説明

仕上げ用化粧料

【課題】 本発明の解決すべき課題は肌上の瑕疵の隠蔽を図りつつ、優れた透明感を奏しえるファンデーションを提供することにある。
【解決手段】 彩度Cが5.5以上、顔料級二酸化チタン/黒酸化鉄が質量比で10000以上のファンデーション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はファンデーション、特にその光学的特性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に化粧を行う際には、化粧水、乳液などにより肌のケアを行った後、肌の色調を整えるファンデーションなどを塗布し、さらに頬紅などのポイントメークを行う。
この際、ファンデーションには皮膚上の各種瑕疵、例えばシミやソバカス、或いは凹凸などを目立たなくするため、高い隠蔽力が要求される。
このため、屈折率が高く、隠ぺい力の高い顔料級二酸化チタン、或いは二酸化亜鉛が大量に配合されることがある。
【0003】
一方、隠蔽力を二酸化チタン或いは二酸化亜鉛の高屈折率粉体に依存した場合、可視光領域での光の散乱を生じ、肌の外観はいわゆる「白浮き」を生じる。そこで、通常は前記二酸化チタンなどと併せて黒酸化鉄などを配合し、白浮きの抑制を図っている。
しかしながら、このようなファンデーションによれば、隠蔽力が高い為、肌上の瑕疵は隠蔽されるもの、肌特有の透明感を失い、不自然なマット感を生じさせ、しかも肌の凹凸をむしろ目立たせてしまうこともある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は肌上の瑕疵の隠蔽を図りつつ、優れた透明感を奏しえるファンデーションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために本発明にかかるファンデーションは、彩度Cが5.5以上、顔料級二酸化チタン/黒酸化鉄が質量比で10000以上であることを特徴とする。
また、前記ファンデーションにおいて、顔料級二酸化チタンは組成物中5〜20質量%であることが好適である。
また、前記ファンデーションにおいて、赤色酸化鉄及び黄色酸化鉄を含むことが好適である。
【0006】
また、前記ファンデーションにおいて、屈折率が1.7以下の体質顔料、或いは0.1μ以下の二酸化チタンを含むことが好適である。
なお、本発明においてファンデーションとは肌上に塗布され、肌上の式調或いは凹凸の瑕疵を隠蔽することを目的とするものであり、具体的にはいわゆるファンデーションのほか、特に補正したい瑕疵に部分的に使用する部分用コンシーラーなどが挙げられる。
【0007】
また、本発明において顔料級二酸化チタンとは平均粒径0.1〜0.5μmで、光散乱により白色の外観色を与えるものをいう。
また、本発明において黒酸化鉄とは、マグネタイトであり化学式はFe3O4で示される酸化鉄である。
【0008】
また、本発明において赤酸化鉄とは、ベンガラ、ヘマタイトであり化学式はFe2O3で示される酸化鉄である。
また、本発明において黄酸化鉄とは、ゲーサイトであり化学式はFeOOHで示される酸化鉄である。
また、体質顔料とは組成物の色調に影響を与えることがあまりなく、増量剤として機能しえる顔料であり、具体的にはタルク、マイカ等が挙げられるが、本発明においてはさらに0.1μm以下の平均粒径を微粒子二酸化チタン等の紫外線遮蔽粉体も含むものである。
また、本発明において、顔料級二酸化チタンが5質量%未満であると隠蔽力が不足し肌の色調調整が困難になることがあり、また20質量%を超えると白浮きを生じることがある。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるファンデーションによれば、黒色酸化鉄の使用量が低く、明度が高いにもかかわらず、肌に塗布した際の塗布色は肌の色に近似しており、肌の色調調整のみならず、凹凸を目立たなくすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者等はファンデーションに要求される隠蔽力と肌の有する透明感について検討を行った。
すなわち、従来の一般的なファンデーションは肌の上に隠蔽力の高い、すなわち可視光の透過率の低い皮膜を形成し、肌上の瑕疵を隠蔽する。この状態が図1(A)に示されており、光の照射部位とほぼ同じ位置から反射光が射出される。このため、同図(A)のように肌が平面であれば、肌の透明感は期待できないものの、色調の調整はファンデーションの色調で規定することができる。しかしながら、同図(B)のように肌上に凹凸がある場合には、仮に凹凸面に均質なファンデーション皮膜を形成できたとしても、光の照射角度によって明暗が生じ、その陰影によって肌上の凹凸がむしろ目立ってしまう。
【0011】
一方、皮膚はある程度の光を進入させ、その内部よりの帰還光により肌の透明感を演出しているが、同時に帰還光の皮膚内での伝播により光の照射位置からある程度離れた位置からの帰還光も生じる(図1(C))。このため、図1(D)に示すように凹凸のある肌に光を照射した場合にも陰影は生じにくく、肌の瑕疵をむしろ目立たなくすることができるのである。
【0012】
すなわち、ファンデーションにより隠蔽されるべき肌の瑕疵を、色彩上の瑕疵(ホクロ、アザ等)と、凹凸の瑕疵に分類した場合、凹凸の瑕疵は、きわめて厚くファンデーション皮膜を形成して凹凸自体をなくしてしまうか、或いはむしろ光を透過させるファンデーション皮膜とするかにより軽減されることになる。
無論のことながら、可視光の透過性が低いファンデーション皮膜を肌上に厚く形成すれば、いわゆる「厚化粧」の状態となり、好ましいものではない。
【0013】
一方、可視光を透過させ肌による拡散効果を期待すれば、肌の色彩上の瑕疵を隠蔽することができなくなる。
そこで本発明者等は、これらの相反する要求を充たすため、ファンデーションの明度、彩度と、それを肌に塗布した時の明度、彩度の関係について検討を行った。ここで、明度が高いということはファンデーションによる光の吸収量が小さいことを意味し、ファンデーション塗布層の透過光量が大きいことの一つの指標になる。
【0014】
図2にはKubelka‐Munk理論で計算される塗布色に基づき作成した素肌、ファンデーション外観色と塗布色との関係図が示されている。
同図より明らかなように、ファンデーションの外観色(●)と素肌の色(☆)の彩度をほぼ同一に調色した場合、明度を上昇させていくと、標準的な塗布量での塗布色(〇)の彩度は素肌色よりも大きく低下する。この結果、いわゆる「白浮き」の状態となる。
そして、ファンデーション外観色(●)の明度を高い状態に維持したまま、塗布色(〇)の彩度が素肌色(〇)に一致させるようにすると、ファンデーション外観色の彩度は、素肌色と比較してきわめて高い状態としなければならない。
【0015】
そこで、本発明者等はさらに具体的なファンデーションの調色を行い、高明度ファンデーションの彩度について検討した。
用いたファンデーションの基本処方は次の表1に示すとおりである。
【0016】
【表1】

