜形成物質である炭酸ジルコニルアンモニウムのジルコニウム換算濃度、「Co」の行の数値は皮膜形成添加物である硫酸コバルトのコバルト換算濃度、「V」の行の数値は皮膜形成添加物であるメタバナジン酸ソーダのバナジウム換算濃度、「Mo」の行の数値は皮膜形成添加物であるモリブデン酸ナトリウムのモリブデン換算濃度、「W」の行の数値は皮膜形成添加物であるタングステン酸ナトリウムのタングステン換算濃度を、「Ni」の行の数値は皮膜形成添加物である硫酸ニッケルのニッケル換算濃度を、それぞれ示している。
【0135】
得られた試験片に対して、実施例1と同様に白錆発生までの時間、光沢性、および均一性評価を行った。評価結果を表8に示す。
【0136】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質、アルミニウムイオンと配位化合物を形成しうるカルボン酸系キレート剤、ならびにP,Mo,W,Ce,Mn,Si,Ti,Zr,およびVからなる群から選ばれた第一の元素を有する化学物質である皮膜形成物質を含み(ただし、可溶性フッ化物を含む場合を除く。)、母材上に設けられた、化成皮膜、シロキサン結合を有する材料を堆積材料に含む層、金属の酸化物を堆積材料に含む層、および金属の窒化物を堆積材料に含む層からなる群から選ばれる酸化防止層上に無機系オーバーコートを形成するためのものであることを特徴とする、仕上げ剤。
【請求項2】
前記皮膜形成物質の濃度が0.1〜200g/Lである請求項1記載の仕上げ剤。
【請求項3】
前記皮膜形成物質が、Ce,Mn,Ti,およびZrからなる群から選ばれた第二の元素を含み、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一つの形態である請求項1記載の仕上げ剤。
【請求項4】
前記皮膜形成物質が、Mo,W,SiおよびVからなる群から選ばれた第三の元素を含み、当該第三の元素の酸素酸ならびにその陰イオンおよび塩の少なくとも一種の形態である請求項1記載の仕上げ剤。
【請求項5】
前記皮膜形成物質が、リンを含有し、リンの酸素酸ならびにその陰イオンおよび塩の少なくとも一種の形態である請求項1記載の仕上げ剤。
【請求項6】
前記アルミニウム含有物質のアルミニウム換算濃度が0.3〜30g/L、前記亜鉛含有物質の亜鉛換算濃度が0.5〜65g/L、かつ前記皮膜形成物質の濃度がリン濃度換算で0.1〜60g/Lである請求項5記載の仕上げ剤。
【請求項7】
Mo、W、Ce、Co、Ni、Mg、Ca、Mn、Li、Si、Zr、TiおよびVからなる群から選ばれた元素を含有する化学物質をさらに有する請求項5または6記載の仕上げ剤。
【請求項8】
前記カルボン酸系キレート剤が、ジカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸ならびにこれらの塩類および誘導体からなる群から選ばれる一種または二種以上である請求項1から7のいずれかに記載の仕上げ剤。
【請求項9】
前記カルボン酸系キレート剤が、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、酒石酸、グリコール酸およびリンゴ酸からなる群から選ばれる一種または二種以上である請求項1から8のいずれかに記載の仕上げ剤。
【請求項10】
前記カルボン酸系キレート剤がクエン酸を含む請求項1から8のいずれかに記載の仕上げ剤。
【請求項11】
有機バインダーをさらに有する請求項1から10のいずれかに記載の仕上げ剤。
【請求項12】
前記酸化防止層がクロムフリー化成皮膜である請求項1から11のいずれかに記載の仕上げ剤。
【請求項13】
前記酸化防止層が3価クロムイオンを含む化合物を含む6価クロムフリー化成皮膜である請求項1から11のいずれかに記載の仕上げ剤。
【請求項14】
オーバーコートが形成される酸化防止層がアルミニウム、ケイ素、およびチタンを含むクロムフリー化成皮膜である請求項1から11のいずれかに記載の仕上げ剤。
【請求項15】
請求項3に記載される仕上げ剤を調製するための液状組成物であって、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質をアルミニウム濃度換算で2〜200g/Lと、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質を亜鉛濃度換算で5〜500g/Lとを含有し、さらに、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なカルボン酸系キレート剤を0.1〜40mol/L、ならびにCe,Mn,Ti,およびZrからなる群から選ばれた元素を含む化学物質である皮膜形成物質を当該選ばれた元素の濃度換算で0.1〜10mol/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する(ただし、可溶性フッ化物を含有する場合を除く。)ことを特徴とする液状組成物。
【請求項16】
請求項4に記載される仕上げ剤を調製するための液状組成物であって、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質をアルミニウム濃度換算で2〜200g/Lと、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質を亜鉛濃度換算で5〜500g/Lとを含有し、さらに、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なカルボン酸系キレート剤を0.1〜40mol/L、ならびにMo,W,SiおよびVからなる群から選ばれた元素を含む化学物質である皮膜形成物質を当該選ばれた元素の濃度換算で0.1〜10mol/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する(ただし、可溶性フッ化物を含有する場合を除く。)ことを特徴とする液状組成物。
【請求項17】
請求項5から7のいずれかに記載される仕上げ剤を調製するための液状組成物であって、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態のアルミニウム含有物質をアルミニウム濃度換算で2〜200g/Lと、陽イオンならびにその塩および配位化合物の少なくとも一種の形態の亜鉛含有物質を亜鉛濃度換算で5〜500g/Lとを含有し、さらに、アルミニウムイオンと錯体を形成可能なカルボン酸系キレート剤を0.1〜40mol/L、ならびにリンを含有する化学物質である皮膜形成物質をリン濃度換算で5〜450g/Lからなる群から選ばれた一種または二種以上を含有する(ただし、可溶性フッ化物を含有する場合を除く。)ことを特徴とする液状組成物。
【請求項18】
母材と、当該母材上に設けられた、化成皮膜、シロキサン結合を有する材料を堆積材料に含む層、金属の酸化物を堆積材料に含む層、および金属の窒化物を堆積材料に含む層からなる群から選ばれる酸化防止層と、当該酸化防止層上に設けられ請求項1から14のいずれかに記載される仕上げ剤から形成された無機系オーバーコートと備えることを特徴とする部材。
【請求項19】
前記酸化防止層が6価クロムフリー化成皮膜からなる請求項18記載の部材。
【請求項20】
前記酸化防止層がクロムフリー化成皮膜からなる請求項18記載の部材。
【請求項21】
母材と、3価クロムイオンを含む6価クロムフリー化成皮膜からなり当該母材上に設けられた酸化防止層と、当該酸化防止層上に設けられ請求項5から7のいずれかに記載される仕上げ剤から形成された無機系オーバーコートと備えることを特徴とする部材。
【請求項22】
6価クロムフリー化成皮膜からなる酸化防止層がその表面に設けられた母材を用意する工程と、請求項1から14のいずれかに記載される仕上げ剤を前記酸化防止層に接触させて前記酸化防止層上に無機系オーバーコートを形成する工程とを備えることを特徴とする部材の製造方法。

【公開番号】特開2012−153984(P2012−153984A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−116435(P2012−116435)
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【分割の表示】特願2010−514491(P2010−514491)の分割
【原出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000115072)ユケン工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】