【0017】
試験例1〜5について、それぞれ1.0/cm2となるように前腕内側部位5×5cmに塗布して塗布色評価を行うとともに、ファンデーション外観色、素肌色、及び肌への塗布色をそれぞれ測定した。
この結果、明度Vが7.2以上の高明度ファンデーションにおいては、標準的な塗布色を自然な彩度Cを3〜4とする為には、ファンデーションの外観色の彩度は5.5以上、好ましくは6〜7とすることが必要である。この彩度は、素肌自体の彩度からはかけ離れたものであり、従来の一般的なファンデーションには見られない彩度である。
【0018】
次に本発明者等は、明度が高く可視光の吸収が小さいファンデーションの明度及び彩度の調製方法について検討した。
まず、一般的なファンデーションで明度及び彩度を調製する為には、顔料級の二酸化チタン、黒色酸化鉄が汎用される。二酸化チタンはその高屈折率により可視光の非選択的散乱を生じ外観色が白色である。また、黒色酸化鉄は波長依存性のないほぼ真黒の外観色を有する。そして、これらの明度、彩度を調整する成分の皮膚内光伝播に及ぼす影響について、表2に示す単純処方を用いて調査した。
【0019】
表2
試験例6 試験例7 試験例8 試験例9 試験例10
二酸化チタン 0 5 4.875 4,75 4.5
黒色酸化鉄 0 0 0.125 0.25 0.5
【0020】
前記試験例6はコントロールとして素肌、試験例7〜10は、それぞれ3mg/cm2となるように前腕内側部位5×5cmに塗布し、赤色光ビーム(640nm)の照射位置とそこからの距離による肌からの帰還光強度の関係を調査した。結果を図3に示す。
【0021】
同図より明らかなように、顔料級二酸化チタンの存在自体は皮膚からの帰還光に大きな影響を与えないが、黒色酸化鉄は微量の存在により急激に帰還光を減少させる。
したがって、本発明においては隠蔽力を調製する二酸化チタン及び黒色酸化鉄の量比が、伝播光量を調整する上できわめて重要であることが理解される。そこで本発明者等は、表3に示すファンデーションを調製し、塗布色及び凹凸隠蔽度を評価した。
【0022】
【表3】

【0023】
上記表3より明らかなように、全く黒色酸化鉄を配合しない場合(試験例11)には凹凸隠蔽度評価は良好で肌の凹凸を目立たせることはないが、塗布色がやや白色化する傾向にある。
これに対し、10000未満となると、陰影がやや目立つようになるため、黒色顔料/白色顔料は質量比で10000以上、好ましくは12000〜100000であることが理解される。
【0024】
さらに本発明者等は光の波長と凹凸隠蔽度の関係について検討を行った。
すなわち、透過光量の増大は凹凸隠蔽には効果的であるが、一方で肌の色調の調整には好ましくない。そこで、光伝播距離の拡大に効果的な波長の光を優先的に透過させることとしたのである。
【0025】
具体的には、皮膚上に各種波長のビーム光を照射し、該照射位置からの離隔距離と帰還光強度を測定した。結果を図4に示す。
同図より明らかなように、波長が長いほど距離が離隔しても帰還光強度が低下しにくいこと、すなわち長波長光の伝播距離が大きいことが理解される。
そこで本発明者等は長波長領域の吸光度の低い赤色顔料について検討した。
【0026】
【表4】

【0027】
図5にはベンガラと酸化鉄マピコレッド516Lの分光透過率が示されており、ベンガラに比較してマピコレッド516Lは600nm以下の領域で透過率が低く、600nm以上の領域で透過率が急激に上昇する傾向にある。
そして、516Lを用いたファンデーションの分光反射率を図6に、また各赤色顔料の配合量を変化させた場合の外観色を図7に示す。
【0028】
なお、以下において実際の標価は反射率測定により行なった。すなわち、Kubelka理論は、塗布膜内の光挙動を、散乱係数Sと吸収係数Kで記述するもので、反射率・透過率と散乱・吸収との関係を示したものである。
Kubelkaによれば、塗布膜を無限に厚くしたときの反射率Rは、散乱係数と吸収係数の比率であるK/Sで決定する。
【0029】
R = 1 + K/S- {(1+K/S)2-1}1/2
【0030】
K/S>0の範囲で、RはK/Sの減少関数であるから、Sが一定である場合は、RはKの減少関数となる。すなわち、吸収が大きくなればRは減少する。従って、Sを一定にして反射率を比較すれば、Kの大小を比較することができる。
次に、Rと透過率との関係を示す。同様にKubelkaの理論によれば、透過率をTとして、
T=(1-R2)/(ebsd-R2e-bsd) で示される。
【0031】
なお、
d:塗布膜厚み
b=(1/2)(1/R-R)とした。
【0032】
S及びdを一定にしたまま、透過率TをRに対してプロットすると、Rが0<R<1の範囲では単純な増加関数になる。すなわち、散乱を一定にした条件では、Rの大小比較が直接透過率の大小に反映する。
従って、反射率測定を行うことで妥当な被膜の標価を行なうことができる。
【0033】
本発明の実施例である試験例17,18はいずれも赤色領域の吸光度が低く、塗布色、凹凸隠蔽度評価ともに優れたものであった。
さらに本発明において体質顔料は図8に示すとおり長波長領域の吸収が小さいもの(硫酸バリウム、合成金雲母)を選択している。
以下、本発明にかかるファンデーションの具体的な配合実施例を示す。
【実施例1】
【0034】
粉末固形化粧料
ジメチルポリシロキサン 5
イソステアリン酸 0.5
リンゴ酸ジイソステアリル 1
トリ2−エチルヘキサンサングリセリル 3
セスキイソステアリン酸ソルビタン 1
球状PMMA被覆雲母 4
微粒子酸化亜鉛 1
微粒子酸化チタン 3
合成金雲母 20
金属石鹸処理タルク 残 余
球状シリカ 3
酢酸DL−α−トコフェロール 0.1
D−δ−トコフェロール 0.1
エチルパラベン 適 量
トリメトキシ桂皮酸メチルビス
(トリメチルシロキシ)シリルイソペンチル 0.1
パラメトキシ桂皮酸2−エチルへキシル 3
球状ポリアクリル酸アルキル粉末 2
流動パラフィン含有ポリアクリル酸アルキル粉末 4
メチルハイドロジェンポリシロキサン被覆タルク 20
メチルハイドロジェンポリシロキサン被覆硫酸バリウム 5
メチルハイドロジェンポリシロキサン被覆酸化チタン 10
メチルハイドロジェンポリシロキサン
/ジメチルポリシロキサン被覆酸化鉄マピコレッド516L 1.5
メチルハイドロジェンポリシロキサン被覆黄酸化鉄 2.5
メチルハイドロジェンポリシロキサン被覆黒酸化鉄 0.0005
【実施例2】
【0035】
油中水型乳化ファンデーション
ジメチルポリシロキサン 15
デカメチルシクロペンタシロキサン 20
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 5
高分子量アミノ変性シリコーン 0.1
グリセリン 5
1,3−ブチレングリコール 10
パルミチン酸 0.5
マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル 0.1
塩化ジステアリルジメチルアンモニウム 0.2
アルキル変性シリコン樹脂被覆黄酸化鉄 2
アルキル変性シリコン樹脂被覆酸化鉄マピコレッド516L 1
アルキル変性シリコン樹脂被覆ベンガラ 0.3
アルキル変性シリコン樹脂被覆黒酸化鉄 0.00025
アルキル変性シリコン樹脂被覆酸化チタン 10
アルキル変性シリコン樹脂被覆酸化タルク 1.5
シリコーン被覆紡錘状酸化チタン 3
L−グルタミン酸ナトリウム 0.5
酢酸DL−α−トコフェロール 0.1
パラオキシ安息香酸エステル 適 量
トリメトキシケイヒ酸メチルビス
(トリメチルシロキシ)シリルイソペンチル 0.1
ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 1.5
球状ナイロン末 1
精製水 残 余
香料 適 量

【実施例3】
【0036】
油性コンシーラー
マイクロクリスタリンワックス 5
デカメチルシクロペンタシロキサン 15
マカデミアナッツ油 0.5
スクワラン 25
カルナウバロウ 2
ヒドロキシステアリン酸コレステリル 0.1
セスキイソステアリン酸ソルビタン 1.5
酸化チタン 25
硫酸バリウム 2
合成金雲母 5
酢酸DL−α−トコフェロール 0.1
D−δ−トコフェロール 0.1
4−t−ブチル−4‘−メトキシジベンゾイルメタン 0.5
ジパラメトキシ桂皮酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 0.5
酸化鉄マピコレッド516L 適 量
黄酸化鉄 適 量
黒酸化鉄 0.001
重質流動イソパラフィン 5
香料 適 量

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】皮膚による凹凸を目立たなくする作用の説明図である。
【図2】Kubelka‐Munk理論で計算される塗布色に基づき作成した素肌、ファンデーション外観色と塗布色の関係図である。
【図3】白色顔料と黒色顔料の比率と皮膚による光伝播距離の相関図である。
【図4】入射光波長と光伝播距離の相関図である。
【図5】ベンガラとマピコレッド(商標)516Lの分光透過率の相関図である。
【図6】ベンガラとマピコレッド(商標)516Lを用いたファンデーションの分光反射率の説明図である。
【図7】ベンガラとマピコレッド(商標)516Lを用いたファンデーションの外観色の説明図である。
【図8】本発明の実施例に用いる体質顔料の分光反射率の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
彩度Cが5.5以上、顔料級二酸化チタン/黒酸化鉄が質量比で10000以上のファンデーション。
【請求項2】
請求項1記載のファンデーションにおいて、顔料級二酸化チタンは組成物中5〜20質量%であることを特徴とするファンデーション。
【請求項3】
請求項1または2記載のファンデーションにおいて、赤色酸化鉄及び黄色酸化鉄を含むことを特徴とするファンデーション。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれかに記載のファンデーションにおいて、屈折率が1.7以下の体質顔料、或いは0.1μ以下の二酸化チタンを含むことを特徴とするファンデーション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−285429(P2008−285429A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130276(P2007−130276)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】